―――質量を持った
フィールド、モンスター、そして
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『舞綱市』。
デュエルの技術だけが突出して進歩しており、アクションデュエルの基幹となる質量を持つ
そんな街を歩く一人の少年がいた
赤を基調とした服に赤いハットをかぶったその少年は、大きなスーツケースを引きずりながらも、その細長い瞳を僅かに開きながら街の様子を観察していた。
「―――いや~、変わりませんねここらへんは」
彼の名は遊緋久遠。
伝説のアクションデュエリスト、榊遊勝の養子にしてこの小説の主人公。―――そして転生者でもある。
「(……しかし懐かしいですね。私がこの世界に転生して遊勝さんに拾われてからもう五年たちますか)」
彼、遊緋久遠はかつて勤めていた会社がブラック企業だったこと意外はごく普通のサラリーマンだったのだが、ある日神と呼ばれる存在のトラップ(笑)に引っかかり、この遊戯王アークファイブの世界に転生してしまったのだ。
戸籍も住む場所もなかった彼は、唯一持っていたデッキで賞金稼ぎの真似事をして生活の糧としていたのだが、ある日厄介な相手に買ってしまい、その相手の逆鱗に触れその相手と手下により集団暴力を受けていたのだ。
そんな彼を助けたのが当時既に世界有数のプロデュエリストとして知られていた元デュエルチャンピオン榊遊勝で、彼の事情を聞きそれを不憫に思った遊勝はそのまま知り合いの伝で彼に戸籍を用意し、そのまま彼を養子にしたのだ。
榊家の一員としてこの世界を生きることになった彼は、遊勝の妻である
―――久遠の義父である榊遊勝の失踪だ。
当時の彼は、ランキング上位のプロデュエリスト「ストロング石島」の挑戦を受けており、(この出来事によりストロング石島は不戦勝で新たなデュエルチャンピオンとなった)彼と王座決定戦を行うはずだったのだが、その決定戦の場に彼が現れなかったのだ。
もちろん警察にも捜索届けを出したが見つからず、その出来事により彼の名は稀代のデュエルスターから一転、勝負の場から逃げ出した臆病者のデュエリストと、侮蔑と嘲笑をもって呼ばれるようになり、彼が経営していたデュエル塾「遊勝塾」からはどんどん生徒が減っていった。
だがそれでも彼が逃げたとは信じないものも中にはおり、彼もその一人だった。
それは久遠が既に遊勝のことを本当の家族同然に思っていたから信じたかったという思いもあるが、彼の家族になり彼が唱える「エンターテイメントデュエル」を遊矢と共に彼から直接教わっていた彼は、生粋のエンターテイメントである彼が、仮にストロング石島との決闘に勝てないと思ったとしても、
さらに当時デュエルチャンピオンという、遊戯王の世界においてはこれ以上ないほど有名な称号の持ち主であった彼の姿を誰も見ていない、なにも目撃証言がないということが、久遠に遊勝がなにか事件に巻き込まれてしまったのではないかという確信を持たせるのに十分だった。
そして彼は遊勝の情報を集めるために旅に出ることを決意したのだ。
もちろん彼の家族であり義母である洋子や遊勝の後輩であり、遊勝塾の塾長である
その情報とは榊家とも因縁が深い現デュエルチャンピオンであるストロング石島を、彼の義弟である榊遊矢が新しい召喚方法であるペンデュラム召喚により撃破したというものだ。
ストロング石島は遊勝が失踪したことにより不戦勝でチャンピオンの座についた経歴を持つ男だが、それでもプロデュエリストであり当時上位のランキングにいた猛者。決して弱くはない。
そんな石島を義弟が倒したと聞いて彼は驚いたのだが、なにより彼に帰国を決意させたのは義弟が使用したという新しい召喚方法「ペンデュラム召喚」。これを義弟である彼が
「……しかしまさか遊矢のやつが主人公とは思いませんでしたねー」
彼、遊緋久遠は転生者であり、この世界がまだ未放送であった遊戯王の新しいシリーズの世界であることを知っている。そしてペンデュラム召喚が新しいシリーズで登場する所謂「テーマ」であることも。
そして彼は転生する前に見ていなかったシリーズの遊戯王のアニメのことも軽く調べたのだが、そのどの主人公の名前にも「遊」の感じが入っていることを知っていた。
「遊」が入る名前に新しい召喚方法。この二つの要素を持ち、さらに遊矢がペンデュラム召喚を行った今年が神が手紙に書いていた原作が開始する時期である、彼がこの世界に転生した「六年後」であることから彼は遊矢がこの世界の主人公であることを確信したのだ。(実は主人公である遊矢の顔も久遠はVジャンプで確認していたのだが、初めて会った時は子供のころで、Vジャンプに乗っていた十四歳の頃の姿を見たことがなく、それ以前に生活の心配や遊勝の失踪という大事件などがあったためどこかで見たことがあると思っても気にしたことがなかったのでニュースで遊勝がペンデュラム召喚を行うまで全く気づかなかった)
そして彼は遊戯王の主人公にはとてつもない厄介ごとが降りかかることも知っており、そのため彼は遊矢たち家族の助けになるために、三年ぶりにこうして日本の地を踏んだのだ。
―――踏んだのだが、
「………どうやら少し遅かったようですね」
目の前にある遊勝塾という看板が掲げられた独創的な建物。その前に止まっているこの辺りではほとんど見ない高級車の姿に、久遠はすでに自分の家族がただならぬ事態に陥っていることを知るのであった。
そんな光景に久遠はため息を一つつくと中に入る。せめて大変なことになる前になんとかしなければと。