次も不定期更新になると思います
ここはネギたちがイギリスへと旅立った次の日の麻帆良。その地下深くに新たに建造された、超の秘密の基地の中、超とエリックが会話していた。
「なあ、超よ。行かなくてもよかったのか?」
「? 何の話ネ?」
エリックは超へ、不思議に思ったという顔で質問をした。しかし、その質問の意図がよくわからなかった超は、何が言いたいのかを聞き返していた。
「火星の話だよ。君はあっちの出身だろう? ならば、今の火星の現状を見に行きたいと思わないのかと思ってなあ」
「そういうことカ」
するとエリックは、その質問の意図を話した。そう、エリックが言いたかったこと、それはネギたちと魔法世界へどうして行かなかったのか、というものだった。
魔法世界は火星の表面に魔法で作り出された幻想世界。火星出身の超ならば、見に行きたいと思える場所だろうと、エリックは思ったのだ。超もエリックの話を聞いて、なるほど、と納得した顔を見せた。
「私は今、豪の監視下にあるから身動きが取れないネ」
「ふむ、そうだったな。すまんな超よ」
「別にいいネ」
だが、超はそうしたいのも山々だという様子で、それは不可能だと話した。何故なら、今超は麻帆良の魔法使いに監視されている現状にある。その監視役として知り合いの豪が側にいるのだ。
何せ未来を修復するために未来からやってきた超だったが、少し無茶をしすぎたために、麻帆良の魔法使いから危険視されてしまったのだ。とは言っても、魔法使いでない超が、魔法使いや魔法を調べていると思われただけなので、大きく敵意をもたれている訳ではない。
それでも魔法は隠蔽するものであり、魔法を知った超を野放しには出来ない。本来ならば記憶の封印や消去が望ましい処理なのだが、超は、超と同じく未来からやってきて反乱を起こしたビフォアと戦った立役者の一人だ。故に大きな処罰を受けることなく、とりあえずは監視という形のみに収まっているのである。
そう言った理由から、この麻帆良から身動きがとれないので、それは不可能だと超は語った。エリックもそのことを失念していたと思い、悪いことを聞いたと超へ謝罪した。超はそんなことは気にしてなかったので、気にしていないと笑みを見せていた。
「それに、いつでもドクと行けるだろうし、問題ないネ」
「確かにそうだが、ワシと行くのと友人たちと行くのでは印象が違うとは思うがね」
「そうだろうネ」
また、超はエリックと行くこともできるだろうし、気にすることはないと思っていた。ただエリックは、自分と行くのと友人と行くのとでは、感じ方が違うだろうと思ったようだ。それをエリックが話せば、超も同じような意見だったようで、それを肯定した。
「でも、この状態は自業自得ネ。今はほとぼりが冷めるのを待つしかないヨ」
「それもそうだ」
しかし、どの道自分は動くことはできないと超は思っていた。この状態になってしまったのも、自分が派手にやりすぎたからだ。反省しながら、今は静かに待つしかないと、苦笑しながら超は言葉にした。エリックも、それでは仕方がないと思い、小さく頷いていたのであった。
…… …… ……
そして、ここは場所を変えてイギリスのロンドン。あやかご一行はロンドンに着くと、すぐさまネギたちを探し始めた。が、広いロンドンで数人の集団を探すのは困難。色んなところをくまなく捜すが、なかなか見つからないでいた。
「いない!」
あやかご一行はとりあえず数人にわかれ、ロンドン中を探し回った。しかし、やはりすぐには見つからず、とりあえず足を動かすのであった。
「いませんわ!!」
どこにも見当たらないネギたちに、あやかも焦りを感じていた。まあ、この広いロンドンで小さな集団を見つけるのは、やはり難しいことだ。
「いないねー」
「やっぱり無理だよねー」
「しかたないよ、こうなったらロンドン観光を楽しむしか……」
いやはや、やはり見つからない、と言ったところだろうか。桜子もネギたちが見つからないことを、疲れた顔で言葉にしていた。円もこの状況が当然と言わんばかりに、ロンドンからネギたちを見つけるのは困難であると話した。これはもう諦めて、ロンドンで遊ぶのが妥当なのではと、美砂もため息交じりで述べていたのだった。
「てっ、いたー!!」
「え?」
だが、ここで奇跡的にネギたちを見つけたものがいた。それは他の誰でもない、まき絵だったのだ。ようやくネギたちを見つけたまき絵は、発見されて少し驚くアスナたちへと、すぐさま駆け寄っていったのだ。
「やった! 会えた!」
「お会いできて嬉しいですわー!」
まき絵は逃げられないようにアスナの手を握り、近くにいたあやかはネギに抱きつき、再会を喜んでいた。
しかし、アスナやネギは不意打ちを食らったのも同然であり、ネギは抱きつかれながら驚きの表情で固まっていたのであった。
「来るとは思ったけど、見つけられるとはね」
「いっしょにロンドンめぐりしようよー!」
アスナも少し驚いた様子だったが、周りよりもさほど気にした感じではなかった。何せあやかからイギリスへ来ることを聞いていたアスナは、やっぱり来たんだ、程度にしか思ってなかったからだ。だが、自分たちを必死で探し、見つけ出す執念には多少驚いていたのである。
そんなアスナへと元気に話しかけるまき絵。まき絵はアスナたちのイギリス行きを、単純な海外旅行と考えていた。なので、一緒に遊びたいという気持ちで、アスナへと声をかけているのだ。
「あっ! ゆーな! いないと思ったら抜け駆けしてたんだね!!」
「んー、何のことかなー?」
「一人だけそっちに入ってずるいよー!」
そんな時、まき絵の目に入ったのは裕奈であった。なんと、あやかの私有飛行場に居なかったと思えば、すでにここへアスナたちと来ているではないか。一人だけ抜け駆けしたと思ったまき絵は、裕奈へプンプンと怒って文句を言ったのだ。そう膨れた顔で叫ぶまき絵から目をそらしながら、とぼける裕奈。その裕奈へまき絵はずるいと、何度も言葉にするのであった。
「ところで、アスナたちはこの後どうするの?」
「んー、そうねぇ……」
まき絵は裕奈のことはそれとして、アスナへそっちの予定を聞いてみた。アスナはその問いに、どう答えようか少し迷った。予定ではこの後、アスナたちはネギの故郷へ行く予定だ。ただ、ネギの故郷は魔法使いの隠れ里、どうしたものかと思ったのだ。まあ、麻帆良も魔法使いの街でもあるので、あまり差はないんだろうとも思っているのだが。
「彼らはこの後、ネギ先生の故郷へ行く予定だよ」
「わっ、誰?!」
「ネギ先生の故郷ですって!?」
そこで、アスナが悩んでいるところに、アルスが正直に今後の予定を話し出した。まき絵はこの男性が一体誰なのだろうかと驚き、あやかはネギの故郷という言葉に驚きの声を出していた。
「ああ、俺はアルス。男子中等部の教師だよ。俺もこっちの出身なんでね、同行させてもらったんだ」
「それはどうも」
アルスは何者かと尋ねられれば、という感じで自己紹介をかねて、ネギらと同行している理由を話した。まき絵はとりあえず、アルスが教師だということを聞いて、少し恐縮した様子で頭を下げていた。
「是非ご一緒させていただきたいですわ!」
「どうぞどうぞ」
「え!?」
しかし、あやかはネギの故郷という言葉に反応し、かなり高いテンションでご同行願いたいと言い出した。するとアルスは普段どおりの態度で、気にする様子もなく許可を出したではないか。そして、それを聞いていた夕映たちが驚きの声を上げだした。
「あのー、魔法使いの村と聞いたんですけど、大丈夫なんでしょうか?」
「ああ、問題ないさ。別にしょっちゅう魔法が飛び交ってるような場所じゃないしな」
何故ならネギの故郷の村は魔法使いの村でもあるからだ。それを知っていた夕映は、魔法を知らないあやかたちをそこへ招いても大丈夫なのか心配だったのだ。故にそれをアルスへ尋ねれば、アルスは気にすることはないと話した。魔法使いの村だとしても、魔法が年がら年中飛び交っているような場所ではないからである。
「それに、メルディアナ学校長の許可も得ていますので大丈夫ですよ」
そんな時、ふと遠くから女性の声が聞こえてきた。その声の方を向けば、スーツを身にまとった金色の短い髪型をした女性が近づいてきていた。
「おおおおおっ! 我が妻よ!」
「久しぶりね、あなた。元気そうでなによりよ」
その女性こそ、メルディアナ学校長の従者である、ドネットだ。そして、この大きな声で叫びドネットへと駆け寄る男、アルスの妻でもある。アルスは妻との久々の再会を大いに喜び、ドネットもそんな夫の元気な様子を見て、嬉しそうに微笑んでいた。
「娘は元気か?」
「ええ、元気よ。今日はあなたが帰ってくると言うことで、朝からはしゃいでいたわ」
「そーかーそーかー!」
また、アルスは自分がもっとも気がかりにしていることを、ドネットへと質問した。それは自分の娘のことだ。娘の安否が気がかりなのは、父親として当然のことだろう。
それにドネットは柔らかな笑みを浮かべながら答えた。娘は問題なく元気で、父親であるアルスが今日帰ってくることに楽しみにしていたと。
アルスはそれを聞いてさらに喜びの声を上げていた。単身赴任してなかなか会えない娘が、自分に会うことを楽しみにしてくれている。それはアルスにとってかなり嬉しいことだからだ。
「おっと、紹介しよう。俺の妻のドネットだ」
「よろしくね、お嬢さんたち」
しかし、そこでアルスはハッとした。自分の世界に入りすぎて、周囲の少女たちを置いてきぼりにしていたことに気が付いたのだ。だからここで、隣にたたずむドネットを紹介することにしたのである。ドネットもアルスの会話の後、ニコリと笑って一言述べた。
「どうもーお久しぶりです」
「あら、ユーナも久しぶりね。随分とお母さんに似てきたんじゃない?」
「えー? そうですかねー?」
すると裕奈がそこへやってきて、手を振りながらドネットへと挨拶した。
「そういえば、あなたのご両親は元気してる?」
「そりゃ当然! 元気が一番だからね!」
「それはよかった」
また、ドネットは裕奈の両親が元気にしているか気になり尋ねた。裕奈はその問いに、当たり前のように元気にしていると、活力溢れる様子で答えた。ドネットもそれを聞いて満足し、微笑みながら安心していた。
「あっ、おかーさんがよろしく伝えておいてって! あと今度会おうねって言ってました!」
「フフ、じゃあ帰ったら今度連絡するって伝えておいて貰おうかしら?」
「りょーかい!」
裕奈はそこで、ハッと思い出したように、自分の母親からの伝言をドネットへと伝えた。ドネットと、裕奈の母である夕子は友人だ。なので、裕奈にドネットへ、再会したいという趣旨を伝えて欲しいと頼んでいたのだ。
その伝言を受け取ったドネットは、ならば今度連絡するということを、裕奈へと伝えておいて欲しいと頼んだ。それを当然と言わんばかりに、元気に承諾する裕奈だった。
「ゆーなさんもお知り合いだったんですか?」
「んまーねー」
「ネギ君もお久しぶり」
するとネギもそこへ現れ、ドネットと裕奈が知り合いだったことに驚いた。ドネットはネギが通っていた魔法学校の学校長のパートナーである。ネギは当然それを知っていた。が、まさか裕奈もドネットの知り合いだったなど、知りようがなかったのである。
裕奈はそんなネギに、色々とあるというような苦笑を浮かべていた。ドネットも久々に会うネギへと挨拶を述べていた。
「何……だと……? お前……、勝ち組だったのか……」
「まあ、はたから見りゃそうかもしれんが、俺自身そう思ったことはねぇ」
「それが勝者の余裕ってやつか……」
だが、そこでさらに驚愕の表情を浮かべるものがいた。それはカギだ。カギは同じ転生者であるアルスが、原作キャラであるドネットと結婚していたことに、かなり驚いていたのだ。故に、こいつ勝ち組か、と嘆いていたのだ。
しかし、アルス本人はそうは思っていない。勝ち組だの何だのとアルスは考えたこともないからだ。それに今は単身赴任の身、家族と離れて生活することを苦に、頑張っているというのもあった。まあ、それでもカギはアルスが羨ましいので、そのアルスの発言すらも、勝ち組の余裕と受け取ったようだ。
「さて、では案内するとしよう」
それはそれとして、アルスはネギたちへ、そのネギの故郷へ案内すると言葉にした。そしてネギ一行らはあやかご一行と合流し、ネギの故郷のある州へと移動するのだった。……ちなみに、エヴァンジェリンと茶々丸は、その一行から少し離れた場所をこっそりついていったのであった。
…… …… ……
ここはウェールズのペンブルック州。ネギの故郷がある場所だ。さて、ネギらご一行はようやくその場所までたどり着いた。
「わー!」
「ここがネギ君の故郷!」
緑の絨毯のように草木が生い茂る美しい草原。遠くには小さな町と、それを囲う山々がより一層景色の彩りを深くする。また、さわやか風が吹き、その草原の葉を揺らして心地よい音色が奏でられていた。誰もがその美しさに魅了され、喜びの声をあげるのであった。
「……!」
「どうしてアンタが感動してるの……」
だが、なんと言うか、とても感動しているあやかがいた。じーん体を震わせながら無言で感動し、感涙までしていたのだ。そんなにネギの故郷にこれたことが嬉しいというのだろうか。アスナはそんなあやかを見て、心底呆れていたのだった。
「正確には5歳から10歳までの故郷になるけどね」
「あら、そうですの?」
誰もがこの場所をネギの故郷と言葉にしていたところに、アーニャが訂正を加えた。実際にはこの村で育ったのは5歳からだと。それを聞いたあやかは引越しでもしたのかな、程度の感想を抱いたような声を出していた。が、アーニャから色々と話を聞いていた夕映とのどかは、ふとアーニャの方へ目を向けていた。
「久々の故郷はどう?」
「なんだかそんなに離れていた訳でもないのに、随分時間が経ってるような、そんな気がします」
「半年は短いようで長いよなあ」
そんな中、懐かしさを感じて遠くの村を眺めるネギへ、アスナが久々に帰ってきた感想を尋ねた。ネギは村の方を眺めながら、静かに答えた。さほど長く戻ってこなかった訳ではないが、何故か数年も経っているような、そんな感じを受けると。その横にいたカギも同じ意見だったようで、半年ぐらいしか離れてなかったのに、やけに長く感じたと言葉にしていた。
「ネギ!」
そこへ一人の女性が現れ、ネギの名前を叫んでいた。それこそ、ネギとカギの姉であるネカネだった。彼女はネギらを迎えに来たのだ。
「ネギー!!」
「お姉ちゃん!!」
ネカネはネギを見ると、一目散にそちらへ駆け寄った。ネギもネカネを発見し、同じように走って近づいていった。そして、二人は抱き合い、再会を共に喜んでいた。
「あらあら」
3-Aの少女たちは、それを温かい目で眺めていた。姉と弟の再会、または年相応に甘えるネギの姿に、誰もが心を和ませていた。
「あっ、ごめんなさいカギ、あなたも帰ってきたのにネギばかりかまってしまって……」
「別に気にしねーって。俺はいいんだよ」
そこでネカネはネギばかりをかまっていたことに気がつき、遠くで眺めているカギへと視線を移した。また、ネギだけにかまっていたことをカギへと謝り、こっちにおいでという様子を見せていた。しかし、カギはさほど気にした様子はなく、むしろそう言うの恥ずかしいし、という態度を見せたのだ。
「そう言わないでこっちに来なさい?」
「ねーちゃんよ、俺はもうそう言うのは卒業したのさ。俺の分までネギにハグしてやってくれや」
カギのそんな態度に、ネカネはカギがふてくされていると思ったようだ。なので、微笑みながらやわらかい声で、ネギのように抱き合いましょうと話した。が、それでもカギは別に気にしていないので、それを不要と断った。
昔の自分ならいざ知らず、今の自分だとそう言うのは恥ずかしいと、カギは本気で思っているのだ。だが、それをあえて隠し、しれっとした態度で自分の分までネギにかまってやれと、カギは笑いながら言うのであった。
「そう……。まあ、ともあれお帰り、カギ」
「おう、今帰ったぞ」
本人がそれならそれでいいかとネカネは思い、とりあえずカギの帰郷を笑顔で祝った。カギもネカネの温かみのある笑みに、照れくさそうにそっぽを向きながら、帰ってきたとぽつりとこぼした。
「そうだお姉ちゃん、紹介するよ! 僕の友達、生徒のみなさん」
「まあ……、たくさんいるわねぇ……」
「コレでも全員じゃないんだぜ……?」
ネギはネカネへ、自分たちの生徒がここへ来ているのを話し、紹介した。しかし、ネカネはその生徒の数に圧倒され、こんなにいるのかと言葉を漏らした。カギはそれを聞いて、実際はもっと数がいると、苦笑しながら述べるのだった。
「ぱぱー!」
「おおおおっ! 我が娘よぉー!!」
そんな時、さらに一人の少女がこの草原に姿を現した。金色の髪を首下あたりまで伸ばした小さな女の子が、父親を求め走ってきたのだ。それはあのアルスの娘、アネットだった。彼女はアルスが帰ってくることを聞いており、ここへ迎えに来たのである。アルスも娘の元気な姿を見て、そちらへ一目散に駆け寄っていった。
「おろぉっ!?」
が、なんということだろうか、アネットはアルスの横を通り抜け、別の方に走り抜けたではないか。アルスはこのままハグするのかと思っていたので、勢いあまって盛大にずっこけていた。なんと哀れな男だろうか。それを遠くから見ていたドネットも、口を手で押さえながら、小さく笑っていた。
「ゆーなー! おひさー!」
「アネットー! いやあ久しいねぇー!」
アネットは父親であるアルスよりも、友達である裕奈を選んだようだ。彼女は手を大きく振りつつ、裕奈の下へと駆け寄ったのだ。裕奈は駆け寄ってきたアネットをヒシッと抱きかかえ、久々の再会を喜んだ。
「アーニャちゃんもネギくんもひさしぶりー!」
「そっちこそ久々ねー」
「久しぶりー」
また、アネットは近くにやってきたネギとアーニャにも久々に顔を合わせたことを喜んだ。当然ネギもアーニャも同じであり、三人とも仲よさそうに手をつなぎあっていた。
「え!? 三人とも知り合いだったの!?」
「ゆーなさんこそ、アネットとも知り合いだったんですか!?」
しかし、そんな光景を見た裕奈は大そう驚いた。まさかネギとアーニャが、自分の友人であるアネットとも友人だったことを知ったからだ。また、それを聞いたネギも、裕奈がアネットと知り合いだったという事実に驚いていた。
「アネットは私たちが卒業した学校での友人よ」
「ほへー、世の中案外狭いんだねー……」
「でも、そっちは何で……?」
そこでアーニャが驚く裕奈へと、どういう訳なのかを説明した。アネットは自分たちが卒業した学校の友人だと。それなら納得だと裕奈は思い、なるほどという顔をしながらも、世の中ここまで狭いものなのかと思っていた。
ならば、そちらはどうしてなのかと、アーニャは裕奈へ尋ねた。むしろ、アネットと裕奈が友人である方が普通に考えてありえないと思ったからだ。
「ああ、それは私の友人が彼女の母親だからよ」
「そうだったんですか……」
そこへドネットがやってきて、それを説明した。裕奈は自分の友人の娘で、そのつてで顔見知りなのであると。それを聞いたネギとアーニャは、納得した様子だった。なるほど、そういうことがあったのかと、そう言いたそうな顔だった。
「ひどいぞー! パパを素通りするなんて!!」
「だってゆーなにも会えて嬉しかったんだもん」
「そうか、そうか……」
三人の疑問が解消したところへ、ようやく復活したアルスが戻ってきた。そして、アネットへ大げさな様子で素通りしたことを言葉にしたのだ。が、アネットもちょっと悪かったという様子で、久々に裕奈と会えたことが嬉しくて仕方がなかったと話した。なら、まあしょうがないよね、と思いつつも、父親より友人を選ぶか、と思い悲しみに浸るアルスがいた。
「それにぱぱとはこのあといっぱい遊べるし」
「そうかあー。じゃあ今日はパパと一緒にいっぱい遊ぼうな!」
「うん!」
ただ、アネットも自分の父親を無碍にした訳ではない。裕奈との再会は嬉しいものだったが、一緒に遊べるような感じではなさそうだった。しかし、父親であるアルスとはこの後いくらでも遊べる。そう考えたアネットは、最初に裕奈へ飛び込んだのだ。
アルスはそれを聞き、先ほどのやさぐれそうな姿がなかったかのような、晴れ晴れとした表情となっていた。ならば今日はいっぱい遊ぼうと、アルスはアネットを抱き上げくるくる回りながら笑っていた。アネットもアルスに抱き抱えながら、明るい笑顔でアルスの言葉に強く頷いたのであった。
「なあ……、そのモブ子はお前の娘だったのか……」
「なんだその呼び名は……、流石に殴るぜ?」
そんなところへやってきたカギが、その子はアルスの娘だったのかと驚いた様子で語っていた。カギもネギと同じ魔法学校出身だ、当然アネットのことを知っていた。なので、そのアネットが転生者であるアルスの娘ということに驚いていたのだ。
だが、そのモブという言葉が彼女の父親の逆鱗に触れた。そもそも自分の娘が
カギはそこでやべぇと思いながら、謝ろうと思ったようだ。と、その時アルスの手から降りたアネットが、不思議そうな顔で、カギへ一つ質問した。
「ねー、ずっと気になってたんだけどさー、そのモブって何の意味?」
「え!? いや! その……、昔のことすぎて忘れたぜ!!!」
昔、カギは自分の周囲をモブだのモブ子だの認識し、それを言葉にしていたことがあった。それを今のカギの発言で思い出したアネットは、前から疑問に思っていたモブという意味についてカギへと質問してみたのだ。
するとカギは慌てた様子を見せながら、忘れてしまったととぼけた。というか、そのモブモブ言っていたこと自体が今のカギにとってとても黒歴史な記憶だ。何であんなことを言っていたんだ、と後悔しているほどのことなのだ。それを質問されたのだから、カギはショックで動揺したのである。
「あはは! カギくんは相変わらずぼけぼけだねー」
「ぐっ……、そ、そうだよ! 俺はボケだよチクショウ!!」
「クックックッ……」
「笑うな!! 死にたくなければ笑うな!!!」
アネットは、忘れたと慌てた様子で言うカギが面白かったようで、とたんに笑い出した。また、アネットもカギを昔からボケてると思っていたらしく、相変わらずだと言葉にしたのだ。
こうなってしまったのは全部自業自得と思うカギも、笑われるのは流石に恥ずかしい。なので言い返すことは出来ないが、逆切れのようにボケで悪かったな!とカギは叫んでいた。
さらに、その光景を見ていたアルスも、腹を抱えて笑いをこらえていた。カギは笑われたことを恥ずかしく思い、照れ隠しのように大声で叫んでいたのだった。
…… …… ……
その後、3-Aの少女たちは、ネカネに案内されて昼食をとっていた。そこでネカネの挨拶とともに、ネギのことを頼まれた3-Aの少女たちは、和気藹々と胸を張って受け入れていた。
アルスも久々の帰郷ということもあり、自分の家へと戻っていた。何度か帰ってはきているものの、やはり単身赴任という身故に、家の中で懐かしさに入り浸っていたのである。
また、娘が可愛くて仕方ないのか、アルスは椅子に座りながら、娘を膝の上に座らせていた。そして、娘の金色の髪をなでるように梳きながら、幸せをかみ締めていたのだった。娘のアネットもまんざらではないようで、嬉しそうにしながらアルスの行為を受けていた。
そんな中、エヴァンジェリンは茶々丸とともに別行動をしていた。共にやってきた面子は他の3-Aの少女たちと合流してしまったので、どうしたものかと思ったようだ。それに、うるさいのは面倒で困ると思ったエヴァンジェリンは、二人で町を探索することにしたようである。
「ここが、僕たちが学んだ学校です」
昼食が終わった一同は、ネギの案内のもと、ネギの思い出の場所を見て回ることになった。そこで最初に訪れたのは、ネギの通っていた魔法学校だ。ただ、魔法はバレたら困るので、魔法使いの学校、という部分は伏せてはいた。
「ここで卒業式やったんだよね」
「懐かしいわね」
「いや待てよ! 半年ぐらい前のことだろ!?」
さらにネギとアーニャは卒業式を行った広間へとやってきて、その懐かしさをかみ締めていた。が、カギはそんな二人にツッコミを入れていた。
と言うか、懐かしむにはまだ少し早いのではないかと。確かに卒業式をしたのはこの場所だが、卒業したのは半年ほど前のことで、まだ一年経ってないのだ。カギはそこを考えたのか、盛大にそれを叫んでいたのである。
「あ、そうだ」
また、ネギは何かを思い出したようで、とある方向へと歩き出した。そこは何の変哲もない、ただの学校の廊下だった。
「この廊下で麻帆良学園に行くことが決まったんですよ」
「そういえばそうだったわね」
「へぇー」
だが、その廊下はネギが魔法使いの修行として、先生になると決まった場所だった。なので、それを思い出したネギは、なんだか昔のことみたいにそれを話したのである。アーニャもそんなこともあったと言葉にし、それを聞いていたアスナも、なるほどなーと思っていた。
「重要な廊下やなー」
「10歳の少年にも歴史ありですね」
「ゴールデンな場所って訳だなぁ」
「だから待てよ! それも全部半年ぐらい前のことだっつってんだろ!?」
木乃香や刹那、さらにはバーサーカーまでもが、そんな重要な廊下だったのかと思い、それぞれ意見を口にしていた。が、カギはやはりそこまで言うほどの場所ではないと叫んでいた。というか、歴史も何も半年ほど前のことで、そんなに古い出来事ですらないと、カギは思ったのである。
「そうだ、これを見てください!」
「何何ー?」
「アーニャとの背比べの跡です!」
さらにネギはその廊下の柱へ近づき、みんなへ注目の声をかけた。木乃香たちはなんだろうと思いながら、そちらへと近寄った。
そしてネギは手をかざして、見せたかったものをみんなへ見せた。それはアーニャとネギの背比べをした時の傷であった。
「ウチもせっちゃんとやったなー」
「微笑ましいですわねぇ~」
「そういえば、今はどっちが上なんだろ……」
木乃香は刹那と同じことをしたのを思い出し、笑みを見せていた。ネギについてきていたあやかも、微笑ましいと言葉にして小さく笑っていた。
ただ、アーニャはそれを見て、今は自分とネギ、どちらが背が高いかを考えた。とは言うが、アーニャは未だ自分の方が上だと思っているのだ。しかし、実際はネギの方が上になってしまっていることを、まだアーニャは知らない。
「カギ先生は……?」
「やめてくれないか、人の心の傷をえぐる行為は」
「あっ、ゴメン」
「別に気にしてねぇけどな!」
そこへアスナはふと思ったことがあった。その柱にカギの印がないことを。それをカギに尋ねれば、やめてくれと言うではないか。何せカギはこの印をつけていたころ、アーニャにまったく相手にされてなどいなかった。当然このようなことができるはずもない。カギは故に、それを聞かれてショックだという様子を見せたのだ。
アスナはそこでハッとして、そのことを失念していたと思いカギへと謝った。が、カギもその程度のことはもう気にしていないようで、突然ケロリとした顔で平気だと述べたのだ。
そして、ネギ一行は魔法学校の外へと出て、自分たちの思い出の場所を案内しようとしていた。その道中、町の中で出会ったのは、一人の老人だった。
「よお、ぼーず。帰ってきたのか」
「スタンさん! ただいま」
「うむ、おかえり」
その長い白い髭の老人は、やはりスタンであった。スタンはネギを見て、ここに久々に帰ってきたのかと思い、それを口にした。ネギもスタンへと元気よく帰還の挨拶を行い、スタンは優しい笑みを見せて、ネギの帰郷を歓迎した。
「この人はお世話になったスタンさんです。そして、彼女たちが僕の生徒、友人たちです」
「スタンじゃ、よろしくお嬢さんたち」
「こちらこそ……」
そして、ネギはアスナたちへと向き、スタンを紹介した。また、同じくアスナたちのことを、スタンへと話した。スタンはそこで自ら名乗り出て、よろしくと言葉にしていた。アスナたちも、スタンが高齢の方ということもあり、多少恐縮しながらも、しっかりとそれに答えたのである。
「向こうでも元気でやっとったようじゃあ。顔を見ればわかるぞ?」
「そうですか?」
「もちろんじゃ」
また、スタンはネギを見て、修行へ行った日本でも元気していたことを悟った。ネギは元気していたことに間違いはないので否定はしなかったが、顔を見ただけでわかるものなのだろうかと疑問を口にした。スタンはそのネギの問いに、当然と言う表情で、それを答えていた。
「して、クソぼーず」
「なんだよクソジジイ」
さらにそこでスタンは、気まずそうにソッポを向いているカギへと、少し乱暴な物言いで話しかけた。カギもふて腐れたような粗暴な感じで、スタンの言葉に反応していた。
というのも、スタンはカギをあまりよい目で見ていない。元々カギはあんな性格だったために、かなりの問題児でもあった。常日頃から迷惑ばかりをかけるカギを、その父親であるナギの小さな頃と重ねている部分もあったからだ。
「……随分といい顔になったのう、雰囲気もここから出る前よりもやわらかくなっておる」
「なっ、なんだよ急に!?」
だが、スタンの表情は一変、険しい顔から温かみのあるやわらかいものになったではないか。そして、スタンはカギへと近寄り、微笑を見せて頷きながら、雰囲気が以前よりも良くなったとカギへ述べたのだ。カギはいつもならいがみ合っているスタンが、突然優しくなったことに君が悪いとばかりに、大声を上げていた。
「何、おぬしも色々あったようだと思ってな」
「そうかよ。しっかし、アンタに褒められるとか気持ち悪ぃな……」
「ハッハッハッ! そうかそうか!」
するとスタンは優しい目をして、カギにも色々あったのだと察したと話したのだ。カギは生意気な態度をとりつつも、小さく笑みを見せていた。また、普段から喧嘩ばかりしていたスタンが自分を褒めるというのは、なんだか体がかゆくなると言う感じのことを、カギは言葉にしていたのだった。
スタンはそんなカギの言葉を聞くと、愉快そうに笑い出した。確かに言われてみればそうかもしれぬと、スタン本人も思ったのである。
「して、お嬢さん方、これからもぼーず、ネギのことを、それからこのカギのことも頼みますぞ……」
「はい! お任せくださいませ!」
そして、スタンはアスナたちの方を向きなおし、頭を下げてネギとカギのことを頼むと言った。アスナたちもそっと頭を下げていたが、そこでもっともテンション高く答えていたのはあやかであった。こうして挨拶が終わった一同は、ネギの案内のもと、さらに別の場所へ移動していくのだった。スタンも立ち去るネギたちを見送るように、ずっとその方向を小さく笑いながら見ていたのだった。
「ここが僕たちがよく遊んでた場所です」
「綺麗やなー」
ネギ一同が次に来た場所、それは大きな滝が近くにある、美しい湖だった。ネギはこの場所にも思い入れがあり、アスナたちを連れてきたのだ。そんな湖畔のさわやかな景色に、木乃香たちは感動していた。
「ここでタカミチさんと最初に出会ったんですよ」
「へぇー、高畑先生こんなところまで来てたのね……」
また、ネギはここでタカミチとはじめて会った場所でもあると言葉にした。するとアスナは、こんなところまで態々来ていたのか、と思ったようだ。
いや、出張が多いと聞いていたタカミチ。実際多かったのだが、もしやその一つの内でここに来たりはしてはいないだろうか、そうアスナは邪推したのである。何せネギに随分入れ込んでいたのだ、そうしてもおかしくないと思ったのだ。しかしまあ、これは明らかに個人的な問題なので、まずそれはないだろうと、その考えを投げ捨てたのだった。
「あの、アヤカさんとおっしゃいましたか」
「はい? お姉様」
そこでネギについてきていたネカネは、ふと同じくネギについてきていたあやかへと話しかけた。あやかはなんだろうか、と思いながらも、少し嬉しそうな感じでそれを聞き返した。
「その……ネギやカギはご迷惑をかけていないでしょうか? 10歳の子供たちが先生だなんて、未だに信じられなくて……」
「ご安心ください、ネギ先生もカギ先生もよくやっておりますわ」
ネカネはネギやカギのような子供が先生になって、目の前の彼女たちにものを教えているというのが信じられないと思ったのだ。そりゃ10歳の子供がそれよりも年上の人に、何かを教えるなんて考えられないのも無理はないだろう。そんな不安そうなネカネへ、あやかはやさしく微笑みながら、心配はいらないと言葉にした。
「確かに、最初の頃は少々ですが、不安な面もありました」
とは言うものの、あやかも最初は二人を不安げに見ていたようだ。特にカギのことだ。なんだかよくわからないカギに、あやかは少し不安を覚えたのである。
あやかの好みはいい子な少年、つまりネギのような子である。ナマイキなガキ、つまり小太郎のような子はあまりタイプではないのだ。まあ、それでも一緒の部屋に住むことになった小太郎の粗暴な態度を叱ったり、面倒を見ることは忘れないのだが。
「ですが、子供だからと甘えず、必死で頑張っておりましたし、随分と成長なされたかと思います」
「そうですか……」
故に、最初にネギたちと会った時は、あやかも不安だったのだ。しかし、それもすぐに解消されたようで、主にネギの頑張りでコロッと安心してしまったのである。それを少し誇張して、自信を持ってあやかはネカネへと話した。ネカネもそれならよかった、と言う様子を見せ、少しほっとしたようだった。
その湖でネギたちは少しの間談笑し、村の方へと戻っていった。そして、とある屋敷の前へとやってきたのである。
「ここが、僕たちの面倒をよく見てくれた人が住んでいた場所です」
「懐かしいわね……」
その屋敷はあのギガントが使っていたものであった。ネギは古びた感じの木の扉に手をかけ、中へと入っていった。アーニャも半年ほど前まで世話になったその場所を、懐かしいと言葉にしていた。また、ネギがその屋敷へ入ったのを見たアスナたちも、つられて入っていったのである。
「もしかして、師匠の?」
「はい、そうです」
「この場所が……」
屋敷へと夕映とのどかも入り、屋敷の中を見渡した。そこでふと夕映は、ネギの言葉のことを考えた。ここに来たときのネギの言葉、面倒を良く見てくれた人、ということだ。そして、それは多分自分の師匠である、あのギガントのことなのだと考え、それをネギへと尋ねたのだ。
ネギはそれを肯定し、この場所こそがギガントが使っていた屋敷なのだと教えた。夕映はやっぱりと思いながらも、それを聞いてますますこの屋敷に興味が沸いた様子を見せた。のどかも同じように、この場所が自分たちの師匠が使っていた場所なんだと、静かに屋敷内を眺めていた。
「あなたたち、何か知っていますの?」
「いえ、私たちもネギ先生のその恩人に、少し世話になった時があったもので……」
「なっ! なんですって!?」
そこで、その夕映たちの話をうっすらと聞いていたあやかがピクリと反応を見せた。何故なら夕映たちが、どういう訳かネギの世話になった人と知り合いのような様子だったからだ。それを夕映たちに聞いてみれば、なんとネギの恩師に少しだが世話になったと言うではないか。あやかはその話を聞き、大きな声を出して驚いたのだ。
「何で教えてくれなかったんですの!?」
「別にたいしたことではなかったですから……」
「……本当でしょうね……?」
あやかはその人物のことを何故教えてくれなかったのかと、夕映たちへと叫んだ。しかし、夕映はそれを正直に話すことはできない。”ネギの恩師に魔法習ってました”なんて言えるわけがないからだ。だから夕映は、多少なりと世話になったが、特にそれ以上はないと言って白を切ることにした。
あやかは不審な態度を見せる夕映とのどかに、疑いのまなざしを向けていた。まあそれでも、本人たちがそう言うならそうなんだろうと考えたのか、それ以上は聞かなかった。
「今は誰も使ってませんが、いつでも使えるようにはしてあるそうです」
「確かに、小奇麗に掃除されてますね……」
また、ネギはこの場所について少し説明をしていた。誰も使っていない屋敷だが、いつでも使えるようにされていると。それを聞いた夕映は、空になった棚を見て、ホコリが見当たらないことに気が付いた。誰かが掃除をしているのだろうか、誰も使っていないというのに、綺麗に掃除されているのだ。いったいどんな魔法でそういうことをしているのだろうかと、夕映は不思議だと思ったのである。
「ほう、なかなかアイツの工房らしいトコじゃないか」
「エヴァンジェリンさん? どうしてここへ?」
「貴様たちの師匠の工房を覗きに来たんだよ」
そこへいつのまにやら現れたエヴァンジェリンが、この屋敷の中を見てその感想を述べていた。さらに、エヴァンジェリンの横には当然のように、茶々丸も立っていた。夕映は気が付けば横にいたエヴァンジェリンへ、少し驚いた様子で話しかけた。するとエヴァンジェリンは当然という様子で、あのギガントの工房を覗きに来たと言うではないか。
「工房とは?」
「魔法使いの研究室みたいなもんさ。まあ、実際はもっと奥に専用の部屋があるんだろうがな」
「そうなんですか……」
工房とはなんぞや。夕映はそう考え、それをエヴァンジェリンへ質問してみた。エヴァンジェリンはその問いに、素直に答えてくれた。工房は魔法使いの研究室のようなものだと。というのも、当然エヴァンジェリンもあの”別荘”内に工房を持っている。まあ、それを誰かに見せたことなど一度もないが。
また、本来のこの屋敷の工房はもっと奥にあり、多分入れないように封印されているのだろうと、エヴァンジェリンは考えていた。夕映はその説明に納得したようで、そういうものもあるのかという顔をしたのである。
「そういえば、エヴァンジェリンさんはさっきからずっと影が薄いと言いますか……」
「誰もエヴァンジェリンさんのことを気にしてないですね……」
「ああ、そういう魔法を使ってるだけだ。いちいち騒がしくなるのも面倒だからな」
「そうでしたか……」
と、そこで夕映は、もう一つの疑問をエヴァンジェリンへ打ち明けた。それは、ここへ来てからというもの、なんだかエヴァンジェリンの気配が薄いのではないかということだった。のどかも他の3-Aのクラスメイトたちが、エヴァンジェリンのことをまったく気にしていないことを不思議に思っていたようだ。
エヴァンジェリンはその二人の疑問にも、きっちりと答えた。そもそもエヴァンジェリンはこの村が魔法使いの村だということを理解してやってきている。エヴァンジェリンは魔法使いの間ではかなり有名であり、いちいち絡まれるのが面倒だと思っていた。まあ、ここでの絡まれるというのは、戦闘などではなく握手を求める声なのだが。
その対策として、エヴァンジェリンは自分に気が付かないようにする魔法を、自分自身に使っていたのだ。故に、当然のように村の人はエヴァンジェリンのことをさほど気にしないし、3-Aの少女たちはエヴァンジェリンのことにまったく気が付いていないのである。現に夕映やのどかも、ここまで接近されないとエヴァンジェリンに気が付かなかったぐらいだ。
その説明を聞いて夕映とのどかは頷きならが納得していた。なるほど、そんな魔法もあるのかと。さらに、今度それも教えて欲しいと思っていた。
「……ここでお師様に色々教わったっけ」
「思い出の場所なんだね」
「……はい、そうです」
そんなエヴァンジェリンたちの横で、師との日常を思い返して小さく笑うアーニャ。のどかは、ここはアーニャにとって、それにネギにとっても大切な場所だということをしっかりと理解した。そして、それを口にすると、近くにいたネギも力強くそれを肯定したのである。
「そうか、お前らこんな場所にいつも来てたのか」
「そういえば兄さんは、ずっとこの場所を知らなかったんだっけ……」
「いやー辛いわー! 兄弟にハブられるとか辛いわー!」
すると、それを耳にしていたカギが、自分が知らない場所でコソコソやっていたのかと、暗い顔で言い出した。ネギは思い出したかのように、カギがこの場所を知らなかったことを述べると、カギはやけくそな声ではぶられただの辛いだの叫びだしたではないか。
「えー!? ハブってないよ!? ちゃんと誘ったじゃん!」
「え? そうだったか!?」
しかし、ネギにとってカギの言葉は聞き捨てならないものだった。そもそもネギはカギをハブろうと思ったことは一度もない。しっかりとカギをこの場所へ誘ったのだ。カギはそのことを完全に忘れていたらしく、嘘だろ? と言う顔をしていた。
「あの時兄さんは”俺は最強だからどうでもいい”とか言って断ったんだよ!? 覚えてないの!?!」
「マジかよ……、記憶にねぇ……」
そう、ネギはギガントの弟子になった後、当たり前のようにカギを誘っていた。だが、カギは転生して特典を得ていた。故に特典さえあれば問題ないと考え、ネギの誘いを断ったのだ。ネギはその時のことをしっかり覚えていたようで、それをカギに話すと、カギは必死にそのことを思い出そうとしながらも、記憶にないと言葉にしていた。
「これだからカギはお馬鹿だって言われるのよ」
「おっと、俺の心は硝子なんだ、それ以上はやめてくれないか……」
いやはや、そんな記憶力だから馬鹿なのだと、アーニャはカギを横目で眺めながらそう口に出した。ただ、呆れた感じではあるものの、小馬鹿にした感じではない様子だった。カギも言われて仕方ないという顔だったが、そこまで言わなくてもいいじゃないか、と情けない声で話すのだった。
「まあまあ、兄さんもあの時小さかったんだし、しょうがないよ!」
「そういうのが一番キくんだぜ……」
「そっ、そんなー!」
しかし、そこへネギがそんなカギをかばうようなことを言い出した。カギとてあの時は幼かったので、忘れてしまっていても仕方がないと。または、幼さ故に、あのようなことを口走ったのだろうと。
が、カギは弟にかばわれたということの方がショックだったようで、むしろやめてくれと言う顔をしだしたのだ。とは言え、実際はネギが自分の味方になったことを嬉しく思っているのだが。そう言われたネギは、そんなカギの内心など知らず、そりゃないよという顔で叫ぶのであった。