【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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お待たせしました。今回で序盤は終了、と考えています。


辰姫 零 夏休みの後半を過ごす

 8月20日。夜。零は神社の中で巫女服を着たまま静かに縁側に座り、本を読んで居た。そしてその横にはキツネが静かに零の横で座っていた。

 

 何時もならば非常に静かな空間。聞こえるとしても鈴虫程度の音しか聞こえないはずの空間。しかしこの日は違う。静かとは程遠い音が神社の目の前で発生しており、零は本を閉じると立ち上がる。そして腕時計を見る。時間は20時丁度だ。

 

 零は読んで居た本を巫女服の懐にしまう。そして一度中に入ると、座っていたために少し乱れてしまった巫女服を直す。その後、零は前々から用意していたとある物を持って神社から外に出た。零が賽銭箱のある神社の目の前に行けば……屋台が並び、人が沢山そこには存在していた。巫女服を着た零の姿も、越して来てから4ヶ月経てば流石に見慣れた者もおり、何も言わない。が、初めて見る者からすれば驚きの光景だろう。

 

 零は少し視線を受けながらも賽銭箱の目の前に立つ。そして階段には上らずにその斜め前の土を数回足で払うとそれを振りかぶり、勢い良く【突き刺した】。その行動に一部の人間は驚くも、すぐにその刺した物がどんな物なのかに気づくと今度は零に少し優しい視線を送り始めた。

 

「あ! 居た!」

 

「ん? ……お前は」

 

 零は手を少し払って本を取り出そうと服の中に手を入れた時、突然掛けられた声に振り返った。そこには悠の従妹……菜々子が浴衣を着て片手に綿菓子を持った状態で居り、その後ろに無償髭を生やした凛々しい男性。零は最初2人の姿に首を傾げるが、菜々子が近寄ってきたために気にする事を止める。

 

 『神社に居る』と料理対決の時に零は菜々子に教えていたため、菜々子は零の存在を確認しに来た様だ。そして菜々子は笑顔で「お兄ちゃん達も来てるよ!」と言う。零はその言葉に頷くと後ろに居る男性に視線を向けた。そしてそれに気づいた菜々子は「お父さんだよ!」と零に言う。菜々子の会話を邪魔しない様にしていた様で、自分の話になると同時に男性は1歩前に出た。

 

「父の堂島 遼太郎だ。どうやら菜々子と仲良くして貰っている様だな」

 

 男性……遼太郎の言葉に零は首を縦に振る。何故か喋らない零に少し疑問を持つ遼太郎。だが菜々子が耳を貸してと言う仕草をした為、耳を近づけると小さめな声で「いつも紙で書いてるの。しゃべれないんだって」と零について説明した。そしてそれを聞いた遼太郎は顔を上げると菜々子に頷いた。

 

「お前、4月に歩きながら本を読んでたよな? まさかと思うが、またやったりしてないだろうな?」

 

 零は遼太郎の質問に首を傾げる。実は零と遼太郎は四月の零が八十神高校に転入した日に会っており、その時に立ち読みしていたのを遼太郎によって注意されている。だが残念ながら零は一切そのことを忘れており、遼太郎はその行動に何となく答えが分かったのかため息を付く。が、菜々子が「ケンカ?」と質問した為遼太郎は話をやめる事にした。

 

 菜々子は他にも行きたい所があるらしく、遼太郎に「金魚すくいやりたい!」と笑顔で言うと遼太郎は零に「読みながらは危険だからな、やるなよ」と言って菜々子と共にその場を去って行く。その後姿を見つめる零。しかししばらくすると今度こそ本を取り出して看板の少し後ろ、賽銭箱の横に座り込むと本を読み始めのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫先輩発見!」

 

 本を読み始めて数分すれば突然聞きなれた声が零の耳に聞こえる。顔を上げれば少し離れた場所に浴衣姿のりせが立っており、その後ろには同じく浴衣姿の千枝と雪子。そして何時も通りのクマが立っていた。そしてそのかなり向こう側に悠・陽介・完二の3人が居る。何故か悔しがっている様だ。

 

 4人が零に近づく。零は読んで居た本を懐にしまい、立ち上がると4人に近づいた。その時にクマが零の服装を見て「浴衣じゃ無いけど何か良いクマ!」と呟き、その瞬間寒気を感じたかの様に背筋をピンとさせる。実はクマの台詞に殺気を放った者がこの場に2人居たのだ。当然分かる筈の無いクマは何も言わずに顔を青くする。が、誰も心配をしない。放った2人は勿論、零は気づいて居らず、1人はクマの状態に苦笑いするだけであった。

 

 千枝がふと何時もは無い筈のものが賽銭箱の前にあるのに気がつく。それは看板であり、その看板には達筆で『←縁結び・200円 多分効果あり』と書かれていた。そしてそれを見て千枝は少し呆れると同時に微笑ましくも感じる。雪子とりせもそれに気づいた様で、看板を見た。と同時に何も言わずに縁結びの方角に歩き始める。零はその行動に首を傾げるが、千枝は分かったためにため息を付いた。

 

「チエチャン、ため息をつくと幸せが逃げるクマよ? ヒメちゃんはこの後何かするクマか? 良ければ皆で回るクマ!」

 

 そんな千枝にクマは言うと零を誘い始める。千枝もクマの言葉に零を見るが、零は首を横に振ると紙で答えた。『今日、神社。離れる気、無い』と。一瞬何故だか気になる千枝。しかしすぐに答えは出た。

 

 祭りに来ている中には子供も多数居る。少し前まではずっと誰も住んでいなかった神社のため、もしかしたら遊びで入り込む可能性もあるのだ。零はそれを考えて見張りをしていたいのだろう。外に出ているのは左右どちらからも回りこめるため、今の位置が一番全てを見回せるからだろう。本を読んでいる物の、何となく零には可能な様に千枝は感じた。

 

 クマは零の答えに少し残念そうな顔をして諦める。と、離れていた雪子とりせが戻ってきた。そしてりせはふと思い出した様に零に「姫先輩、どう?」とその場で一周する。その行動は誰が見ても『浴衣が似合っているか?』と言う質問であり、零は静かに頷くだけで答える。が、それだけでもりせは「やった!」と喜んだ。そしてその横に居る雪子は唯静かに黙っていたが、我慢できなかったのか「私はどうかな?」と質問をする。

 

『雪子。やっぱり浴衣。似合ってる』

 

 と零が意思を伝えると「そうかな?」と非常に嬉しそうな顔で照れる様に顔を下げた。やはり旅館の娘と言う事もあり、それで居て大和撫子の様だと学校でも言われている雪子だ。浴衣は非常に似合っていた。そして零はその事を唯普通に伝えただけである。

 

 その後りせがクマと同じ様に零を誘うも、零はクマに見せた紙をそのままりせに見せた。そしてりせも千枝と同じ答えに至ったのか、肩を落として諦める。

 

『祭り。楽しんで』

 

「姫先輩が居ないと楽しさ半減~」

 

「あんま無理言わないの。雪子も無言でショック受けてないで、ほら行こ? それじゃあね、辰姫さん」

 

 零の意思にりせは再び肩を落として呟く。が、流石にこれ以上は迷惑と感じたのか千枝がりせに言うと、同じく隣で無言のまま肩を落としている雪子にも言い、クマに関してはほぼ引きずる形でその場から離れる。その際に零に別れの一言を言うと零は静かに頷いて本に視線を戻した。が、すぐに本を読むのは中断することとなる。

 

 千枝たちが去っていってすぐに今度は入れ替わる形で悠達が零に近づいてきたのだ。陽介が「よう、辰姫」と言って零に話しかけたため、零は1ページも進む事無く再び本を閉じる事になった。顔を上げれば真ん中に悠。右に陽介。そして左に完二……の後ろの姿が零の視界に移る。

 

「? 完二、どうしたんだよ……ってあ~。なるほど」

 

 完二が後ろを向いているのに気づいた陽介が話しかけるが、完二の顔を見たのだろう。その瞬間何かに納得した様に頷き始める。零は分からず首を傾げるが、陽介は元の位置に戻ると「ま、気にすんな」と零に言う。しかしそれだけで終われば良かったのだが、

 

「ああ、恥ずかしいだけだ」

 

「な、何言ってんすか鳴上先輩!」

 

 悠の余計とも言える一言で完二が怒る様に振り返る。そして零の姿を見た。実は完二、零の巫女服姿を見たのは今回が始めてである。遠目で零の姿を確認していた完二は最初から気づいていたため、ああやって視線を逸らしていたのだ。が、残念ながら隠していたい気持ちは完全に悠によって暴露されてしまう。勿論悠に悪気は一切無い。

 

 完二は振り返ったまま零の姿を見る。かなり見続けているため、見つめられている零は首を傾げた。そしてその仕草がある意味攻撃となり、完二の鼻から赤い液体が流れ始める。そしてその事に驚き焦り始める陽介。どうやら3人ともティッシュなどは持っていない様で、零が巫女服の中に手を入れるとポケットティッシュを取り出す。そしてそれを完二に渡した。

 

「ひ、姫先輩のティッシュ……」

 

「完二。お前マジで変態っぽいからその表現は止めろ。つうか早くその鼻血を止めろ! ちょっとこいつの顔洗わせて来るわ」

 

 完二は受け取ったティッシュを見ながら呟き、その言葉に陽介は若干引きながら言うと水場に向かって完二と共に歩き始めた。結果周りに沢山人は居るものの、空間的には2人きりになってしまう。そして最早恒例に近い会話の無さに悠はどうしようかと迷ってしまう。と

 

『縁結び。やる?』

 

 悠は突然来た零の質問に少し驚いてしまう。と同時に自分が切り出さなくても会話の様なことが出来る事に少し嬉しさを感じ、悠は零の質問に「そうだな」と言うと縁結びをする場所に向かう。そして相手を選び、お金を入れる場所に入れて戻る。零は悠がしっかりとお金を入れたのを確認していた様で、『毎度あり』と神社のお御籤とは思えないことを悠に伝える。無表情なのは最初と変わらない物の、初めて出会った頃に比べると少し変わっている様に悠はこの時大きく感じた。そして悠は何となく零を支えた様な気がし、信頼を感じる。そしてそれは悠の力をまた1つ強くした。

 

 そんな事をしていると陽介と完二が戻ってくる。そして少しその場で会話をした後、悠達は屋台を回るためにその場を離れる事にした。その時に陽介が海への話がやはり無理かを零に質問するが、零は参加しない意を伝える。流石に強制は出来ないため、陽介は仕方なく諦めた。

 

 悠達が去った後、零に話かける者は誰も居なかった。そのため夏祭りが終わるまでの間、誰も神社の裏に行こうともしなかった事で零は本を読み続けるだけで終わる。人が少なくなってくると流石に大丈夫と感じたのか零は神社の中に戻る。そして縁側で本を読み始めた。そしてその隣には何時の間にかキツネ。外に出る前とまったく同じ状態だ。そしてこの日、無事に夏祭りは終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8月30日。夜。この日花火大会が行われる予定で、零は雪子とりせによって一緒に皆で見に行こうと誘われた。元々人混みが苦手な零に人が沢山居るであろう場所への誘い。【穴場】と雪子たちは零に説明していた物の、穴場と言うのは結局見つかっていることが多かったりするのが現実なのだ。零はこの日、その誘いを断った。現在縁側で何時もの様に零は本を読み、キツネがその横でこれまた何時もの様に座っている。

 

 突然何かが上がる音がする。キツネがそれに耳を立て、零も顔を上げる。と同時に空に大きな光が花の様に1つ弾ける。そしてその1つを合図に沢山の光……花火が空へと舞い上がり、その光が縁側に座る零とキツネを照らしていた。

 

 零は本から目を離してしばらくその花火を見続ける。何度も弾ける大きなその花に何かを感じているのか、零は一切目を離すことは無い。と、突然キツネが『コン!』と吼える。そして零の横から更に近づいて常に触れている様な位置にまで移動すると、その場で静かに座り込んだ。零はキツネその行動で我に返った様に頬を触る。その頬は濡れており、その時初めて自分が【泣いている】事に気づいた。そしてすぐにそれを【全力で否定】する様に顔を大きく振る。

 

「…………やっぱり……駄目」

 

『!』

 

 突然小さく呟いた零。キツネは零の喋っている姿を見た事など一度も無いため、驚きからか耳を立てて顔を上げる。零は再び花火に視線を戻しており、瞳からは涙が溢れる様に出ていた。だが零はそのことを嫌がっている様で目から出る涙を必死に堪え様としており、頬を何度も何度も袖で拭き続ける。

 

「…………私は……戻れない」

 

 その言葉と同時に最後の大きな花火が撃ちあがる。そしてそれが消え、光が収まった時。零の顔は無表情に戻っていた。しかしそれは夏祭りの時に悠が感じた少しずつ良くなっていた顔ではない。悠達と初めて出会い、雪子と再会した時の【誰とも関わりを持っていなかった頃】の無表情であった。キツネはその零を見続けるだけで何も行動を起こさない。いや、起こせなかった。

 

 悠達が笑顔で花火や夏祭りの時の話をしている今この時、1人の少女が【歪んだ決意】をする。




次回より中盤。内容的に悠中心の【自称特別捜査隊】のみが出るお話もあるとおもいますので、ご了承ください。

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