【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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辰姫 零 誘拐される

 9月12日。夜。悠は堂島家で菜々子と共にテレビを見ていた。何とテレビ画面には直斗の姿。稲羽市で起きた事件が解決したため、呼ばれている様だ。アナウンサーに質問をされる直斗。しかし直斗は『違和感がある』とコメントし、まだ終わっていないと言った考えを伝える。警察の会見とは違うらしく、アナウンサーは戸惑うもすぐに元に戻ると事件では無く、『探偵王子の素顔』と言う名目の質問を始める。

 

「違和感……か」

 

「お兄ちゃんの学校、たんていさん居るんだ! 凄い!」

 

 悠はテレビの中で言った直斗の『違和感』について考える。犯人を捕まえたのは紛れも無く自分達であり、自分達は違和感を感じては居ない。が、直斗は感じていると言う事に悠は何となく落ち着けずに居た。

 

 そんな悠の目の前で菜々子は純粋に悠の通う学校に探偵が居ると言う事に驚く。悠はそんな菜々子を見て考えを止めるとチャンネルを変える事を菜々子に言ってリモコンを取った。何時もなら天気予報があり、その後ちょっとしたドキュメンタリーの様なことをやって終わる番組があるのだ。毎日悠はその天気予報を見ていた。確認すれば明日は晴れだが、明後日は1日中雨の様である。

 

『今日のドキュメンタリーは【稲羽市に住む謎の巫女】。最近稲羽市では人が吊るされると言う殺人事件が起こっていました。犯人は逮捕されましたが、始まる数日前。誰も住んでいなかった神社に少女が住み込むという謎の出来事が起こっていました。そこでスタッフはその少女に取材しに向かいました』

 

「……ここは、辰姫神社か」

 

 天気予報を確認し、菜々子の見たい番組に変えてあげようとリモコンを取った悠。しかし突然テレビに見慣れた場所の光景が映り、悠はリモコンを持ったまま驚いてしまう。画面には辰姫神社が映っており、中を撮影している。そしてしばらく張り込むと言うテロップの後、制服姿の零が本を読みながら神社に入る姿が映った。そしてスタッフが話しかける。

 

「あ、お兄ちゃんのお友達だ!」

 

 菜々子は零を見て言う。どうやら菜々子も零が出ていることでこの番組で良いと思ったのか、「変えなくていいよ?」と悠に言う。悠はそれに頷いてリモコンを置いた。

 

 テレビでは質問をするスタッフに首を横に振るか頷くだけで答える零の姿。それで答えられない質問は何時もどおりにメモで答えているため、スタッフは零が喋れないのだと認識したのだろう。出来る限り質問を首だけで答えられる物に変更した。

 

 質問の内容は『どうして稲羽市に来たのか?』・『巫女服は着るのか?』・『何故この神社に住んでいるのか?』・『最近起きた事件についてどう思っているのか?』と言った内容。零は順に『叔母、死んだから』・頷く・『昔、ここ、住んでた』・『興味、無い』と答える。テレビでも何時も通りである事に悠は少し苦笑しつつも、その番組を見ることにした。と言っても零は特にスタッフを相手にしては居ない様で、巫女服を見せて欲しいといった内容等には一切首を縦に振ったりはしなかった。見世物では無いのだろう。

 

 どうやら撮影日は5日だった様で6日は雨。零は巫女服で外を掃除している事も無く、7日はスタッフ達の都合で。8、9は零自身が神社に居なかったため、それでスタッフ達も諦めた様だ。つまりテレビでは零の巫女服が公開されることは無かった。人によっては非常に気になるだろう。しかし悠も菜々子も既に見たことがあるため、そこまで気にせずチャンネルを変える。約1ヶ月前の悠ならば警戒をしているだろう。しかしもう事件は無い筈なのだと考える悠は特に気にすること無く1日を終わらせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月13日。朝。零は通学路を本を読みながら歩いていた。が、今日は何時もと違う。昨日のテレビせいで見ていた生徒が零を見ているのだ。しかし零は特に気にする事無く歩き続ける。と、少し先で悠達が集まっている事に零は気づく。そしてそれを認識すると同時に本を読むよりも顔を下にして早歩きになる。

 

 悠達のグループに近づくと直斗が学校とは間逆。つまり零に向かって逆走してくる。そして直斗は零に気づくと歩くのを止める。徐々に近づいてくる零。そして真横を通り過ぎようとした時、話かける。

 

「気をつけてください。貴女は今、危険な立場にある」

 

 直斗の突然の言葉に早歩きで通り過ぎようとしていた零は立ち止まる。直斗の言った言葉の意味が零には分からず、首を傾げる。しかし直斗は詳しくは説明せずに「それでは」と言うとその場を去っていった。

 

「あ、姫ちゃん。おはよう」

 

「姫先輩! おはよう! 昨日テレビに出たから吃驚したよ!」

 

 悠達も零に気づき、その中で雪子とりせがかなりの大声で零に話かける。が、かなりの大声。2人は張り合っている様でその場に居た悠・陽介・千枝は零に話かけてもその声によって掻き消されてしまう。しかし零は再び顔を伏せると早歩きで話かける2人の間を通り過ぎる。紙で答えることも、何か仕草をすることも無く。

 

 避けられていることには既に全員気づいているため、無理に行動を起こすことは無い。しかし雪子とりせが無視されると言う現状に分かっていてもショックを受けており、例えるならば2人とも挨拶をした体制のまま真っ白に燃え尽きた後の様になっていた。

 

「何て言うか……哀れだよな」

 

「言ってないで連れてくよ! 遅刻しちゃうって!」

 

 陽介の言葉に千枝が時間を見ながら言う。そして雪子とりせの片手を掴んで歩き始める。何故か2人は歩いていないにも関わらず、銅像の様に立ったまま移動していた。そんな光景に悠と陽介は苦笑いしながら学校に向かう。そして1階でりせを我に返して自分の教室に行く様に言うと悠達は自分の教室に入る。そしてすぐに何時もより賑わっている事に全員は気づく。1箇所の席に生徒が集まっているのだ。そしてそこは陽介の隣、零の席であった。

 

 やはりテレビの力と言うのは凄い物であり、何時もは話しかけられない零がクラスメイトに話しかけられているのだ。零は余りにも静かなので気味が悪いといった理由で避けられていた。が、テレビの効果かそんな零に何度も話かけるクラスメイト達。話せないと言う事はテレビを見た効果で知っているようだが、少しでも何か話の様な物をしたいと思って居るのか無視をされても話しかけ続けていた。

 

「うわっ、すっごいね」

 

「俺、席につけねぇじゃん」

 

 千枝は目の前の光景に純粋に驚き、陽介は自分の席にもクラスメイトが居るせいで座ることが出来なかった。千枝も零の前に席があるために座れず、結果的に悠の周りに集まる事になる。そして目の前にある群れに若干顔を引き攣らせながらも零と会う前に話していた直斗との会話について話し出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月14日。夜。悠は自分の部屋のテレビの前で0時になるのを待っていた。【マヨナカテレビ】。この稲羽市に広まっていた噂であり、雨の降る深夜0時に1人でテレビを覗けばそこに運命の人が映ると言う内容であった。しかしそこに映るのは連続殺人の被害者になる人物であり、雪子・完二・りせの3人もそれに1度映っている。無事に生きているのは悠達が助け出したからだ。

 

 事件は終わった。悠はそう思いながらも流石に不安は残るため、確認をしようとしていたのだ。部屋のカーテンから外を見れば雨が降り続いている。そして0時になり、悠はテレビを見る。と、突然そのテレビ画面が光り始めた。もしもそこに人影が映ってしまえば事件はまだ終わっていないことになってしまう。そして結果は

 

「! 終わって、居ないのか!」

 

 映ってしまった。映像は荒いため、誰だかは認識する事が出来ない。が、映ってしまったと言うことは次にこの人物が死んでしまうかも知れないと言うことであった。悠から見て何となく分かるのは帽子を被り、小柄だと言う事のみ。テレビが消え、それと同時に携帯が鳴る。相手は……陽介だ。それが分かると悠はテレビに背を向けて電話に出る。

 

『見たか!? 誰か映ったよな? 犯人は捕まったんだし心配は無い……んだよな? 誰だと思う?』

 

「分からない。ただ何となく直斗に似ている気が『相棒! テレビ見ろ!』!?」

 

 直斗に似ている。そんな考えを伝えようとしていた悠の耳に陽介の驚いた様な声が聞こえる。そして悠はすぐに振り返った。何時もならば1度だけしか映らないマヨナカテレビ。が、目の前では『2回目』が放送されていた。そこに映るのは自分たちの着る制服に似た服を着た誰か。女子用の制服のため、性別はすぐに認識出来る。しかしその映像も荒く、誰かは分からない。そして少し流れると消えてしまった。

 

『ど、どう言う事だよ!? 2人目ってことか?』

 

「取り合えず明日、学校で話そう」

 

 陽介の疑問に答えることが出来ない悠。突然の事なのだ。当然だろう。2人で考えるよりも全員で考えたほうが良いと思った悠は陽介に言う。陽介も『ああ、そうだな』と言うと電話を切った。

 

 静まる部屋。悠はテレビに映った人物が何となく【零】なのでは無いかと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月15日。早朝。零は朝早くに起きて本を読んで居た。夜と違い、現在横にキツネの姿は無い。

 

 稲羽市に帰ってきた日の翌日。朝早く起きた零は空を見上げていた。が、今現在その空は真っ暗であり、雨が降っている。昨日から続いている雨だ。何時もなら朝早くに起きて縁側に座る零も雨が降っていれば当然濡れてしまう為、こう言う日には家の中で静かに本を読んで居た。現在読んでいるのは動物の本では無い様だ。

 

 雨の音だけが響く神社の中。しかし突然そんな中に響くインターホンが鳴る。早朝のため、普通人が来る時間ではない。零は少し行動せずに何もしないで居たが、インターホンは2回ばかり繰り返して鳴ったため零は本を持ったまま立ち上がる。そして玄関の方へと向かっていき、扉を開ける音が神社の中に響いた。そして次に響いたのは何かがぶつかった様な音。続けて扉の閉まる音が響く。

 

 何秒。何分。何時間経っても零は戻って来ない。それもその筈。既に零の姿は神社には無く、玄関には何か争った様な跡。そしてまるで踏まれたかの様に所々破れ、ボロボロになった無残な1冊の本が落ちているだけだったのだから……。




次話より数話に渡って主役を【自称特別捜査隊】に移し、物語を進行致します。

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