えんとつそうじのネタ帳   作:えんとつそうじ

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転生の奇術師の三話目です。暇つぶしにでもどうぞ。


第二話:奇術師の再会

遊勝塾。

 

 それはかつてのデュエルチャンピオンである榊遊勝が自身の後輩である柊修三の協力のもと設立したデュエル塾のことで、その規模は弱小といえるほど小さいながらも、榊遊勝が提唱した明るく楽しいデュエル「エンタメデュエル」を実践するために、毎日ドタバタしながらも、さわがしくそれでいて楽しい日々を送っている。

 

 しかしそんな遊勝塾をある日とんでもない事件が襲う。

 

 

 

 ―――業界最大手『LDS』の襲来である

 

 LDS。L(レオ)D(デュエル)S(スクール)とは、質量を持つ立体映像を開発し、アクションデュエルを生み出したともいえる大企業『レオ・コーポレーション』が経営する、世界でも最大規模の勢力を誇るデュエル塾のことなのだが、そのLDSの理事長であり、レオ・コーポレーション社長の赤馬 零児(あかば れいじ)の母でもある赤馬日美香(あかばひみか)が、遊勝塾を乗っ取るために自身の手駒であるLDSのエクシーズコース、融合コース、そしてシンクロコースのそれぞれのコースのトップエリートである生徒たちを引き連れて乗り込んできたのだ。

 

 なぜ彼らがそのような行動に走ったのか。そのきっかけは同じくLDSの生徒である沢渡シンゴ(さわたりシンゴ)が何者かに闇討ちされたことから始まる。

 

 実はこの沢渡シンゴという男、以前赤馬零児の部下である中島から遊勝塾の生徒にして現在確認されている唯一のペンデュラム召喚の使い手であり、榊遊勝の実の息子である榊遊矢からペンデュラムカードを奪うように指示を受け、その際に遊矢とデュエルをして敗北してしまったのだが、それを逆恨みして遊矢への報復を企んでいたところを、しかし突如現れた謎の黒マスクの男に襲撃されやられてしまったのだ。

 

 遊矢に敗北してしまった理由を自身のカードのせいだと考えたのか、デッキの主力を元々使用していた「ダーツ」カードから、俗に「帝シリーズ」と呼ばれるレアカード群の一つである「氷帝」を主軸とした戦術へと変えてデッキを強化していた沢渡であったが、そんな彼のデッキをもってしても黒マスクの男の戦術を破ることはできず、男のエースカードである「ダーク・リべリオン・エクシーズ・ドラゴン」により止めを刺されてしまった。

 

 しかしそこで黒マスクの男のマスクが外れ、その男の容姿が明らかになったことにより話がややこしくなってしまった。

 

 なんと黒マスクの中から出てきた男の顔は、遊矢の顔と瓜二つだったのだ。

 

 その正体はもちろん全くの別人なのだが、襲撃された本人である沢渡にはそんなことわかるわけがなく、犯人は遊矢だと証言し、そのためか闇討ちの犯人は榊遊矢だと断定され話が進みそうになったのだが、そこでまったをかけたのが、LDS理事長である赤馬日美香だったのだ。

 

 赤馬理事長はこれを機会に非公式であろうとLDSの生徒である沢渡を弱小である遊勝塾の生徒が破ったという事実を有耶無耶にし、LDSでも学ぶことができない最新の召喚方法であるペンデュラム召喚の使い手である榊遊矢を手に入れるために遊勝塾の乗っ取りを考えたのだ。

 

 しかし遊勝塾の面々としてはそんなものは寝耳に水であるし、なにより話の中心人物である遊矢本人としても見に覚えがない。

 

 そしてLDSと遊勝塾の間で、沢渡シンゴへの襲撃についてやったやってないとの水掛け論が続いた結果、遊勝塾の経営権を賭けてLDSの精鋭たちとのデュエル三本勝負を行うこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 LDSとのデュエル三本勝負。第一戦目はLDSジュニアユースエクシーズコース所属、志島北斗(しじまほくと)VS遊勝塾所所属、榊遊矢。

 

 遊勝塾からはまずは確実に一勝をもぎとろうと遊勝塾のエースデュエリストである遊矢が出場したのだが、相手は業界最大手のLDSの精鋭。しかも公式戦勝率9割以上という同年代においてトップクラスの実力を誇る相手。当然苦戦を強いられた。

 

 星の騎士たち「セイクリッド」を操る北斗は1ターン目から自身のエースカードの一つである、「セイクリッド・プレアデス」をエクシーズ召喚しペースを掴み遊矢を圧倒。二枚目の「セイクリッド・プレアデス」を召喚。そしてエクシーズユニットを使い果たし効果が発動できなくなったプレアデスを使い、二枚目のエースカードである「セイクリッド・トレミスM7」の召喚に成功する。

 

 絶体絶命の危機に陥る遊矢。しかし遊矢が崩れゆくフィールドの中、一枚のアクションカードを捨て身で手に入れたことがきっかけで形成が逆転する。

 

 新たなEM(エンタメイト)モンスターである「EMトランポリンクス」の効果によりペンデュラムスケールの星詠みの魔術師とEMヒックリカエルを入れ替え、再びオッドアイズと星詠みの魔術師をペンデュラム召喚する。

 

 当然北斗はそれを妨害しようとプレアデスの効果によりオッドアイズが遊矢の手札に戻るが、星詠みの魔術師の効果によりオッドアイズを再度フィールド上に特殊召喚。そしてヒックリカエルの効果により星詠みの魔術師の攻撃力と守備力を入れ替えた後、逆転の魔法カード「マジカルスターイリュージョン」を発動したのだ。

 

 このマジカルスターイリュージョンは星詠みの魔術師がフィールド上に存在する時に発動でき、その効果はこのターンの終わりまで、お互いのフィールド上にいるモンスターは、お互いのプレイヤーのコントロールするモンスターのレベルの合計×100ポイント分アップするというもの。この魔法カードにより遊矢は自軍のモンスターの攻撃力を1400ポイントアップさせることに成功し、そのモンスターたちの総攻撃により一気に北斗のライフを0にして大逆転を成し遂げたのだった。

 

 そして次の第二戦目はLDSジュニアユース融合コース所属の光津真澄(こうつますみ)VS遊勝塾所属柊柚子(ひいらぎゆず)。紅一点同士の対決。

 

 宝石商の娘である真澄は、その血筋に相応しく宝石を模した戦士たちである「ジェムナイト」の使い手で、1ターン目から手札のジェムナイト・ルマリンとジェムナイト・エメラルを融合し、ジェムナイト・パーズを融合召喚するという技を見せるが、柚子も負けじと自身のエースモンスターである幻奏の音姫(げんそうのおとひめ)プロディジー・モーツァルトをアドバンス召喚し、その効果により幻奏の音女(げんそうのおとめ)カノンを特殊召喚。ジェムナイト・パーズを破壊し、大きいダメージを与えた。

 

 しかしそんな柚子の行動も真澄にとっては計算のうち。彼女は次の自分のターンに新しく召喚したジェムナイト・アレキサンドの効果によりジェムナイト・クリスタをデッキから特殊召喚。

 

 そしてクリスタにより幻奏の音女カノンを破壊した後、伏せていた罠カードである廃石融合(タブレット・フュージョン)により墓地のジェムナイト・アレキサンド、ジェムナイト・ルマリン、ジェムナイト・エメラルを除外し、最強のジェムナイトであるジェムナイトマスター・ダイヤを融合召喚したのだ。

 

 そしてその効果により墓地のジェムナイト・パーズの効果をコピーしたマスター・ダイヤで真澄はプロディジー・モーツァルトを戦闘破壊し、バーンダメージを与え、さらに追加攻撃により柚子のライフを0にし、勝負を決めた。

 

 こうして第二戦目はLDSに軍配が上がったのだった。

 

 そして第三戦目。両軍一勝一敗により迎えた最後の試合。

 

 相対するのはLDSジュニアユースシンクロコース所属刀堂刃(とうどうやいば)VS権現坂道場所属権現坂昇(ごんげんざかのぼる)

 

 本来なら遊勝塾側は遊勝塾所属である少年紫雲院素良(しうんいんそら)が出るはずだったが、彼の気がどうしても乗らないということで彼が変わりにこの勝負の場に出ることになった。

 

 序盤権現坂は得意の不動のデュエルにて自らの守りを固め、万全の体勢を築き上げたかのように見えたが、藤堂刃は大量召喚を得意とするXセイバーというモンスター群による即効のシンクロ召喚により攻め立てる。

 

 しかし権現坂はその攻めを耐え、自身のエースカードである超重武者(ちょうじゅうむしゃ)ビッグベン-(ケー)により手痛い反撃を食らわせた。

 

 だが、敵もさるもの。罠カードメテオレインにより自身のモンスターたちに貫通効果を加え、さらにフィールド内を駆け巡り次々とアクションカードを入手し、自軍を強化しつつ順調にダメージを与えていった。

 

 そしてとうとう権現坂の拠り所であるビックベンーKの守備力を0にした刃はそのままビックベンーKを破壊しようとしたのだが、それこそが権現坂の狙い。権現坂は墓地にあるモンスターカード、超重武者装留ブレイク・アーマーの効果を発動したのだ。

 

 刃のシンクロモンスターであるガトムズのハンデス効果により墓地に送られていたこの超重武者装留(ちょうじゅうむしゃ)ブレイク・アーマーは「自分の墓地に魔法・罠カードが存在せず、 元々の守備力よりも守備力が低い自分フィールドのモンスターが攻撃対象に選択された時、 自分の墓地からこのカードを除外し、そのモンスターの守備力と、その元々の守備力の差分のダメージを相手に与える」という効果を持つ。

 

 つまり権現坂はこの効果により一撃必殺のダメージを相手に与えるためにわざとビックベンーKの守備力を0にしたのだ。

 

 しかし刃も曲がりなりにもLDSのトップエリート。

 

 速攻魔法セイバーリフレクトの効果によりそのダメージを反射させあわや敗北となりかけたが、権現坂は最後の力を振り絞り墓地に眠るさらなるモンスターカード超重武者装留(ちょうじゅうむしゃそうる)ビッグバンの効果を発動。フィールド上の全てのモンスターを破壊し、自分と相手にその破壊したモンスターのレベルの数×100.つまり3300のダメージを与え相打ちに持ち込んだ。

 

 こうして最後の第三戦目。勝負は引き分けとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、不慮の事態により生じた遊勝塾の経営権を賭けた三番勝負は一勝一敗一分け。イーブンに終わったことにより、「勝ったほうが経営権を得る」という条件だった以上、本来ならこれで遊勝塾の危機は免れたということになるはずだったのだが、これに異議を申し立てたのがLDSの赤馬理事長だった。

 

 赤馬理事長はいう。ここまできたらどちらかが真の勝者か決着をつけなければ収まりがつかないと。

 

 遊勝塾塾長である柊修三はこの赤馬理事長の言葉に渋るが、しかし遊勝塾側の唯一の勝者である遊矢がこれを受けたためにお互い一勝した同士で最後の決着をつけることになったのだが、そこで一人の男が現れ、LDS側の勝者である光津真澄の代わりにその男が変わりに戦うこととなった。

 

「―――その決着、私がつけよう」

 

 この男の名は赤馬零児。そう、レオ・コーポレーションの社長にして若干16歳にしてプロ資格を持つ天才デュエリストだ。

 

 遊勝塾を手に入れるために、そして自分たちの敵(・・・)を燻りだすために今回の策略を仕掛けたLDSだったが、その保険として彼もこの場に来ていたのだ。

 

 弱小デュエル塾の生徒とプロ資格を持つ天才といわれたデュエリスト。本来ならば絶対に成立するはずがない不公平感すら感じるこのマッチメイクだったが、遊矢はためらいなくその勝負を受けた。

 

 遊矢は怒っていた。相手に本当はなにがあったのか知らないが、彼にとっては今回のことは言いがかりに等しい。その言いがかりにより自分が尊敬する父が残した遊勝塾を奪おうという彼らが、遊矢としてはどうしても許せなかったのだ。

 

「(これが本当の決勝戦。これに勝って塾を……父さんデュエルを守るんだ!!)」

 

 そして気合を入れた遊矢は赤馬社長とのデュエルに向かおうとした……その時だった。

 

 

 

 

 

「―――その勝負。少し待ってもらってもよろしいですかね?」

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 その声を聞いた遊矢は思わず呆けた声を漏らす。

 

 それはその声が知らない声だったからではない。その声が幼いころから自分が知っている人物(・・・)の声で、それでいて今はこの場にいるはずのない(・・・)人物の声と同じだったからだ。

 

 そして遊矢が感じたその感覚は、この中で最も昔からこの遊勝塾に出入りしていた柚子に権現坂も同様に感じていたようで、その二人と共に彼ら三人は、とっさに声が聞こえてきた場所。彼らがいた観覧席の入り口に視線を向け、それに釣られてか他の面々も三人が見ていた場所へと意識を向ける。

 

 そこにはいつの間にか一人の男が立っていた。

 

「やれやれ。何か起こる前になんとかしようと思ったのですが、もうこのような事態になっていたとは思いませんでしたねえ」

 

 燕尾服のような服に赤いハットを被ったその男は、ハットを片手で抑えながら頭を振ると、ふかぶかとため息をつく。

 

 そんな彼の姿を見て、柚子と権現坂は信じられないようなものを見たかのように、驚きに目を瞠った。

 

「なッ!?あの人は」

「嘘…いつ帰ってきたの?」

 

 だがその声はどこか喜んでいるようにも感じる。

 

 それもそうだ。この状況において彼の存在は彼らの希望になり得るからだ。

 

 しかし、(・・・)のことを知らない者たちは彼が誰なのか首を傾げる。LDSの面々においては勝負に水をさされたように感じ不快に思っている者もいるようだ。

 

 LDS理事長である赤馬日美香もその一人だった。

 

「どなたか知らないけれどいきなりなんなのかしらあなた。せめて名前の一つでも名乗るのが筋なのではないの?」

 

 そんな彼女の言葉にその男は一瞬目を瞠った後、額に手を当ててなにやらしまったという仕草を見せる。

 

「おっと、これは私としたことが。それではせっかくなので名乗らせていただきましょう」

 

 そういうと男は被っていたハットを片手でとり胸の辺りに当てると、腰を曲げまるで舞台俳優のような大仰な礼をして口を開く。

 

 

 

 

 

 

「―――私の名前は”遊緋久遠”。そこの榊遊矢の義兄になります」

 

 ―――それは五年前、遊勝の行方を捜しに家を飛び出した彼ら遊勝塾の長兄の名前だった。


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