異世界より”超高校級”が参戦するようですよ!   作:ヤッサイモッサイ

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なんかあっさり終わらせるつもりだったのに長引いたんだけどマジでキャラ暴走すんなほんと
こんなバトル主人公してるひなた君はひなた君じゃないで!


異界の北端で友を思う

異界の北端で友を思う

 

 

 

昨夜の会議と呼べるのかも怪しい集会よりあけて一晩……ここ本戦の会場は異様な空気に包まれ正直な所頭を抱えてしまいそうだ。原因はステージの上で元気に司会進行を務める黒ウサギ……のファンの皆様。さながらアイドルの追っかけの如き様相で客席にて存在感を放つ彼らにも笑顔で対応する黒ウサギに心の底から畏敬の念が湧いた。

 

「……なんというか色々凄まじいな」

「ウサギは箱庭のどこでも人気者ですから」

 

……そういえばルイオスも黒ウサギには興味を示していたような……うん、問題はあのプロポーションか?

 

「まぁなんでもいいけどとりあえずは初戦だな、ウィルオウィスプ……白夜叉も言ってたけど格上なんだろ?」

「あぁ、箱庭の中でも有名にして実力派のコミュニティだ。特に知られているのはかのコミュニティのリーダーが作りし不死身の幽鬼、ジャックオランタン。文字通り死なない肉体とあらゆるものを焼き払う炎が特徴だ」

 

現在控え室にて待機しているのはセコンドとして来たジン、レティシアの二人と何故か本戦になってサポーターを不要だと言い出した春日部、それに無理矢理と言う形でついてきた俺の計四人。

俺の疑問に丁寧に答えたのがレティシアだ。

 

「まぁ流石にジャックオランタンが出てくるとは思えませんけど……何にせよ手強いコミュニティであることに変わりはありません。お二人とも十分に注意して───「……私一人でも問題ない」」

 

……何言ってるんだか。

 

「創の助けは確かに嬉しい、でもやっぱり私は一人でも問題ない」

「だとしてもサポーターとしての仕事を放棄するつもりはないぞ、さっきも言ったけど相手は格上、チャレンジャーはこっちなんだ。全力で当たらない理由がない」

 

まぁどうせ春日部のことだ。怪我させたくないだのいつぞやの白夜叉の言葉を気にして自分ひとりでもやれるだの思っているんだろう。確かに春日部は強いし俺が役に立てることがどれだけあるかもわからない……だからといって一人で行かせるわけにもいかないだろう……というか行かせたら女子陣から多大なる被害を受けるに決まってる

 

未だに納得の行かないようすの春日部を連れてステージへと向かう。

黒ウサギの進行がだいぶ良いのかステージからまだ離れたここからでもオーディエンスの熱狂具合が伺える。

 

「そろそろ出番だな」

 

そう思うと何故か俺が緊張してきた。昨日と違うことはあまりない筈なのに期待値が少し上がっただけでこれだ……どこまでも俺は普通ってことか

 

少し間を置いて黒ウサギのコールが始まる。通路より飛び出した春日部の眼前を巨大な火の玉が過ぎり迂回して舞台へと着弾する。立ち上った土煙に何が起きたのかを隠され見ることは叶わない

 

「大丈夫か、春日部?」

「う、うん……」

 

思わず尻餅をついた春日部に駆け寄り手を差し延べる。

前を向けば煙を吹き飛ばすかのように火の玉が再び急上昇し空中にて太陽のように停止した。

その上に座り込むのが対戦相手だろうか?コールされた名前はアーシャ=イグニファトゥス。春日部よりもまださらに小さいツインテールゴスロリの少女だ。

 

「あっはははははは!見て見て見たぁ、ジャック?ノーネームの女が無様に尻もちついてやがるぜ!ははは、さぁ、素敵に不敵にオモシロオカシク笑ってやろうぜ!」

 

聞くに堪えない罵倒。それに追従するかのように火の玉から甲高い声がこだましてまたそれに反応するように客席から罵声が飛んでくる。

栄えある舞台にノーネームがたっていることが不満なのだろう。最もだからといってこの扱いに納得がいくわけでもないが……まぁ場違いだからと周りになにか言われるのは慣れっこだ。

春日部も同様だろう。なにせ春日部の視線はその少女ではなく少女の乗る火の玉へ注がれている。

 

「その火の玉……もしかして」

「はぁ?何言ってんのお前。このアーシャ様の作品を火の玉だぁ?これは火の玉なんかじゃなくてぇ……我らがウィルオウィスプの名物幽鬼!ジャックオランタンだっつーの!!」

 

再び答えるような甲高い声があたりへと響き、火の玉を殻を破るかのようにカボチャ姿の幽鬼が現れる。

闇を照らすのではなくより闇を目立たせる様に輝くランプに存在を薄める様にはためく帳色のマント、一番目立つ頭部は人からすれば規格外のサイズの黄色いカボチャを顔の形にくり抜いて出来ている。

 

「……あれがジャックオランタンか」

 

思わず感心した側からアーシャより再び罵倒が飛んでくる。これが今から対戦する相手への敵愾心ならまだわかるのだが相手は本気でこちらを侮っているのだから笑えない。そしてそれが当たり前というのが何よりも笑えない。

黒ウサギの注意がアーシャへと飛び、白夜叉のパフォーマンスを混ぜたステージ選択により俺たちは再びどこかへと飛ばされる。俺が初めて自分の中の絶望を自覚したあの時のように……世界が変わっていく。

 

「……でも世界は変わってはくれない」

 

一人呟いた言葉に思わず笑いながら着地の感触と共に辺りを見回す。

いや見回すまでもなく足の裏より伝わる特徴的な感触と土や木の香り……

 

「根っこの中……か。これまた広そうなステージだな」

「みたいだね、四方から土の香りがする」

「なるほどぉ♪」

 

春日部と俺の会話にもう何度目かと言った具合にアーシャが割り込む。

 

「わざわざ教えてくれてありがとよ、そっか、ここは木の根の中なのか」

「そうだよ、火の臭いでも嗅ぎすぎて嗅覚が馬鹿になってでもなければ普通にわかると思うけどな」

 

もちろんそんな事はない。春日部と俺の嗅覚が異常に優れているだけ、あまり言い返さない春日部の代わりに少し言い返したくなっただけだ。

とはいえ先程からやけに突っかかってくることからも分かる通り俺の言葉は効果的面だったようで明らかにアーシャの苛立った様子が伝わってくる

 

「そういえばあんたはなんなんだよ?さっきから当たり前みたいにそこにいるけどさ?」

「ノーネームだよ、お前の言う通り名無しだし小物に自己紹介する必要もないだろ?」

「……あんたムカつく奴だな。めんどくさそうだし先に落ちるか?」

 

早くも臨戦態勢になったアーシャに今度は春日部が声をかける

 

「まだ勝利条件もルールも提起されてない。これはまだゲームとしては成立していない」

「……フンッ」

 

……俺から仕掛けておいてなんなんだがこの子あまり強者の貫禄がないな。

やっぱり上位のコミュニティとはいえ上から下までピンキリってことか?

 

なんてど失礼なことを考えているとピシッと眼前に罅のようなものが入り広がっていく。突然のことに後ろに飛び退いたた所でその罅を破って黒ウサギが飛び出してきた。

その手に持つのは契約書類(ギアスロール)、今回のルールが書かれているであろうそれを読み上げる

 

『ギフトゲーム名”アンダーウッドの迷路”

・勝利条件 一、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る

二、対戦プレイヤーのギフトを破壊

三、対戦プレイヤーが勝利条件をみたせなくなった場合(降伏を含む)

 

・敗北条件 一、対戦プレイヤーが勝利条件を一つでも満たした場合

二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合』

 

「──”審判権限”の名において、以上が両者不可侵であることを御旗の元に契ります。御二人とも、どうか誇りある戦いを、ここにゲームの開始を宣言します!」

 

黒ウサギの宣誓とともに正式にゲームが開始された。

とはいえ春日部とアーシャはタイミングを逃したのか睨み合うばかりで動き出す様子はない。

さて、どうしたものか───!?

 

「ジャック!!?」

「創っ!?」

 

突然体が炎に包まれ、トラックに轢かれたかのような衝撃を持って吹き飛ばされる。根っこによって出来た壁を崩し、そして時には身にまとう炎で焼きながら一直線に迷路を通り抜けたところでようやく俺の身体は停止した。

喉の奥が熱い──熱にやられたのか血でも上がってきているのか……なによりも今のはなんだ?いや、やったのはおそらくジャックオランタンか。だめだ考えるのも辛い、余計なことはいい。問題はアーシャという少女の作ったジャックオランタンが予想以上に強く、またそんな状態で春日部が一人という事だ。

 

「足は……問題ないか。方角も問題はない」

 

だいぶ吹き飛ばされたみたいだが壁を突き抜けてきたおかげで一直線に戻るだけでいいというのは……壁が再生しているのか。なら治りきるまでにできるだけ近づいて残った道は迷路に沿って行くしかない。

全力で地を蹴って徐々に迫ってくる壁に体を滑り込ませながら突き進む。

爆発音が近づいている以上まだ戦闘は続いているはずだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「創っ!?」

 

───創が吹き飛ばされた。ジャックが輝いたと思ったら吹き飛んでいた。

思わすそっちへと向きそうになる足を押え付けてそのまま後ろに全力で駆け出す。

 

「……アーシャも困惑してた」

 

それはつまりジャックの行動が彼女にも予想外だったということ。つまりアーシャはあの幽鬼を制御できていないんだ。

後ろから飛んでくる炎を聴覚によって捉え躱しながら迷路を駆け抜ける。迷路の構造は音の反響で大まかに把握している道がわかっている以上後は私がアーシャにさえ負けなければ……!

 

「逃げんなコラァ!」

 

怒声と共に一際大きな炎を打ち出してきたアーシャ。

確かにこれはかわせない、かわせ無いからこそ……ギフトを使う。

突如吹き出した風が荒れ狂い炎をそのまま流してしまう……グリフォンのギフト、友達の証。

未だにあのジャックのことはわからないけれど打ち出される炎のことは良くわかった。あれはジャックのものではなくアーシャのもの。

放たれる瞬間に毎回のように鼻が捉える異臭……あれは可燃性のガスだ。そのガスに炎を引火させると言う形で炎を飛ばしている。ならばガスを風で流せば炎は私には届かない。

 

「くっそちょこまかと……だめだ逃げられる」

 

遥か後方のアーシャの声に応えるようにどこか元気の失せた、しかしそれにしても甲高い声が聞こえる。

 

『──()()()()()()()()()

 

動物の鳴き声のように強弱や出し方の違いはあれど到底言葉に聞こえぬその声に突然理性が宿った。

思わず振り返った先に既にその姿はない姿はないが鋭い聴覚がその居場所を伝えた──前。それもすぐ眼前という距離

 

「───ッ!?」

 

視線を戻すよりも先に急停止して後ろに飛びずさる。

遅れて戻った視界に確かにそのカボチャの姿を捉える。

 

「……嘘」

『嘘ではありませんよお嬢さん』

 

瞬間確かに離した距離を無かったかのようにジャックが目の前に現れて手を払った……そう払っただけ。それだけで私の体は壁に叩きつけられ意識が揺らめく

 

『さ、早く行きなさいアーシャ。お嬢さんは私が足止めをしておきましょう』

「悪いねジャックさん。ホントは私の力で優勝したかったんだけど……」

 

そういいながら繰り広げられる会話を聞き取るのも辛い。何とかして体を起こそうとするもなかなかいうことを聞いてくれないのだ

 

何とかして立った時には既にアーシャは遥か前方にその姿を霞ませているところだった。速度は普通の人間レベル、追いつくのは傷ついたこの体でも不可能ではないだろう……眼前に浮かぶこの幽鬼さえいなければ。

 

「貴方は……」

『えぇ、きっと貴方の御想像は正しい』

 

ジャックの持つランタンより漏れた炎が壁となって周りの根ごと空間を焼き尽くす。

 

『私はアーシャ=イグニファトゥス作ジャックオランタンではありません……あなた方が警戒していたであろう存在───生と死の境界に存在せし大悪魔!!ウィラ=ザ=イグニファトゥス製作の大傑作。それが私は、世界最古のカボチャのオバケ……ジャック・オー・ランタンでございますよ〜♪』

 

ヤホホーと笑うジャックに私の疑問は全て氷解させられていく。疑問に思ったことその全てを先に当てられ、動こうにも一部の隙もないジャックに何をすることもできない。そして何よりも眼前の存在は不死……破壊することが叶わないギフト。間違いなく勝利への道は全て閉ざされた……

思わず胸元のペンダントへと手が伸びる。

 

「降さ──」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

なんとか戻ってきた、戻ってきたはいいのだが煙の臭いが春日部やアーシャ、ジャックの匂いを阻害して場所がわからない。爆発も既に止み、焼けたであろう痕跡は既に修復され跡をたどることもできない。

 

「困ったな。ゲームが終わってないってことは春日部はまだ戦ってるって事なんだろうが戦闘の音がないんじゃ……なんだあれ」

 

困り果てただ立ち尽くしていた所にとんでもない熱が襲う。思わず顔を顰めそちらに顔を向ければとんでもない大きさの炎が柱となって立ち昇り、天井となっている根を焼いていた。

居場所がわからなくなっていたのは確かだけどあそこまで派手だとむしろ近づけない。いや、今の肉体ならひょっとすれば耐えられるのかもしれないがそんな博打じみたことをしたいとは思わない……かと言って中に入る術も……そう言えば天井はあれだけ焼かれても落ちてきたり穴があいたりしてないな、根が太いからか?

 

……叩き潰すか。

太い根ならそこらにある。特に立体的な迷路になっているここなら切り倒すだけでもあの炎の柱を上から押さえ込めるはずだ。

迷ってる暇はない。あれほどの火柱ならば中にいるだけで体力が持っていかれるに違いない。

 

ただ……あの火柱を叩きつぶせる程の根を斬るなんて真似到底俺にはできない。それをするには……辺古山の力を借りるしかない。

ポケットからギフトカードを取り出す。そこにある二つの名前……俺は結局自分に余る力を手に入れても仲間を頼る以外に道はない。頼ることでしか前に進めない。でも頼りっぱなしになりたくないから……

 

見つけたのは炎の渦に比較的近い一部が焦げた根。反対側を切断すれば修復よりも早く自重で折れそうなそれにめがけてカードを掲げる

 

「勝つぞ、春日部」

 

なにせ超高校級の剣道家には切れないものなんて何もない

だからこそ切ってみせる、なんなら炎ごとでも……

 

「───切ってみせる」

 




日向君のもつ仲間のギフトは才能を再現する系のものではないです。
一応形を持っていてある程度その形に沿った才能のアシストはあるけれど元々才能を秘めている人間以外にはただの形通りの道具でしかないです。
全部のギフトにもう二つずつ効果があるのでよければ想像してみてください。ネタバレだったらすいません

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