【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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辰姫 零 再び勉強会に参加する

 10月13日。朝。通学路を本を片手に歩いて居た零は、突然掛けられた声にその行為を止めて振り返る。そこに立っていたのは悠であり、悠は本をしまって居るその姿を見て何時もの零だと感じると共に危なくも感じる。自分の世話をしてくれている叔父、堂島遼太郎と少し似て居る部分があるのかも知れない。しかし彼程怒るのではなく、「気を付けろ」と注意をするだけだ。

 

「はぁ~。あれ? 鳴上君に辰姫さん。おはよう。……ねぇ、2人は勉強……した?」

 

「あぁ。勿論」

 

『程々に』

 

 2人の存在に気付き声を掛けたのは何処か元気の無い千枝。それもその筈。明日からは2学期の中間テストが始まるのだ。陽介同様、勉強に関して余り得意では無い千枝はその事に少しばかり元気を無くしていた。聞いたのは仲間が居ればと言う小さな望みだったのだろう。しかしそれは空しくも崩れ去り、そこでようやく理解する。今目の前に居る2人は前回のテストで同位1位を取った頭の良い2人だったと。その事に乾いた笑みを浮かべ乍ら再び溜息をつく千枝と共に登校する零と悠。やがて校門までくれば雪子の姿がそこにはあった。既に手元に荷物は無い事から、一度中に入った後に出て来たのだろう。

 

「姫ちゃん! あ、千枝と鳴上君も。おはよう」

 

 3人の姿に気付き朝の挨拶をする雪子。しかし悠と千枝は確実に気付いて居た。最初に零を呼んだ時、その声と自分の名前を呼ぶ時の声音が僅かだが違う事。外に居たのは零を待っており、自分達はいわばついでの様な形である事に。しかし色々とあって既に慣れた物。雪子は恐らく無意識に行って居る事ゆえに何も言う事は無いが、地味に気になるのは仕方の無い事だろう。零は気付かずに小さく頷き、悠は何も動作せず、千枝は少しだけ顔を引きつらせてその挨拶に返す。

 

 4人となり、そこそこの人数となったところで無事に教室へと到着すればそこには半分以上の生徒達が既に登校して会話を楽しんでいた。零と悠達も自分の席へと移動し、荷物を机の中へと詰め始める。既にそれを終えていたであろう雪子は零と千枝の間に立って会話を始めていた。と言っても千枝と雪子が話し、それを零が聞いて稀に頷くのが殆どだが。

 

「おっす、鳴上。……勉強したか?」

 

 そんな光景を見ていた悠は登校して来た陽介に話しかけられる。その内容は先程千枝からされた内容とほぼ一緒の物であり、悠は何処かデジャヴを感じ乍らそれに返す。そうして時間は過ぎて行き、クラスの担任である柏木 典子先生が入って来るその時まで5人は会話を楽しむ。

 

 HR後、行われる授業のそのどれもが明日のテストの復習など。中には自習とする先生もおり、家での勉強が無くとも十分な勉強時間は確保できた。が、勉強自体が苦手な千枝は例え時間を貰った所でそう簡単に知識を詰め込める訳ではない。前に座る雪子に聞こうとするが、残念ながら雪子もしっかりと自習に取り組んでいて話しかける事は憚れる。と、そんな困っていた千枝の肩が2回叩かれた。

 

「? 辰姫さん、どうしたの?」

 

『勉強、する』

 

 千枝の後ろの席に座っていたのは他ならぬ零であり、質問に帰って来た文を読んで千枝は注意されたと思ってしまう。『悩む時間があるのなら、勉強した方が良い』と。それに千枝は「そうなんだけど」と返せば、零が紙を机に置いて何かを取り出した。それは1冊のノートであり、零はそれを千枝に手渡しする。不思議に思いながらもそれを受け取り、中を徐に開けばそこには現在自習となって居る教科のテスト範囲が事細かに書かれている内容が目に映る。恐らくそれは、零が今まで取っていたノートなのだろう。所々授業では行わなかった部分があり、それがテレビの中に居た最中の範囲と予測で勉強した違う場所である事も千枝は理解出来た。

 

「えっと……良いの?」

 

『雪子と。頑張って』

 

「ありがとう! 辰姫さん!」

 

 千枝は零の言いたいことをすぐに理解出来た。雪子は今現在、自分で勉強をして居る。それを邪魔する様に一緒に勉強するのは当然気が引けるが、今手元にあるノートがあれば千枝も話しかけ易いのだ。そうして一緒に勉強出来る様に気を利かせたのだろうと。千枝は零に感謝しながら雪子に話しかけ様とする。だがその時、零の隣に座っていた陽介とその前に座っていた悠がその光景を見て居た様で口を開いた。

 

「辰姫さん。里中を助けるのは良い事だけどさ、自分の事も考えろって」

 

「あぁ、そうだな。それじゃあ辰姫自身が勉強出来ない」

 

「あ……そっか。そうだよね」

 

 2人の言葉で千枝はすぐに思い出す。零はどんな事にでも手を伸ばす代わりに、『自分を犠牲にする事も多い』のだ。今回もその例に漏れず、千枝としては大助かりだが貸した本人である零は勉強道具を失う事になる。それに気付いた後、千枝はどうしようか悩む事数秒。零の机にそのノートを置き、座っていた椅子を逆向きに変える。零を行為を無下にする訳には行かないが、自分だけが助かるのは以ての外。そう考えて出した千枝の結論。それは

 

「7月にやった勉強会みたいに教えてくれない……かな?」

 

 教えると言う行為は勉強に繋がる、教えられる事もまた勉強となる。7月の勉強会で途中から零に教えて貰って居た千枝はそれを確信していた。その結果として、零に教えて貰った後のテスト。前回行われたテストでは、可もなく不可も無くと言う点数であった。結果だけを見れば微妙だが、千枝としては驚きである。可は無く不可は有るが普段だったからだ。それはつまり、零の教えが上手い事を意味していた。教え方と言うよりも、勉強のさせ方と言った所だろう。

 

「私も混ぜて欲しいな」

 

「なら、俺達も混ぜてくれよ。認めたくねぇけど、分からないところが多すぎて相棒だけじゃ対処しきれねぇ」

 

「ね? どうかな?」

 

 千枝の言葉を聞いて居たのか、勉強に集中して居た筈の雪子が椅子を手に近づいて来る。自習の時間、移動して居る生徒も少なく無いため怒られる事では無いのだ。机の横に椅子を置き、零の机を使える位置に座った雪子。そんな姿に陽介も手を合わせて悠を含めお願いをする。悠を覗く3人から一緒に勉強しようと誘われている現状、零の答えを待つだけとなった事で千枝は零に答えを聞くために言う。零はその言葉にしばらく考え込むように黙った後、静かに頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月16日。昼。中間テストは間に日曜日を挟むため、この日一時の解放感に包まれていた悠達。陽介の提案もあり、ジュネスのフードコートに集まる事になった悠達はそこで勉強をしようとしていた。学年は違えども、同じテストを受ける身として完二・りせ・直斗の3人も集合して居る。席に座り、勉強を開始しようとした陽介。まず、いの1番に両手を合わせて零にお願いをする。

 

「3日前同様、ノート貸してください」

 

「最初からそれが狙い? 少しは頑張りなよ」

 

「既に借りてる里中にだけは言われたくねぇ」

 

 陽介の行動にペンを走らせながら千枝が言う物の、陽介はそれに呆れた様子で答える。陽介の言う通り、今現在勉強して居る千枝の目の前には零のノートが置かれていた。陽介がお願いをする前に、既に抑えていたのだ。と言っても陽介がしようとして居る教科とは別物の為、陽介自身に焦った様子は無い。しかし言われたくないと言う感情は仕方の無い事であろう。そんな2人の会話を見て直斗は微笑む。

 

「花村さんと里中さん。仲が良いですね」

 

「付き合っちゃえば? 先輩たち」

 

「無理!」

 

「早っ!?」

 

 仲が良いと感じた直斗の言葉にどこか茶化す様に言うりせ。しかし千枝は考える素振りすら見せずにそれを否定し、陽介はそれに驚いて居た。期待をして居た訳では無いだろう。だが余りの速さにショックを受けざる負えなかったのだ。肩を落とす陽介を尻目に、りせは今度直斗に「直斗も完二と付き合っちゃえば?」と口を開く。まさか自分に来るとは思って居なかったのか、直斗は驚きながら止める様にりせに抗議した。突然名前の出た完二は「何言ってんだよ」と呟くだけで特に反応は無い。

 

「え~。だって、先輩2人が付き合って、直斗と完二が付き合えっちゃえば後は鳴上先輩と雪子先輩だけでしょ? そしたら私と姫先輩でカップル成立だね! やった!」

 

「どうしてそう言う事になるのかな、りせちゃん? もしかしたら鳴上君はりせちゃんが好きかも知れないよ?」

 

「雪子先輩の方が近しいし、可能性は高いと思うけどな~。ね、先輩?」

 

 りせの言葉に最初に反応したのは雪子であり、そこから始まるのは何も悪い事をして居ないにも関わらず悠を押し付け合う内容の口論。陽介は悠の肩に手を置いて慰め、悠は押し付け合われる会話を聞きながら何とも言えない気持ちになる。嫌われている訳では無い、と理解は出来ても押し付け合われる自分が惨めに感じて仕方が無いのだ。やがてりせが悠に話を振るが、それに答える事無く悠は勉強を始める。

 

「くぅ~! 炭酸が染みるね~!」

 

「一問終わっただけで満足してたら終わんねぇぞ、里中」

 

「時間はたっぷりあるし、平気っしょ! あたし、昨日も一昨日もペン止まらなかったし。あ、無くなった。花村、お代わり!」

 

「そう言う奴ほど気付いた時には遅かったりするんじゃね? 止まらなかったのは俺もだけどよ。自分で買って来い」

 

 1つの問題を終え、紙コップに入った飲み物を飲んで飲み屋に居る親父の如く言う千枝に少し引きながら陽介は注意する。そして2人が会話する中、雪子とりせの言い合いは続いて居た。直斗は完二と共に勉強を続け、残ったのは悠と零。2人はこの中で一番頭が良いため、そこまで詰めて勉強をする事は無い。だが、やって置く事は無駄になる訳では無いだろう。

 

「勉強するか」

 

「……」

 

 騒ぐ声をBGMに悠は零に聞く。零はそれに頷き、2人は一緒に勉強を開始した。お互いに教えるのが上手く、分からない箇所も少ないためにこの場に居る誰よりも早く勉強は進んで行く。共にペンを動かし、勉強を続ける零の姿に悠は何処か微笑ましく思いながらも勉強を再開した。無事に助ける事が出来た結果、目の前に居る少女。その姿と、こうして交流できる今の状況は悠に力を与えるには十分な物であった。


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