理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ41:敵組織に強い転生者

フェイト君の今

そしてあまり見かけないけど、強くなるならこの特典を貰うべき


十三話 珈琲少年と最強級の転生者

 シルチス亜大陸、多くの亜人が住むこの大陸に、四人の姿があった。フェイトとその従者、(しおり)(こよみ)(たまき)である。フェイトは従者たちを連れ、戦場となった街へと赴き、生き残った人々を救出しようと歩いていた。だがしかし、この街も、何者かの戦闘で完全に破壊され、生存者は絶望的だった。

 

 

「ひどい……」

 

「どうしてこんなことに……」

 

 

 従者の三人はあまりの惨状に眼を背くほどであった。フェイトはその光景を見ながら、何か考えていた。

 

 

「この状況、皇帝なら多分知っていると思うけど……。話してくれないなら、必要ないか、あえて言わないんだろう」

 

「そうかもしれませんね……」

 

 

 フェイトはこの状況を皇帝が知っていると確信していた。紛争以外で破壊される街は少なくないからだ。だが、それを皇帝はフェイトに教えていない。つまり、知る必要が無いか、あえて教えないのだろうとフェイトは考えた。そして瓦礫となった街を、少し歩いたその場所に、一人の男性が立っていた。

 

 その男、黒い髪を無造作なオールバックにし、口髭を生やしていた。左目には片眼鏡らしき装飾をしており、40代ぐらいだと思われる、ダンディーな顔立ちだった。竜を思わせる服装と剣、そして肩に鎧を身にまとい、その男は静かにフェイトを眺めていた。フェイトがその男に気がつくと、男はフェイトに声をかけてきた。静かながら、怒りを感じる声だった。

 

 

「ふん、欠陥人形が……。()()を忘れ、少女と戯れながらの散歩とは、さぞかし楽しかろうな」

 

「僕を知っている……? 何者?」

 

 

 この男はフェイトを知っているようで、挑発するように言葉を発していた。フェイトは自分を知るこの男を知らなかったようで、そう男に質問した。

 

 

「私は貴様と同じ”完全なる世界”のものだが……。貴様のような、遊び歩く欠陥人形は目障りだ……消えてもらうぞ」

 

「僕の仲間……? いや、違うみたいだね」

 

 

 なんと、この目の前の男は、フェイトと同じ組織のものだった。だと言うのに、フェイトを消そうと考え、この場に現れたようである。

 

 と言うのも、フェイトは基本的に戦場となった街などを回り、生き残りがいないかを探していた。そこで生存していた幼い子たちは、アリアドネーなどに保護してもらっていたのである。

 

 だが、それは完全なる世界が行う仕事ではない。本来ならば”救済”と言うしかるべき処置をするのが当然なのだ。

 

 それを行わずに仕事を放棄しているフェイトを、この男は恨めしく思っていた。仕事を忘れた道具など、必要ないと感じていた。

 

 だから、フェイトを消しにやってきた。こうやってふらついて遊んでいる道具など、組織に不要と考えたからだ。()()()()()()()ですら各々の思惑があるにせよ、もう少し仕事をしているからだ。

 

 男とフェイトが戦闘態勢を取り、睨みあっていた。従者たちはたまらず飛び出し、戦闘に加勢しようとしたが、一人の従者である環が膝をついてうなだれだした。

 

 

「もう駄目だ……おしまいだぁ……」

 

「にゃ!? た、環どうしたの!?」

 

 

 突然環が弱音を吐き、完全に恐怖に支配されていた。もはや戦う気力すらでないほどに、怯えて弱音を吐き続けている。その様子を驚きながら見ている従者二人。そして、その男の実力を感じ取ったフェイトも、いやな汗をかいていた。

 

 

「勝てるわけがない……()()()……」

 

「ほう、竜族の娘か……。竜族故に私の竜の力を感じ取ってしまったようだな」

 

「……三人とも下がっていたほうがいい……。あの男は相当危険だ……」

 

 

 フェイトもその男を完全に警戒し、従者三人に下がるように進言した。彼女たちが戦っても、この男には勝てないだろう。むしろ殺されてしまうかもしれないと思ったからだ。従者三人を後ろに下げ、フェイトは先手を取って魔法を唱えた。

 

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト、おお、地の底に眠る死者の神殿よ、我らの下に姿を現せ、”冥府の石柱”」

 

「ふん……」

 

 

 その魔法は巨大な石柱を数本召喚し、相手に叩きつけるものだ。それが全て男に直撃し、舞い上がった煙により視界がさえぎられた。従者二人はフェイトが男に圧勝したことを、喜んでいた。

 

 

「にゃ? あっけない……」

 

「環が怯えるほどではなかったようですわね」

 

「いや……あの男は健在だ……」

 

 

 しかしフェイトはそれを否定した。まだ生きている。まだ倒れていない。フェイトはそう感じていた。すると突如煙が吹き飛ばされたのだ。そしてそこには、額に光る竜を模った紋章を現し、光に体を包んだ、無傷の男が立っていたのだ。

 

 

「なっ!?」

 

「そ、そんにゃ!?」

 

「殺される……みんな、殺される……」

 

 

 栞と暦は無傷の男に驚き、もはや殺されるとまでつぶやきだした環がいた。フェイトもその男の姿を見て、ジャック・ラカンと同等か、それ以上だと考え始めていた。

 

 

「”竜闘気(ドラゴニックオーラ)”、この程度の魔法で、私に傷をつけることはできんぞ……」

 

「……みたいだね、あなたもバグの一種というわけか」

 

 

 ”竜闘気(ドラゴニックオーラ)”、ダイの大冒険にて、竜の騎士と呼ばれる存在が操る、特殊な闘気のことだ。竜の騎士とは、竜の神、悪魔の神、人間の神が作り出した調停者である。世界が危険となった時、その姿を現し、世界を救う存在である。しかし、このネギまには、そのようなものは存在しない。つまり、この男もまた、転生者ということだった。竜の神、悪魔の神、人間の神、その三つの神ともう一つ、転生神が生み出した、最強クラスの転生者だ。

 

 

「さて、そちらに先手をくれてやったのだ。今度はこっちが出向く番だな」

 

「そうはいかないよ……」

 

 

 すると両者は高速で接近し、殴り合いを始めたのだ。だが、フェイトは完全に押されていた。フェイトは格闘術にも優れ、接近戦すらも上級クラスである。だが、いかなる打撃でさえも、この竜闘気(ドラゴニック・オーラ)の前には、ダメージにもならないのだ。殴られることを気にせず、強力な一撃を繰り出す男。そのすさまじい猛攻の前には、フェイトの障壁でさえ簡単に砕かれ、その綺麗な顔に拳をもらってしまっていたのだ。

 

 

「……ッ。……強い……」

 

「強く()()()()()()からな、当然だ。さて、これで実力差がわかったわけだ、潔く死ぬがいい」

 

 

 竜闘気(ドラゴニックオーラ)は単純に防御のみに特化した能力ではない。それを拳にこめることで、爆発的な攻撃力も得られるのだ。だからこそ、フェイトの曼荼羅のような障壁すら、簡単に撃ち破れるのだ。観念しろと男は言うが、フェイトはまだ、諦めてはいなかった。

 

 

「そう簡単にはやられない。まだ、やることがある」

 

「ならば本業に力を入れろ、それならば、見逃してやるぞ」

 

「それはできない……相談だ」

 

 

 会話を閉ざす前に、瞬時に男の懐に入り、その拳を叩き込むフェイト。さらに、間髪いれず何度も拳を打ちつけた。だが、男はまるで効いてない様子で、同じく拳を連続的に叩きつける。それは、すさまじい拳と拳のぶつけ合い、すさまじい衝撃が、瓦礫の街を揺らしていた。

 

 その圧倒的な戦いに、フェイトの従者三人は、戦慄しながら眺めていることしかできなかった。しかし、この戦いに決着の時間が迫っていた。ただの拳の打ち合いでは、フェイトに勝ち目は無いのだ。そしてそこには、男に首を片手でつかまれたまま、体を持ち上げられ、もはや虫の息のフェイトがそこに居た。

 

 

「ふ、フェイト様!?」

 

「所詮欠陥人形、この程度か」

 

 

 もはや完封。血のような液体を、噴水のごとく流しながら、フェイトは力なく垂れ下がっていた。男もこれほど弱いとは思っていなかったようで、完全にあきれており、このままトドメを刺そうと考えていた。そのフェイトの姿を見た従者たちは、流石にまずいと思い加勢しようとする。

 

 

「フェイト様を放せ!!」

 

「やめるんだ、戦ってはいけない」

 

「だ、だけどそれでは、フェイト様が!」

 

 

 フェイトはそれでも従者たちを、男と戦わせようとしなかった。明らかに勝ち目が無いからだ。こうなった以上、どうしようもないと考えていた。だが、フェイトはこれでも諦めていなかった。まだするべきことが残っているからだ。

 

 

「さあ、消えてもらおうか……。……そうだな、遺言なら聞いてやろう」

 

 

 男はもう勝負は終わったと考え、このままくびり殺すことなど簡単だと思った。だから遺言を残すぐらいの時間を与えようと考えたのだ。だが、フェイトが答えたのは、遺言ではなかった。

 

 

「……………()()()()()……、……()()()()()()()()()()()()()……」

 

「……何を言っている……?」

 

 

 そうつぶやいたフェイトは、男の手から離れるべく行動した。そこでフェイトは魔法で作った石の剣で、首を掴んでいた男の腕にそれを突き刺したのだ。強い意志で石の剣を突きつけたのか、竜闘気を貫通し、男の腕に浅く刺さったのだ。強い痛みは無かったが、男は一瞬の隙をつかれ、首をつかんでいたその手を離してしまったのだ。

 

 

「何だと!?」

 

「まだ、僕はやることがある……!」

 

 

 フェイトは開放された瞬間、男から数メートル距離をとった。そして石柱が男の周囲に数本地面から出現し、その内部に巨大な魔方陣が現れた。次にフェイトが使ったこの魔法は、あの紅き翼のリーダー、ナギを押さえ込んだほどの、石柱を使った拘束魔法だった。完全に不意をつかれた男は、その魔法に一時的だが縛り付けられたのだ。だがそこへ、フェイトは魔法をなだれ込ませる。

 

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト、おお、地の底に眠る死者の神殿よ、我らの下に姿を現せ、”冥府の石柱”!」

 

「またそれか、欠陥品は学習しないようだな」

 

「それだけではないよ」

 

「何……!?」

 

 

 フェイトがそう言うと、そこには男の周囲を埋め尽くす、黒い杭が大量に、規則正しく整列するかのように並んでいた。石柱と共に、その杭が男に集中して襲い掛かる。”万象貫く黒杭の円環”という魔法だった。さらに黒い刀の群集をも、男を串刺しにせんと突きつけられていた。”千刃黒耀剣”とう魔法だ。しかしそれだけではない、さらに男を確実に倒すべく、別の魔法をフェイトが唱えた。

 

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト、契約により、我に従え、奈落の王、地割り来れ、千丈舐め尽くす灼熱の奔流、滾れ!迸れ!赫灼たる亡びの地神!”引き裂く大地”!!」

 

「貴様、それほどの魔法を同時に操るか……!」

 

「あなたを倒すには、もうこれ以外、手は無い……!」

 

 

 超高温に熱された大地の咆哮までもが男を襲う。すべての魔法が数秒のずれも無く、一瞬にしてその男へと叩きこまれたのだ。すさまじい爆発が男を飲み込み、フェイトはそのままさらに数メートル下がり、それを眺めていた。これなら流石に倒しただろうと、フェイトの従者たちも安堵をしていた。

 

 

「や、やったか!?」

 

「暦、それはフラグじゃ……」

 

 

 そのフラグどおり、男はいまだ健在だった。無傷ではなかったようだが、かすり傷程度しかダメージが通ってなかったのだ。フェイトはこれでも駄目かと考え、次にどうするかを模索していた。男は額から流れる血を、指でなぞり、それを眺めていた。

 

 

「ほう、私の竜闘気(ドラゴニックオーラ)を貫通させたか。欠陥人形としては、よくやったほうだな……」

 

「本当にバグだね……。あのジャック・ラカンですら、その程度では、とどまらないほどの攻撃だったはずだけど……」

 

「そのラカンというものが、どの程度かは知らないが、私の竜闘気(ドラゴニックオーラ)ならばこの程度、痛くなど無い」

 

 

 あの連続した魔法ですら、かすり傷でとどめてしまう男。強すぎる、勝ち目は無い。従者たちは完全に怯えきっており、身を寄せ合っていた。フェイトはもう逃げるしかないと考え、その算段を立て始めた。だが、男は逃げる気であろうフェイトに、トドメをさすべく最強の技を繰り出す。

 

 

「逃がさんぞ、欠陥人形。貴様はこの大地で散っていくのだ」

 

 

 男はそれを言い終えると、背中に下げてあった剣を引き抜いた。それは神々が作り出したとされる、最強の剣。竜の騎士の力に耐えるべく、いかなる剣よりも、硬く作られた無類の剣。オリハルコンと言う素材でできており、その強度はどの鉱物をも超えるものだ。そうだ、これこそが、竜の騎士専用の武器、真魔剛竜剣である。

 

 その剣を、右腕と共に天に掲げ、男はギガデインの呪文を唱えた。そしてそこに、極大の雷が落ち、剣と雷が融合した。あの竜の騎士の必殺技だ。

 

 

「貴様は私に、傷を負わせた。それに敬意を払い、最高の一撃で、葬ってやるとしよう」

 

「それはありがたいが、お断りするよ」

 

「ふっ、もう遅い! さあ受けるがいい! ”ギガブレイク”!!」

 

 

 男は天高く飛び上がり、その雷の剣をフェイトに叩き落した。フェイトはその技を耐えるべく、全ての障壁を使い防御した。命中と共に、すさまじい轟音と、雷の力が解放されていた。その攻撃で、フェイトは肩から胸にかけて切り裂かれ、数十メートルも吹き飛ばされたのだ。

 

 

「ぐっ……」

 

「耐えただと……!? 千の雷の10倍とも言う、ギガデインを這わせたこのギガブレイクを……」

 

「……僕にはまだ、やることがある……。ここで倒れるわけには……いかない……」

 

「ふ、フェイト様ぁ!?」

 

 

 フェイトはギガブレイクが命中する寸前、後ろへ下がりダメージをなんとか押さえ込んだ。だがしかし、それでも重症は免れないほどであった。もはや瀕死、ギガブレイクの一撃を何とか耐えたフェイトだが、完全に死にかけていた。

 

 当然である。あの防御に特化した獣王クロコダインでなければ、耐えられないほどの攻撃力なのだから。流石にこの光景を目の当たりにした従者たちは、フェイトに駆け寄り声をかけていた。だが、さらにもう一度、ギガブレイクを放つため、男は剣を天へと掲げた。

 

 

「だが、次で最後だ。潔く、散るがいい」

 

「フェイト様! しっかり……」

 

「……殺される……」

 

「ど、どうしましょう……」

 

 

 天に掲げた剣に、雷が落ち、男はフェイトにトドメを刺すべく近づく。フェイトの従者も、フェイトから離れず、それを耐えるように目を瞑った。だが、フェイトは余裕の笑みを、この窮地の中でこぼしていた。

 

 

「いや、三人とも、それでいいよ。僕に捕まったままが、一番ベストだ」

 

「フェイト様……何を!?」

 

「トドメだ! ”ギガブレイク”!!」

 

 

 男のギガブレイクが決まる瞬間、フェイトは胸元から一枚の紙を取り出した。それは転移魔法符だった。しかもただの転移魔法符ではない。中央に”皇帝印”とかかれた、皇帝特性の符だったのだ。

 

 それを発動した瞬間、魔方陣とともに、フェイトと従者たちは、その場から消えていった。フェイトたちが消えた瞬間に、ギガブレイクが地面に衝突し、大爆発を起こし、その場所にクレーターを作っていた。

 

 

「逃げたか……。欠陥品の癖に、なかなか頭が回るようだな……。……まあいい、次に見つけた時にでも、トドメは取っておこう」

 

 

 そう男は言い残すと、誰もいなくなったその場所から、自分の陣地へと帰るべく上空へと飛びあがり、突風のように移動して行った。そして、この場所には男が残したクレーターと、瓦礫となった街以外は、何も残ってはいなかった。

 

 

…… …… ……

 

 

 アルカディア帝国、帝都アルカドゥス。アルカディア城内の皇帝が君臨する玉座の間。そこに、突如魔方陣が現れ、四人の人影が姿を見せた。フェイトと三人の従者だ。しかし、フェイトはボロボロで、三人がそれを心配し、声をかけていた。

 

 

「フェイト様~! ……ここは!?」

 

「どうなってる……?」

 

「こ、皇帝陛下の玉座の間!?」

 

 

 三人は先ほどの破壊された街から、城内へと転移したことに気がついたようだ。あの転移魔法符は、皇帝が渡したものであった。孤児などを引き取る際、面倒だからショートカットを用意しておいたのだ。フェイトはその半分を、珈琲を飲みに行くために使うこともあるのだが。一応一回ぽっきりの使い捨ての転移魔法符だが、来るたびに一つだけ渡されるので、問題は無いらしい。

 

 だから玉座の間ならば、皇帝がいるだろう、何とかしてくれるはずだと。フェイトはそう考えて、この転移魔法符を使用したのだ。だがそこには、皇帝の姿は無かった。すると、もう一人、フェイトを心配し近寄る人物がいた。

 

 

「ふぇ、フェイトさん! ……そ、その怪我は……!?」

 

「あ、姉さん! 先ほどの戦いでフェイト様が……!」

 

 

 栞の姉である。毎度のこと珈琲を飲みに来るフェイトだが、なにやら今回は事情が違うらしい。謎の液体を体から流し、動きが鈍いフェイトに栞の姉が駆け寄った。

 

 

「君の珈琲を……飲みに来た……」

 

「そ、そんなことをしている場合ではありません……! 皇帝陛下は先ほど出て行かれてしまいましたし、どうしたら……」

 

「と、とりあえず私のアーティファクトで、フェイト様の怪我の時間を止めます!」

 

 

 フェイトは栞の姉を見て、珈琲を飲みに来たなどという、のんきなことを言っていた。暦はアーティファクトを呼び出し、フェイトの体の部分のみ、時間を止めた。暦のアーティファクトは時間を操る”時の回廊”と呼ばれる砂時計だ。

 

 そして栞の姉は、皇帝が出て行ってしまって、今はここにはいないことに焦っていた。皇帝さえいれば、半蘇生魔法で治療できるからだ。何かできないか、ぐるぐると頭を回して考える栞の姉。何か皇帝に言われていたようなと、それを思い出そうとしていた。

 

 

「な、何か……何か……、……あ、思い出しました! 少し待っててください!」

 

「大丈夫、君の珈琲が来るのを待っているよ」

 

 

 いや珈琲から離れろよ。三人の従者もこの発言に、少し引いた。死にかけているというのに、どういう執念だ。栞の姉は、何かを思い出したようで、近くの棚をあさりだした。あるものを見つけようと、中を掻き分けて探していた。そして、そのあるものが見つかったらしく、手に握りしめてフェイトに急いで駆け寄る。

 

 

「珈琲は後で淹れますから、まずはこれを飲んでください!」

 

「これは……ありがたい」

 

 

 それは一つの小瓶だった。ラベルにやはり”皇帝印”が描かれており、やはりシュールな小瓶だった。それをフェイトが一気に飲み干したところを見て、暦がアーティファクトの効果を解除する。すると一瞬にして傷が癒えたのだ。

 

 皇帝は何かあった時のために、回復魔法薬を玉座の間の棚の中に、しまっておいたということだ。まあ、かすり傷でも負った時に使えば? と気軽に皇帝は栞の姉に言っておいたのだが。そして従者たちはそれを見て安心し、安堵の涙を流す。栞の姉も、安心したようで、いつもの笑顔に戻っていた。

 

 

「よ、よかったです! フェイト様が元気になって!!」

 

「……うん」

 

「本当によかったですわ……」

 

「……どうしてそんな怪我をしたかはわかりませんが、そんな無茶は、あまりしないでくださいね……」

 

「……そうだね、君の珈琲が飲めなくなるのはつらい」

 

 

 いやだから、そういうことではない。このフェイト、脳漿が珈琲でできているのだろうか。従者たちも栞の姉も、あきれてはいたが、全員笑顔であった。そんなハーレム状態のフェイトが、そんなボケをかましていたその時、突如玉座の間の扉が勢いよく開いたのだ。

 

 

「ハッハッハッハッ! ボコボコに負けたなフェイトよぉ~!!」

 

「皇帝陛下……!?」

 

「ライトニング皇帝……」

 

 

 高笑いと共に突如として現れ、負けたフェイトをなじるこの皇帝。まるで心配などしていない風で、いつものような軽口を叩いていたのだ。しかし、なぜフェイトはこの帝国にいた皇帝が、自分の敗北を知ったか疑問に感じた。当然である。

 

 

「見ていたのかい?」

 

「ここどこだと思ってんだよ? 海の上だぜ? ()()()()()()()()()!」

 

「ではなぜ、僕が負けたことがわかった?」

 

「強い力の衝突を感じてな。一つはおめぇ、もう一つはなんかスゲーやつ。その衝突で、おめぇの力が消えたから、負けたと思ったわけよ!」

 

 

 この皇帝、遠くの力を察知して、大体の戦闘経緯を察していた。本気でこの皇帝、相変わらず意味がわからないほどにバグった男だった。フェイトはその答えに納得したらしい。いや納得してるなよ。そこに栞の姉が、いつもの珈琲を持ってきた。フェイトは従者たちとソファーへと移り、それを飲みながら皇帝と雑談を始める。

 

 

「いやあれ強いねぇー、()()()()()()あれ」

 

「痛いで済ませるあたりで、あなたはバグを超えているよ」

 

 

 ギガブレイクを痛いという表現で終わらせるあたり、とんでもない男だろう。あのジャック・ラカンですら、あれを気合防御で受けて、何とか無事だろうと思えるほどの威力なのだから。だがそれほどまでに、竜の騎士というのは、世界のバグの寄せ集めのような存在なのだ。しかし、あれが竜の騎士の本気ではない。さらに上があるのだから恐ろしいものだ。

 

 

「まあ、今日は泊まっていけや。ボッコボコにされたみてぇだし、部屋は有り余ってるしよ」

 

「そうさせてもらうよ。……君たちもそれでいいかい?」

 

「は、はい! 私たちはフェイト様についていくだけです!!」

 

 

 暦が代表してそれでよいと応えた。従者たちはフェイトにとても献身的なのだ。また、帝国の城にフェイトが泊まることにしたのは理由がある。フェイトはあの男が、まだ徘徊しているかもしれないと考え、下手に動きたくないというのもあった。皇帝もそのあたりを考慮したようで、城に泊まって行けと申し出たのだ。

 

 

「あれほどの力があるたぁー、覇王のヤツも、あれとやりあったら苦戦するだろうな」

 

「覇王……例の陰陽師のことかい?」

 

 

 赤蔵覇王。アルカディア帝国と同盟を結び、たまに魔法世界で転生者狩りを行う少年だ。実は魔法世界ではかなりの有名人である。なぜなら暴れまわる、凶悪な能力を持った荒くれものたちを、なぎ払っているからだ。そして、その五大精霊の一体であり、全ての炎の源である、S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)を完全に使役し、その炎を支配しているのだから当然である。

 

 その炎上する炎の中で、紅き巨人の手のひらに乗り、余裕の笑みを浮かべる長い黒髪の少年の姿。それこそが魔法世界の誰もが浮かべる、覇王の姿なのだ。何気に人気者となっていた覇王だが、本人はあまり気にしていないらしい。フェイトもその名は聞いたことがあった。皇帝と盟友となっていることも知っていた。だが、会った事は無かった。

 

 

「あぁ、あのバグ陰陽師さ。どうしようもねぇ強さを持っているが、あれも一度負けたクチさ」

 

「この世界で有名な、”星を統べるもの”と呼ばれる彼も、敗北を許していたなんてね。聞きたくなかった情報だよ」

 

 

 いつの間にやら覇王につけられた二つ名、”星を統べるもの”。本人が聞いたら”まだ統べてないよ、G.S(グレート・スピリッツ)どこだろうね”といいそうな厨二ネーミングであった。しかし、そこまで呼ばれたあの覇王も、敗北していたことに強い衝撃を受けるフェイト。そんな情報しりとーなかったと、無表情ながらに戦慄していたのだ。覇王も500年前、転生者との戦いで命を落としている。それを皇帝が覇王のたった一度の敗北としているのだ。

 

 

「そうだ皇帝、()()のことをそろそろ教えてくれないかな……」

 

「やっぱ気になっちゃう?……しょうがねぇなぁー、教えてやるよ。あんま気分のいい情報じゃねぇから、知らないほうがいいんだがなぁ~」

 

 

 アレとは転生者のことだ。あれほどまでに強く、特異な能力を持つものが、これほど多く発生するのはおかしい。フェイトはそう考えていた。さらにそれを皇帝が知っていることを察していた。だから聞いたのだ。皇帝も、フェイトに教えるならよいと考えた。だが、後ろのフェイトの従者たちには、あまりにも残酷な情報だ。だから、フェイトの従者たちには、あまり教えたくなかったのだ。

 

 

「だけどよぉー、おめぇに教えるのはいいが、後ろの娘たちには教えられねぇ」

 

「なぜだ?彼女たちにも深く関わることなのかい?」

 

「関わっているかもしれねぇからな……。覚悟が無ければ、聞かないほうがいいぜ」

 

 

 皇帝は本気で渋っていた。本当につらいことだと確信していたからだ。この情報は、最初に皇帝が助け、初めてフェイトの従者となっている栞は知っていた。その姉もまたしかりだった。そのため、栞もその姉も、確かにそうかもしれないと考えていた。だが、その他の従者二人は、聞きたいと申し出た。

 

 

「おしえてください! フェイト様が知る真実を、私たちも知りたいです!」

 

「お願いします」

 

 

 皇帝は、指を顎に当てて、ふむと考える。さて、本当に教えてよいものか。そこで、チラリとフェイトのほうへ視線を送る皇帝。フェイトもそれに気がつき、飲んでいた珈琲を止めて、口を開いた。

 

 

「僕からもお願いするよ。どの道、僕が教えてしまいそうだしね」

 

「あぁ、じゃあしょうがねぇか……。主さんの許可も出たし、教えてやるよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ありがとう」

 

 

 暦と環はその言葉に感謝を述べ、頭を深々と下げていた。その光景を見ていた栞は、複雑な気持ちを感じ、少しつらそうな表情をしていた。皇帝もいつもの笑顔ではなく、とても渋い顔をしていた。

 

 それほどまでに、つらい情報なのだろうか。フェイトも暦も環も、そう考えていた。そして厳しい顔つきで皇帝は、ソレについて説明した。それが恐ろしい存在であり、どうしようもない存在だということを教えたのだ。

 

 今日戦った、あの竜の騎士もソレだということを含めて。本当にくだらない、本当にあほらしい、その存在の行動原理や、思考もすべて教えたのだ。

 

 

「そ、そんな理由で破壊しまわっているの!?」

 

「ひどい……」

 

 

 暦と環は怒りと悲しみに包まれていた。栞も、初めて聞くわけではないが、やはり暗い気持ちになり、表情にそれを表していた。その姉も、いつもの笑顔ではなく、影が差した悲しい表情だった。

 

 そして、フェイト従者の一人である暦も、転生者同士の戦闘によって、住んでいた街を滅ぼされていたのだ。最近は紛争以上に、転生者同士の戦いのほうが深刻化しており、それが浮き彫りになってきていた。

 

 もはや世界を救うとか、そんなレベルではなくなってきていることに、フェイトは無表情ながら内心なぜか許せないと感じていた。

 

 

 転生者はなぜ、何も無い山や平原、荒野で戦わないのか。実はそうでもない、転生者同士の戦いは、ありとあらゆるところで起きているのだ。

 

 しかし、特に人が集まる街では、当然のように転生者も集まる。つまり、転生者同士、顔を合わせやすい状況となってしまうのだ。だから、衝突も起こりやすいのだ。

 

 気が利く転生者は、何も無い場所まで移動するぐらいはするのだが、血の気の多い転生者は、それを良しとせず攻撃を開始してしまうものも多い。そのせいで、戦闘が始まり、街が破壊されるということなのだ。

 

 

「僕も人形だが、彼らはさらに”哀れな人形”というわけか……」

 

「ま、あれこそまさに”神の祝福を受けた強者”ってやつよ」

 

「許せない!! どうしてそんな!!」

 

 

 転生者たちは、基本原作に縛られる存在だ。そのために自らの行動を制限するものもいる。また、それ以外に暴れる転生者も、転生神の特典があればこそだ。完全に転生神に弄ばれ、掌で踊らされていることに気がつかないのだ。だからフェイトは彼らを”哀れな人形”と称したのだ。フェイトの従者たちも怒りに満ちていた。特に暦はくだらない理由で、住む場所を奪われたなら当然である。

 

 

「暦、落ち着いて」

 

「落ち着いてなんていられません!! だって!!」

 

「……落ち着いて……」

 

 

 フェイトは興奮する暦の頭を優しくなでた。ギャグのように千切れた腕ではなく、普通になでた。その行動に暦は驚き、顔を真っ赤にしてあわあわしながらも、落ち着きを取り戻していった。

 

 

「これがプレイボーイってやつか? 妬けるねぇ、なあ、そう思うよな?」

 

「妬けますねぇ~」

 

 

 皇帝が場を和ませるためか、突然そんなことを言ってきた。それにつられて栞の姉も、嫉妬する振りをして遊んでいた。フェイトはなぜか慌てた気分であったが、なぜ慌てているのかまではわからなかった。だが、やはり表情や行動にはださず、静かに珈琲を飲みあさるのがフェイト式というやつだ。それで場が和んだことを感じた皇帝は、また真剣な表情へと変えていた。

 

 

「ほらみろ、知りたくねぇ情報だったろ? ……だから教えてくれと言われるまで、教えなかったんだがよ」

 

「……確かに知りたくない情報だった。まさか、そのようなものたちが世界を破壊しているなんて」

 

 

 転生者たちはいまだに増え続けているようだ。どの程度時間がたてば、転生者が出なくなるのか。それも未知数だった。転生者の行動は突発的で、出る杭を打つ意外に方法がないのだ。皇帝も、それにとても苦渋を味わっているのだ。

 

 

「まぁ、あーいうの見つけたら、問答無用で石化させちゃっていいから、その石像、うちが引き取って何とかするからよ、頼んだわ」

 

「今日出くわした男ほどでなければ、そうさせてもらうよ」

 

 

 まあ、転生者は自ら鍛えるものが少ない。鍛えなければ初期レベルの存在でしかないのに、能力をもらっただけで慢心しきっているのだ。だから竜の騎士の男ほどの実力者は、ほんの一握りなのだ。皇帝はそのあたりを踏まえて、あの男は化け物だが、それ以外はたいしたこと無いと話した。

 

 

「あぁ、ありゃ例外中の例外だ。あーゆーつえーの、そんないないから大丈夫さ」

 

「そういうものなのか、それなら問題なさそうだ」

 

 

 フェイトは新たに転生者の石化を皇帝と約束した。現在、皇帝の下で働く部下は熱海龍一郎のみであった。それ以外は旧世界で仕事をしていて、動けないからだ。皇帝は転生者を止めてもらうため、覇王のようなものに、そういう契約をいくつも結んでいるのだ。また、あの皇帝印の転移魔法符は、そういうものたちにも配られており、魔法世界ならばどの場所でも、この皇帝の玉座へと瞬間移動できるのだ。無論、覇王も持っていたりする。戦いは数だよ兄貴!

 

 

「まぁそういうこった、ヤな世の中だぜ」

 

「だけど、それを何とかしようとしているのが、あなたでは?」

 

「そうだけどなぁ、ヤな世の中なのは同じさ」

 

 

 皇帝ですら、このように述べるほどのものたちだ。さぞアレな存在なんだろうと、フェイトはすでに想像していた。とりあえず、フェイトは珈琲を飲みつつ、この城で一晩を過ごすのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

転生者名:???

種族:竜の騎士

性別:男性

前世:30代会社員

原作知識:なし

能力:竜闘気(ドラゴニックオーラ)

特典:ダイの大冒険のバランの能力、オマケで真魔剛竜剣

   保有魔力極大

 

 

 




踏み台転生者が多いわけではありません
踏み台転生者が目立つだけで、普通に世界に謙譲している転生者もいるのです

魔法世界人は、O.S.(オーバーソウル)がある程度見える設定
精霊種とか、なんかいろいろいるし、魔法でできてるし

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