【凍結中】ペルソナ4 ~静寂なる癒しを施すもの~   作:ウルハーツ

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辰姫 零 夏のテストを終える

 7月23日。放課後。教室内はテストが終わったことによる開放感に包まれていた。

 

 前回同様に陽介は悠の席に近づくと終わった事に安心して欠伸をする。千枝は雪子と共に問題の答えを確認中だ。どうやら勉強会の成果はそこそこ出た様だが、それでも間違っている部分はかなりある様で千枝は肩を落とす。今の見直しは英語の様だ。そしてそれに陽介が「一生日本暮らしだな」と笑顔で茶々を入れる。

 

 と、背後の扉が開いてそこから完二とりせが入室する。りせの表情は暗く、まるで周りに黒いオーラがどんよりと出ているかの様に全員は感じる。そしてそれを見て真っ先に陽介が「ここにも負け組が居やがった」と呟くとりせは顔を上げて抗議した。アイドルのため、『いざとなれば通訳をつけるから英語を勉強する必要は無い』との事だ。

 

「姫先輩はどうだった?」

 

「仲間探しなら無理だぜ? 辰姫さんは天城と並んでクラスでトップだからな」

 

「何で花村が自慢げに話すのよ」

 

 りせの質問に零ではなく陽介が答え、その時に少し自慢するような態度だったので千枝が突っ込みを入れる。そしてそれを聞いてりせは「さっすが姫先輩!」と言うと今度は悠に質問した。悠は「ペンが止まらなかった」と答え、りせは零同様に「先輩も違うなぁ」と呟いく。

 

「ま、やっぱ勉強会をしたのは良かったかもな。俺も前回よりは自身あるし」

 

「ねぇ、まだ10月・11月・2月って3回テストがあるんでしょ? だったらテスト前にまた皆で勉強会やろうよ」

 

「『やろうよ』って……私達教えられる側で教えてくれる側が良いって言わなきゃ駄目だって普通」

 

 陽介は数日前に行った勉強会を思い出した様に言うと、りせが提案する。千枝は言い方が可笑しい事に注意すると教える側である雪子、悠、零の3人を見る。視線に気づいた雪子は「別に構わないよ」と答え、悠も「俺も構わない」と同意する様に答える。

 

「辰姫さんは良い?」

 

 千枝の言葉に零は否定も肯定もせずに黙り続ける。が、しばらくした後に『出来る時だけ』と紙で書いて答える。と同時に立ち上がった。どうやら帰る様で、千枝がお礼を言うと雪子がそれに続いて「明日、見に行くからね」と零に言う。零はそれに静かに頷くと教室は退出した。

 

 去っていった零を見送る6人。が、途中でりせが「見に行くって何の話?」と雪子に質問した。雪子は少し笑うだけで答えを言わず、りせがそれに関して不審に思う。そしてその状態が不味いと感じた完二は話を逸らすために今起きている事件についての話を切り出し、6人はフードコートへと向かう事にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7月25日。昼休み。テストの結果が張り出され、様々な生徒が確認に向かう。零も雪子と千枝に連れられて確認に向かった。そして張り出されている結果を見る。

 

「え!? 一番上が雪子じゃない!?」

 

 最初に千枝がその紙を見て驚いたように声を上げる。それもその筈。何時もなら一番上にあるはずの雪子の名前があるべき場所に無かったのだ。一番上に書かれていたのは【1 辰姫 零】。その時点で今回雪子は1番では無いことがすぐに分かる。そしてその零の下には何と【1 鳴上 悠】と言う名前。その光景に陽介が自分の事の様に喜んで悠に話かける。雪子の名前は悠の1つ下。2番目であった。その光景に千枝は絶句する。

 

「何処か間違えちゃったのかも。にしても姫ちゃんはまた1位だね」

 

 絶句する千枝を横に雪子は特に気にしない様子で紙を見た後、零に笑顔で話かける。誰にでも稀に間違いがあることはあり、今回雪子にそれが起きてしまったのだ。だが雪子は悔しがることも何もせずに零を褒める。千枝は「雪子も間違えるんだ」と親友の中々見ない出来事に驚きながらも呟いた。

 

「あ! 先輩達早~い!」

 

 しばらくするとりせが現れる。その背後には完二も居るが、何故か完二は目を瞑っていた。りせはそんな完二を見た後、1年生の結果を見て

 

「完二は64番目だよ」

 

「何勝手に人前で暴露してんだゴラァ!」

 

 完二が何番目かを周りに居る人物が普通に聞こえるほどの音量で言う。自分の順位を暴露されれば怒るのは当然。叫んだ完二にりせは特に怖がった様子を見せずに棒読みで「完二こわぁい!」と言いながら零の後ろに回り、零の背後に隠れる形で完二を見る。完二はりせが零の後ろに回ったことで叫べば零に言ってる様な状況になってしまうと感じたのか、「テメェ後で覚えてろよ!」と言うとその場を去っていった。そしてりせは完二が居なくなると零の後ろから離れて自分の順位を確認する。余りにもマイペースなりせに悠達は苦笑いした。

 

「にしても流石だぜ相棒! まさか別の意味で天城越えするとはな」

 

「鳴上君って凄い頭良いよね。前回から一気に1位ってかなり凄いんじゃない?」

 

「いや。今回は偶々かもしれない」

 

「偶々だとしても1位なのは本当なんだからやっぱり凄いよ」

 

 陽介が切り出した話に千枝が言うと悠は謙遜する。恐らく本当にそう思っているのだろう。飾らない態度に全員が悠の事を【良い人物】だと改めて認識する。

 

 雪子の言葉に千枝が「偶々で1位にはなれないでしょう普通」と苦笑いしながら答え、ふと騒がしかったりせが紙を見てからずっと静かなことに気づいた。そして全員がりせを見れば、

 

「か、完二よりも下……嘘」

 

 まるで燃え尽きた様に真っ白になっていた。1年生の紙を確認すれば完二の7名下に【71 久慈川 りせ」と書かれているのが全員の目に止まる。りせはかなりそれがショックだった様だ。今度は全員が再び苦笑いしてしまう。と、りせが「こんな屈辱を受けるなんて!」と泣いた顔で零に抱きつく。零は無表情だが仕方なくと言った感じでりせの頭を撫でる。相当ショックだったのだろうと全員が少し可愛そうに感じるが、それは一瞬で無くなった。

 

「うぅ。グスッ!……ふふ」

 

 りせは泣く様な声を出した後に零の見えない位置で笑ったのだ。零はりせの頭を撫でるだけでりせの顔は見ていないため、それには気づかない。が、零の背後やりせの顔が見える位置に居た全員はりせの笑顔を見逃さなかった。流石アイドルだと思う悠達。だが1人だけそれを良しとしないものが居た。

 

「そろそろ戻らないと昼休み終わっちゃうよ。ほらりせちゃんも」

 

 雪子はその笑顔に気づいた瞬間にすばらしい笑顔で2人に近づいてりせと零を引き離す。あの雪子には想像の付かない少し無理矢理な剥がし方で。りせは雪子を恨めしそうに見るも、雪子の言うことは本当で昼休みはもうそろそろ終わってしまう。渋々と言った感じで教室に戻るりせ。雪子も零に「戻ろっか」と言って後ろに居る悠達に視線を移す。そして悠達は頷くと全員で教室に戻り、午後の授業を受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日。放課後。陽介は完全に開放されたことに喜び、悠に夏休みについての話を始める。そう。もうすぐ学生には嬉しい夏休みの時期なのだ。悠と陽介は原付の免許を持っているため、バイクに乗ることが出来る。なので遠出も可能なのだ。

 

 会話をしていると何時もどおりにりせと完二が教室に入室してくる。どうやら陽介のバイクはテントの時に一緒になった女子、大谷 花子によって破壊された様で、それが直ったということに完二は驚いていた。そして何があったのかを聞いた千枝に完二が『ナンパに失敗した』と答え、誤解する千枝と雪子。陽介は必死に否定すると夏に何処かに行こうという話しに戻した。候補はやはり【海】の様だ。

 

 海と言う言葉に雪子はずっと行っていなかった様で、行きたそうな表情を浮かべる。千枝は思い浮かぶことを言うが全て食べ物に関してであり、陽介はそれに「お前はマジで食うことにしか興味無いよな」と呆れてしまう。

 

 この場に居るのは完二以外全員が16歳以上らしく、免許は取れる年に達していることが会話の中で判明する。雪子は旅館の仕事用の。りせは事務所の貰い物。千枝はバイク好きの親戚が居る。と言う理由から免許を取ればバイクを手に入れる伝があるらしいことも分かる。完二は自転車で駅まで行けたと言う実績があることから大丈夫だろうと納得。そして

 

「辰姫さんはバイク、あるか?」

 

「無かったら事務所に頼んで分けてもらっても良いよ!」

 

「うわ、アイドルの力って凄いね」

 

 この場で1人解決していない人物。零に陽介が確認を取る。そしてりせがバイクについては問題ないとでも言う様に零に言うと千枝が引き気味に呟いた。そして全員が零の答えを待つ。ペンを取り出し、メモに書き始めた零の姿に少し緊張する6人。そして

 

『無い。いらない。行かない』

 

≪……≫

 

 零の答えに全員が黙ってしまう。今の話の雰囲気から行けると思っていた全員。しかし零の行けないという予想外の答えに楽しい雰囲気から一転、重い雰囲気に変わってしまった。

 

「め、免許なら簡単に取れるよ! きっと!」

 

「事務所も持て余してるくらいだからバイクの事は遠慮しなくても良いよ!」

 

 何とか説得しようとする千枝とりせ。やはり仲間外れにはしたくないのだろう。先程の答えの時、『行かない』と零は答えた。【行けない】では無く【行かない】である。つまり何か用事があるという訳ではないのだとすぐに分かったのだ。他の4人も来る様に説得しようとするが、零はどうやら行く気が一切無いらしく首を横に振るだけだ。どう説得しても首を縦に振ることの無い零に雪子とりせが一番気落ちしていた。

 

「……何か問題があるのか?」

 

「! そっか、目……」

 

「目? 目が何かあんのか?」

 

「え、あ、ううん! なんでもない!」

 

 悠が少し心配しながら質問するとその質問にりせが呟く。そしてその呟きを陽介はしっかりと聞いており、りせに質問をした。りせはすぐに笑顔になると答えを言わずに首を振る。と同時に零が席を立った。そして静かにりせを少し見た後、教室を出て行ってしまう。残ってしまった6人。無言が続くが、陽介によって何とか話が戻る。残念ながら海に関して零は不参加となる事が決定したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日。夜。零は家の目の前の掃除を終わらせた後、中に入って夕飯の支度をする。ここ最近、零は自分で作った料理を食べる様になっていた。雪子の行動の影響もあり、習慣になりつつあるのだ。

 

 キッチンに立ち、簡単な料理を作る零。そして1人前の料理が出来た後、零はまったく違う食べ物を作り始めた。それは自分が食べる分では無く、

 

『コン!』

 

 居間に居るキツネが食べる分である。夕飯時になると現れるキツネ。キツネは色々なものを食べるため、ふと1度餌を上げてからと言う物毎回上げる様になったのだ。しかし零以外に人が家の中に居た場合は来ない様で、零はどうして自分の時だけ出てくるのか疑問に思ったりもする。

 

 食べ物を用意して静かに手を合わせてお辞儀をするとキツネにも作った食事を少し渡し、零自身も食事を開始する。神社の中は静寂に包まれている物の、1人ではないと言う現状は非常に今の雰囲気を良くしていた。

 

 食事を終わらせ、食器を洗った後はお風呂に入る。そして何時もなら本を読む零だが、この日は本では無くテーブルに向かっていた。テーブルには沢山の封筒。かなり前から始めているアルバイトの封筒貼りだ。夜に何時間かひたすらやり続けるだけでかなりの金額を稼げるため、零は1週間に5,6回行っている。因みに悠も同じ仕事をしており、悠は3時間で5千円稼いでいるのに対して零は3時間で3千円程度である。が、1人暮らしで出費が少なめの零にはそれでも余るほどの給料だ。

 

 ふと封筒が大きく動く。そこを見てみればキツネが器用に封筒を貼ろうと努力していた。1つ貼るのに零は10秒~20秒で終わるが、キツネの場合1つ貼るのに40秒ほど掛かっている。が、貼れるだけでも凄い事だろう。零はキツネの頭を撫でると少しだけ封筒を分けてキツネの触れる位置に置いておく。そして封筒貼りに集中することにした。1人と1匹が頑張った結果、この日は3時間で4千5百円程のお金を稼ぐことが出来た。そしてその日以降、キツネも手伝える日には手伝うようになるのだった。


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