【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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辰姫 零 秋のテストを終える

 10月20日。放課後。テストを終え、大きな行事と使命から解放された生徒達は一斉に動き始める。千枝はすぐに前の席に座って居た雪子に話しかけて答え合わせを開始し、悠と陽介もまたお互いに解放された事に安心した様子で話を始める。と、席に座って居た零は鞄を手に立ち上がり、真っ直ぐに教室の出入り口に移動し始めた。雪子は千枝と話すために教室の後ろ側を向いて居たため、零が帰ろうとするその姿をすぐに視界に捉える。

 

「あ、姫ちゃん。また明日ね?」

 

「……」

 

 千枝との会話を一時中断し、雪子は零に告げる。そしてその一言で千枝・悠・陽介の3人も零が帰る事に気付くとそれぞれ『また明日』と零に声を掛ける。零はその言葉に頷いて返すとそのまま教室を出て行き、残った4人はそれぞれ集まって再び会話を始める。

 

 教室から出た零は真っ直ぐに下駄箱へ。すると同じく帰ろうとして居たのか完二の姿があり、完二は零の存在に気付くと「帰りっすか?」と質問。その問いに頷いて返した後、零は靴を履き替えて校舎の中から外へと出る。空は今にも降り出しそうな程に薄暗く、見上げた後に再び歩き始めた。と、そんな彼女の横に少し小走りで完二は並ぶようにして近づく。

 

「姫先輩のお蔭で何とかテスト、問題は無さそうっす」

 

 完二は並んだものの会話の内容が思いつかずにしばらく沈黙を続けた。が、すぐに今日終わったテストの事を思い出すとそれを話題に出す。普段の零なら本を取り出しているが、完二が横に並び話しかけてきたことでそれを止めて代わりに取り出したのは何時もの紙とペン。そこに『良かった』と一言書いて見せれば、完二は改めて零にお礼を言った。

 

 辰姫 零とは意思疎通をするだけでも大変な存在だ。故に会話は先程の物で終わってしまったが、それでも普通の人に比べれば完二は話せている人間と言える。今の様な小さな会話も、なんだかんだで零にとっては大きな行動の1つ。それは帰り際に悠達に掛けられた言葉も例外では無く、小さいかも知れないそれは総合的に零の周りを変え始めて居た。

 

 しばらく歩き続けて居た零と完二はやがて辰姫神社に入る目前に存在する鳥居の目の前に到着する。すぐ傍には完二の家である染物屋も存在し、完二は目の前に到着すると同時に「また明日っす」と言って去って行く。そして再び1人となり、鳥居をくぐって神社の目の前にたどり着いた零の目の前には再び見知った顔が存在して居た。

 

「あ! 姫先輩遅い!」

 

 賽銭箱の存在する目の前の階段に座り、両膝に肘をついて待って居たりせ。零の存在に気付くや否や立ち上がり、猛スピードで零に近づき始めた。だが何時もなら目の前で止まるりせは何故か止まらずに零の身体へとそのまま突撃。零は咄嗟に横に避け、それを回避する。どうやらハグがしたかったらしく、避けられた事に不満げに「避けなくても良いじゃん!」とりせは文句を言った。が、零は何も答えずに神社の裏へ。りせはそれについて行き、零が家に入ると自分も入って良いか質問する。特に問題は無かった様で、零は許可を出した。

 

「お邪魔しま~す!」

 

 零と再会して以降、りせが零の家の中に入るのは彼是3回目となる。1回目は再会した時。2回目は誘拐された事を確認した時。この様に落ち着いて零の家の中に入るのは久々な為、りせは少しだけ嬉しそうに中へと足を進める。そして零は着替えを始めるために一度りせの傍を離れ、りせは止まった時同様に零の家の中にある本棚を見る。そして迷うことなく一番下の本棚に視線を向けた。

 

「あれ? 無くなってる」

 

 しかしそこにあった筈の本は存在せず、りせは周りを探して見る。と、本棚の横に置いてあった食器棚の上に写真立てが1つ置かれている事に気付く。見て見ればそれは以前りせが見つけた写真であり、りせはそこでようやくその写真に写る女性が零の母親なのだと理解することが出来た。無表情で映る少女が零とするならば、既に笑顔を失った後に撮った物なのだろう。そしてそれが今までしまってあったにも関わらず飾ってあると言う事は、少なくとも零は蓋をして居た感情を解放し始めているのだと改めてりせは実感する。

 

 襖のずれる音が聞こえ、りせが振り向いた先に居たのは巫女服の零の姿。りせは写真立てから離れて零に近づくと「今日も掃除?」と質問した。そしてその質問に零は箒を片手に持つと頷いて歩き出し、りせはその言葉に笑顔を浮かべると「私も手伝うよ!」と行ってその後を追うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月22日。午前。零や悠達の教室では現在、クラス委員の生徒が男女1人ずつ黒板の前に立って話をして居た。その内容は数日後に行われる【文化祭】の出し物を決める物であり、黒板には既に候補として『休憩所』・『ビデオ上映室』・『自習室』の3つが掛かれている。基本的に何もしない物ばかりであり、その事実にクラスの数人が呆れる中でクラス委員の女子生徒が次の候補を見つける。それは『合コン喫茶』であった。余りに聞きなれない内容に少しざわつく教室内、それは陽介たちも例外では無い。千枝はその内容に呆れ、雪子は内容が分からずに首を傾げる。そして陽介は……どうやら遊び半分で入れた張本人であった。

 

 黒板に追加された合コン喫茶で全てが出尽くした様で、今度は投票となった教室内。それぞれが思い思いに書いた内容の紙をクラス委員に回して行き、集計が始まる。そしてその結果、このクラスの出し物は何と合コン喫茶に決まってしまう。これには流石に遊び半分で入れた陽介も焦り、千枝はクラスの大半が入れた事に呆れかえって居た。……合コン喫茶の内容が深く理解出来て居なかった雪子はどうやら入れた人間の1人らしく、非難の目で見て来る千枝の姿にクラスの決定である事を盾に陽介は開き直る。

 

 合コン等、本来しっかりとしか学校なら余り許される内容では無い。だがこのクラスの担任である柏木はどうやら文化祭と並行して行われるコンテストに出るらしく、出し物に関して完全に生徒の自由。つまり丸投げにしてしまって居た。故に決まった内容を取りやめる者も居らず、決まってしまった合コン喫茶と言う出し物にクラス中が不安と心配の声を上げ乍ら内容について考え始める事となる。

 

 そして時間は経ち、ジュネスのフードコートに再び何時ものメンバーは集合して居た。普段は事件の話をして居る悠達だが、この日は文化祭の内容について。零も来ており、椅子に座って本を読み続けた居た。

 

 陽介は決まってしまった事に後悔した様な雰囲気を出すが、既に変わらない現実に千枝は陽介を非難する。投票で決めた事とは言え、クラスの殆どはやる気等皆無。「総論賛成、各自反対ですね」と直斗は難しい言葉を使い、最初意味が分からずに頭の上に『?』を浮かべた千枝。そんな千枝を見て零は『皆人任せ』と言う文字を書いて見せる。先程の言葉よりも一気に分かりやすくなったその内容に千枝は零にお礼を言うと、溜息をついた。そして直斗は続けざまに「警察にも言っていることです」と言えば、一瞬で警察に対する不信感が全員の中で大きくなる。と、気を取り直す様にりせは合コン喫茶に対して賛成の色を示した。が、その理由は当然

 

「楽しそうだし、何より姫先輩と合コンしたかったな~。私も出たかった!」

 

「いや、合コンって男女で対等だからな?」

 

 最近慣れ始めて来たりせの言葉に陽介は軽くツッコミを入れる。零たちのクラスが出し物をする様に、当然乍らりせ達も出し物を行う。つまりお互いがお互いの場所に行くのはそう簡単な話では無いのだ。それを理解して居るからこそ、りせは大きく声を上げて悔しがる。

 

 その後、事件の事とは無関係な平和な話を行い続けた悠達。最初とは違い、零の事を理解出来る様になったが故に逃げる事無く自然と会話の中に零を混ぜる事が出来る様になった陽介たちはしばらく会話し続けた後にそれぞれ解散するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月24日。昼休み。とある女子生徒の一言によって教室の空気は一瞬にして変化する。それは所々では重く、所々では悠々とした物で、陽介は前者の空気を見せる。と言うのも、試験の結果が張り出されたのだ。前者は自信が無く、後者は自信のある者達なのだろう。

 

 陽介は肩を落としながらも逃れられぬ運命に悠と共に確認へと教室から外へ足を進める。本を読んで時間を潰して居た零は、千枝と雪子に誘われる事で張られている掲示板に向かう事になった。そして順位を確認するため、それぞれが名前を探し始める。この中で確実に上から見た方が速いと思われる存在は3人。最初に見えたのは前回同様、悠の名前……では無く、前回惜しくも1位を取れなかった雪子が無事に復活して居る光景であった。その事に千枝は自分の事の様に喜び、雪子は安心したように胸を撫で下ろす。

 

「おぉ! 2連続で1位何てやっぱ凄いぜ、相棒!」

 

「鳴上君、凄いって! もう偶々、何て言わないでよ? おめでとう!」

 

「ありがとう」

 

 次に見えたのは同じく1位を取って居る悠の名前。雪子と同じ様に1位を取って居る事に陽介もまた、千枝同様大喜びする。前回悠は謙遜していたが、2回連続となればそれはもう確定である。千枝は悠が答えるよりも先に逃げ道を塞いだ後、悠を称賛した。雪子も同じ様に笑みを浮かべ、悠も今回はその称賛を素直に受け取る。

 

 悠の下に次に見えたのは零の名前。しかし順位の場所には2位と書かれて居り、どうやら雪子と悠に並んでトップと言う訳には行かなかった様子。特に落ち込んだ様子は見せないが、今まで当たり前の様に取って居た事もあって雪子は「姫ちゃん」と心配そうに声を掛ける。が、零はその言葉に顔を向けると紙で書いて答えた。

 

『平気』

 

「まぁ、つい最近まで色々あったしさ。仕方ないよ」

 

「だな。……にしても俺達のクラス、天城に鳴上に辰姫さんと成績優秀者が多いよな」

 

「でもそのおかげで結構私達、勉強出来てんじゃん。ほら」

 

 数日前までテレビの中に居たと言う事もあり、仕方が無いと千枝が続ければ陽介は書かれている順位を見てしみじみと言う。1つのクラスから上位3名が出ると言う事はかなり凄い事なのだ。そしてそれに気付いた陽介に千枝は自分達の順位を見る。千枝の順位は20位。陽介の順位は27位と、千枝の言う様になんだかんだで上から数えた方が速い順位を獲得して居た。陽介は千枝に言われて自分の順位を発見し、その事実に喜ぶ。

 

「皆さん、順位の確認ですか?」

 

 突然掛けられた声に振り返ればそこには直斗・りせ・完二の1年生メンバーが集合しており、3人はそれぞれ挨拶をすると自分の順位を確認する。最初に見つけたのは直斗で、それもその筈。直斗は一番上にその名前が書かれていたのだ。

 

「流石だな」

 

「いえ。僕も学生ですから、学業を疎かにしない様気を付けて居るつもりです」

 

「あった! よしっ! 今回は完二よりも上!」

 

「俺よりもって、2つしか差ねぇよ!」

 

 続けて自分の名前を見つけたのはりせ。すぐ下に完二の名前を確認したりせは胸を張って笑みを浮かべる。前回のテストで完二よりも下だったことが余程悔しかったのだろう。が、差は完二の言う通り2位しか無い故にほぼ同位と言っても間違いでは無い位置である。しかし2人とも前回のテストから今回まででかなり勉強した様で、前回はりせが【71】。完二が【64】だった時と比べ、今回はりせが【39位】。完二が【41位】とかなり上昇して居る事が見受けられた。

 

 りせは自分の順位を確認し終えると、今度は悠達2年生の成績を確認。その際に「今回も姫先輩は1位かな?」と言いながら見たため、いざ確認した時にりせは固まってしまう。そしてゆっくりとその視線を零に向けた。普段通りの無表情で自分を見て居る零の姿。別に零自身、特に何も感じては居ない物のタイミングよく目が会ってしまっただけであった。が、りせは自分の言葉と見られて居た事に一瞬で思考を巡らせる。このままでは気まずくなってしまう、と。そして打開策を考え、すぐに行動に移した。

 

「姫先輩だって人間だから間違える時位あるしそれに完璧過ぎるより偶に失敗する位の方が可愛いと私は思うよでも普段の姫先輩も可愛いよ大好き!」

 

「うわっ、一息で言ったよ。しかも最後に何か告白してるし」

 

「必死だな」

 

 一切行きつく間も無く言ったりせの言葉に見て居た千枝は若干引き気味に、悠はそんな光景に少し苦笑いしながら呟く。その後場の空気を有耶無耶にして普段通りに変えようとし、零に飛びつこうとしたりせを雪子が止めると言う最早何時もの光景を見つつ、昼休みも残り僅かだと気付くと解散する。こうして今年3回目のテストは無事に幕を閉じるのであった。


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