理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百七話 別荘の中にて

 ここはウェールズにある山奥の小さな村。その近くの野原にて、一人の女性が立っていた。一本だけ大きく生えた木の側で、その女性は手紙を読んでいたのである。

 

 

『元気ですか? ネカネお姉ちゃん。僕が日本に来て、もう半年近くが経ちました』

 

 

 その女性はネギの姉であるネカネだ。ネカネはネギが送ってくれた手紙を、その場所で読んでいたのである。また、手紙からはネギの立体映像が浮き出し、その内容を話していた。

 

 

『今回は写真も同封しといたよ』

 

 

 ネギの立体映像が写真が入っていると言うと、ネカネもそれに気がついた。それを手に取り少し眺めると、再びネギの手紙を読み始めた。

 

 

『まだ期末テストって難関が残ってるけど、それが終われば夏休みです』

 

 

 ネギの立体映像は現状報告として、期末テストがあることを述べていた。そして、それが終われば夏休みになると、少し嬉しそうに報告する立体映像のネギだった。それを見ながら微笑むネカネは、これを近くに居る少女へ見せようと、その名を叫んだのである。

 

 

「アーニャ!」

 

「ん?」

 

 

 それはアーニャだった。ネカネはアーニャを呼ぶと、そそくさとその手紙を見せようと駆け寄った。突然呼ばれたアーニャは駆け寄るネカネの方を向いて、何だろうと不思議に思い、首をかしげてそこで待っていた。

 

 

「ほら、ネギが手紙と写真を送ってきたわよ!」

 

「ネギが?」

 

 

 首をかしげるアーニャに、ネカネはネギの手紙を見せた。アーニャは興味を持ったようで、その手紙を横から眺め始めたのだ。

 

 

『たった半年とは思えないくらい、いろんなことがありました』

 

 

 ネギの立体映像は、この半年間がとても濃い日常だったと話し始めた。3-Aの生徒たち、気がつけば友人となっていた小太郎、それと兄のカギのことを。さらに、修学旅行や学園祭での戦い。とても一言では語りつくせないようなことばかりだったと、ネギの立体映像は語っていた。その話を聞きながら、ネカネとアーニャは写真の方を眺めていた。

 

 

「何よこれ、女の人ばかりじゃない」

 

「楽しそうね」

 

 

 そこでアーニャは、写真に写っている人の大半が、女性だと言うことに気がついた。周りを見渡せば女子だらけ。アーニャはどういう状況なんだと、少し不機嫌な様子で言葉にしていた。まあ、女子中等部なので女性しかいないのだから当然なのであり、ネギにはまったく罪がないのだが。また、ネカネは写真に写るネギたちをみて、賑やかで楽しそうだと思ったようだ。

 

 

『おーネギ、何やってんだ?』

 

『あ、兄さん。今ネカネお姉ちゃんの手紙を書いてるところだよ』

 

『なんだとー! 俺も混ぜろー!』

 

『ほら、今録画中だから、何かメッセージを残して』

 

 

 そのネギの立体映像から、何やら別の人の声が発せられた。そして、カギが横から現れたのだ。カギはネギが何をやっているのか気になったようだ。ネギはネカネに手紙を書いているとカギに話すと、カギは叫んで混ぜろと言い出した。ネギはカギにも何か話させようと思い、録画してるから話して欲しいと説明していた。

 

 

「あら、カギ。ネギしか手紙を送ってこなかったから、てっきり忘れたんだと思ってたけど……」

 

「げー、あのカギィー?」

 

 

 カギの登場に、ネカネはカギが手紙を寄越していないことを思い出していた。またいつものように、手紙なんてかったるいと思って出し忘れたんだと思っていたようだ。アーニャはカギの顔を見て、露骨に嫌そうな顔をした。何せアーニャはカギが苦手と言うか、ぶっちゃけ嫌いだからである。

 

 

『ハローハロー! ハワイユー、マイシスター!』

 

『兄さん、もう少し真面目にやった方が……』

 

『こーいうのは普段通り見せんのがいいんだろ!?』

 

 

 カギの立体映像ははしゃいだ姿で訳のわからない挨拶を始めた。無駄にテンションが高いカギを見たネギは、真面目に挨拶してほしいと話した。だが、カギは逆ギレみたいなことを言って、ネギを黙らせたのである。

 

 

『オホンオホン、気を取り直して。えー……。……何しゃべりゃいいんだ?』

 

『そのぐらい自分で考えてよ……』

 

『うーむ、そうだなー。とりあえず俺はビンビンに元気! まったくもってノープログレム! んでもって……』

 

 

 さらにカギは、何か話そうと思ったようだがド忘れしたようで、一体何を話せばよいやらと首をかしげていた。そこでネギへ、何喋ればいいの? とマヌケな質問を始めたのである。流石のネギもそんなカギに呆れ、自分で考えて欲しいと話した。当たり前である。カギはネギにそう言われ、必死に話す内容を考える様子を見せていた。それが終わったのか、カギはさらにテンションをあげて、長い話を始めたのだった。

 

 

「カギのヤツ話し長すぎ! 早くネギに変わりなさいよ!」

 

「まあまあ」

 

 

 カギの長話に、アーニャは頭にきていた。早くネギを映せ、話させろと思ったのだ。何せかれこれあれから5分もカギが話しているのだ。アーニャが怒るのも無理は無い。さらに言えば、それほどまでにアーニャはカギが気に入らないのである。その原因は全部カギなので、仕方のないことではあるが。そこでネカネは興奮するアーニャの肩に、そっと手を置いて宥めようと、優しく声をかけていた。

 

 

『あのー、そろそろ僕に変わってくれない?』

 

『何ぃ!? まだしゃべりたりねぇが、お前の手紙だから仕方ないかー!』

 

『……なんか兄さんの話が長くてごめんなさい』

 

 

 と、そんな時にネギが現れ、流石に話が長いカギに変わってくれと申し出ていた。カギはこれでも話したりないと言い出したが、この手紙がネギのものだったことを思い出し、素直に明け渡したのである。そこで交代したネギは、カギの話が長かったことをこっそり謝っていた。

 

 

「ねえ、アーニャ。何かたった半年でネギは凛々しくなったと思わない?」

 

「ハァ? どこが?」

 

 

 ネカネはそんなネギを見て、何か少し変化があったような、たとえば凛々しくなったような、そんな印象を受けたようだ。だが、アーニャにはあまり変化が感じられなかったようで、渋い顔をしながら、どこが? と聞き返していた。

 

 

「それと、なんだかカギも少し変わった気がするわ」

 

「えっ!? 嘘でしょ?!」

 

 

 さらに言えば、あのカギも少し変化したような、そんな感じをネカネは受けたようだ。普段どおりの馬鹿丸出しな状況だったが、ここを発つ前よりも棘がなくなったように感じたようだ。しかし、アーニャはネギの時以上に驚き、絶対にありえないと言葉にしていた。

 

 

「ネギはネギで相変わらずチビでボケでマヌケ顔だし、カギもアホでバカでスケベ顔じゃない」

 

「そうかしら?」

 

「そうよ!」

 

 

 アーニャからすれば、ネギはいまだチビでボケでマヌケな顔をしていたように見えたらしい。また、カギも馬鹿でアホでスケベなのは変わりないと、毛嫌いしながら叫んでいた。これほどまでに嫌われているとは、カギも思うまい。そう言うアーニャに、ネカネはそうなんだろうかと思ったようだ。確かに変化は小さかったが、確かに変わったと思ったからだ。それでもアーニャは絶対にないと、断言していたのだった。

 

 

『まだ詳しく予定は決めてないけど、夏休み中には必ず帰るからね、ネカネお姉ちゃん』

 

『俺も一緒に帰るだろうから、そんときゃヨーソロー!』

 

 

 ネギの立体映像は、夏休みになったらここへ帰ることを最後の締めとして話した。その横からカギも現れ、同じく帰ると調子よく言葉にしていた。

 

 

「二人とも帰ってくるそうよ」

 

「ネギが? そう……」

 

 

 それを見たネカネはネギとカギが帰ってくると、その横のアーニャへと伝えた。アーニャはネギにしか眼中にないようで、ネギの名のみを言葉にしていた。むしろ、カギは帰って来なくてよいとまで思っているのだ。そして、そのツーサイドアップにした髪を両手で丁寧に梳いて、身だしなみを整え始めた。

 

 

「髪を梳いても、今すぐネギが帰って来る訳じゃないわよ?」

 

「えっ? べ、別にコレ関係ないわよ!?」

 

 

 そんなアーニャの様子を見て、ネカネは微笑みながら、今すぐ帰ってくる訳ではないと話した。また、それほどまでにネギに会いたいのだろうとも思ったようだ。そんな勘違いしたアーニャは、照れ隠しなのかこの動作は関係ないと、ネカネへと述べていた。ぜんぜん今のは無関係、別に気にしていないと、慌てた様子で言葉にしていたのだった。

 

 

「でも、もうすぐ会えるのね。ネギ、カギ……」

 

 

 そんなアーニャを見て笑うネカネも、ネギとカギに会えるのを楽しみにしていた。半年間でどれほど成長したのだろうか。元気でやっているようだけど、本当はどうなんだろうか。そんなことを考えながら、今はただ、二人が帰ってくるのを待っていようと思うのだった。

 

 

 

…… …… ……

 

 

 そして、先ほどの場所から遠く離れた日本の麻帆良。そこにあるエヴァンジェリンのログハウスの中にある”別荘”にて、早速魔法の修行が行われていた。エヴァンジェリンを中心に、ハルナ、夕映、のどか、それにネギが集まっていた。

 

 

「さて、今日も初歩の初歩、”火よ灯れ”を練習してもらうぞ」

 

「全然出来ないんですけどー!?」

 

「当たり前だ。魔法使いとて数ヶ月は練習するんだぞ?」

 

「うそーん!?」

 

 

 灯よ灯れ、それは魔法使いでも誰もが必ず最初に覚える魔法だ。杖の先に光を照らすだけの魔法であり、ライターの方が便利といわれる程度の魔法。だが、これを覚えなければ他の魔法など覚えることは出来ない。それを今日も練習しろと、エヴァンジェリンはハルナへと指示していた。

 

 ただ、ハルナは魔法を練習するやいなや、ずっとこればかりやっていた。そのため、まったく魔法が出来ないことに、本当に出来るのか疑わしいと思い始めていたのだった。だからまったく出来ないと、文句を叫んでいたのだった。

 

 そんなハルナにエヴァンジェリンは、当然だと言葉にしていた。魔法使いだって何ヶ月も練習して覚えるものなのだから、一般人がすぐに出来る訳がないと冷静に話したのである。いや、魔法が使えるようになるだけでもそんなにかかるのかと、ハルナはショックを受けて再び叫んでいたのだった。

 

 

「本当ですよ。僕も何度も練習しましたから……」

 

「うへー、ネギ君が言うならマジなんだなー……」

 

 

 そこでネギは、自分も必死に練習したと話した。幼少の頃、何度も何度も繰り返した灯よ灯れだ。何度やってもうまくいかなかったことを思い出しながら、ハルナへとそれを伝えたのだ。それを聞いたハルナも、ネギの言葉だからこそ本気で信じたようで、これからずっと火がつくまで練習するのかと、肩を落としていたのだった。

 

 

「まっ、そこの二人は優秀だったみたいだがな」

 

「えっ!? そーなの!?」

 

 

 だが、エヴァンジェリンは夕映とのどかへ視線を移し、二人は優秀だったようだと語った。その言葉にハルナも驚き、その二人を驚愕の表情で見たのである。

 

 

「はい。気がつけば出来てました」

 

「だからハルナも頑張ろう!」

 

「言ってくれるねー……」

 

 

 夕映はエヴァンジェリンにそう言われ、気がつけば”火よ灯れ”が出来ていたと少し自慢げに話した。のどかも頑張って”火を灯れ”を練習し、出来るようになった。だからハルナにも、頑張ってと応援したのだ。そう言われたハルナはマジかーっという顔で、気軽に言ってくれるなぁ、と言葉にしていたのだった。

 

 

「ところでクーフェさんと楓さんは?」

 

「あの二人は魔法なんかよりも、今自分が持つ技術を磨いているさ」

 

「あっ、あそこで戦ってる……」

 

 

 と、そこで夕映は先ほどまで一緒にいたはずの、古菲と楓がいないことに気がついた。あの二人は魔法を覚える気がまったくないので、どうしたのだろうかと思ったのだ。エヴァンジェリンもそれを知っていて、戦いの場を提供していたので、各々の能力を鍛えていると言葉にしていた。それを聞いたのどかは、その二人が別の場所で模擬戦をしながら切磋琢磨しているのを発見したようだ。だが、自らを鍛え上を目指しているのは、あの二人だけではなかった。

 

 

「ギニャッ!?」

 

「カギ先生!?」

 

「うわっ! ボロボロじゃん!?」

 

 

 そこに突然ハルナたちの真ん中へ、カギが落下してきたのだ。まるでカエルがつぶれたような声を出し、地面と衝突したカギ。流石にそれを見た三人は驚き、カギがあちこち傷を作っていることに気がついたようだ。

 

 

「いてーっ! チクショー! 二対一なんてヒキョーだぜ!」

 

「ふん、その程度しのいで見せろ」

 

「戦イニヒキョーモ何モネーゼ!」

 

 

 しかし、カギはそんな三人を言葉が聞こえなかったのか、落ちてきた方向を再び睨みつけていた。その先には殺人人形チャチャゼロと、エヴァンジェリンが作り出した人造霊が空中で仁王立ちしていたのである。そう、カギもまた、この二人と戦いながら、強くなろうと足掻いていたのである。ただ、今回はカギVSチャチャゼロ&エヴァンジェリン二号。完全に不利な状況のようだ。

 

 

「カギ先生はいつもこんなことを?」

 

「あったりめーよ! 銀髪以上の野郎を相手にするかもしれねーからな!」

 

「そうですか……」

 

 

 夕映はこんなことを毎回カギがやっているのだろうかと思い、それをカギ本人に尋ねてみた。ボロボロの姿をしながらも、未だ戦う姿勢をやめぬカギは、それを当然と言ってのけた。そして、ゆっくりと立ち上がりながら、あの銀髪のこと神威を超えた強敵が現れるかもしれないと考え、強くならなければと語ったのだ。

 

 夕映はそのことを聞いて、あの学園祭二日目の夜のことを、ほんの少し思い出しながら、その一言を述べていた。あの時、夕映は銀髪のニコぽによって洗脳され、カギに立ちはだかってしまった。アレがいいことだったのか、悪いことだったのかはもはや夕映にもわからないことだ。何せ洗脳されていたのだが、洗脳されていたということを夕映は、認識していなかったのだから仕方がないことである。

 

 それでも記憶には鮮明に残っていた。自分ごと神威を打ち抜かんと、恐ろしい形相をするカギを。それがフェイクで、そんな気がなかったと笑っていたカギを。さらに、情け無く逃げ惑う神威を見て、どうしてあの人に惚れたのかと疑問に感じたことも、全部夕映は覚えていたのである。また、あの時のカギは普段よりも凛々しく見えたと、夕映は思っていた。が、普段の態度がアレすぎるせいか、やっぱり勘違いだったのだろうと思ってしまったようである。カギがフラグを立てる道のりは長いようだ。

 

 

「おっしゃー! まだまだ行くぜオラァ!」

 

「早くかかって来い」

 

「暇シテンジャネー!」

 

 

 カギは夕映の質問を答え終えると、すぐさま上空へと飛び去り、再び戦いを始めた。まだかまだかと上空では、エヴァンジェリン二号とチャチャゼロが待機していたからだ。さらに文句を言いながら、早く来いと挑発していたからだ。飛び去るカギを眺める夕映は、普段からこのぐらい真面目ならいいのに、と思ったようである。まったくだ。

 

 

「知らない間に兄さんがあんなに強くなってる……」

 

「あのエヴァンジェリンさんは影分身とかではないのですよね?」

 

「前にも説明したが、闇の精霊で作り出した人造霊だよ」

 

 

 その兄であるカギの戦いぶりを目の当たりにしたネギは、戦慄を覚えた。悪魔との戦いの時も、自分が知らない力を見せ付けていたが、その時以上にカギが強くなっていたからだ。気がつけば相当な差を付けられている。ネギはそのことが少しショックだったのだ。

 

 そんなネギの横で、夕映はあの二人目のエヴァンジェリンが、影分身などではないことをエヴァンジェリンに質問していた。エヴァンジェリンはそれは前にも説明したと言いながら、再び説明を始めた。

 

 

「何度見てもすごすぎっしょ!? 私もいつか出来るようになりますかー!?」

 

「簡単には出来んよ。私ぐらいでなければな」

 

「道のりが険しすぎるー!!」

 

「僕も頑張らないと……!」

 

 

 魔法を使って分身を作り出す。なんとすさまじいことか。そのことに驚きうらやましく思うハルナは、自分もそれが出来るようになりたいと叫んでいた。分身できればマンガを、同人誌を描くスピードが倍になると思ったからだ。

 

 しかし、現実は非情である。人造霊を作り出すなど、そう簡単に出来るはずがないのだ。そう、それこそ自分ぐらいのレベルにならなければ無理だと、エヴァンジェリンは語ったのだ。エヴァンジェリンほどの魔法使いなど、そうそうなれるはずもない。その長い修行を考えたハルナは、こりゃ無理だと涙を呑んで諦めたようだ。

 

 その話を聞きながらも、カギの戦いぶりを見ていたネギは、自分も頑張らなければと決意を新たにしていた。別にカギを超えたいと思った訳ではないが、それでももっと強くなりたいとネギは思ったのだ。また、さらに多くの魔法を覚え、色んなことが出来るようになりたいとも思ったのである。

 

 

「……そーいえばアーティファクトってヤツはどうやって手に入るの?」

 

「仮契約すりゃ出来ますぜ!」

 

「仮契約!?」

 

 

 そこでハルナは魔法がうまくいかないので、アーティファクトがほしいと思った。何が出るかはわからないが、魔法の道具というものに興味が沸いたのである。その方法とは何ぞやとハルナが言葉にすると、横からカモミールが仮契約を行えば手に入ると豪語していた。仮契約、なんだねそれは一体。ハルナは新しい魔法の単語に、再び驚きを感じていた。

 

 

「方法は色々あるが、簡単なのはキス、接吻することだな」

 

「なんですとー!?」

 

 

 その補完としてエヴァンジェリンが、仮契約の方法を説明した。仮契約のもっとも簡単な方法はキスである。それ以外にも色々方法はあるようだが、一番簡単なのだ。そのことにさらに驚き叫ぶハルナ。そんな簡単な方法でいいのだろうかと思ったようだ。

 

 

「いや、確かのどかもそれで手に入れたんだっけ?」

 

「う、うん……」

 

 

 しかし、ハルナはそこでのどかがアーティファクトを手に入れていたことを思い出した。それは修学旅行でのイベントにて手に入れたものだ。そうハルナがのどかへ話すと、のどかは少し動揺した様子でその質問を肯定していた。というのも、あの時のどかは魔法を知らなかった上に、一時的な感情に身を任せてしまったことを、後悔していたからだ。

 

 

「あの時はスイマセンっした!」

 

「別にもう気にしてないですので……」

 

「僕ももう大丈夫だから……!」

 

 

 のどかがあの時のことはやはり気にしていたとカモミールは感じ、再び土下座して謝っていた。カモミールは魔法を知らぬのどかに謝罪を行っていなかったので、今ならしっかり謝れると思ったのである。

 

 そんな綺麗に土下座するオコジョを見て、のどかも特に気にしていないと、困った様子で言葉にしていた。もう済んだことだし、すでに水に流したことだ。いまさら何かを言う気もないのだ。その横のネギにもカモミールは頭を下げ、ネギも今さら再び謝る必要はないと話していた。

 

 

「あー、あん時二人とも凄く落ち込んでたもんねー」

 

「こういうことが原因だったのですか……」

 

「少年が真面目すぎるだけだと思うがな……」

 

 

 ハルナもあの時の二人の落ち込みようは、すさまじいものだったと思い出していた。仮契約を行ってしまったがゆえにネギが落ち込み、そのネギの様子を見たのどかも落ち込んでしまった。そう言った経緯であの状況になっていたことを、夕映も初めて知ったようだ。

 

 また、夕映ものどかに協力し、そうさせてしまったことを思い出し、少し暗い気持ちを感じていた。よかれと思って協力したのに、のどかがとても落ち込んでしまったのだ。実際夕映も、あの時結構落ち込んでいたのである。

 

 まあ、はっきり言えばネギが真面目すぎたので、どちらも落ち込んでしまったことでもあると、エヴァンジェリンは静かに語った。というよりも、仮契約は所詮仮の契約。そこまで真面目にショックを受けるほどでもなかろうと思ったのである。

 

 

「およ? じゃあゆえ吉もカギ君とチューしちゃったわけ!?」

 

「えっ!? いえ、私は別の方法を使ったです」

 

「嘘はよくないよー? ほれほれー!」

 

 

 ハルナはあの時、確かにのどかはネギとキスをしたことも思い出したようだ。ならば、同じくカギと仮契約した夕映も、そのカギとキスをしたのではないかと思ったのである。それを夕映へと問いただすと、夕映はNOと言葉にした。別の方法で仮契約を行ったからだ。ただ、明らかに照れ隠しに聞こえたハルナは、嘘をつくなと夕映をこついていじろうとしていた。

 

 

「これを使いました。これで簡単に仮契約が出来るです」

 

「それじゃつまらないじゃなーい!」

 

「そーだぜ! その紙切れが全部いけねぇんだ!!」

 

「そ、そう言われても……」

 

 

 夕映はしつこいハルナに、証拠を提出した。それはギガントから預かっている仮契約ペーパーだ。夕映はほれほれーとハルナへ見せると、ハルナはそれをつまらないと叫んでいた。キスしてくれれば面白い展開になっただろうし、ラブなことにもつながったんじゃないかと思ったからだ。

 

 また、カモミールもその紙を憎憎しげに睨みつけ、その紙が全部悪いと叫んだ。この紙のせいで自分の出番が奪われ、金も手に入らなかったのだ。その紙こそ自分の天敵だと認識し、恨みの対象にしていたのだ。

 

 とは言え、別にキスしなくてもいいなら、それでもいいと思う夕映。乙女の唇を簡単に明け渡すのもどうかと思うのも当然である。だから、そう叫ばれても困るというものだった。まあ、仮契約を行うパートナーとは恋人が対象の場合が多いので、キスという方法がもっとも簡単なのはしかたなかったりもするのである。

 

 

「いやー、でもカギ君、その方法で文句言わなかった?」

 

「いえ、特には……」

 

「かーっ! カギ君もダメダメじゃん!」

 

 

 ならば、その方法でカギが納得したのだろうか。ハルナはそこを考えた。何せあのカギはスケベの化身だ。カギならキスがしたくて仕方がないはずだと、ハルナは思ったのである。そうであれば、カギが文句を言うはずだと、夕映へとハルナは聞いた。どうなんだと。

 

 その質問に夕映は、仮契約時のカギの様子を思い出し、特にもめなかったと考えた。カギはあの仮契約の方法でも気にしなかった。むしろどうでもよさそうな感じだった。だからそれを夕映は話すと、ハルナはカギも駄目なヤツだと叫んでいた。

 

 ハルナは思った。男ならやってやれだろと。なんでそこで攻めないのだと。むしろキスするチャンスだっただろうが、このヘナチンと思ったのだ。ただ、あの時のカギは祭りの警備で燃え尽きており、しょうがない状態だったのである。許してやってほしい。

 

 

「じゃあ私も仮契約しちゃおーかなー?」

 

「姉さんがするっつーなら陣描きやすぜー!」

 

「おー! ふとっぱらー!」

 

 

 それなら自分も仮契約しちゃうぞ、とハルナは言葉にしていた。二人とも仮契約を行いアーティファクトを手に入れているんだから、自分もほしいと思ったのだ。そこへカモミールも調子付き、仮契約するなら必要な魔方陣を用意すると叫んだ。それはいい、ナイスだと、ハルナはそのカモミールの言葉に喜んでいた。

 

 

「方法は後にして、誰と契約するのですか?」

 

「ネギ君かカギ君かってこと?」

 

「はい」

 

 

 とはいえ、このペーパーもある訳だから方法はいくらでもある。それよりも問題なのは、誰と契約するかだ。つまるところ、カギかネギかという二択の話である。夕映はそれをハルナへ話すと、ハルナもそのことを理解したようだ。

 

 

「うーん。やっぱネギ君かなー?」

 

「そ、それは駄目です!」

 

「へ? 何で?」

 

 

 ならばやはりネギがよいと、ハルナは少し悩んで答えを出した。カギを選ぶならネギにするというのは、印象の問題であった。カギは最初見た時からスケベ根性丸出しのガキンチョだった。逆にネギは紳士的でいい子というのが印象だった。ならやはり選ぶならネギだと、ハルナも思ったのである。

 

 しかし、そこで夕映は突然叫びだした。ネギと契約することは駄目だ、絶対に許さんと。その夕映の変貌に、ハルナはキョトンとして、どうしてなんだろうと、その理由を聞いたのだ。

 

 

「何故って、ネギ先生はのどかの想い人です! のどかだけに契約させておきたいのです」

 

「ははーん。そーいうことー」

 

「わ、私は別に気にしないけど……」

 

 

 夕映は少し興奮気味に、その理由を述べた。夕映はのどかの恋愛を応援している。だから、ネギの従者をのどかだけにしておきたいのだ。ハルナもそれを聞いて、しっかり察したようで、メガネを光らせながら、目を細めてのどかと夕映を眺めていた。ただ、のどかは気にしないと、動揺した様子で話していた。まあ、ネギの従者が自分だけであれば、嬉しいことには間違えないと思ってもいるのだが。

 

 

「のどかが気にしなくても駄目です!」

 

「そ、そっか。じゃあカギ君で我慢するかー」

 

「そうです。それでいいです」

 

 

 夕映はそう話すのどかに、それでも駄目だと叫んでいた。従者というのはパートナーであり、魔法使いの観点としては恋人と言う扱いになりえる存在だからだ。それなら仕方がないとハルナはネギを諦め、カギにしようと言い出した。夕映はそれを聞いて、そうしてほしいと満足そうな表情で言葉にしていた。

 

 

「んー、本当にいいのかなー?」

 

「……どういう意味です?」

 

 

 しかし、そこでハルナは横目で夕映を見て、本当にそれでいいのかと尋ねていた。夕映はその意図がわからないようで、一体なんだろうかと聞き返していた。

 

 

「いやー、ゆえもカギ君専用従者になりたいんじゃないかなーって思っただけよ」

 

「何をバカなことを言ってるんですか?」

 

 

 ハルナは不思議そうにする夕映へと、その理由を述べた。夕映も実はカギ専用の従者になっておきたいのではないかと思ったと、そう勘ぐったと話したのだ。その言葉にすばやくつっこむ夕映。動揺すら見せぬ冷静なツッコミだった。

 

 

「じゃあカギ君と契約するかー。もちろんキスでね!」

 

「カギ先生なら喜ぶと思いますよ」

 

 

 ぐぬー、ならばさらに夕映が動揺しそうなことを言ってやる。ハルナはそう考えてカギの仮契約することを宣言した。しかも方法はキスだ。どうだ、カギの初めてであろう相手は夕映ではない、このハルナだ。そう宣言したのだ。が、それでも夕映の反応は冷ややかだった。どうぞどうぞ、カギなら喜ぶだろうしよかったよかった。そんな冷めた態度だったのだ。

 

 

「あれー? 反応が淡白すぎやしないー?」

 

「何か問題でも?」

 

 

 それでも反応が鈍い夕映に、ハルナは何故なんだと叫んでいた。もっと面白い反応してもいいじゃないか。どうしてそう淡白なのだと。そんな叫ぶハルナに、夕映はやはり冷静に、それで不都合なことがあったのかと、首をかしげて聞く始末だった。

 

 

「うむむー。面白い反応しそうだと思ったんだけどなー……」

 

「ネギ先生でなければむしろウェルカムです」

 

 

 ハルナは当てが外れたと思い、腕を組んで悩んだ様子を見せていた。ひょっとしたら夕映はカギに気があるのかと思ったのだが、どうやら違ったようである。夕映は悩むハルナに、むしろカギなら誰でもOKだと言葉にしていた。何せ夕映はカギに友人以外の感情を持っていないからだ。また、カギが変人すぎるので、そう言う感情がわかなかったのである。

 

 

「うーむ。まあそれならそうしますかな」

 

「と言うか、そろそろ火よ灯れの練習をだな……」

 

「あっ! いやー、ついつい……」

 

 

 夕映がそこまで言うのであればと、ハルナは渋々カギと仮契約をすることにしたようだ。方法は色々あるようだし、誰でも良いと思ったようだ。そう仮契約のことで盛り上がる三人のところを、エヴァンジェリンが睨んでいた。魔法はどうした。火よ灯れの練習はどうしたのだと、呆れた口調で話したのだ。そのことをうっかり忘れていたハルナは、話に盛り上がりすぎたと反省した様子を見せていた。

 

 

「まったく、早く魔法が使いたいなら、火よ灯れを何度も練習するしかないんだぞ?」

 

「そうですよ。もっと必死にならないと駄目です」

 

「そうだよハルナ。ちゃんとやらないと」

 

「ちょっと!? 二人は一緒に話してたのにひどいんじゃない!?」

 

 

 エヴァンジェリンは呆れた様子のまま、魔法を早く使いたいなら。火よ灯れを必死に練習しろとハルナへ告げた。その次に夕映も、ハルナへ必死になれと叱咤した。さらにのどかが続けて、もっとしっかりやった方がいいと、言葉にしたのである。いや、待て。夕映とのどかも一緒に話してたではないか。一人だけ悪者にするのは酷いと、ハルナはそう叫んでいた。

 

 

「そのとおりだ。貴様ら二人にもみっちり魔法を教えてやるから感謝するんだな」

 

「は、はい!」

 

「お、お願いします!」

 

 

 いやまったくだ。そこの二人も同罪だとエヴァンジェリンはのどかと夕映を睨み、新しい魔法を教えてやると宣言した。流石に睨まれてしまったのどかと夕映は、そう言われたことで大きな声で返事をするしかなかったようだ。

 

 

「それに、ヤツを見てみろ!」

 

「あれは千雨ちゃん!?」

 

 

 また、そこでエヴァンジェリンは、その場所の一角にいる千雨の方を指差し、その三人を注目させたのだ。ハルナはそこで目にしたのは、必死で魔法を練習する千雨の姿だった。

 

 

「すごい熱意です……」

 

「本当に真剣な表情……」

 

「なんであんなに熱中できるわけ!?」

 

 

 何度も何度も、何度も何度も、同じことを繰り返していた。そう、火よ灯れである。初心者用の小さな杖を繰り返し振り回し、火が灯るまで、延々とそれを続けていたのだ。なんという熱意だろうか、何と言う集中力だろうか。夕映とのどかは驚いた。あの千雨がすごく必死に魔法を練習していることに。ハルナもその千雨の変貌した姿に驚いた。というか、どうしたらあそこまで集中して行えるのだろうかと、一体彼女に何があったのだと叫んでいた。

 

 どうしてここまで千雨が必死に魔法を練習しているのか。それは簡単な話だ。この千雨には目標がある。それはあの馬鹿な二人、カズヤと法を治癒魔法で癒すことだ。

 

 話を聞けば、カズヤは学園祭で倒れた後、振り替え休日の間ずっと寝たままだったと言うではないか。本人は目覚めた後、休みを棒にふったとか寝すぎたとか、その程度の文句しか言わなかった。それに、無理をしたのは自分だと理解してるカズヤは、そのあたりを気にする様子は見せず、千雨にも何か言ったわけではないのだ。

 

 だが、千雨はそのことも非常に申し訳なく思った。自分が戦いに巻き込んだせいで、そうなったと千雨は本気で思っているからだ。そのせいでせっかくの休みを潰させてしまったからだ。無理をさせて右腕を痛ませてしまったからだ。休みは変わってやれないしどうすることも出来ないが、右腕の痛みは魔法で取り除けるだろうと考えているからだ。それで少しは楽にしてやれると思っているからだ。だから千雨は魔法を早く使いたいと思い、必死で練習していた。その目標のために、千雨は頑張って魔法を使えるようになろうとしていたのである。

 

 

「あのぐらい必死にならんと、いつまでたっても次に進めんぞ?」

 

「はいはーい! もっと頑張らせていただきます!!」

 

「はぁ……。まあ、それでいい」

 

 

 エヴァンジェリンは千雨が強い意思のもと、魔法を練習しているのを知っていた。ただ、あれほど熱中するとまでは思っていなかったが、いいことだとも思ったのである。それゆえ、あのぐらい頑張らないと魔法が使えるなど、夢のまた夢だとハルナへ告げた。

 

 あの千雨の姿とエヴァンジェリンの言葉を聞き、流石のハルナも少し頑張らないとマズイと思ったようだ。それでもハルナには必死に魔法を覚える理由がないので、学生のクラブ活動程度の認識で魔法を覚えようと考えるのだ。そんなハルナにため息をつきながらも、やる気を出したならいいかと思うエヴァンジェリンであった。

 

 

 エヴァンジェリンがその三人を相手にしているところで、また別の少女がその場へ現れた。それはアスナと刹那、木乃香とさよだ。アスナと刹那はライバルと認め合い、二人で模擬戦を繰り広げ、一区切りついたので休憩にやってきたのである。

 

 

「少し張り切りすぎちゃったかな」

 

「私も同じく……」

 

 

 二人は模擬戦の割には激しく衝突したようで、服のいたるところに切り傷があり、少しボロボロな状態だった。それを反省するかのように、やりすぎたと思いながら戦いを振り返るアスナ。同じく刹那もそう考えたようで、次はもう少し自重しようと思ったようだ。

 

 

「二人とも無理したらあかんよ?」

 

「でも、このかが居るからちょっと無理しちゃうかな」

 

「そうですね」

 

 

 木乃香も二人が結構本気で戦って居たので心配だったようだ。だから二人へ、無理は禁物だと困った感じで注意したのである。ただ、木乃香の巫力の治療は完璧だ。そのおかげで傷を気にせず戦えると、アスナは考えてしまったのだ。それゆえ、少しばかり本気で戦っても大丈夫だと思ったのである。また、それは刹那も同じだったようで、木乃香が居るから安心して戦えると思っていたのだ。

 

 

「頼られるとるのは嬉しいけど、ウチも巫力消費するんやえ?」

 

「そうですよー! ただじゃないんですから」

 

「そ、そうだったわね……」

 

「申し訳ありません……」

 

 

 しかし、木乃香はその二人の言葉を聞いて、少し怒った表情で口を開いた。二人に頼られることは木乃香も素直に嬉しいと感じた。だが、それ以上に巫力による治療は結構巫力を消費するのだ。ずっと二人が無茶し続ければ、自分の巫力が尽きてしまうと考え、木乃香はそう話したのである。その木乃香の横からさよも、治療はただではないから気をつけて欲しいと、プリプリと言葉にしていた。

 

 そう木乃香とさよに注意されたアスナは、そのことを失念していたようで、悪かったと謝っていた。刹那もそうだったと思い出し、頭を下げていた。まあ、この二人はシャーマンではないので、巫力のことがいまいちわかっていないのだ。仕方のないことだろう。

 

 

「せやけど、ウチも頑張って修行せな」

 

「このかも大変よね」

 

 

 そんな二人を見て怒っていた木乃香だが、自分も頑張って修行しかねければと言葉にしていた。なんたって覇王と付き合うには、覇王と並ぶシャーマンにならなければならない。そう覇王と約束したからだ。そのことを木乃香から聞いていたアスナは、木乃香のその言葉に大変だと思ったようだ。さらにアスナは、どうせ両思いのような状態なんだから、まどろっこしいことしてないではよ付き合えと思っていたのである。

 

 

「そうなんやよ。せやからウチも戦わせてー!」

 

「うーん。シャーマン相手じゃくてもいいならいいけど」

 

「わっ、私はこのちゃんを相手に戦うなんて無理ですので……」

 

 

 だから木乃香は二人と戦いたいと思った。強くなることも、シャーマンの技術を磨くことになると考えたからだ。アスナはシャーマンでないけどそれでもよいならと、特に気にする様子は見せなかった。シャーマン相手と戦ったことが無いアスナは、どんな感じなのだろうかと思ったのである。ただ、刹那は木乃香と戦うことは出来ないと恐縮した様子を見せていた。刹那は大事な友人であり、護衛対象の木乃香と戦うなんて恐れ多いと思ったのだ。

 

 

「と言うか、覇王さんはまだこのかの師匠なんでしょ?」

 

「多分そうやと思うんやけど……」

 

「だったら覇王さんに教えてもらえばいいんじゃない?」

 

 

 アスナはそこで、木乃香が戦うなら自分よりも覇王の方がよいのではないかと考えたようだ。むしろ覇王は木乃香の師匠ではないのだろうか。今も師匠ならば覇王に鍛えてもらえばいいのではないかと、アスナは木乃香へ話したのだ。

 

 そのアスナの話に、木乃香も覇王は今でも師匠だと思うと、曖昧か返事をしていた。最近では覇王を名前で呼ぶようになったので、最近覇王が師匠だと言うことを忘れていたのだ。実際覇王は合格の言葉一つ言ってないので、いまだに木乃香は覇王の弟子ということになる。木乃香が覇王の弟子を卒業できるのは、きっとちゃんとした恋人として付き合えるようになった時だろう。

 

 木乃香が悩んだ様子で出した言葉を聞いた後、アスナは覇王に教えてもらうことを薦めた。自分や刹那と戦うよりも、シャーマンの師匠である覇王に教えてもらった方が、成長速度が速いと思ったのである。

 

 

「そーやな! 今度頼んでみよーっと」

 

「それがいいと思いますよ」

 

「そうですよー!」

 

「はおと二人きりで修行かー。それええわー」

 

 

 木乃香は覇王が師だったのを忘れていたので、それを今ので思い出したようだ。ナイスアイデアと思い、嬉しそうに頼んでみると話していた。刹那もさよも、それが一番だと木乃香へ言っていた。やはりシャーマンはシャーマンに教えてもらった方がよいと、アスナと同じ考えだったのだ。

 

 ならば今度覇王に修行をつけてほしいと頼んでみようと、木乃香はそのことを考えた。そこで、あの覇王と二人きりでの修行、その言葉はとてもそそられると思ったようだ。そう考えながら頬を紅く染め、その頬に両手を当てて喜ぶ木乃香だった。しかし、覇王の修行は生易しいものではないだろう。かなりハードなものであることは、想像は容易である。木乃香も何度も覇王から師事を受けてきた身、そのぐらい容易く理解していた。が、やはり覇王と二人きりというのは、木乃香にとって蜜の味のように甘いものなのだ。

 

 

「本当、このかは覇王さんが好きなのね……」

 

「見てるこっちが恥ずかしくなりますね……」

 

「本当にラブラブですよねー」

 

 

 覇王との修行を想像して嬉しがる木乃香を目の当たりにした他の三人。それほどまでに覇王が好きなのかと、それぞれ思うのだった。アスナはやはりもう付き合えばいいのに、と思いながらもどかしさを感じていた。

 

 刹那も木乃香のその姿に、自分たちの方が恥ずかしくなると思ったようだ。それは今の木乃香ではなく、覇王とイチャイチャしている時のことだ。さよも覇王と木乃香の仲はラブラブだと思っていたようだ。あれで付き合っていないのはどう考えてもおかしい。それは誰もが思うことだったのである。

 

 

 そんな時、ふとアスナは何かを思い出した。忘れちゃいけない大事なことだ。今のうちにそれをやっておこうと思ったのである。

 

 

「あ、そうだ」

 

「どないしたん?」

 

「ちょっとネギ先生に用事がね」

 

 

 突然何かを思い出したアスナに、我に返った木乃香がどうしたのかを聞いていた。アスナの用事、それはネギにあった。アスナはそれを木乃香に伝え、そうかそうかと木乃香は頷いていた。肝心のネギも、夕映たち三人の近くで特に何かしている様子ではなかった。だからアスナは、今がチャンスだと思ったのである。

 

 

「そうですか。私は少し休んでますね」

 

「いってらっしゃいな」

 

「いってらっしゃいー」

 

「うん、ちょっと行って来る」

 

 

 刹那はアスナが席をはずすと聞いて、修行で疲れた体を休めておくことにしたようだ。また、木乃香とさよはアスナの離籍に、いってらっしゃいと笑いかけて手を振っていた。そんな三人にアスナは、少し行って来ると話してネギの方へと歩いていった。

 

 

「ネギ先生、ちょっとこっちに……」

 

「どうしたんですか? アスナさん」

 

 

 アスナはネギの側へ来ると、みんなと距離をとるため、少し歩いた場所へ誘導した。一体なんだろうかとネギは思いながら、アスナへとついていったのである。

 

 

「思ったんだけど、本当に魔法世界へ行くの?」

 

「……はい、行こうと思います」

 

 

 アスナの用事。それはネギが魔法世界へ本当に行きたいのかを聞くことだった。それをネギへ質問すると、ネギは行くとはっきり答えた。

 

 

「やっぱ夏休み中に?」

 

「そうですね。一度故郷に帰ったついでにでもと、考えてます」

 

「そっか……」

 

 

 ネギは魔法世界へ行く。それはわかった。ならば、それがいつなのか、やはり夏休みなのだろうか。そうアスナが尋ねると、ネギはそう考えていると話した。イギリスの故郷に帰郷した後、その足で魔法世界へと行こうとネギは考えていたのだ。その答えにアスナは、少し深刻そうな表情で、一言言葉を述べていた。

 

 

「アスナさんは、僕が魔法世界へ行くのに反対なんですか?」

 

「んー。反対はしないけどちょっと不安かなーって……」

 

 

 アスナのその渋った様子を見て、ネギは魔法世界行きにアスナは反対なんだろうかと考えた。それをアスナへ聞くと、アスナは渋い顔をしたまま、反対ではないと答えた。ただ、やはり不安はぬぐえない。どうしても心配になると、言葉を続けたのだ。

 

 

「なんか心配かけてごめんなさい」

 

「別に謝るほどのことじゃないでしょ?」

 

 

 ネギはアスナに心配をかけてしまったと思い、そこで素直に頭を下げて謝った。そんな様子のネギに、アスナはふと笑みをこぼしながら、特に謝る必要はないとネギをなだめていた。

 

 

「でも、別に父さんを探そうとか、そう言う訳じゃなくって、父さんが旅した土地を見てみたいという感じです」

 

「そうなんだ。てっきり探すのかとばっかり思ってたわ」

 

 

 そこで、ネギはどうして魔法世界に行ってみたいか、その理由をポツリと語り始めた。その理由は父親のナギだったが、どうやらナギを探したいという訳ではないようだ。ネギはナギが旅をしたという魔法世界を、一目でも見たいと思った。だから、魔法世界に興味が出たと話したのである。アスナはてっきり、ネギがナギを探しに行こうと魔法世界に行くのかと思ったようで、少し安心した様子を見せていた。

 

 

「確かに探したいとは思います……」

 

 

 ただ、ネギもナギを探さないだけで、探したいとは思っていた。それをネギは、少し寂しそうな表情で話し、そこで少し時間を置いた。

 

 

「だけど、探すとなると、夏休みの期間では短いと思うんです」

 

「まあ、確かに……」

 

 

 そして、ネギはナギを探さない理由を述べ始めた。はっきり言えばナギを探すには夏休みでは時間がなさ過ぎると、ネギは考えたのだ。

 

 というのも、この学園で先生をしているのは、立派な魔法使いになるための修行である。それをほっぽって父親探しをするということは、立派な魔法使いの修行を投げ捨てることになるのだ。それ以外にも自分の仕事を投げ捨て、他に迷惑をかけてまで父親探しをするのは、流石に悪いと思ったのである。

 

 アスナはネギのやりきれない気持ちを汲み取りつつ、そのネギの言葉を理解した。ナギを探すのであれば、あの広大な魔法世界をしらみつぶしに探すことになる。そうなれば、夏休みの期間では時間が明らかに足りないと、アスナも思ったようだ。

 

 

「それに、父さんのことがわかるとは聞きましたが、そこに居るという確証はまったくないですし……」

 

「そうよねー……、こっちの世界も広い訳だし。それに、案外近くに居るかもしれないわね」

 

「そうだといいんですけどね」

 

 

 さらに、あのアルビレオは魔法世界に行けば”ナギのことがわかる”と話したが”ナギが居る”とは一言も言ってない。というのであれば、魔法世界にナギが居ない可能性もあるのだ。そのことに気がついたネギは、ナギを探すのは無謀かもしれないとも思ったのである。

 

 アスナもあの広い魔法世界を探すのは大変だ。ナギが居なかったら骨折り損というレベルではないと思った。また、魔法世界ではなく、こちらの旧世界に居るかもしれない。さらに灯台下暗しという言葉があるとおり、実は近くにいるのではないかと言葉にしていた。まあ、実際アスナの言葉、当たらずとも遠からずと言ったところなのだが……。そこでネギは、アスナのその冗談めいた言葉に、それならいいなと笑いながら言葉にしていた。

 

 

「それでも魔法世界に行きたいの?」

 

「はい、僕はこの麻帆良と、故郷の村しか知りませんから。もっと見識を広くしたいとも思います」

 

 

 ネギが魔法世界に行く理由はわかった。だが、それでもなお行きたいのか、アスナはネギへ問いただした。その問いにネギは、真剣な表情で答えた。自分は魔法使いの修行としてやってきたこの麻帆良と、自分の故郷しか知らないと。もっと色んなものに目をむけ、広い世界を知りたいと言葉にしていたのだ。

 

 なにせ父親であるナギは自分と同じぐらいの歳の時、すでに旅を出て自由にしていたと、ネギは話を聞いていた。ならば自分もほんの少し、小さな冒険をして見たいとネギは思ったのだ。

 

 

「そんなことも考えてるんだ……」

 

「いやでも、やっぱり父さんのことを知りたいってのが大きいんですけどね」

 

 

 いやはや、10歳にして既にそこまで考えているとは。アスナはそんなネギに驚いていた。ただ、ネギはやはり、自分の父親であるナギのことが知りたいというのが一番の理由だと語っていた。大そうな言葉を並べたが、やはりそこが一番なのだと。

 

 

「そっか。それなら私も一緒に行こうかしら?」

 

「え? アスナさんも来るんですか?」

 

 

 それなら一緒についていこうか、アスナはそう軽快に話した。ネギはそのアスナの言葉に驚きながら、来てくれるのは頼もしいとも思ったようだ。

 

 いや、アスナは最初からネギと魔法世界へ行くことに決めていた。あのメトゥーナトからそう頼まれたからだ。ただ、頼まれたからと言って行くだけではない。しっかりと自分の意思で決め、行くことを選んだのだ。

 

 

「まあね、ネギ先生一人じゃ、やっぱ不安だしね」

 

「そうですか……。兄さんも来てくれればうれしいんですけど……」

 

「誘えばついてきてくれるんじゃないかしら?」

 

 

 それに、やはりネギだけで魔法世界に行かせるのはアスナは不安なのだ。だからこそ、ネギについていこうと思ったのである。

 

 ネギはアスナがそう言った理由を聞いて、やはりそうなんだと思ったようだ。そこで、ならば兄であるカギも来てくれないかなと言葉をもらした。あのカギは気がつけばずっと自分の先を行っていた。本当に強く頼もしい存在だ。ネギのカギ像は昔ならいざ知らず、今は普段頼りない駄目兄貴だが、いざとなると強い頼もしい兄と言う感じなのである。

 

 アスナもあのカギのことはあまり好きではないが、最近態度が柔らかくなったと思っていた。なのでカギも誘えば来てくれるだろうと、ネギへ話していたのである。

 

 

「そうですね、まず兄さんに聞いてみます」

 

「それがいいわ」

 

 

 アスナにそう言われ、そうだったと思ったネギ。今カギは、修行に熱中している様子なので、休憩している時にでも聞いて見ることにすると話した。アスナもそれがいいと、頷きながら言葉にしていた。

 

 

「でも、本当にアスナさんがついてきて大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫よ。それに、危険な場所へ行く訳じゃないんでしょ?」

 

「はい、そういった場所へは行かないようにしますから」

 

 

 ただ、ネギもアスナを心配していた。本当についてきて大丈夫なのだろうかと。その質問にアスナは笑みで、ノープログレムと言葉にした。また、ネギへ危険な場所に行く気はないのだろうと逆に尋ねたのだ。ネギもそう言った危ないとされる場所に行く気はなかった。そのような場所へ行く必要もないと考えていたのだ。

 

 

「じゃあ、ただの観光みたいなものじゃない」

 

「そうなりますね」

 

「それなら、あまり考える必要はなさそうかな……」

 

 

 ならばただの観光なのではないか。アスナはそう思った。ネギもアスナのその言葉に、そうなると笑みを浮かべて述べていた。そうか、だったらあまり深く心配する必要もないか。アスナはそう言葉をもらした。

 

 

「……考えるって何をですか?」

 

「こっちの話。とりあえず、私も行くからよろしく!」

 

「はい! こちらこそお願いします!」

 

 

 そのアスナの言葉に、ネギは何か感じたようだ。それをアスナへ聞くと、アスナはなんでもないと言葉にし、自分も魔法世界へついていくからよろしくと、笑顔で話したのだ。ネギもそう言われたので、よろしくと言って頭を下げていた。

 

 そのやり取りをふと聞いたエヴァンジェリンが、そこで一言もらしていた。アスナのヤツが魔法世界へ行く。それは大きな意味があるのではないかと思ったのだ。

 

 

「……ふむ、やはりアスナも魔法世界へ行くのか……」

 

「えっ!? 魔法世界!?」

 

 

 魔法世界とはなんぞや。そのエヴァンジェリンの失言を聞いたハルナは、その言葉に驚いた。魔法世界なんてあったのかと思いながら、そんな面白そうなものがあったのかと考えたようだ。

 

 

「魔法世界……?」

 

「むっ、聞こえてしまったのか……」

 

「魔法世界って何でしょうか?」

 

 

 夕映も魔法世界と言う単語は初めてだった。確かにあるらしいことは、自分のアーティファクトでわかっていたことだ。ただ、それが現実に言葉として聞くと、やはり驚くと言うものである。

 

 エヴァンジェリンはその失言を聞かれたことに、やってしまったと思ったようだ。自然に出た言葉だったが、独り言を他人に聞かれるのは恥ずかしいことだからだ。また、その言葉が彼女たちを刺激するようなものだったで、今の失言に後悔していた。のどかも魔法世界と言う言葉を聞いていたようで、エヴァンジェリンへ尋ねたのである。

 

 

「そりゃのどか! 魔法世界って言うんだからファンタジー溢れる場所に決まってるじゃん!」

 

「まあ、一般的に考えればそうなるです……」

 

 

 ハルナはのどかの言葉を聞き、魔法世界の主観的な感想を嬉しそうに語っていた。魔法世界なんだから魔法が飛び交うおとぎの国だ。メルヘンチックな場所なんだろうと。夕映も、確かに一般的な魔法の国とはそういうものだと言葉にしていた。

 

 

「確かに魔法使いどもが集まって作った国家もなくはない……」

 

「おー!」

 

 

 そののどかの問いに、エヴァンジェリンは静かに口を開いた。魔法世界には確かに魔法使いが作った国がある。この旧世界の住人が作ったとされる魔法使いの国だ。しかし、そこで険しい表情で小さく、一言言葉を続けた。

 

 

「だが……」

 

「だが?」

 

 

 エヴァンジェリンは、そこでそれ以外の魔法世界の情勢を思い浮かべていた。魔法世界は彼女たちが思うファンタジーな世界ではない。旧世界と同じような問題を抱えた世界だ。いまだに過去の戦争のせいで、小さな小競り合いが続く場所もある。あの忌まわしき転生者が暴れていることもある。そんな恐ろしい一面も存在する場所だ。エヴァンジェリンはそう言葉にしようとしたが、思いとどまった。

 

 

「いや、なんでもない。どうせ貴様らには関係のないことだろうしな」

 

「何か言いかけましたよね!? すごい気になるんですけど!?」

 

 

 彼女たちが盛り上がるところに、水をさす必要もなかろう。また、どうせそんな場所へ行く訳でもないのだから、話す必要もない。エヴァンジェリンはそう考え、あえてそのことを話さなかった。

 

 ただ、ハルナはエヴァンジェリンが話すのをやめたことに、お預けを受けた犬のような気持ちを感じていた。言いかけた言葉がすごい気になる。最後まで言ってほしいと思ったようだ。

 

 

「……それより、”火よ灯れ”はどうした?」

 

「やだなー! 練習中ですって! ”火よ灯れ”ー!!」

 

「やれやれ……」

 

 

 そう騒がしくするハルナを黙らせようと、エヴァンジェリンは魔法の練習はどうしたと、静かに言葉にした。それを聞いたハルナは、ヤバイと思ったのか練習する振りをはじめ、杖を必死に振り回していた。そんな様子のハルナを見て、エヴァンジェリンは困った娘だとため息をつくのだった。

 

 

「もしかして、ネギ先生も魔法世界に行くのかな」

 

「なら、のどかもついて行くです」

 

 

 エヴァンジェリンはアスナも魔法世界へ行くのか、と言っていた。そのことをのどかは気になったようで、ならばネギも魔法世界へ行くのだろうかと考えた。また、行くのなら自分もついていきたいなと、ついていって大丈夫かな、と思ったのだ。

 

 そこへ夕映が、そうであればついていった方がいいと、のどかへ話した。何せのどかはネギが好きだ。こういったチャンスはめったにない。ついていくべきだと思ったのである。

 

 

「のどかはネギ先生の従者です。頼めばきっと連れて行ってくれるですよ!」

 

「……そうだね。私、頼んでみる!」

 

 

 さらに、のどかはネギの従者でもある。魔法使いのパートナーだ。頼めばきっと連れて行ってくれると夕映はのどかへ言葉を続けた。のどかは夕映の言葉を聞き、なら頼んで見ようと思ったようだ。そこでのどかはぐっとポーズを決めて、魔法世界へつれてってもらうよう、ネギへ頼もうと決意したのだった。


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