【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

24 / 34
お待たせしました、今回で零の救出兼過去の話は【一旦】終了。今回の話で零に関する事とペルソナが明かされる訳ですが……正直な話、この話で読んでくださって居る人が離れて行くのではと怯えて居たりします。ですが零の特徴は書き始めた最初からこうする予定だったので、この先変える気が無い事をお伝えいたします。

ペルソナに関しては調べて考えて決まった結論ですので、何卒優しい目で見て貰える事を祈ります。では、どうぞ。


自称特別捜査隊 救助に成功する

『全てあんたのせいだ! あんたが生まれたから……』

 

「今の……! もしかして姫先輩の記憶?」

 

 走っていた悠達の耳に突然聞こえた女性の声。その声に全員は足を止める。そしてその声の中に含まれていた言葉、【災いの子】と言う単語を聞いてりせが声を上げる。今この場でその言葉を知っているのはお爺さんと話をした悠・雪子・完二・りせの4人だけである。

 

 この場所は零の思いが形となった場所。今までにも雪子・完二・りせ。そして前回の直斗と言う順番で同じ様な場所に入っている悠達はここで稀に聞こえる声がこの場所を作った者本人の過去や思い出あることを既に理解していた。つまり今聞こえた声は零の過去又は思いなのだろう。内容からして前者だ。

 

『あんたが生まれてから家は不幸続きだ、その忌まわしい目を持ってきたせいで! っ! 泣くんじゃないよ!』

 

 再び聞こえる女性の声。その後に聞こえたのは何かを叩いたような甲高い音。映像が流れている訳では無い。が、聞こえた内容だけで悠達は何が起きたのか理解が出来た。しかしその内容に付いて疑問を持ってしまう。

 

「辰姫さんの目って、おかしかったか?」

 

「う~ん。普通に黒かったし、何にも……あ」

 

 陽介の言葉に千枝が考え始め、やがて何かを思い出したように悠を見る。思い出した内容は悠がと零が八十神高校に転校して来た日のこと。その日、零を誘おうとして誘うことの出来なかった千枝は雪子と共に悠を誘って帰る事になった。その時に悠は言っていたのだ。

 

『目の色が違う。横顔で見た時かなり印象に残ってるから間違いない。俺が見たのは【赤】だった』

 

『? でも私達が見た時両方とも普通に【黒】かったよ? 見間違いじゃない?』

 

 その時は黒かったこともあって見間違いで流した千枝。しかしここまで来て目の話となれば見間違いと言う可能性は限りなく低いだろう。悠もそのときのことを思い出した様子であり、陽介とクマだけが「何の話だよ[クマ]?」と聞いていた。が、悠と千枝は答える事無く知っているであろう雪子達を見る。その顔は……非常に暗かった。

 

「ねぇ、雪子達は知ってるんだよね?」

 

「……うん。姫ちゃんは」

 

 雪子が喋ろうとした時、突然耳鳴りの様な音が響き始めて全員は咄嗟に耳を塞ぐ。その音は少し続き、ゆっくりと耳から手を離してもう音が鳴っていないかを確認する。と、再び声が響いた。

 

『あんたが喜べば、怒れば、哀しめば、楽しめば、喜怒哀楽のどれかを見せれば誰かが不幸になるのが分からないのかい! あんたのせいで私は、私達は不幸続きだ! 早く、早く【死んでしまえ】!』

 

 その言葉が聞こえた瞬間、悠達の目の前に突然大きな扉が現れる。それは前回零が居た扉と同じであり、全員は顔を見合わせる。そしてクマが「この先に気配がするクマ!」と言えば、全員は再び大きな扉を見た。

 

「鳴上先輩、早く姫先輩を助けるッスよ!」

 

 完二の言葉に頷き、悠は目の前の扉を開ける。と、目の前に広がっていたのは前回と殆ど同じ様な場所。その中心にまた同じ様に後姿で巫女服姿の零は立っていた。

 

 悠達は駆け出し、零の背後に着くとほぼ同時に零を呼ぶ。そしてその声にゆっくりと振り返った零は……今までと違った。髪や顔は一切変わらない。身長などが変わった訳でもない。唯1つ違うのは……【目の色】であった。

 

 悠達から見て左目。零からして右目の瞳は透き通る様に綺麗な色をした赤い角膜に濃く真っ赤な瞳をして居た。しかし良く見ればその目の中の周辺。球結膜と呼ばれる場所に巴を描く様に薄く柄が映っている。悠が見たのはこの瞳であり、勾玉の様な絵柄は色のみを見たために気づかなかったのだろう。だがそれよりも驚くのは逆の目だ。

 

 悠達から見て右目、零からして左目の瞳は普通の人の反対である黒い角膜に白い瞳孔であった。それも普通の瞳とは違い、まるで猫の様に角膜が非常に小さく鋭い印象を受ける。そして左目と同様、球結膜には巴を描く様に薄く柄が。誰でも思ってしまうだろう。【気味が悪い】と。【怖い】と。

 

「私は、災いの子。辰姫に伝わる悪しき瞳を持つ者」

 

≪っ!≫

 

 突然【喋った】零に悠達は驚く。陽介は「こんな声なのか!?」と驚くが、その他全員は唯々驚いていた。今まで喋ったところを見たことも無い人物が喋る。その光景は驚愕以外の何者でも無いだろう。

 

「私は心を持つことを許されない」

 

「そ、そんな事無い! 姫ちゃんは感じて良いんだよ!」

 

 零の言葉に雪子が否定をする。と突然零の背後に現れる黒いオーラ。それは徐々に大きくなり、全員を威圧し始める。そんな中でその光景を見てクマが驚きの声を上げた。

 

「っ! ど、どういうことクマ!? このヒメちゃんも【シャドウ】クマ!?」

 

「なっ! じゃあこの姫先輩はさっきの奴と同じ奴なのか!?」

 

「ど、どう考えても違くない?」

 

「辰姫のシャドウが……2人?」

 

 クマの言葉に驚く中、悠の言葉を最後に零がゆっくりと自分の手を前に出した。と同時に大きな突風が全員を吹き飛ばす。背後の扉は閉めたわけでも無いのに閉まっており、全員は背を打つようにして墓石や扉に飛ばされる。そして突風を出した零は無表情のまま真っ暗な空を見上げて小さく何かを呟いた後にその背後にある今までの中で一番大きな扉に向かい、あける事無く透けるように消えてしまった。

 

「だ、大丈夫! 皆?」

 

「な、何とか生きてるけどよ……」

 

「何だったか訳がわからないクマ……」

 

 痛みを堪えつつ、全員は立ち上がる。そしてお互いがお互いを労わりながら零の消えた扉の目の前に立つ。大きな扉を見て悠達が何かを感じることは無い。が、りせとクマは別であった。

 

「前回の比じゃ無いくらいの圧力クマ」

 

「多分一番奥。この先に、きっと姫先輩が居る」

 

 その言葉に悠は前に出ると振り返って全員を見る。何も言わなくてもその内容が分かる仲間たちは静かに頷き、悠はそれに頷き返すと目の前の大きな扉に手を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

≪辰姫[さん]!≫

 

≪姫[ヒメ]ちゃん[先輩]!≫

 

 扉の開けて入った悠達の視界に飛び込んだのは【2人の零の前に立つ私服姿の零】と言う驚愕の光景だった。2人の零の背後には黒影が立ち上り、1人の零の背後には何も無い。つまりその零こそが正真正銘、本物の零であった。

 

 零は突然呼ばれた事に驚いたのか、無表情ながらも後ろを振り返る。今までの零は何の反応も無かったのに対して本物は少しとは言えやはり反応がある。そのことが悠達を少しだけ安心させた。

 

『やっぱり来てしまった』

 

「拒絶した筈の存在」

 

『呼ばれて驚いた』

 

「殺しきれない感情」

 

 突然本物の零の前に居た2人の零が交互に話し始める。片方はスケッチブックを捲り、片方は零の姿に似合わず流暢に言葉を話す。そして悠達はその光景を見続け、言われている零は……無表情に自分の姿をした2人を見続けていた。

 

『生きて居たくない私は』

 

「心を持つ事を許されない私は」

 

『死ぬことを望み』

 

「感じない事を選んだ」

 

 交互に喋り続ける2人の零。それを聞いて本物の零は変わらず無表情を貫いていた。が、その肩が少し震えだした事に気づく。

 

『私は死にたい。だけど唯で死ぬのは違う』

 

「私は感じたい。だけどそれは許されない』

 

『あの人は言った、誰かの【犠牲】になれと』

 

「あの人は言った、何も無い【人形】になれと」

 

「……ぃ……ゃ」

 

『犠牲になれない私は死に場所を探し』

 

「人形になれない私は他者を拒絶し』

 

「……ぃや……」

 

 徐々に震えを大きくし。首を横に振りだした零に雪子とりせが助けに入ろうとするが、それを完二が手を2人の前に出して止める。それは前回の直斗の時と同じ行動であり、今度は言わなくても雪子とりせは止まる。ここでとめてしまう訳には行かないのだ。

 

『それでも死ねない私はやがて』

 

「それでも感じる私はやがて」

 

≪私自身に蓋をした≫

 

「……いゃ……そうじゃ……そんなんじゃ……無い。……私は……私は」

 

≪否定するの? でも無駄。貴女のことは何でも分かる≫

 

「……私は……」

 

≪だって【私は貴女】だから≫

 

「! 嫌……違う……違う! 私は……私は! 嫌ぁぁ!」

 

 2人の零の言葉に普段の零からは想像の付かない取り乱し方をして頭を抑えて蹲ってしまう本物の零。そしてその言葉を聞いて2人の零の背後にあった黒い影が大きくなる。

 

『そう、私は私。こんな弱虫なんかじゃない』

 

「自分の事すらまともに分からない私なんか私じゃない! そんな私は!」

 

≪消えれば良いんだ!≫

 

 黒い霧は瞬く間に膨張し、2つの影は一つに交わっていく。そして片方が心臓の様になるともう片方が鎌を持った何かになり、2つが1つになる。その姿を一言で表すなら【死神】だろう。だがその心と思われる者が徐々に変色し始め、最後には青紫色になってしまう。鼓動は一切せず、その身体はどこからとも無く鎌を出現させた。つまり【心無き死神】と言った所だろう。

 

≪我は影……真なる我……≫

 

「りせ、辰姫を頼む!」

 

 その姿を見たと同時に悠は非戦闘員であり、サポートを常にこなしているりせに指示を出す。りせはその指示に直ぐに「了解!」と返事をすると、気絶してしまっている零を抱き上げた。まさか出来るとは思わなかったのか、「姫先輩、軽すぎ」と若干元気をなくしたりせだが直ぐにその場から離れる。そして去っていった零を追おうとした心無き死神基零の影の目の前に悠達が割って入る。

 

≪死にたい。心が欲しい、私の邪魔……しないで!≫

 

 間に入った悠達に向けて鎌を振り上げる零の影。それを合図に悠達の戦いは始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 零の影は鎌を大きく振りかぶると横に一閃する。と同時に衝撃波の様な物が振るった場所から発生し、悠達に襲い掛かる。それは悠達に直に当たったわけでは無いが、その目の前を大きく抉った。見ただけで恐怖する光景だ。

 

「あ、あんなのに当たったら一溜まりも無いぜ!?」

 

「だったらもう1度来る前に速攻で叩き潰せば良いって話っスよ! 来い! タケミカズチ!」

 

 光景に陽介が驚く中、完二は怯む事無く目の前に手を突き出すとカードを出現させる。そしてそれを握る形が破壊すると同時に現れたのは巨大な身体に骨の絵柄をつけた巨人。その手には黄色い雷を描いたような物を持ち、完二が殴る様に手を前に出すと零の影に向かって全身。その巨体に似合う豪腕を振るう。が、その攻撃は当たったと同時に完二に【跳ね返った】。

 

「な、何今の!?」

 

「りせちゃん! そこからで良いから解析を!」

 

「了解!」

 

 千枝が驚く横で見ながらも雪子は冷静にりせに声を掛ける。現在りせは零を守るようにその部屋の端に立っており、戦闘に参加はせずに守りに専念している。もしも襲い掛かられた場合、この場に居る全員が零を死守するだろう。そんな状況でもサポートは可能なのか、りせも完二と同じ様にカードを出現させて破壊すればその背後に現れたのは女性だった。しかしその女性に顔は無く、代わりに大きなアンテナの様になっている。

 

「ヒミコ、お願い!」

 

 女性……ヒミコはりせの目の前に自分の手を翳す。その手は何かの画面になっており、りせはそれを視界に入れながら言えばアンテナから何かを受信するような光景が悠達には見えた。と、「嘘!」と驚く声をりせは上げる。

 

「物理、火、風、雷、氷、光、闇。全部……反射」

 

≪はぁ!?≫

 

 りせの言葉に全員が声を上げる。りせの言葉を簡単に説明するならば、攻撃手段の全てが反射されてしまう。と言う事である。唯一【万能】と言う属性があるのだが、今この場でそれを使える者は居ない。それはつまり悠達に【攻撃の手段が無い】と言う事である。何も出来ないのだ。

 

「せ、センセイ! 危ないクマ!」

 

 クマの声に悠が零の影を見れば鎌を振り上げている最中。急いでその場を動くと今度は確実に悠の居た場所に衝撃波が着弾した。クマの言葉が無ければ命は無かっただろう。

 

≪どうして死なせてくれないの! 何で感じちゃいけないの! 私は拒絶するしかないの? 分からない、分からないよ≫

 

「全てを拒絶していると言う訳か」

 

「冷静に分析してる場合じゃないでしょ!」

 

 零の影の言葉に理解する悠。だが千枝が言ったとおり攻撃手段が無い現状で零の影を悠達が倒すのは難しいだろう。と、突然零の影が新たな動作を見せる。青紫色となった心臓の様なそれを身体から抜き出し、目の前で翳し始めたのだ。するとその心臓の周りに紫色の光が生じ始める。それを見て何をするかは分からない物の、全員は何となく嫌な予感を感じた。そしてそれは現実になる。

 

「っ! 皆伏せろ!」

 

 紫色の光が大きく輝くと同時にその心臓を中心として大きな波紋が一度広がる。と今度はそれに連なるように衝撃波が発生、それはその部屋全てに広がったために悠達に逃げ場は無かった。咄嗟に悠が判断したものの、その衝撃波は全員の身体を吹き飛ばす。言葉通りに伏せたものは転がり、伏せることが出来なかったものは背中を壁に撃つなどしてダメージを受けてしまう。

 

「な、何だよ今の!?」

 

「姫ちゃんは!?」

 

 完二がぶつけた背中を押さえながら立ち上がる一方、咄嗟に伏せて転がる事になった雪子は零を見る。そこでは苦しそうな表情を浮かべるりせの姿。恐らく身を挺して守ったのだろう。だが今にも倒れそうであり、実際に肩膝を突いてしまう。が、苦しそうな顔を浮かべながらりせは声を上げた。

 

「先輩! さっきの技をもう1度使ってきた時が勝負みたい! あの心臓、全部の攻撃に弱いよ!」

 

「じゃああれが弱点って事!?」

 

「へっ! 希望が見えてきたってか?」

 

「次の攻撃まで頑張って耐えるクマ!」

 

 りせの言葉を聞いて勝てる可能性が出てきたため、再び立ち上がる全員。そしてその光景を見たと同時にりせはやり切った様にゆっくりとその場に倒れてしまう。それを見て悠が直ぐに向かおうとするが、完二が「俺が行くッス!」と言って2人を守るために移動する。よって実質零の影と戦う人数は悠・陽介・千枝・雪子・クマの5人。

 

 それぞれは次の攻撃が来るまで必死に攻撃を避け続け、そのときが来るのを待ち続けた。そしてしばらくした時、待っていた時がやって来る。

 

「っ! 今だ! 全力で叩き込むぞ!」

 

「おうっ!」

 

「任せて!」

 

「この一撃に全てを賭けて!」

 

「決めるクマ!」

 

≪ペルソナ!≫

 

 悠の言葉に答えた4人。そして全員が一斉に目の前にカードを出現させてそれを壊す。と、それぞれの背後に様々な異形が姿を現した。零の影は自分の心臓の様な物にまた紫色の光を溜め始めている。それを止め、終わらせるために5人は動いた。

 

「行くぜ、ジライヤ!」

 

 陽介の背後に現れたのは細い手足を持ったまるで忍者の様な姿をした異形……ジライヤ。陽介の言葉と同時にジライヤは一気に心臓の目の前に行くと風を起こし、その中に乗るようにして連続で斬りつける。素早い身のこなしでの攻撃は心臓に小さな傷を作った。

 

「トモエ、お願い!」

 

 ジライヤが攻撃を終えると同時に今度は千枝の背後に現れた女性の姿をし、両剣の様な物を持った異形……トモエが入れ替わるように攻撃を加える。蹴りや両剣を使った連撃で小さな傷が少し大きくなる。

 

「行って、コノハナサクヤ!」

 

 ジライヤ同様にトモエが後ろに下がると同時に雪子とコノハナサクヤの目の前には非常に大きな火の玉が浮いていた。そしてトモエが下がったのを確認したと同時に持っていた扇子を前に突き出す。コノハナサクヤも同じ様な動作をし、それを合図に火の玉はその心臓に着弾。燃やし始める。

 

「ゴー! キントキドウジ!」

 

 傷つき燃える心臓を見ながら今度はクマの背後に居たクマの様に丸く大きな異形……キントキドウジがその頭上にロケットの様な物を出現させる。そしてクマが思いっきり心臓に向かって指を指せばロケットを持ったキントキドウジは大きく上に上がり、そのロケットを思いっきり投降。大爆発を起こす。流石にその攻撃は大きかったのだろう。今までのも合わさって心臓に大きな亀裂が入り、零の影が大きくよろめく。

 

≪死にたいだけ! 感じたいだけ! 邪魔な貴方達を消したいのだけなのに! どうして……≫

 

 燃え盛る火の中で吼えるように言う零の影。傷ついた心臓を仕舞おうと動き出した時、燃える火が大きく揺らめく。そして爆発の煙の中から突然悠と男の姿をし、鉢巻の様な物をつけて薙刀を持った異形が姿を見せる。その異形は心臓が仕舞われる前にその薙刀の刀身を深く、深く突き刺した。

 

「これで……終わりだ! イザナギ!」

 

 悠の言葉と同時に異形……イザナギは薙刀を刺したまま大きく上に切り上げ、流れる様に横一線に心臓を切り裂いた。ゆっくりと切り裂かれた心臓から紫色の光が出現する。それは衝撃波を放つ前と同じ光景。だが衝撃波が放たれることは無く、心臓がガラスが割れる様に破壊される。と同時に零の影はゆっくりと元の姿に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「唯、感じたいだけなのに。なんで」

 

 倒れ付す2人の零の片方が呟き続ける中、何とか倒すことが出来たことで安心した悠達はこの後に何時もある出来事を思い出して気絶していたはずの零を見る。零は既に起きており、同じく起きていたりせに手を伸ばされて立ち上がっているところであった。

 

「っと。大丈夫っすか、姫先輩」

 

「ちょっと完二! 何ドサクサに紛れて姫先輩に抱きついてんのさ!」

 

「はぁ? どう考えてもこれは、って叩くんじゃねぇよゴラァ!」

 

 かなりふらついて居る様子で零は前に倒れかける。それを咄嗟に完二が支え、その光景が完二が零を抱きしめている様に見えなくなかったりせは完二の背中を叩き始めた。当然怒る完二だが、零は再びしっかりと自分の足で立つと歩き始める。自分と同じ姿をした2人の元に。

 

「……」

 

「人形であれと言われた通りのことも出来ない! なら、私はどうすれば良いの?」

 

「辰姫。過去に何があったか俺たちには分からない。だけど俺たちは、辰姫の笑顔が見たいんだ」

 

 未だに呟き続けるもう1人の自分を見ながら零は黙っていた。そしてそれを見て悠が喋ると背後に居た全員が同意するように頷く。それを見て零は小さく頷き返す。そして倒れて呟き続けている自分の目の前に立つとしゃがみ込み、その手を掴む。と同時に無理矢理起こして自分の身体でその身体を抱きとめた。

 

「……私は……感じたい……笑いたい……楽しみたい……喜怒哀楽が……欲しい」

 

 綺麗な声で零が小さく囁く様に言ったその言葉は静かなこの場ではこの場に居る全員に聞こえた。そしてその言葉の内容を聞いて零の過去などを知っている雪子とりせは思わず泣き出し始め、完二は小さくガッツポーズを取った。悠の様な零の過去を知らない者達もその言葉に思わず小さな笑みを零していた。が、次の行動に全員は驚く。

 

 零は突然同じ様にスケッチブックを無くして意思を伝えられなくなってしまったもう1人の自分も起き上がらせて同じ様に抱きとめる。そして先程よりも小さな声でそのもう1人に何かを呟くと深く抱きしめた。今度は何を言ったのか悠達の誰も認識出来ない。

 

 言葉を聞いた2人の零は突然光り始めると同時に消えてしまう。そして零の目の前に2つの顔を持つ蛇の様な姿をした異形が現れた後、ゆっくりと1枚のカードが舞い降りてくる。そのカードは赤黒い背景にカンテラの様な物と大きな目が描かれた少々気味の悪い絵柄のカード。番号はⅨと描かれている。

 

「……アンフィス……バエナ」

 

 そのカードを手に取った零は無意識にその名を呟く。そして2人の自分が消えたことで立ち上がり、振り向いた零の視界に映ったのは笑顔で迎える仲間たちと……怖い顔をした悠の姿。それを見てゆっくりと1歩踏み出した零は突如浮遊感に襲われる。零には訳も分からず、微かに聞こえた自分を呼ぶ声を最後にその意識を手放すのだった。




次回からは再び零を中心に進める予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。