えんとつそうじのネタ帳   作:えんとつそうじ

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どうも、えんとつそうじです。この作品は元々連載していた作品ですが、近々リメイクしようと思っていますので、こちらの方に削除作品として移動させていただきました。

見た方もいらっしゃると思いますが、暇つぶしにでもお読みください。


削除作品:転生の奇術師 プロローグ:転生の奇術師

 突然だが、あなた方にとって”神様”というものはどういう存在でしょうか?

 

 全知全能の存在?敬うべき尊いもの?それともコアなところで集めれば願いを叶えてくれる不思議な玉を作ってくれる元宇宙人といったところでしょうかね?

 

 各々方それぞれいろんな意見があると思いますが、私にとって神という存在がどういうものか表すならば、たった一言、こう呼べばすみます。

 

 そう、

 

 

 

 

 

 ―――『最低最悪のクズ野郎』と。

 

 

 

 

 

 

 

 元々私はとある会社で普通のサラリーマンをやっていました。

 

 将来特になりたいものなどがなかった私は、とにかくいい会社に入ろうと思い、必死で勉強して当時地元で有名なそれなりの企業に入社することができたのですが、実はその会社がとんだブラック企業で、入社したばかりの新人であった当時の私は簡単な仕事の基本を教えられてからすぐに馬車馬の如くこき使われるようになり、深夜遅くに仕事が終わると家で泥のように眠り、そしてまた朝早く出勤するという毎日を送っていました。

 

 その日も夜遅くまで働いてくたくただった私は、もう今日も飯を食ってさっさと寝ようと重い足をひきづりながらもコンビニに入ったのですが、その時とある理由である漫画雑誌が目に留まったのです。

 

 その雑誌とは「Vジャンプ」。毎月二十一日に発売されるこの月刊誌は、おそらく日本一有名な漫画雑誌である少年ジャンプの兄弟分ともいえるもので、漫画雑誌といいましたが少年ジャンプとは違い、漫画よりもホビーの情報に重点を置いている、どちらかといえばゲーム情報誌のようなものに近いかもしれません。

 

 私も子供のころよく買っていたのですが、その目的は実はゲームの情報でももちろん漫画でもなく、このVジャンプに時々付いてくるとあるカードゲーム(・・・)のカードが目当てでした。

 

 そのカードゲームとは『遊戯王OCG(オフシャルカードゲーム)』。

 

 これは元々かつて少年ジャンプで連載されていた「遊戯王」という漫画の中に登場したものを再現した、所謂ファングッズの一つだったのだが、その美麗なイラストや多岐にわたる戦術。そして元になった漫画が元々かなりの人気作品であったこともあり瞬く間に世界中に広まり、今や世界一売れたカードゲームとしてギネス記録に認定されるほどになっていたりするのです。

 

 そして元の漫画が同じ会社の少年ジャンプで連載されていた関係なのか、この遊戯王のカードが時々このVジャンプに付録としてついてくる時があり、私はその付録目当てでこのVジャンプを購入していました。

 

 そしてどうやら今月のVジャンプにも遊戯王のカードが付録として付いているようで、遊戯王を辞めてしばらく、存在も忘れかけていたこの雑誌が目に留まったのは、そういう理由からでした。

 

 懐かしく思った私は久しぶりにそれを手に取り、今はどういうカードが出ているのか軽くページをめくって見てみたのだが軽く驚いたのを覚えている。その付録カードが、私が当時一番お気に入りだったカードとそっくりだったからです。

 

 私が遊戯王のプレイヤーだった当時は存在していなかったその黒い縁のカードはなんでも「エクシーズモンスター」というものらしく、私がお気に入りだったカードをモデルにしたカードなんだとか。

 

 その効果をよく見ると、なるほど確かに私がかつて使用していたデッキに入れたら十全に活躍するであろう内容であり、そのサポートとしていくつかの知らないカードもそこで紹介されていましたが、その殆どが(中には意味がわからない効果のカードもあったが)どれもおもしろい効果のカードばかりでした。

 

 そしてそれを見た私は、当時このカードゲームにハマっていた時のことを思い出し懐かしくなり、明日から三カ月ぶりの二日間の連休だったこともあり、せっかくだからこのカードを入れて昔使っていたデッキを今風に組みなおして遊んでみようということになり、そのVジャンプをその日の晩飯と一緒に購入し、そのコンビニを後にしたのです。

 

 

 

 

 ―――それが間違いだったとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 コンビニを後にした後、いつもの安アパートに帰宅した私は、さっそく押入れの奥底にしまっていたデッキを引っ張り出し、パソコンで今の遊戯王のルール、そのデッキにあうであろうカードを調べ上げ、次の日にはそれを全て購入し一つのデッキを作り上げた私は、ちょうどその日の午後にカードを購入したゲームショップで遊戯王の大会をやると聞いたのでせっかくなので参加しようと、その時間までの暇つぶしにと、付録目当てで購入したVジャンプを読んでいたのですが、その中にとある記事を見つけたのです。

 

 それは「遊戯王アニメ新シリーズ放送決定」というもの。しばらく遊戯王から離れていたので知らなかったのですが、なんでも遊戯王のアニメは既に第四シリーズまで放送されていたらしく、近日記念すべき第五シリーズが放送されるというのです。

 

 私は遊戯王のアニメは第二シリーズが終了してから見てなかったので知らなかったのですが、第三シリーズでは「シンクロ召喚」。第四シリーズでは先ほどいった「エクシーズ召喚」という新しいモンスターの償還方法が登場したらしく、この第五シリーズでも今で全貌は知れないが、「ペンデュラム召喚」という新しい召喚方法が登場するらしい。

 

 私は今までアニメにはまるで興味がなかったこともありそれらのことをまるで知らなかったのだが、それらのことを知り驚くと共に、とてもわくわくしたことを今でも覚えている。大人になり遊戯王から離れていたが、当時自らを決闘者(デュエリスト)(漫画やアニメの中での遊戯王―ちなみに漫画やアニメの中でこのカードゲームはデュエルモンスターズと呼ばれている―のプレイヤー全般を称する名称)と称して学校で同行の士であった当時の友達と決闘(デュエル)に明け暮れていた当時の血(笑)が騒ぎ出したのです。

 

 その時ふと私は自分の今の状況を思い出しました。

 

 寝る間も惜しんでまでとはいえませんでしたが、それでも私なりに一生懸命勉強して入った会社。それがブラック企業だったせいで、殆ど休みも無く働くことになり、上司に理不尽に怒られ、先輩にはいびられながら過ごす日々。

 

 そんな日々を思い出し、私は遊戯王のアニメの登場人物たちが羨ましくなりました。

 

 もちろん彼らが苦労していないとはいいません。それどころか確実といっていいほど世界の危機に巻き込まれるのです。苦労どころではないでしょう。

 

 しかし彼らはデュエルモンスターズという自分が好きなものに本気で打ち込み、夢に向かって危険はあるが刺激ある日々を送っているのです。

 

 単調でただつらいだけの日々を送っていた私はそれを羨ましく思ったのです。

 

 

 

 

 そう―――思ってしまった《・・・》のです。

 

 その時でした。

 

 

 

 

 

 

 ―――やつ(・・・)の声が聞こえてきたのは。

 

『―――おお、そりゃあちょうどよかった!じゃあ送ってやるよ』

「は?」

 

 突然聞こえてきたその声に私は思わず呆けた声を出してしまいます。

 

 それも仕方ないでしょう、なにせ突然脳内に知らない人間の声が聞こえてきたのですから。

 

 突然の事態に困惑した私は、とりあえず声の主を探すために辺りを見渡そうとした、ちょうどその時だった。手に持っていたVジャンプが突然光りだしたのは。

 

「―――なッ!?」

 

 あまりに予想外の事態に私は咄嗟にそれを手放そうとしたのですが、時既に遅くそのまま私の体は光に包まれ意識が途絶えてしまいました。

 

 そして再び意識を取り戻した時、私は自分の顎が思わず外れそうになるほど驚きました。

 

 なにせ、私がその時いたのは元々いたゲームショップでもなく、だからといっても自宅でも通いなれた会社でもない。

 

 ―――全く知らない街の見たこともない広場にいたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

 どうやら私はその広場にいくつかあるベンチの一つに寝ていたようで、そのせいか通りすがりの何人かの人は私のことを遠巻きで心配そうに見ていましたが、起き上がり辺りを見渡した私は、そんな視線には気づかず思わず再び呆けた声を出してしまいます。……まあゲームショップで雑誌を読んでいたはずなのに、突然の光に包まれたと思ったら全く見たこともない場所にいたのです。それぐらいの醜態は許してください。

 

 あまりの状況に頭が混乱し、なにがなんだかわからない状態―――所謂メダパ二状態ですね。え?違う?――-に私は陥ってしまったのですが、それでもなんとか思考を働かせ、その場所にそのままいてもしょうがないという結論を出した私は、とりあえず辺りを探索しようと今まで寝ていたのであろうベンチから移動しようとしたのですが、その時一枚の紙が足元に落ちていることに気づいた私はなんだ?と思いながらもそれを拾い、なんとなくその中身に目を通して思わず驚きで目を見張ります。そこには驚愕の事実が書かれていたからです。

 

 その紙は実は私に向けての手紙だったようで、そこには以下のような内容が書いてありました。

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 やあやあ、どうやら無事にそっちに行くことができたようだね、安心したよ♪突然の状況に混乱しているようだろうけどとりあえず自己紹介だけさせてもらうZE★

 

 俺の名前は「★★★」。………ってお前ら人間に俺らの名前いってもどうせ理解できないんだっけすっかり忘れてたぜ、てへぺろ♪

 

 まあ、あれだ。とりあえず俺はお前らでいう「神様」とか呼ばれる存在だ。まあ信じられないのはわかるけどそこ信じてもらわないと話が進まないから、とりあえず人間じゃないとだけ理解してもらえりゃあいい。

 

 さて、まずはお前さんはなんで自分がそんなところにいるか知りたいと疑問に思っていると思うんだが、まずはそれに答えておこうと思う。

 

 まあ簡単に言うと俺がその世界に送りました~。

 

 なんでかっていうと、実は俺ら神様は世界を管理する職業についてるんだけど、それって結構暇でさー。かなり退屈なんだよね。

 

 で、そういう場合俺らは既に死んだ人間を適当に選んで自分が管理してる世界に転生させて、それを観察して暇をつぶすんだけど、どうせだったら自分が管理している世界の知識を持ってる人間を転生させた方がおもしろいじゃん?

 

 だけど俺ってまだ神様になったばっかの下っ端で管理している世界は一つしかないし、そのせいかその世界のことを知ってるやつってまだ殆どいないわけよ。

 

 その関係でまあそこは諦めたわけだけど、実はその世界ってお前さんも知ってる遊戯王のまだ未放送のアニメの世界でさあ、なんでせめて遊戯王のOCGのルールを知っているやつを送ろうとちょっとお前の持ってたVジャンプって雑誌に細工をしてたんだよ。

 

 その細工ってのはそのVジャンプを購入したやつの中で、自分の住んでいる環境に不満を持っていて、少しでもデュエルモンスターズの世界にいってみたいというやつを俺が管理する世界に送るように設定しておいたんだ。

 

 本当は一応転生させる対象者にはその意思を聞かなくちゃいけねえんだが、お前さんの場合はデュエルモンスターズの世界の人間を羨ましいと思ってたみたいだから別に大丈夫だろ。いやーよかったよかった(笑)。

 

 じゃあお前さんのデッキはかばんごと送っといたからさっそくデュエルモンスターズの世界を楽しんでくれ★あ、ついでに肉体は十歳ぐらいまで若返らせておいたから感謝してもいいんだぜー!

 

 ハーレムを作るもよし、原作に介入して主人公気分を味わうもよし(原作なんてまだねえからしらねえだろうが)。好きにやってくれよ。俺はそんなお前さんの姿を見て楽しむから。………尤も原作まで後六年はかかるんだけどねww

 

 じゃそゆことで♪

 

 

PS:あ、そういえばお前さんの戸籍と住む場所用意すんの忘れたけど、今更設定しなおすのもめんどくさいからそっちでなんとか用意してくれ★

 

 

~~~~~~~~

 

 

 ………この手紙を読み終えてから思わず大声で叫んでしまった私の行動をどうか理解してもらいたい。

 

 だって仕方ないだろう!この手紙の内容が正しけりゃあ、俺はこの神様ってやつの暇つぶしのために家も無しに文字通りまったく知らない世界に放り出されたことになる。これに怒らずにいつ怒れってんだ!!

 

 それに肉体を若返らせたから感謝しろって、それじゃあバイトもできねえじゃねえか、マジふざんけんなあのクソヤロおおおおおおおおおおおお!!!

 

 

 ……おっと申し訳ありません、つい地が出てしまいました。

 

 そのまま私はしばらくその場で怒りに打ち震えていたのですが、周りから自分に集まる危ない奴を見るような視線に気づいて気持ちをなんとか落ち着かせると、その場から逃げるように立ち去りながらも、私はこれからどうするか考えました。

 

 幸いめぼしいシングルカードがあったらついでに買っておこうとある程度お金は卸しておいたので、財布にはある程度のお金はありましたが、それもせいぜい一ヶ月の食費程度。漫画喫茶やビジネスホテルにでも泊まればすぐに尽きてしまう程度の資金しかありませんし、働くにも戸籍がなければちゃんとしたところはおそらく雇ってくれないでしょう。仮に戸籍などみないで雇ってくれるところがあったとしても、先ほどいったように神の野郎の余計なお世話でおこちゃまボディになってしまった私を雇ってくれることは法律的にありえないでしょうし。

 

 これからの生活を考え、私は絶望感打ちのめされ、思わず暗い気持ちになってしまいます。

 

 

 

 ―――その時です。その話し声が聞こえてきたのは。

 

『―――駅前のショッピングモールでデュエル大会やってるんだってな』

『ああ、確か優勝賞金五十万だろ?ふとっぱらだよな』

『!?』

 

 私はこの話を聞いてある考えが閃きました。

 

 手紙にはこの世界はまだ未放送のシリーズではあるが、デュエルモンスターズの世界だと書いてあった。

 

 デュエルモンスターズの世界とはつまりデュエルモンスターズが中心で世界が回っており、俺が元いた世界とは違って先ほど通行人たちが話していたような賞金つきの大会がいくつも行われていても不思議ではない。

 

 ならばその大会に出まくって優勝し続ければ生活費ぐらいは普通に稼げるんじゃないか?そう思ったのです。

 

 もちろんそう簡単に上手くいくとは思っていませんでしたが、それ以外に生きる道がないと確信した私は、こうして賞金稼ぎのデュエリストとしての道を歩むことを決めました。

 

 

 

 

 

 まあそんなわけで私は賞金稼ぎとして、この神曰く「まだ未放送のアニメ遊戯王の世界」だというこの世界で生きていくことになったのですが、最初は思ったより上手くいっていました。

 

 ブランクと知識不足のせいかいくつか優勝を逃した大会もありましたが、それでもなんとか感を取り戻していき、一年ほどたった時には生活がかかっていたこともあり、滅多なことではそこいらの大会で優勝を逃すことも無くなり、ある程度生活に余裕ができるほどになったのですが、ある日思わぬ事態が私を襲ったのです。

 

 それはある日いつものようにとある場所で行われたデュエル大会に出場し、なんとか無事優勝した帰りのこと、私は突然正体不明の集団に路地裏まで拉致されてしまったのです。

 

 謎の展開に私は困惑していたのですが、その時一人の男性がいやらしい顔で私の前に出てきました。

 

 そこで私は気づいたのですが、その男性は先ほど私が参加した大会の決勝で私が戦った相手でした。大会の選手紹介のアナウンスでかなりの経歴を持つデュエリストだということをいっていたのでよく覚えています。

 

 その男性は私にいいました。自分がお前みたいな小僧に負けるなどありえない。自分が負けたのはお前がイカサマかなにかをしていたからだ。だから制裁を加えると。

 

 ……正直意味がわかりませんでした。

 

 後で知ったのですが、この男はとある大企業の息子としてわがままし放題で育ったらしく、そのためかデュエルで負けた相手にこうしていちゃもんをつけて手下を使って憂さ晴らしにリンチにかけているそうで、どうやら私はそんな男のターゲットに選ばれてしまったそうなのです。

 

 もちろん私も抵抗はしたのですが、なにぶん中身はともかく肉体は子供の身。抵抗むなしく他の犠牲者たちと同じように彼らの暴力の餌食となってしまいます。

 

 降り注ぐ悪意の嵐に必死に耐えながらも私は思いました。なぜ俺がこんな目にあうのか。俺がいったいなにをしたんだと。

 

 ただ羨ましいと思っただけでなぜここまでされなくてはいけないのだと。

 

 そして薄れいく意識の中、こうも思いました。

 

 

 

 

 ―――誰か俺を助けてほしいと。

 

 その時でした。

 

 

 

 

 

 『―――そこでなにをしている!!』

 

 その人(・・・)が現れたのは。

 

 突如現れたなぜかシルクハットに光り輝くスーツというとても奇抜な格好をしたその男性は、すさまじい形相で私を囲んでいた男たちを瞬く間にこれまたなぜか手に持っていたステッキのような物で打ちつけ追い払うと、慌てて私のところにやってきて私に大丈夫か聞いてきた。どうやら心配してくれたようです。

 

 私はそれになんとか返事を返すと、助かった安心感からかそのまま気絶してしまったのだが、目を覚ますと知らない天井が見えたので、またこのパターンかよと思いながら起き上がると、白を基調とした清潔感あふれる光景が目の前に広がりました。どうやらここはどこかの病室のようです。

 

 なぜ自分がこんなところにいるのか不思議に思い首を傾げていると、突然病室の扉が開いたので急いで視界をそちらに向けるとそこには私をあの男たちから助け出してくれた男性の姿が。

 

『おお、目を覚ましたんだね?よかったよかった!』

 

 話を聞いてみると、彼は実はこの世界でも有名なプロデュエリストで、あの時は私が優勝した大会があった場所でイベントがあったらしくそこに呼ばれていたらしかったんですが、会場入りする前にどこからか男性の大声が聞こえてきて、それにただならぬ気配を感じて私がリンチを受けていた場所まで急いで駆けつけてくれたということでした。。

 

 私が気絶した後は直接自身でこの病院まで運んでくれたらしく、先ほど仕事が終わったので私の状態を確認するために急いでここまで来てくれたんだという。

 

 私は思わず感動してしまった。この世界に来て既に一年が経つが、ここまでやさしい人に出会ったのは初めてだったからです。

 

 急いでお礼をいうと、彼は照れくさそうに頬を掻いて気にしなくていいといってくれたのだが、やがてその表情を真剣なものにすると、深刻そうに私にこう聞いてきました。

 

 『ところで君はいったい何者なんだい?』と。

 

 まさかごく普通の一般ピーポーである私がこのような質問をされる日が来るとはと思いながら話を聞いてみると、なんでも気絶した私を病院に運んでくれた彼は、私の親に連絡しようとしたらしいのだが、私が身につけているものに身分を証明できるものがなかったので、それを不審に重い知り合いに私のことを調べてもらったらしいのだ。

 

 そしてその調査の結果、私に戸籍がないことが判明し、また私が持っていたカードのいくつかもこの世に存在しないカードであったらしく、もう本人の口から聞いた方が早いとこうして詰問という手段に選んだらしいのです。

 

 私はこの時本当のことをいうかどうか迷いました。この人がまだ信用できる人かどうかわかりませんし、それよりなにより本当のことをいっても信じてもらえるか怪しいと思ったからです。

 

 ですが気づいたときには私は彼に全てを話してしまいました。

 

 その理由としましては彼の雰囲気が話さなくては決して引いてくれなさそうなほど真剣だったり、命の恩人に(この表現は決して大げさではない。リンチに会った後そのまま放置されれば子供の体の私はそのまま死んでしまっていた可能性もあるからだ)嘘をつきたくないという感情が働いたというのもあるが、一番の理由は私が疲れきっていたからだ。

 

 見知らぬ土地で親しい人間もいない状態で孤独に一人明日の生活を心配しながら生活する日々。そんな日々に気づかぬ間によほど鬱憤が溜まっていたのだろう。気づいたときには私は涙をぼろぼろと流しながら彼の胸に抱きしめられていました。

 

 彼はなんど謝りながらこういってくれました。『よく今までがんばった。もう大丈夫だ』と。

 

 ……その言葉に思わず大声で泣き叫んでしまったのは今では誰にもいえない黒歴史となっております。

 

 

 その後その人は私にいいました。『俺たちの家族』にならないかと。

 

 突然の申し出に驚いている私に彼が説明した内容によると、なんでも彼は結婚していて既に子供も一人いるらしいのですが、彼はその職業上家を空けることが多々あり、その間彼の代わりに家族を守ってくれる人が欲しかったらしく、中身が成人を過ぎているということもあり、私が適任だと思ったらしい。また、何でも彼の奥さんは困っている人や動物を見ると放っておけない性質(たち)らしく、もし私の話がその奥さんに伝われば自分が怒られてしまうということも。

 

 私は最後のどこか冗談めいた彼の言葉にくすりと笑わせられながらも、私は彼に恩と親しみを感じていたこと。また孤独なひとりの生活に参っていたこともあり、喜んで彼の申し出を受けることにしたのです。

 

 

 

 ―――これが私、”遊緋久遠(ゆうひくおん)”が彼、”榊遊勝(さかきゆうしょう)”の家族になった瞬間でありました。


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