アーチャーの凶弾はネギの肩を貫いた。その場所からはおびただしい赤き血が噴出し、ネギは前のめりに倒れこんだ。もはや一瞬の出来事で、その誰もが目を疑い、または驚くだけで叫ぶことすらできなかった。
ネギはしまったと思った。隙を突かれる形だったが故に、障壁すらはれなかった。その暇すらなかった。そう思った時には、すでに、アーチャーの矢が、肩に深々と突き刺さっていたのだ。
「ネッ……、ネギ!」
「ネギ先生!」
「ぅ……」
アスナや刹那は、その数秒もしないうちに我へと返り、ネギの名を叫んだ。だが、ネギは返事すらできないほどの痛みで、完全に動けないでいた。
いや、今のネギには杖がある。治癒の魔法が使えるのだ。それを考え、行動しようとした時、すでにそれを実行しようと動いていたものがいた。
「ッ! クレイジー・ダイヤモンドッ!!!」
「!」
なんと、誰もが一瞬動けなかったその場で、いち早く動くものがいた。その男子はその光景を見た直後、すぐさま走り出しネギの下へと辿り着いた。
それは状助だ。状助はこうなることをすでに予想していた。だからこそ、彼はここについてきた。このために、こうするために。
状助はネギに刺さった矢を抜き取り、その自分のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドの腕を伸ばし、能力を開放した。すると、ネギの肩の傷はみるみるうちに消え去り、完全になくなったのだ。そう、服に開いた穴までもだ。
「ふむ、やはりアレの
「予想通りか……」
ステンドグラスの装飾を背景に立ち尽くす謎の集団。すさまじい威圧感だ。黒、白、青、多様な色のローブなどで正体を隠したものたちが、アーチャーの左右で待機していたのだ。
そこでアーチャーとその一味は、それをまじまじと眺めていた。淡々と、冷静に、状助の能力を分析していた。また、その横には、ウェールズのゲートにいた白いローブの人物が立っており、アーチャーの意見に同意する様子をみせた。
それ以外にも、アーチャーは冷静な目で、目の前の敵を分析していた。そして、最も強敵となりえるであろう覇王がいないことを見て、聞いて、知って、心底ほくそ笑んだ。
覇王はアーチャーが見た中で、最も強い転生者だ。アレと戦うとなれば、こちらも相当消耗するだろう。いや、かなりの痛手となるはずだ。そう考えていたアーチャーは、覇王がいないということを、内心喜んでいた。
ただ、意外なことにエヴァンジェリンがこの場にいたのは計算外だった。あのエヴァンジェリンが、魔法世界へとついて来るとはアーチャーも思っていなかったのだ。
それでも、それをさほど気にする様子はない。こちらは強力な仲間を用意した。覇王を想定した、最強に等しい仲間たちを。故に、それをエヴァンジェリンに当てれば問題ないと考えた。そうすれば問題なくうまくいく、アーチャーはそう考えていた。
「オイオイオイ……。ガキに不意打ちたァよぉ~……。ちぃーッとばかし大人げねぇんじゃあねーですかねぇー……。あぁ?!」
「状助!!」
状助は、その集団へと睨みつけた。相手がネギとは言え所詮は子供。そんな子供相手に本気で不意打ちなど、恥ずかしくないのかと、状助は唸るような声で言い放った。アスナはそんな状助へと声をかけ、そこへ向かおうと足を動かした。
「おいアスナ! 受け取れよ!!」
「え!?」
「何!?」
「行くぜッ! ドラァッ!!!」
しかし、状助はそんなアスナへと、受け取れと叫んだ。一体何がだろうか、アスナはそれに気を取られ足を止めると、状助はなんとクレイジー・ダイヤモンドの腕を使い、ネギを掴んでそちらの方へと投げつけたのだ。
「うわっ!」
「ちょっ! ハッ!!」
ネギも突然のことで理解できなかったが、アスナはなんとか投げられたネギをキャッチして見せた。状助はそれを見て満足すると、再びアーチャーへと鋭い視線を送りつけた。
「かかってくるんならよぉー……、受けて立つぜコラァ!!!」
「ふむ……、さてどうするかな」
もはや怒りの一色。状助は本気でキレていた。そんな怒れる状助を、静かに冷徹に眺め、次の行動を考えるアーチャー。確かにあのスタンドは驚異的だ。破壊力などではない、その修復能力がだ。
「ヤツの相手は俺がしよう……」
「行ってくれるか?」
「問題ない……」
すると、アーチャーの横から一歩前に出るものが現れた。白いローブの謎の人物。ゲートを渡ってきたアーチャーの仲間の一人。アーチャーはこの人物との合流を待っていた。
この白いローブの人物は、静かに口を開いた。あのクレイジー・ダイヤモンドのスタンド使いの相手ならば、自分が適任だろうと考えたようで、自ら名乗り出たのだ。その声は男のもので、渋く重みのあるものであった。
アーチャーもこの人物ならば問題ないと考え、それを頼んだ。謎のローブも自ら名乗り出たので、問題ないと語り、頷いて見せた。
「なら手はずどおりに……!」
「散!」
そして、アーチャーは仲間たちへと指示を出し、号令を放つ。すると集団は一瞬にして散り散りとなり、課せられた使命を全うすべく動き出した。
「来るぞオオォォォッ!!!」
「やっぱこうなったか……!」
状助は大声で、敵が攻撃を開始したことを叫んだ。アルスもこうなって欲しくなかったと思いつつも、やはりと言った顔で臨戦態勢となっていた。
「なっ!?」
「何!?」
「チィ!!」
が、一瞬だったが遅かった。敵の攻撃はすばやかった。非常に迅速かつ的確だった。黒いローブの敵の謎の魔法により、楓は一瞬にして黒い球体の塊へと封じられた。小太郎も、大きな帽子で顔を伏せた白い敵の剣術により、一瞬にして眠らされた。さらに、アルスも青いローブの人物に押され、この場から離されてしまった。
「えっ!? 楓!? コタロ!? くっ!」
アスナは一瞬の出来事に驚き、あの二人が簡単にやられてしまったことを理解できずにいた。しかし、そんなアスナへと黒いローブの男が襲い掛かった。アスナはとっさに攻撃を防ぎ、そのまま一対一へと追い込まれてしまったのだ。
「思ったよりすばやいな……!」
また、エヴァンジェリンも敵の動きが予想以上のものだったことに戦慄し、どう動こうか悩んでいた。エヴァンジェリンが戦えば、あの黒いローブの男と白い帽子の女の二人ならば倒せるだろう。
だが、アルスをこの場から引き剥がした、青いローブの敵。あれはかなり厄介な相手だ。エヴァンジェリンはそれを瞬時に理解した。あの状助へと攻撃を開始した白いローブの男。あれも相当な相手だ。どちらにせよ、危険な相手に間違いはない。
不安要素はそれだけではない。それ以外にも敵が潜んでいる可能性を、エヴァンジェリンは考えていた。いや、確実にそれはいる。そして、それはすさまじい力を持った相手だと、エヴァンジェリンは確信していた。
故に、エヴァンジェリンは行動しようとせず、とりあえず背後の戦えない少女たちを魔法障壁で守護しつつ、戦局を見極めることにしたのだ。
さらにエヴァンジェリンは、すでにあるひとつの事を試していた。”デバイス”と呼ばれる杖での結界構築だ。それを行えば周囲は結界に包まれ、無関係な一般人をはじくことができ、自分も含めて本気で暴れられると考えたのだ。
だと言うのに、まるで変化がない。試した、は過去形だ。すでに行った後だ。つまり、何らかの方法により、それすらも封じられているということだ。
エヴァンジェリンは敵の巧妙さと準備のよさに苛立ちを覚えつつも、はやりそうかと考えていた。これほどまでの大胆な行動は、明らかに用意がされてなければ無理なことだ。すでに、この場所は外部とも切り離されているのだろう。
エヴァンジェリンもこれを打ち破るには、少し骨が折れると考えた。それをさせてくれるとも思っていなかった。なので、とりあえず、この戦いを見てどう行動するかを考えるしかなかったのだ。
それ以外の木乃香や古菲も、行動せずにまき絵たちを庇うかのように立っていた。古菲は拳法の構えをしたまま待機しており、木乃香もすでに
「テメェら!!! ガキになんてことしやがる!!!」
「あのサーヴァントか……!!」
そんなことなど悩まず、すでに攻撃を仕掛けたものもいた。バーサーカーと刹那だ。バーサーカーはアーチャーがネギを攻撃したことにかなりキレていた。許せなかった。子供が好きで子供を守ると豪語するバーサーカーにとって、先ほどの光景は非常に許せないものだった。そして、ネギを狙ったアーチャーへと標的を絞り、攻撃を仕掛けたのである。
アーチャーも何度か顔を合わせたバーサーカーに、やはり来たかという顔をして見せた。バーサーカーと打ち合い何度も敗走したアーチャーにとって、バーサーカーは驚異的存在である。が、今回は正面からクソ真面目に戦う必要がない。倒すことが勝利条件ではないアーチャーは、余裕の態度を崩さない。
そう、このアーチャーの勝利条件は、このゲートポートの要石の破壊だ。原作どおり、完全なる世界の仲間の一人が、すでにそれに取り掛かっている。わからぬようこっそりやっているため、誰もそれに気がつかない。
むしろ、ネギたちは今、アーチャーらの攻撃のせいで、それどころではないのだ。つまり、アーチャーははじめから時間稼ぎのために戦っているだけなのである。
「!」
「フッ!!」
しかし、そこにいたのはバーサーカーだけではない。刹那はアーチャーの横から剣を振り下ろし、すでに攻撃を仕掛けていたのだ。アーチャーはその攻撃に気づき、とっさにかわしてみせた。流石英霊の
「二人がかりか……。これは手厳しい……」
「何故ネギ先生を……!」
「そちらには理解できぬ理由だ」
アーチャーとて、この二人を同時に相手をするのは厳しい。アーチャーとしての能力を貰ったが、未だ完全につかいこなせてはいない。それでもなお、アーチャーは不敵に笑っていた。勝算があるのだろうか、とにかく余裕があった。
また、刹那はアーチャーがネギを狙った理由を叫んで尋ねた。何か大きな意味があるのか、それともただの攻撃か。どちらにせよ、許されない攻撃ではあったが。
それにアーチャーは答える気はなかった。もとより答えても理解できないと思っていたからだ。アーチャーの目的は”原作厳守”、”原作に近づけること”だ。そのために、ネギを一度狙っただけに過ぎない。
いや、実はそれだけではない。あの状助の能力が、本当にクレイジー・ダイヤモンドかを確かめるという理由も存在したのだ。
「それに……」
「なっ!」
「刹那!」
アーチャーはぽつりと言葉をこぼすと、不意に投影した白と黒の夫婦剣、干将・莫耶を刹那へと投げつけた。刹那はそれを剣で斬ろうと考えたが、その瞬間二つの剣は爆発したのだ。
バーサーカーはその爆発を見て、刹那が無事かどうか叫んだ。してやられた。このアーチャーは本来は最終手段でしかないそれを、簡単にやってのける。それこそがアーチャーの強みだ。
「今回は別に、貴様らの相手をする必要はないのでね……!」
「くっ……、補充できる武器、そして武器の爆発……」
「ああ……、なんとも厄介な攻撃だぜ!」
だが、刹那は無事であった。何故なら、事前にバーサーカーからこうなることを聞いていたからだ。故に、剣が爆発する手前で、瞬動を使って後ろへと下がっていたのだ。
そして、刹那はバーサーカーの横へと移動しており、そのアーチャーの攻撃法の恐ろしさを説いていた。バーサーカーもあの攻撃は中々厄介だと戦慄していた。何せ、武器が爆発することを警戒しつつ戦わなければならないからだ。さらに、それが何回できるか、バーサーカー側にはわからないからだ。後数回なのか、無限なのか、知ることができないからだ。
「そうだ。私は
「言うじゃんか!!」
アーチャーは嫌味たらしく笑っていた。不敵かつ、腹立たしい笑みだ。そう、接近戦などにこだわらなければ、勝ちはせずとも負けることもない。アーチャーはそれを理解していた。
バーサーカーはそんなアーチャーに、心底腹立たしく思っていた。が、アーチャーの戦法それ自体を卑怯とは思ってはいなかった。持てるものすべてを使って戦うのは当然だからだ。それでも、それでもバーサーカーはアーチャーを許さない。目の前でネギを撃ち抜いたからだ。
「フン!」
「チィ!!!」
再びアーチャーは白と黒の夫婦剣を投影、バーサーカーと刹那へ放り投げた。すでに突撃していたバーサーカーは、それを警戒するようにバックステップ。さらにアーチャーは夫婦剣を増やし投げる。合計4本の夫婦剣は宙を舞い、互いに惹かれあうように飛び交った。
「バーサーカーとて、そう簡単には近づけまい……!」
「ヤロウ……!」
これでは思うように動けない。バーサーカーと刹那は少し焦りを感じていた。この白と黒の剣が、いつ爆発するかも知れないという圧力。剣を砕くことも可能だが、その瞬間を狙われる可能性もある。警戒すれば警戒するほど、泥沼へ沈んでいくような感覚にバーサーカーも刹那もとらわれてしまっていた。
「バーサーカーさん、宝具の使用は……!?」
「場所が悪すぎるってもんだ……! こんな場所で使えば地面が吹っ飛んでまっさかさまだ!」
「だろうな。地の利を得たぞ、とはこのことだ!」
「ハッ、だったら天地をひっくり返してやっからよォ!!」
刹那は逆転の一手を模索した。そこでバーサーカーの宝具のことを思い出し、それをバーサーカーへ尋ねた。しかし、バーサーカーもそれを考えなかった訳ではない。使えばある程度有利になることだって可能だ。
それでもバーサーカーには宝具の使用を躊躇する理由があった。それはこの地形だ。ゲートポートのゲート部分はまるで円形テーブルのような形になっている。
そんなところで宝具を発動し、地面に叩きつければどうなるだろうか。答えは難しくはない、地面が崩壊し周りを巻き込むという最悪のものだ。バーサーカーはそれを恐れ、宝具が使用できないでいたのである。
アーチャーはそれを知っていたからこそ、余裕の態度だった。皮肉な笑いを浮かべながらが、こちらが有利だと言葉にしていた。だが、バーサーカーとてこのまま終わりはしない。宝具がなくとも、このアーチャーを倒せる力があるのだから。
そのアーチャーと刹那、バーサーカーとの戦いの近くで、別の戦いがあった。状助と白いローブの人物だ。状助はクレイジー・ダイヤモンドの拳を高速で打ち出し、白いローブを殴り飛ばそうとしていた。
「ドラララララララララアアァァァァッ!!!!」
「ふっ!」
打撃、打撃の嵐、打撃の暴風雨。すさまじい拳の豪雨が白いローブへと突き刺さる。しかし、白いローブの相手もまた、それに対応し、回避、あるいは受け流していた。
「何だコイツは……! まるでダメージが通った感触がしねぇ……ッ!」
「……」
だからと言って、クレイジー・ダイヤモンドの本気のラッシュを全てかわせるはずはない。ものの数発ではあるものの、確かにその砲弾のような拳は白いローブの相手に突き刺さっていた。
だが、なんだというのだろうか。まるで状助は手ごたえを感じていなかった。何かおかしい、何か秘密がある。状助はそれに気がつき、その正体を見破ろうと模索していた。また、白いローブの男は沈黙したまま、ひたすらにクレイジー・ダイヤモンドの拳を受け流し、避け続けていたのだ。
「いい加減正体を見せろやコラァッ!!!」
「ほう」
状助はクレイジー・ダイヤモンドでその敵の、白いローブを引きちぎった。敵は素直にその行動に感心した声を出していた。それは余裕から来るものではない。単純に、自分の動きに対応し、それを行ったことに対する賞賛だ。しかし、状助がローブの下に見たものは、想像を絶する恐ろしい特典だった。
「こっ! コイツはぁ……ッ!!? ”シルバースキン”だとォォォッ!!!」
「理解したか?」
「マジかよグレート……!」
その
銀色に輝くテンガロンハット、またはカウボーイハットのような帽子とコートのようなジャケット。いかなるダメージをもシャットアウトする無敵の
また、シルバースキンの立った襟とハットで顔が隠れて見えないが、その鋭い眼光は確実に状助を捕えていた。その鋭さは猛獣を思わせるような、そんな目つきだった。
この武装錬金の特性は、衝撃に対して瞬時に金属硬化、そして再生。それ以外にも、装着すればどのような過酷な状況にも耐え、宇宙空間すら活動可能となる。
さらに、ジャケットの破壊にはそれ相応のパワーが必要であり、破壊したとしても即座に修復するすさまじいものだ。故に、どんな攻撃をも跳ね除ける最強の防御なのだ。
が、逆を言えば攻撃性能はまったくないに等しい。つまり、この武装錬金は防御こそ最強だが、攻撃は己の力のみに頼らざるを得ないのだ。
ただ、この目の前のシルバースキンの男が選んだ
武装錬金の登場人物であるキャプテンブラボーは、攻撃性能のないシルバースキンを使いこなすため、すさまじい戦闘能力を有していた。恐ろしいことに、チョップで海を割り、ジャンプで上空へ飛び上がる。人間離れしたすさまじい肉体の持ち主だった。
その
しかもだ、この世界には”気”と言う力が存在する。生命の力とも称されるこの”気”をうまく使えば、さらなる戦闘力の向上が可能だ。そして、この男の第二の
「だがよぉーッ! 攻略の手はなかぁーねぇぜッ!!」
「試してみろ」
「そうさせてもらうぜッ!!」
それでもなお、状助はクレイジー・ダイヤモンドの拳を休ませない。状助はこのシルバースキンの突破口を知っている。攻略の方法を知っている。
ならば、その手を使って倒すほかない。だから状助は、何度も何度もクレイジー・ダイヤモンドの拳を、目の前の銀の外郭の男にぶち込むのだ。
そんな状助を冷静な目で見るこの男。その目の鋭さは、もはや獲物に狙いを定めた猛禽類のものだ。余裕の態度を崩さずに、状助へとそれをやってみろと挑発する。
「ドララララララララララララララララアアァァァッ!!!」
「ヌオオオララアアァァァァァッッ!!!」
状助はその挑発を受け、さらにクレイジー・ダイヤモンドの拳を加速させる。なんというすさまじいラッシュ。その拳のスピードはまるで疾風だ。その拳のパワーはまるで機関車だ。その拳の衝撃はまるで機関砲だ。
だが、
「何ィィッ!? クレイジー・ダイヤモンドのラッシュをラッシュではじきやがっただとォォッ!!?」
「お前の連打を上回る連打ならば、返せなくはない。それに、空気の流れで大体わかる……」
「なんてグレートな野郎だ……! コイツはヘヴィだぜ……」
しかも、なんとこの
男は息切れもせず、疲れも見せず、再び静かに口を開いた。クレイジー・ダイヤモンドのラッシュが見えないのなら、それ以上のラッシュを浴びせるだけだと。さらにクレイジー・ダイヤモンドの拳が巻き起こす風で、その拳の位置を把握できると言い出したではないか。
状助はこの目の前の男がとんでもない相手だったことを、再度認識させられた。強い、強すぎる。スタンドがあるからとか、ないからとか、攻撃が効くとか、効かないとか、そんなチャチなものではない。
この目の前の男は、
「どうした? 攻撃しないのならこちらから行くぞ!」
「なっ! やべぇッ!!」
だが、はっきり言えることがある。今、この場において最も危機的状況なのは、ネギやアスナや、他の誰でもない、東状助本人だということだ。
一時的に攻撃が中断されたことを見た
「”両断! ブラボチョップ”!!」
「ウオオオッ!!!」
13のブラボー
状助は慄いた。これを喰らえばただではすまない。いや、確実に”死”が待っているだろう。この技を受けたならば、きっと体は真っ二つ。無残な肉塊へと変わるだろう。それだけは、勘弁だ。ゴメンこうむるというものだ。
「スタンドで受けたか……」
「ぐっ……。なんつーパワーだ……。だがよぉ!!!」
ドグシャアッ! そんな音が聞こえただろうか。間一髪状助は、その男の攻撃をクレイジー・ダイヤモンドで受け止めた。それでもクレイジー・ダイヤモンドが踏みしめる地面は砕け散り、その足は床へと数センチもめり込んでいた。状助と男を一直線に描くように、ゲートの床にはヒビが入り、もう少し男が力を込めていれば、間違いなく砕け折れていたであろう。
また、男は状助がスタンドで防いだことを感覚で理解した。スタンドはスタンド使いにしか見えないため、突如として見えない何かに阻まれたのを見て、スタンドの腕か何かでガードしたと思ったのだ。
状助はなんとかそれを防いだことに安堵していたが、ただでは済んでいない。その衝撃は間違いなく状助を蝕み、全身にダメージを与えていた。確実にその攻撃はスタンドで防ぐことができた。しかし、
だけど、だけれども、状助は止まらない。止まってなどいられない。負けられない。負けるわけにはいかない。武装錬金は闘争心を昂ぶらせることで、性能が向上するという。それはスタンドも同じだ。
スタンドも本体の精神の状況に左右される。怒りなどによって、性能が引き上げられることだってあるのだ。ならば、それならば、同じことをすればいい。闘争心を昂ぶらせ、クレイジー・ダイヤモンドの攻撃をさらに、さらに激しく荒々しくすればいい。
「うおおおおおッ!! ドラララララララララララララララアアァァァァッ!!!」
「ぬう!?」
状助は渾身の力と精神力で、クレイジー・ダイヤモンドを操った。先ほどよりも強烈で激烈なラッシュが、
その攻撃には、流石の男もひるんだ。思いのほか、男の考えていた攻撃よりも、その攻撃は強烈だった。何とか体勢を立て直した男は再び反撃へと移ろうとするが、クレイジー・ダイヤモンドの拳は勢いを増すばかりだ。
「ドラアアッ!!!」
「グッ!?」
「どうだ! これで!!」
ドグオォォォンッ! 大砲が直撃したのではないかと錯覚するほどの轟音。ラッシュの最後の、最大までパワーを溜めたクレイジー・ダイヤモンドの拳が、男の顔面へと突き刺さる。これには
すると、シルバースキンは全て弾ぜ、男の周囲に細かな六角形のパーツとして散らばった。そして、ついにシルバースキンの内部があらわになった。状助はそれを待っていたといわんばかりに、歓喜の声をもらした。
そうだ、シルバースキンの攻略法は一つ。破壊したシルバースキンが再生する前に、その内部の使用者を倒すことだ。覆っていたシルバースキンが全て弾けとんだ、今こそがチャンス。状助は再びクレイジー・ダイヤモンドの拳を、男目がけて振りぬいた。
「なっ……」
「”これで”……、どうするつもりだ?」
だが、状助はそこでぴたりと拳を止めてしまった。何があったのだろうか。状助は未だ健在だ。スタンドだって問題なく動かせている。ならどうしたというのか。
答えは簡単だ。さらに戦慄することが発生したからだ。目の前の光景にゾッとしたからだ。それは一体なんだ。
それも簡単な答えだった。目の前の男のシルバースキンは、確実に分解された。砕け散った。弾ぜた。周囲に飛び散っていた。
ああ、それでも、目の前男のシルバースキンは健在だった。故に、男はこういう。攻撃はどうした? 続けないのか? と。挑発する様子でもなく、ただ、静かに、冷徹に、男はその言葉を発していた。
状助は、その光景を見て一瞬だがフリーズしたのだ。衝撃的な事実に、動揺したのだ。だから攻撃の手が止まってしまったのである。何故? どうして? どういうことだ? 状助は一瞬それを考えていたからこそ、手が止まったのだ。そして、即座にそれを理解した。
「だ……ッ”ダブルシルバースキン”ッ!!?」
「そうだ。これこそ最強の防御、”ダブルシルバースキン”!」
「マジかよ……ッ!」
ダブルシルバースキン。
目の前の男は、なんと、なんと、武装錬金の触媒たる”核鉄”を二つも持っていた。いや、”キャプテンブラボーの能力”を特典で貰った時に、オマケとして”二つも核鉄”を貰っていたのだ。弾けたシルバースキンの中から出てきたのは、海賊船長のような形の新たなシルバースキンだったのである。
二つのシルバースキンによって、唯一の弱点を補った状態。この状態では、もはやどのような攻撃も通用しない。状助がたじろいでいる内に、外装のシルバースキンが修復を完了した。
状助も、この状況に絶望しかけていた。マズイ、マズイぞ。やばすぎるぞ。ダブルシルバースキンを打ち破るには、一人では無理だ。一対一では不可能だ。確実にもう一人、助けが必要だ。この男とタイマンをはられた時点で、すでに、ああすでに、状助は
そんな激しい戦いが周囲で繰り広げられている中、目の前が現実かどうかさえ追いつかないものがいた。
「何これ……」
「一体何が……」
まき絵とあやかの二人だ。一般人である彼女たちは、この状況がまったく理解できなかった。ドッキリなのか、はたまた映画の撮影か。どうなっているのかわからなかった。
「さっ、三郎さん……」
「大丈夫、ただのイベントか何かさ」
「……う、うん……」
また、亜子は三郎に寄り添い、恐怖一色の表情をしていた。ネギが貫かれた瞬間を、血を見たからだ。そんな亜子へと、優しくささやく三郎。彼もそれしかできなかったのだ。
しかし、亜子の不安は晴れない。あのネギが貫かれた光景、どこかで覚えがあったからだ。思い出してしまったからだ。夢だったのだろうか。現実だったのだろうか。それは曖昧ではあったが、確かに記憶にあった光景だ。あの時、学園祭の二日目で、横で必死に安心させようと笑う三郎が、謎の光に貫かれた、その光景が。
忘れていた。今まで忘れていた。何で忘れていた? わからない。だけど、あの時の光景は鮮明で、現実味に溢れていて。実際存在した出来事だったのかもしれないと、亜子は目の前の状況を見て考えてしまったのだ。
「まさか……、刃牙が言ってたコトって……」
同じようなものが、そのすぐ横にいた。同じく血に染まった戦いを目撃したことがあった、アキラだ。アキラも学園祭の二日目で、兄貴分の刃牙が、肩を貫かれ血まみれとなっていたのを見ていた。そういうことが存在するということを、知っていた。
だが、そんなことは問題ではなかった。アキラは今、とてつもなく後悔していた。しはじめていた。その刃牙が忠告してくれたことを、ここにきて思い出したからだ。その内容を、その意味を、眼前の戦いで理解してしまったからだ。
刃牙はこう言っていた。”変な場所へは行くな”。そう言っていた。確かにそう言った。その”変な場所”と言うのは
いや、間違いない。そうに違いない。そうアキラは考えた。ならば、刃牙の忠告を無駄にしたことになる。なんてことをしてしまったんだろう。アキラはそう思い、自分の先ほどの行動を悔やみ始めていたのだった。
「マスター! みなさんを……!」
「……そうしたいが、何か嫌な予感がする……」
この現状をどうにかしようと、茶々丸は叫んだ。マスターであるエヴァンジェリンへ、助けを求める声を。しかし、エヴァンジェリンもこの状況は芳しくないと考えていた。それでも動かない理由、それは予感だ。ここを離れて敵を倒すのは構わない。だが、どうにも晴れぬ胸騒ぎが、エヴァンジェリンを引きとめていた。
「嫌な予感……ですか……?」
「そうだ、だから治癒できるものは温存する必要がある……、私含めてな……」
茶々丸には、エヴァンジェリンの抱く不安が理解で来ていない。なので、それを再び尋ねていた。エヴァンジェリンはその通りだと答え、何かあった時の為に、力を温存しなければならないと話した。また、治癒できるものは、特にそうしなければならないと、そう考えていた。
チャチャゼロも依然、術具融合状態でエヴァンジェリンの横で待機させられていた。周囲の戦いを観察して、自分も敵を切り刻みたいなー。そう思いながら、あえて静かに戦いを眺めつつ、防御を行っていた。
「くっ……僕も……!」
「少年は生徒を守れ! それが教師というものだろう!?」
「そうよ! 怪我が治ったからって無理しないで!」
ネギもまた、この状況を何とかしようと考えていた。戦おうと思っていた。この状況をなんとかしなければ、どうにかしなければ。必死に考え足掻こうとしていた。
だが、肩を貫かれ、クレイジー・ダイヤモンドで治癒されたばかりだ。だからエヴァンジェリンはそこで、むしろ自分の生徒を守れと指示した。先生として、非力な生徒を護らなければならないからだ。
さらに、先ほどのことで混乱していたアーニャもようやく落ち着きを取り戻し、戦いに駆り出そうとするネギを止めようとしていた。あれほどの怪我と出血の後なのだから、無理はいけない。やめてほしいと。
「……わかりました……!」
「それでいい」
それにどの道、あの集団をネギが相手をしても、正直言えば勝てるとは考えられない。ネギもそれを理解していた。自分がいかに非力だということを知っていた。悔しいが、とても悔しいが、それが現実だ。
それでも自分ができること、それは後ろの生徒を護ることだ。だからこそ、ここを離れる訳には行かない。ネギはしっかりそれを認識し、魔法障壁を使用した。その顔は決意に溢れたものだった。エヴァンジェリンはそんなネギの表情を見て、不敵な笑みを見せていた。
「近衛木乃香、古菲、貴様らもここで待機だ。いいな?」
「……はいな」
「了解アル」
また、エヴァンジェリンは同じように治癒が可能な木乃香にも、この場で待機、および防衛を支持した。木乃香も古菲も、言われなくともすでにそれを理解し、行動していた。なので、当然のようにエヴァンジェリンの指示に、冷静な声で返事をし、従った。
「アンナ・ココロウァ、貴様もここで待機だ」
「……はい」
「後、貴様は何があろうともここを動くな。いいな?」
「わかりました……」
エヴァンジェリンは、当然近くでネギの心配をするアーニャにも指示を出した。絶対に、何があってもここを動くなと。それはアーニャの身を案じてのことだった。何かの拍子で攻撃が飛んでくるかもしれないし、新たな敵が現れ襲ってくるかもしれないからだ。
アーニャも、今自分ができることなんて何もないとわかっていた。戦うなんて無理だし、下手に動いて足手まといになるのも嫌だった。昔ならきっと飛び出して行ったかもしれないが、今はそこまで愚かじゃない。
それに、アーニャは外見はなんでもない様子だが、内心恐怖を感じていた。アーニャとてこういう場面と言うのは初めてだ。周りで命のやり取りを行っているのを見るのははじめてだ。
それでもアーニャは持ち前の根性で、それを悟られないように取り繕っていた。何もしないのでは駄目だと思い、ネギと同じように魔法障壁で防御を行っていたのだった。
状助やアスナたちが戦っている場所から、多少離れた場所にて、アルスも同じく戦っていた。ゲートポートの、ゲートの端。誰もいないこの場所で、アルスは青いローブの敵と戦っていた。
「ちぃ! テメェら! 何でこんなくだらんことをする!!?」
「さあ?」
「”さあ?” だと!?」
アルスはこの襲撃の意図は何かを聞き出そうと、得意の”雷の投擲”を用いて戦いながら、敵へとそれを尋ねた。
が、あろうことか、目の前の青いローブの敵はどうでもよさそうだった。
故か、簡単に、簡潔に、つまらなそうに、少女のような、されど可憐で凛々しい感じの声で、冷淡に短く答えただけだった。
それにアルスは激怒した。では、こんなことをする必要はないはずだ。なのに襲ってくるなど、狂ってるとしか思えない。アルスはそこに怒りを感じた。投げやりな態度に腹が立った。
「だって、私にはどうでもいいことだもの」
「ふざけるな!」
青いローブの敵はアルスの魔法を楽々と回避し、再び口を開いた。アルスの怒りの表情をまるで本当につまらない、取るに足らないものを見るような目で眺めながら。自分には興味がないから、くだらないから。そう発していた。
アルスはさらに怒りに燃えた。ならば、ならば襲うなどするな、ふざけるなと。その怒りは魔法の射手や雷の投擲となりて、青いローブの敵へと叩き込まれた。すさまじい数の魔法だ。100を超える魔法の射手と、10を超える雷の投擲が、無詠唱でいっきに青いローブの敵に襲い掛かったのだ。
「なかなか鍛えているようだけど……」
「なっ!?」
だが、青いローブの敵は、それをいとも容易く避けた。いや、避けたのではない。一瞬にしてアルスの懐へと入り込み、強烈な蹴りをくりだしていたのだ。
アルスは驚いた。目にも留まらぬ、いや、まったく見えなかったから。青いローブの敵の今の動きが、まったく感知できなかったからだ。その青いローブの敵の、鋭く尖った切っ先のような、槍の穂先にも見えるその足のつま先が、アルスに突き刺さっていた。
否、ギリギリだったが、アルスはそれを防御していた。小さく、そして強固な対物理魔法障壁で、なんとか防ぎきったのだ。
「ガアッ!?!」
「その程度じゃ、私には勝てないわ」
「アグウゥッ……、なんという膂力……だ……」
それでもその衝撃だけは殺せない。串刺しにならなかっただけましではあったが、アルスはそのブルドーザーの馬力のような力により、吹き飛ばされたのだ。
さらに、壁に衝突したアルスは、背中に強い衝撃を受け、肺の空気を全て吐き出し苦痛の声をあげていた。衝突した壁にはクレーターができており、そこを中心に無数の亀裂が入ってるのを見れば、その衝撃の強さをうかがい知ることができるであろう。
そして、口から真っ赤な液体を吐き出し、その真下の地面へと前のめりに倒れこんだ。だと言うのに、痛みを耐えながら青いローブの敵を睨みつけた。
青いローブの敵は、片足を持ち上げた構えを見せながら、可憐な声で残酷に述べる。それじゃ無理だ、勝ち目はないと。弱い、弱すぎる。こんな相手ではつまらない。そう思っていそうな雰囲気を出しながら、アルスをかったるそうに眺めていた。
青いローブの敵は、見たところ長身に見えた。しかし、それは違っていた。その長く尖った足の装甲が、そう見せていただけだった。あの敵は小柄だ。声や口調を考えれば少女のようだ。そんな相手だと言うのに、なんという恐るべきパワーだろうか。尋常ではないその力は、明らかに少女のそれではなかった。
アルスは青いローブの敵の、凶悪な
「テメェ、一体どんな特典を……?!」
「教えると思う?」
「……だよな……」
アルスは少し離れた場所で、見下した視線を向ける青いローブの敵へと一つ尋ねた。それは”特典”は何を選んだということか、だ。
これほどの強力な力、ただ適当に選んだ訳ではないはずだ。だとすれば、すさまじい、おぞましい特典を選んだに違いないと、アルスは考えたのだ。
が、当たり前のことだが、特典を他人に教えるはずはない。いや、これが”
しかし、この青いローブの敵は、かなり警戒心の強い人間だった。そうやすやすと、たとえ相手が死に掛けた犬だろうが、自分の特典を教えるほど愚かではなかったのだ。
アルスもそこにはうすうす気がついていた。目の前の相手が”踏み台”ではないことを、すでに理解していた。あわよくば、勝ち誇って特典を教えてくれればいい、そう考えていたアルスは、やはりそう易々とは教えてはくれないか、と苦笑をもらしていた。
「まっ、そのまま寝てるのなら、私は何もしないであげてもいいけど?」
「……ソイツはどうも……」
そんな時、青いローブの敵は、依然アルスを見下したまま、一つ提案を出した。それはなんと、アルスがここで倒れているのなら、自分も動かないでいてやる、ということだった。
青いローブの敵は、この作戦に乗り気ではなかった。どうでもよいと最初に言った言葉は嘘ではない。なので、時間さえ過ぎればそれでよいと思っていた。時間が来るのを待っていればよいと考えていた。だから、アルスがそこで倒れたままでいれば、それを監視しているという名目でサボれるのではないかと考えたのだ。
アルスはその提案に、やはり苦笑いで答えた。いやはや、なんと優しい提案だ。これ以上痛い目を見なくてすむんなら、確かにすばらしい提案だ。優しすぎて涙が出てくる。敵ながら慈悲深いもんだと、アルスは皮肉を交えて思っていた。
「まぁ……、だがな……」
「……まだ立つの? 寝てればいいのに……」
そこで、アルスは再び手足に力を入れ、ゆっくりと、ゆっくりと立ち上がった。いかに相手が強大であろうとも、アルスは戦う意思を失ってはいなかった。
壁に衝突した痛みに耐えながら、苦痛を我慢しながらも、アルスは立ち上がって見せた。唇に垂れた血を拭い去り、射殺すほどに、その強い闘志の宿った目で、青いローブの敵を睨みつけながら。
それをやはり面白くないものを見るような目で眺める青色のローブの敵。今の一撃でかなりボロボロのはずなのに、まだ動けるのかと、むしろある意味関心していた。このまま寝ていれば、もう痛い目を見ずに済んだのに。提案を呑んでいれば、今以上に苦しまずに済んだのに。そう思いながら、ため息を吐きつつ見下していた。
「当たり前だ、俺だって負けてられねえのさ!」
「そう。なら簡単に壊れないでくれる?」
アルスにだって意地ぐらいある。この程度で負けていられないという、強い気持ちが彼を立ち上がらせていた。ここへは覚悟してやってきた。ネギたちを無事に帰らせると誓った。だから立ち上がる、立ち上がるのだ。
そうやって強がるアルスに、青いローブの敵はほんの少し興味が沸いたようだ。その興味とは、まるで新しいおもちゃを目にしたような子供のような、そんな残酷なものだった。
何もせず暇を潰そうと思ったが、それは無理なら諦めよう。だったら、目の前の相手が壊れる寸前まで弄ぼう。青いローブの敵はそう考え、ニヤリと笑い、今度は獲物を見定める目で、アルスを見ていた。
「簡単に壊れたら面白くないから……!」
「それはこっちの台詞だぜ!」
だから、何度も立ち上がって見せて。あっけなく砕けないで。面白おかしくいじめてあげるから、すぐには折れないで。青いローブの敵は、残忍な笑みをローブの下から覗かせながら、そう言葉にした。
だが、アルスはむしろ、それは自分が言いたい台詞だと吐き捨てた。哀しいぐらい不利なはずなのに。明らかに危機なのに。それでも強がりを言えるぐらい、アルスの精神状態は余裕で満ち溢れていたのだ。
また、アスナも黒いローブの敵と激戦を繰り広げていた。アスナはハマノツルギを用いて黒いローブの敵が操る、黒い泥のような魔法や、影で編み出した鞭のような魔法をはじきながら、周りに気を使い戦っていた。
「ハアッ!!」
「……!」
この戦いで優位に立っているのはアスナだった。黒いローブの男は、
しかし、この黒いローブの敵、
「どいて!」
「……」
それでもアスナは必死だった。早く敵を倒し、状助へ加勢したいと思っていた。状助はスタンドと言う謎の力を使うだけの、ただの人間だ。自分のように強くはない。
それに、クレイジー・ダイヤモンドは状助自身を治せない。何かあればそこでお終いだ。なので、今はまだ戦っている状助の助太刀をしたいと、そう考えていたのだ。
そんなアスナの考えなど知らずか、黒いローブの敵はしつこくアスナへまとわりついた。通じない魔法を叩き込み、またはアスナの防御不可能な斬撃をかわしながらも、アスナにぴったりくっついて戦っていたのだ。
「苦戦してはりますなぁ~」
「もう一人!?」
だが、そこにはもう一人、敵が存在した。もこっとした大きな帽子をかぶった、白い敵だ。白い敵は長刀と短刀の二刀流の使い手のようだ。
ゆるい感じの言葉使いで、気の抜けるような声で黒いローブの敵が押されている現状を述べた。そんな声は、なんということか、アスナの後ろから聞こえてきたのだ。すでに、アスナの背後へと回り込み、その刀で切り込む直前だったのだ。
「ウチの奇襲をこうもあっさりと……。お姫様も随分とおいしそうやわぁ〜」
「この人……!」
アスナはとっさにそれを回避。ハマノツルギで受け止めはじき、黒いローブの敵と白い敵との距離をとった。仕切り直しという訳だ。また、白い敵は回避されたことに、高揚感を感じた様子で喜んでいるではないか。目の前のこの敵、アスナには見覚えがあった。まさか、まさか、そう考えながら、再び両者は激突するのであった。
一方状助は、未だに
「ドラララララアアァァッ!!!」
「……お前はよくやった。もう諦めろ」
クレイジー・ダイヤモンドの拳が1000本もあるかのように見えるほどの、すさまじい速度でラッシュをくりだす。が、その攻撃すらも、シルバースキンの前では無力だった。破壊、再生が永延と繰り広げられるだけで、一向に
もはや
「ふざけたことをほざくじゃあねぇぜ!!」
「……ならば本気の一撃だ。耐えてみろ」
「やってみろよコラァッ!!!」
それでも状助は諦めない。無駄だの無理だの勝手なことを言うんじゃあない。たとえ相手がダブルシルバースキンで防御を固めようが、それを突破すればいい。状助はその小さな、小さな、本当にわずかな、ミクロ単位の希望にすがっていたのだ。
そうか、
「一・撃・必・殺……」
「なっ!? 何ッ!? 速……」
すると、急に
しかも、その動きは雷電のごとき速さ。そう、
状助はそのスピードに対応できず、一瞬
「”ブラボー正拳”ッ!!!」
「ぐっ! うおおおおおおああああああッ!!!」
「ほう、耐えたか。だが……!」
その凶悪で強烈な一撃を、状助はなんとか受け止めきった。クレイジー・ダイヤモンドの拳をクロスさせ、それを盾にして受け止めたのだ。しかし、しかしだ。その拳は状助には届かなかったが、地面をも砕き破壊するほどの衝撃波だけは消えなかった。
その衝撃を全身で受けた状助は、後方へと数メートル吹き飛びながら、苦痛の声を叫んでいた。そして、なんとか着地し、体勢を整えようとしていた。
だが、その時、
「一・撃・必・殺……」
「野郎!? 速すぎるッ! 背後だとッ!? すでにッ!?」
なんだ、このスピードは。状助は驚きながら、周囲を見回した。男はどこだ、敵はどこだ。恐怖と焦りで嫌な汗を流しながら、
「うおおおおおおおおおッ!!?!」
「”ブラボー正拳”ッッ!!!」
ハッとした状助は、とっさの判断で振り向くと、すでに、ああすでに。
ゆっくり、ゆっくりと動く拳を、状助は見ていることしかできなかった。そこで危険を感じ叫ぶことしかできなかった。否、実際は音よりもすばやい拳の動きだ。アドレナリンが大量に分泌されているのか、その動きがゆっくりに見えているだけだ。
「ガフッ……!」
そして、
すると、状助の体からは、バギボギベギッという非常におぞましく、ヤバイ音がした。骨が何本かへし折れた音だ。状助はそこで大量の血を口から吹き出し、衝撃とともに吹き飛ばされた。
吹き飛んだ状助は、何度か地面にたたきつけられ、数回転がった。そののちに、床を血で染めながら前のめりに倒れこみ、ピクリとも動かなくなったのだった。その惨状やいなや、まるで大型トラックに跳ねられたバイクのごとき姿だった。
「じょ……」
アスナはその瞬間を見ていた。状助が
「状助!!!」
アスナはそこで状助の名前を、悲痛な声で叫んだ。動かない状助に、大きな声で呼びかけた。だが、状助は動かない。指一本すら動かない。
「状助君!?」
「状助!」
「東さん……?」
また、転がって動かない状助を見た三郎も、彼の名を叫んだ。木乃香も状助の血に染まった姿を見て、彼の名を大声で呼んだ。
あやかは、ボロ雑巾のようになった状助を見て、まったく理解が追いつかない様子だった。意味がわからなかった。何がなんだかわからなかった。ただ、その名を呼ぶので精一杯だった。
「終わったな……」
真っ赤に床を染めて寝転がる状助を見て、
「いや……、ジョースターの血というのは厄介と聞いた。こいつがそうかはわからんが……、確実にとどめを刺しておくとしよう……」
だが、
ならば、確実に息の根を止める必要があると、男は考えた。そして、ゆっくりと、ゆっくりと、一歩ずつ、状助目がけ歩き出したのだ。
「邪魔! しないで!」
アスナは焦った。このままでは、本当に状助が殺されてしまうと。だから、状助の下へと早く駆けつけたかった。しかし、黒いローブの敵と、白い敵がそれを邪魔をする。このままじゃ状助が死ぬ。アスナは目の前の邪魔をする敵に、苛立ちの叫びをあげていた。
と、その時、白い敵が突如として吹き飛んだ。誰かが攻撃をしたからだ。ふと、アスナが横を見れば、その攻撃したものの正体が立っていた。
「さっきはよーやってくれたな! 倍にして返すで!」
「コタロ!」
「姉ちゃんはリーゼントの兄ちゃんのところへ!」
「わかったわ! ありがとう!」
そう、復活した小太郎だ。はっきり言えば、小太郎は先ほどの奇襲でわりとやばかった。それでも意識を取り戻し、仕返しに一撃食らわせたのは根性があるとしか言いようがない。
小太郎はそこでアスナに、ここは任せろと叫んだ。こんな奴らと戦っている暇はない、状助を助けろと。
アスナは小太郎にこの場を任せることにした。この助太刀はありがたかった。だから、感謝を述べると、すぐさま状助の方へと走り出したのである。
「逃さ……何!?」
「完全にしてやられたでござるよ……! この借りは返させてもらうでござる!」
しかし、黒いローブの敵はアスナを逃がそうとは思わない。当然そのために攻撃を仕掛けようとしていた。が、黒い球体が足元に転がってきた。それは最初の不意打ちで、楓を封じたものだ。
その黒い球体には髪の毛一本と、符が付いており、それが突如爆発したのである。すると中から巨大な風魔手裏剣が飛び出し、その黒いローブの敵を襲った。黒いローブの敵はそれを何とかバックステップで回避すると、目の前に一人の少女が現れた。
それは黒いローブの敵の最初の奇襲で、黒い球体に封じられた楓だった。楓はその黒い球体から脱出する際相当な力を使ったのか、疲れた様子を見せていた。
だが、黒い泥にまみれながらも、不敵に笑っていた。先ほどの不意打ちにはしてやられた、次はこちらの番だと、そう笑って言い放った。
「さて、とどめだ」
「させない!」
だが、そこへすかさず現れたのは、アスナだ。アスナは瞬動を用いて爆発的な加速で、状助の下へとやってきたのだ。そして、その加速を利用し、勢いをつけたハマノツルギが男へと襲い掛かった。
「むっ!」
「硬い……!」
硬い、なんという硬さ。アスナはハマノツルギが命中した時、そう思った。強化した状態ならば、鋼鉄すらもたやすく切り裂くこともできる。そのはずなのに、まるで通じていない。効いていない。これでは確かに、状助のスタンドの拳でも、傷つくはずがない訳だと。
「中々やるな……。だが、お前でも俺には勝てん」
「やってみなきゃわかんないでしょ!」
しかし、それでも自分には勝てないと、
アスナは対魔法には非常に強く、魔法使いタイプならば当然有利に立つことができる。さらにアスナは高い実力と技術を身につけており、並みの相手では歯が立たないだろう。
だが、機械や無機物にはそのアドバンテージはなくなる。そもそも魔法ではない相手には、自分の力や技術のみで相手しなければならなくなる。それがただの機械であるならば、さほど苦労はしないだろう。アスナは咸卦の気を操り、常人の何倍とも言えるパワーを操るのだから。
そう、ただの機械や無機物ならば、だ。
武装錬金は現代科学ではなしえない、強力な”特性”を有する。シルバースキンはその防御こそが最大の特性。それも当然魔法ではない。魔法ではないので、アスナの能力やハマノツルギでも打ち消すことはできない。故に、シルバースキンを突破することは不可能。
続けて言えば、シルバースキンは複数の攻撃を、瞬間的に同時に行わなければ貫くことはできない。アスナの戦闘スタイルでは、それができない。だから、アスナにとって目の前の男は、相性が最悪な相手ということだ。すなわち、
それでも、それでもアスナは目の前の男へ攻撃を仕掛ける。状助のかたきだから。状助を守らないとならないから。そして、自分が
だがこの時、とっさに動けるものが一人いた。木乃香だ。このままでは状助が危ないと思った木乃香は、前鬼、後鬼でまき絵たちをガードしつつ、一人そっちへと駆け出したのだ。
「アスナが敵を引きつけとる内に、ウチが状助を治癒したる!」
「そうはいかんざき!!」
治癒を得意としている自分が、状助を助ける。そう意気込み駆け出した木乃香を阻むかのように、一人の少年が立ちはだかった。
「誰!」
「オレだよ俺! 俺オレ! 俺だオレ! オレ!!」
「え……? 陽君!?」
突然訳のわからないことを叫び、目の前に現れた少年。木乃香は急いでいるのに邪魔をする少年へと、誰だと叫んだ。しかし、少年は俺、を連呼しだし、へらへらと笑っていた。そして、木乃香はその少年の顔を見て、それが誰なのかを理解し驚きの表情を見せた。
赤蔵陽。覇王の弟であり、アーチャーの仲間へ寝返った人間。また、木乃香の幼馴染であり、よく知る人物だった。
「そうだよ! オレだよ!」
「なんで陽君がこないなところに!?」
「オレもあいつらの仲間になっちゃったからなー! しょうがないよなー!」
陽はテンション高らかに跳ねとび、思い出したかこの俺を、と笑っていた。久々に会ったというのに、つれないなあ。感動の再会じゃないのか。陽はそう思いながら、ニヤニヤしていた。
何故、どうして、何で。木乃香は陽がここにいる状況がまったくわからなかった。陽は京都にいるはずだ。こんなところにいるはずがない。そう思っていたのだ。
すると陽はその問いに、ふざけた調子で答えた。アーチャーの、
「そんな! なんでや!」
「なんで? そんなのクソ兄貴が悪いにきまってんだろ!!!!」
「はおが……?」
「そうだよ! 全部アイツが悪いんだよ!!」
木乃香は陽がアーチャーたちの仲間になっていたことに、かなり動揺した様子を見せていた。何でそんなことになったんだろうか。どうして彼らの仲間なんかに。
陽は木乃香のその叫びに、突如キレて声を荒げて言い放った。兄、覇王が全部悪いと。
その陽の怒りの矛先は、明らかに覇王に向けられたものだった。しかし、木乃香には、陽が覇王を恨む理由がわからない。どうして覇王が悪いのか、まったく理解出来ない。
陽は興奮した様子で、さらに声をあげて叫んだ。覇王のヤツが悪いからだ。あいつが全てを奪ったからだ。そうだ、覇王がフラグを立てたからだ。自分が立てるべきフラグを、全て手に入れたからだ。目の前の木乃香のフラグを立て、ものにしたからだ。
「……んまあ、そんなことよりさ。アイツ死ぬんじゃね?」
「そやった……。はよせんと……」
すると陽は怒りを吐き出し終わったようで、スッキリした様子を見せた。そして、状助の方に親指をむけ、もう死ぬんじゃないかと言い出した。まあ、もう死んでるかもしれないし、その方がありがたいが。
木乃香はそれはまずいと考え、ソチラに足をを向けた。今は陽にかまっている暇はない。一刻も早く、状助を治癒しなければと。
「! なしてウチの前に立つん!?」
「オレもアイツが復活すんのゴメンだから」
が、そんな木乃香の前に、再び立ち伏せ邪魔をする陽。木乃香は陽がどうして邪魔をするのかと叫ぶ。確かにアーチャーらの仲間になったと言っていたが、まさか状助を見殺しにするほどのやつだとはと思ってなかったのだ。
しかし、陽はそのつもりだ。状助のスタンドは驚異的だ。なんでも修復するという能力は、この先邪魔になる。厄介だと思っているからだ。
「なっ! このままやったら状助が死んでしまうんやで!?」
「死ねば?」
「なしてそんなこと言うんの!?」
このまま放置すれば状助は死ぬだろう。木乃香はそうなったら嫌だと叫んだ。状助は友人だし、このまま死んでしまうなんて、それはとてもつらいことだからだ。
そんな木乃香を笑いながら眺める陽は、淡々とした声で別にそれでいいと言い出した。陽はそんな知らない赤の他人が死のうが、どうでもいいことだからだ。むしろ死んでくれた方が嬉しいとさえ思っていた。
木乃香はそれに、少し怒りを交えて大声を出した。死んでいいなんて簡単に言うものじゃない。そんなことを言っていいはずがない。それをどうでもよさそうに言う陽が、許せなかったのだ。
「まあ、そうだな。アイツ助けたかったら……、オレの
「どうしてそうなるん!? おかしいやろ!?」
「おかしくねーじゃん? 取引ってやつじゃん?」
陽はそこで少し考えた後、とんでもない提案を言い出した。最低な提案だ。なんてことを考えるんだ。本当に最悪な男だ。
木乃香は当然、それはおかしいと叫ぶ。当たり前だ。突然どうしてそのような話がでてくるのか、木乃香にはわからないからだ。
が、陽はおかしくないと笑って語る。むしろそれが取引だ。くたばり底ないのリーゼントと、自分、どっちか選べという選択だと。
「兄貴じゃなくてオレに鞍替えすりゃ、助けてもいいよ? それでいいじゃん?」
「そんなん……、できへん……!」
「あっそ、じゃあ諦めれば?」
そうだ、覇王ではなく俺を選べばそれでいい。俺の彼女に、恋人に、女になれば、それでいい。覇王から俺に乗り換えれば、それで全て丸く収まる。それでいいじゃないか。陽はせせら笑い、そう話した。さあ選んでみろ、俺を選んでみろ、陽はそう考え笑い続けた。
木乃香はそんなことは出来ないと、かなり辛そうに小さくこぼした。状助の命も重要だ。だけど、それはそれである。木乃香にとって覇王は大切な人なのだから。
自分と覇王の友人と、覇王への自分の想い、どちらが重いかなど量れない。できる訳がない。できる訳がないのだ。自分の想いも、状助の命も、どちらも大切なのだから。
すると陽は、投げやりな態度をとりはじめた。だったらそれでいいけどさ。状助とかいうヤツのの命は諦めてもらうかな。ただ、それだけの感想だった。
「……せやったら……、無理やりにでも通ったる……!」
「え? やんの? いいよ? オレ強くなったよ?」
前鬼も後鬼も、背後でまき絵たちを守っている。エヴァンジェリンやネギが同じように障壁を張っているが、周囲の状況を考えれば動かすことはできない。
ならば、無理ならば、無理に押し通ればいい。木乃香はそう考えた。陽が邪魔をするならば、それを乗り越えればいい。もうこれしか手はない、木乃香は心苦しく思いながらも、そうせざるを得ないと悟った。
思い立ったら突っ走れ。木乃香はすぐさま
陽はそれを宣戦布告とみなし、ニヤリと笑った。あれほど弱かった陽なのに、どこにそんな自信と余裕があるのだろうか。だが、あれから陽は多少なりだが強くなった。ある程度、自信がつく程度には強くなっていたのだ。
そして陽は、とっさに
とは言え、陽はいまだ甲縛式
「っ! この技は!?」
「だから言ったよ今。強くなったって!」
しかし、そこで陽が使った技はなんと無無明亦無。巫力を無効化し、
木乃香は覇王から教えてもらっていた巫力無効化を、陽が使ったのを見てかなり驚いたのだ。そして、自分の
「アイツ助けきゃオレのものになるか。オレを倒せよ……!」
「陽!!!」
「ふほっ! はじめて呼び捨てで呼んでくれたな!! 嬉しいぜ!!!!」
そうだ、受け止めきれないのならば、かき消せばいい。消滅させて消費させればいい。甲縛式
陽は木乃香が強くなり、その甲縛式
アーチャーは麻帆良祭にも色々な準備の為に見に行っていた。当然まほら武道会も監視していたのだ。そこで、木乃香がかなり強くなっていることを知った。それで、シャーマンとして、木乃香の知り合いである陽に、それを教えておいたのである。
陽はさらに、木乃香を挑発するかのように、高笑いしながら自分を倒してみろと言った。自分の女になるか、自分を倒すか。そのどちらかができなければ、状助とやらは救えないぞと。
木乃香はそれに大きく反応し、陽の名を強く叫んだ。のんびりとしておっとりとした彼女が、怒りを表したのだ。それほどまでに、陽の態度が、陽の行いが許せなかったのである。そして、木乃香は本気で陽を倒すべく、再び
そんな状況のはずなのだが、陽は叫ばれたことに、むしろ喜びを感じていた。悦に入っていた。何故なら初めて、生まれて初めて、木乃香から呼び捨てで呼ばれたからだ。
覇王ならば、すでに呼び捨てだ。昔は師匠と呼んでいたが、今は呼び捨てだ。しかし、陽はずっと君をつけて呼ばれていた。距離感があるのだと陽は思っていた。そこで、ようやく呼び捨てされたのだ。このような敵対した状況だとしても、陽はそれに激しい喜びを感じていたのであった。
また、陽は木乃香の
こうして久々に出会った二人は、戦という形で再開を祝うことになってしまった。陽としては毛ほどにも気にしないことだろう。むしろ、木乃香の再開を喜んでいる方だ。出会えて、見つめられて、呼び捨てにされて、最高の気分を味わっているのだ。
しかし、木乃香にとっては精神的にショックなことだろう。
…… …… ……
転生者名:不明、
種族:人間
性別:男性
原作知識:あり
前世:40代建築業
能力:シルバースキンでの完全防御と自らの肉体での物理攻撃
特典:武装錬金のキャプテンブラボーの能力、オマケで核鉄二つ
気を操る才能
まさかミスターゴールデンの設定が今頃になって掘り下げられようとは……