【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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辰姫 零 合コンを行う

 10月27日。昼休み。零は本を片手に屋上で座っていた。現在、零の傍には千枝。雪子。りせ。直斗の4人が存在し、千枝は非常に不機嫌な様子を浮かべ続けていた。雪子とりせは零を挟む様にして座りながら何かを待ち続け、直斗は特に何をするでもなく時間を潰している。……と、やがて屋上と廊下を繋げる扉が開かれる。そこから現れたのは悠。陽介。完二の男3人。その姿を捉えるや否や、千枝は陽介に詰め寄り始めた。

 

「どう言う事か説明して欲しいんだけど!?」

 

「な、何がだよ?」

 

 突然の言葉に驚きながら、聞き返す陽介。それに千枝が答えた言葉の中には、「ミスコン」と言う言葉が存在していた。八十神高校の文化祭では、『ミス八高・コンテスト』と呼ばれる行事が存在する。それは名前の通り八十神高校の中で一番の女性を決める内容であり、何と千枝の話ではそれに自分達が【参加】する事になっているとの事であった。この場に居る女子たち全員、その様な行事に積極的に参加する者は居ない。となれば、男子たちを疑うのは当然の事。陽介は「辞めればいいだろ!」と言うも、自分達の担任である柏木が主催している事から推薦でも断る事が出来ないと千枝は語った。

 

「え、マジ? そう言う細かいのは見逃したかも……」

 

「やっぱりお前か!」

 

「やっべ!」

 

 千枝の言葉に失敗したとでも言う様に呟いた陽介。それは『自分が推薦しました』と自白したのとほぼ同義であり、千枝はその言葉に更に怒りを露わにして陽介へと詰め寄り始める。……一方。今この場で文句を言い続けている千枝は当然とし、一切の反応を示していない零達はその会話を聞きながら黙っていた。雪子は零の姿を見ながら考え込み、同じ様にりせも考え込んでいる。直斗もまた、零を見ずとも思考を続けていた。

 

「姫ちゃんがミスコン」

 

「あんまり姫先輩は目立つタイプじゃないけど、でもミスコン何かに出たら人気が上がっちゃったりするかも……」

 

 2人が考えているのは零がステージの上、様々な人の前で立って居る姿。そもそも自分達以外とは殆どの接点を持っていない零が、生徒達の前に立つと言う姿は余りにも現実味の無い物。しかしそれが成功に終わった時、もしも零に寄りつき始める人が現れてしまっては困る……2人は同時にその答えに辿り着いてしまう。零が学校の中に溶け込めると言う意味では嬉しい事ではあるが、余計な結果が出てしまっては嫌。それが2人の悩む理由であった。

 

 考えている間にも千枝と陽介の口論は続いていた。しかし口論と言うよりも既に説得に近い物となっており、陽介は完二も巻き込んで出る様に訴え始めていた。出る事に猛反対している千枝に『出来れば出たく無い』と言った表情を浮かべている直斗。そして無関心な零と自分達よりも零が出る事に悩んでいる雪子とりせ。少し考えた後、悠はゆっくりと零の目の前に立つ。

 

「辰姫はどうするつもりだ?」

 

『興味無い』

 

「いや、興味ないって言っても色んな人の前に出る事になるんだよ? 嫌じゃない?」

 

 悠の質問を受け、本を閉じた後に普段通りの筆談で答え始める零。それを見て、千枝が聞いた。もしも彼女が参加反対側に回ってくれれば、千枝としては心強い存在なのである。それは零を勿論とし、零の意思を尊重する2人もついて来る筈故に。しかし零は少し考えた後、紙を見せる。そこには一言、『無駄』と書かれていた。

 

「あ、そっか。色々話してるけど、結局私達。辞退出来ないんだよね?」

 

「う~ん。辞めるのは無理って事だよね……だったらこの際、本気で姫先輩の可愛さを皆に伝えちゃおっかな~!」

 

「あれ、何かやる気出させちゃったんだけど!?」

 

 既に参加することが確定してしまっている現在、例え千枝が文句を言った所でこの場に居る5人がミスコンの参加を取り止める方法は存在していないのだ。零は本を読みながらも千枝と陽介の会話を聞いていた様で、結果だけを告げて本を読み始めてしまう。所謂『無駄な抵抗』をする気は無いようである。そして、その字を見て雪子も納得。りせに至っては「やるなら本気で!」と言ってやる気すら見せ始めていた。自分と同じ反対側に回ってくれると思っていた千枝は、目の前の結果に唯ショックを受けるのみ。悠は零の答えを聞き、陽介を見る。と、「ナイスだ相棒!」と言って親指を立て乍らその視線に返す姿があった。

 

「確実に僕は場違いな気がしたんですが……辰姫さんが覚悟を決めた様に、僕も覚悟するべきなのかも知れませんね」

 

「直斗くんまで!? あぁ、もう! あんたら覚えてなよ、何時か必ず仕返ししてやる!」

 

「……一気に決まったっスね」

 

「だな」

 

 零の答えを聞いてやる気を見せ始めた雪子とりせの姿に直斗もまた覚悟を決めながら答える。こうなってしまえば千枝以外は参加することを決めてしまったと言う事であり、どう考えてももう無理だと悟って千枝もまた陽介を睨みつけ乍ら言う。その表情は正しく鬼の様であり、その姿を見て怯え乍ら「怖いって!」と言う陽介を横目に呟いた完二。悠はそれに頷くと、再び本を読みだして居る零の姿を見る。数回意思を疎通しただけでその場に居たほぼ全員の考えを決定させてしまった零。その凄さに悠は内心、感心するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月28日。放課後。零は再び屋上に連れて来られていた。昨日のミスコンの件を受け、参加することが決定した5人。その後、千枝はすぐに報復行ったのだ。それは自分達を推薦した男子たちを同じ文化祭の最中に行われる、『ミス八高・女装コンテスト』へ推薦すると言う物。どうやらりせが最初に見つけたらしく、純粋に楽しむために千枝にそれを提案した様子。今度は男子に寄って呼び出され、口論を始めた千枝と陽介。しかし女子の方と同じく推薦されればもう断る事は不可能。流石に男子の行事な為、主催である柏木に言えば何とかなると思った完二。だが、雪子が静かに告げる。「出席日数は大丈夫?」と。それは一種の脅迫であった。

 

「俺も出るのか……?」

 

『連帯責任』

 

「……分かった。頑張らせて貰おう」

 

「マジかよ!?」

 

 完全に巻き込まれる形で自分も推薦されてしまった悠は、目の前の会話を見ながら静かに昨日と同じく本を読んでいた零の傍で言う。そしてそれに答えたのは、口論中の千枝では無く読書中であった零。完二は既に断る事が出来ず、悠もその文字を見て腹を括る。結果、残ったのは陽介だけであった。その光景は、昨日の千枝と全く同じ状況。しかしそれでも絶対に断ろうと引かない陽介に、千枝は「来年は完二くんと勉強かもね?」と言えばすぐにそれを想像して顔を青くし始める。

 

「何でこんなことに……俺ら全員イベントに参加って、どんな集団だよ!」

 

「元はと言えばあんたが「どうせやるなら楽しもうぜ! は、はは!」」

 

 ミスコンと女装コンテスト。この場に居る全員がそのどちらかに出る事となった事実に嘆く陽介だが、千枝の言葉に遮りながら空元気を見せ始める。正しく陽介に降りかかった物は自業自得と言える物であり、こうして男子3人も行事に参加することが決定するのであった。……明日は文化祭1日目である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月29日。午後。2年生の使っている教室は文化祭の準備を行った結果、装飾などが施されていた。……が、現在その部屋の中に居るのは数人の生徒のみ。零は片手に本を、片手に『合コン喫茶』と書かれたボードを持って廊下に立っていた。反対側の扉側には雪子が立っており、恥ずかしそうにしながらも呼び込みを行おうとしている。しかし、人通りも少ない廊下では何も変わらなかった。

 

 教室で陽介が何やらクラスの男子と会話をし始める中、零は目の前に人の気配を感じて顔を上げる。そこに立っていたのは完二であり、「様子見に来たっスけど……人居ないっスね?」と呟く。零はそれに頷き、一度教室へ視線を向ける。すると何かを話していた陽介たちが完二の存在に気付いた様で、突然2人の元に近づいて来た。そして告げられたのは、客を呼ぶための『サクラ』を行うとの事。

 

 現在クラスの男子が1人と悠、陽介、千枝、雪子、零、完二の6人がこの場には居た。数は男子の方が多い為に1人が抜け、3・3でしている様に見せるとの事。そして誰よりも早く、男子生徒は「俺が受付をやってるから任せた!」と言って逃げて行ってしまう。結果、零は悠達と合コンを行わなければならなくなってしまった。クラスの為に、零も強制参加なのである。

 

「ほら、姫ちゃん。今ぐらいは、ね?」

 

 教室の中心に存在する6つの机を前にし、3人ずつ横並びで座り込んだ悠達。零はボードが無くなった事で片手が開き、本を読むことに集中し始めていたが、雪子がその本を丁寧に栞を挟んだ上で取り上げてしまう。当然取り上げた雪子を見た零だが、その言葉に周りを見れば5人全員が零を見ていた事で仕方無く零は本を読むことを止める。……そして沈黙が訪れた。

 

「いや、何なんスかこれ?」

 

「合コンの真似。つっても俺ら、合コン何てした事ねぇよな?」

 

「だよね。とりあえず何か質問でもすれば良いんじゃね?」

 

「じゃあ、ご、ご趣味は?」

 

「乗って来るな、お前!」

 

 余りにも喋らない静寂にサクラの意味を成していない中、完二が質問することで会話が何だかんだで始まる。この場に居る全員が合コンの経験など無い為、何となく想像で質問することを提案した千枝。それを聞き、完二が聞き始めた事で陽介は頑張る完二の姿に言いながらも目の前に並ぶ3人を見る。が、帰って来た答えは

 

「しゅ、趣味は格闘技全般。あ、見る方ね? 意外に恥ずかしいな、これ」

 

「シャドウを倒したり、かな?」

 

『本を読む事』

 

 と言う物。雪子の答えに思わず「それは趣味じゃねぇだろ!」とツッコミを入れた陽介は、その後に紙で答えた零の姿に声を発さない事を思いだした。話を盛り上げようとして行った質問だが、真面に出来ているのは千枝だけである。

 

「好きな女の子のタイプは?」

 

「おぉ、直球……」

 

 何とかして盛り上げる為、質問した雪子。それに陽介が少しばかり怯みながらも、合コンにはよくある質問だと思いながらその答えを悠に振り始める。少し考える様子を見せた悠。やがて決まった様で、その口を開く。

 

「優しい子だな」

 

「おぉ、だよな! 俺も俺も。守って上げたくなるって言うの?」

 

「乗って流したっスね……お、俺は「お前は良いだろ」って、は? 何でっスか?」

 

「だって……なぁ?」

 

「そうだね。何となく分かるって言うか、間接的に聞いちゃってるし?」

 

「私は知りたいかな、完二君が【今】好きな子」

 

 悠の言葉に乗る様にして答えた陽介。便乗したことで答えを簡単に終わらせた陽介に完二が言いながらも答えようとするが、それは陽介によって遮られてしまう。何故か自分は省かれた事に不思議がるも、陽介が視線を向ければ何とも言えない表情で答える千枝。しかし雪子は何処か怖さを感じさせる笑みを浮かべながら完二に視線を向け、一部分を強調して言う。その光景に完二は内心で怯えずにはいられなかった。

 

「辰姫は好きな相手、居ないのか?」

 

「!? 姫ちゃんの気になる相手……!」

 

「……相棒、やっぱお前すげぇよ」

 

 自分達が答えたと言う事で、質問した悠。雪子が好きな相手に付いては完二同様明白であり、この中で一番話に参加出来ていない零を参加させようと思い質問したのだろう。悠の質問を聞き、完二への威圧を止めて零へ視線を向け始めた雪子。千枝も何となく興味がある様で、完二も同じ様に雪子同様気になる様子。陽介は唯単純に零へ質問をすると言う行為を行った悠に感心していた。

 

 悠の質問を受け、紙に何かを書き始めた零。何時もなら早いその書いている仕草が少しばかり遅く感じる中、雪子は零の書く長さに動じずにはいられなかった。【居ない】や【興味ない】と言う言葉ならすぐに終わる筈なのに、何と零の書く文字は確実にそれよりも長い物。もしも名前等が書かれていたらと考え、徐々に震え始めてすらいた。……が、やがて零はそれを書き終わり、全員に見せる。書かれていたのは、珍しく長い文であった。

 

『誰が好きで、誰が嫌いか。よく分からない。でも皆と居るのは楽しい。だから、皆の事は好き』

 

≪……≫

 

 零の答えを見て、その場に居た全員が言葉を失ってしまう。雪子も気付けば震えていた身体が元に戻っており、代わりに生まれるのは暖かい感情。静かにその身体に手を回し、「私も大好きだよ」と言い始めた雪子の姿を見て他の全員もそれぞれに嬉しい気分になる。……その後りせが完二同様に様子を見に来るまで、教室の中は優しい雰囲気に包まれ続けた。が、結局のところ合コン喫茶は失敗である。


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