理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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魔法世界編 勝敗と賞金
百四十八話 覇王と状助の決勝戦 その①


 新オスティアの闘技場にて、新たな戦いが始まろうとしていた。そのリングの上に立つ少女と男性。アーニャと龍一郎だ。

 

 

「さてとよ……、約束どおり、今回はお前さんに任せるぜ」

 

「任せといて!」

 

 

 龍一郎は腕を組みながら余裕の態度を見せ、アーニャにこの試合を任せると言った。

アーニャもその気であったようで、普段よりも勇ましく興奮した様子を見せていた。

 

 

「はっ! ガキが相手だからって手加減はしねぇぞ!」

 

「やっちまえ!!」

 

 

 しかし、対戦相手は屈強な男が二人。少女が相手だとしても、手を抜く気などまったくないようだ。

 

 当然だ。こんなところまで勝ち進んで来たのだ。見た目で判断などするはずがないのである。

 

 

「子供だからって舐めないでよね! ハァッ!!」

 

「ぬっ! コイツ!!」

 

 

 が、アーニャの動きはすばやかった。何と、すでに龍一郎から学んだ瞬動にて、その敵の懐へと入り込み、攻撃を行っていたのだ。

 

 敵はそれに驚きながらも、とっさに防御を取った。危なかった、これは強敵だと敵も一瞬で理解した。

 

 

「ガキ相手に何をてこづっている!?」

 

「言うが……! コイツ思ったよりも強ぇえ!」

 

 

 敵の相方はそんな彼を見て、喝を入れた。

だが、目の前の少女の強さを体感した敵は、簡単ではないと叫んだ。

 

 

「中々動けるようにはなったみてぇだな」

 

 

 そんなアーニャを少し離れた場所で、腕を組んで眺める龍一郎。多少なりと戦いの心得を教えたのだが、なるほどなるほど、予想よりいい仕上がり具合だと満足げに笑っていた。

 

 

「とりゃっ! せい!!」

 

「ぐおっ!? おっ……おのれぇ!!」

 

 

 アーニャはさらに攻撃の速度を上げ、敵へと迫る。拳を振り上げ、蹴りを放つ。未だ魔法は使っていないが、相手はそれだけで苦戦を強いられていた。

 

 

「遊んでるんじゃねぇよ!」

 

「もう一人!?」

 

 

 だが、そこへ見かねた敵の相方が、アーニャへと襲い掛かった。これでは二体一。流石のアーニャも少し焦った表情を覗かせた。

 

 

「おっと! お前の相手は俺だぜ?」

 

「なっ! リューイチロー……!?」

 

 

 そこへすかさず龍一郎が、その相方の方に割り込んだ。

今アーニャは自分がどのぐらい戦えるかを見極めている最中だ。その邪魔はさせんと、敵の相方の前に立ちはだかったのだ。

 

 敵の相方はそれを見てたじろいだ。

龍一郎の実力を理解しているからだ。このまま一人で対峙しても、勝てる相手ではないからだ。

 

 

「じっ……上等だぁ! やってやらぁ!!」

 

「おうよ、その意気ってもんだ!」

 

 

 しかし、相手は恐怖を殺し、自分を奮い立たせて龍一郎へと挑んで行った。

龍一郎もそれを見て、ニヤリと嬉しそうに笑っていた。そうだ、そうじゃないと戦いは面白くないと。

 

 

「この! ちょこまかと!!」

 

「とうっ!」

 

「ぐっ!」

 

 

 その間にも、アーニャは敵をどんどん追い詰めていった。

敵は何とかしてアーニャの動きを封じようと攻撃するが、それをアーニャは軽やかに回避。むしろ、その隙を突いて、敵に反撃まで行ったのだ。

 

 

「フォルティス・ラ・ティウス……」

 

「詠唱!? やらせん!!」

 

 

 アーニャは敵がひるんだ隙に、詠唱を唱え始めた。

敵はその詠唱を聞いてまずいと思い、魔法を使わせる訳にはいかないと、苦悶の表情を見せたままアーニャへと再び攻撃を行った。

 

 

「リリス・リリオス……!」

 

「なっ! ぐっ!?」

 

 

 だが、アーニャはその攻撃をも軽々と避け、詠唱を続けたまま相手の顔面にパンチを食らわせたのだ。

敵はそれを受け、数メートル吹き飛んだ。

 

 

「はあああああッ!! ”アーニャ・フレイムバスター……、キーック”ッ!!!」

 

「ぐあっ!? ぐぅぅ……!!」

 

「まだまだ! フォルティス・ラ・ティウス……」

 

 

 そして、相手が吹き飛んだ先で着地し、態勢を立て直しているところに、アーニャは自慢の技を放ったのだ。

 

 敵は態勢を立て直している最中で、それを避けることができなかった。

故に、アーニャの技が腹部に直撃し、またしても吹き飛ばされるしかなかった。

 

 しかし、アーニャはさらに詠唱を唱え始めた。

敵はまだ動けると判断し、完全にとどめを刺す為だ。

 

 

「”燃える天空”!!!」

 

「何!? ギャアアアッ!!?」

 

 

 アーニャはすばやく詠唱を終えると、片手を相手へ向けて魔法の名を宣言した。

それは燃える天空。炎の上位魔法の一つだ。膨大な爆発を起こし、相手を焼き尽くす魔法だ。

 

 それを受けた敵は盛大な悲鳴と共に、爆発に飲み込まれていった。

その後、爆発と煙が晴れた場所に、伸びきった敵の姿がぽつりと残されていたのであった。

 

 

「相棒!?」

 

「おっと! 余所見はいけねぇぜ?」

 

「何……!? うぐおおッ!?」

 

 

 敵の相方は仲間がやられたのを見て、大そう驚いた。

だが、それを見逃すほど龍一郎は甘くない。

 

 龍一郎はその隙をついて敵の相方に掴みかかり、そのままアーニャの方へと投げ飛ばしたのだ。

敵の相方は投げ飛ばされた衝撃で、小さく悲鳴を上げていた。

 

 

「やっちまいな!」

 

「……其はただ焼き尽くす者! ”奈落の業火”!!」

 

「なっ!? ああああああああああ!!???」

 

 

 龍一郎はアーニャへと大きな声で、とどめは任せたと叫んだ。

するとアーニャもこうなることがわかっていたようで、すでに魔法の詠唱を完了させていたのだ。

 

 そして、アーニャは飛んでくる敵の相方へと、一つの魔法を撃ち放った。

それは炎の上位魔法である”奈落の業火”だった。相手を灼熱の炎に沈める大魔法である。

 

 敵の相方はその魔法に直撃し、盛大に叫んだ。

特大の炎に焼かれ、苦痛の悲鳴を叫んだ。その後、相方同様に地面に転がり、動かなくなったのであった。

 

 

「やるじゃねぇか」

 

「まだまだ……。こんなんじゃ足りないわ」

 

「そうか? まっ、そう言うならもっと精進するしかねぇな」

 

 

 これにて龍一郎・アーニャの組の勝利が決定した。

龍一郎はアーニャへと近寄り、手で肩をポンと叩いて、小さく笑いながら褒め称えた。いやはや、確かに自分が多少なりとて鍛えたが、なかなかどうしてよい動きだったと。

 

 だが、アーニャは今の戦いで満足などしていなかった。

この程度ではあのネギやカギには到底追いつけないと、そう思っていたからだ。

 

 龍一郎はそんな彼女に、であればさらに鍛錬をこなすしかないと、優しく語りかけるだけだった。

 

 

「……アーニャ、知らない間にあれほど強くなってるなんて……」

 

「確かにかなり腕をあげとる」

 

「でもどうやって……」

 

 

 しかし、アーニャの考えとは裏腹に、その試合を見ていたネギは驚きの表情を見せていた。

ちょっと前まではこんな感じではなかった。いつの間にこんなに強くなったんだろうか。ネギはアーニャの実力がかなり向上していることに、随分と驚いていたのだ。

 

 隣で同じく試合を観戦していた小太郎も、ウェールズでのゲートの時の彼女を思い出しながら、間違いなく強くなっていると断言した。

 

 とは言え、何故アーニャがあれほど強くなったのだろうか。ネギはそれが気がかりだった。

 

 

「あの兄ちゃんの親父が鍛えたんちゃうか?」

 

「あ、そうかもしれない」

 

 

 小太郎はその答えならすぐ近くにあると考えた。

彼女を保護しただろうと思われる、彼女の横にいる男。数多の父親である龍一郎が、彼女を鍛えたのだろうと。

 

 ネギもそれを言われ、ハッとした表情を見せた。

なるほど、確かにそれならつじつまがある。その可能性が大きいと。

 

 

「しっかし、こりゃあ、うかうかしてられへんで?」

 

「なんで?」

 

 

 ただ、こうなってくると自分たちも遊んでいられんと、小太郎は言い出した。

 

 ネギはそれの意味がわからず、キョトンとした顔で質問していた。

 

 

「何でって……、そりゃアーニャに追い抜かれるかもしれへんってことやろ」

 

「え?」

 

「意外って顔やな」

 

 

 小太郎はそんなネギに少し呆れつつ、その意味を説明した。

あのアーニャが強くなったということは、自分たちよりも強くなる可能性も出てきたということだと。

 

 ネギはそれを聞いて、ありえないと言う感じの声を小さく漏らしていた。

 

 小太郎もそれを表情で察したのか、ネギへそう言葉にしていた。

 

 

「あっちも少し会わへん間に、短時間にあれほど強ーなっとるんやで? 気ぃ抜いとったら抜かされるっちゅーこっちゃ」

 

「……確かに、そうかもしれない」

 

「せやろ?」

 

 

 小太郎はネギへと、そんなことではまずいと言う事を説明した。

自分たちは自分たちで強くなっているが、アーニャはアーニャで強くなっていた。それを考えればのんきに構えていたら、アーニャに抜かれてしまうだろうと。

 

 ネギはそれを聞いて、ようやくそれを受け入れ始めた。

と言うのもネギはアーニャを昔から知っている。知ってはいるが故にか、アーニャが自分たちを追い抜く姿が想像しづらかったのだ。

 

 ネギもそのことを実感として受け止めたのを見て、小太郎は言葉を返した。

 

 

「俺らも強ならあかんなー……」

 

「……うん」

 

 

 そして、自分たちも抜かされぬよう、さらに強くならなければと、二人は心に誓うのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ところ変わって数日後の闘技場の一室。そこでは状助たちが、ついに決勝進出したということで、三郎にそれを報告していた。

 

 

「さて、次は僕らの決勝だ」

 

「誰が相手だろうが負ける気はねぇぜ!」

 

 

 ようやく決勝までこれた。もう少しで優勝だ。

覇王も状助もそれを思い、さらにやる気と意気込みを見せていた。

 

 

「すまない……、二人とも……」

 

「気にするなって! 三郎は間違ったことはしてねぇんだからよぉ」

 

「そうさ。むしろ、その勇敢な行動に感服するばかりさ」

 

「そ、そうかい……?」

 

 

 そんな二人へと、三郎は頭を下げた。

こんなことになったのは自分のせいだと言うのに、何と優しいことだろうか。

 

 が、状助は頭を上げてくれと三郎へ言うではないか。

それは当然だ。知り合いの、彼女の命を助ける為に、自らを売ったことに間違いがあるはずがないと思っているからだ。

 

 覇王も状助の意見に賛同した。

と言うよりも、転生者であるが戦闘力がある特典もなく、ただの一般人と言う枠に収まる三郎が、これほどの行動を取ったのだ。そんな彼を誰が責められようか。逆にその勇気ある行動に敬意を表するばかりだと、覇王も思っていたのである。

 

 その二人の言葉に、三郎は多少戸惑いつつも、下げた頭を上げた。

ただ、やはり二人が戦っているのは自分のせいであると言う意識が強いのか、表情は晴れてはいなかった。

 

 

「まっ、俺らに任せておけって!」

 

「状助がそう言っても、大体僕がやる羽目になるんだけどね」

 

「おっ、俺だって頑張ってるじゃあねぇか!」

 

 

 状助はそんな三郎の様子を見て、明るい表情でそう言った。

自分たちが全て解決する。気にすることはどこにもないと。

 

 覇王も同じようににこやかに笑い、状助に冗談交じりなことを言い出した。

状助がそう強気に言うが、基本的に自分が大体のことをやるのだからと。

 

 すると状助はそれに反論し、確かにそうだが自分もよくやっていると叫んだのである。

 

 

「ありがとう、俺のために……」

 

「当たり前だろ?」

 

「ダチなんだからよぉー」

 

「二人とも……」

 

 

 そのようなやり取りをする二人を見て、三郎は小さく笑いながら、再び礼を述べた。

が、覇王も状助もそれこそ当然だと、はっきりとしっかりと言うだけだった。何と言うことだろうか。三郎はその二人の優しさに感激を覚えていた。

 

 

「とは言ったが、決勝の相手は流石に楽じゃなさそうだ」

 

「ああ……。対戦相手の片方は、同じ”転生者”のようだし、かなりのやり手みてぇだったぜ」

 

 

 ただ、決勝の相手は今までの相手とは桁が違うと、覇王も真剣な表情を見せていた。

この大会には幾多の転生者が参加していた。それを全て倒すと言うことは、猛者である証拠でもあった。

 

 それに、その決勝の相手片方は転生者だった。

その転生者もまた、かなりの実力者であると、状助も冷や汗を流しながら言葉にしていた。

 

 

「大丈夫かい?」

 

「任せとけって! 俺たち二人に不可能はねぇぜ!」

 

「まあ、僕ら二人はヒーラーでありアタッカーでもあるしね」

 

 

 あまり見せない真剣な表情をする覇王を見て、三郎も二人のことが多少心配になった。

だが、状助は再び陽気な様子を見せ、問題ないと宣言して見せた。

 

 覇王も自分たちどちらも回復ができるし、攻撃もできるから気にしなくてもよいと述べた。

それに試合であって死合ではない。命のやり取りはしないだろうとも。

 

 

「さて、いつもどおり、”瞬動”の修行をはじめようか」

 

「おう!」

 

「わかった」

 

 

 まあ、決勝のことは置いておくとして、覇王は日課となっている瞬動の指導を始めることにした。

その言葉に状助も三郎も返事をし、指示に従うのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 さて、ようやく始まった決勝戦。その決勝戦に相応しい舞台となるため、闘技場最上階が変形・肥大化し、さらに歓声が響き渡っていた。

 

 

「さあ! いよいよ始まりました! ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦!!」

 

 

 観客が盛り上がっていく中、司会もテンション高く試合の開始が間近であることを高々と叫んでいた。

 

 

「最大最高の優勝候補! 覇王・ノリスケのコンビの登場です!!」

 

 

 そして、司会が歓喜溢れる声で呼んだのは、ご存知覇王と状助だった。

 

 

「人気っすねぇー」

 

「人気なんてどうでもいいさ」

 

 

 すさまじい歓声が鳴り響くところで、普段どおりの様子を見せる状助と覇王。

流石の状助もこう言う場面は慣れてきたようで、何かすごいことになってるな、程度の感想しかなかった。

覇王もまた、そう言うことが多かったのか、もう諦めたという顔を見せていた。

 

 

「余裕っすねぇ~」

 

「さてね……。アレを相手に余裕は出せなさそうだ」

 

「……”転生者”の対戦相手……ッ!」

 

 

 状助は冗談まじりに、そんな覇王に余裕綽々って感じだと述べた。

だが、覇王からは普段の笑みは消え去り、真面目そのものだった。何せ目の前の視界に捉えた対戦相手が、ゆっくりと場内に入ってきていたからだ。

 

 状助もそれを見て、あれが最後に戦う相手、最大の難関の一つだと確信した。

 

 

「そして、その対戦相手は同じく優勝候補の一角! デューク・カゲタロウコンビ!!」

 

 

 その直後、視界がその対戦相手の名を、覇王らと同じように叫んで読み上げた。

片方こそ”原作キャラ”である漆黒の体に仮面の男、カゲタロウであったが、もう片方は明らかに転生者だった。

 

 名をデュークと呼ばれた転生者。

青色の体と外套、まさしく人ならざる異形。左腕には輝かしい()()()が眩しく光っていた。されど頭には人のように、顔を半分隠すほどの騎士のような兜を装備していた。まさに亜人……魔族の転生者だった。

 

 

「あれが噂に聞く現代に蘇りし英雄……、赤蔵覇王……」

 

「ふむ……」

 

 

 カゲタロウは覇王と戦えることに喜び、武者震いをしていた。

覇王は元々魔法世界では強者としても有名であり、強いものならば戦ってみたいと思う存在でもあったのだ。

 

 また、隣の転生者も彼らを品定めするかのように眺めていた。

特に覇王の隣の相手である状助を眺めていた。あちらはどうなのだろうかと。思わぬ伏兵とならぬかを。とは言え、あの覇王を抑えられるのは自分だけだとも考えていたりもするのだが。

 

 

「かの有名な覇王殿と合間見えるなど、光栄の極み。全力で行かせて貰う」

 

「ふ………、いい試合になりそうだ……」

 

 

 カゲタロウは非常に喜んでいた。あの覇王と戦えるということに。

感激するほど高ぶっていた。戦いたいと思っていた。

 

 また、デュークと言う転生者も、この戦いがすばらしいものになることに間違いないと確信していた。

自分の全てを出して挑む価値のある戦いになると、全てを出し切らねば勝てない戦いになると。

 

 

「……ノリスケ、君はあっちの黒い方を抑えてくれ」

 

「俺一人でぇ……? 無茶すぎるんじゃあねぇか!?」

 

「ここではっきり言っておくが、僕とてあの二人を同時に相手にするのは辛い」

 

「マジかよ……」

 

 

 その敵の様子を慎重に見ながら、覇王はいつに無く真剣な声で状助に頼みを申し出た。

それはあの黒い方、カゲタロウを一人で抑えて欲しいとのことだった。

 

 状助はそれを聞いて、え? 本気で? と言う顔を見せた。

当たり前である。最近気を覚えたての、スタンド能力があるだけの青年が、プロレベルの魔法使いとタイマンなど、不可能に近いからだ。

 

 しかし、覇王はさらにこう告げた。

この自分でさえも、あの両者を同時には相手にできないと。そうはっきりと状助に伝えたのだ。

 

 状輔はその言葉に、驚愕の表情を見せた。

目の前のチートオブチート、チートの塊である覇王が、不可能を口にしたからだ。

 

 

「つまりよぉ、覇王がそこまで言う相手っつーことか……!?」

 

「ああ……、あの”魔族の転生者”は並みじゃない。あの竜の騎士ぐらいには厄介な相手だ」

 

 

 と言うことは、この覇王が強敵だと判断した証拠だと、状助もすぐさま察した。

これはヤバイ相手なんだ。覇王がヤバイと一目で理解したんだろうと。

 

 覇王もそれに静かに答えた。

特に黒いヤツの横の青い転生者。アレはかなりの手馴れであると。

 

 

「……しょうがねぇ~なぁ~……! ちょいとしんどいだろうがよ……、やってやりますよ……!」

 

「……任せた」

 

 

 状助はそれを聞くと、息を吸い込んだ後に大声で、だったらやるしかねぇかと気合を入れた。

まったくこりゃ骨が折れる戦いになる。だが、友人のために名乗り出たんだから、やるしかねぇだろう。状助はそう思いながら、覇王へとその頼みは任せろと、親指を自分に向けてそう言い放った。

 

 そんな状助を見ながら覇王も、小さく頷き一言だけそう告げた。

そう言ってくれると信じていた、頼もしいヤツだ。そう心の中でつぶやきながら。

 

 

「それでは……決勝戦……、開始!!!」

 

 

 そして、戦いの火蓋はついに切られた。

司会が決勝戦開始の合図を、大きな声で宣言したのだ。

 

 

「おっしゃあアァァァァァッ!!! いくぜオイッ!!」

 

O.S(オーバーソウル)、黒雛……」

 

 

 試合開始と同時に、状助はすさまじい雄たけびを発し、覚悟を決めてカゲタロウへと突撃していった。

覇王もまた、最初から最大の武器甲縛式O.S(オーバーソウル)”黒雛”を展開し、本気の本気でデュークへと挑んでいった。

 

 

「まずは覇王の相手は私がしよう。そちらは隣の少年の相手を任せる」

 

「ウム」

 

 

 デュークはこちらへと全力でかかってくる二人を見て、冷静に隣のカゲタロウへと指示を出した。

カゲタロウはやや不満であったが、それをしかと承諾し、状助の方へと飛んでいった。

 

 

「やはり僕の方へ来たか……!」

 

「久々の好敵手だ。楽しませてもらうとしよう……!」

 

 

 そして、デュークが自分の方にやってきたのを見た覇王は、やはりと思った。

強力な”特典”を持つ自分の方に来るのは、転生者として当然だと思っていたからだ。

 

 また、デュークは覇王が強いことを最初から理解した上で、覇王に挑戦する様子だった。

このデュークなる転生者は強敵との戦いを好む性格のようだ。それ故か、この覇王との戦いを待ちわびたかのように、小さく笑っていたのである。

 

 

「お預けを貰ったが、ならばこちらを早々に片付ければ済むというもの!」

 

「俺のスタンドの拳に砕かれて、早々に片付くのはテメーの方だぜッ!!」

 

 

 だが、覇王と戦いたいのはデュークだけではない。

転生者ではない原作キャラであるカゲタロウもまた、自分よりも強く有名な覇王と戦いたいと願っていた。なので、目の前の状助をさっさと倒し、覇王と戦おうと目論んでいたのである。

 

 しかし、状助はそれを許すほど甘い男でもない。

ならば逆にカゲタロウを打ち倒し、覇王の助力に向かうと宣言したのだ。

 

 

「ふん」

 

「ぬっ! とおぉあッ!!」

 

 

 覇王へと視点を戻せば、すでにすさまじい戦いが始まっていた。

覇王の黒雛の巨大な爪と、デュークの強靭な拳がぶつかり合い、火花を散らしているではないか。

 

 

「我が魔力を帯びた拳ですら、その程度で済むとは……!」

 

「その程度の攻撃じゃ、僕の”黒雛”は砕けないよ」

 

 

 デュークは賞賛した。覇王のO.S(オーバーソウル)の技術力を。

自分の現状での最大の力を宿した拳でさえ、砕くことがかなわないそれを。

 

 覇王もそれを当然と言い切った。

数百年も鍛えてきたこの技術。そうやすやすと砕かれてなるものかと。

 

 

「そうか。では、これはどうだ?」

 

「……!」

 

 

 ならばとデュークは、さらに力を込めた拳を、すばやく数発も繰り出した。

覇王はそれをとっさに、黒雛の巨大な腕で防御して見せた。

 

 

「ぬう……。やはり硬い……か」

 

「……当然だろう? 僕が最大の巫力を注ぎ込んでいるんだからね」

 

 

 今の攻撃ですら黒雛にダメージを与えられないのを見て、どうするかとデュークは考えた。

また、覇王はそういぶかしむデュークへと、こちらも最大の力で黒雛を精製していると、強気の姿勢で言い放った。

 

 

「なるほど……、流石は”作中最強のO.S(オーバーソウル)”……、この程度では破壊できんか」

 

「当たり前だろ」

 

 

 何と言う防御力か。流石は噂に名高い甲縛式O.S(オーバーソウル)黒雛だ。

この程度ではびくともしないのも当然か。デュークはそう考えながらも、表情はむしろ穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 覇王はそんなデュークに底知れぬ何かを感じながらも、デュークの放った言葉に自信満々に答えたのだ。

 

 

「ならば、さらなる攻撃を加え、破壊するまでだ」

 

「やってみなよ。できるものならだけどね……!」

 

 

 すると、デュークは次の行動に即座に出た。

すぐさま覇王から距離をとり、新たな攻撃に転じるつもりだ。

 

 覇王はそれを身ながらも、むしろ挑発するかのような態度で、それを見せてみろと言ってのけた。

だが、覇王はただ挑発しているのではない。相手の手札がわからないと言うのは脅威と考え、それを見るための挑発でもあった。

 

 

「では、そうさせてもらおう!」

 

「! 光球!」

 

 

 だが、それがデュークのスイッチを入れることになった。

挑発にあえて乗ったデュークがそう言葉にすると、地面から光の球が湧き出し始め、それがデュークの周囲に浮かんだのだ。

 

 そのデュークの頭上には禍々しい空気の渦も発生しており、これから強力な攻撃が来るのが覇王にも見てわかった。

 

 

「これが我が奥義が一つだ……! ”ミーティアルシャイン”!!」

 

「くっ!」

 

 

 デュークはその奥義の名を口にすると、構えていた腕を下げた。

その瞬間、光球が覇王へと目がけて雨あられに降り注ぎ始めたではないか。

 

 覇王はそれを黒雛で防御するも、あまりの衝撃に小さく苦悶の声を漏らしたのである。

 

 

 ―――――ミーティアルシャイン。

冥光球を地面から発生させ、それを敵に豪雨のように叩きつける奥義。

一つ一つの威力はすさまじいというのに、それを無数にぶつけるのだから、その破壊力は想像を絶する。

 

 漫画”冒険王ビィト”に登場する、魔人(ヴァンデル)の中でも最高峰の力を持つ()()()を持つ魔人(ヴァンデル)の一人、”天空王バロン”。

その天空王バロンが操りし冥奥義の一つこそ、この”ミーティアルシャイン”である。

 

 ……つまり、この転生者はその”天空王バロン”の身体能力を特典として選んだということだ。

魔人(ヴァンデル)の中でもひときわ強力な肉体を得たということだ。

 

 そして、本来ならば”冒険王ビィト”の術は”天撃”と”冥撃”に分かれる。

人間が操る天力を利用する術が天撃となり、逆に魔人(ヴァンデル)が操る冥力を利用する術が冥撃となる。

 

 が、この世界にそのような隔たりはないので、単なる魔力を用いた技術と言う扱いとなっているようだ。

そのため、このデュークも”冥奥義”と呼ばずに、単なる奥義として済ませているのだ。

 

 

「……凌いだのか。いや、そのO.S(オーバーソウル)にて防御したと言うことか」

 

「……そういうことだ……」

 

「しかし、その表情は辛くも、と言ったところか」

 

 

 ……光球が覇王と地面に衝突した勢いで、周囲は土煙に包まれていた。

それが晴れたところに、無傷でたたずむ覇王の姿が現れたのである。

 

 デュークはそれをさも当然だろうと言う様子で、淡々と語っていた。

流石は覇王。あの”麻倉ハオ”の特典を持つものだと。これでもまだダメージを与えられないとは、と。

 

 しかしだ。しかし、覇王の表情はすぐれない。

この覇王がして、防御したのがやっと、と言う顔を覗かせていた。

 

 デュークもそれに気が付き、唇の端がつりあがる。

そうか、ダメージにはならなかったが、覇王をいっぱい食わせてはいたか、と心の中で思いながら。

 

 

「つまり、さらに手数を増やすのは、有効ということだな」

 

「ふん、やってみろ」

 

「言われなくとも……、すでに!」

 

 

 と言うことはだ、この技は覇王にとっても脅威だったということだ。

であるならば、さらなる追撃を増やすのみ。単純だが強力だ。

 

 デュークはそう言葉にすると、再び光球が地面から湧き出てきた。

が、その数は先ほどとは比べ物にならないほどの数。何と言うことか、その数はざっと20倍! この目の前の男を倒すには、これぐらい必要だとデュークは判断し、渾身の攻撃を与えることにしたのだ。

 

 覇王はそれを見てもいたって冷静。

それでも自分は倒せないと言うように、さらなる挑発をデュークへ言い放つ。

 

 デュークはそれを聞いて、再びニヤリと笑った後、その奥義を解き放ったのである。

 

 

 ……覇王がデュークとすさまじい熱戦を繰り広げている間にも、状助も戦いを始めていた。

 

 

「うおおおおお!!! ドラララララララララララアアアアァァァァァッ!!!!」

 

「ヌウ……! これほどの攻撃を凌ぐとは……! 不可視なる異能、中々どうして!」

 

 

 状助は迫り来る無数の影の槍を、クレイジー・ダイヤモンドの拳のラッシュで砕きまくっていた。

怒涛の影の槍の攻撃を、怒号のような叫びと共に、その拳を驚くべきスピードで何度も振りぬいていた。

 

 これにカゲタロウも驚いた。自分が見えない何かが、自分の影の槍を防いでいるからだ。

数十と言う数の影の槍を完全にシャットアウトされ、ダメージを与えられないからだ。

 

 

「だが、これなら防ぎきれまい!」

 

「うおおお!!! ドラララララアァァァッ!!! ドラァッ!!!!」

 

「なっ! これも防いだだと!?」

 

「とっ、当然よォー!!」

 

 

 ならば、これならどうだと、カゲタロウは次の手に出た。

無数の影の槍が束ねられ、巨大な一本の槍となったのだ。それを状助へと、すさまじい速度で向かわせたのだ。

 

 が、状助はそれをもクレイジー・ダイヤモンドの拳で粉砕して見せた。

当然だ。どんなものであれ、スタンドはスタンドでしかダメージを与えられない。魔法だろうがなんだろうが、それに変わりはないのだ。

 

 それを知らぬカゲタロウは、またしても驚いた。

まさか今のも、謎の力で防がれてしまうとはと。

 

 ただ、状助も多少なりとて焦った。

相手が本気(マジ)の攻撃をしてきて、それを防げるかは半信半疑だったからだ。

 

 いや、ただ単に、彼が戦いなれておらず、チキンな性格だということもあるのだが。

とは言え、それでも強くの発言を叫ぶぐらいの気迫もあるようだ。

 

 

「しかし、そちらの能力は遠くには及ばないと見える。であれば……」

 

「であれば……、どうしたっつーんだ……?」

 

 

 カゲタロウはそうなればどうするか、と次の行動を考えた。

謎の不可視なる能力は、防いでばかりでこちらに攻めてはこない。つまり、それは射撃などの遠距離攻撃は出来ないと言うことなのだろうと。

 

 状助はカゲタロウの冷静な分析に、焦りながらも挑発するかのような言葉を発した。

自分の能力が多少なりとて理解されたとて、まだ()()()()は悟られてはいない。チャンスはまだまだあると、そう思っているからだ。

 

 

「であれば、距離をとってこのまま攻め続けるのが得策!」

 

「やってみろよコラァッ! まるで海を割るモーゼのように、テメーの影の槍をぶち破ってやっからよぉー!!」

 

「面白い! やってもらおう!」

 

 

 カゲタロウはそんな状助に、中々の相手であると思った。

だからこそ、全力で潰すと決めた。故に、状助の射程の外から、影の槍の数を増やして攻撃することにしたのだ。

 

 しかし、状助はそれも全部防ぎきってやると断言した。

さらに、その槍を砕きながら前進し、射程内に捉えてやると豪語したのだ。

 

 ならば、それをやってみせろと、カゲタロウは攻撃を開始した。

先ほどとは比べ物にならない数の、おびただしい量の影の槍が状助へと向けられたのだった。

 

 

 そして、場所を戻して覇王は、デュークと互角の戦いを繰り広げていた。

 

 

「ふん!」

 

「はっ!」

 

 

 すさまじい光球の嵐。それをかいくぐりながらもデュークへと攻撃する覇王。

されど覇王には、このミーティアルシャインを完全に防ぐ手立てがない。故に、予想以上の消費を強いられていた。

 

 何せこのミーティアルシャインは、かの天才が瞬間的に攻略法をひらめいたからこそしのげる技だ。

その攻略法と言うのもギリギリのギリギリを見極めたもので、大気流を操り光球をそらして誘爆させるという神業なのだ。

 

 流石の覇王もそれは不可能であり、回避してダメージを抑えつつガッチガチに防御を固めた黒雛で耐える戦い方をしていたのだ。

 

 

「なるほど……。O.S(オーバーソウル)だけでなく、体術もできる訳か」

 

「そうさ。ナメてもらっては困るよ」

 

「侮ってなどいない。お前ほどの強敵を侮るほど、私自身余裕はないのでね」

 

「そうかい……!」

 

 

 だが、覇王の中々の身のこなしにデュークは、体術の心得も持ち合わせていることを理解した。

覇王はそれを当然と答え、まだまだ余裕であることを見せ付けたのである。

 

 ただ、デュークは覇王をナメるような真似などしない。

今全力でぶつからなければならない、強大な相手であるとしっかりと認識している。でなければこちらが敗北するという意識もある。だからこそ、驕りはそこに存在しない。

 

 そんなデュークを見た覇王は、隙を突くことはできなさそうだと思った。

こう言う強力な力を持つ転生者は基本的に”慢心”する傾向にあった。

 

 されど目の前の彼は、そのような素振りはない。こう言う相手こそ、強敵となりえる存在だ。

これは中々厄介な相手だと、覇王も思わざるを得なかった。

 

 

「しかしながら、我がミーティアルシャインをもってしても、倒せぬ相手は久方ぶりだ」

 

「負ける気なんてさらさらないんでね」

 

 

 それはデュークとて同じことだった。

目の前の覇王はやはり思ったとおり、いや、それ以上にすばらしい強さを持つ男だった。それは非常に嬉しいことだ。今の奥義で倒せない相手は本当に久しぶりであり、感激するばかりだ。

 

 覇王もそれを聞いて、当たり前だと豪語した。

誰にも負ける気などない。この大会など優勝して当然、そう言ってやまないのだ。

 

 

「そう言うそっちこそ、随分消耗したんじゃないか?」

 

「そうだな、久々に随分と魔力を使ってしまったよ」

 

 

 むしろ、自分の方を心配しろよと、覇王はデュークへ投げかけた。

デュークも覇王に言われたとおり、大きな消耗を強いられたと不敵に笑いながら言葉にしていた。

 

 

「故に、次の一手を打つとしよう」

 

「ほう?」

 

 

 だからこそ、隠していた手を使うのだと、デュークそう言い放った。

覇王はその手とは何だと思いながら、多少興味がある様子でデュークを警戒していた。

 

 そして、その宣言どおりデュークが全身に力を込めると、突如としてすさまじい魔力が噴出し始めた。

 

 

「これは”星呑み”と呼ばれる修練法……。魔力を”星”に封じ込み、少ない魔力で戦える戦士になるための修行だ」

 

「……確かに、お前の魔力が大幅に増幅したのが感じられるよ」

 

 

 その直後、左腕にあった()()()の中央から、禍々しい魔力を蓄えたもう一つの星が浮かび上がったではないか。

 

 これこそかの魔人(ヴァンデル)、”惨劇の王者ベルトーゼ”が編み出した修練法。自らの冥力を最初に保有する星に封印し、少ない冥力で戦い強くなる為の修行だ。それを転生前の知識で知っていたデュークは、真似をして見せたのである。

 

 そう、”天空王バロン”が所有していた”七ツ星”が、特典の一部として転生者デュークの左腕に宿っていた星が今ここに揃ったのだ。

 

 さらに、デュークが封印していた魔力は膨大だったようで、ピリピリとした空気とともにそれを覇王は肌で感じ取った。

また、覇王はデュークの魔力が回復したのを見て、次はどうするかを考えた。

 

 やはり思ったとおり、いや、思った以上の相手だった。

であれば、こちらもそれに応じた対応をしなければならないと、覇王は次の一手を探るのだった。

 

 

「そして、これが我が最後の奥義……!」

 

「……!」

 

 

 だが、覇王はそのような迷いが吹き飛ぶ光景が、次の瞬間目に入ってきた。デュークが新たな奥義を、その場で見せたからだ。

 

 羽織っていた外套を投げ捨て、全身に力を入れ始めたからだ。そして、その背中から隠し玉が姿を現したからだ。

 

 

「”ミーティアルウィング”……!」

 

「……へえ、それで?」

 

 

 そこに映ったのは、すさまじい光を放つ六つの羽だった。

デュークの背中から神々しく生える、三日月型の羽だった。デュークはその名を高らかに宣言した。”ミーティアルウィング”と。

 

 覇王はだったらそれがどうした、と言う態度でデュークをさらに煽った。

が、覇王とてそれが脅威であることは、完全に理解していた。あの羽がデュークの最大の技であることは一目瞭然だからだ。

 

 

「焦る必要はない。今すぐにでも、この”(ウィング)”の脅威を理解してもらうからだ」

 

「望むところさ」

 

「では、得と味わうがいい!」

 

「っ!」

 

 

 覇王の強気の態度に、デュークは思わず笑いをこぼした。

すると、その背にあった羽が背中から離れ、独立した物体へと変わったではないか。

 

 また、今回デュークは覇王の挑発に乗ることなく、能力の詳細を語らなかった。

いや、語る必要などないのだ。何故なら、この次の瞬間に覇王はそれを全て理解するからだ。

その恐ろしい光景を目の当たりにするからだ。

 

 覇王はだったら早くかかって来いと、そう挑発すれば、デュークは腕を振り下ろし、その奥義を解き放った。

その瞬間、右側の一つを残す以外の羽が、目にも止まらぬスピードで覇王へと突撃していったのだ。

 

 覇王は一瞬だけ驚くも、すぐさまそれに対応して見せた。

しかし、そのすさまじいスピードで縦横無尽に飛び回る五つの羽を、回避するのは困難極まるという様子だった。

 

 

 ……これぞ”天空王バロン”の最終奥義”ミーティアルウィング”。

冥力で強化した羽に追撃する相手を命じることで、その相手が死ぬまで流星のごとく追い続ける追尾ミサイルだ。

 

 

「早い……!」

 

「そう言うそちらも、なかなかに素早い」

 

「まあね。そういうのも見慣れているからね」

 

 

 何と言うスピード。何と言う執拗さ。これがミーティアルウィングか。

覇王は何とか羽をかわし、または黒雛の爪で弾き返しながら回避をし続けた。

 

 デュークは自分の五つの羽を全て回避し続ける覇王へと、賞賛の言葉を送った。

これでも目の前の男は倒せないかと思うと、心の奥底から強敵とめぐり合ったことへの喜びがくすぶって仕方が無かった。

 

 いやはや、これには覇王も多少なりとて苦戦を強いられていた。

が、この覇王はその程度では倒されない。同じような攻撃など、戦ってきた幾多の転生者どもも使ってきた手だ。慣れている、なんてことない。そう余裕がこもった表情を見せつけていた。

 

 

「そうか……。しかし、相手にしているのは”(ウィング)”ではなく、私だということを忘れてもらっては困るな!」

 

(ウィング)が剣に……!」

 

 

 さらに、デュークは未だ自分の近くに待機させていた羽を、剣のように変形させて右腕に握り締めたではないか。

その直後、超速度で覇王へと接近していったのだ。そうだ、戦っているのは羽ではない、このデュークだと主張しながら。

 

 覇王も他の羽を回避しつつ、その状況をしっかり見ていた。

なんということか、羽だけでも厄介だというのに、本体まで攻めてくるとは。

 

 

「ぐっ!?」

 

「渾身の魔力を込めた(ウィング)だ。流石のお前のO.S(オーバーソウル)も耐えられなかったようだな」

 

「その程度、なんてことないさ……」

 

 

 迫り来るデュークの(ウィング)を覇王は防御にて防ぐことにした。

周囲の羽を回避するので精一杯で、デュークの直接攻撃への対応が遅れたのだ。

 

 だが、覇王はそれを防御で受け止め切れなかった。違う、防御は間に合ったが、その刃の鋭さは覇王の黒雛を超えたものであった。何と言うことか、ザクリと黒雛の両腕部分が切り落とされてしまったのだ。

 

 この黒雛の破損は覇王にとっても大きな巫力ダメージで、覇王の口から小さく苦悶の声が漏れた。

 

 当然だ。

このミーティアルウィングの刃は、目覚める前とは言え天空王バロンの拳ですら傷付かなかった、ビィトの真の才牙に傷を入れるほどなのだから。

 

 さらに、デュークはこの一太刀に渾身の魔力を注ぎ込んでいる。

覇王の黒雛を破壊できるほどの力を与える為だ。そして、その思惑どおり、黒雛を破壊するほどの力を宿していたのだ。

 

 デュークは覇王の黒雛を切り刻めたのを見て、ようやく一太刀浴びせられたとほくそ笑んだ。

が、それでも覇王の余裕は崩れない。この程度の破壊など、すぐさま膨大な巫力で再び黒雛を作り出せばいいからだ。

 

 

「しかし、そっちが剣を使うなら、こちらも使わせてもらうよ」

 

「いいだろう、出してみろ」

 

 

 ただ、目の前のデュークの強さは、予想以上だったと覇王は思った。

故に、覇王は今まで見せなかった切り札を、ここで晒すことに決めたのだ。

 

 覇王は瞬間的に黒雛を復元すると、懐から非常に長い一本の刀を取り出した。

相手が”剣”を使うならば、こちらも同じ手を使わせてもらうと。

 

 デュークは覇王の新たな行動に、興味津々な様子だった。

まだ違う手を残していたのか、それはなんだろうか、早く見てみたい。そうデュークは思いながら、覇王へと言葉を投げた。

 

 

「リョウメンスクナ、O.S(オーバーソウル)、”神殺し”」

 

「なるほど、巨大な刀と言う訳か」

 

 

 覇王はデュークの言うとおり、その場で新たなO.S(オーバーソウル)を組み上げた。

それこそ巨大な刀のO.S(オーバーソウル)、”神殺し”だ。

 

 デュークはそれを見て、スピリットオブソードのアレンジだということにすぐさま気が付いた。

確かに、体術などの心得があるならば、そう言う手も考えるだろうと。

 

 しかし、デュークがそう考えている余裕が、次の瞬間に吹き飛ぶことになる。

 

 

「そして、これをこう使う……」

 

「……!」

 

 

 覇王はデュークへと話しかけながらも、その構えを静かに取った。

刀を肩より上へと持ち上げ、刃の先を相手へ向たあの構えだ。されど、神殺しが握られていたのは覇王の腕ではなく、黒雛の巨大な爪だった。

 

 そして、覇王がそれを告げ終わった直後、デュークへと三つの斬撃が一寸たがわぬ間隔で同時に襲い掛かったのだ。そう、覇王が特典として選び、転生最初の生涯を使って完成させた、”燕返し”だ。

 

 

「ぬう……。瞬間的に後ろに下がり、(ウィング)で防御しなければ、今の一撃で終わっていた……」

 

「……しのいだか……」

 

 

 だが、デュークは未だ健在だった。

とは言え、額から冷や汗を流し、かなりギリギリで生き延びたという顔を覗かせていた。その言葉通り、デュークは迫りくる三つの斬撃の中で、最も急所に近い部分を羽で防御した。

 

 それ故に、二つの斬撃だけは回避しきれず、体の二箇所に大きな切り傷を受けていた。さらに、防御に使った羽は完全に砕け散り、柄の部分しか残っていなかったのである。この状況に、流石のデュークも驚愕の表情を見せるしかなかったようだ。

 

 今の攻撃で手傷を負わせることに成功した覇王はと言うと、そちらも深刻な表情を見せていた。

この攻撃で倒せなくとも、もう少しダメージを与えられると思っていたのだが、予想よりも与えたダメージが小さかったからだ。確かにダメージを与えることはできただろうが、相手は魔族。その程度の傷などすぐに再生してしまうからだ。

 

 

「しかし、その巨大さは、”黒雛”と併用するためと言うことか」

 

「ご名答。これが僕の隠し玉って訳さ」

 

 

 デュークはふぅ、と小さく息を吐き出すと、再び小さく笑って見せた。

そして、覇王へとその”神殺し”が何故その形なのかを理解したと言葉にしたのだ。

 

 覇王も再び余裕の表情へと戻し、肯定の一言を述べていた。

神殺しは単体で使っても強力なO.S(オーバーソウル)だが、本来覇王が想定する使用方法は、このように黒雛の爪で握り締め振り回すと言うものだったのだ。これぞ覇王が秘技として隠してきた、真の神殺しの使用方法だった。

 

 

「本当ならばこんな場面で見せたくはなかったけど、お前ほどの相手であれば使わざるを得ないと判断したまでだ」

 

「……そこまで言われると、私も嬉しい限りだ」

 

 

 覇王とてこのような公の場で、秘密にしてきた技を見せたくは無かった。

それでも目の前の強敵を考えれば、使わなければならないと決断したのである。

 

 デュークは覇王のその言葉に、心底嬉しく思っていた。

目の前の強敵に認められたからだ。強敵であると、死力を尽くすべき相手であると、認識されたからだ。

 

 

「では、私もお前ほどの強敵に相応しい工夫をするとしよう」

 

「……! 光球と羽の同時攻撃か……!」

 

「そうだ、お前ならば惜しくはない。全てをかなぐり捨て、ただ勝利を掴むのみだ!」

 

 

 目の前の強敵にはその強さと敬意を表し、デュークはさらなる行動に出ることにした。

それはなんと、ミーティアルシャインとミーティアルウィングの同時攻撃だった。

 

 何せ目の前の覇王には”ミーティアルシャインの突破策”がない。

ミーティアルシャインでのダメージが軽微と判断したが故に、ミーティアルウィングを用いたに過ぎない。つまり、二つの技の同時攻撃は、覇王にとってはかなり有効であるということだ。

 

 覇王も地面から湧き出す無数の光球と、デュークの背中に戻った輝く羽を見て、次の攻撃を察していた。

そうきたか、そうくるか。これは多少なりに厄介だ。そう考えていた。

 

 そして、デュークは大声で宣戦布告を叫ぶと、光の羽と光の球が目にも止まらぬ速度で覇王へといっきに襲い掛かったのだった。

 

 

 そのころ、状助も未だに敵の魔法をかいくぐるべく、スタンドの拳を振るっていた。

 

 

「ドラララララララララアァァァァッ!!!!」

 

「ぬう……、やるな」

 

 

 何度も何度もクレイジー・ダイヤモンドの拳を、カゲタロウが操る陰の槍に叩きつける。

砕ける音が幾度と無くその場に響き渡る。それを試合開始から、ずっとやっている状況だ。完全に膠着状態。両者とも維持の張り合いである。

 

 

「だが、いつまでもそうしていても私には勝てんぞ?」

 

「んなこたぁわかってるぜ!!」

 

 

 しかし、カゲタロウは余裕の様子だ。

無数の影の槍を、遠くから飛ばしているだけの状態。さほど苦は無く優勢であるからだ。

 

 それとは逆に、その槍を破壊し続ける状助の方が劣勢だ。

完全に防御に回っている状況で、まったくもって敵に近づけないのだから当然である。すさまじいパワーを誇るクレイジー・ダイヤモンドとて、射程距離に入れなければ意味が無い。

 

 

「ちくしょう! 何か打開する方法があればいいんだがよぉ……」

 

 

 このままでは押し切られるかもしれない。

ずっとこの状態では勝つことはできない。かといって覇王を頼ることもできそうにない。ならば、新しい作戦を考えなければならない。状助は足りない頭を必死に回転させ、この状況の打破ができる作戦を考え出していた。

 

 

「……こうなったら一か八かしかねぇッ!」

 

「!」

 

 

 もはやこのまま防御していても埒があかない。

状助は賭けに出た。勝てば近づける。負ければ影の槍に串刺しだ。それでもやるしかないと、覚悟を決めた。いや、覚悟などここに入る前から既に決めていたのだから当然だ。

 

 カゲタロウも状助の新たな行動を目撃することができた。

いや、実際は見えていなかった。突如として状助が消えたからこそ、驚きを感じたのだ。

 

 

「瞬動か! だが、逃げれると思うな!」

 

「逃げれるなんて思ってねぇー! ドラァッ!!」

 

 

 状助が消えた理由、それは単純だ。瞬動を使い、その場から移動したからだ。

だが、カゲタロウはすぐさま状助の位置を把握、そこへと攻撃を開始した。

 

 とは言え、状助も姿をくらますための行動ではなかった。

この程度で出し抜けるほど、相手は甘くないことも知っているからだ。そこで状助は、移動した場所の地面を殴り、砕けた破片をカゲタロウへ向け、思い切り投げ飛ばしたのだ。

 

 

「ヌ!? 悪あがきか!? そんなもので私は倒せんぞ!」

 

「それもわかってるっつーのよぉッ! ドララァッ!!!」

 

 

 が、その程度の攻撃など、カゲタロウには当然効かない。

さっと体をひねるだけで、いともたやすく避けられてしまった。無情にも投げた石は、その後方へと消えていった。

 

 しかし、状助はそれも理解していた。

こんなちゃちな攻撃があたるはずがないことなど、誰がどう見てもわかりきったことだからだ。故に、状助はさらなる行動を開始する。

 

 

「何! 地面が壁に!? しかし、それで私の攻撃を防げるものか!」

 

「ああ……。防ぐ必要はねぇからな」

 

 

 それは先ほどと同じように地面を殴るものだった。

違いがあるとすれば、殴った地面をクレイジー・ダイヤモンドの能力で修復し、自分の目の前に壁を作ったというところだ。

 

 カゲタロウはそれを見て、自分の影の槍をそれで防ぐつもりなのかと考えた。

そんなものでは自分の影の槍を防げるはずがない、そのまま貫いてくれる、そう考えた。

 

 それも状助は理解していた。

当たり前だ。こんな魔法の障壁ですらないただの石壁で、あの魔法が防げるものかと。故に、小さな声でぼそりと、防ぐ訳ではないと述べた。

 

 

「なっ!? ヤツが先ほど壁にした地面が!?」

 

 

 状助がそれを言い終えると、その盾のようにした壁が、カゲタロウの方へと勢い良く飛んでくるではないか。しかも、状助が特に投げたという訳でもなく、まるで重力に従うかのような動きだった。

それにはカゲタロウも驚いた。何もせずにその壁が急激に加速して迫ってきたからだ。

 

 

「だがしかし! ”百の影槍”!!」

 

 

 が、驚いたのも一瞬のことだ。

その程度の壁など魔法で簡単に破壊できるからだ。カゲタロウはすぐさま影の槍を無数に飛ばし、状助もろともその壁を打ち砕かんとしたのだ。

 

 

「なっ!? 砕いてもこちらに向かってくるだと!?」

 

 

 そして、当然壁は無数の影の槍に貫かれ、粉々に砕け散った。

しかし、どういうことだろうか。壁は粉々になったが、その破片は勢いを失わずに、以前カゲタロウへと迫ってくるではないか。また、その壁に気を取られていたために、状助の姿を一瞬見失ったのだ。

 

 

「そうだよ、そのタイミングを待ってたんだ……」

 

「ッ!?」

 

 

 気が付けば状助は、すでにカゲタロウのすぐ傍までやってきていた。

そう、カゲタロウの真後ろに立っていたのだ。そうだ、これを狙っていたんだ。そう状助はカゲタロウの後ろでつぶやいたのである。

 

 カゲタロウはしてやられたという感じに驚いていた。

それでもすぐさま後ろを振り向き、すかさず影の槍を状助へと放った。

 

 

「ドラアッ!!」

 

「ゴオッ!?」

 

 

 だが、状助の方がわずかに早かった。一瞬だが早かった。

クレイジー・ダイヤモンドの拳の方が、カゲタロウの影の槍より、一手早かった。

 

 状助は叫び声と共に、すでにクレイジー・ダイヤモンドの拳を振りぬいていた。

それがカゲタロウの顔面へと直撃し、陰の槍は状助の顔をそれるようにして素通りしたのだ。

 

 

「ぐっ……、不覚を取ったか……」

 

「ふぅー……、やれやれ。ヒヤヒヤしたぜぇー。テメェにバレねぇようここまで来るのはなぁー……」

 

 

 カゲタロウは目の前の少年を、一瞬でも見失ったことを悔やんだ。

あの謎の力で引き寄せられる岩壁に気を取られすぎた。失敗だったと。

 

 それも後の祭りだ。

状助はカゲタロウの顔面にスタンドの右拳を食い込ませながら、先ほどの心境を語りかけていた。いやはや、今の作戦がうまく行ってよかった。でなければどうなっていたことか、と。

 

 

 ……状助が投げた先ほどの破片、それに引っ張られるようにクレイジー・ダイヤモンドの能力を使い、壁をカゲタロウへと向けた。そこでほんの一瞬だけできるだろう隙を狙って、カゲタロウへと近づくことに成功したのだ。

 

 とは言え、これも賭けだった。

初見で未だ真の能力を見せていなかったからこその奇襲だからだ。さらに隙を突いたとは言え、自分の居場所がすぐにバレてしまえば、意味が無かったからだ。

 

 だが、それでも状助は成功した。カゲタロウに近づくことに成功した。

状助はこの賭けに勝利したのだ。

 

 

「ヌウゥ……! やってくれる!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 カゲタロウは状助へと、再び攻撃を開始すべく、全身から影の槍を生み出し状助へ向けて飛ばした。

 

 とは言え、すでに、すでにこの距離は状助の射程距離の中だ。

この位置ならば問題ない。射程距離内ならば確実に攻撃できる。だからこそ、反撃だ。ここで思いっきり、叩き込んでやろうじゃないか。このスタンドの拳を。何度も! 何度も!

 

 

「ドララララララララララアアアアアァァァァッ!!!!」

 

「グオオオオッ!!?」

 

 

 そこには先ほどの影の槍と同等の拳があった。いや、全て超スピードで放たれるパンチの残像だ。

状助が怒号の叫びを発しながら、クレイジー・ダイヤモンドの強烈なパンチを、カゲタロウへと放ったのだ。

 

 ドコドコドコドコドコドコ! 無数の拳がカゲタロウへ突き刺さる音が会場に鳴り響く。

カゲタロウもラッシュのダメージに、思わず苦悶の悲鳴を上げていた。

 

 その強烈なラッシュの嵐を受け、流石のカゲタロウも影の魔法を操るどころではなくなってしまったようだ。

 

 

「ドラアァアアァァァァッ!!!」

 

「ガアッ!!」

 

 

 そして、とどめと言わんばかりの強烈な右ストレートが、最後にカゲタロウの顔面へと突き刺さった。

カゲタロウの仮面にはヒビが入り、一部が砕けてしまっていた。

 

 その衝撃と勢いでカゲタロウは数メートルも吹き飛ばされ、悲鳴を上げながら地面に転がったのだった。

一瞬、全て一瞬の出来事であった。

 

 

 


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