異世界より”超高校級”が参戦するようですよ!   作:ヤッサイモッサイ

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本編をお待ちの方。すいません今回も番外......というか前回のものを無理やり終わらせました。次回こそは本編です......と言いたいのですがどうでしょう、そちらは全く進んでおりません......申し訳ない!
だからとはいいませんがしゃべることも特に無いのでまぁとりあえずまえがきは短めにパッパと番外に行きましょうかね?それでは番外です、どうぞ!


番外 孫子曰くパンツは愛の現象である

さて、前回まるごとを事のあらまし……否むしろあらすじに使ってしまった今再度前回を長々と振り返っているとまた一話の始まりから最後まで二人分のセリフしか挟めない程度にしか時間が進まないなんてことが起こるので簡潔に済ませようと思う。

前回のあらすじ────────パンツ曰くパンツはパンツでありパンツでない。そうパンツとは(以下略)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

状況を整理しよう、現在持ちうるスペックの限りを尽くして潜伏しているのがノーネーム居住区にある巨大な風呂である。

外には同じく持ちうるスペックの限りを用いて俺を探している問題児達がそれこそ子供を含め百人単位、持ち物はおびただしい数のパンツのみ……いやだって考えても見ろ。いくら渡されたからとはいえ正気の当人には大事な物のはずだ。そこらに捨てるわけにも行かないし何よりもそれは清潔ではない。ついでにパンツが散乱したコミュニティなんて壊れてしまえとすら思うし十六夜が向こうにいる以上下手な痕跡も残せない。

春日部の嗅覚は花村の能力で匂いを操作してなんとか対応しているがしかしあのフルメンバーを相手にいつまでこの隠れ場が耐えられるものか─────

 

「あら、日向君。全く探したのよ?」

 

そんなことを考えたのが運のつきか……相変わらず高圧的な声が降るように上から聞こえてきた。

思わずそれに引かれて見上げてみれば案の定塀には久遠が優雅に腰を掛けていて……

 

 

 

 

 

 

ど こ か ら は い っ て き た ! ?

 

 

 

思いがけぬ襲来にお湯の張られていない浴槽を滑りながら全力で飛び退く。

 

「ディーンを縦に長く伸ばして辺りを見回してたの。ちょうど露天風呂にいてくれて良かったわ」

「ギフトの無駄遣い!!?」

 

何と言う贅沢な……作ったラッテンフェンガー達もそんな使い方は想定していなかっただろうに

 

「クッ、なら俺も空から──────っておい」

 

身体能力において圧倒的に劣る久遠が相手ならばまだ逃げやすいと身を翻せば今度は露天の浴場全体に大きな影がかかった。

赤き神珍鉄の巨人が飛び上がろう物ならたたき落とすと言わんばかりに立ちふさがっているのだ。

無論正面から打倒しろと言われればきついが逃げるだけならばそう苦はないだろう、だがそれは今も浴場の外を彷徨く連中にここの所在を明かすことになる

何と言う包囲網か!

 

「久遠、ディーンを仕舞わないか?ボロいノーネームの浴場なんかすぐ壊れちまうだろ」

「壊れたらディーンが直すから大丈夫よ日向君」

 

フワリと軽い音を立てて同じ高さまで久遠が降りてきた。精神的圧力ならば日常的に感じている久遠だが物理的なそれは初めてな気がする。それもディーン無しにだ。何と言う執念……いや執念なのか?良く分からないがしかし……流石に久遠にパンツを渡されると次の日からの接し方に困る!!

まだ島の仲間はよかった。いや未だになぜパンツなのか良く分からないがそれでもムードというか流れがあったからというのとやはり慣れだ。加えていうならそう言った空気もなんだかんだ事件が起こる度に引き締められていっていたし男からも渡されることが良くあって俺の意識もあまり傾かなかった

 

 

 

……だが今はどうだろう?流れなんてないし何よりもノーネームはほとんどが女子だ。この騒動が終わったとしても俺は気まずさを感じずにいられるだろうか!?相手は同年代の女子、しかも凛としている久遠だ!無理に決まってる!

 

……あぁ黒ウサギ?二百歳だから大丈夫。向こうも大人だ、きっと大丈夫

 

 

「───って言ってるそばからパンツに手を掛けるな!!」

 

もはや猶予はないこうなれば逃げるのはやめて抑える方向に考え方を変える。

電光石火の踏み込みで、しかし音は立てぬよう飛び込み、スカートをたくしあげ差し込まれていた白磁器の腕を纏めて抑えて頭上に固定した

自然と眼前に来た整った顔は何が起きたのかと理解のためにその瞼を二三上下させてそれからようやく口を開いた

 

「……何をするの日向君?」

「むしろ何をする気だったお前は!?」

「お前ではないわ、私は飛鳥よ日向君。ちょうどいいわ、そろそろその他人行儀な呼び方を変えてみない?私も名前で呼ぶから」

 

いやいやそんなのは今はどうでもいいから!

 

「とにかく話して頂戴創君、動けないじゃない……何かムズ痒い感じがするわねこの響き」

「どういうものの言い草だよってかだから離したとしてどうするつもりだよ!」

「そりゃ貴方に上げるために下着を脱ぐのよ?」

 

……なんでだよ

 

「いや本当になんでだよ……あのギフトのせいか?いやそうなんだろうけど、ほんとなんでなんだよ!」

「そりゃ脱がないとあげられないじゃない?」

「そこに対するなんでじゃねぇよ!?」

 

今思えばまともに突っ込んだのはこれが初めてか……いや人生でこんなことに突っ込むことになることの方がおかしいんだけど……しかしいつまでも固まっているわけにも行かない。浴場とはいえディーンの巨大さは目立つし小声とはいえ向こうには感覚機器人外レベルが二人もいる。いつまでもここにこうしているわけにもいかないのだがどうにも久遠は説得なんかで止まる様子にない。

これでは他の奴らも同じ有様だろう。早いところ解決方法を見つけなければ……ノーネームが社会的に終わる!

しかし現実は無情にも俺を攻め立てる。すりガラスの引き戸がガラガラと音を立てながらすごい勢いで開ききり、中から影が飛び出してくる。空中に煌めき金光を反射しては流れる様に波打つ髪は──────レティシアの物だ。

リボンを解き放った今の姿は普段のチンチクリンな状態からうって変わって一端のレディと言って何ら遜色ない。無論その状態のレティシアの戦闘能力は決して低いものではなく、また彼女固有の竜の顎を形作る剣影は今の俺を持ってしても油断出来ない破壊力だ。そんな彼女が全力の踏み込みを持って跳んで来ているのだから一刻も早く逃げ出したい所だが、ここで久遠を離して避ければ暴走したレティシアに轢かれかねない。そして今のように腕だけを束ねて逃げようものならば久遠の腕が本体と泣き別れするだろう。そんな状態になればもうパンツだなんだでは済まない。

 

「────あぁもう何から何まで面倒な!!」

 

諦めて両手を使って久遠を担いではそのまま飛び上がる。純粋な速度で俺に追い縋る事ができるのは今現在十六夜と黒ウサギのみ……狭い浴場というのがネックだがまだ一人ならば現状維持位は──────

 

「ウリャァァァァーーー!!!」

 

─────出来た筈なのに神はとことん俺に試練を与えたいらしい。少女の甲高い声で気合一発叫びながら何かを打ち出したペストとその投射物を視界に収める……否、それは投射物ではなく……ペストと似た甲高い声ながらしかしその性質も叫び方も真逆な悲鳴を纏ってまさに直動軌道ミサイルの如き飛翔を見せるノーネームのリーダー、ジン=ラッセルその人だった。

 

……両腕は久遠、頭上はディーン、俺空中。さて、我らがリーダーをどう受け止めろと?

いやもうなるようになれ、ヤケじゃない。臨機応変という素晴らしいお言葉に従うだけだ。

まずは飛んでくるジンを脚で絡め取り勢いのままに空中で回転しながら力を得る。

そのまま久遠をディーンに向かってリリースしディーンの防御に穴が空いたところで壁面へ着地、ジンを2度目の跳躍の構えを取ったレティシアに投げ渡し初動を止めてそのままディーンの防御の横を抜けて館の上へと飛び上がる。

流れだけをいえば綺麗にまとまった感じはあるが正直ディーンが久遠を優先するか、レティシアの錯乱状態でジンを受け止められるか、いろいろ考えながら動いていると行動がどんどん狭まってきてかえって危険だった。元々が凡人なだけにそこら辺弾けないでよかったとは言えるだろう。分かり易い例を出せば狛枝なんかは「希望ならこのくらい何とかできるよね?」とフルスイングしそうなものだ。

とはいえ今かわしたのは計四人、何やら争い声が聞こえてくるが戦線離脱したわけではない……上に残っているメンバーがまた厄介だ。主に十六夜が。

 

「いっそ収まるまで館の外にでも逃げてみるか?」

 

世界の果ての方ならば犠牲者がそう増えることもあるまい。流石に見つかるまで生活のすべてを犠牲にして探し続けるということも……無いよな?したで喧嘩してるわけだし。

 

「逃さねぇぞ日向ァ!!」

 

怒鳴り声と共に突然足下が吹き飛ぶ。

飛び散る屋根の残骸と一緒に宙へと投げられた体を捻って体を入れ替えるとそこには案の定屋根を蹴り飛ばした姿勢のままこちらを睨む十六夜の姿……ここでエンカウントかよ!?

確かにさっきの囲まれた状態で会うのはアウトだが、どちらにせよお前の場合はどんな状態でもあったらアウトだろうが!

 

こちらの焦りも何のその、十六夜は好戦的な笑みを浮かべてこちらへと踏み込み一つで跳んでくる。知ってはいたが速さが常識を置いて来てしまったようで正直最早瞬間移動以外の何物でもな─────

 

「……ってやられられるかぁ!!」

 

そのまま突き出された腕を左右から掴み取り勢いのまま上半身をスライドさせて十六夜に足を押し当てながらリリース。風呂場の方へと吹き飛ばして……拳を反対側に打ち込んで反動で止まった!?

 

「てかおい今ジン達が吹き飛んだぞ!?」

「うるせぇ、いいから掛かってこいや」

「……かかってこいや?」

 

パンツじゃないのか……ってそう言えばこいつさっきは正気を保ってたよな?それにそもそも十六夜はギフト効かないし……

 

「……なぁ、お前実は戦いたいだけだろ?」

「さーて、何のことかな?俺はパンツを差し上げるためにまずは逃げられないようのしてからって考えてるだけだぜ」

 

絶 対 に 嘘 だ ! !

 

流石十六夜と言うべきかそれとも何故十六夜なんだというべきか……あぁ、何故あなたは逆廻十六夜なの?ロミジュリの様に欠片も美しい問ではねぇけどな!

 

「あぁ、もう最悪だよ本当に!」

「あぁ、最悪だよなー、俺も本当はこんなことしたくねぇんだけどなー」

 

最早嘘のバーゲンセールだなおい。そんなサービスいらねぇよ、ついでにパンツのサービスもいらねぇよ。返品させろよってか絵面がひでぇな!

十六夜が暴れるせいでいい加減抱えきれなくなった色とりどりの布地が空から舞落ちてくる。

パンツの降り注ぐ中の対峙……かつてこれほど最悪な場所での決闘があっただろうか?

ともかく俺の目的は逃亡、これ一択。幸い速度だけならば極端に劣るわけではない。ならば隙さえ作ることができればなんとかなるか?

手の中に何時ぞやの金色の刀が顕現し確かな重みを伝えてくる。

膂力の差は武器で補えるだろう、純粋な感覚機器は部分的にではあるが優っているはずだ、ならば明確な差となるのは……とっさの判断─────刹那の交錯が勝負を分ける!

 

「へぇ、それどこから出したんだ剣豪様?」

「からかうなよ、いやマジで余裕ねぇからこれ以上俺を揺さぶるな」

 

戯言を一閃、目は一切離さず音に対してより集中する。

微妙な挙動に対してより機敏に反応できるのは音だ。感覚を尖らせて、水面を揺らさず石を投げ込むかの如き鋭さを持って応対しよう

 

「ハッ、寂しいなおい。そんじゃまぁとりあえず……死に晒せェ!!!」

 

十六夜の行動パターンは主にその自然災害を思わせる四肢による連続攻撃。投擲物を用いることはあれど流石にノーネームの館の上で制御できないそれをぶっぱなす程ぶっ飛んではない筈なのでこの場合は拳か脚による攻撃以外考慮しなくていいと考えられる。

そして驚くことに十六夜のスタイルに超至近距離……所詮インファイトというものはない。なぜならば基本的にあいつの拳を受けて踏みとどまれる奴が居ないからだ。ヒットと同時に相手をアウェイさせる常識ハズレのヒットアンドアウェイ……そして正面対峙の第一撃の殆どは拳。脚はそれこそ特定の場面や理由もなく使われることはない。その理由としては十六夜の場合拳かだけで十分な威力が出るということがある。ならば技後、足が地面につくまで移動が制限される足技よりも純粋な拳を利用するのは当然と言える。そして先程言った通り居住区を壊す行動が制限される以上上からの攻撃はない。水平に吹き飛ばされず、浮かされずを保てれば十六夜は全力を出すことは出来ない筈なのだ。

 

 

果たしてその考え方は正しかった。

初撃。踏み込みの勢いをままに拳がそれこそ壁のように肥大化して見えてしまうほどの正拳突きを体を傾けて避けて姿勢を傾けさせたまま既に振り始めていた刀が十六夜の体に横一文字に線を刻もうと大気を割いて進んでいく。そこに下から俺の体目掛けてそれ以上の速度で打ち出されたのは膝……位置の関係上どうしても十六夜の攻撃が早く決まる。なればと攻撃は一時中断し柄を引く事で膝を相殺し受け止めた。しかし重い一撃はその衝撃で俺の体を揺らしその体勢のままに少し後ろへと後退させられる。

刀を構える余裕はない。間髪入れずに十六夜の接敵の音が耳を打つ。だが姿勢が落ちたままの俺に先程の条件で打ち出せる攻撃は打ち上げ一択……視界に入った足を今度こそ手に持つ模擬刀が打ち払い、若干屋根を削りながら静止する。すぐさまそれを跳ね上げ腹部へ突き込むように腕を伸ばすが一瞬遅い。十六夜はそれを後ろに一歩下がり伸びきるのを見届けてから刀身を掴んだ

 

「逃さねぇぞ、これで詰みだ」

「……?バカ言え、これじゃまだチェックだ」

 

確かに十六夜の力を振り切って刀を引き抜くのはいかなる名刀といえども不可能だろう。担い手の技量を抜いた切れ味だけではこの少年の指を切断するにはまだ遠すぎる……とはいえ俺が持つのは()()()だ。別にこの金色は刀が金で出来ているとか金色に輝く名刀とかではない。あくまで観賞用として作られた金箔塗りの鈍なのだ。

よって如何にしっかりと掴んでいようがこのように少し角度を変えて引いてみれば……

 

「あん?何だこりゃ……金箔か!?」

 

表面の金箔が剥がれ、滑るように万力からもスッと抜ける。そしてその隙は致命的だぞ十六夜。

 

「それじゃあ、久遠とかレティシアの方頼むな」

「は?あ、おい待て────」

 

聞く耳は持たない。綺麗に抜けたその刀をやっと硬直から抜けた十六夜めがけて容赦無く振るう。狙うのは勿論先ほど十六夜が吹き飛ばした浴場……邪魔物がいれば先にその障害を除けてから俺のところへ来ようとするのは先ほど確認済みだ。よって十六夜、お前は向こうの四人を止めといてくれ

 

「頼んだぞー!」

「だから待てやごらァァァ!!」

 

相変わらず悪鬼の如き吠え声で吹き飛んでいった十六夜を見送りなんとかダントツで厄介な存在を抑え込めたことに安堵する。

さて、残る刺客は……春日部のみか。子供達は確かに数こそ多いが数だけいても簡単に逃げられるから問題ではない。これならば────と気を抜いたのがいけなかった。

あれほど派手に暴れたにも関わらず今の今まで感知に優れた彼女が現れなかったのは何故か?そう、伺っていたのだ。自身が現れるタイミングをずっと待っていた。十六夜と共謀して俺を抑える道を捨てより勝率の高いであろう不意打ちに全てをかけていたのだ。

初めに十六夜が現れたその穴……そこから一瞬ではいでた春日部は音もなく俺へと近づいて後頭部に一撃、そして体から力が抜けた一瞬で俺を合気道の様に抑え込んで動けなくした

 

「もう、逃げられない……よ?」

 

言われなくてもわかる。確かにこれは動けない。そのうえ上へ乗る春日部はある程度の自由が利く、パンツを脱げるかと言われたらどうかはわからな───────待てよ?待て待て待て……え、春日部って普段はパンツだよな?あぁいやここでのパンツは下着のパンツではなく……そう、ズボンだ。

ズボンの状態でパンツを脱ごうと思えば当然下半身を隠すものは一時とは言えなくなる。島では女子は全員スカートだったし、今までの女子も全員そうだった。子供達は自身の選択してもらった服の中から取り出していたししまでの男子達は確かにノーガードになっていたがそれは男同士、意味こそわからないが気にすることでもなかった……だが春日部は女だ。考えても見ろ、いや考えなくてもわかる──────間違いなく日向創箱庭史上最大のピンチだ。俺は何とかして春日部を今止めなくてはならない。しかしどうやって止める?止め方がわかるならはじめから俺は苦労していない。要するに今の俺に打てる手は無い。見なければいいのか!?いやいやその後の関係的に仮に見なかったとしてもやはりいろいろ厳しいモノがあるだろう!

 

「な、なぁ春日部?ひょっとしてパンツをくれようとしているのか?」

「うん、日頃の……お礼」

 

……どんなお礼だ!?

 

「乗っかってたら脱ぎにくいだろ?逃げないから退いてくれ」

「大丈夫、ズボンはもう脱いであるから後は簡単」

 

もちろん本当に逃げないわけなんて─────あ?

 

「……今なんて言った?」

「ズボンは脱いであるから後は簡単」

 

……違うだろ?百歩譲ってパンツをあらかじめ脱いであったとしてもズボンは履いておけよ。脱ぐまでの事しか考えてないんだ!?

冷や汗が額を流れては屋根の上ではじけていく。猶予はない。既に春日部は俺の背中で何やら身じろぎをして衣擦れの音を奏で始めている。

つまりアウト、しのごの言っている場合は過ぎている。

 

「あぁ、ごめんな黒ウサギ……」

 

子供達が階下にいない事を理性的な意味で聴力を過敏にすることは危険だとわかっていながら探ってから、俺は現状動ける唯一の方法、背筋で頭を持ち上げ……腹筋で振りおろした。

 

頭突き……文字通り頭でド突く男の技。やる方もやられる方も痛い。打ち方を間違えると額が割れる。とはいえ今の身体能力の場合割れるのは額ではなく俺たちを支える屋根の方だ。十六夜があけた穴の存在もあってわりかし巨大になった天井の崩落は俺の期待通りの結果を生み出し春日部から離れることに成功する。

とはいえ危険は去っていない、ここからが俺の本当の戦いだ。

 

「「「「「「日向ァ!!!」」」」」」

 

音で勢ぞろいした敵は6人……俺はなんとしてでも生き延びて見せる

 

「うおおおォォォォッ!!!」

 

俺は──────生き残る!

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

翌日、結局日が変わると共に俺のギフトカードより「超高校級の相談窓口」の文字は消えてその効果もさっぱりと消えてなくなった。

影響下にあった人物からはその記憶も消えてしまっているようで何をしていたかも覚えていないというのはいいことなのか悪いことなのか……少なくともボロボロの本拠と散乱した布地の数々の説明に非常に困ったのは悪いことだろう。

なんとか大人である黒ウサギや白夜叉に説明して誤魔化してもらったものの被害者でもある二人には少し気まずい思いだった。

 

とはいえノーネームといえば毎日が毎日こんな感じなのだから正直ため息が止まらない。騒動の中心だった俺が言うのもなんだがお祭り騒ぎは本当に年に一度とかにして欲しいものだ。

とはいえ今回も数名程度の犠牲で終わったことが奇跡に思えてならない。極たまに思うのだが不幸と引換に幸運というのは超高校級の幸運の能力が発動しているということなのだろうか?

まだ見ぬ同級生の姿を想像し感じた寒気に身を震わせるのと同時に、それでも俺はどこか懐かしい気持ちに少し戸惑っていた。

希望に執着する彼と才能に執着していた俺……記憶にないその時間、俺と彼ではとても相性が良くないと思うのだが……この体は何を覚えているのだろう?

 

 

いや、思い出に拘わるところを見るとやはり俺も高校生ということなのだろう。実年齢的には既に二十歳近いのだが……まぁ気持ちは永遠の高校生って事だ。

 

「おい、さぼんなよ日向。半分はお前がやったんだろうが」

「……お前のせいでな」

「元の原因を辿るなら結局はお前だろ?ほら手を進めろ」

 

……という現実逃避すらさせてもらえない。そう俺と十六夜は今、先の騒動で壊れた館と浴場の修理に……追われているのであった

 


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