【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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辰姫 零 精密検査を受ける

 10月7日。放課後。既に荷物を鞄に入れ、後は帰宅するだけの状態にしていた零はHRを終了すると同時に今まで以上のスピードで帰宅しようとする。が、そんな零の目の前に予想したように雪子が立ち塞がった。道の塞がれた零は固まり、目の前で微笑んでいる雪子を見る。当然訳が分からない悠達は目の前の光景に驚いた。

 

 零はまず確認する。雪子が目の前の道を塞いでいて、その先には教室の出入り口が1つ。場所は現在教室の後方であり、前方側にある出入り口に人の姿は無い。それに気づくのと零が行動を起こすのはほぼ同時のことであった。が、雪子は既に予測して居た様に追うこともなく向かった先の扉に視線を向ける。そして

 

「りせちゃん!」

 

「ふふ、姫先輩捕まえた!」

 

「!」

 

 雪子の声と同時に登場したのはりせ。彼女は扉から出てきた零を待ち伏せしており、目の前に零の姿を捉えるやすぐにその身体に迷い無く飛び込んだ。勢いをそのままに飛び込んだため、その威力は非常に高い。故に零は大きく尻餅をついてりせの身体をその身で受け止めることになった。

 

 地面に強打したために非常に痛かった筈だが、零は普段どおり表情1つ変える事は無い。それどころかすぐに目の前にいるりせに意思を伝えようとするが、取り出したメモを持った手はりせに掴まれた。零が止めたりせの顔を見れば、「書かなくても姫先輩のことは分かるから!」と笑顔で答えた。

 

「な、何さ? 今の」

 

「あ~。昔から姫先輩には嫌いな物があるんすよ」

 

「……病院か」

 

 目の前で行われている光景に驚きながら言った千枝の言葉に、いつの間にか来ていた完二が答える。そしてすぐに悠は完二の言った言葉の意味を理解することが出来た。それもその筈。これから零も含め、悠達全員は病院に行くことになっている。それは直斗の提案であり、テレビの中に入ることが出来ている全員の身体に何か異常が無いかを調べると言う物。当たり前の様に入っていた場所だが、未知の場所であることは間違い無いのだ。

 

 悠の答えは少し外れており、その実。零が嫌いなのは病院ではなく【検査】。それを理解していたことで、雪子はりせと協力して零の捕獲を行ったのだ。結果、無事に零は捕まった。

 

 嫌だと首を振って意思を示す零だが、りせはそんな姿の零を見て「嫌がる姫先輩も可愛い!」と少し危ない発言をする。と、雪子がすぐに零に近づいてりせを離すとその腕を掴んで逃げられない様にする。りせも一時離されたが、すぐに反対の腕を掴み、2人は視線で火花を散らしながら零の腕を組んで歩き始める。喧嘩をしていても病院に連れて行く目的はしっかり果たそうとしている様だ。

 

 零は2人が連れて行く。そう判断した悠達も準備をした後に、追うようにして直斗が予約したと言う病院に向かう事にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院に着いた零は強引に部屋へと連れて行かれることになった。順番が来るまで離しては貰えず、強制的に検査を受けることとなった。内容は唯単に問診や身体測定等の良くある事をするだけの簡単な検査。終った後は当然ながら抵抗も何もなくなったが、今の今までの零の姿からよっぽど嫌いなのだと悠達は理解することが出来た。そしてそれと同時に思うことが1つ。

 

「何か、本当の辰姫さんを見てるって気がするよな」

 

 陽介の言葉に思わず全員が頷く。逃げ出し、嫌がる。今の今まで見ることの出来なかった零のその姿は新鮮であり、その上で見れたことに喜びを感じた事は不思議なことでは無い。今現在も掴まれた腕を完全に放置して本を読み始めて居る零の姿に思わず微笑を浮かべてしまう悠達。と、診察室の中から直斗とクマが出て来たことで全員の視線がその2人に集まる事になった。

 

 クマの正体はクマ自身は分かっておらず、今回の検査で何かが分かるかもと期待をしていた悠達。が、結果として分かったことは【何も分からない】ことであった。レントゲンを取る等の事もしたが、出来た写真に写ったのは何も映っていない写真だったとの事。つまりいくら検査をしたところで無意味と言う事である。

 

 クマの正体が分からないと言う事実を理解したとき、完二は徐に自分達の力……ペルソナについての疑問も持ってしまう。直斗の理解しているペルソナは心理学用語にある言葉だが、非現実的なことが起きている現象の説明にはなり得なかった。故にペルソナもまた、分からないものである。

 

 理解できない、得体の知れないものを扱うと言うのは非常に怖い物である。だがその力で人を救い出せているのもまた事実であり、悠達は怖くともそれを使って行くしかない。その事に少しばかり暗い雰囲気を出していた時、クマが徐に紙を取り出す。そして楽しそうに言い放った。

 

「みんなの検査結果、ドキドキの大発表クマ!」

 

 その言葉に男子勢は少々、女子勢は大きく反応した。それもその筈。検査の中には身体を調べるものもあり、結果として自分の身体についての数値も出来ているのだろう。それを発表されるのは女性である限り嫌に決まっているものである。

 

 最初に発表されそうになったのは一番足の短い人。陽介は自信が無いのか発表されることに焦り、どうせなら女子のスリーサイズをと希望する。それは女子勢にとって一番発表されたくない内容。アイドルだった故に公表しているりせは別とし、千枝と雪子はそれを阻止しようとする。

 

「? 姫先輩は嫌じゃないの?」

 

『興味ない』

 

「そっか……だったら見ても問題ないよね!」

 

 発表される。そんな状況でも座ったまま本を読んでいた零にりせは質問するが、零は知られたところで特に気にしないのか書いて見せる。そしてそれを読んだりせは少し考えるような表情をした後、嬉しそうにクマの持っている紙を覗き込もうとする。が、その前にクマの手にあった紙を雪子は掴み取るとその場で一瞬にして粉々に破り捨てる。思わず雪子を見た全員は固まってしまう。

 

「ふふふ、流石に限度があるかな? かな?」

 

「ひっ! とうとう雪子が壊れた!?」

 

「あ~あ、分かると思ったのに……今度私が直に測れば良っか」

 

 恐ろしいほどのオーラを放つ雪子に千枝は叫ぶ。目は虚ろになり、紙を持っていたクマは一瞬にしてその威圧感だけで沈められる。が、そんな雪子を相手に普段どおりの雰囲気で当たり前の様に言うりせにその場に居る全員がある意味で凄いと感心してしまう。しかしそんなりせの言葉に雪子は反応すると2人は端で取っ組み合いを開始する事になった。

 

「……破いてしまって大丈夫だったのか?」

 

「もう必要は無かったので問題はありません」

 

「おい悠、直斗。あれは放置か!?」

 

「触らぬ神に祟り無しっすよ、花村先輩」

 

 バラバラになってしまった紙を拾い集めながら悠は直斗に質問する。同じ様に拾い集めていた直斗はそれに冷静に返答し、2人は掃除をして行く。何事も無い様に行動する2人に思わず陽介が言うが、そんな陽介の言葉に完二が答えると悠たちに混ざって掃除を始める。この後、病院の人に煩いと注意されるまで喧嘩は続くのだった。そしてりせと雪子が離れた零は病院でのやることも終えていたために、知らぬうちに帰宅しているのだった。


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