【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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辰姫 零 ライブの練習をする

 10月8日。放課後の屋上に全員は集まって居た。何時もの如くまっすぐ帰ろうとした零だが、そんな零も含めて全員を陽介が切羽詰まった様子で大事な話があるから屋上に来て欲しいとお願いし、今に至る。

 

 既に冬の寒さを感じる様になってきた現状、非常に冷たい風が吹くために屋上に居る全員は寒さを堪えながら陽介が来るのを待つ。しばらくした後に陽介は姿を現した。そして陽介は大きく息を吸うとこの場に居る全員に手を合わせて言う。今週末を開けて欲しいと。そしてその言葉に直斗は「中止になった稲羽署のイベントが関連しているのですか?」質問すれば、陽介はその体勢のまま頷く。

 

 直斗の言った稲羽署のイベントと言う物が分からなかったため、千枝が質問をすれば直斗は答え始めた。その内容は明後日である日曜日に【真下 かなみ】と言う女性アイドルが一日署長をすると言うイベントが計画されていたと言う物。しかし先程の会話から、その計画は潰れてしまったのだろう。りせはその名前を聞いて少し暗い表情になり、同じ事務所のアイドル故に何か思うところがあるのだと全員が理解する。

 

 陽介の父親が店長をやって居るジュネスではそのイベントに便乗したセールを開催する予定であった。が、そのイベント自体が中止になってしまったためにこのままでは準備なども無駄になってしまい、非常に不味い状況だと説明。警察事態も直斗の失踪などがあって忙しく、報告が遅れたのだと直斗は説明した。少し責任を感じている様子の直斗だが、それを陽介は否定して全員にお願いをする。『準備などを一緒に手伝ってほしい、そして元アイドルのりせに何かをしてほしい』。と。

 

 りせはかなみの代役をやらされると言う事に一瞬不満そうな顔をする。しかし陽介の状況は非常に悪く、父親の雰囲気からクビの可能性と転校の可能性を呟けばりせは少し考えた末に高校生での肩書で出来ない事以外ならと了承。しかし条件としてこの場に居る全員が一緒にそのイベントに出る事を提案した。

 

「……一緒に出るって」

 

「スカウトとか来たら困る」

 

「ジュネスと専属契約してるから困る」

 

『巫女の仕事があるから困る』

 

「いや、困り方が可笑しいだろ。ってか何か普通に姫先輩馴染んで来たっすね」

 

「良い事だ。で、俺達はどうすれば良い?」

 

 千枝がりせの言葉に困惑すると、雪子・クマ・零の順番でコメント。思わず完二はツッコミを入れ、悠がそれに付け足しながらりせに自分達の役割について質問した。歌を歌うりせが分かったところで、男子勢は何をするべきなのか。本職を経験しているりせが決めるのが一番だと思ったのだろう。りせはすぐに「バックバンドだよ!」と答える。

 

 バンドと言う言葉に陽介が無理だと主張。練習どころか楽器を普段から触ってすら居ない人間に、2日でバンドを出来る程の能力を付けるのはかなり大変だろう。しかし直斗はピアノの経験があるらしく、キーボードをやると主張。自分も中止報告が遅れた原因の1つ故に責任を感じて居る直斗のその言動に陽介も腹を括る。

 

 乗り気になった陽介に、これまた乗り気になった雪子も宴会用の何かがある筈だと言う。徐々に希望が見えて来たイベントの内容にりせはバンドの雰囲気がある曲を探しに、その他のメンバーは楽器と演奏を練習する場所を探すことにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日。音楽室にて吹奏楽部の楽器で余った物をかき集めた悠達。目の前にある楽器の山を見てどうするべきかを考え始める。楽器があったところで経験が無ければ難しいだろう。それぞれが徐に楽器などを手に取ったりして出来るかどうかを判断したりする。そしてやがてそれぞれがそれぞれの楽器を手に取る事になった。

 

 【悠・ベース】。【陽介・ギター】。【千枝・トランペット】。【雪子・サックス】。【完二・ドラム】。【クマ・ドラム】。【直斗・キーボード】。と、殆どのメンバーが楽器を取る中。零だけは未だに何も取らずに居た。人数がそこそこ居る結果既に必要そうな楽器などは揃って居る為、これ以上何かを付ける必要性も無い。が、それでも参加しないと言う事をこの場に居る全員は絶対に許す気は無かった。

 

「はい、ヒメちゃんはこれクマね」

 

 クマは片手に2本のマラカスを持ち、それを零に渡す。それは最初に陽介に渡されてすぐに没になったマラカスであり、零がそれを受け取ればクマは喜びながら「一緒に鳴らすクマ!」と言って太鼓を軽く鳴らし始める。そしてそんな姿を見て零も静かにマラカスを揺らし始めた。

 

「何か……良い」

 

 無表情乍ら手首を動かしてマラカスを鳴らす零。軽く揺れる髪とスカートなども相まって、千枝は思わず呟いてしまう。今彼女の目に映って居るのは林間学校の時にも見えた光景に近い物。雪子はすぐに零に近寄って立ち位置を決め、いざ練習を開始! ……とは行かなかった。

 

 雰囲気だけならしっかりとしたバンドメンバーとその構図。だが千枝と雪子は必死に楽器を鳴らそうとするも、音が一切出ずに四苦八苦。楽譜を渡されたクマは音符の意味が分からず、千枝も読めない事を伝える。余りにもお先真っ暗な現状に思わず陽介は未来で自分が引っ越している姿を想像してしまった。そんな状況でそれぞれが練習を開始。千枝とクマはまず音符の意味を覚える事から始め、雪子は必死に音を鳴らそうと息を入れる。

 

「……出来なくは無さそうだ」

 

「頼むぜ、相棒!」

 

 悠と陽介も練習を始め、クマは好き勝手に音を鳴らし始める。直斗は楽譜の通りにキーボードを弾き始め、完二もまずはドラムの何処に何があるかなどをしっかりと理解するところからスタート。りせは歌詞を黙読して覚え始めている。結果、完全にやる事を失った零は楽譜を手に取ってそれを見始めるが……ゆっくりとそれを降ろした。

 

「? 姫ちゃん、どうしたの?」

 

「……『何でも無い』」

 

 雪子がそんな零に気付き、話しかける。が、零は少しの間を置いて答えると持っていたマラカスを適当に振り始めた。雪子は首を傾げ乍らも再び顔を真っ赤にして息を入れ始め、そのまま個人練習は続く事に。そして夜の最終下校の時間になるまでそれぞれが個別で練習をし続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月9日。昼。学校が無いにも関わらず、この日悠達は集まって昨日に引き続き練習をする約束をして居た。しっかりと全員が揃ったところで練習を開始。昨日は個別で練習していたが、今日は合わせる事となった。

 

 りせは歌わずに全員を指揮する。1、2、3の合図で一斉に音を鳴らし始めると、個別で練習していたのが成果となって居るのかしっかりと歌詞が入れられる程の完成度で曲を演奏することに成功する。が、途中でどう考えても可笑しな外れた音が発生。当然曲は止まり、千枝は自分では無いと主張する。そしてそれに続いて雪子が自分の楽器に音は出て居ないから自分でも無いと主張。別の意味で少し暗くなった事に誰も何も言う事は無い。

 

 音を外した原因はクマ。自分が外したと言うのではなく、「観客は意外性を求めて居るクマ!」等と答えるクマに全員は大きく脱力し、直斗が休憩を申し出る。既に練習を始めてから数時間立って居たため、それぞれが非常に疲れているのだろう。その言葉に同意して休憩を始める。と、零は雪子の元に近づき始めた。現在雪子は未だに音の出ないサックスを鳴らそうとしている。そしてそんな雪子を見かねて、零は雪子の前に立つと渡して欲しいとでも言う様に手を差し出した。すぐに分かり、雪子はサックスを渡す。と、

 

『~♪』

 

「ひ、姫ちゃん!?」

 

 零の持っているサックスから音が出始める。それは壊れて居ない証拠であり、またどの様に吹くのかを雪子に教えるための物でもあった。が、今雪子の頭の中にあるのは音が鳴った事では無く、先程まで自分が口を付けて居た場所に当たり前の様に零が口を付けて居る事である。その事実に顔を真っ赤にする雪子だが、零は気付かずに雪子の楽譜を見ながら演奏を始める。そしてその音を聞いてりせが近づくと吹いて居る事に気にして、雪子と間接キスして居る事には気付かずに話しかけた。

 

「やっぱり姫先輩……楽譜とか簡単に読めるんだね」

 

 りせの言う言葉の意味を雪子は『頭が良いんだね』と捉える。しかしりせの言った言葉の意味はそう言う事では無かった。彼女は見て居るのだ。零の家にあった本棚に並べられた一冊で写真と共に書かれていた歌詞を。そこに楽譜が書かれていた訳では無い。が、歌があるならば音楽が存在しているだろうと思って居たりせとしてはそれが分かって居る故に楽譜が存在しているのだろうと予想したのだ。そしてそれを理解したのかは分からないが、零はサックスから口を離して頷き返した。と、雪子にサックスを手渡す。

 

『力は抜いて』

 

「え……あ、うん。ありがとう、姫ちゃん」

 

 雪子は零のアドバイスにお礼を言ってサックスに口を付けようとする。零のつけて居た場所。故に少し緊張しながら。だが今現在吹いて居た姿を見て居たりせはすぐにそれを阻止すると何処からともなくサックス用のリードを取り出す。そして雪子に「新しいのにした方が良いよ!」と極々自然に入れ替える事を提案。答えを聞かずに目にも止まらぬ速さでリードの入れ替えを終わらせる。ついでにしっかりと吹き口を吹くのも忘れずに。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとうりせちゃん」

 

 笑顔でサックスを返すりせと微かに青筋を浮かべながらも顔では笑ってお礼を言う雪子。そんな2人を尻目に零は離れると1人で適当にマラカスを鳴らし始める。が、すぐに立ち上がると今度は音を只管鳴らして練習をして居るが上手く行かない様子のクマの元へ近づいた。そして近くにあったタンバリンを手に取る。

 

『これにする』

 

「小さな太鼓クマ? でもクマはこれが良いクマよ」

 

 タンバリンを渡されて身体ごと首を傾げるとクマは目の前にあるドラムを叩き始める。しかしそんなクマの答えは想定済みだったのか、零は『完二がやって居る』と書けば「クマとカンジでは実力と威力と思いが違うクマよ」と反論。が、その答えに零はメモを捲る。既に次の言葉は用意してあったのだ。そしてそこに書かれていたのは

 

『クマにしか出来ない事』

 

「むむむ、そう言われるとやりたくなって来るクマね……」

 

 クマの扱いが上手いのか、その内容に考え始めるクマ。と、零は無表情乍らそのタンバリンを仕草だけで楽しそうに叩き始める。そして途中でそれを空中に投げてその場で一回転してキャッチする等のパフォーマンスも披露。それが終わった時、全員が零に視線を向けて居た。

 

 目の前で行われたタンバリンを使ったパフォーマンス。それはクマの中の何かを刺激した様で、ドラムの椅子から降りるとそのタンバリンを渡して欲しいと要求する。零がそれに頷いて渡せば、クマは喜んで先程の真似をし始めた。これによって練習の時に起きた様な失敗の心配は無くなっただろう。が、クマが先程の真似をしてタンバリンを投げた時。それは天井にぶつかって真っ直ぐクマの頭に落下。クマは目を回してその場に倒れてしまい、全員は思わず頭を抱える事になる。

 

 と、突然大きな音が部屋の中に響き渡った。全員が発生源に視線を向ければ、そこでは自分の手元にあったサックスから音が鳴った事に驚く雪子の姿。どうやら無事に音を出すことに成功した様子で、陽介は零の行動によって2つの問題が解決しかけて居る事に喜びながら「希望が見えて来たぜ!」と勢いを付ける。そしてその勢いのまま休憩は終了し、再び全員で練習を再開することに。最初は困って居た千枝も今では辞める事の方が悔しいと豪語し、りせも本気を出す様な言動を。思いを1つに部屋の中では先程まで出来なかった部分も含め、しっかりと演奏が出来る様に徐々に上達していく全員。

 

 しばらく鳴らし続けた後、りせは到頭歌も合わせて練習する事を提案。まだ完璧とは言えない状況で歌がつく事はもっと難しくなる事でもあり、思わずもう少し練習したいと言う陽介。だがりせは歌を歌う立場として、練習に参加出来ない現状にも不満を持っていた様子で強制的に歌付きで練習が開始される。そしてその練習は……殆どミス無しで終わりまで演奏することに成功。思わず近くに居た者とそれぞれがハイタッチする。

 

 一度成功すればそれだけで余裕と言う物が生まれる物。出来たと言う事実が心を勇気づけるのだ。それぞれが大きく抱えていた重い物を一部降ろし、出来る事が分かった事でやる気も出て来たのであろう。りせは「もう1回行くよ!」と言って初めの音頭を取り、再び全員は音を鳴らす。そうして練習を重ね、明日の本番に備えるのであった。


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