【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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気付いたらお気に入りが1000を超えて居た件。書いて居る作品の中では群を抜いてこの作品が人気な様で……頑張りたいとは思う物の、話は浮かぶのに文に出来ないもどかしさ……苦しい物です。とりあえず早く出来る様、努力致します。


辰姫 零 平和な日常に戻る 【前編】

 9月26日。午前。零の救出を成功させた悠達は昨日、学校が休みなこともあって個別にそれぞれが楽しい休日を過ごした。そして学校がある今日は何時もと変わらない日常を送るために学校に登校していた。

 

 一昨日の授業中では零がテレビの中に居ると言う現状があったために一切集中が出来なかった悠達。だが今ではその問題も解消され、もう安心といえる状況になった今ではしっかりと授業を受け続けることが出来た。そして

 

「私、お昼休みになるのが今日は少し何時もより早い気がする」

 

「直斗君も姫ちゃんも助けられたから授業に集中出来るんだよ、きっと」

 

「かもね。……? 鳴上君、どうしたの?」

 

 お昼休み。千枝が大きく伸びをして言えば雪子が微笑みながらそれに返す。その表情は安心したからか、非常に優しかった。元々人気が大きかった事もあり、周囲で雪子を見ていた数人が溜息を付くほどに。が、そんな事は雪子に取って一切関係も無く、気づく様子も無い。

 

 千枝はそんな光景に若干苦笑いしながらふと隣に居る悠に視線を送った。そこに居たのは難しい顔をした悠の姿。無事に助けることが出来たのは喜ばしいことであり、決して難しい顔をする必要がないと思っていた千枝は質問をする。しかし悠は「少しな」と返すだけで内容を説明しない。すると背後に座っていた陽介が立ち上がる。

 

「何だよ相棒、無事に助けられたんだしよ。万事解決だろ?」

 

「……本当にそうなのか?」

 

 陽介の言葉にしばらく黙った後に言う悠。その一言で3人は思わず固まってしまった。と言うのも悠がふざけて【助けたのに実はまだ何かある】と思わせることを言うとは思えなかったからだ。そして彼の考えていった言葉は中々に当たっていたりする。結果、『本当にそうなのか?』と言った彼の言葉を流すことなど当然出来ないのだ。

 

「な、何だよ? どう言う意味だ?」

 

「確かに直斗は助けられた。自分の心に秘めた思いを受け入れて。辰姫も同様に思いを受け入れた訳だ」

 

「うん。でも、今までと変わらないし。何もおかしくなんか」

 

「……嘘。まさか、嘘だよね!?」

 

 悠の言葉に千枝が困惑する中、突然悠に詰め寄るように黙っていた雪子が声を上げて言う。余りに突然の事に陽介と千枝は更に困惑する中、悠は唯冷静に言い放った。

 

「辰姫には2つ、思いがあった。物事を感じたい、感情が欲しいこと。そして……【犠牲と言う形で死ぬ事だ】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日。午後。まだ時間は学校で授業がある時刻。辰姫神社の縁側には1人と1匹の姿があった。そして1匹は1人の横に座り、丸まったまま何も動く気配を見せない。同じ様に1人も外に足を出して座ったまま、顔を下げて何かを読み続けている。

 

 突然本を読んで居た1人……零がその本を閉じると手を伸ばした。その先は1匹……キツネだ。突然撫でられた事に驚くように耳を立てて身体を起こすキツネ。しかし零は無表情でそのキツネの身体に触れると優しく動かして撫で始める。

 

 キツネは抵抗する素振りを見せない。零の瞳は何時もの黒と違い、今まで隠されていた本来の瞳がキツネを見つめていた。そしてキツネも零を見つめ続けそんな状況が数分続いた後、零は再び本を読み始めてしまう。キツネはやはり何かをするわけでも無く、零を見続けた後に丸まって再び同じ体制になる。

 

 零がここに居る理由。それは今現在、零が休学しているからであった。テレビの中から戻ってきてまだ2日。常人では危険な場所で危険な事に巻き込まれていたのだ。直ぐに授業などに出ては身体が持たないだろう。そのため、零は数日間学校を休む事にしたのだ。因みに直斗も同じ様に現在学校を休学している。

 

 唯静かに本を読みながら時間を過ごす零。気づけば数分。数十分。数時間と経過し、学校の終わる放課後となっていた。そしてそれが意味することがある。

 

 突然インターホンの音が響く。その音に零は一瞬肩を上げ、直ぐに静かに立ち上がると玄関に向かって歩き始める。と同時にキツネは静かにその場から居なくなり、外の何処かへと行ってしまった。

 

「姫セ~ンパイ! 遊びに来たよ!」

 

 玄関の扉の向こうから聞こえるのはりせの声。零はその扉に手を掛けてスライドさせる様に扉を開ければそこには制服姿のりせ。恐らく学校から真っ直ぐここに来たのだろう。鞄も持っている。

 

「良かった! ちゃんと居てくれて。もう何処かに言っちゃわないでね?」

 

『気をつける』

 

「……声は、出さないの?」

 

 一度居なくなったこともあり、零の姿を見て喜ぶりせ。それに零が紙に書いて答えるとりせは質問をする。事件のこともあって声をこれから出すと思っていたのだろう。だがりせの質問に零は静かに頷いた。声を出す気は無さそうだ。

 

「え~。私、姫先輩の声大好きなのに」

 

 残念そうに言うりせを気にする様子も無く、零はりせに紙で『中に入る?』と聞くとそれを見て笑顔でりせは「お邪魔します!」と答えた。零はりせに背を向けて神社の中に再び入っていき、りせは開いている扉を閉めて同じ様に中に入る。零が居なくなった後も家具などが変わっている訳では無い為、りせが八十稲羽に戻ってきたときに泊まった風景そのままである。

 

 声を発さない零と2人っきりである以上、会話が成立することを最初から期待してはいけない。それをしっかり分かっているりせは今日あった学校での出来事などを話し始める。零は無表情ながらも何か他の事をすることも無く、りせの話を聞き続けた。と、りせが思い出した様に「授業は大丈夫なの?」と質問する。が、それに零は静かに頷き返すと『完璧』とだけ書いて答えた。

 

「何か姫先輩、頭良さそうだし本当に大丈夫かも。……あっ! じゃあ姫先輩! 私に勉強教えて!」

 

 それだけで納得したりせは突然そんな提案を始める。その後に小さな声で「個人授業……ふふふ」と笑っている事に零は気づかず、少し黙った後に『平気』と答えた。それはつまり了承されたと言うこと。

 

「やった! じゃあ、今日の宿題を『教えるだけ。自分でやる』……は~い」

 

 喜んで鞄を開けてノートを取り出したりせに突き出すように紙を見せることでその紙の中身を強調する。りせはその内容に少し残念そうな顔をした後に勉強をするためにテーブルの上にノートを広げ、宿題の部分と思われる内容を始めた。そしてそれを見て零は立ち上がるとりせの横に座り、ノートを横から見るような体制になる。が、零が横に移動したタイミングでりせの字を書く手の動きは停止していた。

 

「?」

 

「ひ、姫先輩って結構大胆……いや、そんな思いが無いのはわかるけど……やっぱり、あ、うぅ」

 

 ぶつぶつ呟き続けるりせ。その内容が分からずに零はもう1度首を傾げるが、りせは気が気では無かった。まず自分の横に零が座り、同じノートを見るために顔を近づけたのだ。同じノートを見るという事はつまりかなり接近する訳でもあり、2人で共有する様に見るのでは無くあくまでりせの勉強を覗き込む様に見ようとした事もあって零の顔はりせのほぼ直ぐ側に迫っていた。それこそ顔を回せば何処かが当たるのでは無いかと思える程の近さ。

 

 普段は自分から色々なことを言っているりせだが無意識とは言え零から接近して来た事には対処仕切れなかったのだろう。顔を真っ赤にして下を向いてしまう。と、今度は零が何を思ったのかりせの顔を上げるとその額に自分の額を接触させた。

 

「ひ、ひひ姫先輩!? な、ななな何を!?」

 

「……熱……無い」

 

「あ、声……し、幸せ」

 

 驚くりせに声を出した零。今の位置では紙を書けない事や書けても見せられないことからこの時だけ声を出したのだ。だがそれはりせに取って止めの一撃の様に襲い掛かり、処理する事が出来なくなったりせはそのまま所謂オーバーヒートを起こして気絶してしまう。勉強を教えようとしたのに倒れてしまったりせに零は無表情ながらも1人で首を傾げるとしばらく何もせずにその場に居た後、りせをそのまま寝かしてタオルを掛けた。

 

 零は立ち上がるとキッチンのあるであろう場所に移動する。そして零はりせを寝かせたまま夕飯の準備をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もし誰かが危ない目にあった時。今の辰姫なら何をするか分からない。最悪自分の身を挺してでも庇う』

 

 放課後になって雪子は一度自分の家である天城旅館に帰った後に仕事をお願いをして休ませて貰い、零の住んでいる辰姫神社に向かって急いでいた。運が悪い事に旅館のスクーターは全て出払った後。そのためバスを使って稲羽中央通り商店街の南側に着いた雪子はその足で走って辰姫神社に向かっていた。

 

 曇り空で今にも雨が降りそうな天気の中、辰姫神社の鳥居に辿りついた雪子は迷わずにその神社の中に続く玄関の元に行くために裏側に回る。そしてインターホンを鳴らした。

 

「……出ない。まさかもう!」

 

 しばらく待っても誰も来る気配すら無い神社の中。それになんとも言えない恐怖を感じた雪子はその扉に手を掛けて横に動かす。と、鍵が閉まっていなかった様でその扉は普通に開いた。今零は休学中であり、外に出ているならば鍵を掛けるのが普通。中に居るならばインターホンを押した時点で出てくるのが普通である。

 

「姫ちゃん!」

 

 雪子はその開いた扉から焦りながら神社の中に入ると部屋の1つ1つ見ていく。リビングまでは4部屋ほどの部屋があり、その全てに誰の姿も無かった雪子はやがてリビングの扉の前にたどり着く。そしてその扉を急いであければテーブルや本棚の置いてある場所。キッチンからは笛の様な大きな音が響き、部屋の中は非常に煩かった。そして雪子は部屋を見ている最中、見てしまった。【テーブルの向こうに倒れている人影】を。

 

「ひ、姫ちゃん!?」

 

 雪子は急いでその場に向かう。と、そこには人が倒れていた。タオルが顔全体に掛かっており、出ているのは細い足のみ。それを見て雪子は膝から崩れ落ちてしまう。そして手を震えさせながらそのタオルに手を伸ばしてゆっくりと、ゆっくりとそのタオルを捲る。最初に見えたのは【茶髪】。

 

「え?」

 

 雪子がタオルを全部捲ればそこには眠っている【りせ】の姿。雪子は訳も分からず放心状態となってしまい、しばらくその場で呆けていた。と、煩かった笛の様な音が止まる。そしてキッチンから何事も無い様に左胸辺りに花のアップリケを付けたピンクのエプロンしている零が出てくる。最初零は何故か何時の間にかに入っていた雪子を見て無表情ながら驚く。そして寝ているりせを見てしばらく考えた後、雪子の近くに立った。

 

 零の姿を見て雪子が驚く中、零は静かに紙に書いて出す。そこには『寝襲?』と言う言葉。世の中にそんな言葉は無い物の、雪子には何が言いたいのか直ぐに分かった。と同時に立ち上がると零の方を両手で掴む。

 

「違うからね! 姫ちゃんが思ってるようなことは絶対に無いから!」

 

『でも雪子、りせが余り好きじゃない』

 

「そんな事……ってあれ?」

 

 全力で否定する雪子に揺らされながらも執筆で速筆に書いたその内容に雪子は少し困惑する。雪子の頭の中では【寝襲】と言う言葉と【りせが好きじゃない】と言う言葉。それを考えて雪子は理解する。零の言った寝襲とはそう言う行為では無く、言わば命を狙う行為の方なのである。

 

 雪子が翌々思い返せば零の目の前でりせと言い争うような時や張り合うときが何度かあった。その殆どが零絡みだが、零が気づいて居ない以上。2人の仲が悪いと感じてしまってもおかしくないのだ。それに気づいた時、雪子は少し恥ずかしくなってしまう。が、冷静に対処するために口を開いた。

 

「インターホン鳴らしても出なくて、扉が開いてたから中に入ったの。そしたら部屋に人が倒れててタオルで顔は見えなかったから姫ちゃんだと思って……でもりせちゃんだったんだね。? 何でりせちゃんはここに?」

 

『遊びに来た』

 

 悠の言葉を聞いて急いできた雪子と違い、その事実に気づいて居ないりせだがそれでも自然に零のところに足を運んだのだろう。雪子には何となく分かる気がし、「そっか」と返す。と、突然轟音と共に部屋が揺れる。空を見れば既に雲りを通り越して大雨。雷もなっていた。

 

『夕飯食べてく』

 

「え? あ、うん。ちょっと電話して良いかな? 伝えなきゃ」

 

 雪子の言葉に零は頷くと再びキッチンに戻っていった。雪子は零に言ったとおりに天城旅館に電話を掛け、その後に零の手伝いをするために行動を開始した。そんな中、雪子の頭の中には悠の言葉が繰り返されていた。

 

『俺たちに出来ることは辰姫が受け入れた思いを前の辰姫の様に否定することじゃない』

 

「受け入れた姫ちゃんを変えていけば良いんだ。私達が」

 

 大事な友であり、大事な人である零を守るため。雪子は誰も答えないことを分かっていて尚、自分に言い聞かせる様に静かに呟くのだった。


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