理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百話 後夜祭

 戦いが終わり、無事にビフォアは倒された。空は完全に闇となり、日はすでに完全に落ちた。そんな闇を明るく照らす世界樹の大発光。それを眺めることが出来る野原にて、数人の人たちが会話をしていた。

 

 

「強制時間跳躍弾……だと……? 本当にそんなことが可能なのか……!?」

 

「ええ……」

 

 

 その一人は黒い肌と黒い髪の眼鏡の男、ガンドルフィーニだ。そしてもう片方も眼鏡と無精髭のダンディ、タカミチだった。強制時間跳躍弾、それは弾に命中した人物などを、強制的に数時間先に飛ばす弾丸だ。それを受けた魔法先生などが、この野原にすでに転移してきていたのだ。そして、その弾の説明を、ガンドルフィーニらがタカミチから説明を受けていたのである。

 

 

「そうだ、ビフォアは!? ビフォアの計画というのは!?」

 

 

 そこでガンドルフィーニはビフォアのことを思い出した。ビフォアが危険な存在だと知らされた時、多少疑問に感じていたが、いざビフォアが計画を実行した時にはその野望を阻止するために戦っていた。

 

 彼にも守るべき家族がいるので、ビフォアを倒さなければならないと考えるのは当たり前のことだったのだ。ゆえにビフォアがどうなったのか、かなり気になったのである。そのため、少し声を上げてタカミチへと質問していたのだ。

 

 そんな時に突如として、発光現象が起こった。それは強制時間跳躍弾の餌食になったゲームの参加者たちが、転移して来た現象だった。

 

 

「う!? ここは一体……」

 

「戻ってきたようじゃの。待っとったよ」

 

「ジョーテス先生……!」

 

 

 そして、そこに姿を現したのは三郎だった。突然野原へと飛ばされた三郎は、元いた場所とは違うことを不思議に思っていた。そんな三郎へと声をかけたのは、彼の担任であるジョゼフだった。どうやらジョゼフは、強制時間跳躍弾を受けて転移させられたと思われる三郎を、ここで待っていたようだ。

 

 

「ゲームの失格者も戻ってきたようだな」

 

「みたいだね」

 

 

 戻ってきたのは三郎だけではなかったようで、次々に失格者たちが戻ってきていた。また、アルスもタカミチと同じく戻ってきており、参加者たちが次々に戻ってくるのを眺め、そのことを口に出していた。アルスのその言葉にタカミチも相槌を打っていた。

 

 

「それでビフォアはどうなったというのだ!?」

 

「な~に、何も問題はないぞ。ネギ君と超君が倒してくれたからのう」

 

「ネギ君が……!? いや、それよりも超鈴音も……?!」

 

 

 次々に戻ってくる失格者に気を取られていたが、肝心のビフォアがどうなったのかを聞いていなかった。そのことをハッと思い出したガンドルフィーニは、再びビフォアのことを質問したのだ。

 

 そこで今度はジョゼフが、その答えを髭を触りながら、ゆるい感じに言葉にした。ネギと超がビフォアを倒したと話したのだ。それを聞いたガンドルフィーニは大層驚いた。ネギは確かに優秀だし英雄の息子だが、まだ10歳だからだ。だが、それ以上に驚いたのは超のことだった。超はビフォアを倒すためとはいえ、魔法使いのことをかぎ回っていた。それゆえ魔法先生たちにマークされていた存在だったからだ。

 

 

「それは俺から説明させてもらうぜ!」

 

「猫山君……!?」

 

 

 そこへすかさず現れた直一。直一は超がビフォア打倒の為に動いていたことを知っていた。それを説明するために、滑り込むように参上したのである。ただ、突如高速で加速して割り込んできた直一に、ガンドルフィーニは驚いた様子を見せていた。

 

 

「相変わらず足が早いやつだなぁ……」

 

「まあ説明ぐらいなら普通に話すじゃろ」

 

 

 そんな直一を見ながら、相変わらずのスピード狂だとアルスは思っていた。と言うかそれが勝手に口に出ていた。それでも説明ぐらいは普通にやるだろうと、ジョゼフも呆れながらに、そう言葉にしていた。

 

 

「ところで、ゲームは終わったんですか?」

 

「んむ、()()()じゃったよ」

 

「そうですか」

 

 

 三郎はのんきに構えるジョゼフを見て、ゲームが終わったのだろうと思ったが、確証がなかったのでそのジョゼフに質問をしていた。状助が慌てながらに、三日目がヤバイと言葉にしていたからだ。そして、色々と説明を受けていたからだ。すると返ってきた答えが大成功と言うものだった。その答えに三郎は満足し、笑みを浮かべていた。状助たちがうまくやったのだと、わかったからである。

 

 

「そんじゃま、後はお任せしますぜ、タカミチにジョーテス先生」

 

「アルス、君はどこへ……? 今から後夜祭だよ……?」

 

「疲れたから帰って寝る。今日はしんどい……」

 

 

 もはや勝利ムードの中、ひたすらどうでもよさそうな態度のアルス。アルスはこの場を早々に立ち去り、帰りたいと思っていた。なのでタカミチとジョゼフに任せ、帰ることにしたのである。ただ、この後は後夜祭であり、飲んだり食ったりと別の意味でお祭り騒ぎをするイベントがあった。それには参加しないのかとタカミチはアルスに話すと、ダルそうな表情で、帰って寝ると言葉にしたのだ。

 

 

「……実に君らしいね。それじゃゆっくり休むといいよ」

 

「後のことと言っても祭りを楽しむだけじゃしな」

 

「おうおう、んじゃまた……」

 

 

 そのやる気のなさはまさしくアルス。そう思ったタカミチは、君らしいと話しながら、それならゆっくり休めばいいと、帰ってよいと言葉にした。ジョゼフもまた、後は特に打ち上げのようなことをするだけだと、笑いながら話していた。それを聞いたアルスは、やはりダルそうに猫背な背中を二人に見せ、ノソノソと右手を振りながら立ち去っていったのだった。そこへアルスとは入れ違いに、一人の少女がタカミチへと走ってきた。

 

 

「あっ、高畑先生!」

 

「おや、裕奈君」

 

「どこ行ってたんですかー!?」

 

 

 それは裕奈だった。裕奈は手を振りつつ、タカミチの元へと走ってきたのだ。また、裕奈はタカミチが今の今までいなかったので、どうしてなのか気になっていたのだ。

 

 

「いやー、恥ずかしい話だけど、僕も強制時間跳躍弾を受けてしまってね」

 

「高畑先生が!?」

 

 

 その裕奈の質問にタカミチは、手で後頭部を撫で苦笑しつつ強制時間跳躍弾を受けて退場したことを、恥ずかしげに語ったのだ。それを聞いた裕奈は非常に驚いた様子を見せていた。まさか実力者であるタカミチが、強制時間跳躍弾を受けてしまっていたなんて、本当にまさかとしか思っていなかったからだ。

 

 

「で、アルスさんは?」

 

「ああ、彼も僕と同じく強制時間跳躍弾でね……」

 

「そうだったんですか……。それで今はどこに?」

 

 

 そこで裕奈はあたりを見回し、誰かを探すそぶりを見せていた。そして、その人物がいないことに疑問に感じ、タカミチへとそれを聞いたのだ。それはアルスのことだった。アルスもまた、タカミチと同じく強制時間跳躍弾を受け、姿をくらましていたのだが、裕奈はそれを知らなかった。

 

 裕奈の質問にタカミチは、アルスも自分と同じように、転移させられたと言葉にしていた。ただ、それだけではなく、裕奈は今はどこにアルス居るのかと言う形で、タカミチに質問したので、今の答えは不十分だった。だから再びアルスの所在を聞いたのである。

 

 

「彼なら今さっき帰ったよ」

 

「帰った……!?」

 

「疲れたから寝るってね」

 

 

 するとタカミチから、アルスは帰ったと返ってきた。その言葉に裕奈は、一瞬固まりながらも、その帰ったという言葉を復唱していた。まさか、もうすでに帰ってしまうとは、普通に考えればありえないと思っていたからだ。それほどに、アルスが帰ったことが裕奈はショックだったのである。そこへタカミチは、帰った理由も話しておいた。ただ、あまりフォローにはなっていなかったが。

 

 

「はぁー……、こっちは忙しくしてたっつーのにー!」

 

「まぁ、彼も昨日から色々やっていたしね。許してあげてほしい」

 

 

 アルスが帰ったことに、裕奈はため息をついた後、少しふてくされた感じで文句を言っていた。何せ今日の戦いで自分は必死に頑張ってきたと言うのに、時間跳躍で飛んだアルスがスタコラと帰って寝るなど許しがたいと、裕奈は思ったからである。

 

 ただ、アルスは昨日からビフォアの調査などを行なっており、敵と遭遇し戦ったり、地下の工場を見つけたりしていた。だからタカミチもそのことを考え、多少なりにアルスのフォローを行なったのである。

 

 

「次あったらイヤミのひとつでも言ってやんなきゃ!」

 

「ははっ、お手柔らかに頼むよ」

 

 

 それでも裕奈の気は晴れないようで、むくれた感じでイヤミぐらい言っておこうと叫んでいた。そんな裕奈に、お手柔らかにと笑うタカミチ。こればかりはアルスの普段の行いが悪いのかもしれないと、タカミチは思っていたのだった。

 

 

「おーい! ゆーな!」

 

「おかーさん!」

 

 

 そこへ裕奈の母、夕子が自分の娘の名を叫び呼んでいた。それに気づいた裕奈は、そちらの方へ向いて手を振って自分の位置を知らせていた。そして、夕子はそこへと駆けてきて、裕奈の近くへやってきたのである。

 

 

「おっ、これは高畑先生、娘がお世話になってます」

 

「いえ、こちらこそ」

 

 

 と、そこには元担任のタカミチが居るではないか。担任ではなくとも、一応元担任で自分の娘が世話になったのだ。そこ夕子はタカミチへしっかり挨拶し、タカミチも同じく礼儀として返していた。

 

 

「社交辞令しに来たの?」

 

「そんなワケないじゃないか! これをゆーなに渡しに来たのさ!」

 

「こ、これって!?」

 

 

 そんな光景を見ていた裕奈は、タカミチへ挨拶しにきたのかと言葉にしていた。しかし、それだけの理由で娘を呼ぶ母などいないだろう。夕子はそっと手に持っていたものを、裕奈に手渡したのだ。すると、それを見た裕奈は結構驚いた様子だった。

 

 

「食券! しかもこんなに!?」

 

「ゲームで張り切ったからね! けっこーいい順位に入れたのさ!」

 

「うらやましー! 私も普通に参加したかったー!」

 

 

 それはなんと、先ほどの大会イベントの景品だったのだ。その景品とは、食券300枚である。普通に考えて食券300枚もあれば、1年は飯が食える数なのだ。裕奈が驚くのも当然だ。それを裕奈に手渡すと夕子は、イエーイとピースしながら盛大に笑っていた。

 

 また、それなら自分も一般人としてイベントに参加したかったと、非常にうらやましがっていた。自分も普通に参加すれば、それぐらい、いや、それ以上の景品を手に入れられたと裕奈は思ったからだ。

 

 

「だろうと思って、おかーさんが頑張ったってワケ!」

 

「そ、そうだったの!?」

 

 

 ただ、裕奈が魔法生徒をやっていることを知っていた夕子は、普通にゲームに参加出来ないのではないかと考えていた。そして、それは的中しており、ゆえに夕子は、今日のゲームに参加したとも話したのだ。裕奈はその話を聞いて、再び驚いていた。いやはやそんな思惑があったなんて、知りもしなかったからである。

 

 

「半分は久々の運動もかねてるけどねー! それでクラスのみんなにご馳走してやんな!」

 

「うん! ありがとー! おかーさん!」

 

 

 だが、それ以外にも久々に動き回ってみたかったと言うのがあったようだ。元々夕子は戦士タイプの魔法使いで、こうやって動いてないと体が鈍ってしまうと思ったのである。

 

 夕子はそう笑いながら話すと、その食券でクラスメートたちにおごってあげればよいと提案した。300枚あれば焼肉も食べ放題。みんなのおなかが潤うのだ。その提案に元気に裕奈は返事をした。ちょっともったいないとは思ったが、くれたのは母なのでその提案に文句はなかったのである。さらに、裕奈は忘れずに、元気よく夕子へ礼を述べた。自分のために景品を持ってきてくれた母に、心から感謝していたのだ。

 

 そんな母子が悠々と会話している近くで、今度は別の男子が現れた。それは状助だ。状助はここにゲームの失格者たちが飛ばされてくるのを知っていたので、その飛ばされたであろう三郎を迎えに来たのである。

 

 

「三郎ッ!」

 

「おっ、状助君!」

 

 

 状助は両腕を大きく振りながら、三郎へと近づいていった。三郎も状助に気がつき、元気に手を振って返事をしたのだ。

 

 

「いやーお前が弾食らって飛ばされたって聞いてよぉー。ちと心配したが、なんともなさそーだな」

 

「うん、特に怪我もないかな……?」

 

 

 状助は三郎が強制時間跳躍弾を受けてしまったと聞いて、多少なりに心配していた。だが、特になんともなさそうな三郎を見て、一安心だと思い笑みを浮かべていた。

 

 三郎も自分の体を確認し、変化がないことを確認していた。そして、なんともないことを確認すると、問題ないと状助へと話していた。

 

 

「あれ? 覇王君は?」

 

「あいつぁー忙しいみてぇだからよぉ~」

 

「あー、忙しいってそういう……」

 

 

 そこで三郎は状助の周りを確認するように眺めると、覇王がいないことに気がついた。それを状助へと聞くと、状助は頭をポリポリとかきながら、少しそわそわした様子で忙しそうだったと言葉にしていた。三郎は状助のその言葉に何か察したようで、それ以上のことは聞こうとしなかった。予想だが、覇王は木乃香とイチャコラしてるんだろうと思ったからだ。

 

 と言うのも、三郎は覇王が忙しくしていて、木乃香との時間を作れていなかったことを心配していた。覇王はそこまで気にしたそぶりは見せていなかったが、木乃香が学園祭で覇王と遊べないのは可愛そうだと思っていたからだ。

 

 

「あ、そうだ。今何時だかわかる?」

 

「そういや時間がよくわからねぇんだったな」

 

 

 三郎はふと、今の時間が気になった。辺りはもう真っ暗で、世界樹の発光で周囲が照らされている状況だ。また、もうゲームは終了したとジョゼフが言葉にしていた。ゆえに、ある程度時間が経っていると推測したのだ。

 

 状助もその質問に、そういえばそうだったと思ったようだ。状助は一応原作知識を持っている。最近そのせいで苦悩しているのが嫌になってきているようだが。まあ、そこから考えて、強制時間跳躍弾を受けた三郎は時間の感覚がおかしくなっているのを、状助は理解していた。だから三郎の質問に一人で納得し、腕時計を見たのである。

 

 

「えーと、午後の10時前ぐらいだな」

 

「もうすぐ後夜祭の時間かぁー」

 

 

 時計の針はもうすぐ午後の10時、つまり22時にさしかかろうとしていた。それを状助は告げると、三郎は思い出したかのように、もうすぐ始まるであろう後夜祭のことを言葉にしていた。

そんな二人の下へもう一人、少女が走ってきた。

 

 

「三郎さん!」

 

「亜子さん……!」

 

 

 それは亜子だった。亜子はゲームの失格者がこの場所に来ると言う情報を知り、三郎を迎えに来たのだ。亜子は三郎を見つけると、大声でその名を呼び、心配した表情で三郎の下へと走ってきた。三郎もそんな亜子の名を呼び、手を空に伸ばして自分の位置をアピールしていた。

 

 

「大丈夫やった……!?」

 

「気にしすぎだよ。このとおり元気さ!」

 

「よかったー……」

 

 

 亜子は目の前で消えてしまった三郎が、とても心配だったようだ。三郎は心配する亜子を安心させるため、ピョンピョン飛び跳ねて自分が元気なことを示していた。その元気そうな三郎の姿に、ようやく亜子は安堵した表情を浮かべたのだった。

 

 

「ゴメン、ウチのせいで……」

 

「いやいや、タイミングが悪かっただけだって」

 

「せやけど……!」

 

 

 だが、亜子は再び暗い表情で、三郎に謝っていた。それは三郎が亜子をかばい、失格になってしまったからだ。ただ、三郎は自分がそうしたかったら行動しただけだった。ゆえに、亜子が悪いわけではないと、単純にタイミングが悪かったと話したのである。それでもなおも、亜子はそのことを気にする様子を見せていた。そう三郎に言われても、やはり自分のせいだと思っているからだ。

 

 

「気にしなくていいって! むしろ、もうすぐ後夜祭りなんだろう? 気にしてたら楽しめないよ?」

 

「う、うん。せやな……!」

 

 

 そこまで気にする亜子に、三郎はそんなに落ち込んでいては後夜祭を楽しめないだろうと、励ます言葉を述べていた。自分は元気であり失格になったことも気にしていない。そんな感じの素振りで、亜子を元気付けていたのだ。亜子も自分が落ち込んでいるせいで三郎が困っていると思い、それならもう気にするのをやめようと、少しだけ元気を出したのだった。

 

 

「お、俺は昭夫と約束してっからよぉー! 先に行ってるぜッ!!」

 

「え? 急にどうしたの?」

 

「そう言うことだからよ! じゃッ!」

 

 

 そんなちょっといい雰囲気の二人を見て、状助は退散しようと思ったようだ。こりゃ二人の邪魔になる。はよどっか行くべきだと。だから、適当な理由をつけて、スタコラサッサとその場から逃げようとしていたのである。

 

 そんな突然挙動不審となる状助に、三郎は何事かと思ったようだ。一体何事なのだろうと、キョトンとした顔で状助を見ていたのだ。だが、その次の瞬間状助は、別れの言葉を手短に済ませると早々に走って立ち去って行った。東状助はクールに去るというか、逃げるんだよーッ!という感じにダッシュしてその場から消えたのだった。

 

 

「気を使わなくてもいいんだけどなぁ……」

 

 

 三郎は逃げるように走っていった状助に、苦笑しながらも、特に気を使わなくてもよかったと言葉にしていた。別に邪魔だとも思ってなかったし、状助も自分を心配して来てくれたと思っていた。だから、何も逃げる必要はなかったと苦笑していたのである。ただ、気を使われたと思った亜子は、ほんのり頬を紅く染め、いじらしい様子を見せていたのだった。

 

 

 その一連の出来事が起こった近くで、また別の男女が会話していた。刃牙とアキラである。

 

 

「そうだ、ゲームどうだった?」

 

「ん? まぁ、悪くはなかったんじゃねぇかな……」

 

 

 アキラは刃牙へ、今回のイベントの感想を聞いていた。昨日のことで傷だらけの刃牙が、突如参加を申し出たので、アキラは気になったのである。そんなアキラの素朴な質問に、妙にそわそわした態度で曖昧な答えを話す刃牙だった。

 

 

「何か煮え切らない言い方だね……。私は楽しかったけど……」

 

「いや、楽しくなかったってワケじゃあねぇよ……」

 

 

 一体どうしたのだろうか。アキラは刃牙のその変な態度に、あまり面白くなかったのではないかと考えた。ただ、自分はそれなりに楽しんでいたので、アキラは楽しかったと感想を述べていた。しかし、刃牙もイベントそれ自体がつまらなかった訳ではなかったので、そういうことではないと、申し訳なさそうに話していた。

 

 

「……本当に?」

 

「いやまぁ、いろいろ考え事があってよ。集中できなかっただけだぜ」

 

 

 だが、やはりそんな態度では、刃牙が楽しんでいたとは思えないと、アキラは思った。なので、それが本当なのかどうか、追求してみたのである。そうアキラから言われた刃牙は、手を頭の裏に回し困った様子で、言い訳するように話し出した。

 

 

「考え事? 昨日のコトとか?」

 

「うん? ……まあな」

 

「そうか……」

 

 

 考え事があって集中できなかった。刃牙はそう述べた。それにアキラは少し反応し、昨日のことではないかと察したようだ。まあ、昨日の夜、あの銀髪と刃牙は戦い、不思議な力の説明までしたのだ。多少悩んでいても不思議ではないだろうとアキラは思ったのである。

 

 しかし、実際に刃牙が悩んでいたのは昨日の事ではなかった。今日、このイベントそれ自体のことで考え事をしていたのである。刃牙は”原作知識”がある転生者だ。このイベントがうまくいかなければ、面倒なことになることを理解していたのだ。ただ、原作とは異なり犯人がビフォアという男であり、負ければそれ以上の絶望が襲うことを、この刃牙は知るよしもなかったのだが。

 

 それでも刃牙は、今日のイベントのことで悩んでいるなど言うことは出来ないと考えた。という訳で、とりあえず昨日のことで悩んでいることにして、それをアキラに話したのである。

 

 アキラもその答えに納得した様子を見せながら、少し考え事をする素振りを見せていた。昨日の出来事はアキラにも衝撃的であり、今も多少なりに悩んでいたからである。

 

 

「そういえば、傷の方は大丈夫なのか?」

 

「傷? あ、あぁ、()()大丈夫だ」

 

「そう? それならいいけど……」

 

 

 また、アキラは昨日のことを考えて、刃牙の傷のことを思い出したようだ。昨日の戦いで刃牙は、かなりの手傷を負っていた。左肩が貫通するほどの重症だったのだ。それでも今日のイベントで、刃牙は元気な姿を晒していた。それでも刃牙の傷は大きかったので、やはりアキラは心配だったのである。

 

 そのアキラの質問に、刃牙はもう大丈夫と答えた。それは状助が、刃牙の傷を癒したからである。そのおかげで傷は癒え、完治していたのだ。ただ、やはりそれを話すことは出来ないので、とりあえず安心させるように、ガッツポーズをとっていた。

 

 そんな刃牙を見て、大丈夫そうだとアキラは思った。しかし、やはりあの傷はひどかった。そう簡単に治るものではなかった。だからアキラは、刃牙が自分を安心させようと、あえて多少やせ我慢していると考えた。そのため、本人が元気だと言うならと思い、アキラはそれ以上そのことを話そうとは思わなかった。

 

 

「おっ、そうだった……」

 

「どうしたの?」

 

 

 そこで刃牙は、ふと周りを見渡すと、ある人物に気がつき、ぽつりと一言もらしていた。その声にアキラは何だろうと思い、どうしたのかを尋ねてたのだ。

 

 

「いや、今アイツの名前、何で知ってたか思い出しただけだが」

 

「アイツ……? 川丘君のこと?」

 

 

 その人物とは三郎のことだった。そういえば三郎の名前を何故最初から知っていたのか、刃牙は疑問だった。それが今氷解したようである。また、アキラも刃牙が三郎を見ていることに気がつき、アイツとは三郎のことだと察したようだ。

 

 

「そうそう。アイツにはじめてあったはずなのに、アイツの名前は知ってたのは何でだと思ったが、お前から聞いてたんだったな」

 

「確かにゲームの最終に、少しの間だったけど川丘君と話してたね」

 

 

 三郎の名をどうして知っていたのだろうか。刃牙はその答えを思い出した。それは単純に、アキラから聞かされていただけだった。親友の亜子に彼氏が出来たと、その人が三郎だと、アキラから話を聞いていたのである。

 

 アキラもそこで、刃牙が三郎とゲームの最中に会話していたことを思い出していた。それでそんなことを言い出したのかと思い、納得した様子を見せていた。

 

 

「まっ、とりあえずスッキリしたことだし、後夜祭でも楽しんでこいよ」

 

「うん、そうするよ」

 

 

 とりあえず引っかかっていたことは解消したと、晴れ晴れした様子を見せる刃牙。そして、アキラへ後夜祭を友人たちと楽しんでくるよう伝え、背中を押してやっていた。そう刃牙から言われたアキラも、そうしようと思った。だから、そうすると言葉を残し、その場をゆっくりと去っていった。また、その去っていくアキラを眺めながら、昨日のことなどを考え、ほっと一息吐く刃牙が、そこに残っていたのだった。

 

 

 後夜祭は始まる前から、すでに盛り上がっていた。その盛り上がりの中で、さらに盛り上がっている男が一人、ギターを鳴らして叫んでいた。

 

 

「祝いの宴と行かせて貰うぜぇーッ! ヒャッハァーッ!」

 

「いーぞいーぞ!」

 

「もっとやれー!」

 

「騒ぎすぎじゃないかなー?」

 

 

 お分かりいただけただろうか。そこで盛り上がりまくる男こそ、昭夫だった。完全にテンションマックスでギターを弾き鳴らし、パフォーマンスをキメる昭夫。完全にノリノリだ。

 

 そんな昭夫の周りを、桜子、美砂、円の三人が囲っていた。桜子と美砂は激しく演奏する昭夫を応援し、どんどんとテンションをあげていた。その二人を尻目に、ちょっと騒ぎすぎて回りに迷惑がかかってないか心配する、円の姿があった。まあ、それでも止めようとは思っておらず、昭夫の演奏を眺めていた。

 

 それだけではない。多数のファンらしき人たちも昭夫を囲っており、誰もが楽しそうに叫んでいた。昭夫の演奏は、それほどまでに人気となっていたのである。

 

 

「おいおい、アレじゃ近づけねぇーじゃあねぇか……」

 

 

 そこへ昭夫の下へ状助がやってきていた。が、昭夫の今の現状を見て、まったく近寄る隙がないと思ったようだ。よもや、これほどまでに昭夫が人気だとはと状助は思い、今度はどこへ行こうかと考え、さまようしかなかったのだった。

 

 

 それ以外の人たちも、各自で後夜祭を楽しんでいた。さらに女子中等部3-Aの子たちも、はっちゃけて面白おかしくやっていた。

 

 

 また、忙しくしていると状助が言っていた覇王も、木乃香とともに後夜祭を楽しんでいた。ようやく重荷が外れたので、リラックスできると言うものだと、覇王はそこで思っていた。

 

 そして、木乃香は甘えるように、覇王に寄り添いながら晴れ晴れとした笑顔を見せていた。木乃香はこの麻帆良祭にて、覇王と遊んだ時間がほとんどなかったからだ。覇王もそのあたりは申し訳なく思っていたので、今は木乃香の好きなようにさせようと、木乃香のその行為を許していたのだった。

 

 

「事件が無事に解決してよかったわー」

 

「そうだね。今回ばかりは僕も疲れたよ」

 

 

 木乃香はこの事件が無事に終わったことに、安心した様子を見せていた。一時は危なかったが、なんとか無事に乗り越えることが出来たからだ。

 

 覇王も同じ気持ちだった。自分の能力が通じない相手を、無事に倒すことが出来たからだ。また、覇王は普段見せないような、少し疲れた様子を見せていた。何せ負けることはないとしても、勝つことが出来ない相手が敵だったのだ。

 

 この覇王の攻撃ですらも、ダメージを与えられないほどに、ビフォアの特典は厄介だったのである。だが、もうそれはなくなった。ビフォアは倒されたのだ。だから覇王はかなり安堵した。この麻帆良の平和が守られたことに、強敵がいなくなったことに。

 

 

「ウチも頑張ったんやけどなー?」

 

「わかってるさ。よくやってくれたね」

 

「えへへー、はおもお疲れさん」

 

 

 そんな覇王に木乃香は、自分も必死に戦ったと言葉にしていた。覇王はそこで、木乃香を素直に褒めていた。普段はまったく素直ではない覇王だが、今回は素直に木乃香を褒めたのだ。そのぐらい覇王は、今回の事件に疲れている証拠でもあった。

 

 覇王に素直に褒められた木乃香は、特に何かを気にする様子を見せず、褒められたことを喜んでいた。そして、疲れている様子の覇王に、ねぎらいの言葉をかけてたのだ。そのやさしい木乃香の言葉で、覇王も自然と笑みをこぼしていた。木乃香は覇王のその笑顔を見て、さらに体を寄せて抱きつくのだった。

 

 

 その二人の近くで立ち尽くす二人の少女。それはアスナと刹那だった。二人も同じく疲れた様子を見せており、この戦いがしんどかったことを物語っていた。

 

 

「はぁ~、何か疲れちゃった……」

 

「そうですね……。色々焦っていたので休む暇もありませんでしたから……」

 

 

 アスナはため息をつきながら、だるそうにしていた。ずっと休みなく働きっぱなしだったので、流石に疲れていたのである。刹那もまた、同じように疲れていた。時間との勝負だったり、ビフォアとの戦いで精神的にも疲労していたのだ。

 

 

「とは言っても、あの時負けて寝かされたけど……」

 

「侮ってなどいなかったはずなんですが……」

 

 

 ただ、アスナと刹那はビフォアとの戦いにより負傷し、一時的に脱落を余儀なくされた。その時にある程度は休めたのではないかと、アスナは思ったようである。また、刹那もビフォアに対しては油断など一切なかったと言葉にしていた。だが、刹那もビフォアにあっけなく敗北した。それが非常に許せないと言う様子を見せていたのだ。

 

 

「まあ、ズルい力のせいだって言うし。でも、まだまだ実力不足を痛感したわ」

 

「私もです。あれほどまでに簡単に敗北を許すようでは……」

 

 

 しかし、それはビフォアの特典によるものだ。ビフォアは原作キャラよりも有利に動ける。そのため二人は敗北したのである。よって、その力のせいで負けたと、アスナは刹那に話していた。それでも、それでも負けは負けであり、アスナはまだまだ自分が弱いだけだと、右手を握り締めて語ったのだ。刹那も同じく、自分の実力不足を嘆いていた。たとえ相手がどんな力を持とうとも、たった一撃で負けてしまったのことは刹那にとっても屈辱だったのだ。

 

 

「お互いに、もっと強くならないとね」

 

「そうですね……!」

 

 

 ならば二人で強くなろう。アスナは刹那へとしっかり向き直り、そう宣言した。刹那も同じくアスナに向かい、そうしようと約束した。そして、二人は再び握手をし、同時にうなずいてさらに強くなることを誓い合ったのである。

 

 

「あ、あれは状助」

 

「何をしているのでしょう……?」

 

 

 そこでアスナはふらふらしながら、どうしようか迷っている状助を発見した。今回状助にも作戦を協力してもらい、しっかりと使命を果たしてくれたことに感謝していた。なのでとりあえず、状助を呼んでお礼ぐらいしようと思ったようだ。

 

 その横で刹那も状助を見つけていた。ただ、フラフラと当てもなく移動する状助を見て、何がしたいのかわからなかった。と言うのも、今の状助には目的がなかった。だからどこへ行こうか、どうしようかと、考え中だったのである。

 

 

「状助ー!」

 

「ん?」

 

 

 そこでアスナは両手を口元へあて、大声で状助を呼んだのだ。腕を組んでひたすらに、どこで何をしようか悩む状助は、突如アスナに呼ばれたことに驚いていた。一体何事だろうかと、その声の方向を向くと、必死に右手を振りながら、こっちに来いと合図するアスナがいたのだ。

 

 

「どーした?」

 

「いや、今日のことでお礼を言おうと思って」

 

「お礼ィ? 別に気にしなくてもいいんだがよォー……」

 

 

 状助は突如呼ばれたので、何事かと思いアスナの前へ歩いてきた。そして、クエッションマークを浮かべながら、一体どうしたのかと尋ねたのだ。

 

 するとアスナは今日の戦いに協力してくれたことに、礼をしたいと素直に話した。今回の戦い、状助の活躍がなければ負けていたかもしれないからだ。それに、普段戦いなんぞしない状助を、巻き込んでしまったと思ったからだ。

 

 しかし、状助はお礼と言われて、別にいらないと断っていた。状助もこの麻帆良が敵地となるのは困るし、礼を言われるほどのことはしていないと思っていたからである。

 

 

「状助はそうだろうけど、それじゃ私の気がすまないのよ」

 

「そうかぁ?」

 

「そうなのよ、だから状助」

 

 

 ただ、それでは自分の気が済まないと、アスナは状助へと言葉にした。少し押し付けがましいが、はやりしっかりと感謝の念を伝えておきたいのだ。状助はそう言われて、そんなもんなのかと、少し呆けた表情で考えていた。そこまで気にする必要ないのに、そう思っていたのだ。そう、自分がお礼をしたい、感謝していることをハッキリ伝えたい、アスナはそう思い、状助の名を再び呼んだ。

 

 

「今日は本当にありがとう」

 

「お、おう……」

 

 

 だから、頭を下げて状助へと、心から感謝の言葉を伝えたのだ。状助ははにかむような表情で、その言葉を受け止めていた。やはり状助、面と向かって礼をされると、照れくさくなるようだ。そして、頭を上げたアスナは、とても良い笑顔だった。そんなアスナの表情を見た状助は、さらに照れくさくなってしまい、頭をぽりぽりとかいて、視線を泳がしていたのだった。

 

 刹那はそんな二人の様子を見ながら、一体どういう関係なのだろうかと考えていた。小学校からの長い付き合いだとは聞いていたし、友人であるとも聞いていた。だが、それ以上なのではないかとも、少しだけそんな考えがよぎったのである。

 

 

「あっ」

 

「どうしたの?」

 

 

 しかし、そう考えていた刹那に、ふとここで何かを思い出したようだ。アスナが礼をしている姿に、何やら心当たりが合ったらしい。突然言葉をもらした刹那に、アスナはなんだろうかと思い、それを聞いたのである。

 

 

「いえ、私もバーサーカーさんに同じく礼をと思って……」

 

「あー。そうね、私もそうするわ」

 

「ですね。私は彼を探して来ます」

 

「お願いね」

 

 

 刹那が思い出したこと、それはバーサーカーのことだった。バーサーカー自身、覇王に頼まれて戦ったのだが、戦ってくれたことに変わりはので、ちゃんと礼をしておこうと刹那は考えたのである。ならば私もと、アスナもバーサーカーに礼をしようと考えた。戦ってくれた仲間に感謝するのは当然だと思っているからだ。

 

 そして刹那は、ならば今すぐにでもと思い、バーサーカーを探しに行くことにしたようだ。アスナも探してきて欲しいと、頼み込むように両手を合わせてお願いしていたのだった。

 

 

 アスナたちが会話していた別の場所で、二人の少女が誰かを待っていた。夕映とのどかだ。二人は強制時間跳躍弾に飲まれたハルナが戻ってくるのを、ひたすら待っていたのだった。

 

 

「おっ、ここは?」

 

「居ました!」

 

「ハルナー!」

 

 

 すると地面から少し浮いた場所に光が発生し、ハルナが登場したのである。ハルナはこの場所がどこだろうかと思い、キョロキョロと辺りを見回していた。そして、ハルナを見つけた夕映とのどかが、そこへ走ってきたのである。

 

 

「ゆえ吉にのどかー!」

 

「大丈夫そうですね」

 

「よかったー!」

 

 

 ハルナも二人を見つけ、そっちの方へと走っていった。そして、夕映とのどかと手をつないで、無事を確認しあったのだ。

 

 

「みんなこうしてるってことはうまく行ったってことだね!?」

 

「はい! ネギ先生たちがやってくれました!」

 

「だからもう大丈夫だよ!」

 

「そーかそーかー! 私が体張った甲斐があったワケだね!」

 

 

 また、ハルナは二人がこうしているということは、つまり作戦がうまく言ったのだと考えた。それを二人へ尋ねると、ネギたちが戦いに勝ったと、笑顔ながらに話していた。ハルナはその答えを聞くと、自分が体を張った甲斐があったと、満足げな笑みを浮かべていた。いやはや、あの時身を挺してネギを守ったのは無駄ではなかったと、そう思ったのだ。

 

 

「で、そのネギ君はどこだい?」

 

「あちらの方に……」

 

 

 ならば戦いに勝ったネギは、どこへ居るのだろうか。ハルナは今度、その問いを二人に投げかけた。すると夕映が指を指し、そっちの方に居ると伝えたのだ。それは岩の長方形の岩の柱が何本も並んだ、オブジェのような場所だった。

 

 


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