理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百十九話 出発

 8月12日……。

ネギたちがイギリスへ出発する予定の日だ。誰もがエヴァンジェリンの別荘内で旅行のために準備を行っており、いままさにそれが終わろうとしていた。

 

 

「よし、準備完了!」

 

 

 準備を終えて元気よく声を出していたのはネギ。キャスターつきのトランクに荷物を詰め込み、準備が終わったことを叫んでいた。

 

 

「よう、そっちは準備終わったかね?」

 

「ばっちりだよ!」

 

 

 するとカギが覗き込むように現れ、準備が終わったかを尋ねた。ネギは悠々と完璧に終わったと話し、カギもそうかそうかと頷いた。

 

 

「随分と旦那が浮かれておりますねぇ」

 

「まあ、久々の帰郷だからな」

 

 

 いつも以上にウキウキした姿のネギを見て、カモミールはカギの肩の上でそのことを言葉にした。カギはそれについて、久々に家に帰るからだとすぐに答えていた。家族である姉のネカネに久々に会えるというだけで、ネギには十分喜ばしいことなのをカギは知っていたからだ。

 

 

「ところで兄さんの方は?」

 

「ああ? 俺も完璧さ! 一つの隙もないぜ!」

 

「だといいんだけど……」

 

 

 そこでネギが逆にカギへ、そちらの準備は万端なのかと尋ねた。するとカギは自信満々の様子で、問題はないと話すではないか。しかし、ネギはそんなカギを心配そうな顔で見ていた。いつもどこか抜けているカギだ。何か忘れてないだろうかと思ったのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 同じくエヴァンジェリンの別荘の一室で、アスナたちが準備をしていた。また、初の海外旅行というだけあって、おしゃれを欠かさずに行っていたのだ。

 

 

「わあー! せっちゃんの私服かわええなー!」

 

「そっ、そうですか……?」

 

 

 そして、普段はしないようなおしゃれな格好をした刹那を、木乃香はニコニコしながら甘えるような声で褒めた。刹那は今の自分の格好が恥ずかしいようで、顔を紅色に染めながら、木乃香の言葉にくすぐったい気持ちを感じていた。

 

 

「うん、すごく似合ってるわ」

 

「はい! とてもいいと思います!」

 

「そんな、アスナさんやさよさんまで……」

 

 

 さらにはアスナとさよにまで褒められ、もはや照れ照れで動揺を隠せない刹那。かわいらしい格好をしている時点でとても恥ずかしいのに、みんなにこうも褒められては、もはや恥ずかしすぎてどうにかなりそうな様子だった。

 

 

「おう、お前ら終わったか?」

 

「あ! バーサーカーはん!」

 

 

 そこへと現れたのはバーサーカーだ。流石に女子だらけの中に入っていられなかったバーサーカーは、とりあえず適当な場所に避難していたのである。それでころあいを見計らって、戻ってきたのだ。

 

 木乃香は戻ってきたバーサーカーを歓迎するかのように、笑顔で出迎えた。また、刹那もバーサーカーに席をはずさせたことを申し訳なさそうにしており、アスナやさよもバーサーカーの方を注目していた。

 

 

「なーなー! せっちゃんの私服かわええやろ!」

 

「おおう……、んまあ、確かにイケてるじゃん? 流石、オレの大将だぜ」

 

「ばっ、バーサーカーさんもそんなことを……!」

 

 

 そして、木乃香はバーサーカーへと、今の刹那の格好について笑顔で聞いてみた。こんなかわいらしい刹那はめったに見られないし、当然かわいいと思っていたからだ。

 

 バーサーカーは木乃香の質問に、少し動揺した後にしっかり答えた。普段じゃ絶対に見られない格好の刹那に、バーサーカーも少しドキっとしたのである。

 

 しかし、刹那もまたバーサーカーに褒められて、さらに照れていた。模擬戦などの戦闘技術で褒められることは多々あっても、こうしたことでバーサーカーが褒めたことはさほどなかったからだ。それ以外にも、バーサーカーとは言え異性に褒められたというのもあった。

 

 

「まあ、惜しいところがあるとすりゃあ、ゴールデンなアクセサリーがねぇってことぐらいだな」

 

「そ、そうですか……」

 

「バーサーカーさんはホント、ゴールドが好きねぇ……」

 

「ホンマになー」

 

 

 ただ、バーサーカーは金の装飾がないことに不満を覚えたのか、それをこぼした。何せこのバーサーカー、(ゴールド)が大好きだ。何かとゴールデンな物をつけたがる。刹那にも同じように、ゴールデンなアクセサリーをつけてほしかったようだ。

 

 刹那もバーサーカーの言葉に、いつものことかと呆れていた。バーサーカーと長く付き合っていた刹那は、そのゴールデン好きもよく知っている。そのため、まあいつもの悪癖が出たな、程度に思っているのだ。

 

 そんなやり取りを見ていたアスナも、バーサーカーのゴールデンっぷりには呆れたようだ。と言うのも、自称ゴールデンなバーサーカーは、何かとゴールデンに染まりたがっている。ゴールデン好きにも限度があると、少しだけ思っていたりするのである。また、同じく木乃香もアスナと同じような表情をしながら、その意見に賛同していた。

 

 

「ところで、バーサーカーさんこそ支度の方は……?」

 

「ああ? 別にオレは霊体化してついていけばいい訳じゃん? だったら、別にたいした荷物(もん)はいらねぇと思ってよ」

 

 

 まあ、そんなことは置いておくとしてと、刹那は話を切り替えた。そこでバーサーカーが旅行の準備が出来たかどうかを聞いたのだ。バーサーカーはその問いに、なんとさほど準備はしていないと答えたではないか。

 

 だが、それには理由がある。バーサーカーはサーヴァントであり、霊体化することができる。霊体化していれば言葉通り幽霊のような状態となり、基本的に一般人には発見されずにすむようになるのだ。故に、バーサーカーはそうやってやり過ごそうと思ったのである。

 

 

「……まさか飛行機ただ乗りする気ですか……」

 

「……流石にんなこたあしねぇよ」

 

「え……? でも今霊体化して飛行機に乗るって……」

 

 

 刹那はバーサーカーの物言いで察したことを話した。霊体化して飛行機に乗り込み、ただでやりすごそうとしているのではないかと。だが、刹那の予想とは違い、バーサーカーはそれにNOと答えた。

 

 刹那はバーサーカーへ、今の言葉はそういうことではないのか、と少し困惑した様子で質問した。

 

 

「今回は刹那の友人のプライベートなフライトって訳じゃないだろ? だったらちゃんと席を予約するのがスジってモンじゃん?」

 

「確かにそうですが……」

 

 

 バーサーカーは刹那の質問に、そっと答えた。前に飛行機に乗った時は、刹那の友人が所有する飛行機での旅だった。が、故に恥ずかしくもこっそりと搭乗するしかなかった。

 

 しかし、今回はグループでの旅行であり、乗る飛行機も公共のものである。つまり、金はしっかり払っておきたいと思うのが、バーサーカーの心情であった。

 

 刹那もそれは当然だと小さく言葉にした。何かを買う時は金を支払うのは当たり前のルールであるからだ。

 

 

 また、当然ながら外国への旅行となるため、パスポートも発行していた。ただ、当然そのために戸籍が必要になるのだが、実はこのバーサーカー、それをすでに持っていたのだ。

 

 何故ならバーサーカーは、普通自動車免許証や大型自動二輪免許を取る為、関西呪術協会の長であり近衛木乃香の父でもある近衛詠春に、こっそりと戸籍を用意してもらっていたからだ。なので、スムーズにパスポートの申請が行えたのである。

 

 

「席を買って、霊体化しながらそこに座ってりゃ、こっそりついていけるってスンポーだぜ」

 

「なるほど……」

 

 

 つまるところ、バーサーカーはこの旅の話を聞いた時から、すでに準備を行っていた。そして、護衛の仕事で貰える給料で、彼女たちが乗ると話していた飛行機の席を、一つ予約しておいたのである。それなら霊体化してようがただ乗りではないので、安心だとバーサーカーは誇った様に豪語したのだ。

 

 うーむ、確かに言われたとおりだ。刹那もバーサーカーの言うとおりだと、納得した様子を見せていた。見た目ヤンキーな上に多少無茶をするが、基本ルールを厳守するバーサーカーが法律を破るはずがなかったと、刹那は静かにそう思った。

 

 しかし、旅費は学園側が負担してくれる形となっているので、保護者枠として堂々とついていけばよかったのではないかとも思う刹那だった。

 

 

…… …… ……

 

 

 他の少女たちも別々の部屋で準備をしていた。古菲や楓、それに和美も、アスナたちと同じように準備を終えようとしていた。

 

 

「準備できたアル!」

 

「いやはや、初の海外旅行がイギリスとは、期待半分緊張半分と言ったところでござるな」

 

 

 古菲も旅の用意が整ったようで、そのことを大声で元気よく発していた。また、楓ははじめての海外旅行と言うことで、ワクワクドキドキしている様子だった。

 

 

「そういえばマタっちは旅ばかりしてたんだよね? イギリスは行ったことあるの?」

 

「……イギリス!」

 

「その表情はまさか……!」

 

 

 和美がそこで、ふと思い出したかのように、マタムネのことを言葉にした。それはマタムネが、よく旅のことを話してくれたことだ。何度も何度も旅に出たマタムネならば、もしかしたらイギリスにも行ったことがあるのではと思ったのである。

 

 その和美の問いを聞いたマタムネは、イギリスとぽつり言葉に出すと、クワッと目を見開き黒目を細くし、なにやら意味深な表情をしたではないか。和美はマタムネがイギリスに行ったことがあるのではと、そこで期待を膨らませたのだ。

 

 

「いえ、今回が初めてですが?」

 

「あらら、そうなんだ……」

 

 

 だが、マタムネはそんな顔をしたにもかかわらず、しれっとイギリスは行ったことがないと述べた。和美はマタムネのその言葉に、ずっこけた。意味ありげな顔を見せたというのに、行ったことがないなどと冷静な声で語られたからだ。

 

 

「ふむ、この旅で何か得るものがあればよいですな」

 

「そうだね! すごいワクワクしてるよ!」

 

「うむ、小生も楽しみでなりません」

 

 

 そんな和美を見てマタムネは微笑ましく思いつつ、今回の旅でよい体験があればよいと話した。和美もイギリスへ、ひいては魔法世界へ行くことにとても心を踊る様子だった。マタムネも新たな土地への期待があるようで、わりと楽しみにしているようだ。

 

 

「しかし、何事もなければよいのだが……」

 

 

 ただ、マタムネはこの旅路に不安もあった。このまま平和に過ごせるのならいいのだが、果たしてそううまくいくのだろうかと。だが、それは誰にもわからないことであり、今はただ、平和の時を過ごすだけだと思うのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 さらに、別の場所でも準備をする少女たちがいた。夕映とのどかとハルナ、それにアーニャの四人だ。

 

 

「そういえばさぁ、これから行くところってアーニャちゃんの故郷でもあるんでしょ?」

 

「そういえばそうでしたね」

 

 

 ハルナが思い出したかのように、今回の旅行先のことについて話し出した。最終的な目的地は魔法世界なのだが、その途中に立ち寄る場所はネギの故郷の村だ。また、ネギの故郷はアーニャの故郷でもあるため、それをハルナが思い出したのだ。

 

 夕映もハルナの突然の言葉を聞き、確かにそうだったと思った。ネギの幼馴染なんだから当然のことだったのに、うっかりしていたと思ったのである。

 

 

「どんなところなの?」

 

「ただの田舎の村ですよ、魔法使いの隠れ里みたいな場所です」

 

「へぇー、何か逆に面白そうだね!」

 

「別に面白いところはないと思いますけど……」

 

 

 同じくハルナの言葉を聞き、どんなところなんだろうと思ったのどかは、アーニャへとそれを尋ねて見た。アーニャはそれを笑顔で答えた。山の中にある小さな偏狭の村で、魔法使いが隠れ住んでいるような場所であると。

 

 ハルナはアーニャの答えに興奮を覚えた様子だった。魔法使いの隠れ里、その言葉の響きが彼女を刺激したようだ。魔法使いの隠れ里はファンタジーな印象が強いからだろう。ただ、アーニャはただの田舎だと思っており、面白いことは無いと苦笑しながら言葉にしていた。

 

 

「確かネギ先生たちが通っていた学校もあるんだよね?」

 

「はい、向こうに行ったら案内しますよ」

 

「それは楽しみですね」

 

 

 ならば、ネギやアーニャが通っていた魔法学校というものもあったはずだと、のどかはそれもアーニャに聞いた。その問いにもアーニャは丁寧に答え、あっちについたら案内すると約束してくれたのだ。夕映はそれを聞いて、嬉しそうな表情でその場へ行くことを楽しみに思ったのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 周りが旅行への期待に胸を膨らませる中、一人その旅路を憂うものがいた。それこそ現実(リアル)を愛する少女、千雨だった。

 

 

「……なあ、師匠。本当に大丈夫なのか?」

 

「大丈夫とは何がだ?」

 

 

 千雨は不安から、現在師であるエヴァンジェリンへ、今回の旅が本当に安全なのか尋ねた。また、千雨はエヴァンジェリンのことを師匠と呼んでいたようだ。いや、それは教えを請うものとしては当然なのかもしれないが。ただ、それを聞かれたエヴァンジェリンは、大丈夫か、と聞かれただけでは何がなんだかわからないと、もう一度聞き返していた。

 

 

「魔法の世界のことだよ。本当にあいつらが行きたいのはイギリスじゃなくてあっちなんだろ?」

 

「ああ、そういうことか」

 

 

 千雨はならばと再び説明を交えて質問した。そう、千雨が不安になっているのはイギリス旅行ではなく、その先にある魔法世界行きのことだった。ネギたちは最終的に魔法世界へ行くことが目的であり、イギリス行きはその通過点だ。魔法世界とはすなわち魔法が飛び交う世界だ、何があっても不思議ではない。故に千雨は、魔法世界というものに少し不安を感じていたのである。

 

 エヴァンジェリンはそれを聞いて、千雨の不安を理解した。と言うのも、エヴァンジェリンは魔法世界のことも当然詳しい。そのためなのか、千雨が何で不安になっているのか、とっさに察することができなかったのである。

 

 

「多分問題はないだろう。前にも言った気がするが、貴様たちが行くところは先進国のような場所だからな。安全は確保されているさ」

 

「……本当なんだろうな……」

 

「嘘をついてどうする?」

 

 

 そしてエヴァンジェリンは、別に問題なんてないはずだと静かに答えた。前に説明したとおり、魔法世界と言っても先進国のような場所以外は行くことはない。つまり、別に危険な場所へ立ち寄る訳ではないので安全なのは間違いないと話した。

 

 だが、千雨はどうしても信じられない様子で、ジロリとエヴァンジェリンを見つめながら、再び真偽を尋ねた。エヴァンジェリンはそんな千雨へ、そこまで信じられないのかという顔で、嘘ではないと話した。

 

 

「それに、この私も同行してやる訳だし、問題があるはずがないだろう?」

 

「確かにそうだが……」

 

 

 さらに、エヴァンジェリン自らお目付け役を行うことにしたのだ。それなのに何が不安なのだと、千雨へ言い聞かせたのである。千雨もそれはわかっていると言葉にしたが、やはり不安は晴れないようだった。

 

 

「それとも、私が信用できないと?」

 

「いや、そういう訳じゃないんだ……」

 

 

 そんな顔をする千雨へ、エヴァンジェリンがため息をしながら、そう言葉にした。それでは自分も信用していないのではないのか、と。だが、千雨はエヴァンジェリンが信用できないとかそういう訳でもなかった。単純に、言葉では言い表せないような、漠然とした不安がのしかかっているだけなのだ。

 

 

「……まあ、見知らぬ土地に行くという不安もあるんだろう」

 

「まあな……」

 

「と言うより、そんな心配するのなら、忘れ物の心配をした方が有意義だぞ?」

 

 

 そこでエヴァンジェリンは、千雨が何に不安を感じているのかを考えた。そして、それは多分自分が足を踏み入れたことのない、まったく知らない場所へ行くことへの不安なのかもしれないと考えたのだ。それを千雨へ話せば、本人もそれを自覚している様子を見せ、小さく頷いていた。エヴァンジェリンはそれならば、もっと別のことを考えた方がいいと、再度ため息をして言葉にした。

 

 

「……そうだな。わるかったよ、変な質問しちまって」

 

「別にいいさ。不安は誰にでもあるものだ」

 

 

 千雨はエヴァンジェリンの話を聞いて、すまなかったと頭を下げた。旅の前だというのに、不安を愚痴ってしまったことへの謝罪であった。エヴァンジェリンもそのことについては気にしていない様子であり、そう言うものは誰にでもあるとさえ言っていた。 

 

 

「むしろ、不安を抱かないノーテンキな他の連中がおかしいと思うが……」

 

「やっぱそう思うか……?」

 

「……まあ、それも長所と言えば長所になるだろう……」

 

「はぁ……」

 

 

 しかし、それでも不安を感じずにはしゃぐ周囲を考えると、多少なりと不安があった方がいいのではないかと、呆れた顔で話すエヴァンジェリン。千雨も同じようなことを思っていたようで、意見があったことを少し嬉しく思いつつも、しれっとした顔でそれを聞いた。

 

 とは言ったが、それはそれで悪いことではないかもしれないと、エヴァンジェリンは言葉にしていた。不安にばかり支配されないというのも、それはそれで長所なのだろうと思ったのだ。だが、そう言うエヴァンジェリンの顔はやはり呆れそのもので、千雨はそれを見て察したのか、深いため息を吐くのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 同日、成田空港。すでにメンバーの大半はロビーに集まり、すでに出発を待つばかりだった。誰もがイギリス行きを喜び、和気藹々とはしゃいでいた。

 

 

「はじめての海外楽しみやなー」

 

「そうですね」

 

 

 木乃香も海外ということで胸いっぱいに期待を膨らませ、刹那も笑いかけてくる木乃香を見て微笑ましく思っていた。

 

 

「しかし、あのような鉄の塊が空を飛ぶというのは信じられぬでござる」

 

「ムズカシーコトはわからないアルが、飛んでるなら飛ぶアルヨ」

 

 

 また、楓は空を飛ぶ飛行機のことを考え、何であれが飛ぶのだろうかと言い出した。世間知らずな忍者故に、そういうもとには疎いようだ。だが、むしろ影分身したりする方が、普通信じられないと言うものだが。そこで古菲もよくわからないと頭をひねりながらも、とりあえず飛んでるんだから飛ぶという結論を述べていた。

 

 

「まっ、オレがライダークラスで現界すりゃ、相棒の熊公でどこだろうが突っ走って見せるんだがなぁ」

 

「なっ、何ですかそれは!?」

 

「オレっちのライダークラスモードよ。熊公でかっ飛ばしてどこまでも走れるっつー訳さ」

 

「いや、熊ですよね? まるで別のものに聞こえますが……」

 

 

 そこでMrゴールデンのことバーサーカーが、自分がライダークラスだったらと言い出した。

 

 ライダーになったゴールデンはバイクとなったベアー号にまたがり、超速度で駆け抜けることができるのだ。スキル”千里疾走”の効果にてそれが後押しされ、長時間、長距離の移動をも無尽蔵の体力で問題なくこなすことも可能だ。

 

 しかも、このベアー号は変形もする。ロボにもなると言う噂だ。まあ、それでも空を飛ぶかどうかは定かではないのだが。だと言うのに、自信満々でそう豪語しているのが目の前のゴールデンなバーサーカーだった。

 

 しかし、刹那は熊で突っ走ると聞いて、何それって感じに驚いた顔でそれを尋ねた。

熊はわかる、山にいる熊は。金太郎と言えば熊にまたがるからだ。

 

 それでもかっ飛ばすとはどういうことなんだ、そう刹那は疑問に思ったのだ。熊にまたがったらかっ飛ばすって単語が出るのだろうかと。

 

 だが、バーサーカーは意図がわかっているのかいないのか、自分がライダーで現界したらそれが可能だと言い出した。バーサーカーはベアー号が変形すること前提で話しているので、それが刹那にうまく伝わっていないのだ。

 

 すると、刹那はさらに混乱しだした。熊にまたがって走るのはわかるが、何やらバーサーカーが言っているニュアンスがそれとは違うものだと言うことも察したからだ。

 

 

「……ああ! 悪かった刹那。説明が足りてなかったみてぇだ」

 

「説明って……?」

 

 

 バーサーカーは刹那がいぶかしむ姿を見て、自分の説明不足があったことを認め素直に謝った。そうだそうだ、マスターは自分のベアー号を知らないんだった。であれば、まずベアー号のことから説明しなければ、そう反省した。

 

 が、刹那は説明と言われても、うん? と首をかしげるばかりだ。何故なら、熊が変形するなんて予想すらしていないからだ。

 

 

「あの熊公すげーヤツでな、トランスなフォームできるんだぜ?」

 

「どういうことなんですか……」

 

「それ、ホンマにクマさんなんかなー?」

 

 

 そこでゴールデンは刹那の疑問を解消すべく、その熊について深く熱く語った。なんということか、その熊は変形するというのだ。まずはバイクに変形できる、それ以外にも変形できるがそれはさだかではないが、とにかく変形できるのだ。

 

 刹那はそれを聞いて、一体何がなんだかという顔をした。熊が変形するなど、それは本当に生き物なのかさえ疑わしいからだ。もはや熊ではなくKUMA、完全に別の生き物なんじゃないかと、刹那は本気で思ったようだ。ただ、そこでバーサーカーの話を一切疑わないあたり、結構純粋なのかもしれない。

 

 また、同じく木乃香もそれを聞いて、その熊が本当に熊なのだろうかと思っていた。そりゃ普通に変形する熊なんて聞いたら、熊と思えなくて当然だろう。

 

 

「……つまり、オレっちのベアー号をバイクにして突っ走るっつーこった!」

 

「……? ……え? 今なんて……?」

 

「いや! だからよぉー!」

 

 

 そして、バーサーカーは最後に、最初に述べていたことはそういうことだとはっきり刹那へ説明した。バイクになったベアー号でかっ飛ばして突っ走る、そういう意味だったと。

 

 だが、それがさらに刹那を混乱させることになった。突然熊がバイクになると言われても、何を言ってるかわからないのは当然だ。そもそも変形するという時点で、すでに混乱していた。そこへバイクになった熊に乗って走るなど、わかる訳がないのだ。

 

 刹那はさらに混乱した様子で、聞き間違えでないだろうか、いや、聞き間違えに違いない。そんな感じで再びバーサーカーへと聞き返していた。

 

 バーサーカーは混乱した刹那へと、興奮ぎみで説明をし直しだした。それはオレの宝具であり相棒で、昔からそういう感じに使っていたと。わからないなら感覚で察してくれ、そんな感じであった。

 

 

「騒がしい連中だ……」

 

「公共の場なんだから少しは大人しくしてくれてるといいんだがなー」

 

 

 そのキャピキャピと騒ぐ少女たちや興奮して声がでかくなったバーサーカーの横で、ふて腐れた顔をしながら腕を組む金髪の幼き少女。エヴァンジェリンである。

 

 その横には茶々丸と、同じように他の連中を騒がしいと感じる千雨がいた。エヴァンジェリンは他の少女たちのはしゃぎように静かにならんのかと思い、千雨もここは空港なのだから、もう少し静かにしろと思っていた。

 

 

「マスター、ネコたちは本当に大丈夫なのでしょうか……」

 

「……それは貴様の妹どもが世話してくれているはずだろう? 心配することなどないはずだが?」

 

 

 そんな機嫌が少し悪そうなエヴァンジェリンへ、茶々丸がなんだかそわそわした様子で声をかけた。茶々丸は自分が拾ってきた野良猫たちのことが、気になっていたのである。エヴァンジェリンはその問いに、何を言っているんだという顔で答えた。

 

 と言うのも、茶々丸の拾ってきた野良猫はエヴァンジェリンが用意した魔法球の中で世話をしている。当然茶々丸が世話をしているので、茶々丸が外に出れば世話をするものがいなくなる。

 

 しかし、そこは超や葉加瀬たちが新たに作った茶々丸の妹機に任せてあった。と言うか、ネコの世話の仕方を全てレクチャーしたのは、茶々丸本人なのだ。故に、エヴァンジェリンは茶々丸の心配する姿に、少し呆れていたのである。

 

 

「ですが……、やはり自分が世話をしていないと、どうも心配で……」

 

「はぁ……、貴様は心配性だな……」

 

「そうなんでしょうか……?」

 

 

 ただ、茶々丸が心配になるのも仕方のないことだった。普段なら自分が世話をしてきたネコを、自分で面倒が見れないことに不安を感じていたのだ。とは言え、茶々丸の妹機がミスをするはずもない。

 

 それを考えたエヴァンジェリンは、非常に些細な変化だが不安な表情をする茶々丸を見て、心配しすぎだと思いため息をついた。だが、茶々丸本人は心配性というものがよくわかっておらず、首をひねるだけであった。

 

 

「ああそうだ、それが心配性でなくて何だと言うんだ?」

 

「……私にはそのあたりがよくわかりませんので……」

 

 

 エヴァンジェリンは茶々丸へ、それが心配性というものだと言葉にした。しかし、やはり茶々丸には理解できなかったようで、これが心配性なのかもしれない、と思うぐらいしかできなかったようだ。

 

 

「まあ、そういうことも、おのずとわかるようになるだろうさ」

 

「……はい」

 

 

 エヴァンジェリンはそんな茶々丸に、呆れてはいたが嬉しくも思っていた。こうして茶々丸が自分が世話をしているネコのことで、親身になって心配している。昔の感情が希薄だった茶々丸からは、考えられないほど感情豊かになってきている。ならば、心配性ということももう少し成長すれば、理解できるようになるだろうと思い、エヴァンジェリンは茶々丸へと、それを苦笑しながら話したのだ。

 

 茶々丸のエヴァンジェリンの表情を見て、小さく笑みをことし、静かに返事をした。マスターであるエヴァンジェリンがそう言うのであれば、きっと自分にもわかる日が来ると思ったのである。

 

 

「この私を差し置いて、面白そうなことをやってるみたいだねぇー」

 

 

 そんな和気藹々とした集団の前に突然現れた少女が一人、その少女たちへと声をかけた。

 

 

「ゆーな!?」

 

「何でここに?!」

 

 

 なんということだろうか、それは裕奈であった。夕映もハルナも裕奈の登場に驚き、一体どうしてここに居るのかと声を出していた。また、それ以外の集まった少女たちも、驚いた表情をしていたのだ。

 

 

「フッフッフッ、何故ってそれは簡単なこと……」

 

「あっ、俺が誘った」

 

 

 そして、裕奈は何故ここにいるかと言えば、と理由をもったいぶりながら語ろうとした。が、その時、カギが平然とその場で、自分が誘ったと言い放ったのである。

 

 カギは裕奈が魔法生徒であることを、学園祭前日に世界樹前広場で行われた会議の時に知った。魔法使いの会議なので、当然裕奈も出てきていたのだ。さらにカギだけでなくネギもその事実をその時に知ったようだ。

 

 

「何で先に言っちゃうの!? カギ君!!」

 

「え? ダメだった?」

 

「あったりまえじゃん!」

 

 

 しかし、自分で自慢するかのように話そうとしたことを、先にカギに言われてしまった裕奈は、それに対してカギへと文句を言った。カギは何で? というようなとぼけた顔で、何でダメだったのか聞いていた。裕奈は当然、自分でそれを言いたかったので、それがダメだったと叫んで答えた。

 

 

「そっか、ゆーなも魔法使いだったっけ」

 

「嘘!?」

 

「そうだったんだ……」

 

「今まで知りませんでした……」

 

 

 そこでアスナは思い出したかのように、裕奈が魔法使いだったことを言葉にした。するとハルナものどかも夕映も驚きの声を出し、まったくわからなかったとこぼした。

 

 

「黙っててゴメンゴメン! でもさ、魔法使いとバレたらいけないからね」

 

「それについてはよくわかってますので……」

 

「そーそー! だから謝る必要なんてないって!」

 

 

 とは言え、魔法使いはそれを隠蔽するルールがある。当然裕奈もそれを悟られぬようにしなければならなかった。まあ、それでも隠していたことについて、祐奈はみんなに謝った。ただ、夕映たちはそのことを重々承知しており、別に謝る必要はないと、苦笑しながら述べたのだ。

 

 

「おや、みんなそろったのかい?」

 

「そーみたいだよ!」

 

「誰?!」

 

 

 と、そこへもう一人、裕奈の後ろから男性が現れた。それはあのアルスであった。彼もまた、カギに誘われていたようである。カギはアルスのことも裕奈と同じように、学園祭前日の会議で知ったようである。

 

 

「はじめまして、俺はアルス・ホールド。男子の中等部で教師をしてるものさ」

 

 

 アルスははじめて会った少女たちへ、さわやかな笑みともに自己紹介を行った。なんとこのアルス、実は男子中等部の教師だったらしい。つまるところ、あの状助の担任であるジョーテスと同僚ということになるようだ。

 

 

「あと、そこのネギ先生と同じく魔法使いでもある。よろしく頼むよ」

 

「よろしくお願いします!」

 

 

 また、アルスは自分が魔法使いであることもここで明かした。とは言え、当然のごとく周囲の一般人にわからないようにしながらであるが。そして、よろしくと言われた少女たちも、返すようにはっきりと元気よく挨拶をしていた。

 

 

「この金髪のイケメンはゆーなの知り合い?」

 

「そうだよ、おかーさんの友達の旦那さん」

 

「へえー」

 

 

 ハルナは目の前のアルスと裕奈が知人のように会話していたのを見て、それを裕奈へと尋ねた。裕奈はそれを普通に答えた。そう、アルスは裕奈の母親である夕子の友人のドネットの旦那である。その説明を聞いたハルナは、なるほどと言う顔をしていた。

 

 

「アルスさん、久しぶりです」

 

「あっ、アルスさん、どうもー」

 

「ご無沙汰だね」

 

 

 また、ネギとアーニャもアルスの側へより、頭を下げて挨拶した。アルスも軽快に挨拶を返し、久しぶりの再開を喜んだ。

 

 

「ネギ君のことは知ってたけど、アーニャちゃんとまで知り合いだったの?!」

 

「少しだけですけどお世話になりましたから」

 

「そういうこと。いやぁ、世界は広いねぇ、イングランドは狭いねぇ」

 

 

 その様子を見ていた裕奈はかなり驚いた顔をして見せた。アルスはネギと顔見知りな様子だったのを、裕奈は学園祭の時に知った。が、それ以外にもなんとあのアーニャとも知り合いだったというのは、衝撃的な事実だったのだ。

 

 そんな裕奈へアーニャは、そこまで深い知り合いという訳ではないと話した。そして、アルスはどこかでつながってる人間関係をたとえ、世界は広いが自分の世界は狭いと笑っていたのだった。

 

 

「あれ、カギ君とは知り合いじゃないの?」

 

「彼のことは一応知ってるが、知り合いと言うほどじゃないんだよね」

 

「俺だってコイツを見るのは学園祭が初めてだ」

 

「……そんなハズはないんだがなあ……」

 

 

 そこで裕奈はふと疑問に思った。アルスはネギやアーニャと知り合いなのだから、カギとも知り合いではないのだろうかと。裕奈はそれをアルスへ尋ねれば、アルスはカギのことは一方的に知っているだけで、知り合いではないと話した。さらにカギは、アルスを見たのは学園祭の時がはじめてだと、同意するようなことを述べたのだ。

 

 しかし、アルスはカギのその言葉に、それはおかしいと額を手で押さえてこぼした。と言うのも、このアルスの娘はネギやアーニャと同じ魔法学校へ通っている。そのつてでアルスはネギやアーニャと顔見知りなのだ。それなのに、カギはアルスを知らぬと言った。故に、アルスはおかしいと思ったのだ。

 

 それもそのはず、このカギ、昔は本気でどうでもいいことは記憶しない性質の人間だった。ぶっちゃけ昔のカギは”原作ヒロイン”を手篭めにしたいと言う欲求以外、基本的にどうでもよかった。そのせいで知っているはずのアルスすらも、見たことがないと言うほどに記憶してなかったのである。

 

 

「まあ、あっち(イギリス)は俺の故郷でもあるんだ。向こうへの水先案内人は任せてくれ」

 

「頼もしい人がきたねぇ!」

 

「よろしくお願いします!」

 

 

 だが、カギのことは置いておくとして、アルスは向かう先は自分の古巣なので、案内しようと申し出た。ハルナはそのアルスの言葉に、頼りになりそうだと思い、のどかはぺこりと頭を下げていた。

 

 

「で、全員そろったの?」

 

「そうだと思うけど……?」

 

 

 また、裕奈はハルナへ、ここにいる人で全員なのかと尋ねた。ハルナもそのあたりはカギに一任していたので、よくわからない様子を見せながらも、多分そうなのだろうと答えた。

 

 

「よう!」

 

「久しぶりだな」

 

「……来たのか」

 

 

 だが、そこへさらに二人の男子が現れた。そう、それはカズヤと法だった。二人は腕を組んで、彼らを待っていたような様子を見せる千雨へと挨拶した。千雨は腕を組みながら、彼らが来たことをツンとした顔で見ていた。確かに誘っては見たが、まさか本当にやってくるとはと、千雨は思ったようだ。

 

 

「おお? いつぞやの千雨ちゃんの彼氏!」

 

「ちげーっつってんだろ!?」

 

 

 ハルナはカズヤと法を見て、学園祭の時に協力してくれた千雨の友人だとすぐわかった。そこで千雨を茶化すように、ハルナはその二人のことを彼氏なのではと、笑いながら言葉にしたのだ。

 

 千雨はそのハルナの言葉を大声で叫んで否定した千雨は彼らを友人だとは思っていても、それ以上の感情は持ち合わせてないからだ。とは言え、そのような大げさな反応をするからこそ、ハルナが面白おかしく騒ぎ立てるのだが。

 

 

「あの二人を呼んだの?」

 

「まあな……」

 

 

 そこへアスナも千雨へと近づき、彼らを呼んだのかと聞いた。千雨は少々渋い顔をしながら、静かにそれを肯定した。

 

 

「まっ、あっちのちっこいのにも呼ばれてたしよ」

 

「色々と興味深いと思ったので、申し訳ないが乗せてもらった」

 

 

 その話を聞いたカズヤと法は、ここへ来たそれ以外の理由を述べ始めた。彼らも一応カギに、すでに誘われていたようだった。それを話しながら、カズヤは親指をカギへと向けていた。また、海外などにも興味があったので、その話に乗っかったと法はすまなそうな顔で話した。

 

 

「ふむ、随分戦力をそろえたな」

 

「まーな、あっちは何があるかわからねぇからよ」

 

「……確かにな」

 

 

 エヴァンジェリンもその二人を見て、何か思ったことがあるようだ。それを言葉に出すと、千雨も魔法世界(あっち)では何が起こるかわからないので呼んだのもあると話した。エヴァンジェリンは千雨のその話に、それはありえなくはないとこぼした。確かにあっちは治安はいいと話したが、懸念するべきところはその部分ではないと思っているからだ。

 

 

「いや待て、普通なら何もないって言うところじゃねーのか!?」

 

「そうか? それは悪かったな」

 

 

 しかし、千雨は本気で危険を考えて二人を呼んだわけではない。何かあったら助けてもらおうという考え程度だったのだ。だというのに、エヴァンジェリンは難しい顔をしながら腕を組んで、そのようなことを言い出したではないか。

 

 本来ならば、そこで安心させるようなことを言うところなのではないかと、千雨はエヴァンジェリンへ叫んだのである。そんな千雨をエヴァンジェリンは横目で見ながら、そんなもんなのか? と思いながらも不安にしたことについて謝った。

 

 

「そろそろ搭乗の時間ですね」

 

「行きましょうか」

 

 

 そうこうしている間に飛行機の搭乗時間となっていた。夕映は時計を見てそれを述べ、ネギもなら移動を始めようと話した。そして、集団は飛行機へ乗り込むために、移動を開始した。

 

 

「おーい! 待ってくれッ!」

 

「え……?」

 

 

 だが、そこへ後ろを追いかけて走ってくる、一人の男子の姿があった。その声を聞いたアスナが、ふと後ろを向けば、もっとも見知った男子の顔がそこにあった。それはあの状助だった。

 

 

「ハァ……ハァ……。いやあ、ちと遅れちまってすまねぇ」

 

「状助……?」

 

 

 遅れたことで走ってきたのか、息を切らす状助。誰もが状助の登場により、足を止めて後ろを振り返った。また、アスナは何故ここに状助がいるのか、わからないといった顔をしながら、その状助を眺めていた。

 

 

「なんで来たの!?」

 

「何でってこたぁねーだろうが!? あのカギっちゅーヤツに誘われてたんだからよぉ」

 

「で、でも!」

 

 

 するとアスナは状助へ、怒った様子で叫んだ。この前話した時に、ついてこないように言ったはずだからだ。ただ、アスナはイギリスに来るだけなら問題ないと思っている。が、状助は確実に魔法世界へも来るだろうと、アスナは考えていた。そして、そこでは何があるかわからない、何かあったら巻き込みたくないが故に、状助が来ることを拒んでいるのだ。

 

 状助はそんなアスナへ、怒らんでもいいだろうといった顔で、前にも言ったことをもう一度話した。状助もカギに誘われており、だからここへやってきたのだ。だが、その状助の言葉に納得しない様子のアスナ。やはり状助がついてくることに不安だった。

 

 

「別によぉ、絶対安全でもねぇんだろうが、絶対危険って訳でもねぇんだろ? だったらいいじゃあねぇか」

 

「そうだけど……」

 

 

 状助はそこで、この旅行が危険の可能性があるだろうが、可能性の話でしかないのではないかと話した。アスナが危険だといっているのは仮定でしかなく、実際起こるという訳ではない。ならば、そこまで恐れるほどでもないのではないかと、状助は話したのだ。

 

 アスナは状助のその言葉に、確かにそうだと思った。それでも、やはりこの先何があるかわからないという気持ちは消えなかった。何せ状助はスタンドという能力を持つだけの一般人に等しい人間。何かあったらどうなるかわからないからだ。

 

 いや、それは本来状助に言えることだけではない。はっきり言えばハルナたちも、自衛できるか微妙なレベルだ。それでも状助だけにこだわるアスナは、無意識ながら多少なりに状助を特別視しているのかもしれない。

 

 

「それによぉ、何かあったっつーんなら、俺の能力(スタンド)が役に立つかもしれねぇからよ」

 

「……本当に来るのね?」

 

「そう決めちまったからな」

 

 

 また、状助がアスナたちについていくことにしたのは、やはり自分の特典(スタンド)が役に立つかもしれないと思ったからだ。”原作”ではネギが敵の攻撃で重症を負わされたりしていた。ここでそうなるとは限らないが、そうなれば自分のスタンドで治せると思ったのだ。

 

 アスナはため息を一度吐いたあと、状助へと一緒に来ることへの後悔はないのか尋ねた。それを状助は決意をこめた表情で、当然だという風に話したのだ。

 

 

「……はぁ、わかった。でも、無理しないでよね?」

 

「俺はビビリだからよぉ、そんなことはしねぇぜ」

 

「本当かしら……」

 

 

 ここまで言ってもダメならば、仕方がないと諦めたアスナ。ただ、無理だけは絶対にしないでほしいと、状助へと注意した。状助も自分はヘタレだと思っているので、そんなことは絶対にしないとアスナへ言葉にした。が、アスナは状助がヘタレだということも知っているが、同時に爆発的な行動を起こすことも知っていた。なので、状助の言葉がいまいち信用できない顔をしたのであった。

 

 こうしてメンバーがそろった一同は、飛行機へと乗り込み、イギリスへ向かったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 アスナたちがイギリスへ向かう日と同日。雪広財閥が所有する私有飛行場に、3-Aの少女たちが集まっていた。

 

 

「ホホホ、どうぞ庶民の皆様」

 

 

 先導するのはやはり雪広財閥の娘、あやかだ。あやかはイギリスへ行くために、この場所へ来たのだ。さらに、ついてきたい人を集め、一緒にイギリスへ行こうとしているのだ。

 

 

「俺なんか来てよかったのかな……。すごい場違いな感じなんだけど……」

 

「別に問題ありませんわ」

 

 

 だが、そんな誰もがワイワイとはしゃぐ中で、一人違う空気をかもし出す人がいた。それは状助や覇王の友人である、あの三郎だった。三郎はここでの空気に場違いな気持ちとなっており、恐縮していたのだ。そんな三郎へと、特に気にすることは無いと、あやかは声をかけていた。

 

 

「東さんのご友人とも聞いておりますし、うちのクラスでそんなことを気にする人などいないでしょう」

 

「そうだよ、気にしてないよ」

 

「そ、そうかい?」

 

 

 と言うのも、三郎が何故ここにいるかと言うと、その彼女である亜子に誘われたからだ。故に、友人の彼氏がここに紛れようとも、誰も気にはしないとあやかは話した。それに便乗し、緊張しなくてもよいと話すのは亜子の友人のアキラだ。そう二人に言われた三郎は、気まずい気持ちを押さえ、少しだけリラックスしようと思ったのである。

 

 さらに三郎は、状助もイギリスへ行くようなことを話していたのを聞いていた。あの状助が行くのであれば、と考えた三郎は、別ルートになってしまうと思ったが、この誘いの言葉に甘え、イギリスへ行こうと思ったのである。

 

 

「ゴメンなー、ウチが誘ったばっかりに気使わせてしもーて……」

 

「いやあ、気にしなくていいよ。誘ってもらえて嬉しいしね」

 

 

 そして、誘った本人である亜子も、三郎に気を使わせてしまったことを謝っていた。三郎はそれを受け止めつつ、むしろそんなことで謝らなくてもよいと、少し苦笑しながら言葉にした。何せ居心地が悪そうにしているのは三郎自身であり、周りが悪い訳ではないからだ。

 

 また、何故亜子が三郎をここへ誘ったかと言うと、それは5月に行ったあやかの島でのことが原因だった。あの時、亜子はアスナや木乃香が男子の友人を誘っているのを見て、自分も三郎を誘えばよかったと思い後悔した。それ故に、今回はあやかへ許可を貰い、三郎を誘ったのである。

 

 

「あの二人うまくやってるみたいでよかったよかった」

 

「そうだねー」

 

「いい感じだね」

 

 

 その亜子と三郎の二人の光景を遠くから眺め喜ぶ少女三人。美砂と桜子と円だ。三人はあの二人を応援しているので、うまく言っている感じの二人に嬉しく思うのだ。

 

 

「……」

 

 

 アキラも同じように、少し離れた場所でその二人を眺めていた。ただ、何かを深く考えるような表情で、どこか遠くを見ているような、そんな状態だった。それはアキラの兄貴分として仲良くしている男性、刃牙のことでだった。

 

 刃牙は流石にここへは来ていない。アキラも流石に刃牙を誘おうとは思わなかったし、刃牙も当然来る気などない。それでも刃牙はアキラへ、一言だけ忠告を話していた。それは”イギリス(あっち)へ行っても変なところへは行くな”というものだった。

 

 この刃牙は当然転生者だ。魔法世界へ”原作”でアキラが行ってしまうことも、その後危険な目に会うことも知っている。しかし、自分が魔法世界へついて行くのは難しい。それに、行ったとして何ができるのかを考えたら、はっきり言えば何もできないと刃牙は考えた。

 

 刃牙はスタンドのクラッシュを特典に貰ったが、魔法世界での戦闘力のインフレにはついていけないと考えたのだ。あの銀髪のこと神威にすらボコボコにやられた自分が、魔法世界で役に立つことは不可能と判断した刃牙は、せめて、アキラが魔法世界へ行って迷わぬよう、忠告を一言入れたのである。

 

 だが、アキラにはそれが危ないところへ行くなという、単なる忠告なのだろうかと思った。が、刃牙のその時の表情はとても真面目で、普段のチャラけた顔とは別物だった。それを思い出していたアキラは、あの時の言葉は何か意味があるのだろうかと、ここにきて考えていたのである。

 

 

「ああっ! そういえばゆーながいない!」

 

「本当だ!」

 

「どこに行ったんだろう……」

 

 

 そんなアキラが思慮しているところで、桜子が思い出したかのように、誰か一人いないことを叫んでいた。それはあの裕奈が、ここにいないことだった。あの遊び好きの裕奈がここにいないというのは一体どうしたのだろうかと、その横にいた美砂と円も驚いた様子を見せていた。

 

 

「さてはうっかり忘れた?」

 

「さぁ、でももう出発だしねえ……」

 

「残念だけど置いていくしかないか……」

 

 

 まあ、ここにいないのなら仕方がない。寝坊か、日付を勘違いしたのかはわからないが、もうすぐ出発なのだ。残念だが裕奈はおいていくしかない、そう考える三人だった。しかし、裕奈はすでにネギたちと先にイギリスへ旅立っていることを、誰もが知る由もなかった。

 

 

…… …… ……

 

 

 そして、同じ日の麻帆良の地下で、一人輝く天井を見上げながら、ネギたちの旅路を憂うアルビレオの姿があった。アルビレオはこの日にネギたちがイギリスへ、さらには魔法世界へ旅立つことを知っていたのだ。また、心配からなのか、普段は得体の知れない笑みの表情でかためられたアルビレオだったが、今回ばかりは真剣な表情をしていた。

 

 

「行ったようですね……」

 

 

 行ってしまった。というのが彼の本音であった。実際は彼が煽動し、ネギたちを魔法世界へ行かせたに等しい。だが、それもすべてやむをえないことであった。確かにこのアルビレオはひねくれた男だ。普通ならば悠々と、ネギを魔法世界へ行かせるであろう。

 

 しかし、ここでは事情が少し違う。魔法世界は荒れ、危険が伴う可能性が十分あった。そんな場所へと友人の息子を行かせようなど、流石の彼も思うはずがない。だが、それでも行かせなければならぬと言う、苦渋の判断を彼は下した。

 

 本来ならばついて行きたくもあったが、それはできない。この場所を離れるわけにはいかないのだ。だからこそ、魔法世界(むこう)にいるメトゥーナトを頼るほかなかったのだ。そして、それしかできない自分の無力さも、かみ締めるしかなかったのである。

 

 

「何もなければよいのですが……」

 

 

 何があるかわからない。何もなければそれでいい。アルビレオは旅立った彼らの身を案じながらも、この場所で今はただひたすらに、彼らの帰りを待つしかないのであった。

 

 


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