理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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1日遅れて申し訳ございませんでした
後、今年の更新はこれで終わりになると思います
みなさま、よいお年を


百十七話 それぞれの夏休み その②

 ここは某大型イベント会場、そこで行われているのは、夏と冬だけのに行われている某イベント行事だ。そして、その中で多くのカメラを持つ人に囲まれている少女がいた。

 

 

「こっちに困り顔お願いしまーす!」

 

「伝説の14話のポーズお願いします」

 

「こっちに笑顔を!」

 

「え~~~? こうですか? わかりませーん!」

 

 

 それはコスプレをした千雨だった。やはり魔法少女ビブリオンの敵幹部、ビブリオ・ルーラン・ルージュのコスプレだ。また、千雨は周りの人たちからカメラを向けられ、ポーズを要求されていたのである。それに困惑したふりをしながら、とっさに頼まれたポーズを取る千雨。結構うかれており、今が絶好調と言わんばかりの様子であった。

 

 

「あっ! いたー! 千雨さーん!」

 

「ウーッス」

 

「な!?」

 

 

 だが、そんな千雨に水を差すようなことが発生した。なんと千雨の担任で子供先生であるネギが、どういう訳かこんな場所へやってきたのだ。しかも、横には明らかに場違いな少年、小太郎もいるではないか。

 

 これには千雨も驚いた、当たり前だがこんな子供二人で、こんな場所へやってきたからだ。さらに、この二人が来ても特に面白みもないだろうし、得があるようには思えなかったからである。

 

 

「すごいお祭りですねー」

 

「何故貴様らがここにいる!?」

 

「ハルナさんのお誘いで」

 

「マジか……」

 

 

 それでもネギは、このイベントを大きなお祭りと考えており、楽しんでいる様子を見せていた。そういう趣味を持たないネギが何を楽しんでいるのだろうか、千雨は不思議に思ったが、それ以前にどうしてこんな場所にいるのだろうかと思った。

 

 だからそれを尋ねれば、ネギはしっかりその理由答えたのである。また、カギも一緒に来ていたのだが、すでにネギの下におらず、一人でどこかへ言ってしまった模様。

 

 なんということをしてるんだアイツは、千雨はそう思った。こういうイベントはそういう人が来るところだ。興味があろうがなかろうが、こんだけ人が多い場所にこんな子供を誘うのは、流石にないだろうと千雨は思ったのである。

 

 

「だがここはテメーらの来る場所じゃねえ!」

 

「何でですか!?」

 

 

 故に千雨はネギや小太郎に、少し怒った感じで叫んだ。だが、ネギにはその理由がさっぱりわからず、驚きながら返すしかなかった。

 

 と言うのもネギはイギリスで育ったので、こう言うイベント関連を見るのが初めてだ。それで呼ばれたとは言え興味津々とやってきたのだ。小太郎も日本の京都で育ったが孤児であった。こんなイベント知るはずもない。だからネギと同じように、なんだろうかと思ってついてきたのだ。

 

 

「しかし、きれーな格好ですねー」

 

「だーっ! すっかり忘れてた!?」

 

 

 しかし、今の自分がコスプレしていることを、千雨はうっかり忘れていた。千雨は自分の趣味を隠していたが、ネギや小太郎がここに来たことに驚き、それどころではなかったのだ。

 

 ネギは普段千雨がしないような格好をしていることに気がつき、その感想を率直に述べた。ネギの子供としての感性ではあるが、その千雨の姿はとてもかわいらしく綺麗に見えた。なので、そのことを無垢な感じで褒めたのである。

 

 だが、千雨にとって、それは重大なことだった。ここでは未だネギに打ち明けていない趣味を、初めてネギに見られたのだ。しまったと思った時には、すでに手遅れとなっていたのである。

 

 

「よう、相変わらずだなお前」

 

「久しぶりだな長谷川」

 

「何っ!? 何でテメーらまで!?」

 

 

 そんな時、またしても珍客が登場した。あのカズヤと法の二人だ。この二人も普通に考えれば、このような場所に来る人間ではない。千雨はいつもどおり挨拶してくる二人に、かなり驚かされていたのだった。

 

 

「あ、どうも」

 

「兄ちゃんたち、確か武道会でバトってた二人やないか?」

 

「よっ!」

 

「久しぶりです」

 

 

 ネギはその二人に頭を下げ、小太郎はまほら武道会の試合で二人が戦っていたことを思い出していた。あの大会で二人はド派手に喧嘩していたので、小太郎もしっかり覚えていたのである。また、ネギに挨拶されたカズヤは、軽快に一言返していた。同じく法も、あの学園祭以来の出会いだったので、久しぶりだと言葉にしたのだ。

 

 

「いや、すげーところだなぁ。噂には聞いていたが」

 

「確かにな。噂以上だ」

 

「テメーら何しにきやがった!?」

 

 

 そして、カズヤはこのイベントの人だかりに、少し驚いたと話した。法も噂は聞いていたと言うカズヤに便乗し、それ以上の規模だと言葉にしていた。

 

 この二人も転生者であり、転生前からこれと同じイベントがこの場所で開催されていることを知っていた。が、情報でのみ知っていただけで、実際行ったことはなかったのだ。故に、ものめずらしいと感じていたのである。

 

 そんなのんきにする二人へ、かなり大きな声で叫んでいた。この二人がここに来るような趣味を持っているとは思えなかったからである。

 

 

「俺もコイツもダチに呼ばれたんだが、生憎はぐれちまってなー」

 

「人が多すぎて一度はぐれると見つけられん……」

 

「そ、そうか……」

 

 

 叫ぶ千雨の質問に、疲れた様子で言葉にした。法もカズヤの友人に呼ばれており、同じ理由をやってしまったという様子で話した。この二人を呼んだ友人とは、つまりカズヤのルームメイトである。彼はカズヤと法の友人であり、重度のオタクであったようだ。

 

 それを聞いて色々察したのか、千雨は逆に哀れみの声を出していた。この二人を呼んだのは、明らかに荷物持ちなのではないかと千雨は考えたからだ。

 

 

「しかし驚いたな。長谷川にそんな趣味があったとは……」

 

「うげぇ! しまったぁ! コイツにもまだ隠したままだった!!」

 

 

 また、法は千雨の姿を見て、コスプレの趣味があったことを初めてしった。ただの黒いセーラーと思いきや、悪魔の尻尾や羽根がついていたら、明らかにコスプレだと思うのは当然である。

 

 千雨はポツリとこぼした法の言葉にハッとした。そういえば今自分はコスプレをしていたのだと。ずっと隠してきたことだったというのに、カズヤだけでなく法にもバレてしまった。学園祭でのコスプレ大会では何とか隠し通したというのに、ここで大きな失態をしたと、千雨は焦りながら後悔したのである。

 

 

「別にいいじゃねーか。よく似合ってるしよ」

 

「テメーはいつもさりげなく、そう言う恥ずかしい台詞言うよな!?」

 

「そうか?」

 

「自覚してねーのか!」

 

 

 だが、そんな焦る千雨へと、カズヤが似合っていると褒めだした。千雨は突然そんなことを言うカズヤへ、恥ずかしいことを言うなと言った感じで、照れながら叫んだ。とは言え、カズヤはそういうことを自覚して発言した訳ではない。カズヤもネギと同じように、単純に似合ってるから言葉にしただけなのだ。

 

 そんな少し天然のようなカズヤに、千雨は自覚してないのかと声を荒げていた。この千雨、ネットではちやほやされて褒められまくりだと自負してはいるが、現実(リアル)においてはさほど自分に自信がない少女だ。現実(リアル)で、こう言うことを褒められるのにあまり免疫がないのである。つまるところ、ストレートに褒められたことによる、嬉恥ずかしい気持ちを紛らわせるために叫んでいるのだ。

 

 

「確かに似合っているのは事実だ。それは受け止めておくべきだ」

 

「そうですよ千雨さん」

 

「ウルセー! んなことテメーらに言われなくてもわかってんだよ!」

 

 

 とは言え、事実は事実。法は静かに、事実だと言葉にした。法もカズヤと同じように、千雨のコスプレ趣味を気にしてはいなかった。ネギも今の千雨の姿はとてもかわいらしいと思っていたので、そのとおりだと千雨へと言ったのだ。

 

 だが、千雨は叫ぶように、その二人にわかっていると話した。自分に少し自信のなかった千雨だったが、学園祭でのコンテストで優勝したことで自信をつけていた。そのおかげでこうして人前で、コスプレが出来るようになったのだ。それに、こうして写真を撮りに来る人がいるのだから、悪くはないのだろうと思ったのである。

 

 

「あっ、僕たちはあっちにいるハルナさんのところにいますね」

 

「そ、そうか。あんまり変なもん見るんじゃねーぞ?!」

 

「変? とりあえずわかりました」

 

 

 ネギはそんな千雨を見て、すぐ近くに居るハルナの下へと移動することにした。千雨もそこの二人の男子と友人のようだし、邪魔しては良くないと思ったのだ。すると千雨は、適当にその辺りにあるものを見るなと言う意味で、変なものを見るなと忠告した。ネギにはそれがわからなかったが、とりあえずそう考えたようだ。

 

 千雨が言う変なものとは、つまり子供が見てはいけない(R-18)ものだ。まあ、そう言う千雨も18歳未満であり、その対象に入るのだが。

 

 

「何です……これ……」

 

「あわわ……」

 

「どういうこと……」

 

「だからさぁ……」

 

 

 そのネギや千雨の近くで、なにやら薄い本を開き、顔を真っ赤にして覗き込む少女たちがいた。刹那、木乃香、アスナの三人だ。そして、その三人の横でやれやれと言う顔をして、その光景を面白そうに見ているのはハルナだ。

 

 三人が開いているその本こそ、ボーイズラブ(BL)と呼ばれるジャンルの本だ。しかも十八歳未満禁止(R-18)のもの。普通に考えたら18歳以下の彼女たちがそれを見るのは、あまりよいものではないだろう。刺激が強すぎるというものだ。現に三人は何を見ているのかさえ理解出来ない様子で、茹蛸のような顔で見知らぬ文化にデカルチャーしていた。

 

 ただ、アスナは一応100歳を超えているので、それには当てはまらないのだろう。それでもはじめて見る劇物に、他の二人と同じように顔を真っ赤にして驚いていた。

 

 さらに、これを書いたのはそこで苦笑しているハルナだ。未だ中学生の彼女がそんなものを描いていいのかといえば、ノウ! 絶対にノウ! である。きっとハルナもそんなことは承知の上で、このようなものを描いているに違いないが。

 

 

「みなさんどうしました?」

 

「ねっ、ネギ先生!? 何でもないから!」

 

「? そうですか……?」

 

「まあ、一般人には我々の趣味を理解してもらうには難しいねぇ……」

 

 

 そこへ突如ネギと小太郎が現れ、その本を覗こうとしていた。アスナはいきなり後ろから声をかけられ驚き慌てふためきながら、なんでもないと叫んでその本を閉じて背中に隠した。こんな本は子供であるネギたちには早すぎる。いや、自分たちにも早すぎたとさえ思っているものだ。絶対に見せられないと思ったのである。

 

 ネギは何故そこまでアスナや周りの二人が慌てているのかわからなかったようで、首をかしげていた。ハルナもやはり一般人(パンピー)にはこの内容は理解できなかったかと、苦笑しながら頷いていたのだった。このハルナ、完全に腐っていた。どうしようもなく腐っていた。

 

 

「……大将」

 

「っ? どうしましたバーサーカーさん……?」

 

 

 だが、そこへバーサーカーの声が刹那の頭に響いた。しかも、普段の軽快な声ではなく、警戒したような非常に重い声だった。一体何事なのだろうかと、刹那も驚きバーサーカーを呼んだ。するとバーサーカーは刹那の横にスッと霊体化を解いて現れ、普段はさほど見せることのない渋い顔を見せたのである。

 

 

「近くに俺と同じ存在、つまりサーヴァントの気配を感じた……。気をつけた方がいいぜ……」

 

「それはどういう……」

 

 

 なんとバーサーカーはこの場所で、サーヴァントの気配を察知したと話した。それはつまり、サーヴァントと戦闘になる可能性があることを意味する。ただ、刹那はサーヴァントがいたと言うだけで、戦闘になるとは思っておらず、どういうことなのかをバーサーカーへと尋ねたのだ。何せ刹那はバーサーカーから、サーヴァントなどの説明を多少はされているものの、具体的なことでしか教えられていないのだ。

 

 

「気配は……、あそこからだ!」

 

「あのテーブルの向こう側ですか! しかし、人が多くて見えませんね……」

 

 

 その気配の先を指差して示すバーサーカー。そこはサークル参加席であり、テーブルの反対側だった。だが、人が多すぎてなかなかその正体を掴むことが出来なかった。

 

 

「ん? この気配は……、ふむ、サーヴァントか」

 

「あぁ、そうだ。アンタもだろ?」

 

 

 すると、その人溜まりの奥から声が聞こえた。成人した男性の声だった。その声の主こそバーサーカーが察知したサーヴァントのようだ。その謎のサーヴァントも、バーサーカーを察知して声をかけてきたようである。バーサーカーも河のごとく流れる人越しに、そのサーヴァントへと声をかけていた。

 

 

「確かに、俺もお前と同じサーヴァントだ」

 

「ほう、やっぱりそうだったか」

 

 

 その謎のサーヴァントは、自らサーヴァントであると明かした。しかし、その声には特に気にした様子は見られなかった。バーサーカーはやはりと言葉にし、さて相手はどんなヤツだろうかと模索し始めていた。

 

 

「しかしなんだ、俺もサーヴァントと出会うのは初めてだ。本当に俺以外にも存在したことに驚いている」

 

「はっ! そうかよ!」

 

 

 また、相手のサーヴァントも自分以外のサーヴァントを見るのははじめて故に、驚いていると淡々と語った。ただ、明らかに動揺した声ではなく、冷静そのものだった。バーサーカーも当然同じだ。だからバーサーカーは初のサーヴァント戦となるだろうと考え、挑発的な声を出していたのである。

 

 

「だったら姿を見せたらどうだ?」

 

「やれやれ……、気が短いヤツだ。少し待っていろ」

 

 

 しかし、一向に人の列で姿が見えないサーヴァントに対して、姿を見せろとバーサーカーは言った。人の川を挟んでの会話には限界がある。それに、この距離ならばもはやクラスがアサシンでなければ隠れることは不可能だ。仮にアサシンだったとしても、相手が逃げる気などさらさらない様子だった。そのため、バーサーカーは観念したなら顔を見せろと言う意味をこめて、それを言い放ったのである。

 

 そんなバーサーカーの言葉でさえ冷静に聞き流す相手のサーヴァント。かなり余裕がある様子だ。目の前のバーサーカーなど問題ないというほどの自信があるのか。それとも諦めているのかはわからない。どちらにせよ、ようやく姿を見せる気になったのか、一言静かに待っていろとバーサーカーへ告げたのだ。

 

 

「……すまんが販売を一旦中断させてくれ。後そこをどいてくれ、ちょっとした客人が来てしまってな、本当にすまない」

 

 

 そこで相手サーヴァントは販売中止を言葉にし、目の前の人に謝罪した。さらに、周りの人たちにもどいてくれるよう頼み、人を遠ざけ始めたのだ。すると目の前にいた人の列は散り散りとなり、ようやくそのサーヴァントの姿がバーサーカーの眼下にあらわになったのである。

 

 

「って、なんだテメェ!?」

 

「子供……?」

 

 

 しかし、バーサーカーも刹那も、そのサーヴァントを見て驚愕した。何故これほどまでに驚いたのか。それは相手が有名な大英雄や怪物だったからではない。むしろその逆、何と言うことか、そのサーヴァントは青色の髪をした子供のだったのだ。だが、声は老成した成人男性のものであり、姿とのギャップが存在した。

 

 ただ、子供だからと言ってサーヴァントを侮ってはいけない。何せサーヴァントには変化などの能力を持つものも多いのだ。スキルで姿を変えている可能性だって存在するのである。それだけではなく、基本全盛期の姿で召喚されるサーヴァントを、見た目で判断してはならないのだ。故にバーサーカーはその姿に驚きつつも、しっかりと相手サーヴァントを警戒していた。

 

 

「仕方がない、面倒だから名乗っておくか……」

 

 

 そんなバーサーカーの様子を見た相手サーヴァントは、面倒だと言いつつもその席に座りながら、名乗ることにしたようだ。やれやれと言う表情で肩をすくめた後、相手サーヴァントは静かに、その自分のクラスと名を語り始めた。

 

 

「俺はキャスタークラスの三流サーヴァント、ハンス・クリスチャン・アンデルセンだ。聞いたことぐらいあるだろう?」

 

「キャスタークラスだと……? しかも真名を堂々と名乗るだと……?!」

 

「アンデルセン……? 確か童話作家の……」

 

 

 相手サーヴァントは堂々と、惜しみなく自分のクラスと真名をしゃべった。本来ならばありえないことだ。サーヴァントが真名を語ると言うことは、弱点を見せるのと同じだからだ。故に、そのことにバーサーカーはかなり驚いていた。普通のサーヴァントならば、真名を教えると言う弱点を相手に知らせるのに等しい行為など、絶対にしないからだ。

 

 また、刹那はその名を聞いて、ふとどこかで聞いたような名前だと考え思い出していた。それは童話作家の一人の名前だ。三大作家の一人、アンデルセン。まさか、そんな人物が目の前の子供なのだろうかと、刹那は疑問に感じながらマジマジとそのサーヴァントを見ていた。

 

 

 ……ハンス・クリスチャン・アンデルセン。月の聖杯戦争にて殺生院キアラに召喚されたキャスターのサーヴァント。その名のとおり”人魚姫”や”裸の王様”などを手がけた童話作家である。

 

 読者の呪いにより無辜の怪物を与えられ、全身がボロボロの少年の姿のサーヴァントだ。ただ、ボロボロな部分は服の下に隠れ、基本的には見えない。さらにその風評被害により”バッドエンドを好む悪魔”に侵食されており、描きたいものが基本的にバットエンドになってしまうようだ。

 

 

「当たり前だ。俺は確かにここに()()()()()が、サーヴァント同士の()()()()()訳ではない」

 

 

 キャスターも元々ここに居るのはやんごとき事情であり、サーヴァントが現れるなど考慮してなどいなかった。ハッキリ言えば目の前にバーサーカーがいるのはイレギュラーな出来事であり、キャスターには関係のないことでもあった。

 

 つまるところ、キャスターはここで座っていることに意味があるので、サーヴァントと戦うことなどしたくはないのである。真名をバラして戦意がないことをアピールし、つまらない戦いを回避しようと考えたのだ。

 

 

「それに、どうせ俺ではお前に勝てん。戦闘など出来ないからこそサーヴァントとしては三流なのだからな」

 

「……マジなんだろうな?」

 

「マジだ。それに、ここで騒ぐと我がサークルの活動に支障をきたす。それだけは簡便願いたい」

 

 

 それに童話作家と言う特性上、キャスターとして、いや、サーヴァントとしての能力は心もとない。むしろ、ほとんど戦闘能力がないに等しいサーヴァントだ。故に、自らを三流サーヴァントと名乗り、自分の真名を明かしたのだ。何せ弱点以前に、戦う力すらほとんどないのだ。目の前のサーヴァントが敵対したら確実に負ける状況だ。もはや隠していても意味がないとキャスターは考えたのである。

 

 バーサーカーは自ら戦う力がないことを語るキャスターへ、その真偽を尋ねた。嘘を語って不意打ちなどされたらたまったものではないからだ。だが、キャスターは本気で戦えないと話した。むしろ、ここで喧嘩まがいなことをして、自分の今の行為を水泡に帰す方が困るとさえ言い出していた。

 

 

「戦わねぇっつーんなら別にいいんだがな」

 

「何を言っている? 戦っているさ、この祭りでな!」

 

「……何言ってんだ……?」

 

「そうか、お前にはこの戦いが理解できんか」

 

 

 バーサーカーもこんな人の多いところで戦う気など毛頭なかった。相手が戦わないのであれば、それに越したことはない、そう言葉にしていた。しかし、キャスターはこの場所で既に戦っていると言い出したではないか。

 

 バーサーカーには何を言っているのか理解できず、おかしなヤツだと思うだけだった。そんなバーサーカーを哀れんだ目をして理解出来ないことを嘆くキャスター。キャスターはこのイベントでサークル参加者として参加しており、そのことを戦いと称していたのである。

 

 

「そういやアンタ、マスターはどうした?」

 

「マスターならば、今頃自分の趣味を、盛りのついた犬のように貪っているところだろうさ」

 

 

 そこでバーサーカーは疑問に思ったことがあった。それはキャスターのマスターらしき人物が、見当たらなかったのだ。キャスターにそれを尋ねれば、場所は知らないがこの近くで遊んでいるのだと、呆れた顔で答えてた。

 

 

「……つまり近くにはいるってことだな?」

 

「そう捉えてもらって結構だ」

 

 

 バーサーカーにはキャスターの言っていることが理解できなかったが、近くに居ることだけは理解できた。キャスターもバーサーカーの言葉通りだと、そのことを肯定していた。

 

 

「ならば逆に質問するが、お前のマスターはどこだ?」

 

「ここにいるぜ?」

 

「……そのデコが広いサイドポニーの女か?」

 

「ああ、そうだ」

 

 

 ならば、今度はキャスターがそれを聞く番だと言う感じで、バーサーカーへマスターの所在を尋ねた。するとバーサーカーは横にいる刹那に指を刺し、これが自分のマスターだと話したではないか。

 

 だが、キャスターはそのことでかなり驚いた様子を見せ、疑問視していた。故に再び尋ねれば、バーサーカーはあっけらかんとした態度で間違いないと言うだけだった。

 

 

「……なんだと? 本当にその醜いアヒルの子がマスターなのか?」

 

「嘘ついてどうすんだ? つーか俺の大将に何言いやがる!」

 

「……どうやら嘘ではないようだな……」

 

 

 キャスターは刹那がマスターだと聞いて、そんなはずがないと思った。このキャスター、当然マスターは転生者だ。転生者であるマスターから、キャスターはこの世界の情報を得ていた。この世界は”ネギまという漫画の世界”であるということを。その世界の住人たちのことを。故に、刹那が転生者ではなく、この世界の住人であることを一目で理解したのだ。

 

 また、サーヴァントを召喚出来るのは基本的に、神からそういった特典を貰った転生者のみだ。しかし、バーサーカーが言うマスターは、この世界の住人だ。それは普通はありえないことだと、キャスターは考えて疑っているのである。

 

 ならば、そこでキャスター少し試してみようと考えた。キャスターは刹那を”醜いアヒルの子”に例え、バーサーカーへそれを再び尋ねたのだ。するとバーサーカーは嘘を付くメリットはないと話つつ、今のマスターへの例えに激怒した。バーサーカーはマスターである刹那を馬鹿にされたと思い、すさまじい怒りを見せたのである。

 

 そんな怒れるバーサーカーの反応を見たキャスターは、バーサーカーの話が真実であることを理解した。嘘だとするならば、マスターを馬鹿にするななどと言って怒り出しはしないと考えたからだ。

 

 ……それもそのはず、このバーサーカーは転生者がヘマをしたが故に、刹那が呼び出したサーヴァントだ。本来ならば特典を用いた転生者が、他のサーヴァントを呼び出すことが出来るものだ。だが、転生者はそれに失敗し、結果的に刹那がその特典によって、バーサーカーを呼び出したということだからだ。

 

 

「テメェ! 大将を馬鹿にするっつーんなら、ガキでも容赦しねぇぞ!」

 

「こんなところで暴れたらマズイですよ!」

 

「……何を言っている? 見たまんま醜いアヒルの子だろう?」

 

 

 バーサーカーは今のキャスターの言葉で完全に頭に血が上ってしまったようで、キャスターを掴みかかる勢いで叫びだした。周囲の人もその怒鳴り声に反応し、バーサーカーの方を揉め事なのかと思って、そこに視線を移しだしたではないか。

 

 刹那もこの状況はマズイと思い、バーサーカーの振り上げた腕をつかみ、必死になだめようとしていた。だが、キャスターはそんなバーサーカーの態度にも臆せず、むしろアホを見る目で同じ例えの答え合わせを始めたのだ。

 

 

「最初は周りと違う姿ゆえに疎まれるが……、最後は自分の正体を知り仲間を得て、その白く美しい翼を使い空へと羽ばたく。どこに間違いがある?」

 

「ぐぬっ……、チッ」

 

 

 キャスターは刹那を”醜いアヒルの子”に例えた。それは生まれた時こそ醜い姿ゆえに、攻め立てられて追われるが、最終的には自分の成長した姿を見て自分を知り仲間を得て終わる。その醜いアヒルの子の内容と刹那のこれまでの人生が、重なって見えたからである。最初から”白”かったりと色々違いはあるが、なんとも似たような内容ではないかと、キャスターは思ったのだ。

 

 それをキャスターがバーサーカーへ聞かせれば、バーサーカーも悔しそうにしつつも仕方なさそうに黙った。バーサーカーは”醜い”と言う言葉に怒りを覚えたが、最後にキャスターが”美しい”と言葉にしたからである。

 

 

「……あなたは私のことを知っているんですか……?」

 

「間接的かつ情報としてだが……、いや、なんでもない……。少々口が滑っただけだ、気にしないでくれ」

 

「はぁ……」

 

 

 しかし、刹那はその説明を聞いた時、このキャスターがまるで自分の全部を知っているような物言いだと思った。そうでなければ、そこまでスラスラと自分の過去までを考慮した例え話など出来るはずがないと、刹那は考えたからだ。それをキャスターに尋ねれば、はぐらかすかのような言葉をこぼした。

 

 キャスターは自分の転生者であるマスターから聞かされた内容のみで語ったと言いたいのだが、刹那にはそれが理解できなかった。また、キャスターも理解できるとは思っていなかったので、口が滑ってしまっただけだと、渋った様子で語ったのである。

 

 

「……あの……、あなたも誰かに召喚されたサーヴァント、というものなんですか?」

 

「そうだ。俺もマスターに召喚されたサーヴァントだ」

 

 

 刹那もどういう訳なのだろうかと不思議に思ったが、その他にも疑問があった。バーサーカーは目の前の子供をサーヴァントと言った。すなわち、誰かが呼び出した存在と言うことになる。さらに言えば、”サーヴァント”であるバーサーカーは他の使い魔や式神なんかよりも、非常に強力な存在だった。

 

 これほどまでに力を持つ使い魔など、本来ありえないことを知った刹那は、”サーヴァント”が普通ではないと思っていたのだ。だから、それが本当なのかどうか、キャスターへと尋ねたのだ。

 

 キャスターはその問いを肯定した。自分も今のマスターに召喚されたサーヴァントであると。むしろ、通常の形として召喚されたのは自分であると、キャスターは思っていたのである。

 

 

「しかし、何が好きで俺のような三流サーヴァントを、しかもこんな姿で召喚したんだか。まったく理解に苦しむ」

 

「どうしてです?」

 

「さっきも話したように、俺は戦闘力が皆無だ。ただの役立たずだ。オマケに自分で言うのもなんだが毒舌だ」

 

 

 そんなキャスターだったが、どうにも納得できない部分があった。何せ自分は最弱で役に立たないサーヴァントだと、キャスターは考えていたからだ。

 

 さらにこのような子供の姿で呼ぶなど言語道断。本来サーヴァントとは全盛期の姿で呼ばれるものだ。だと言うのに子供の姿で呼ぶなどと、片腹痛いどころではないとキャスターは思った。いや、むしろ子供の時こそ才能溢れた全盛期なのだろうとも、考えてはいた。むしろ、こっちの理由の方がまだマシだとさえ思っていたのだ。

 

 刹那は饒舌に話すキャスターの言葉がよく理解できなかった。サーヴァントとは使い魔の意味でもある。その言葉はバーサーカーとであった後に知ったが、サーヴァントとは使い魔の一種であることだと刹那は理解していた。

 

 また、刹那もあまり出来のよくない式神を操ることが出来るので、キャスターの言っていることのどこがダメなのかわからなかったのだ。まあ、それでも刹那はバーサーカーを使い魔というよりも恩人、または相棒のような存在だと思っているのだが。

 

 その疑問にもキャスターは答えた。先ほども言葉にしたとおり、自分は戦闘力がまったくないただの役立たずだと。それに、自分はどうしようもなく口が悪い。話せば罵倒雑言のオンパレードだ。普通に考えて、それこそ結構ウザいだろうし、頭にくるはずだと自分でさえ思っていたようだ。

 

 

「そんな俺のようなどうしようもない三流サーヴァントを呼ぶなら、もっと格が高い大英雄を呼んだ方が得だろう」

 

 

 また、好きなサーヴァントを呼び出す特典をマスターは使ったのだ。こんな本棚の隅にでもしまっておいても問題ないような三流サーヴァントを呼ぶならば、もっと強力なサーヴァントを呼んだ方が明らかに得だと思っていた。

 

 そう、たとえば白銀の太陽の騎士や、黄金の鎧の施しの英雄などだ。ハッキリ言えばこんな戦闘もまともに出来ない自分より、彼らの方がよっぽど役に立つし強くて頼りがいがあるだろうと、キャスターは常々考えていたのだ。

 

 

「俺のマスターはさぞ崇高な人間か、あるいは解放奴隷以上のマゾだな」

 

「そこまで言ってしまうんですか……」

 

「当たり前だ。俺を呼ぶようなマスターだぞ? 明らかにどうかしている!」

 

 

 故に、そこでキャスターは自分のマスターを扱き下ろすようなことを、高笑いしながら語った。それを聞いた刹那は、キャスターへとそれについて咎めるようなことを言った。しかし、キャスターは自分の発言を当然だと断言し、自分のマスターは頭がおかしいとさえ言い放ったのである。

 

 

「まあいい、今のような質問攻めを受けるのも面倒だ。少しぐらい質問に答えてやる。知っていることなら情報を提供してやろう」

 

「そうですね……」

 

 

 とまあ、マスターの愚痴を長々と語ってしまったが、今のように質問があるのなら答えてやると、キャスターは刹那たちへ問いかけた。ならばと刹那は思い、手を顎にあてながらその質問を考えはじめた。

 

 

「なら、あなたやバーサーカーさん以外にも、同じようなものは存在するのでしょうか?」

 

「ほう、そいつのクラスはバーサーカーか。確かに頭のゆるさを考えればバーサーカーと言えなくもないか」

 

「おいおい、確かに俺は馬鹿だが、アンタに馬鹿にされる筋合いはねぇ……」

 

 

 刹那はバーサーカーは目の前のキャスターのような、規格外の使い魔である”サーヴァント”が存在するのかどうか尋ねて見た。するとキャスターは目の前の筋肉のクラスがバーサーカーと言うことを知り、その本人へと馬鹿にするようなことを言い出したではないか。自分は馬鹿だと認める流石のバーサーカーも、キャスターにそう言われる筋合いはないと、怒気を含んだ声を出していた。

 

 

「……しかし、バーサーカーだというのに理性を保つとはな。特殊なスキルでも持っているとしか思えん」

 

「それってそんなに珍しいことなんですか?」

 

「珍しいも何も、バーサーカーは基本暴走状態だ。話すことなどままならないのが普通だ」

 

 

 ただ、キャスターはそれ以上にバーサーカーが理性を保ち会話していることに驚いた。本来ならばありえないことだからだ。しかし、刹那にはそれもおかしいとは思ってなかった。

 

 何せバーサーカーと聞いたものの、刹那もどこが狂戦士(バーサーカー)なのか、まったくわかっていなかったからだ。それに、本来のバーサーカーを知らぬ刹那には、目の前のバーサーカーこそが普通だと思ってしまっていたのである。

 

 故に刹那がそれが珍しいことなのかと聞けば、キャスターは当然だと言葉にした。珍しいどころではく、本来のバーサーカーからはかけ離れている状態だと。むしろ、そこのバーサーカーが異常だと。

 

 

「それ以外にも、話すことは出来ても基本的に意思疎通は出来ない。そいつがバーサーカーであるならば、本来そうやって普通に会話することなど到底不可能だ」

 

「そうだったんですか……」

 

「だが、そいつは例外的に会話できている。ならば、特殊な効果のあるスキルを持っているとしか思えん」

 

 

 そう、バーサーカーとは本来暴走した状態がデフォルトだ。意思疎通はほぼ不可能、会話することさえ出来ないのが基本だ。確かに話が出来るバーサーカーも存在するが、それでも”会話”は不可能に等しい。それをキャスターが長々と説明すると、刹那も納得した様子を見せていた。だが、例外というものも存在する。キャスターはそこのバーサーカーが意思疎通出来るなら、何らかの要因があるのだろうと述べていた。

 

 

「まあ、確かに俺の狂化は普通じゃねーがな」

 

「ほう、バーサーカーのクラススキルである狂化が特殊な効果だったのか」

 

 

 バーサーカーはキャスターの会話を聞き、自分の狂化こそが例外の一つだと話した。バーサーカーの狂化は本来の狂化とは異なる仕様であり、ランクもEと相当低い。そのため、こうして普通に会話が出来るというものだ。キャスターもバーサーカーのその言葉に、そうかそうかと納得していた。

 

 

「そういうことだ。だが、どんな効果なのかまでは話せねぇ」

 

「別に聞く必要はない。どうせお前となど戦わんのだからな」

 

 

 それでもバーサーカーは、それ以上の情報を与えようとはしなかった。狂化が特殊だからこそ会話が可能であるとは教えたが、その効果は教えなかったのだ。何せ相手もサーヴァント。用心をするにこしたことはないからである。

 

 キャスターもそのバーサーカーの態度を特に気にする様子もなく、別にかまわないと話した。どうせ目の前のバーサーカーと戦うこともないのだ。それを聞いたとしても意味のないことだと、キャスターは思っているからだ。それに、その効果を聞いたところで、バーサーカーを倒せるかと言えばノーでもあるからだ。

 

 

「しかし話が脱線したな。先ほどの質問を答えるとしよう」

 

 

 まあ、狂化のせいで話がそれてしまったが、先ほど受けた質問を答えるとキャスターは仕切りなおした。

 

 

「答えは”存在する”だ。俺やそこのヤツ以外にもサーヴァントは存在する」

 

 

 キャスターの答えは、自分たち以外にもサーヴァントは存在するというものだった。何せ無数にいる転生者の中に、自分のマスターのような特典を貰ったものも、必ずいるはずだと思っているからだ。

 

 

「だが、俺も自分以外のサーヴァントと会うのはこれがはじめてだ。存在するとは言ったが実際見た訳ではない」

 

「そうなんですか……」

 

「つまり確証はねぇってことじゃねぇか」

 

 

 そうは言ったキャスターだったが、サーヴァントに会うのははじめてだった。つまり、実際見たことはないので確証はないということでもあった。刹那はその答えになるほどと思いながらも、本当にいるのかどうかはわからないと考えた。バーサーカーも実際見ていないのなら、絶対はありえないといちゃもんをつけていた。

 

 

「そう言われても証拠は出せん。ただ、こうして二騎のサーヴァントがそろったんだ。いてもおかしくはないだろう?」

 

「確かにそう言われりゃそうだな……」

 

 

 とは言え、ここに二人のサーヴァントがいるのだ。他にサーヴァントが存在しても、何もおかしなことはないと、キャスターは静かに語った。バーサーカーもそう言われれば、そうかもしれないと考えた。偶然にせよ、こうしてサーヴァント同士が出会ったのだ。他にいてもなんら不思議ではないと思ったのである。

 

 

「さて、もう質問はないか? 後で聞き忘れがありました! などとほざいてもらっては困るぞ」

 

「……つーかサーヴァントがこんなところで何やってんだ?」

 

 

 キャスターは今の質問を終え、別に質問がないかを尋ねた。聞き忘れがあったら困る、すごく面倒だと、演技っぽくイヤミな感じで二人へと言ったのである。すると今度はバーサーカーが、サーヴァントなのにこんなところで何をしているのかと、素朴な疑問を打ち明けたのだ。

 

 

「何? 見てわからんのか?」

 

「ああ、全然わからねぇ」

 

 

 キャスターはバーサーカーの質問に、何故わからんと言う顔で聞き返した。しかし、バーサーカーはとぼけた様子もなく、まったくわからないと言い出したのだ。

 

 

イベント(ここ)薄い本(これ)を売っているだろうが! お前には目が付いていないのか? 馬鹿め!」

 

「なっ!?」

 

 

 なんという馬鹿さ加減だと言う感じで、そのバーサーカーの疑問に答えるキャスター。目の前に並ぶものが見えないのかと、バーサーカーを小馬鹿にした感じでそれを述べた。またバーサーカーは、その饒舌なキャスターにまくし立てられ、一瞬あっけに取られていた。

 

 

「なんというバーサーカー脳だ。その筋肉だらけの体同様、脳まで筋肉で出来ているのか? 四天王の名が泣くぞ?」

 

「何だとぉッ!?」

 

 

 いやはや、目の前のものすら見ずに、そのような馬鹿な質問をしてくるとは愚か過ぎると論じるキャスター。まさにバーサーカー。筋肉ダルマとは頭の中まで筋肉なのかと、高笑いしながらバーサーカーを扱き下ろす。しかし、その一文にはバーサーカーの正体を匂わせるようなことも含んでいた。が、バーサーカーは今のキャスターの口撃で完全にキレてしまい、それに気が付いてはいなかったようだ。

 

 

「しかもなんだ、そのおかっぱでのキンキンの金髪は! 面白すぎて笑えてくるぞ! そしてそのダサいサングラス。明らかにただの不良そのもの!」

 

 

 そんなキレて血管を浮き出させるバーサーカーへ、さらにさらにまくし立てるキャスター。髪はキンキンの金ぴか、サングラスをした白シャツ。まさに不良。ヤンキーのそれだ。何と情けないことか、それでもこの日本を代表する大英雄なのだろうかと、キャスターはやれやれと言う様子でそれをすばやく言葉にしていた。まあ、この金ぴかな髪の色は元からなのだが。

 

 

「俺以上にサーヴァントらしからぬサーヴァントだな! 俺よりも現世に毒されてしまっているようだ」

 

「喧嘩売ってんのかテメェ!?」

 

「俺の話を聞いてなかったのか? 俺が売ってるのは喧嘩ではなく薄い本だと言ったはずだろう?」

 

 

 随分とまあ現世を楽しんでらっしゃる。キャスターはそう笑いながら言葉にしていた。バーサーカーは何度もキャスターに馬鹿にされ、とうとう怒りの叫びを上げ始めた。そんなバーサーカーにキャスターは臆せず、目の前にあるものを売っているのであって、喧嘩ではないとまたしても馬鹿にした様子で述べていた。

 

 

「テメェも十分現世に毒されてるだろうが!」

 

「当然だ。俺は流行に敏感だからな……」

 

 

 だが、そこまで言われてバーサーカーも黙ってなどいない。キャスターこそ現世を満喫しているではないかと、大声で言い放った。ヘッドフォンを首にかけ、手元にはノートパソコン。さらにはこのイベントに参加し、楽しんでいる。明らかに現世に染まってしまっているではないか。

 

 しかし、バーサーカーにそう言われてもキャスターは特に気にせず、むしろ当然だと偉そうに豪語した。何せこのキャスター、流行に敏感だ。流行こそが作品を書き上げる近道だと考えるャスターは、常に流行りに目を光らせているからである。

 

 

「しかし、……本当にお前は俺とは逆で、見た目は大人で中身は子供だな」

 

「あぁ?」

 

「……だが、人生を無価値にしか出来なかった大人(オレ)よりも、その方が好ましい」

 

 

 ただ、ここでキャスターはトーンダウンした様子で、バーサーカーを大人でありながら子供だと評した。そう、このバーサーカーは見た目こそマッチョな兄ちゃんだが、中身は子供に等しいのだ。キャスターもこの程度の挑発に乗せられているばーサーカーを見て、それを理解したのである。

 

 それをキャスターに当てられたバーサーカーは、突然何を言い出すんだと思った。するとキャスターは、そのことについて、むしろ羨ましいと言う様子で、その方がいいと静かに言葉にしていた。

 

 キャスターは自分の人生に価値を感じていない。70歳まで生きたキャスターだったが、もっと早く死ぬべきだったと思っているほどだ。そんなつまらない大人なんかよりも、子供のままの精神で元気に暴れまわっていた方が、はるかに有意義だと思ったのである。

 

 

「せいぜい子供のヒーローを演じるんだな。お前にはそれがお似合いだ……」

 

「ハッ! テメェに言われる必要もねぇ!」

 

 

 そんな子供であるお前には、子供を守るヒーローこそふさわしい。キャスターは先ほどとは逆にバーサーカーを褒めるように、その口を開いた。と言うのも、キャスターは散々バーサーカーを馬鹿にしたが、そこだけはしっかりと評価していた。暴れん坊にて怪力無双なバーサーカーだが、昔話として語り継がれていることも、弱いものの味方であることも、キャスターは見逃してはいなかったのである。

 

 貶すだけが批評ではない。キャスターは悪い部分こそ叩きに叩くが、良い部分もよく見てちゃんと評価する、それこそが彼だ。批評に命を賭けるキャスターだからこそ、真摯で真っ当な評価を下すのだ。

 

 突然真面目に語りだしたキャスターに、バーサーカーはニヤリと笑って当たり前だと豪語した。誰かにそれを言われる必要などはない。それが当然だと思っているから、子供のヒーローであると心がけている。バーサーカーはキャスターの今の態度で、怒りが分散して消えてしまったようである。そう言う意味ではこのバーサーカー、かなり単純であるとも言える。

 

 

「おっと、言うのを忘れていたが、俺の回答を有意義と感じたならば、せめて一冊は買って代金を置いていけ」

 

「はぁ……」

 

「コイツ、マジで中身はおっさんだな……」

 

 

 だがキャスターは、いい話をした後に自分の教えたことがためになったと思うならば、金を置いていけと言い出した。刹那はそんなキャスターに、ちょっと呆れた声を出していた。バーサーカーも、ここで金銭を要求するなど、このキャスターはやはり中身は子供ではないと考えながら、同じように呆れていた。

 

 

「あのー、何かあったんですか?」

 

「いえ、特に何があった訳でもありませんが……」

 

 

 そんな時、そっと現れたネギ。ネギはバーサーカーと刹那が離れたところに居るのが気になったようだ。だから、刹那のところへやってきて、何かあったのかと聞いてみたのである。

 

 ただ、刹那もここで何があったかと言われれば、特に何もなかった。しいて言えば、目の前のキャスターに質問していたぐらいだ。故に刹那は、別に何もなかったと言葉にしたのである。

 

 

「ふむ、そこの少年が”主人公”か。はて、マスターから聞いた話とは、少し違う感じだが……」

 

「主人公……?」

 

 

 そのネギを見たキャスターは、ネギを主人公と称した。キャスターはこの世界の知識を教えられていたので、すぐにそれがわかったのだ。しかし、キャスターはネギを見て違和感を覚えた。転生者であるマスターから聞かされたネギ像とは、少し違う感じを受けたからだ。また、ネギは主人公と言われ、まったく理解出来ない様子でそれを聞き返していた。

 

 

「何、ただの独り言さ」

 

「そうですか」

 

 

 だが、そのネギの質問には答えることは出来ない。何故ならこの世界の主人公などと話したところで、どの道意味などわかるはずもないからだ。そのためキャスターは独り言が漏れただけだと話した。ネギも不要なことを聞いてしまったと思い、キャスターの言葉に納得した様子を見せていた。

 

 

「とりあえずみんなのところへ戻りましょうか」

 

「はい」

 

「何もしてねぇのにくたびれたなぁ……」

 

 

 ネギが呼びに来たのだから、とりあえず戻ろうと刹那は提案した。ネギも元気な返事でそれを返し、バーサーカーも刹那たちの後ろを疲れた顔で歩くのだった。

 

 そんな彼らを見送るように、何も言わずに眺めているキャスター。その時、キャスターの後ろから一人の少女が現れたのだ。

 

 

「あら、彼らが例の……」

 

「なんだ、思ったよりも早い戻りだな……」

 

「こういう場面はすばやさが何より大事ですからね」

 

 

 それこそがキャスターのマスターである少女だ。年齢は刹那たちよりも少し年上と言ったぐらいの長い黒髪をなびかせた少女で、高校生ほどに見受けられる。が、その年齢や外見以上の色気をかもし出し、非常に悩ましい体つきをしていた。

 

 キャスターは主人の帰還を察知し、特にそちらを振り向くことなくマスターへ話しかけた。もっと時間がかかると思っていたが、案外早く戻ってきたと。それに対してマスターの少女は、すばやさが重要故に早く終わったと答えていた。

 

 

「……しかし、またもや大量に買い込んできたな……」

 

「ええ、これで後半年間は戦えましょう」

 

 

 また、マスターの少女が中身が満載の大きな紙袋を二つほど、キャスターの目の前のテーブルへとそっと置いた。キャスターはそれを見て、随分買い込んだと、呆れた顔で関心しながら、ようやくマスターの方へと体を向けたのだ。そんなキャスターへとマスターの少女は、満面の笑みで半年は持つと言葉にしていた。

 

 

「それにしても、ふふふ……。いつ見ても彼はとても可愛らしい少年ですね」

 

「……はぁ~、まったくマスターの趣味はまったく理解できん。虫唾どころか反吐が出る……」

 

「そこまでおっしゃらなくても良いではありませんか?」

 

 

 しかし、そこでマスターの少女は、ふと歩いて去って行くネギの後姿を見て、突然笑い出した。さらにゾクゾクと快感を覚えるように小刻みに震え、悦に入っていたのである。……このマスターの少女、重度のショタコンだったようだ。

 

 そんなマスターへキャスターは、ため息をしながら肩をすくめ、この女の趣味はまったく理解出来ない、いや、したくもないと毒を吐いた。だが、そんなキャスターの毒を真正面から受け止め、妖しげな微笑みながら、そこまで言わなくてもと言葉にしていた。

 

 

「と言うよりだ。彼がお気に入りならば、何故近くに行かない? 話しかけない? 意味がわからんぞ?」

 

「何故と言われましても……」

 

 

 そんなマスターを無視し、キャスターは自分の疑問を打ち明けた。あの主人公(ネギ)がお気に入りならば、何故近くに行かないのだろうかと。話しかけないのだろうかと。マスターの少女はその問いを聞かれ、困った様子を見せながら、その答えをゆっくりと紐解いていった。

 

 

「彼の近くに居れば、その無垢な少年の心をつみとってしまうやもしれませんからね……」

 

「あぁー! なんという最低な答えだ! 聞いたのが間違いだった! 一瞬おぞましいほどの悪寒を感じたぞ!」

 

「何をおっしゃいますやら。かもしれないと言う可能性の話ではありませんか」

 

 

 マスターの少女は非常に紅潮した顔で、とんでもないことを言いのけた。なんということを言うのだろうか。この少女はネギを襲ってしまうかもしれないと、そういう意味に取れる言葉を言い放ちやがったのだ。キャスターはそれを聞くや否や、頭を抱えて苦悶の表情で絶叫した。こんな答え聞きたくなかった、やめておけばよかったと。だが、そんなキャスターへと、可能性の話だと少女は訂正していた。いや、可能性があるだけでも十分恐ろしいことだが。

 

 

「お前のその可能性とやらが現実になりかねんから恐ろしいのだ……!」

 

「それはそれで私にとっては最高の状況というものでしょう?」

 

「その気持ちの悪い笑顔を俺に向けるな! 本気で気味が悪い! 全身の毛と言う毛が逆立ち、蕁麻疹が体中を駆け巡っただろうが!」

 

 

 さらに言えばこの少女、可能性が現実になる確率の方が高いだろうと、キャスターは反論し戦慄していた。そんなキャスターへと、むしろそれこそウェルカムだと、少女は淫らな笑みを浮かべ舌で唇を舐めずっていた。

 

 うわ、なんだその顔は。キャスターは心底嫌そうな顔でマスターの少女を見ていた。おぞましすぎて反吐が出る、本気でやめてくれ、と言いたげな、そんな軽蔑の眼差しだった。

 

 

「はぁ~、いいですわ、その罵倒……。それこそ至高の喜び、最高の褒め言葉と言うもの……」

 

「…………」

 

 

 あぁ、だがそれもマスターの少女には甘味なものだった。そのキャスターの罵倒すらも、マスターの少女には蜜の味がする褒美でしなかったのだ。もはやキャスターはそんなマスターを見て絶句し、完全に黙り込んでしまった。これはもう何を言っても無駄だと、むしろ言うだけマスターを悦ばせるだけだと。あの時キャスターが刹那らに言った言葉は、間違いなく本当だった。真性のマゾ、ブタすら恐れる被虐精神の塊だったのである。

 

 

「……何でこんなヤツに俺は召喚されてしまったんだ……。本気でお前に召喚されたことを後悔してきたぞ……」

 

「別に損だけではないでしょう? あなたもこうして好き勝手やっているのですから……」

 

「……そう言われてしまうと俺も弱いな……」

 

 

 キャスターはこの少女に召喚されたことを、ここに来て本気で後悔した。こんなマスターだと知っていたら、召喚なんぞされなかったと。ただ、少女の転生者としての特典がそれを許すはずもなく、確実に召喚されてしまった可能性はあるのだが。

 

 また、マスターの少女はしれっとした態度で、キャスターも十分甘い汁を吸っているのだからさほど悪いことでもないだろうと、言葉にしていた。

 

 キャスターもそれを言われてしまえば何も言えなくなったようで、やれやれと言う顔でため息をついていた。こうやってこのイベントにやって来て小遣い稼ぎをしたり、色々好きなことをやっているからだ。それでは仕方がないと、キャスターも半分諦めていたのである。

 

 

「……まあ、しかしだ。マスターが言うような”闇”と言うものを、少年からは感じなかったが……」

 

「……そうですか。なら、きっと()()が彼の闇を取り払ってくれたのでしょう……」

 

「つまり、マスターが言う”イレギュラーな出来事”、と言うことか」

 

 

 だが、そこでキャスターは突然真面目な表情となり、ふと思い出したかのようにネギのことを言葉にした。それはネギからは、”原作どおり(マスターのいうよう)”な闇を感じなかったということだった。このキャスター、スキルに人間観察をAランクで獲得している。すなわち、他者への観察眼は非常に鋭いのだ。

 

 故に、キャスターからそう言われれば、マスターの少女もそれを疑わずに素直に信じたのである。そして、”闇”がないのであれば、何物かが”原作崩壊”させたのだろうと述べた。キャスターもそれのことをイレギュラーな出来事が起こったということだと理解し、腕を組んで悩む様子を見せていた。

 

 

「そうでしょうね。ですが、いい方向に進む分には、悪いことではないでしょう」

 

「まったくだ。それに無理難題を乗り越えるのは、ギリシャの大英雄だけで十分だ」

 

 

 ただ、イレギュラーなことだろうが、それがいい方向だというのならば、問題はないと語るマスターの少女。何か悪い方向に進んでしまったのなら困るが、そうでないならむしろ喜ばしいことだと、微笑んでいたのである。

 

 キャスターも意見は同じだったようで、主人公(ネギ)があの齢で苦労するぐらいなら、その方がよいと口にしていた。あの齢で人並み以上の苦労するなんぞしなくてもよいと、キャスターは思っていたのだ。

 

 

「……しまった、俺としたことが。奴らに我が努力の結晶を買ってもらうのを忘れていた」

 

 

 しかし、キャスターは最後の最後、一つ忘れていたことを思い出した。それは先ほどの刹那たちへの問いかけへの報酬だ。まあ、それはそれでしょうがないとキッパリ諦め、キャスターは再び自分の作品の販売を始めるのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 市民プール。そこは暑い夏を乗り切るオアシスのような場所だ。そんなところへ来たのは夕映、のどか、ハルナの三人、それとアーニャとネギであった。ただ、プールサイドで遊んでいるのは夕映とのどかとアーニャの三人だけで、ネギやハルナは近くで泳いだりしていた。

 

 

「この前の海とは違う感じねー」

 

「波がありませんからね」

 

「海は海で広かったけど、こういうのも悪くないわ」

 

「楽しんでくれてるようでよかった」

 

 

 波もなく塩っけのない海とは違った新鮮さを感じるアーニャ。夕映もアーニャが新しい発見で期待を膨らませているのを見て、海との違いを淡々と説明した。また、アーニャは海も確かに面白かったが、こういうところで遊ぶのも目新しくてよいと大いに喜んでいた。そんなうかれるアーニャを見て、のどかも誘って正解だったと頬を緩ませていたのだった。

 

 

「んー」

 

「どこを見てるんですか?」

 

「えっ!?」

 

 

 しかし、そこでアーニャは何かを探すような素振りを見せ始めた。一体どうしたのだろうかと夕映はアーニャへ声をかければ、アーニャはビクリと体を震わせ驚いた様子を見せたのだ。

 

 

「いえ、日本の女の人は大きくないと思って……」

 

「大きくないって、やっぱり胸?」

 

「当たり前じゃないですか!」

 

 

 するとアーニャはちょっと挙動不審になりつつ、何かの大きさについて話した。のどかは何のことだろうかと考え、もしや胸の話ではないかと尋ねれば、案の定アーニャは当たり前だと豪語したのだった。

 

 

「前々から思ってたんですが、何故そこまで胸の大きさにこだわっているですか?」

 

「そっ、それは……、大きい方が有利だし……」

 

「確かにそうかも……」

 

 

 夕映は前からアーニャが胸に随分執着していることを疑問に感じていた。なのでそれを聞いてみれば、大きい方がいいからだと、恥ずかしそうに小さな声でアーニャは答えた。その答えは間違ってないと思ったのどかも、自分の胸を見て残念そうな顔をしながら、確かにそうだと言葉にした。

 

 

「でも、アーニャちゃんは私たちよりも小さいですから」

 

「まだまだ成長途中だし、大きくなるかもしれないよ?」

 

「だといいけど……」

 

 

 ただ、アーニャは自分たちよりも年下なので、そこまで焦る必要もないのではないかと夕映は話した。アーニャとてまだ11歳、育ち盛りというものだろう。のどかもアーニャはこれから大きくなるはずだと、優しく言い聞かせていた。それならそれでいいのだが、本当に大きくなるのだろうかと、アーニャも自分の胸を見ながら、不安そうな声を出したのだった。

 

 

「私たちはこの年でこれですから……」

 

「ちょっと望みが薄いかも……」

 

「二人とも……」

 

 

 そして、夕映も自分の胸を見て、自分たちの年齢でこれでは絶望的だと話した。のどかも同じ気持ちだったらしく、同じようなことを言いつつ、悲しみを滲み出していた。そんな二人を見たアーニャも哀れみを感じたらしく、二人に対して言葉を失ってしまったようだ。だが、その場で三人はヒシッと体を寄せて抱きしめあい、その絆をさらに深めたのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 また、これはある日のエヴァンジェリンの別荘の中。アスナたちはそこで修行をしていた。そんな時、そこへ珍客が現れたのだ。

 

 

「よー、みんな! 久々だねぇ」

 

「みなさん、お久しぶりです」

 

「朝倉じゃん。それとマタムネさんも」

 

 

 それはあの和美だ。同じくその足元にマタムネも同行し、この別荘へとやってきたのだ。和美は元気よく、マタムネは静かにアスナたちへ挨拶した。アスナもそれを見て、珍しい人が来たという顔で声をかけたのである。

 

 

O.S(オーバーソウル)っていうのには触媒が必要だってマタっちから聞いてさ、さよ用に何かないか捜してきたんだよ」

 

「ほえー、ありがとなー」

 

「嬉しいです! ありがとうございます!」

 

 

 和美は木乃香の側に居るさよに用があった。何故なら和美はさよ用の触媒を探してきたからである。それに対して木乃香とさよは素直に喜び礼を述べた。確かに触媒なら覇王がくれた銅の扇子がある。が、触媒は多くても問題はないし、色んな触媒を応用すればいいからだ。まあ、さよとの相性もあるのだが、精霊となったさよならばその当たりの問題もクリアできているのだ。

 

 

「マタっちを見て思ったんだ。さよもマタっち見たいに動けるようになればいいかなーって思ってさ」

 

「そーいやマタムネはんは一人で出歩けるんやったねー」

 

「ちょっとうらやましいです」

 

「これも覇王様が与えてくれた触媒と巫力のおかげです」

 

 

 和美はマタムネの様子を見て、さよも同じようなことができるようになればいいな、と思った。木乃香も和美の話を聞いて、マタムネが少し特殊なO.S(オーバーソウル)であることを思い出した。そしてさよも、マタムネが地面を足で踏んで歩けることを、少し羨ましいと言葉にしたのである。また、そう言われたマタムネは、主である覇王のおかげだと述べるだけであった。

 

 

「つまりさよもマタっちと同じようにすれば、一人で出歩けるんじゃないかって思ってさ!」

 

「確かに、やれないこともあらへんね」

 

「でも、一応私は精霊になったんで、この状態でもある程度フラフラ出来ますけど?」

 

 

 マタムネを参考に同じような状態にすれば、さよも一人で出歩けるのではないかと、和美は考えていた。それを説明された木乃香も、出来なくはないかもしれないとチャレンジ精神を見せて意気込んだ。ただ、さよはすでに自縛霊ではなく精霊となっており、ある程度色んなところへ移動できる。だからさよは、そのことを考えてどういう訳なのかと聞いたのだ。

 

 

「そうじゃなくってさぁ、マタっちって特殊な感じじゃない? お風呂にも入るし寝るし」

 

「そーいやそーやなー」

 

 

 和美はさよの疑問に、そうではないと言葉にした。マタムネは幽霊でありながら、風呂にも入るし布団で寝ることもできる、なんというかちょっと変な幽霊だ。ならば、さよもそれができる様になるのではないかと、和美は考えていたのである。木乃香もそれを言われれば、マタムネの異様っぷりは納得せざるを得ないと、コクコクと頷いていた。

 

 

「ちゅーことは、さよもマタムネはんみたいに、お風呂に入ったり寝たりさせてあげたいんやな?」

 

「そういうこと!」

 

「そんなことが出来るようになるんですか!?」

 

 

 つまるところ、和美はさよにお風呂に入ったり寝たりできるようになってほしいという訳だった。木乃香がそれを言い当てれば、和美も嬉しそうに肯定した。また、さよはそんなことが可能になるのかと驚きながら、目を輝かせていた。

 

 

「小生と同じ身となれば、出来なくはないでしょう」

 

「んじゃ、早速やってもらおうかねー」

 

「ええけど、その触媒っちゅーんは?」

 

 

 マタムネも確かに自分と同じような状況にできるなら、可能だと述べた。それでもこのマタムネは1000年ほど長く生きたO.S(オーバーソウル)。簡単にはいかないだろう。しかし、そんなことなどやってみなければわからない。和美は今すぐ木乃香に挑戦してもらいたいと話た。だが、木乃香はそこで、肝心の触媒はどうしたのかと、和美にそれを要求したのである。

 

 

「はいこれ!」

 

「藁人形……?」

 

「そうだよ! マタっちと一緒に恐山まで足を運んで手に入れたレアアイテムよ!」

 

「恐山……とてもせつないところでした……」

 

 

 すると和美は何かをそっと取り出し、木乃香の手に乗せた。木乃香の手に乗せられたもの、それは古びた藁人形だったのだ。和美はこの藁人形を手に入れるためだけに、わざわざ恐山まで行って来たのである。中々大変だったと、和美はまるで武勇伝のようにそのことを笑って話し、マタムネもそれに同行した時の感想を目を瞑って静かに、そのことを思い出すかのように述べていた。

 

 

「よっしゃ! ならちょっとやってみよーか!」

 

「お願いします!」

 

 

 触媒も貰ったし、それならやってみようと意気込む木乃香。さよも成功を祈って嬉しそうに頼み込んだ。

 

 

「”O.S(オーバーソウル)”!」

 

 

 そして木乃香はさよとその藁人形を合体させ、さよの姿をしっかりイメージしたO.S(オーバーソウル)を作り上げた。するとそこには黒い学生服を着た、白髪の少女が二つの足で立っていたのである。

 

 

「おー! これがマタムネさんと同じ状態……!」

 

「気分はどーや?」

 

「すごくいいです! 久々に足を使って歩いた気がします!」

 

 

 さよは自分の体をマジマジと見て、これがマタムネと同じ状態なのかと言葉にした。木乃香はそんなさよへ今の気分を尋ねれば、絶好調だとさよははしゃいだ。普段から幽霊として宙に浮いていたさよは、自分の足を使って歩けることを大いに喜んだ。足を使って歩くのは生きていた時以来であり、久々に実感する地面の感触がたまらなく嬉しいのだ。

 

 

「いやー、喜んでもらえて嬉しいよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「よかったなー、さよー」

 

「我々が苦労した甲斐があったというものですな……」

 

 

 とても喜ぶさよを見て、和美も藁人形を取ってきた甲斐があったとしみじみ思い、笑顔を見せていた。さよはそこで深々と頭をさげ、その功労者たる和美へお礼をしたのだ。木乃香もさよの喜びようを見て嬉しく思い、明るく笑んでいた。マタムネも同じように、いやよかったと小さな笑いをこぼしたのである。

 

 

「でもO.S(オーバーソウル)やから、ふつーの人には見えへんよ?」

 

「あっ、そうでした」

 

「それが次の課題だねぇー」

 

「等身大の人形でもあれば、それを媒介にするだけでよくなるんですが……」

 

 

 とは言え、今の状態のさよはO.S(オーバーソウル)という形態に変わりはない。つまり、普通の人には見えないということだ。木乃香はそれを言葉にすると、さよもハッとしていた。和美はそれこそが次の課題だと腕を組んで考え、マタムネはそれなら等身大の人形でも用意するしかないと話したのだった。

 

 

 

…… …… ……

 

 

 さらにある日の出来事。会場では新体操の県大会が行われており、それにまき絵が出場していた。また、それを応援しに来たネギとカギ、アキラと亜子と裕奈の5人がその場にやってきていた。そして、大会は静かに終わり、残念ながらまき絵は県内4位に納まってしまったようだ。

 

 ……そういえばまき絵はあの銀髪のこと神威の術中に嵌り、惚れていた一人だ。結構昔から惚れていたようで、子供っぽいと言われていた演技も、神威のニコぽによりなんとか克服していたのである。まあ、結果的に言えばよかった話だが、ほうっておけば大変なことになっていたのも事実だろう。神威が退治されてよかったのは間違いないのだ。

 

 しかし、神威が倒されてニコぽの効果が切れた後のまき絵はどうなったかと言えば、さほど大きくそれを気にすることは無かった。ニコぽの効果は基本的に理由の無い惚れである。一目ぼれなども存在するが、どうして惚れたのかがまったくわからないのだ。故にまき絵は神威にどうして惚れたかわからなくなり、結果的に気の迷い程度だったと認識してしまったのである。

 

 なので、この大会での4位と言う順位に神威の出来事により影響は無く、単純に彼女の実力がそのぐらいだったということなのだ。所詮神威の影響力などたかが知れているということである。

 

 

「あれで県大会4位かー……。まき絵すごかったけどなー」

 

「新体操は奥が深いんだね……」

 

「あのレベルで県内4位とか、この世界の新体操って何なの? テニヌなの?」

 

 

 亜子はまき絵の演技を見て、非常にすごかったと感服していた。また、あれで4位とはどういうことなんだろうと思い、亜子の横を歩きながらそれを言葉にするアキラだった。

 

 そんな中、カギはこの世界の新体操はどうかしていると言い出した。さらに、たとえとして某テニス漫画を出していた。何故ならあのまき絵が4位と言うのなら、それ以上の人たちはどんな技が使えるのだろうかと、カギは頭を悩ませていたのである。

 

 

「いーや、あれは絶対優勝だったと思うね!」

 

「僕もそう思います!」

 

 

 そして、裕奈はまき絵の優勝を確信していたと、ありえないと言った様子で断言していた。ネギもその意見に賛同し、興奮気味に言葉にしていたのだった。

 

 

「あっ、まき絵さんだ」

 

 

 するとネギは、顧問の教師や部員と話し合うまき絵を発見した。遠くからでは様子があまりわからないが、まき絵ということはしっかりと理解できた。

 

 

「まき絵さ……」

 

「待て待て、我が弟よ」

 

 

 ならば労いの言葉をかけようと、ネギはまき絵を呼ぼうとした。だが、そこでカギがネギの肩に手を置き、待てと言ってネギを静止したのだ。

 

 

「兄さん……?」

 

「全力を尽くしての4位、さぞ悔しかろう。少しの間そっとしておいてやるのも優しさだ」

 

「……そうだね」

 

 

 ネギはどうしてカギが静止したのかわからなかったようで、そのカギの方を向き首をかしげた様子を見せた。カギはそんな不思議そうな顔をするネギへと、その理由を少し偉そうに話した。

 

 まき絵は己のすべてを出して4位になってしまったのだから、今はそっとしておいてあげたほうがいいと。声をかけて労うのも優しさだが、あえてそっとしておいてあげるのも優しさだと、カギらしからぬことを語って見せたのである。とは言えカギは一応”原作知識”を持つ転生者。この先のことを知っていたからこその行動でもあった。

 

 ネギもカギがそんなことを言うとは思わなかったと驚いた。が、確かに間違ってないし自分も浅慮だったと思い、ネギはその場で遠くからまき絵を見ているだけにした。

 

 

「あっ、みんな!」

 

 

 そこで少し経ったところで、まき絵はようやく元気を取り戻した。そして、ネギたちを見つけると、そちらへと駆け寄って行った。

 

 

「いやー、なんかみんなの前でカッコ悪とこ見せちゃったなー」

 

 

 まき絵は苦笑しながらカッコの悪い姿を見せてしまったと、恥じた様子で言葉にした。ネギたちに応援してもらっていたのに、4位で終わってしまったことを悔やんでいる感じだった。

 

 

「そんなことありません! まき絵さんは十分カッコ良かったです!」

 

「うん、とってもカッコ良かった。お疲れまき絵!」

 

 

 しかし、ネギは恰好悪いことなどない、むしろ格好良かったと、まき絵へと元気付けるように叫んだ。裕奈もそれに釣られ、ネギと同じように格好良かったと話し、労いの言葉を送ったのだ。

 

 

「お疲れ様、まき絵」

 

「お疲れ」

 

「お疲れさん!」

 

「……うん!」

 

 

 さらに亜子とアキラとカギも、まき絵へ微笑みかけてお疲れと声をかけた。まき絵はみんなからそう言われ、うれしそうな笑顔を見せていた。

 

 

「ああっ! 私の風船ー!」

 

 

 しかし、その時近くに居た子供が、握っていた風船を誤って手放してしまったようだ。その風船は高いところまで飛んでいってしまい、完全に手が届かなくなってしまっていた。

 

 

「とぅ! えりゃーっ!」

 

「おー、ありがとうおねえちゃん!」

 

 

 それを見たまき絵はすかさず持っていたリボンで、その風船を絡め取った。なんという早業だろうか。しかも風船本体ではなく、握る部分である糸を絡め取ったのである。とてつもない技術力だ。まき絵のその行動を見た子供は感激の声を出し、嬉しそうに礼を述べていた。

 

 

「あんな離れ業が出来るのに4位かー……」

 

「新体操は奥が深いんですね……」

 

「やっぱテニヌか何かなんじゃねーかな……」

 

 

 そんなまき絵の技を見た裕奈は、あれで県内4位であることに驚かざるを得なかった。魔法使いでもない普通の少女が、あれだけの技を体得しているのだから驚くのも無理は無い。ネギも新体操のそのすごさに度肝を抜かれ、奥が深いと言葉にしていた。また、カギはやはり某テニス漫画を引き合いに出し、普通じゃないと改めて思ったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 映画館の正面にて、黒い服を着込んだ幼い少女が一人、腕を組んで立っていた。何やら面白いことがあったのか、その少女は少女らしからぬ、不敵な笑いを見せていたのだ。

 

 

「フッ……」

 

 

 と言うか、この少女は年齢詐欺薬で小さくなった真名だ。この前の映画館で大人料金を要求されたことを根に持っていたようで、リベンジしに来たのである。

 

 

「これなら子供料金で入れる……」

 

 

 この姿、完全に10歳ぐらいの少女だ。間違いなく子供料金で映画を見ることが可能なはずだ。真名はそう考えながら、ゆっくりとチケットの売店へと足を伸ばしていた。

 

 

「これで勝てる……。フッフッフッ……」

 

 

 前は大人料金を要求されたが、今なら子供料金で入れる。そう考えただけで、笑いが止まらない様子の真名。勝てる、売店のおばちゃんに勝てるぞ。そう言葉にしながら、一歩一歩と売店へと近づいていった。と言うか、何に勝つつもりなのだろうか。それでいいのかスナイパー。

 

 

「ハッ!」

 

 

 しかし、真名は売店手前で気がついた。年齢詐欺薬は2000円であり大人料金のチケットは1800円と言うことを。この時点ですでに200円損しているというのに、さらに子供料金チケットは700円にもなるのだ。つまり、得するどころか損していたのである。

 

 

「大きな穴を見逃していたようでござるな、真名」

 

「何!」

 

 

 やってしまったとガッカリする間もなく、そこへ別の少女が参上した。真名と同じように小さくなった姿の楓だ。そして、いやはや、なんというマヌケなミスをしたものだと、楓は真名へと話しかけたのだ。

 

 

「戦場なら致命の失態でござるよ」

 

「楓!?」

 

 

 大きな失態だったな、戦場なら死んでいたぞと笑って語る楓。その小さくなった姿の楓を見て驚く真名。

 

 

「ちなみに拙者のこれは身体操術に忍術を併用した自前の変化で経費もゼロでござる」

 

「喧嘩を売りたいようだな、貴様……」

 

 

 しかし、楓は年齢詐欺薬など使っておらず、自らの忍術で変化しているだけだった。故に経費はなく、普通に安くチケットを購入できるという寸法だったのだ。そう挑発するかのように説明され、流石の真名も少し頭にきたようだ。ならばここでどちらが強いか競ってもいいのだぞ、それを言おうと真名は口を開こうとした。

 

 

「ん? 何だお前ら、映画見たいのか?」

 

「むっ、この御仁は確か」

 

「知っているのか、楓」

 

 

 だが、そんな時、一人の青年に突然声をかけられた。なんと、そこに現れたのはあの刃牙だったのだ。ただ、刃牙は二人の幼き少女を見て、映画を見たいのかと自然に訪ねただけだった。まあ、刃牙も一応転生者、この二人の正体ぐらいは察していたりするのである。

 

 そして楓は刃牙の顔を見て、それが誰かを思い出した。あまり接点の無かった真名は刃牙のことを知らなかったようで、楓へとそれを尋ねていた。

 

 

「アキラ殿の知り合いでござるよ」

 

「そうだったのか」

 

 

 楓は真名の問いに簡単に答えた。あのアキラの知り合いだと。真名はそれを聞いて納得し、それなら楓が知っていても不思議ではないと思った。

 

 

「で、どうなんだ?」

 

「見たい、と言えば見たいが……」

 

「拙者は見たいでござる」

 

 

 刃牙は先ほどの質問への答えがなかなか返ってこないので、ここで再び二人に尋ねた。すると真名は渋るような顔で、小さく見たいと思っていると遠慮気味に言葉にした。また、楓は特に気にする様子もなく、率直な意見を述べていた。

 

 

「そうか、んじゃおごってやるから待ってろ」

 

「なっ!? いいのか!?」

 

「どうせ大人料金分取られるんだから、この際パーッと使いたくてよ」

 

 

 それを聞いた刃牙は、その二人におごってやると快く話した。真名はおごってくれると言われ、かなり驚いた様子を見せていた。何せ見ず知らずの人間に金を立て替えてくれるのだ、普通に考えれば気前がいいどころではない。

 

 ただ、刃牙はかなりやけくそだった。またしても大人料金を取られると考えてしまうと、どうにも気分が悪くなるだけだ。ならば、一層のこともっと金を使ってしまえと、自暴自棄な感じで二人におごろうとしていたのである。

 

 

「ではありがたく、その恩恵にあずからせていただくでござるよ」

 

「むう……、すまないが頼む……」

 

「おうよ。ってことでおばさん、子供2枚大人1枚頼む」

 

 

 楓もそれならと思い、刃牙へ礼を述べていた。真名もばつが悪そうにしながらも、刃牙におごってもらうことにしたようだ。何せすでに損をしてしまっている真名は、これ以上お金を使いたくなかったのである。その二人の返事に元気よく反応した刃牙は、売店でチケットを3枚購入するのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 大宮駅、多くの路線が集まる大型駅だ。そんな駅にて、少女たちが集っていた。それは帰郷する数多と焔と、その見送りに来たアスナたちである。数多と焔の故郷は魔法世界にあるアルカディア帝国だ。が、アスナ以外に見送りに来た刹那と木乃香はその事実を未だ知らないでいた。

 

 

「本当に空港まで行かなくてもいいの?」

 

「ああ、流石に二度も空港なんぞ行く必要もなかろう」

 

 

 アスナは見送りがこの場所で本当にいいのだろうかと思い、それを焔へ尋ねた。焔は前にアスナたちと、メトゥーナトらを見送ったことを考え、この場所でよいとしたのだ。

 

 

「それに、貴様たちの小遣いももったいないしな」

 

「そのぐらいなら気にしないんだけどなあ……」

 

「水臭いですよ」

 

「そうやそうや」

 

 

 この麻帆良から成田までは、やはりそこそこ遠い。中学生の小遣いでこの距離の電車賃は、けっこう厳しいだろうと焔は思っていた。そう言った理由もあり、ここで問題ないと焔は話したのである。だが、アスナも刹那も木乃香も、気を使わなくてもよいと苦笑しながら言葉にしていた。

 

 

「まあ、おっちゃんたちを見送りに行った後だしよ、別にここでいいってことよ!」

 

「そういうことだ」

 

「それならいいけど……」

 

 

 数多も二度も遠くへ見送りに来ることはないと考えており、アスナたちを説得するように話しかけた。焔もそれに便乗し、十分だと述べていた。アスナはそんな二人の言葉に納得いかない様子を見せながらも、二人がそういうのならそうしようと考えた。

 

 

「ほんじゃな」

 

「またな」

 

 

 そして、間もなく電車が出発する時間に近くなったので、数多と焔は移動しようと思った。なので、目の前の三人に手を振りながら、ゆっくりと歩き出したのである。

 

 

「お気をつけて」

 

「お土産よろしゅーなー!」

 

「気をつけてね」

 

「おう、任せておきな!」

 

「そっちも気をつけるんだぞ!」

 

 

 見送りに来た三人も、歩き出した二人に各々の思いを大声で口に出し、手を振っていた。数多はそれに応えて力強い返事をし、焔は”魔法世界(こっち)”に来る時こそ気をつけろと、三人へと言葉を送った。こうして数多と焔は故郷である魔法世界へと旅立っていったのだった。

 




テンプレ106:サーヴァントを召喚した転生者
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