【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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中盤
辰姫 零 修学旅行に行く


 9月1日。朝。零は約1ヶ月ぶりに本を読みながら通学路を歩いていた。この日から八十神高校は2学期が始まるのだ。周りに居る生徒達はその殆どが学校が再び始まったことに肩を落とし、かと言ってどうすることも出来ないために諦めていた。中には友との再会に喜ぶ者も居る様で、他にも夏休みに何処かに行った等の話をしている者も居る。

 

 校門の付近に近づくとそこには悠達が揃っていた。と言っても完二とりせは居ない様で、2年生組だけの様だ。陽介と千枝は夏休みが終わってしまった事にショックを受けており、雪子はそんな2人を見て微笑んでいる。悠は特に学校が嫌でも無い様で、何も言わずにその話を聞いていた。

 

「あ、姫ちゃん。おはよう。昨日は何かあっ……姫ちゃん?」

 

 近づいていた零の存在に1番最初に気づいたのは雪子。朝の挨拶をするととある質問をしようとする。が、何故か零は雪子の挨拶に頭を下げるとそのまま何もせずにその横を通り過ぎたのだ。その零の他人行儀な行動に雪子は驚いてしまう。

 

 雪子が質問しようとしたのは【昨日】について。実は悠達は全員、昨日集まっていたのだ。場所は悠の住む堂島家であり、そこで皆でスイカを食べると言う今年の夏休み最後の締め括りに近いことをしたのだ。だがその皆の中に零は含まれなかった。別に悠達が呼ばなかった訳では無い。雪子は誘われた後、りせと共に零を誘いに辰姫神社へと行ったのだ。が、残念ながら零と出会うことは無かった。そしてその結果零はその集まりに参加出来なかったのだ。そのため、どうして居なかったのかを質問しようとした。が、結果は答えを聞く以前の問題であった。

 

「辰姫さん、今日は何時にもまして静かって感じだな」

 

「でも、今のはちょっと可笑しくない?」

 

 目の前で起きた出来事に陽介と千枝は話す。雪子は去っていく零の後姿を見ており、悠も同じ様に零の姿を見ていた。雪子は相手にされなかったことにショックを受けていると言った所だろう。しかし悠は違った。去っていく零の姿がここ最近見ていた零の姿と異なっている様に見えたのだ。

 

「おはようございます」

 

「お前、あ~チビッ子探偵!」

 

 突然零の去っていた方向から声を掛けられ、全員の思考が一気に其方に移る。目の前には帽子を被った生徒。りせが行方不明になって戻ってきた時に零とも話した少年。白鐘 直斗だ。直斗は陽介の思いつきで言ったあだ名に文句を言うと何とこの学校に1年生として入ったと説明し始める。この町で起きた殺人事件についてまだ納得が言っていないとの事だ。

 

 この町で起きていた殺人事件。その犯人は高校生の少年であり、悠達の活躍によってその少年は結果的に逮捕することが出来た。8月1日に陽介が零に助けを求めた料理対決はその時の打ち上げである。零自身はどうやら余り料理対決を始める理由について興味は無かった様で、聞かれるのではないかと考えて答えを用意していた悠達が結局聞かれなかった事に安心したのは余談である。

 

 直斗は最後に悠達に向かって「よろしくお願いします、先輩方」と言うと学校の中へと入っていく。直斗が後輩になったと言う事実に陽介は「あいつが後輩?」と呟いており、全員も驚いていた。しかし少し固まっていると予鈴が響き、全員は急いで学校の中に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月3日。昼休み。零は屋上にて1人で食事を取っていた。と、突然屋上の扉が開く。昼休みのため、屋上には零以外にも人が数人居る。だが零はかなり端の方で1人食事を取っており、零の位置からは扉が見える物の扉からは零が見難い状況となっていた。

 

 知らない誰かが来たのだろうと考えて特に気にも留めない零。しかし静かに食事をしていると誰かが零に近づいてくる。そしてすぐ側にまで来ると「お久しぶりです」と声を掛けられる。零に取っては聞きなれない声だったため、零は顔を上げた。零に話しかけたのは帽子を被った少年、白鐘 直斗だった。が、零は直斗を見て首を傾げる。

 

「覚えて居ませんか? 白鐘 直斗です。久慈川さんについて7月にお聞きしました」

 

 直斗の言葉に零は思い出したのか、頷く。直斗はそれをみて「一昨日から1年生です。よろしくお願いします」と挨拶をする。恐らく知っている人物にはこうして挨拶をしているのだろう。零はその言葉に先程の様に頷くと再びお昼ご飯を食べ始めた。

 

 目の前で特に興味関心を一切示さずに食事を再開する零を見て直斗は少し新鮮さを感じる。クラスの生徒達には【転校生】と言う事もあって非常に話しかけられたりなどをした。他のクラスの生徒からもやはり視線を感じたりと、少し落ち着かない雰囲気のまま学校生活を過ごしていた直斗。だが今現在零の側に居るとそんな視線も話かけられる雰囲気も何も感じない。その事に直斗は零が周りには興味や関心を持たない者なのだとすぐに理解する。と同時に彼女が学校の中で浮いている存在であることにすぐに予想が出来た。

 

「同席、宜しいですか?」

 

 直斗の言葉に零は再び顔を上げる。そして何も言わずに食事を再開した。同席を求められて【駄目】と答える人は中々居ないだろう。特に誰か一緒に居る相手が居ない零ならば尚更だ。無言で食事を再開する零に「無言は肯定と受け取りますよ」と答えると直斗はその隣に座り込んだ。どうやら彼もお弁当をしっかり用意している様だ。

 

 お互いに無言で食事をする。会話などは一切無く、非常に重い雰囲気が2人の周りには漂っていた。屋上に居た違う生徒達は何となくその場所に恐怖を感じ、屋上から去っていく者も居る。

 

「久慈川さんとの仲は前に聞きましたが、鳴上先輩方との仲は宜しいんですか?」

 

 直斗が零に質問をする。零はその質問にしばらく黙った後、メモに書いて答えた。『分からない』と。頭の良い直斗ならそれだけで分かる。零は誰かと関係を持たずに孤立しているが故に仲の良い悪いに関して区別をつけられないのだと。しかしりせと昔馴染みなのは既に知っている直斗。そんなりせと仲良くしている悠達が零と関わらないわけが無いと思っている様で、悠達について質問を始める。が、零は殆ど答えることが出来なかった。

 

『私から、良い?』

 

「? 何でしょうか?」

 

 質問をし続けていた直斗。と、突然零から逆に質問していいかと聞かれて直斗は驚いた。自分が質問するのは普通だと思っていた物の、零から何かを聞いてくるとは思って居なかったようだ。少し貴重なことを体験した気がしながらも直斗は来るであろう質問を待つ。しかし零から来た質問は直斗に取って思っても居なかった質問であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月5日。放課後。学校が始まって数日たった頃。1,2年生は今現在8日に行う【修学旅行】についての話題で持ちきりとなっていた。教室に残る生徒達は持っていく物やどんなことをするのかを話している。だが残念ながら今年から修学旅行は勉強がメインとなるらしく、それについてショックを受けている者も多かった。

 

「あ、姫ちゃ……ん」

 

 授業が終わると同時に零は立ち上がる。何時もならば授業が終わってから荷物を片付けて教室を去って居た零。しかしここ数日の間、零は既に準備を終わらせて教室を去ることが多くなっている。そして去ろうとする零を雪子が呼び止めようとするが、何時もなら【姫】と言う言葉で止まる零が何も聞こえて居ないかの様に止まらずに教室を出て行ってしまう。そしてその事に雪子はため息を付いた。

 

「何か、辰姫さん。最近何時もと違くね?」

 

「あたし、やっぱりちょっと可笑しいと思うんだけど。特に雪子、辰姫さんとしばらく話せて無いよね?」

 

 そんな姿を見て陽介が悠に聞くと千枝が雪子に質問する。そして雪子はその質問に悲しそうに頷いた。この場に居る全員がそれだけで今の零が【何時もと違う】と感じる。

 

 雪子は学校の日、1日に1回は零と話しをしていた。例え話になっていなくてもだ。だが学校が再開してから既に5日。雪子は会話は愚か、一方的な話さえ出来ていなかったのだ。そしてそれが普段とは違い、【おかしい】と言う事がこの全員にはすぐに理解出来た。

 

「屋上に辰姫は居ないのか?」

 

「うん。ここ最近残って本は読んでないみたい」

 

「辰姫さんって一人暮らし何だよな? じゃあ家の用事って可能性は低いよな」

 

「【避けられてる】……とか?」

 

≪!≫

 

 千枝の何気ない一言に3人の視線が一気に集中する。行き成り全員から注目された為、千枝は驚いてしまう。どうやら何となくで呟いた一言が的を得ていた様で、千枝の言葉を聞いて悠が「可能性はある」と答える。そしてその言葉に陽介が頷いた。

 

「で、でも何で避けるのさ?」

 

「んなの分かんねぇよ。けど可能性はそれが一番高けぇんだ」

 

 千枝は自分で言った事について質問するも、その答えを持っているものはここには誰1人居ない。しかし陽介の言う通り可能性としては一番高いと言って良いため、4人は自分達が零に避けられていると言う可能性を考えて話を始めることにする。

 

 同時刻。零は真っ直ぐに帰宅していた。そして神社の目の前の鳥居を潜ろうとした時、零は突然声を掛けられる。その声は今まで聞いたことの無い声のため、零が振り向くとそこには肩にカメラらしき機械を掛けた男性とマイクの様な物を持った女性が立っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月8日。午後。修学旅行先である辰巳ポートアイランドと言う場所にある学校、月光館学園の目の前で悠達と零は並んでいた。目の前には非常に大きな学校。八十神高校の数倍はあるだろう大きさだ。そして現在、月光館学園の校長による非常に長いお話が行われていた。

 

 八十神高校の校長の話も長いものであったが、ここの校長はそれ以上に長い。そのせいで非常に聞いている全員が眠気を感じていた。そしてその聞いている内の1人、零は現在目を瞑って頭が倒れそうになれば戻り、倒れそうになれば戻りと完全に船を漕いでいた。その光景に雪子は鼻を咄嗟に抑えると何とかして零を起こそうとする。しかし残念ながら効果は無く、結果として零は立ったまま寝ると言う非常に凄い技をやり遂げてしまう。

 

 零が目を覚ました時、既に移動の時間となっていた。どうやらこれから月光館学園にて【特別授業】を行うとのことだ。修学旅行に来てまでの授業に殆どの生徒が絶望し、しかし嫌々でも行うしかなかった。悠達と零のクラスは江戸川と言うメガネを掛け、少し気味の悪い笑い方をする先生による授業。内容は先生の話をほぼ聞くのみで特に何かを書いたりする必要は一切無かった。

 

 そんな修学旅行だと言うのに地獄に近い時間が終わり、夜になると今度は全員が泊まるホテルに向かう事になった。諸岡 金四郎亡き後、2-2組の担任は柏木 典子先生へと変わっていた。が、この先生。諸岡とは別の意味で非常に嫌われている先生である。と言うのも自分のことを綺麗だと思っている節や、他にも女子への扱いが酷かったりと色々あるのだ。そしてそんな柏木によって決められたホテル。そこはシーサイド・シティホテル【はまぐり】と言う看板が置かれている非常に疑問に思ってしまうホテルであった。

 

 目の前のホテルを見て生徒達が一様にこのホテルが普通のホテルでは無く、ホテルの上にカタカナ二文字が付く子供が来てはいけないホテルの様に感じる。一言で言ってしまえば『怪しい』ホテルである。

 

 柏木によって中に入る様に指示を出される生徒達。その最後尾に悠達もおり、零は悠達よりも少し後ろを本を読みながら歩いていた。と、突然陽介が「殺気! 上か!」とまるで頭の痛い人の様な言葉を言う。だがそれは本当に感じた物であり、悠達の目の前に突然丸い何かが現れる。それはクマの様なぬいぐるみ……クマであった。残念ながら零はクマの中身しか知らないため、全員の横を素通りしようとする。が、どうやら彼らの中で勝手に話は進んでいた様で

 

「ヒメちゃんもデートしてくれるクマか?」

 

 クマの横を通ろうとした時、突然零は話しかけられる。見たことも無いぬいぐるみにいきなりデートをしてくれるのかと質問されれば誰であろうと立ち止まってしまう物。流石の零もその1人であり、突然の質問に首を傾げてしまう。と、何を思ったのか突然クマに手を伸ばし始めた。そしてクマに。いや、クマの毛皮に触り始める。

 

「むふふ、美少女に触られるなんてクマ、し・あ・わ・せ♪」

 

「皆で一緒にね? クマ君それで良い? 良いよね?」

 

「ヒッ! わ、分かったクマからユキちゃんその目は止めて欲しいクマ!」

 

 零に触られて嬉しそうな顔をするクマ。しかし雪子の言葉で突然怯えだしたため、零からクマの毛皮が離れる。そこで零は初めて自分が悠達と一緒に行動する事になっているのに気づき、メモに何かを書き始める。が、書き終わる前に柏木が現れて部屋割りで揉めているのかと質問されてしまう。その時にクマの存在に気づいた柏木に悠が「お土産です」と答えると一緒に入る様に言って柏木は戻る。そして全員はそれを見て中に入り始めた。その結果、零はメモに書いた【私、行かない】と言う内容を見せることが出来なくなってしまうのだった。


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