理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百十一話 それぞれの夏休み

 ここは繁華街の映画館前。なにやら複数の女子がチケットの売店前で立ち尽くしていた。それはスナイパーの真名と忍者の楓だ。二人はなんと中学生だと主張したのにもかかわらず、店員に大人と勘違いされてしまったようだ。

 

 そんな場所へそんなことなど知らずに現れた男性。それはクラッシュのスタンドを使う刃牙だった。彼もまた、夏休みと言うことで暇をもてあましていた。そのため、暇つぶしに町へ出て、ふらふらと歩き回っていたのだ。

 

 

「おお、鮫の映画か……」

 

 

 と、その刃牙はあるものに気がつき興味を持った。それは鮫の映画だ。ジョー○のような感じで、鮫が暴れるパニックもののようであった。刃牙はクラッシュのスタンドを貰うぐらい、実は鮫が好きだった。とはいえ、間近で鮫を見たいといえば、NOと言うが。

 

 

「最近映画見てねぇな。暇だしちっと見ていくか」

 

 

 刃牙は最近こういった娯楽に触れていなかったことを思い出し、暇つぶしに見ていこうと考えた。それに鮫の映画は興味がある。どんな内容なのか非常に気になったのだ。だからゆっくりと売店へ近づき、チケットを購入しようと店員へ声をかけた。

 

 

「おばちゃん、高校生一枚くれ」

 

「何言ってるんだい、1800円だよ」

 

「お、おいおい……」

 

 

 刃牙はなんと高校生だったらしい。しかし、店員はそんな刃牙も大人だと思ったので、大人料金を要求したのだ。と言うのも、この刃牙は特典のせいかスクアーロにそっくりだ。そんな見た目で高校生など、信じられるはずがないのである。刃牙はそこで呆れた声を出しながら、ポケットからひとつの手帳を取り出した。

 

 

「コイツを見てくれ。こりゃ本物の学生証だ。これでも俺は高2なんだぜ?」

 

「嘘言っちゃいけないよ、誰から借りたんだい? 写真も上からかぶせてるんだろう? そういうのわかるんだよ」

 

「んなワケあるかー! チクショー!」

 

 

 それは刃牙の学生証だ。それをばっちり店員に見せ、自分は高校生二年だと刃牙は主張した。だが、やはり店員は信じてくれず、むしろズルをしようとしていると言い出したではないか。刃牙も流石にそう言われてムカっときたのか、頭を抱えながら大きな声で、そんなはずはないと叫んだのだった。

 

 

「やっぱ特典が悪いのか? この特典だから少し老けて見えるっつーのか?」

 

 

 しかし、刃牙も自分の特典のせいかスクアーロにそっくりなことを自覚していた。なので、まあ老けて見えるのもやむなしか、と思ったのだ。それでもやはり納得は出来ない様子で、ため息をつくしかなかったのだった。

 

 

「まあ、しょうがねぇか……」

 

 

 ただ、このまま帰ってもやることはないので、仕方なく大人料金を払う刃牙。大人料金は1800円、大学、高校生は1500円だ。300円ほど損というものである。ちなみに中学生料金は1000円となり、小学生は700円まで下がる。それでも300円ぐらい損してもいいやと、投げやりになった刃牙は、そのままチケットを貰って映画館へと入場していくのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 うってかわってここはエヴァンジェリンの別荘の中。そこでオコジョと雑談する少女の姿があった。少女は魔法使い見習いの夕映。オコジョはやはりカモミールだった。

 

 

「ところで、ゆえっちはそろそろ自分の始動キーを考える時期じゃねーか?」

 

「自分の始動キー……ですか」

 

 

 カモミールは夕映の魔法使いとしての錬度から、もう専用の魔法発動のための始動キーを考えてもよいのではと、夕映へと話した。専用の始動キーと言われ、ふと考え込んだ様子を見せる夕映。夕映はいまだ初心者用の始動キーを使っていたのだ。

 

 

「のどか嬢ちゃんもだが、ゆえっちも随分と鍛えられてるみてーだし、始動キーの設定ぐらいしてもいい頃だと思うがな」

 

「確かに、専用の始動キーは重要だと教えられていますが……」

 

 

 カモミールはのどかも夕映同様、そろそろ専用の始動キーを持ってもよいと考えていた。夕映とのどかは、あのギガントからさまざまな魔法を教えられ、魔法使い見習いとして卒業してもよいほどにまで上達していたのだ。そのことを考えてのカモミールの発言だったが、夕映はどうしたものかと考え込んだままだった。

 

 そもそも夕映とて専用始動キーのことを知らないわけではなかった。何せギガントもそのあたりのこともしっかり解説し、専用始動キーの必要性を教えていたからだ。ただ、夕映はどんな始動キーにするべきか、とても悩んでいた。しっくり来る言葉を捜していたのだ。

 

 

「まあ、言霊(パワー)ある単語なら何でもいい訳だし、考えてもいいと思うぜ?」

 

「そうですね……」

 

 

 カモミールも夕映が始動キーの言葉選びに悩んでいると思ったので、そのことについてアドバイスをした。始動キーははっきり言えばなんでも良い。自分が言葉に出しやすくてしっくりくるような、それでもって言霊(パワー)のある単語なら何でも良いのだ。まあ、何でも良いからこそ、夕映は逆に悩んでいると言うものなのだが。

 

 

「……そういえば、ネギ先生のは”ラ・ステル・マ・スキル・マギステル”でしたね」

 

「そうそう、ぶっちゃけ兄貴みてーな”ハンサム・イケメン・イロオトコ”っつー適当なもんでも十分さ」

 

「そ、それは流石に……」

 

 

 夕映はそこで、ネギが使っている始動キーのことを思い出し、それを言葉にした。知人の始動キーを参考にするのも悪くないと思ったからだ。カモミールもそこでカギの始動キーを例に出し、適当でも問題ないと説明していた。

 

 カギの始動キーは本当に適当なもので、むしろ、使っていて恥ずかしくないのかと思うようなものだったからである。夕映もカギの始動キーはまったく参考にならないと思いながら、流石にそれはないと言う様子で少し引いていた。

 

 

「うーむ、兄貴も最近この始動キーを気にし始めたみてーで、別のにするとか言ってたなあ……」

 

「変えたほうがいいですよ絶対……」

 

 

 とは言え、カギも最近じゃこの始動キーに不満を持ち始めていたらしい。カギも昔はこれでも十分だと思っていたが、今となって考えれば何故こんなダサい始動キーにしたのかと思い後悔していたようだ。

 

 カモミールもそのことを知っていたので、カギをフォローするかのように夕映へとそのことを話したのである。それを聞いた夕映は当然のごとく、変えたほうが良いと言った。正直もう少しましなものはなかったのかと、夕映でさえ思ったからだ。

 

 

「ん?」

 

「どうかしたか?」

 

 

 と、なにやら少し離れた場所で、少女の騒ぐ声がした。夕映はそれに気がついたのか、その音の方を向いたのである。カモミールは夕映の態度を見て、一体どうしたのかと言葉にしていた。

 

 

「いえ……、ただ、あっちが何か騒がしいと思っただけです……」

 

「ああ、兄貴とハルナ姉さんが仮契約したからな。アーティファクトでも使ってるんじゃねーかな」

 

「いつのまに……」

 

 

 夕映はそう言うカモミールへ、騒がしいことが気になったと説明した。するとカモミールもそれに気がつき、たぶんハルナがアーティファクトを使っているのではないかと話した。

 

 なんということか、いつの間にかハルナとカギが仮契約をしていたのである。とは言え、カギとハルナの契約はあの仮契約ペーパーを用いたようで、カギとカモミールはそれは非常にがっかりしたらしい。ハルナにもキスをする相手を選ぶ乙女心ぐらいはあったようだ。

 

 夕映はその話が初耳で、寝耳に水だったらしくかなり驚いていた。確かにハルナはカギと仮契約するようなことは言っていたが、知らぬ間にそうなっていたとはと思っていたのだ。

 

 

「とりあえず何をやってるか見に行くです」

 

 

 とまあ、何をしているのかここからではわからない。そう考えた夕映は、ハルナが騒がしくしているであろう方向へ移動することにした。一体どんなアーティファクトが出たのだろうか。そんなことも考えながら、のんびりとハルナの下へと歩いていったのだ。

 

 

 しかし、ハルナが居た場所は夕映が想像したよりもすさまじいことになっていた。夕映がその場所に到着した時には、すでにとんでもないことになっていたのである。

 

 なんと形容すればよいのか。謎の生物が徘徊し、白い鳩が飛び交っているではないか。これは一体なんだろうかと夕映は思いハルナを見れば、高いテンションを抑えることなく、スケッチブックにすさまじい速さで絵を描いていた。

 

 

「スゲェー! これスゲェー!!」

 

「一体何が……?」

 

 

 ハルナは一心不乱に絵を描きまくり、謎の物体を生み出し続けていた。そのテンションの高さはもはや天井知らずと言っても良い常態だった。その様子を見ながら周囲の謎の物体が何なのかを、夕映は考え込んでいた。これはなんだろうか、多分ハルナのアーティファクトが関係しているのだろうと思っていた。

 

 

「ハルナのアーティファクトの効果みたい。絵を描くとそれが実体化して動くんだよ」

 

「すごいですね……」

 

「ありゃ簡易的なゴーレムを作り出すアーティファクトみてーだなあ」

 

 

 これは一体なんだろうか、そう夕映がこぼすと、それに気がついたのどかが説明を言葉にした。あのハルナのアーティファクトは絵を実体化させて動かせると。夕映はそれを聞いて結構驚いた。そう言ったアーティファクトも存在したのかと、すごい能力だと思ったのだ。

 

 また、カモミールはハルナのアーティファクトを見て、すぐさまその効果を分析して解明していた。そう、ハルナのアーティファクトは描いた絵を実体化し、ゴーレムとして使役するというものだったのだ。

 

 

「こりゃスゲー! 魔法サイコー!」

 

「あまり変なもんは描かねーでくだせーよ!」

 

「わかってるわかってるー」

 

 

 アーティファクトを手に入れたハルナは、魔法の力を目の当たりにし、喜びと驚きの表情でそのアーティファクトの力を無駄に振るっていた。ただ、あまり危険なものなどが呼び出されるのを恐れたカモミールは、流石に変なものは描かないよう叫んだ。

 

 ハルナもそのあたりのことはわかっているのか、わかっていると元気に叫んでいたが、本当にわかっているかはわからないが。

 

 

「そういえば二人のアーティファクト見てなかったっけ。見せてよー!」

 

「確かにそうでしたね……。来たれ(アデアット)

 

「じゃあ私も……。来たれ(アデアット)

 

 

 また、ハルナはふと夕映とのどかのアーティファクトを見たことがなかったのを思い出し、その手を止めた。それをその二人に聞くと、そういえばそういえばと二人も思い出したようで、そっと仮契約カードを取り出して、アーティファクトを呼び出した。

 

 

「二人とも本なんだ」

 

「私のは魔法の教科書みたいなものです。しかし、魔法のことを調べたり検索することも出来ます」

 

「へー、ゆえらしいねー」

 

 

 呼び出された二人のアーティファクトを見て、ハルナはどちらも本なのかと思ったようだ。とは言えハルナもスケッチブックの形状のアーティファクトであり、二人と大きな差はないのだが。

 

 そこで夕映は自分のアーティファクトをハルナへと説明し始めた。魔法の教科書のようなものだが、魔法のことを調べることが可能な本だと言うことを。それを聞いたハルナは、夕映らしいアーティファクトだと思い、それを言葉にしていた。

 

 

「私のは本と言うより絵日記みたいかな……。相手の考えがここに絵本として浮かび上がる感じ」

 

「えっ!? 考えが読めるの!?」

 

「うん。だけど名前がわからないと無理なんだけど……」

 

 

 続いてのどかも自分のアーティファクトのことを説明した。のどかのアーティファクトは絵日記であり、他者の心境が絵日記のように映し出されるというものだ。ハルナはその説明で、心が読まれるということにかなり驚いた様子を見せていた。ただ、名前がわからない相手の考えは読めないことを、のどかはそっと話したのだ。

 

 

「ほー、一応弱点はあるんだ……。でもそれって私の思考は読めるってことじゃん!」

 

「別に勝手に見たりしないから大丈夫だよー」

 

「まあ、のどかだし心配ないかな」

 

 

 まあ、心を読むというのは強力だ。ゆえに弱点もあるのだろう。のどかの話を聞いて、そうハルナは思ったようだ。しかし、それでも自分の考えは読まれてしまうのではないかとハルナは思い出したかのように叫んでいた。そんなハルナへのどかは、勝手に人の考えを覗いたりしないと、少し慌てながら話したのだ。ハルナも優しいのどかがそんなことをするはずもないと思ったのか、その言葉を信じて安心した様子を見せたのであった。

 

 その後三人はアーティファクトのことや魔法のことを話ながら、有意義な時間を過ごした野のだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 そこは麻帆良の地下深く。その巨大な空洞にて、少女と初老の男が歩きながら周りを見渡していた。その少女は超鈴音、そして男はエリックだった。

 

 

「随分と見違えたネ」

 

「急ピッチで作業を進めたからな。それにスピードワゴン財団が人材を貸してくれたのも大きい」

 

 

 その巨大な空洞を見て、超は自分の感想を悠々と述べていた。また、エリックはそのことに、スピードワゴン財団が人員を貸してくれたので助かったと言葉にしていた。

 

 

「しかし、ビフォアが使ていた場所を我々が使うというのは考えたネ」

 

「元々ビフォアの工場だった場所だ。使わない手はなかろう」

 

 

 この空洞は元々ビフォアが工場として使っていた場所だった。カズヤと法の攻撃で完全に破壊された工場跡を、エリックは自分たちの基地にしてしまおうと思ったのだ。超も確かにこの場所はもったいないと思っていたので、エリックの考えを賞賛していた。

 

 ……この二人はビフォアが精神を破壊されたことをまったく知らされてはいない。何せ麻帆良の魔法使いに捕まったビフォアがどうなっているかまでは、調べようが無いからだ。無理をすれば出来なくもないことだが、麻帆良の魔法使いに捕まっているのなら特に不満もないのも二人だった。

 

 それに、超は何度も違反をしてまで、ビフォアの所在を調べ上げていた。そのため、魔法使いに目をつけられてしまっているのが現状である。ただ、超は一応ビフォアの打倒のために戦っていたとされたので、記憶の消去などの懲罰は免除されてはいるが、監視されている状況だ。とは言え、麻帆良から脱出したり変な行動を取らなければ、基本的に自由が許されているとても甘い罰なのだ。

 

 そんなところへもう一人、別の男性が現れた。赤茶色の長い髪を持つ、整った顔を持つ男だ。彼こそが一応超の監視役として名乗り出た男であり、超の友人と呼べる人物だった。

 

 

「よう、超。そしてお久しぶりです、ミスター・エリック」

 

「豪か」

 

「久しぶりだな、豪よ」

 

 

 その男は豪だった。豪は超の監視役として、多少なりに超に近い場所にいる。つまるところ、超が今何をしているのかはある程度把握していた。ゆえに、豪はエリックたちがこの場所で自分たちの基地を建造しているのを知っていたので、二人に会うためにここまで来たのだ。豪は二人へ笑みを見せながら挨拶すると、超もエリックも同じように挨拶を返した。

 

 

「俺も見せたいものがある。こっちへ来てくれると嬉しいんだが」

 

「豪も氷竜と炎竜の待機スペースを欲していたんだたネ」

 

「君がそう言うのなら、ついていくとしよう」

 

 

 そして豪は、こちらも見せたいものがあるからついてきてほしいと、二人へ頼みを話した。超は豪の見せたいものを察したのか、そのことを言葉にした。

 

 豪は前から氷竜と炎竜の待機スペースを欲しがっていた。何せ氷竜と炎竜はビーグル形態でさえ大型トラックよりも巨大なのだ。ゆえに、駐車場には入れないので、しかたなく工業大学の近くの適当な場所に許可を得ておいて置くしかなかったがゆえに、専用の待機場所を設けたいと思っていた。また、エリックも豪の言うことに不満はないようで、その豪の後ろをついていくことにしたようだ。

 

 

「よう!」

 

「お二人とも、お久しぶりです」

 

「おお、氷竜と炎竜カ。元気そうだナ」

 

「うむ、久しいな」

 

 

 二人は豪の後ろへついていきながら案内された場所、そこはビフォアの工場跡の隣にあった。その場所も同じように広い空間となっており、すでにモニターなどの機材が置かれ、使えるようになっていた。

 

 そんな場所に巨大な椅子に座り超たちを待っていたのは、なんと氷竜と炎竜だった。炎竜は右手を上げて元気よく、氷竜は静かに超とエリックへと挨拶をした。超も久々に見た二体へ、元気そうだと言葉にし、エリックも久々の再会を喜んでいたのだった。

 

 

「あ、超さんにドク・ブレイン。どうもこんにちわ」

 

「こんにちわ」

 

「茶々丸にハカセも御機嫌よう」

 

「やあ、葉加瀬君」

 

 

 さらに、そこには二人、豪に呼ばれた葉加瀬が椅子に座り、その横で茶々丸が立ちながら待っていたのだった。豪は葉加瀬と茶々丸を見つけると、すぐさま手を振り挨拶をした。葉加瀬と茶々丸もそれを見て椅子から降り、ペコリと頭を下げて挨拶を返したのだ。そして、豪の後ろに居た超とエリックを見つけた葉加瀬と茶々丸はそちらにも頭を下げ、超とエリックもそこで同じように挨拶していた。

 

 

「ハカセと茶々丸も来ていたのカ」

 

「はい、私も豪さんに呼ばれたので……」

 

「みんなそろったようだな」

 

 

 超は葉加瀬と茶々丸もこの場所へ来てことを今知ったようで、ここに二人が来ていたことにどうしてだろうかと考えた。葉加瀬はそんな超へ、自分も豪に呼ばれてここへ来たと、疑問を解消するように話したのだ。そんな時、豪が全員へ話しかけ、注目を集めたのだ。

 

 

「ところで見せたいものとは何ネ?」

 

「それはこの場所さ」

 

 

 そこで超は、豪が見せたいと言ったものとはなんだろうかと、ここで豪へと質問した。豪はその問いに、この場所自体が見せたいものだったと笑顔で語って見せていた。

 

 

「巨大ロボ専用の作戦司令室だ」

 

「ここが豪の新しい拠点カ」

 

「なかなか面白いことを考えるもんだなあ」

 

「そういうことだ」

 

 

 この場所こそが氷竜や炎竜専用の作戦司令室だと、これこそが見せたかったものだと豪は三人へ言って見せた。超はこの作戦司令室が豪の新しい拠点だと関心し、エリックも巨大ロボ用の司令室など面白いことを考えると思ったようだ。二人の言葉を豪は肯定し、ニヤリと笑って頷いていた。

 

 豪は麻帆良の防衛を多少なりに任されている存在だ。そのため、ある程度麻帆良の状況を把握するための場所がほしかった。だからこそ、この場所で麻帆良での危機を察知し、監視しようと思ったのだ。また、そう言った情報を魔法使いたちへ連絡することも、この豪の任務の一つでもある。

 

 

「だが、もうひとつ見せたいものがある」

 

「それは一体?」

 

「あっちを見ればわかるさ」

 

 

 しかし、豪が見せたいものはこれだけではなかった。だからここで豪は、まだ見せたいものがあると言ったのだ。それはなんだろうか、葉加瀬がそこに疑問を感じ、それを豪へ聞いてみた。すると豪は親指で見せたい方向を示し、そちらを見ればわかると豪語したのだった。

 

 

「はじめましてみなさん。私は風龍と申します」

 

「おっす! 俺は雷龍、どうぞよろしく!」

 

 

 そして、誰もが豪の指した方向を見ると、そこには氷竜と炎竜とは異なる、緑のロボと黄色のロボが座っていたのだ。そう、それこそ氷竜と炎竜の同型機であり兄弟機でもある、緑色の風龍と黄色の雷龍だった。二体はそれぞれ思い思いに、初めて出会った超たちへ挨拶していた。

 

 

「氷竜と炎竜の同型?」

 

「ほう、こりゃすごい」

 

「ああ、あの二体の兄弟にあたる」

 

 

 葉加瀬は風龍と雷龍を見て、氷竜と炎竜と同じ形状であることを把握し、同型なのだろうかと言葉にしていた。

また、エリックも新たな巨大ロボの出現に、多少感激した様子を見せたのだ。

豪は葉加瀬の言葉を肯定し、氷竜と炎竜の兄弟機だと話した。

 

 

「……つまり私の弟のようなものでしょうか?」

 

「そう言えなくもないだろうな」

 

「そうですか……」

 

 

 そこで茶々丸が兄弟という言葉に反応し、ならば自分の弟にもなるのではないかと、豪へと聞いた。豪はGストーンを共有すると言う意味では兄弟であるだろうと、茶々丸の言葉にYESと述べた。茶々丸は元々氷竜と炎竜、さらにはチャチャゼロの妹のような存在であり、末っ子だった。つまり、茶々丸は初めて自分より下の弟が出来たことに、何かを感じている様子を見せていたのだった。

 

 

「ようやく完成したのカ」

 

「少し時間がかかっちまったけどな」

 

 

 ただ、超だけはさほど驚く様子を見せず、むしろ静かにやっと完成したのかと言葉にしていた。豪も超にそう言われ、いろいろと時間がかかったと苦笑しながら話したのだ。

 

 と言うのも、氷竜や炎竜と同型だが、開発にはやはり時間が必要だった。AIも育成プログラムを使って育てるが、それだけでは不十分であるし、同型だからと言って全て以前のようにうまくいくとは限らないのだ。また、この二体の開発には超も深く関わっており、豪と共同で開発したと言っても良いものだったのである。

 

 

「本来ならばビフォアとの決戦に間に合わせたかたが……」

 

「まあ、過ぎたことはしょうがない。今は二体の完成を祝おう」

 

「そうだネ!」

 

 

 そして、本来ならばこの二体は、ビフォアとの戦いに投入される予定だった。が、予定通りに開発が進まず、ようやくここで完成したという状況だったのだ。だから超も豪を手伝い、この二体の開発に協力したのである。

 

 超はそのことを多少惜しく思いながら、ビフォアの戦いに二体の完成が間に合わなかったと言葉にしていた。この二体が完成していれば、もう少し作戦の幅が広がり、戦いも楽になっていただろうと思っていたからだ。

 

 しかし、終わってしまったことは仕方が無い。それに、ビフォアの戦いには勝利できたのだから、もう考える必要はないだろうと豪は語った。ならばそんなことよりも、今はこの風龍と雷龍の完成を祝おうと、笑いながら超へと話したのだ。超も豪の言葉を喜んで肯定し、過ぎたことなど置いておき、今は二体の完成を祝うことにしたのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 犬上小太郎は現在、那波千鶴の部屋に居候中である。あのアーチャーにボコられて麻帆良に捨てられた悪魔襲来事件の後、京都、関西呪術協会の長である詠春が、この麻帆良の関東魔法協会の理事であり義父でもある近右衛門に、預ける形となっていた。

 

 まあ、そんな感じに麻帆良へと転入してきた小太郎は、修行三昧の日々を送っていた。最初はもっともっと強くなりたいと思ってバーサーカーと修行に励んでいたが、バーサーカーの強さを見て、このゴールデンなバーサーカーを倒したいと思うようになっていた。

 

 ゆえに、バーサーカー以外にも、ネギと修行したり、楓に修行をつけてもらったり、最近では山で会った数多とも修行する仲となったりと、色々行動を始めていたのだ。ただ、小太郎本人は修行ばかりでもいいのだが、他はそうではない。当然遊ぶ時間なども必要だ。つまるところ、誰もがそう言った時間を取っている間、暇な小太郎は麻帆良をふらふらしていたのだった。

 

 

「おっ、バーサーカーの兄ちゃん!」

 

「よお、坊主!」

 

 

 そんなところに筋肉質のヤンキーが暇そうに立っていた。それはあのバーサーカーである。バーサーカーも修行ばかりというワケではない。たまには街に出たりと現代の俗世を楽しんでいるのだ。ただ、今回はそうではなさそうで、これからどうするかを考えているような様子だった。

 

 そのバーサーカーを見つけた小太郎は、その場へ駆け寄り声をかけた。バーサーカーも小太郎の呼び声に気づき、そちらを振り向き大声で返事をしたのだ。

 

 

「前から言ーとるが坊主やあらへんで! 小太郎や!」

 

「おう、そだったな。わりーな、コタロー」

 

「そや、それでええ」

 

 

 小太郎はバーサーカーに、前々から坊主呼ばわりされたことが気に食わなかった。だからそこでしっかりと名前で呼んでくれと少し怒気を含んで叫んだのだ。バーサーカーも確かに悪かったと感じたようで、頭に手を置いて素直に謝りその名で呼んだ。名を呼ばれた小太郎はそれに満足したのか、それでいいと頷きながら表情をゆるませていた。

 

 

「……つーか、今思ったんやけど、兄ちゃんの名前、バーサーカーっておかしいとちゃうか?」

 

「いまさらだな! まあ、本当の名前じゃねーからな」

 

「なんやて!? やっぱ偽名やったんか!」

 

 

 しかし、小太郎は名前でふと思い出した。それはバーサーカーという名前のことだ。バーサーカーなんて普通に考えたらおかしい名前であり、明らかに偽名としか考えられない。そのことをバーサーカーへ尋ねると、やはり本当の名ではないと答えが返ってきた。小太郎は偽名なのではないかと思っていたが、本人からそれを言われて少し大きな声でそれを言葉にしていたのだった。

 

 

「偽名っつーか、クラス名ってヤツだな」

 

「クラス名? ガッコーのかいな?」

 

 

 バーサーカーはその小太郎の疑問に、偽名というよりクラス名のことだと説明した。ただ、小太郎はクラス名と聞いてもピンと来なかったのか、首をかしげて学校のクラスか何かだろうかと思ったようだ。

 

 

「そっちじゃねー。わかりやすくいや職業だな」

 

「バーサーカーなんつー職業あるんか?」

 

 

 そんな小太郎にバーサーカーは、違うそうじゃない、どちらかといえば職業の方だと言葉にした。小太郎は職業と聞いて、バーサーカーなどという変な職業があるのか再び疑問に感じたのだ。そりゃ狂戦士なる職業など、どう考えてもおかしいからだ。

 

 

「面倒だから説明しねーが、まあそんなところよ」

 

「ほーん。で、本当の名前は何なんや?」

 

「そう来ると思ってたぜ!」

 

 

 小太郎の疑問ももっともだ。バーサーカーはそう思ったが、色々説明するのが面倒だったので、それでかねがね合っていると言葉にした。本来ならば聖杯戦争で召喚され、七騎のクラスに当てはめられる。そのひとつがバーサーカーなのである。

 

 が、ここではそんなことなど関係ないので、説明するのもけっこう大変で面倒というものだろう。小太郎もそのあたりは軽く流したようで、あまり気にした様子を見せていなかった。むしろどうでもよさそうだった。

 

 小太郎はそんなことよりも、バーサーカーの本当の名前、真名が知りたくて仕方なかったのだ。バーサーカーもそれを質問されるというのは最初からわかっていたので、堂々とした態度でそう話した。

 

 

「まっ、いいだろう。教えてやるぜ」

 

「おお!」

 

 

 よーし、だったら教えてやる。日本で知らぬものなどいないと思われるほどの、有名な自分の名を。バーサーカーはそう考えて不敵にニヤリと笑いながら、小太郎へとそう告げた。

 

 小太郎もバーサーカーが理由があって偽名を使っていると思っていた。なので、頼んだだけで名前を教えてくれるとは思ってなかった。が、バーサーカーは気前よさそうに教えてくれると豪語したので、小太郎も非常に嬉しそうな表情で、その名を聞こうと犬のような獣耳を立てていた。

 

 

「俺の真名は坂田金時! 金太郎で有名なゴールデンのアイツだ!」

 

「さかた? きんたろう……?」

 

「おうよ!」

 

 

 バーサーカーは誇るかのように、自分の真名を豪語した。金太郎ならば日本の男児なら誰でも知っているはずだ、そう思いながら名を語った。しかし、小太郎はバーサーカーの名を、何だそれは……まったく知らない、そんな微妙そうな表情で復唱していた。その小太郎の声に反応したバーサーカーは、大声で逞しい返事を言い放っていた。

 

 

「……それって有名なんか?」

 

「なっ! オメーゴールデンな金太郎を知らねーのか!?」

 

「まったく知らへんで」

 

 

 バーサーカーは自分が有名だと豪語していたのを聞いた小太郎だったが、まったくもってその名にピンとくるものがなかった。むしろ誰それ状態だった。ゆえに、バーサーカーが有名なのかを懐疑的な表情で尋ねたのである。

 

 それにはバーサーカーも驚いた。まさか、この日本で自分の名前を知らない田舎モンがいるなんて、そう思った。昔話にも出てくる金太郎、その名を知らないというのは、日本男児としてどうなんだ、そう考えた。だから再び本当に知らないのかを小太郎へ尋ねた。

 

 しかし、小太郎はやはり知らない様子だった。何言ってんだこいつ、というような様子だった。完全にとぼけている感じではなく、本気で知らないという感じだったのだ。

 

 

「……そういやそうだったな」

 

「……? 何がや?」

 

「いや、何でもねぇよ!」

 

 

 だが、バーサーカーはそこでふと思い出した。それは小太郎の生い立ちのことだ。小太郎は生まれながらに孤児であり、生きるために必死で命を賭けてきた。それを考えれば、自分の名を知らないのも仕方が無いことなのではないか、そうバーサーカーは思った。

 

 そのことが少しバーサーカーの口から漏れたのを聞いた小太郎は、何がどうしたと再び聞いてきた。先ほどまで余裕の態度で不敵に笑っていたバーサーカーが、少し深刻そうな表情へと変えたからだ。

 

 バーサーカーはそんな疑問をぶつけてくる小太郎を見て、再び笑みをこぼした。そして、別に気にすることは何も無いと話し、小太郎の頭をポンポンと軽くたたいたのである。

 

 

「別に知ってなくてもいいさ。だが、人前ではバーサーカーで頼むぜ? むしろゴールデンと呼んでくれりゃもっと最高だ!」

 

「おう! まかしとき!」

 

 

 また、バーサーカーは自分の名など知って無くてもどうということはないと言葉にし、それでも普段はバーサーカーと呼んでくれと頼んだのだ。いや、それ以上にゴールデンと呼んでくれと、ニカッと笑って言い出したではないか。小太郎もゴールデンってなんだろうかと思いながらも、その言葉にしっかりと返事をし、男の約束として捉えたのか任せておけと豪語していた。

 

 

「……でよ、オメー後つけられてねーか?」

 

「何?! 誰や?」

 

 

 ただ、そこでバーサーカーは先ほどから気になっていたことを小太郎へと話した。それは小太郎が誰かにつけられているということだった。誰なのかはわからんが、とにかく物陰に隠れてこちらの様子をじっと伺っている誰かに、バーサーカーは最初から気づいていたのだ。

 

 バーサーカーの話を聞いた小太郎は、後ろを向いて誰がつけているのかと、鋭い視線をそちらに向けた。が、不審な人物はまったく見当たらなかったので、どこだろうと探しはじめた。

 

 

「ほれ、あそこ」

 

「ん? ありゃ夏美姉ちゃんやな」

 

「知り合いか?」

 

 

 どこだどこだと探す小太郎を見て、バーサーカーは指をさしてそこだと教えた。すると小太郎はバーサーカーの指の先を見て、それが自分の知り合いだということに気がついた。

 

 小太郎をつけていたのは、短めの髪の毛にくせっ毛と頬のそばかすが特徴的な、あの夏美だった。夏美は同じ部屋に住むようになった小太郎が、少し気になりだしたようで、こっそり小太郎の後をつけていたのである。そして、バレたことに驚きながら慌てふためく様子を見せていたのだった。

 

 小太郎もつけていたのが夏美だとわかったので、警戒を解いてほっとしていた。さらにマヌケに慌てる夏美を見て、何がしたいのだろうかと思っていた。そこへバーサーカーが小太郎の様子を見て、知り合いなのかと聞いたのだ。

 

 

「まーな。俺は夏美姉ちゃんとこで居候させてもらっとるんやで」

 

「へえ……」

 

 

 小太郎はバーサーカーの問いに、素直に答えた。あそこにいる夏美という娘と同じ屋根の下で暮らしていると。バーサーカーはそれを聞いて、意味深な顔で返事をしていた。10歳ぐらいの男子とて、女性の部屋で暮らすことに少し驚いたからだ。とは言え、小太郎も特に好んで彼女たちの寮で暮らしているわけではないのだが。

 

 

「とりあえず話しかけに行けよ」

 

「そやな。んじゃ、また修行よろしゅーたのむで!」

 

「おう!」

 

 

 まあ、そんなことよりも、見つかったことに慌てている夏美を何とかしてやったらどうなんだ、バーサーカーはそう思った。なので、小太郎にさっさと行って話しかけて来いと、バーサーカーは言ったのだ。小太郎も確かにそうだと思ったようで、わかれの言葉を述べて夏美の方へと走って行った。その小太郎の言葉にバーサーカーも力強い声で返事をし、その二人の様子を少し眺めていたのだった。

 

 

「……ヘッ、仲良くしろよ」

 

 

 そして、仲よさそうにする二人に満足したバーサーカーは、一言その場に残して立ち去っていった。さて、これからどうするか。どうせ覇王はもうここにはいないし、また山にでも行くとするか。そう考えながら、麻帆良を歩くのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 うってかわってここは麻帆良の女子寮の一室。そこに四人の少女が集まり、面白おかしく雑談をしていた。それは美砂、円、桜子、亜子のでこぴんロケットのバンドメンバーだ。

 

 

「ねえねえ、亜子さぁ。最近彼氏とうまくいってんの?」

 

「んー……。多分うまくいっとると思うんやけど……」

 

「多分じゃ駄目じゃん!」

 

 

 本来ならバンドの練習などで集まったようだが、そんなことはお構いなしの様子だった。そんな時、ふと美砂が亜子が彼氏とうまくいっているのか気になった。亜子の彼氏とは、つまり覇王や状助の友人である、あの川丘三郎のことだ。それを亜子へと尋ねると、亜子は考える素振りを見せた後、多分うまくいっていると話した。だが、美砂は多分では良くないと思ったので、そのことを叫んだのだ。

 

 

「メールとかしてるの?」

 

「少しぐらいやったら……」

 

「少しってどのぐらいよ!?」

 

 

 そこで円は亜子にメールぐらいしているのかと聞いてみた。亜子はその問いのも自信なさげな感じで、少しぐらいと言葉にしていた。しかし、そこでも美砂は少しと言う曖昧な言葉にツッコミをいれ、どのぐらいなのかと正確な数字を聞き出そうと叫んでいたのだった。

 

 

「うーん……。一日に2、3回ぐらいやったかな?」

 

「すっくなー! もっといっぱいしなきゃ! 一日300回とか!」

 

「多すぎやろそれ!」

 

 

 亜子はそこで再び考える素振りを見せた後、一日二~三回はメールをしていると言葉にした。それでも美砂はその数が気に入らなかったのか、少ないと断言して見せた。さらにもっと多くメールをしろと、一日300回はやるべきだと豪語したではないか。流石に300回は多すぎる、ストーカー並だと思った亜子は、多すぎると大声で言葉にしたのだ。

 

 

「デートとかしてる?」

 

「でっ、デート!?」

 

「そうだよ! まさかないってことはないよねー!?」

 

 

 ならばデートはしているのだろうか、それを疑問に思った桜子が次にそのことを亜子へと尋ねた。亜子はデートと聞いてドキッとした様子を見せた。が、そんなことはお構いなしに、桜子はデートしてないことはないだろうと亜子を覗き込むように話した。

 

 

「……一応、何度かしとるんやけど……」

 

「ほうほう。で、最後にしたのはいつ?」

 

 

 亜子は少し照れながら、デートぐらい何度かしていると小さな声で言葉にした。美砂はそれには満足した様子で、ならば最後にデートしたのはいつごろなのかと亜子へと聞いた。

 

 

「確か、学園祭の時が最後やった……?」

 

「何で疑問系なのよー!?」

 

「うーん……。あの時ウチ、調子が悪ーなったみたいで……、記憶が曖昧なんねん……」

 

「むう、それじゃしかたないか……」

 

 

 亜子は確かと前置きをしながら、学園祭の二日目が最後のデートだったことを、思い出すかのように話した。美砂はそこでどうして疑問系なのかと、亜子へと叫んだ。デートと言う大事なことなのだから、しっかり覚えているのが普通なのではないかと思ったからだ。

 

 ただ、亜子はその時のことをあまり思い出せないでいた。デートの終盤、亜子は調子が悪くなったのか、記憶が曖昧になってしまっていることを、残念そうに語ったのだ。

 

 と言うのも、実際は亜子と三郎のデートの時に、銀髪の神威が邪魔をしてきてた。そして、カギが銀髪と戦い、窮地を脱したのである。そこでカギが三郎が銀髪に襲われたのを忘れさせるために、記憶が曖昧になるような魔法を亜子へと使ったのだ。ゆえに、亜子はその時のことを未だに夢だと思っており、学園祭のデートのことが思い出せないでいたのだった。

 

 美砂は亜子のその言葉に、体調不良ならまあ仕方ないかと思ったらしく、ため息を吐きながらも、特に不満を思った様子は見せなかった。

 

 

「でも夏休み入ってから一度もないのもどうかと思うなー」

 

「そ、そうやろか?」

 

「当たり前じゃない!」

 

 

 しかし、円は夏休みに入ったというのに、再びデートをしていない亜子にそれじゃいけないのではないかと話した。亜子はそれではいけないのかと疑問に思った様子で尋ねれば、美砂も当然それでは駄目だと再び声を荒げて言い放った。

 

 

「こうなったらデートの約束ぐらいしないと!」

 

「せやけど、向こうもいきなりやと迷惑に思うかもしれへんし……」

 

「そんなこと言ってたら進展するものも進展しないって!!」

 

 

 ならばデートの約束ぐらいしないとならんだろう。美砂はそう考えはっきりとそれを口にした。だが、亜子は乗り気ではなく、やたらデートなどしても相手に、三郎に迷惑なのではないかともどかしげなことを話すではないか。

 

 なんという内気な態度。これではまったくもって進展しない。このままでは彼氏彼女程度の仲で終わってしまう。そう考えた美砂は、それじゃ駄目だ、駄目すぎると熱気を放つかのように叫んでいた。

 

 

「そ、そうやけど……」

 

「かー! じれったいわー! かー!」

 

 

 確かにそうだ、そうなのだが、亜子もそのことはわかってい。が、亜子は何より嫌われたくないという気持ちの方が強いので、あまりぐいぐいと押していこうと考えないのだ。美砂はそんな亜子のじれったい態度に、頭を両手で押さえながら再び声を大きくして叫んでいた。いやはや、これで何度叫んだのだろうか。少し興奮しすぎである。

 

 

「こうなったら何らかの方法でアピールするとかしかないね!」

 

「うんうん!」

 

 

 もはやこれでは一向に進展しないだろう。そう判断した円は、ならば別の方法でアピールすればよいと、突然言い出したではないか。それに同意し頷く桜子。こっちもノリノリのようだ。

 

 

「そうだ! セクシーな写真をメールで送ってアピールするってのはどう?」

 

「いいんじゃない?」

 

「それでいこー!」

 

「えー!?」

 

 

 それならいい考えがあると、美砂は突然その意見を自信ありげに言い放った。その考えとはなんと、亜子のセクシーな写真を撮って、彼氏たる三郎に送りつけるというものだったのだ。

 

 普通ならそれはどうかと思う意見だが、円も桜子も賛同し、早速行動しようと立ち上がっていた。このままどうなってしまうのだろうか。亜子は何をされるのか不安になりながらも、大声で叫ばずにはいられなかった。

 

 そして、四人は早速場所を移し、演奏ステージがある世界樹の近くの広場までやってきた。気がつけばセーラー服姿となった亜子に、何故か同じようにセーラー服となっていた他の三人。そのうち円と桜子が亜子にポーズをとらせ、美砂が携帯電話に搭載されたカメラのシャッターをきっていたのだった。

 

 

「うーん、やっぱこれじゃ駄目かな……」

 

「もっと刺激が強いものじゃないと……」

 

「それじゃー次いってみよー!」

 

「なんでそーなんねん!」

 

 

 しかし、何か納得がいかない亜子を除く三人。なんというか刺激が足りない。そう感じているようだった。まあ、姿はただのセーラー服。セーラーフェチでもない限り心を動かされることはないだろう。そう考えた美砂は、これではダメだと嘆いた。円ももう少し刺激的な衣装の方がよいのではないかと、静かに言葉にしていた。

 

 ならば別の衣装を着せればよい。桜子はテンションをあげて次の行動へと映ろうとしていた。ただ、亜子は別にこれでもいい、充分だと思っていたのか、次は不要だとばかりに叫ぶのであった。

 

 

「これもベタというか……」

 

「もっとすごいインパクトがほしいところだね……」

 

「じゃあもっとスゴイのいっちゃう?」

 

「もーえーやん! これで十分やん!」

 

 

 そして、今度はなんと水着姿となってポーズをとらされた亜子。またしても携帯電話に搭載されたカメラのシャッターをきる。だが、それでも満足のいかない三人。なんというか、普通。それが亜子以外の意見だった。ありきたりすぎて大きな衝撃が受けないと、やはり嘆く美砂。ならばこれ以上の衝撃を与えるような、そんな何かがほしいと語る円の二人。

 

 だったらさらにすさまじい、本当にセクシーな衣装にするしかないと、桜子は笑いながら言い放った。それでも亜子はコレで充分だと、むしろこの時点でかなり恥ずかしいと、自分の意見を大声で訴えかけていた。

 

 

「とゆーわけで……」

 

「へっ?」

 

 

 ならば早速そうしよう。美砂はそう考え、金槌をそっと取り出した。すると、何をするのかと考え呆ける亜子へと、その金槌を振り下ろしたではないか。そのショックで亜子は気を失ったようで、ふらりとその場に倒れこんだ。その隙に三人はステージにある部屋へと移動し、亜子を着替えさせたのである。

 

 

「……あれ?」

 

 

 亜子はふと気がついた。そこはステージの部屋のソファーの上だった。ただ、何か違和感を感じた。それは衣装だ。亜子はゆっくりと体を持ち上げると、バニーガールの恰好をしていることに気がついたのだ。そして、見渡せば他の三人が固まりながら、なにやらテンションをあげているではないか。

 

 

「インパクト十分!」

 

「これならいける!」

 

「惚れ直すこと間違えなし!」

 

「やめてえぇぇぇっ!!」

 

 

 なんということだろうか。亜子の恥ずかしいこの恰好は、すでに携帯電話のデータに収容されており、すでに送るだけの状況となっていたのだ。これなら文句なしだと笑う円と、同じように笑う桜子。さらにこれを見せれば彼氏もイチコロだと豪語する美砂がはしゃいでいるではないか。それを見た亜子は、なんとしてでもその写真データを送ってほしくないと、中止を訴え叫ぶしことしか出来なかったのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 そしてここは麻帆良にある男子寮の一部屋。その部屋はあの三郎の部屋だった。そんなところへやってきた一人の男子。リーゼントの頭をした体格のいい男子だ。

 

 

「よお、三郎」

 

「おや、状助君」

 

 

 それはやはり状助だった。状助は三郎の部屋へといそいそと入って挨拶をした。三郎は突然の来客に少し驚きながらも、なんだ状助か、という様子でその状助の名を呼んでいた。

 

 

「覇王がいなくなって寂しいんでよお、おめーのところへ来ちまったぜ」

 

「そうか。覇王君は夏になるとどこか消えるんだっけ」

 

「まあなあ……」

 

 

 状助は覇王がいなくなったので、独り寂しく部屋の取り残されていた。あのバーサーカーも状助の部屋の同居人なのだが、最近は外に出っ放しでめっきり帰ってこない状況でもある。そのため、話し相手がおらず暇をもてあましていたのである。ゆえに、三郎の部屋へと遊びに来たのだ。

 

 三郎は覇王が夏になると忽然と消えることを思い出したようで、そういえばそうだったと言葉にしていた。三郎も覇王が転生者狩りをしていることは本人から聞かされていたので知っていた。なので、多分それを行っているのだろうということはわかっていた。

 

 ただ、それでもどこに行っているかまでは把握していないので、どこに行ってるんだろうかと常々思ってはいたのである。しかし、状助は一応覇王の行き先を知っている。それでもここでは関係の無い話なので、あまりそれを話さないのだ。

 

 

「おかげで全部自分でやらなきゃならねえから面倒でしょうがねえ……」

 

「大変だねえ」

 

 

 また、状助は陰鬱な表情で、最近の生活状況を言葉にしていた。というのも、基本的に掃除洗濯料理などは覇王と分担していた状助。そこで覇王がいなくなれば、自動的に全部自分がやらなければならなくなる。しかも、洗濯は覇王がS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)を使って手軽に行っていたので、覇王がいない今は渋々と状助自身が洗濯して干さなければならないのだ。

 

 実際は毎年のことであり、すでに慣れてはいる状助だが、やはり面倒なことには変わらないというもの。三郎も同じセリフを去年も聞いたようなと思いながらも、状助へとねぎらいの言葉をかけていたのだった。

 

 

「……そういえば、俺らって転生者なんだよね……」

 

「……? まあそうなんじゃあねえか?」

 

「そうか……。そうだよね……」

 

 

 そんな状助へ、三郎も突然憂いに満ちた表情で、自分たちは転生者で間違えないのかと、静かに状助へと尋ねた。状助はその質問の意図がまったくわからなかったが、とりあえず謎の神から特典貰って生まれ変わらせられたのならそうなのではないかと、三郎へと返した。三郎は状助の答えを聞いて、ますます落ち込んだ様子を見せ、小さくため息をつくのだった。

 

 三郎が何故少し気を落としているのか。それはあの銀髪のこと神威が言い放った台詞にあった。神威は三郎に、お前も俺と同じ転生者だと、そう言った。この世界の異物であり、本来存在しない存在、それが転生者。三郎は別に悪いことをしたことなどなかったが、それでも自分もあの神威と同じ存在なのだろうと考えてしまったのだ。

 

 確かに自分はあの男とは違うが、転生者であることには差がないのではないか。転生者とは一体何なのだろうか。あの男と同じ存在ならば、本当に彼女である亜子と付き合っていてもよいのだろうか。幸せにしてあげられるだろうか。そもそも存在していていいのだろうか。そんな疑問がふつふつと、三郎の頭を過ぎるようになった。ゆえに、三郎は最近元気が無いのである。

 

 

「何かあったのかよ? 最近元気もねーみてぇだしよ」

 

「別にどうってことはないけどね……。あ、そう……ん?」

 

 

 状助は三郎の心境がわからなかったがどこか元気が無い様子なのを察し、一体どうしたのかと聞いてみた。しかし、三郎は状助へとぎこちない笑顔を向け、大丈夫だと話すだけだった。

 

 ただ、三郎は状助がそのあたりのことをどう考えているか、少しだけ気になった。それを状助に聞いてみようと思い声を出した時、ちょうど携帯電話が鳴ったではないか。三郎はその音でしかたなく言葉を中断し、そっちへと手を伸ばした。

 

 

「メールだ。亜子さんからだ」

 

「そうだったなぁ……。おめーその子と付き合ってるんだったなあ……」

 

「ハハハ……、まあね。っと、とりあえず何だろう」

 

 

 三郎はそのまま携帯電話を開きメールの着信を見ると、メールを送ってきたのは亜子だった。それを三郎が言葉に出すと、状助は腕を組みながら難しい顔をして、そういえば三郎と亜子が付き合っていることを思い出したのである。そんな風に話す状助に、三郎は乾いた笑いを出した後、そのメールの用件はなんなのかを確認したのだ。

 

 

「ぶっ!」

 

「どうしたぁ? なっ、なんだこりゃぁ!」

 

 

 しかし、三郎はそのメールに添付してあった写真を見て、壮大に噴出した。その様子を見ていた状助も、突然の三郎の行動に疑問を感じ、その画面を覗き込み同じように驚いていたのだった。

 

 

「一体どういう意図があってこんな……?」

 

「あっ! いや、確かそんなこともあったような……」

 

「何か知ってるのかい? 状助君」

 

 

 そう、その写真は美砂たち三人が撮った亜子のコスプレ姿のものだった。あの後美砂たちが亜子の制止を振り切り全部の写真を送ってしまい、今三郎へと届いたということだったのだ。

 

 ゆえに、三郎は一体どんな考えでこのようなものを送ってきたのかを、少し疑問に思ったようだ。ただ、状助はやはり”原作知識”があり、そんなこともあったかもしれないと、ハッとした様子でそのことを思い出すかのように言葉にしていた。そこで、それを聞いた三郎が、状助が何か知っているのかと勘違いし、それを尋ねたのである。

 

 

「えっ? いやっ、なんでもねえよ! とりあえず自分で聞いてみればいいんじゃあねぇのか?」

 

「そうするよ。どうしたんだろうねえ……」

 

 

 状助は三郎の問いに非常に焦りつつ、なんでもないと話した。いまさら原作でこんなことがあったとか、あーだこーだ言っても仕方が無いからだ。そして、わからないのなら電話で聞いてみればよいのではと、三郎へと言ったのである。

 

 三郎も確かにそのとおりだと思ったので、そうすると言葉にして携帯電話を操作し始めた。いやはや、一体なんだろうか。もしかして、そう言うのが好みだと思われているのだろうかと思い、三郎は亜子へと電話をかけたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 麻帆良のコンビニ。すでに日は傾き始め、空がオレンジ色へと変わり始めた頃。そこに暇をもてあましたネコ、いやネコマタが一匹。やることが無いのか、そのコンビニの前で静かにキセルをふかしていた。

 

 

「おや、不思議なものがおりますな」

 

 

 マタムネが気がつけば、その隣に謎の黒い影が溶けたような姿の生き物複数と、褐色の少女が一人、その隣に座っていた。その少女はザジであった。ザジは座りながらも器用に手を動かし、ペットボトルをジャグリングしていた。また、その謎の生き物らしき存在は、普通の人間には見えないようで、コンビニへ入っていく客はジャグリングするザジを見て関心するだけであった。

 

 

「彼らはお前さんの友人がたで?」

 

「……」

 

「ふむ、そうでしたか」

 

 しかし、マタムネにはその謎の存在がはっきりと見えた。それをザジへ語りかけると、ザジもマタムネを見て、こくりと頷いて見せたのだ。マタムネはザジの行動を見て、そのことを理解したようだ。そして、マタムネも頷きながら、やはりと言葉にしていたのだった。

 

 

「しかし、お前さん……。人間ではないようですが」

 

「……」

 

 

 だが、マタムネはザジへ横目で鋭く目を尖らせ、ザジが人間ではないことを述べた。ザジもジャグリングしていた手を止め、マタムネを視線からはずさず、多少警戒するかのようにじっと見ていた。

 

 というのも、ザジは魔族の姉がいる。だとするならば、ザジも魔族ということになる。そのことをマタムネはザジを一目で見抜いたのだ。が、謎の生き物と一緒にいる時点で、なんか人間ではない気がしなくもないと思うのも当然かもしれない。

 

 

「……まあ、小生もただのネコマタ故、さほど気にすることもありませんか」

 

 

 ただ、ここでマタムネは視線を戻して目を瞑り、腕を組んで一言述べた。どうせ自分もネコマタだ。それに特に何かする様子もないし、気にすることは無いだろう。そうマタムネは考えて、普段どおりの表情を見せていた。ザジもマタムネのその言葉に安心したのか、警戒を解いて再びジャグリングをはじめたのであった。

 

 

「あっ、いたいた! 探してたんだよー!」

 

 

 そこへ、麻帆良女子中等部3-Aの人たちが、なにやら袋いっぱいに花火を持って、寮の方へと歩くのが見えた。そして、その集団からまき絵がザジの方へとやってきて、探していたと大声で話しかけていた。

 

 

「今から寮に残ったみんなで花火しよーってことになってるんだけど、ザジさんも来ない?」

 

「……」

 

 

 さらにまき絵は寮にいる人たちで花火大会をするので、ザジも参加してほしいと頼んだのだ。ザジは無言ながらに頷いて、参加を表明する様子を見せた。なので、まき絵はザジをつれて、寮の方へと歩いていったのだった。また、まき絵の後ろにいた和美もマタムネを見つけたようで、和美もそちらの方へと駆け寄った。

 

 

「おろ、マタっちもそんなところで何してんの?」

 

「おや、和美さんではないですか。何、暇な故、街を眺めながらふらついていただけのことです」

 

「本当にマタっちってネコだね」

 

 

 和美はマタムネの前へ来ると、しゃがみこんで話しかけた。今日はマタムネの姿を見かけないと思ったら、こんなところにいたので何をしていたのか気になったようだ。

 

 マタムネも和美の登場に奇遇だと感じながらも、その問いに街を散策していたと言葉にしていた。普段はマタムネも和美と共にいるのだが、毎日一緒にいると鬱陶しいだろうと考え、たまには一人で出歩くこともあるのだ。

 

 和美はマタムネの話を聞いて、自由奔放というかネコそのものだな、と感じていた。まあ、元々ネコの霊であるマタムネだ。それは当然のことだろう。

 

 

「して、和美さんも花火を?」

 

「もちろん! マタっちもおいでよ!」

 

「ふむ、花火とは風流ですな。なら、小生もお言葉に甘えて参りましょうか」

 

 

 そこでマタムネは、和美も周りと同じように花火の入った袋を握っていることに気がついた。そして、もしや和美も周りのみんなと花火をするのだろうかと、それを尋ねた。和美はさも当然と言いたげな様子で、笑いながらそれを言葉にした。さらに、それならマタムネも一緒に花火をしようと誘ったのである。マタムネは花火は風流だと感想を述べ、せっかく誘ってもらったのだからと和美についていくことにしたのだった。


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