【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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自称特別捜査隊 情報を集める

 9月16日。午前0時。悠の見ていた画面がゆっくりと暗闇に戻っていく。解決したはずの事件。しかしテレビにはしっかりと【次の被害者】が映ってしまった。しかもそれは自分達と何度か会話をしたことがある【白鐘 直斗】。前回と違い、非常に鮮明に映ったその映像は既に直人が【テレビの中に居る】事を示していた。

 

 悠は事件が終わっていなかった事に衝撃を受けながらも画面を見続ける。恐らく彼以外の全員も同じ行動を取っているだろう。何故ならば今回は今までと違い、2人の姿がテレビに映ったのだ。その1人が直斗であることは今、確定した。ならばもう1人は誰なのか? そう考えた時、全員の頭に1人の存在が浮かんだ。そしてその予感は現実となる。

 

 真っ暗になった筈のテレビが再び光り始める。そして映るのは荒い映像では無く、鮮明な映像。画面の中央には1人の女子生徒が立っており、大きなスケッチブックの様な物を両手で抱えながら此方を見ていた。そして徐に女子生徒はそのスケッチブックを捲る。

 

『こんばんわ。私は辰姫神社の巫女、辰姫 零』

 

「やはり辰姫か……!」

 

 女子生徒……零の手元にあったスケッチブックには自己紹介の文が書かれており、テレビの中でも喋ることがないことは直ぐに分かる。だがそれよりも悠の。いや、悠をリーダーとする自称特別捜査隊のメンバー達の心には何時も一緒に居た存在が誘拐されてしまったという現実のショックが大きかった。恐らく数人は今、取り乱していても可笑しく無いだろう。

 

『これから送るのは人や生き物に必ず来る【死】について』

 

『人は事故や病気、自殺や他殺等で【死】を迎える』

 

『動物も同じで人の手や別の生き物の手によって【死】を迎える』

 

『もしも自分の死を選べるとすれば、皆はどんな死に方を望み、どんな最後を迎える?』

 

『人の死は自分で決められる物では無い。』

 

『それでも望み、それを自分から引き寄せる事が出来るならば皆はどうする?』

 

『私の答えは既に決まってる。だから今回、私の【死】についてを送る予定』

 

『考えて欲しい。【死】と言う事がどう言う意味を持つのか。感じて欲しい。【死】によって【救われる】事を』

 

 テレビが消え、悠の部屋は真っ暗になってしまう。外から聞こえる雨音だけが響き、悠はテレビを見たまま固まっていた。しかし当然何時までも固まっていられる訳では無い。悠の携帯が鳴り始め、悠はそれに気づくと我に帰って携帯を取る。相手は……完二だ。携帯に出て最初、完二は非常に取り乱していた。しかし何とか悠は完二を落ち着かせると明日。つまり今日の放課後、全員で集まることを言って話を終える。悠は携帯をしまい、不安な気持ちを持ちながらも眠りに付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日。放課後。学校では今日1日、何時もなら居る筈の零の席は空席になっていた。陽介の隣と言う事もあり、居ないことを実感してしまっていた陽介。クマにテレビの中に誰か居るのかと質問すれば気配を感じると肯定する。その言葉に全員は今までと変わらず、事件が続いていることにショックを隠すことが出来なかった。

 

 【今までと同じ】。その話題が出た時、雪子は直斗が言っていた言葉を思い出す。『違和感がある』・『納得出来ない』・『誘拐されるのはテレビに出た人』。そしてそれを聞いて初めて全員は気づく。直斗は自分自身を囮にしたのだと。それに気づいたと同時に全員が一斉に下を向き、責任を感じるりせや直斗の行動に怒る完二。悠達が事件を解決したと思っていたのは間違いだったのか? 千枝がそれを聞けば既に答えが出ていたのか、悠が言う。

 

「俺達が捕まえた久保が殺したのはモロキンだけだ」

 

 悠の言葉に雪子が再び今までとの違いについてを気づき、それと同時に再び謎も出てしまう。が、そんな謎は完二が怒鳴る様に「そんなことはどうでも良いっすよ!」と言って有耶無耶になる。そして話題は今回誘拐された直斗ともう1人、零の話になった。その話になったと同時に雪子が何かを取り出す。

 

「今日、りせちゃんと姫ちゃんの家に行ったの。でも……誰も居なかった。それで……玄関にこれが」

 

 雪子はそう行って悠達の前に1冊のボロボロになった本を差し出す。その本が何の本かはともかく、零が読んで居た本であることはすぐに察しが着いた。と、千枝が気づいた様に「玄関って、鍵は?」と質問する。が、りせが何も言わずに首を横に振るだけ。零の様な人物が鍵を掛けていない可能性は……意外にあるかも知れないが、それでも今回のことから【何かがあった】と考えるのが普通だろう。

 

「姫先輩もドキュメンタリー番組でテレビに出てんすよね」

 

「今まで2人なんて無かった。だけど今回それが起きちまった」

 

「もし姫先輩が直斗君と別々の場所に居たら今回、2人を霧が出る前に助けなきゃいけないんだよね。きっと」

 

 今まで1人を助け出すだけでもかなり大変だった救出。しかし今回助け出さなければいけないのは2人であり、もし片方を助け出せたとしても霧が出る前にもう1人を助けなければ死人は確実に出てしまう。かと言って2手に分かれるのも非常に危険である。今までも全員で挑んで何とかなった箇所があるのだ。分かれて行動すれば危険度は格段に上がる。助けるられる側は勿論、助ける側もしっかりしていなければ元も子もない。

 

 全員は一度見合った後、テレビの中に入ることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり誰か居る……そんな、何で!?」

 

 テレビの中でりせは直斗と零の場所を探す。そして何かに気づいたと同時に突然驚き、座り込んでしまう。全員は直ぐにりせに近づき、何があったのかを質問する。と、りせは弱弱しく答えた。

 

「前と同じ。居るのは分かるのに場所が分からないの。それも直斗君だけじゃ無くて姫先輩も」

 

「ど、どういう事だよ! 何で姫先輩の場所もわかんねぇんだ!」

 

「こっちが聞きたいよ! 姫先輩の事、私確かに色々知ってるもん! なのに全然場所が分からない!」

 

 りせの言葉に今日何度目かも分からないが、全員固まってしまう。テレビの中で誘拐された者の場所を探るにはその相手の事について何か情報が必要なのだ。完二が誘拐されてしまった時、実は『趣味を馬鹿にされたりするせいで女性が苦手』と言う情報を知るまで何処に居るかは分からなかった。りせも同様に『アイドルのキャラでは無く、本来の自分を見て欲しい』と言う心を知るまで居場所を掴むことは一切出来なかった。

 

 今回、直斗の事もやはり全員が知らない何かがあるのだろう。しかし零の場合は少し違う。何故なら今この場に子供の頃に零と付き合い、今でも零と親しくしている者が3人も居るのだ。零のことは3人に聞けば大抵のことは分かってしまうと思っていた。だが現実はまったく違い、3人の情報を持ってしても零の居場所を掴むことは出来なかった。悠は考えた末、全員に言う。

 

「3人も俺達もここに居る誰もが知らない辰姫が居る。そう言う事だろう」

 

「俺達の」

 

「知らない」

 

「姫先輩」

 

 完二・雪子・りせの順で悠の言葉を繰り返す。そして悠達は直斗と零の情報を手に入れるため、聞き込みを開始することにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠達はテレビから出ると直ぐに聞き込みを開始し始めた。直斗の情報と零の情報。それを求めて唯只管色々な人に話を聞く。途中で合流すればお互いに情報を交換し、再び情報を得るために話を聞く。そんな事を繰り返していくうち、悠はとある生徒と話す。その生徒は辰姫神社に偶にお参りに行くらしく、その目的はお参りでは無く零本人との事。そして

 

「確か辰姫さん、神社でお爺さんと何時もみたいにメモでやりとりしてたよ。あの日は確か……月曜日だったかな? あんまり誰かとやり取りしてるの見たこと無いから印象に残ってるんだ。あぁ~俺もやり取り出来ないかな~」

 

 零がお爺さんとやり取りをしていたと言う情報を悠は手に入れる。元々零は誰かと意思を交わす事は避けている。自分達が零の中で極少数のやり取りをする人物であることは当然全員気づいていた。そしてそんな自分達以外に意思を交わす存在が居るとなれば、零のことで自分達が知らない何かを知っている可能性も無くは無い。悠は話をしていた生徒にお礼を言うと今度は稲羽中央通り商店街に向かう。と、そこにはりせと雪子の姿があった。悠は2人と合流すると、先程手に入れた情報を伝える。

 

「あ、多分そのお爺さん。姫ちゃんが帰ってくる前まで偶に掃除をしていた人じゃないかな?」

 

「それにしても先輩、情報集めるの上手過ぎ」

 

 悠の情報を聞いた雪子は思い当たる人物が居る様で、りせはそれを聞いた後に悠を見ながら言う。そして零についてはそのお爺さんと話すことに決め、直斗の情報も探すために再び分かれる事になる。悠に情報を貰った雪子とりせは2人で並びながら聞き込みを再開するが、その後姿は非常に重そうであった。

 

「私達、姫ちゃんの事で知らない事。あったんだね」

 

「仕方ないよ。姫先輩、昔から余り喋らないし……でもやっぱりショックだよね」

 

「何暗くなってんすか2人とも」

 

 2人が会話をしているとその背後から完二が話しかける。何処の誰が見ても暗い雰囲気を出している2人に気づいたのだろう。もしもそのまま放置すれば誰かに移るのではないか? と思うほどの雰囲気に我慢できずに完二は話しかけたのだ。2人は声に振り向き、完二だと分かると「完二(君)か~」と言って再び肩を落とす。自分だと分かった瞬間に再び気落ちする2人に完二は苛立ちを隠せなかった。が、それ以上に2人の暗さに引き気味だ。

 

「俺で悪かったっすね! 天城先輩もりせも、そんな感じになってたら得られるもんも得られ無いっすよ」

 

「でもさ、やっぱり姫先輩について知らない事があるって分かるとショックでさ……」

 

「うん。隠してたのかは分からないけど、私は姫ちゃんのこと。知ってるつもりで居たから……」

 

「だぁ~! 人には隠し事何て沢山あるもんで、知らなかったならこれから知ってけば良いじゃないっすか! くよくよしてる暇があんならとっとと姫先輩を助けて、それから色々聞けば良いだけっすよ」

 

 何とか気を取り直させようとする完二だが、2人の暗さに流石に我慢が限界に達する。そして怒鳴る様に言うと、2人は突然顔を上げて完二を見る。突然見つめられることに完二は驚きながらも「違うっすか?」と続ければ2人は再び顔を上げた後、今度は暗い雰囲気から一変して明るい雰囲気に変化した。

 

「そうだね。そうだよね。これから知ってけば良いんだよね。完二君に教えられちゃった」

 

「まさか完二に教えられるなんてね~。あんた、本当に完二? 実は別人だったりしない?」

 

「随分な言いようだなオイっ!」

 

 急に元気になった2人。雪子は悪意を見せず、りせは何時もどおりに完二に言い、言われた完二は拳を握って一歩踏み出しながら怒るもその顔は怒りと言うよりも安心と言った表情であった。そして元気を取り戻した2人は再び情報を集めるために行動を開始する。

 

「絶対助けるからね。姫ちゃん」

 

「助けたらご褒美とか貰えるかも! キャ~!」

 

「……あんたら直斗のこと忘れてねぇよな? 何か不味ったか、俺?」

 

 少し不安を残す様な言葉を言いながら去っていく2人の後姿を見て完二は少し顔を引き攣らせながら呟く。そして2人とは真逆の方向に歩き始め、彼もまた情報を求めて動き始めるのだった。


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