ブラック・ブレット-蘇りしリべリオン部隊-   作:影鴉

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今回、原作キャラの性格が崩壊しております。
どうか、ご了承ください。


その女、剛毅につき

『民間警備会社』

 ガストレアが絡む事件を担当する組織であり、一般に省略して『民警』と呼ばれている。ガストレア大戦後、エリア各地で発生したガストレアの対応には当初警察が対応していたが、警察官の死亡率が著しかった為、対ガストレアのエキスパートを集めた組織として民警が結成され、ガストレア出現の際には彼等の同伴が必須となる法律が制定された来歴を持つ。しかし、警察からしてみれば自分の所轄に土足で踏み込まれているに等しいので民警と警察は基本的に仲が悪い。

 主な仕事はガストレアの駆除だが、時折政府から世間に公表し難い依頼を受けたりもしている。

 業務の中枢を担うのは戦闘員で、プロモーターとイニシエーターが基本1人ずつペアを組んで現場へ派遣される。

 また、”民間”の会社である為、民警の規模は大手から弱小、零細と呼ばれるところまで様々である。

 

 ある日、大手民間警備会社『三ヶ島ロイヤルガーター』にとある依頼が来た。

 

 

「他のプロモーターと合同でガストレア討伐だぁ?」

「はい、撃破した数やステージの高さに応じて報奨金が増えるそうです」

 

 

 IP序列1584位のプロモーター、伊熊 将監が怪訝な表情で尋ね、彼のイニシエーター、千寿 夏世が軽い説明をしながら依頼内容の書類を彼に手渡す。

 

 

「合同ってこたぁ、分け前が減るじゃねぇか」

「報奨金は撃破数に応じた分しか渡さないのですから当然です」

 

 

 頭をガシガシ掻きながらぼやく将監に夏世は淡々と答える。

 

 

「他の依頼は無ぇのか?」

「他のプロモーターの方々が受注していてこれしかありません」

「ちっ、しゃあねぇな」

「因みに集合場所は葛城グループ32区支部。集合時間は13:00です」

「……おい、移動時間考えてギリギリじゃねぇか」

「そうですね。尚、集合時間きっかりに移動するらしいので遅刻したらアウトです」

「だぁあああ! 冷静に答えてんじゃねぇよ。夏世、急ぐぞ!!」

 

 

 将監達は大慌てで集合場所に向かう事となるのだった。

 

 

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葛城グループ32区支部

 

 

 集合時間10秒前に到着した将監達。タクシーの運転手を急かしながら目的地へ向かっていたのだが、よりにもよって渋滞に遭遇。一向に進まない事に痺れを切らした将監は、夏世を脇に担いで全力疾走で向かう事となるのだった。

 

 

「ぜぇ…、ぜぇ……、なん……とか…間に合ったか?」

「10秒前ジャストですね。入り口前に受付の方がいると言う事なので私がしておきます。将監さんは息を整えてヘリポートへ向かっておいてください」

「あ、あぁ。わ……解った」

 

 

 手持ちの武器や道具に加え、夏世を担いだ上で約15分間の全力疾走を果たした将監。息は絶え絶えであり、しばらく息を整えたかった。

 尚、彼の姿はムキムキマッチョな肉体にタンクトップとズボン、口元を髑髏のフェイススカーフで包んでいる世紀末ルック。そんな彼がワンピースとスパッツといういたって普通の格好である夏世を武器や道具と共に抱えて走っている姿はどう見ても人攫いであったと目撃者は語っている。

 夏世が受付へ向かい、一先ず落ち着いてきた将監はヘリポートへ向かった。

 

 

「はぁ…、漸く落ち着いてきたか…」

 

 

 深呼吸をし、目的地に着くと、自分の他に2、3組の民警と思われる者達が出発の為の準備をしていた。

 

 

「ん?」

 

 

 一人だけイニシエーターがいない者がいた。1人で荷物と思われる強化プラスチック製のボックスに腰を下ろし、タバコをふかしている。

 

 

(いけ好かねぇ女だな……)

 

 

 将監が感じた第一印象がそれだった。見た目は悪く無い、寧ろ美女と呼んで良い容姿であり、ワイルドな服装から見えるスタイルも抜群であった。だが、何と云うのか、将監の直感が彼女とは馬が合わないと囁いていた。

 一瞬、将監とその女の視線が合うが、興味が無いと言う様に女は直ぐ様視線を逸らした。

 そこへ受付で登録を終えた夏世が戻って来た。

 

 

「将監さん、参加登録終わりました」

「おう、問題無かっただろうな?」

「はい」

「皆様、本日の御依頼に参加して頂き誠に有難う御座います」

 

 

 夏世に確認したところで、フライトジャケット姿の男が表れて民警の面々に挨拶をする。

 

 

「早速移動しますのでヘリに御乗り下さい。詳しい話はヘリの中で話します」

 

 

 男の言葉に従い、将監達は輸送ヘリへ搭乗する。ヘリはそのまま飛び立ち、目的地へ向かって飛んでいく。

 

 

「今回の御依頼の詳細についてですが、御送付した依頼書の内容通り、周外区のガストレア討伐になります」

 

 

 ヘリに揺られて数分後、男は書類を広げて話を始めた。

 

 

「森林地帯第526Bエリアにてガストレアのコロニーが確認されました。規模はクラスB、ステージⅣが10体、Ⅲが60、Ⅱが130、Ⅰが250の計450体と観測員から報告されております。皆様にはコロニーの壊滅及びガストレアの死骸の回収をお願い致します。尚、報酬となる報奨金ですが、各自が撃破したガストレアのステージ及び数で決まりますので爆薬等で木っ端微塵にして判別不可能な場合はカウントされませんので、ご注意下さい」

 

 

 説明が終わり、ヘリは目的地の近くに建設された簡易発着場に降り立った。

 

 

「それではこれより2組のペアを組んで頂きます。各自準備が終了次第、討伐を開始してください」

 

 

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森林地帯第526Bエリア ガストレアコロニー付近

 

 

 討伐が開始され、ペアを組んだそれぞれの組が宛がわれたポイントへ移動する。

 将監達は簡易発着場から一番遠いポイントを宛がわれた。

 

 

「っち……」

 

 

 バスタードソードでガストレアを真っ二つにしながら将監は舌打ちをする。ペアを組む事になった相手はイニシエーター無しの女。持っていた強化プラスチック製のボックスには武器を入れていたらしく、その中から2本の大型チェーンソーを取り出し、それぞれを両手に持ち、軽々と振り回しながら向かって来るステージⅣを易々と切り刻んでいた。

 

 

(30分近くも暴れてやがるのに疲れた様子は無ぇな。相当な手練れの筈だがレオナなんて名前は民警内で聞いた事が無ぇ)

 

 

 将監と夏世が組む事になったのはイニシエーターを連れていない女だった。ペアを決定する際に『レオナ・アーヴィング』と呼ばれていたが、あれ程の実力者なら有名になっていてもおかしくない。しかし、女性プロモーターでは聞いた事の無い名前だったのだ。となると、賞金稼ぎだと思われるが生憎将監は有名どころの賞金稼ぎの名前まで網羅してはいなかった。

 

 

(何者か解らないにせよ、俺の取り分が減るのはいただけねぇな…)

 

 

 レオナは見る見る内にガストレアを撃破していく。

 

 

「おい、夏世」

「なんでしょうか、将監さん?」

 

 

 将監は後方からアサルトライフルの狙撃で彼をサポートしていた夏世に声を掛ける。彼女は将監の方を振り向く事無く、迫って来るステージⅠを狙撃しながら返事をする。

 

 

「俺のサポートはもういい。暫くあの女の後ろに追いていろ」

「……将監さん、それは…」

「何時もの通りだ。俺の手を煩わせるなよ?」

 

 

 将監の命令に夏世は内心辟易する。

 

『仲間殺し』

複数人で挑む依頼の際、報酬が歩合制の時は自分の分け前を減らさない様に、先着制の時は自分が確実に手に入れる為に、将監は他のプロモーターやイニシエーターを事故に見せ掛けて殺す。殺した相手は大抵ガストレアに喰われる為、バレた事は無い。

 

 今回もレオナを殺害して、自分の撃破数を稼ぐと共に彼女の取り分を横取りするつもりなのだ。

 この命令に夏世は未だに嫌悪感を持っていた。将監のイニシエーターである彼女も今の様に当然、この仲間殺しを命じられる。しかし、将監にとってイニシエーターは自身の道具でしか無く、彼女も道具扱いから変わる事は無いと諦めており、そんな諦めている自分にも嫌気が差していた。

 その内、レオナは森林が密集している方へ移動していった。

 

 

「今がチャンスだ。あれだけ木が密集している場所なら奇襲もし易いし他の奴に見られる事も無いだろう。行け、夏世」

「………分かりました」

 

 

 夏世は頷きレオナの後を追って行った。

 

 

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 視界に入る範囲でいたガストレアの最後を切り裂く。周囲にはガストレアの気配は無く、レオナは武器を下ろした。

 

 

「………何時まで隠れているんだい?」

「……気付いていましたか」

 

 

 唐突に声を上げるレオナ。すると、彼女の背後にある木の陰から夏世が現れる。

 

 

「で? さっきからずっとアタシを追跡して観察していた様だけど、何の様だい?」

「……もう解っているんじゃないのですか?」

 

 

 そう言って夏世は自分の武器であるアサルトライフル『SR-16M4』を構える。気付かれていた以上、奇襲は出来ないが将監から命令された以上、レオナを殺さなければならない。

 そんな彼女を前にしてレオナは溜息を吐きながら尋ねる。

 

 

「一つ聞いて良いかい?」

「…何でしょうか?」

「アンタのそれは自分の意思かい?」

「…………」

 

 

 レオナの問いに夏世は口籠る。将監の命令とはいえ、正直に”はい”と答えれば今回の仕事の報酬が無くなるどころか警察沙汰になる可能性がある。夏世が出した答えは銃口をレオナに向ける事だった。

 

 

「………やれやれ、あのデカブツは相当に碌でも無い奴の様だね」

「……それについては否定しません」

「それで、アタシを殺す気かい?」

「恨みはありませんが、命令ですので」

「…そうかい」

 

 

 諦めた様に淡々と応える夏世にレオナは溜息を零し………

 

 

「嘗めるなよ、糞餓鬼」

「!!!?」

 

 

 強烈な殺気をレオナからぶつけられた夏世はバックステップで距離を大きく離した。一瞬、殺されたと思う程の濃厚な殺気に冷や汗が止まらない。

 

 

「私にはこれしか道が無い様な諦めた目をしやがって…」

「…くっ(こんな殺気、今迄感じた事が無い!!)」

 

 

 夏世はSR-16M4の引き金を引き、放たれた5.56NATO弾がレオナへ襲い掛かる。

 レオナは横に跳んで避けた。

 

 

「私にはこれ以上どうしようもないんです!!」

 

 

 泣きそうな表情で叫びながら夏世は撃ち続ける。

 

 

「私達イニシエーターが生きていく為には誰かに利用されないといけないんです! 普通の子供みたいに自由には生きてはいけない!!」

 

 

 レオナが隠れている木へひたすら撃ち続け、一部を削られた木はそのまま倒れる。

 

 

「貴女に、何が分かるというのですか!!」

「分かる訳無ぇだろ」

「な、早い!?」

 

 

 夏世へ一気に距離を詰めたレオナは回し蹴りを打ち込む。夏世はSR-16M4を盾にするがその銃身は曲がり、そのまま吹き飛ばされて木に叩き付けられる。

 

 

「か、かはっ」

 

 

 叩き付けられたことによって肺の中の空気が一気に吐き出される。夏世はそのまま地面に倒れた。

 

 

「け、けほけほっ」

 

 

 一瞬意識が飛ぶが直ぐに覚醒する。全身を叩き付けられたことによって体中が痛むがSR-16M4を杖にしてなんとか立ち上がるが……

 

 

「グルルル……」

「こんな時に…」

 

 

 騒ぎを聞き付けたのか、ウルフタイプステージⅠのガストレアが夏世の前に数頭現れた。SR-16M4はレオナの蹴りによって使用不可能になっており、手持ちの武器はコンバットナイフのみ。とてもじゃないが捌ききれない。

 

 

(ああ、私はここで死ぬんだ……)

 

 

 暫くの間、涎を垂らして夏世を窺っていたガストレアであったが、待ち切れなくなったのか飛び掛かって来た。その姿を見て夏世は諦めと共に遅い来るであろう痛みに目を閉じる。

 しかし、痛みは一向に来ない。瞑っていた瞳を開いた夏世はその光景を見て驚く。

 

 

「……嘘?」

 

 

 そこには夏世に飛び掛かったガストレア達をチェーンソーで纏めて切り裂くレオナの姿があった。

 

 

「この蟲共が、弱ってるガキに群がるんじゃないよ!」

 

 

 あっという間にガストレア達を死骸の山に変えた。

 

 

「ほら、立ちな?」

「何故助けたんですか?」

「はぁ? ガキを見捨てる程アタシは腐っていないさ」

 

 

 座ったままの夏世を起こしたレオナは問い掛けてきた彼女にそう答える。

 

 

「私は…、呪われた子供なんですよ?」

「知ったこっちゃ無いね。それにアタシから見たらアンタは唯の子供さ」

「唯の…子供?」

「そう、子供、ガキさ」

 

 

 ガストレアの死骸を蹴って一か所に集めながら受け答えするレオナに夏世はポカンとする。ガストレア因子を持ち、並の大人以上の力を発揮する自分達を彼女は唯の子供と言った。

 

 

「さぁて、子供に嘗めた事をさせる馬鹿を折檻しに行くかね?」

 

 

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「これで終わりだ!」

 

 

 将監が目の前のステージⅡを叩き斬る。周りにはもう生きているガストレアの姿は無く、死骸のみが散乱していた。武器であるバスタードソードを下ろし、一息吐く。

 

 

(ここいらはこれで終いか? なら後は夏世が戻って来るのを待って発着場まで戻れば良い。あいつの事だ、確実に殺っているだろうしな)

 

 

 ふと、後ろの方で誰かの足音が聞こえる。

 

 

「夏世、終わったn……ブゥッ!!?」

 

 

 後ろを振り向くや否や、レオナのストレートが顔面中央にクリーンヒットする。鼻血を飛ばしながら将監は茂みの中へ吹っ飛んで行った。

 

「まず一発な」

「あ、あのレオナさん?」

「アンタは木の陰に隠れてな。ただし蟲に襲われんじゃねーぞ?」

 

 

 心配そうに声を掛ける夏世に対し、手をプラプラさせながらレオナは将監が飛んで行った方向へ歩いて行った。

 

 

「かっ、は…。な、何が起きた?」

 

 

 レオナに殴り飛ばされた将監は折れた鼻を抑えながら、倒れた体の上半身を起こす。後ろから誰かに殴られた様だが一体誰が……?

 

 

「よぅ、生きてるかデカブツ?」

「!? テメェは…」

 

 

 目の前には夏世に殺せと命じたレオナの姿があった。

 

 

(夏世の奴、しくじりやがったか…)

「ガキ使って嘗めた真似しやがって、覚悟出来てんだろうね?」

 

 

 拳をポキポキ鳴らしながらレオナは近付いて来る。

 

 

「……夏世はどうした?」

「あのガキかい? ぶっ飛ばした後は知らないね」

(奴の言葉が本当なら気絶してるか…。くそっ、援護は期待出来無ぇか)

 

 

 本当はレオナが将監に見付からない様に隠れろと言われて木陰に隠れているのだが、将監が分かる筈も無い。

 

 

「おら、掛かって来いよ」

「!?」

 

 

 レオナは近くに落ちていたバスタードソードを将監の元へ投げる。

 

 

「アタシを殺して報酬を独り占めしたいんだろ? さっさと来い」

「くっ、嘗めんじゃねぇ!!」

 

 

 将監がバスタードソードを持っているのに対し、レオナは丸腰だった。しかし将監は気にする事無く彼女へ斬り掛かる。

 真上から振り下ろされる凶器をレオナは臆する事無く避ける。

 

 

「一発目から外してんじゃないよ」

「っちぃ!!」

 

 

 振り下ろしたバスタードソードの刃を横に向け、避けたレオナへ振り上げるがこれも避けられた。

 

 

「うおらぁああああああああ!!!」

 

 

 自身の体長並の大きさを誇るバスタードソードを軽々と降り回し、レオナを真っ二つにするべく襲い掛かる将監に対し、レオナは至って冷静にその斬撃を避けていく。

 斬り掛かる、避けるを数十回繰り返したところで、将監の突きを避けたレオナはその退路を大木に防がれる。

 

 

「貰ったぁ!!!」

 

 

 確実に殺れると踏んだ将監は振り被ったバスタードソードを一気にレオナへ斬り込んだ。 力の限り振った斬撃は衝撃波と共にレオナの後ろにあった大木を易々と斬り倒し、衝撃波と倒れた大木によって土埃が濛々と舞い上がる。

 

 

「はぁ、はぁ、殺ったか……?」

 

 

 レオナを殺す事に全力を尽くしていた為に疲れた様子の将監は武器を下ろし、肩で息をしている。その内、土埃が薄れていった。

 

 

「んな訳無ぇだろ、馬鹿が」

「んな!?」

 

 

 将監の足元にしゃがんでいるレオナ、その右手は後ろに振り被っており…

 

 

「ぶっ飛びな」

「ごぶぉ!?」

 

 

 そのまま渾身のアッパーを将監に打ち込み、その巨体を高く打ち上げる。将監は受け身を取る事無く地面に叩き付けられた。

 

 

「ごふぁあっ!!」

 

 

 腹部を殴られた事によって胃の中のモノを吐き出す。その吐瀉物を気にする様子無く、レオナは唯、将監を睨みつけていた。

 

 

「終わりかい?」

「げほっ、がはっ、く、くそっ」

 

 

 腹部を抑えながら、なんとか将監は立ち上がる。

 

 

「こ、この……」

「まだ終わらないよ?」

「ぶがぁっ!!」

 

 

 鋭い右フックで殴り飛ばされた将監は倒れ、レオナはその上に馬乗りになる。

 

 

「覚悟は出来ているだろうな?」

「て、テメェ……」

「アンタが泣いて謝っても、殴るのを止め無いからな?」

「な!? がべっ!?」

 

 

 マウントを獲ったレオナはそのまま将監を殴りまくる。

 

 

「ごぶぅっ ぎゃぼっ や、止め…べがぁ!!」

「オラァ!」

 

 レオナは唯、殴る

 

 

「オラ」

 

 

 殴る

 

 

「オラ!」

 

 

 殴る

 

 

「オラ!!」

 

 

 殴る

 

 

「オラ!!!」

 

 

 ひたすらに殴り続けた。

 

 

「レオナさん、もう宜しいです」

 

 

 そこへ夏世がレオナの肩に手を当てて止める。

 

 

「………良いのかい?」

「はい。こんな人でも、私を拾ってくれた方ですから」

「………アンタも甘いね。将来苦労するよ」

「その時はその時です」

「はっ、違いない」

 

 

 顔面をボコボコにされた将監は見るも無残な姿だった。鼻の骨は折れ、鼻血によって顔中血まみれになっており、歯も数本折れて無くなっていた。

 

 

「それじゃ、このデカブツをさっさと発着場へ持って行くかね」

 

 

 そう言ってレオナは将監の片足を掴んで引っ張っていく。自身の武器も回収し、いざ帰ろうとした時…

 

 

「キョエアアアアア!!」

「!? また新手ですか?」

「やれやれ、しつこいね」

 

 

 木々の合間からガストレアが現れるが先程よりも数が多い。しかもステージⅡ、Ⅲの個体も多く紛れ込んでいた。

 

 

「ステージⅢクラスまで!? それに数が多過ぎます!」

「他のポイントから流れてきたか…。報酬が増えるのは嬉しいけど全く面倒だね」

「何を悠長な事を言っているんですか? 早く逃げないと!」

「逃げる? 冗談はよしとくれ」

 

 

 そう言ってレオナは持参のボックスを開く。すると使っていた2本のチェーンソーの他に後6本のチェーンソーが入っていた。

 

 

「下がっていな」

「一体、何をするのですか? (8本のチェーンソー?)」

「良いかい? 今から起きる事は誰にも言うんじゃ無いよ?」

「?」

 

 

 そう言ってレオナはポケットから丁度、葉巻サイズのスティックを取り出して口に咥えた。

 そして…

 

 

「こ、これは!?」

「いくよ、糞蟲共」

 

 

 その後ガストレアの群れに向かって行くレオナの姿に夏世は驚愕する。

 

 

「レオナさん、貴女は一体…?」

 

 

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「将監さん、起きてください」

「ん、あぁ?」

 

 

 将監は夏世の声で目が覚める。顔中が熱く、そして痛い。

 

 

「此処は何処だ夏世、いや、俺は何を……」

「此処は葛城グループ32区支部のヘリポートです。将監さんはレオナさんにボッコボコに殴られて気絶していたんです」

「気絶………!?」

 

 

 ここで将監の記憶が甦る。夏世にレオナを殺す様に命じたが失敗したらしく返ってきたのはレオナのストレートパンチだった。後が無い将監は自らレオナを殺しに掛かるが彼女は歯牙にも掛けず拳だけで自分を叩きのめした。

 

「おい、夏世! テメエよくもしっp「おや、起きたかいデカブツ?」……テメェは!?」

 

 

 夏世に食って掛かろうとしたところにレオナが現れる。

 

 

「お帰りなさい、レオナさん。報酬はどうでしたか?」

「アタシ達のポイントで150匹相当狩ったんだ、何もしなくても1ヶ月は遊んで暮らせる位は貰えたさ。ほらっ」

「!?」

 

 

 夏世の問いに答えながらレオナは将監にナニカを投げる。受け取った将監が確認すると札束が詰まった封筒であった。

 

 

「テメエ……?」

「アンタが狩った分の報酬さ。アタシは別に横取りなんてする必要は無いしね」

「良いのですか? 私達はレオナさんに…」

「アンタ達程度の雑魚に一々構っていたらキリがないさ」

「な…!? 雑魚!!?」

「キッパリ言うんですね…。まぁレオナさんにとってはそうでしょうけど」

「そもそもアタシが稼ぎたい分はアンタ達がちょっかい掛けて来る迄にとっくに狩ってたさ」

 

 

 ジト目で見詰めてくる夏世にレオナは肩を竦める。

 

 

「それじゃあアタシは行くよ。今後は嘗めた真似するんじゃないよ? デカブツ」

「うるせぇ、今度会ったらブッ殺してやる」

「は、大した奴だよアンタは……そうだ。アンタ達、ちょっと付き合いな」

「は?」

 

 

 突然の誘いに将監は間の抜けた声を洩らしてしまう。先程殺そうとして返り討ちにした相手だというのに……

 

 

「仕事終わりには酒を飲んでその日の憂さを晴らす。それがアタシの流儀さ」

 

 

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「…どうしてこうなった」

「レオナさん、此処はどういうお店ですか?」

「んあ? そえさね、酒や料理を楽しみながら店員のお兄ちゃんやお姉ちゃんと駄弁る店さ」

「いや、強ち間違っては無いけどよ…」

 

 

 レオナの説明に将監は突っ込む。

 

 

≪姐さん、いらっしゃいませ!!≫

≪お姉ちゃん、いらっしゃいませ!!≫

「おうアンタ達、今日も儲けさせに来たよ」

 

 

 レオナに連れられて将監達が来たのは高級クラブ。派手な装飾が店の外にも内にも施されており、レオナ達が店内に入ると美男美女のホスト、ホステス達が元気な声で出迎えた。レオナの受け答え方から彼女がこの店の常連である事が伺える。

 

 

「美味い酒が新しく入ったかい?」

「バッチリっすよ、姉御。新潟の米で作られたもう2度とは飲めないであろう日本酒が!」

「ほぅ、それは楽しみだ♪」

 

 

 ホストの1人に話を聞いたレオナは笑みを浮かべる。

 

 

「将監さん、子供の私が来て良かったのでしょうか?」

「んなもん知るか。俺達はアイツに連れて来られたんだぞ」

 

 

 こっそり尋ねる夏世に将監はぶっきらぼうに答える。レオナに引き摺られながら連れて来られたのだから当然と言えばそうなのだが…

 

 

「ところでお姉さん、そちらの2人は?」

 

 

 そこへ将監達に気付いたホステスの1人がレオナに尋ねる。

 

 

「あぁ、今日の仕事でペアを組んだ奴さ。アタシの仕事を横取りしようとした猛者さ」

 

 

 レオナがそう答えるとざわざわと騒がしくなった。

 

 

「姐さんの仕事を!?」

「チャレンジャー…いや、命知らず?」

「良く五体満足でいるわね…」

「わぁ、すっごいおバカさん♪」

「将監さん、凄い言われようですよ?」

「そんなにヤバいのかアイツ…」

 

 

 ホスト、ホステス達の反応に将監達はレオナが改めて只者でない事を理解する。

 

 

「さて、今夜も楽しませて貰うよ。何時もの持ってきな」

《はい!》

 

 

 その後はホスト、ホステス達に囲まれて飲めや歌えやの大騒ぎとなった。

 シャンパン、ウィスキー、日本酒…種類は問わずが高級な酒が運ばれては空になっていく。

 

 

「よ〜し、ここいらでドンペリ戴こうか?」

「まいどー! ドンペリ一丁!!」

《ドンペリ一丁!!》

 

 

 レオナの注文にホスト達が声を揃えて復唱する。

 

 

「ま、まだ飲むのかよ…」

 

 幾ら飲んでも顔が赤くなる様子が無いレオナの酒豪っぷりに脇でバーボンをチビチビ飲んでいた将監は何度目になるか分からない驚きの声をこぼす。自身も酒はとことん飲める口ではあるが、レオナはそれを越えるペースでかなりの量を飲んでいる。

 

 

「御代わりは何を飲みますか〜?」

 

 

 バーボンの入ったグラスが空になると将監の隣に座っているホステスが尋ねてくる。将監の両脇にはホステスが陣取っており、彼は逃げられないでいた。初めこそ「鬱陶しいぞ!」と脅し混じりで追い払おうとしたが「怖〜い♪」とキャーキャー騒ぐだけで全く意味が無かった為、遂に諦めて良いようにされていた。

 

 

「日本酒をくれ」

「は〜い、日本酒入りま〜す♪」

「むふぅ〜、良い筋肉〜♪」

 

 

 将監の両脇の片方が御代わりを用意する一方で、もう片方は将監にべったりとくっついて腹筋を撫でていた。レオナ曰く筋肉フェチらしいのだが、先程からくっつかれて体を舐め回す様に撫で回されており、いい加減解放して貰いたかった。

 

 

「夏世ちゃん、可愛い〜♪」

「頬っぺたプニプニ〜♪」

「お持ち帰りしたい〜」

 

 

 尚、夏世も近くの席でホスト、ホステス達に可愛がられていた。ホステスの1人が夏世を膝の上に乗せ、後ろから抱き締めており、その両脇から別のホステス達に頬を突つかれたり、頭を撫でられたりしている。

 

 

「夏世ちゃん、あ〜ん」

「はむ、むぐむぐ」

「夏世姫、美味しい?」

「はい、美味しいです」

「夏世っち、次は何を飲む〜?」

「トロピカルジュースをお願いします」

 

 

 更にその周りでホスト達があれよこれよとお世話しており、その様子はまるでお姫様だ。夏世本人も満更で無さそうであり、楽しんでいる様だ。

 

 

「おら、将監! 飲んでるかぁ?」

 

 

 ふと、将監の前にレオナがやって来る。その手にウイスキーの瓶を掴んで……

 

 

「あ、あぁ。飲んでるが…」

「何だぁ? それっぽっちをチビチビ飲んでいても酔わないぞぉ? ほらもっと飲め!」

「うぉ!? ま、待て…ガボッ!?」

 

 

 そのまま瓶のウイスキーを飲まされる。薄めていない生のままのウイスキーを一度に大量に飲まされた将監はアルコールが一気に廻ったらしく、真っ赤にして倒れた。

 

 

「倒れたちゃった…」

「情けないねぇ、これくらいで倒れるかい?(※お酒の一気飲みは大変危険です。読者の方々は決して真似しないで下さい)」

 

 

 将監が倒れた後も宴会は続いた。

 

 

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翌朝

 

???

 

 

「んあ…、朝か?」

 

 

 窓から射し込む日差しで目が覚めた将監はベッドから起き上がる。

 そして、

 

 

「何処だ、此処?」

 

 

 周りを見渡すと見慣れぬ景色が広がっていた。自分が寝ている大型のベッドの他にはテレビに酒瓶が並んだ棚、大きなソファーが置いてあり、夏世はソファーで毛布にくるまって寝ている。

 

 

「全然分からねぇ、一部記憶もふっとんでやがるし…」

 

 

 向こうからシャワーの流れる音がする。此処が何処で誰の部屋なのかがさっぱり分からない。

 周囲を見渡している内に大事な事に気付いた。

 

 

「………俺の服はどこ行った?」

 

 

 体に被されたタオルケット以外、将監は身に纏うものを着ていなかった。つまり素っ裸である。

 

 

(いやいやいやいやいや、素っ裸ってありえねぇだろ!? マジで記憶が無い間に何があった?)

 

 

「おや、起きたかい?」

 

 

 昨日の酒のせいかまだ妙に痛む頭をフル回転させ、将監が記憶を探る中、いつの間にかシャワーの流れる音は止んでおり、音がしていた方向からレオナが現れた。

 

 半裸で…

 

「うおあぁぁぁぁぁ!!?」

「何だい、五月蠅いね。朝っぱらからなんだい?」

「上、上」

「あん? 上?」

「何か着ろよぉ!!!」

 

 

 髪に滴が付いている為、レオナがシャワーを浴びていた事は分かる。しかし彼女は下こそジーンズを履いているが、上は何も着ておらず、辛うじて首に掛けているタオルが彼女の豊満な胸を隠していた。

 現在、将監の手持ちはタオルケットのみ。直ぐ様、レオナへ投げつけたいところであったが、これが無いと全裸である自身を隠す事が出来ない。なので彼女がいる方向と反対側へ体を振り向けた。

 

 

「あ、ああ。シャワー浴びたばっかだから暑いんだよ。勘弁しておくれ」

「そ、そういう問題じゃ無ぇだろが!!?」

「何だい、半裸の一つや二つ。ん? こんなんで騒ぐって事は……アンタ童貞かい?」

「ど、童貞ちゃうわ!? つぅか、そんな事はどうでも良いんだよ!!」

「何だい、そんなに真っ赤な顔じゃあ説得力無いねぇ」

「余計なお世話だ! んな事言う暇があったらさっさと着やがれ!!」

「はいはい、分かったよ」

 

 漸く服を取りに行った事を足音で確認した将監は深く溜め息を吐いた。

 

 

(くそ、実力で負けるどころか散々振り回されてるじゃねぇか!)

 

 

 第一印象で馬が合わないと感じた理由が漸く分かったのである。自分が昨日からレオナの良い様に振り回されているのだ。元々自分勝手な性格である将監は、自分の思い通りにならない事を嫌う。なのでレオナの様な性格はとてもではないが合う筈が無いのだ。

 

 

「う…ん…」

 

 

 先程のやり取りが騒がしかった為か、ソファーで寝ていた夏世が起きる。

 

 

「くぁあ…。将監さん、お早う御座います…」

「ああ。お早うさん…」

 

 

 夏世の挨拶に返事をしながら、二度とレオナとは関わるまいと誓う将監であった。

 

 

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数日後

 

 

「将監さん、褒賞金500万クラスの依頼が来てますが受諾しますか?」

「お、久々の入り用じゃねぇか!」

 

 

 三ヶ島ロイヤルガーターに戻った将監は夏世から依頼書を受け取る。

 その依頼書を読んでみると……

 

 

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受信日:20XX年6月15日

送信者:レオナ・アーヴィング

件 名:仕事に付き合え

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よう、久しぶりだな。

大入りの仕事が入ったんだが、私だけでは少し面倒な

内容でね、一緒にどうだい?

内容はクラスAのガストレアコロニーの撃破及びガス

トレアの討伐。

デカい蟲は少ないんだがその分、雑魚蟲がたんまりと

いるコロニーでね、雑魚の掃討を任せたい。

良い返事を待っているよ。

 

追伸

この仕事はアタシとアンタ達の3人でやるから宜しく。

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「……おい、何だコレは?」

「何と言われましても、依頼書です。レオナさんからの」

「何であの女の仕事の手伝い要請が送られて来てんだよ!? それもどう見ても俺達宛てじゃねぇか!!」

「それに気付くとはさすが将監さんです」

「誉められてもちっとも嬉しく無ぇよ! つーか、それ絶対馬鹿にしてるだろ!?」

「因みに他の依頼は別のプロモーターの方々が受諾されておりありません」

「はぁ!?」

「将監さんは昨日、移動用のバイクを買ったので貯金が尽きていますからこの依頼を受けないと厳しいかと」

「だぁああああああ! 受ければ良いんだろうが。夏世、さっさと承諾の返信を送りやがれ!」

「了解しました(本当は他の依頼もあるのですがレオナさんに会いたいですし……、やりました)」

「………はぁ、何であんな女とまた顔を合わせねぇといけねぇんだ……」

 

 

 将監は溜息を零し、自分の不幸を呪った。

 

 

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将監達とレオナが共に仕事をする事十数回……

 

 

「おっしゃ、大物が来たよ。後に続きな将監、夏世!」

「姐さん、突っ走らねぇでくれよ!!」

「サポートは任せてくださいレオナさん!」

 

 

 巷では中々のチームと噂される将監達であった。




オリキャラ2人目、レオナ・アーヴィング登場。
彼女との出会いが将監&夏世の救済フラグだったり……
今回の話の中でレオナの能力が分かる人いるかなぁ……

感想コメント、御意見・質問お待ちしております。

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