えんとつそうじのネタ帳   作:えんとつそうじ

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転生の奇術師の第七話目です。暇つぶしにでもどうぞ。


第六話:奇術師の決闘。VS異次元の王(4)最強の王の力と奇術師の切り札

~~~~~~

 

零児

LP:3500

手札:一枚

場:DDD死偉王ヘル・アーマゲドン×3

魔法、罠:伏せカード一枚

 

~~~~~~

 

 

「ペンデュラム召喚……だ…と?」

 

 

 まさかのペンデュラム召喚により現れた3体のモンスター、DDD死偉王ヘル・アーマゲドン。そのあまりの威圧感に久遠は飲まれかかるが、なんとか気を取り直すと踏みとどまる。

 

 

「(落ち着け!相手はおそらく主人公(ゆうや)のライバルとして設定された人物。このぐらいやっても決しておかしくない!!)」

 

 

 そこで久遠は視線を自らの伏せカードの一枚へと向ける。

 

 

「(それにこのターンならなんとか耐えられる。その間に反撃の目を見つけなければ)」

 

 

 久遠がそんなことを考えている間にもデュエルは動く。

 

 

「それでは行くぞ。DDD死偉王ヘル・アーマゲドンの攻撃!!」

 

 

 その霊児の言葉により一体のアーマゲドンの体から紫色の光線が放たれるが、その瞬間を狙い、久遠は一枚の伏せカードを発動させる。

 

 

「私はこの瞬間、罠カード「ガガガシールド」を発動!!このカードは発動後フィールド上の魔法使い族モンスターに装備する。私はこのカードを守備表示のマジシャンズ・ヴァルキリアに装備!!」

 

 

~~~~~~

 

ガガガシールド

通常罠

発動後このカードは装備カードとなり、

自分フィールド上の魔法使い族モンスター1体に装備する。

装備モンスターは1ターンに2度まで、戦闘及びカードの効果では破壊されない。

 

~~~~~~

 

 

 久遠の言葉とともにマジシャンズ・ヴァルキリアに「我」とイラストされた盾が装備される。

 

 

「このカードを装備したモンスターは1ターンに二度まで戦闘及びカードの効果では破壊されない。そしてマジシャンズ・ヴァルキリアにはフィールド上の他の魔法使い族モンスターに降り注ぐ攻撃を代わりに受ける能力がある。―――受け止めろ、マジシャンズ・ヴァルキリア!!」

 

 

 マジシャンズ・ヴァルキリアは自身へと降り注ぐ破壊の光をシールドを盾にしながらなんとか耐えるが、そんな彼女に構わず、零児はさらなる無慈悲な指令を自身のモンスターたちへと下した。

 

 

「ならば二体のアーマゲドンで攻撃。マジシャンズ・ヴァルキリアを破壊しろ!!」

 

 

 その言葉と共にマジシャンズ・ヴァルキリアに二本の光線が降り注ぐ。

 

 

 一度目の光線は盾に罅を入れられながらもマジシャンズ・ヴァルキリアはなんとか耐えるが、二度目の光線でその盾ごと打ち抜かれ、破壊される。

 

 

 光となって消えていく戦乙女の姿に久遠は瞑目し、心の中で謝罪する。

 

 

「(すまない、マジシャンズ・ヴァルキリア……)」

 

 

 しかし、零児はそんな彼の様子には気づいた様子を見せず、ただ感心したような声を上げる。

 

 

「ほう、今のを交わすとは。さすがに簡単にはとらせてもらえないか。ならば、私はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

~~~~~~

 

零児

LP:3500

場:DDD死偉王ヘル・アーマゲドン×3

魔法、罠:伏せカード一枚

 

~~~~~~

 

 

「私のターン!!」

 

 

~~~~~~

 

久遠

LP:4000

手札:三枚

場:ブラック・マジシャン

魔法、罠:伏せカード一枚

 

~~~~~~

 

 

 久遠はドローカードを確認すると僅かに笑みを浮かべる。

 

 

「(来た!)」

 

 

 逆転のカードをドローできた久遠は、その喜びのままにそのカードを召喚するために行動に移す。

 

 

 両手を中に掲げると、その場にいる全ての人間に呼びかけるように高らかに叫びだす。

 

 

「レディース&ジェントルメーン!!ご来場の皆さま、只今より当一座の魔術師たちによる逆転のマジックショーをご覧いたします!!」

「……なに?」

 

 

 突然の逆転宣言に零児は訝しげに眉を寄せるが、久遠はそんな彼の様子に構わず自らの発言を現実にするために最初の一手を打つ。

 

 

「それではまずは当劇場のヒロインの一人を紹介しましょう。私はブラック・マジシャンをリリース!!」

「なんだとッ!?」

「え!」

「どういうこと!?」

 

 

 まさかエースカードを自ら墓地に送るような行動をするとは思わず驚愕の声を上げる面面。そんな彼らに久遠は笑みを浮かべながらも、そのモンスターを召喚した。

 

 

「出でよ、最上級魔術師の唯一の弟子。―――「ブラック・マジシャン・ガール」!!」

 

 

 そしてフィールド上に一人の魔法使いの少女が現れた。

 

 

~~~~~~

 

ブラック・マジシャン・ガール

効果モンスター

星6/闇属性/魔法使い族/攻2000/守1700

このカードの攻撃力は、お互いの墓地の「ブラック・マジシャン」

「マジシャン・オブ・ブラックカオス」の数×300ポイントアップする。

 

~~~~~~

 

~~~~~~

 

ブラックマジシャンガール

攻撃力2000→攻撃力2300

 

~~~~~~

 

 

 回転しながら片目を瞑り現れたのは、先ほど零児がアーマゲドンの攻撃によって破壊したマジシャンズ・ヴァルキリアに似ている魔法使いの少女の姿に、会場は再び騒然とかした。

 

 

 その中の一人である赤馬理事長は驚愕の声を上げる。

 

 

「ブラック・マジシャン・ガールですって!まさかそんなカードまで持っているというの!?」

 

 

 ブラック・マジシャン・ガール。それはデュエルモンスターズの世界において最上級魔術師ブラック・マジシャンの唯一の弟子といわれる少女の名前。

 

 

 このカードは師匠であるブラック・マジシャンと同じく武藤遊戯が使用していた伝説のカードとして有名なのだが、その存在は主にレアカードの強奪、密売などを行っていたデュエルモンスターズの歴史に残るほどの犯罪組織「グールズ」のレアハンターである『ブラック・マジシャン使い』”パンドラ”との戦いの時に遊戯が召喚したことで初めて確認されるほど目撃情報が少なく、そのレアリテイは師匠であるブラック・マジシャンを超えるほど。

 

 

 その可憐さと知名度から「永遠のアイドルカード」とも呼ばれている。

 

 

 どうやらその異名を知っていたのか、零児はブラック・マジシャン・ガールの登場に不快そうに眉を潜ませる。

 

 

「それで?確かに珍しいカードだが、そんなレアリティだけのアイドルカードでこの状況をどうにかできるとでも?」

 

 

 苛立たしげな彼の言葉に、しかし久遠はいつもの飄々とした態度を崩さずにただ肩を竦める。

 

 

「いえいえ。ですがブラック・マジシャン・ガールは仲間の力を借りることにより真なる力を発揮します。あなたにはそれをお見せしましょう」

 

 

 そういうと、彼はその言葉を実行するためにさらなるモンスターを召喚する。

 

 

「ブラック・マジシャン・ガールのアドバンス召喚に成功したことにより、私は手札からこのカードを特殊召喚することができます。来い、「イリュージョン・スナッチ」!!」

 

 

~~~~~~

 

イリュージョン・スナッチ

効果モンスター

星7/闇属性/悪魔族/攻2400/守1000

自分がモンスターのアドバンス召喚に成功した時、

このカードを手札から特殊召喚できる。

この効果で特殊召喚したこのカードの種族・属性・レベルは、

アドバンス召喚したそのモンスターと同じになる。

 

~~~~~~

 

 

 その言葉とともに、久遠のフィールド上に全身真っ黒のゆらゆらと揺れる影のようなモンスターが現れる。

 

 

「イリュージョン・スナッチはレベル7だが、自分がモンスターのアドバンス召喚に成功した時に特殊召喚することができる特別なモンスター。そしてこの効果で特殊召喚したこのカードの種族・属性・レベルは、アドバンス召喚したモンスターと同じになる!『変身魔法(チェンジ・イリュージョン)!!」

 

 

 そしてイリュージョン・スナッチはその姿をブラック・マジシャン・ガールと同じ姿へと変貌させていく。

 

 

 その姿を訝しげに見ていた零児だったが、やがてなにかに気がついたようでハッと目を瞠った。

 

 

「同じレベル……まさか!?」

「御名答♪私はレベル6の魔法使い族モンスター二体でオーバーレイネットワークを構築!!」

 

 

 すると、ブラック・マジシャン・ガールとイリュージョン・スナッチが光となって、上空に出現した渦の中に飛び込んだ。

 

 

「真なる魔術師の力を受け継ぐ乙女よ。今同胞の魂と混じり合い、新たな力を持って我が元に舞い降りよ。エクシーズ召喚。出でよ、未了の魔力を持つ美☆魔☆嬢。「マジマジ☆マジシャンギャル」!!」

 

 

 すると、渦の中から先ほどのブラック・マジシャン・ガールとそっくりな、しかしそれでいて明らかに存在感が違う一人の美少女が舞い降りた。

 

 

~~~~~~

 

マジマジ☆マジシャンギャル

エクシーズ・効果モンスター

ランク6/闇属性/魔法使い族/攻2400/守2000

魔法使い族レベル6モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、

手札を1枚ゲームから除外して以下の効果から1つを選択して発動できる。

●相手フィールド上のモンスター1体を選択し、

このターンのエンドフェイズ時までコントロールを得る。

●相手の墓地のモンスター1体を選択し、自分フィールド上に特殊召喚する。

 

~~~~~~

 

 

 零児は突如現れたその美しい魔女に目を奪われかける自分を自覚しながらも、なんとかそこから目を反らすと、久遠は睨みつける。

 

 

「だが、所詮は攻撃力2400。アーマゲドンには及ばない」

 

 

 だがそんな彼の言葉にも、久遠は余裕の笑みを崩さない。

 

 

「そう、焦らないでくださいよ。このカードの真価はこれからです。―――マジマジ☆マジシャンギャルの効果を発動!このカードのオーバーレイユニットを墓地へと送りさらに手札を一枚除外することにより相手モンスター一体のコントロールをこのターンンエンドフェイズまで奪うことができる!!」

「なんだと!?」

「私は手札のヒュグロの魔導書を除外し、アーマゲドン一体のコントロールを奪う。『魅了の魔法(チャーム・マジック)』」

 

 

 その久遠の指示でマジマジ☆マジシャンギャルはアーマゲドン一体の前に飛び出てウインクすると、彼女の体からピンク色のハートが飛び出て、アーマゲドンに当たる。

 

 

 するとアーマゲドンの瞳がハートの形になり、そのアーマゲドンはそのまま自身の居場所を零児のフィールドから久遠のフィールドへと移動した。

 

 

 そんな様子を見ていた零児は屈辱で歯噛みする。

 

 

「(くッ!?まさかこんな効果があるとは……。だがたった一体のコントロールを奪ってもせいぜい相打ちさせるのが関の山。逆転とは言い難いはずだがどうする気だ?)」

 

 

 そんな彼の内心を見透かしてか、久遠は笑みをさらに深めるとエクストラデッキから逆転の最後のカードを取り出した。

 

 

 ―――そう、文字通りの切り札(・・・)を。

 

 

「さあさあ、紳士淑女の皆さん!これより当劇場最高の役者を皆さんに紹介しましょう!!―――私はマジマジ☆マジシャンギャル一体で再びオーバーレイネットワークを再構築!!」

「なに!?オーバーレイネットワークの再構築だと!!」

 

 

 オーバーレイネットワークの再構築。それはLDSのエクシーズコース所属の志島北斗も魅せた、エクシーズモンスター一体を使い更なる強力なエクシーズモンスターを呼び出す技。

 

 

 これを行うということはつまり、

 

 

「(さらに強力なエクシーズモンスターを召喚するということ!!)」

 

 

 そしてそんな零児の予想は的中することになる。

 

 

 久遠は両手を広げると、自身の切り札を呼び出すために天へと叫ぶ。

 

 

 

「伝説の中に生きる黒の魔術師よ。今こそその幻想を自らの力とし、我が手に勝利を!!

 

 

 

 ―――エクシーズ召喚。出でよ、「幻想の黒魔導師」!!」

 

 

 

 ―――そしてその魔術師は姿を現した。

 

 

~~~~~~

 

幻想の黒魔導師

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2100

レベル7モンスター×2

このカードは自分フィールド上の魔法使い族・ランク6の

エクシーズモンスターの上にこのカードを重ねてエクシーズ召喚する事もできる。

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

手札・デッキから魔法使い族の通常モンスター1体を特殊召喚する。

また、魔法使い族の通常モンスターの攻撃宣言時、

相手フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。

選択したカードをゲームから除外する。

「幻想の黒魔導師」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

~~~~~~

 

 

 久遠が召喚したブラック・マジシャンに酷似したその魔術師の姿に、しかし零児は今度はブラック・マジシャンやブラック・マジシャン・ガールを召喚した時のような驚きは見せず、なぜか困惑したような表情を見せる。

 

 

「幻想の黒魔導師だと……?(なんだ、このカードは?こんなカード見たことがない)」

 

 

 零児が困惑しているのは久遠が召喚した零児も見たことがないエクシーズモンスターについてだった。

 

 

 もちろん零児が全てのカードを知っているとはいわないが、零児は大企業の息子に産まれ、子供のころから英才教育を受けてきたまさに麒麟児。そしてその中にはもちろんデュエルモンスターズ関連の教育も混ざっており、そんな彼があの有名なブラック・マジシャンに酷似したエクシーズモンスターについての知識を逃すはずがない。

 

 

 だがそこれ彼はふと気づく。見たこともないエクシーズモンスターを使う魔法使い族使いのデュエリスト。その情報を自分は依然聞いたことがあるということに。

 

 

「(そう、あれは海外支社の情報部から来た一人の賞金稼ぎの話。東洋人らしきそのデュエリストは様々な魔法使い族や見たこともないエクシーズモンスターやシンクロモンスターを使いこなし、世界各地の大会を荒らしていることに。そしてそのデュエリストは一流のマジシャンであるともいう)」

 

 

 と、そこで零児は久遠の今までの行動を思い出す。そういえば彼はまるで劇場に上がった奇術師(マジシャン)のような振る舞いをしていたことに。

 

 

 そしてそのことに気づいた零児は、そこで口元を歪めた。

 

 

「そうだ、思い出したぞ!近年、海外の大会を荒らしまわる賞金稼ぎのデュエリストがいることを!!その者は一流のマジシャンであることから『奇術師』の二つ名を持つという。貴様がその奇術師か!!」

 

 

 その彼の言葉に久遠は一瞬驚いたような表情を浮かべるが、やがてどこか照れたような笑みを浮かべた。

 

 

「まさか、その名は知っている人が日本にいるとは。どこでその名を?」

「レオ・コーポレーションは世界中に支社を持つ企業だ。優れたデュエリストの噂は自然と私の耳に入るようになっているのだよ」

「ああ、なるほど……」

 

 

 零児の言葉に納得したような顔をした久遠は、だがやがて顔を真剣なものへと戻すとそのままデュエルを続行する。

 

 

「それじゃあ、デュエルの続きと行きましょう。私は幻想の黒魔導師の効果を発動!一ターンに一度、このモンスターのオーバーレイユニットを取り除くことにより手札、デッキから魔法使い族の通常モンスターを特殊召喚する!!私はデッキから二枚目のブラック・マジシャンを特殊召喚!!」

 

 

 幻想の黒魔導師は自身を取り巻く光の玉を一つ杖に吸収させると天に掲げる。

 

 

 すると空中に光の玉が出現し、その中からブラック・マジシャンが再び久遠のフィールド上に現れた。

 

 

~~~~~~

 

ブラック・マジシャン

攻撃力2500/守備力2000

 

~~~~~~

 

 

 問答無用で上級モンスターをフィールドに呼び出すその強力な効果に、しかし零児は冷静な表情を崩さない。

 

 

「だが今さらブラック・マジシャンを呼んだところで君にはなにもできまい」

 

 

 だが、そんな彼の言葉に久遠はただ含みのある笑みを返すとデュエルをさらに進める。

 

 

「バトルだ!私はDDD死偉王ヘル・アーマゲドンで同じく相手のDDD死偉王ヘル・アーマゲドンに攻撃!!」

 

 

 するとその言葉とともに二体のDDD死偉王ヘル・アーマゲドンがお互いに紫の光線を打ちあい、その結果お互いの体を破壊し、そのまま大きな地響きとともに崩れ落ちた。

 

 

「ちッ!?だがペンデュラムモンスターは破壊された場合エクストラデッキに戻り、次のターンには再び召喚できるようになる。そしてブラック・マジシャンと幻想の魔術師は両方とも2500。そしてDDD死偉王ヘル・アーマゲドンの効果を発動!!」

 

 

 すると最後に残ったDDD死偉王ヘル・アーマゲドンのオーラが倍増し、その攻撃力が上昇する。

 

 

~~~~~~

 

DDD死偉王ヘル・アーマゲドン

攻撃力3000→攻撃力6000

 

~~~~~~

 

 

 その姿を見て、観覧席の権現坂が叫び声を上げる。

 

 

「攻撃力6000だと!?」

「そう、DDD死偉王ヘル・アーマゲドンは一ターンに一度、戦闘・効果で破壊されたモンスターの攻撃力分その攻撃力を上げることができる。つまりこれは先ほどのアーマゲドンの攻撃力分その力を上げたわけだ。君のそのモンスターたちではこいつを超えることなどできるわけがない」

 

 

 それはこの状況を見れば誰もがわかる現実。まさに『絶望』と呼ぶに相応しい絶体絶命の状況だった。

 

 

 しかしそんな中、久遠はハットで目元を隠すと、その口元を不敵な笑みに形作る。

 

 

「―――それはどうかな?」

「……なんだと?」

「バトルだ!ブラック・マジシャンでDDD死偉王ヘル・アーマゲドンへと攻撃!!」

「なにッ!?」

 

 

 突然の久遠のまさに蛮行ともいってもいい行為に零児は驚愕の声を浮かべる。

 

 

 そして彼の行動に驚いたのは零児だけどはなく、観覧席にいた面面も同じく驚きの顔を浮かべていた。

 

 

「なんだとッ!?」

「なにをする気だ、あいつ!!」

「自爆する気?」

 

 

 だがそこで久遠は口を開くと、その効果を発動させる。

 

 

 ―――自身の逆転の一手となるカードの真の力を。

 

 

「私はこの瞬間、幻想の黒魔導師の効果を発動!!魔法使い族の通常モンスターの攻撃宣言時、相手フィールド上のカードを一枚ゲームから除外することができる!!」

「なに!?」

 

 

 そのあまりの効果に、今日一番の驚愕を見せる零児。

 

 

 それも仕方ないだろう。つまりこのカードは魔法使い族の通常モンスターさえいれば、毎ターン、問答無用で相手フィールド上のカードを除外できるのだから。

 

 

 そしてペンデュラムモンスターは破壊されればエクストラデッキに戻り、次のターンになれば再度呼び出すことができる。

 

 

 しかし除外されてしまってはどうすることもできない、まさにペンデュラムの弱点をついた、見事な手だった。

 

 

 そして久遠は幻想の黒魔導師とその視線を合わせると、一気に振り下ろす。

 

 

「行け、幻想の黒魔導師。『破滅の魔術―ブラック・コア』!!」

 

 

 すると幻想の黒魔導師の杖から黒い球体が出現し、零児のフィールドに最後に残ったDDD死偉王ヘル・アーマゲドンがそれに吸い込まれる。

 

 

「アーマゲドン!!」

「続けていきますよ!DDD死偉王ヘル・アーマゲドンがフィールド上にいなくなったことにより、ブラック・マジシャンの攻撃対象をプレイヤーに移行!!」

「!?ちい!!」

「ブラック・マジック!!」

 

 

 まさかの一手でフィールド上のモンスターを一掃された零児はしばし呆然としていたが、久遠の声に我に返ると、ブラック・マジシャンの攻撃を防ぐために伏せカードを発動させる。

 

 

「罠カード発動、「ガード・ブロック」!!このカードによりブラック・マジシャンの攻撃により生じる戦闘ダメージを0に!!その後私はカードを一枚ドローする」

 

 

~~~~~~

 

ガード・ブロック

通常罠

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、

自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

~~~~~~

 

 

 水色の薄いオーロラのような防壁が零児の前に出現したかと思えば、ブラック・マジシャンの攻撃を防ぎ、そのままカードをドローする。

 

 

~~~~~~

 

零児

手札:一枚

 

~~~~~~

 

 

 そんな彼の行動に久遠は感心の表情を浮かべる。

 

 

「今のを防ぎましたか。―――ならば、幻想の黒魔導師の攻撃。『超古代(ハイ・エンシェント)黒・魔・導(ブラック・マジック)』!!」

 

 

 幻想の黒魔導師の杖先から巨大な魔力の波動が出現する。

 

 

 そして手近のアクションカードを既に取りつくしていた零児はそんな攻撃になすすべがなく、もはやできることはその場から吹き飛ばされないように踏ん張るだけだった。

 

 

「ぐううううう!!?」

「零児さん!!」

 

 

~~~~~~

 

零児

LP:3500→LP:1000

 

~~~~~~

 

 

 苦悶の声を上げる零児の姿に、赤馬理事長は思わず苦悶の声を上げる。

 

 

 美しい親子愛。そんな彼らの様子に、まるで自分が悪者だなと思いながらも、久遠は苦笑した。

 

 

「私はこれでターンを終了します。―――さて、次はあなたのターンです」

 

 

 久遠にそう告げられた零児は、若干憔悴した様子を見せるも、久遠を一度睨みつけると目を瞑りながらデッキの一番上に片手を置いた。

 

 

 圧倒的優位な状況から逆転され逆に圧倒的に不利な状況に陥ってしまった現在の展開に、これで逆転のカードを引けなければこのまま負けてしまうと確信したのだ。

 

 

「(おそらくやつのあの伏せカード。私のモンスターに対するさらなる反撃のカードであるはず。ならばこのターンにそれを上回る一手を引かなければ私は……負ける!!)私のターン、ドロー!!」

 

 

 そして、彼は勢いよくカードを引いた。

 

 

~~~~~~

 

零児

LP:1000

手札二枚

伏せカード一枚

 

~~~~~~

 

 

 ターンが零児に移行すると、久遠は密かに表情を引き締める。

 

 

 前世の記憶から、ペンデュラム召喚についてある程度の知識があった彼は現在の状況が、先ほどからさほど好転していないということに気づいていたからだ。

 

 

「幻想の黒魔導師の効果により一体の除外に成功したとはいえ、未だ彼のエクストラデッキには二枚のアーマゲドンが眠っており、それはいつでもペンデュラム召喚に呼び出され、その二体の攻撃により私のフィールドは今度こそ、全滅してしまう……一応、対策は用意してはいますけどねえ)」

 

 

 久遠はその視線を最後の伏せカードへと落とす。

 

 

 このカードの正体は罠カード「燃える闘志」。条件付きで自分のモンスターの攻撃力を大幅に上げる強力な罠カードだ。

 

 

~~~~~~

 

燃える闘志

通常罠

発動後このカードは装備カードとなり、

自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体に装備する。

元々の攻撃力よりも攻撃力が高いモンスターが相手フィールド上に存在する場合、

装備モンスターの攻撃力はダメージステップの間、元々の攻撃力の倍になる。

 

~~~~~~

 

 

 このカードは発動後装備カードとなり、自分フィールド上に存在するモンスター一体に装備することができる。

 

 

 相手フィールド上に装備モンスターより元々の攻撃力が高いモンスターが存在する場合、装備モンスターの攻撃力をダメージステップの間、その攻撃力を倍にするという驚異の力を持っているのだ。

 

 

 つまり久遠は相手がアーマゲドンを召喚し、どちらかのモンスターを攻撃されたらこの罠カードを発動させそのモンスターの攻撃力を倍にし、そのまま迎撃し、零児のライフを0にしようと考えたのだ。

 

 

「(でもなあ……。あの人まだなにかやりそうなんですよねえ)」

 

 

 それはこの世界から培われたデュエリストとしての感。それがこのままデュエルが続くのならばとんでもないことが起きると先ほどから警鐘をけたたましく鳴らしていた。

 

 

 そう、あくまでデュエルが続けば(・・・)だが。

 

 

「なにッ!?」

「なんだ?」

 

 

 それは突然起こった。零児のペンデュラムスケールにセッティングしてあった魔導賢者ケプラーとガリレイの体から、なにやら機会がショートしたような音がしたかと思えば、体から電流をはじけさせ、光の柱に記されたそれぞれのモンスターのスケールがどんどん減少していき、とうとう二体のスケールが2から5までへと減少してしまう。

 

 

 久遠はなにが起こったかわからないようで呆然としていたが、零児はなにが起こったのか察したようで、目を細めながらも舌打ちを打つ。

 

 

「……なるほど、ここまでが限界か」

 

 

 そして観覧席にいた遊勝塾の面々も思いがけない事態にしばし呆然としていたが、どうやらその事態が久遠に有利に働きそうなことは理解できたようで、ここぞとばかりに声援を送る。

 

 

「行けー、今だ!!」

「これは好機だ」

「今なら、3と4のモンスターしか呼べないはず!」

「がんばれー!!」

 

 

 久遠はそんなちゃっかりした声援に今は相手のターンなんだけどなあと苦笑しつつ、零児の方に視線を戻すと、零児は今のフィールドの状況になにか思うことがあるのか、光の柱の中にいる二体のペンデュラムモンスターを視界に入れながらもなにやら思考に耽っていた。

 

 

「(所詮はプロトタイプ。まだまだ安定しない。………しかしこの状況は)」

 

 

 と、そこで零児はなにかに気づいたようで、片手で顔全体を覆うと、突然笑い出した。

 

 

「ふふふふ、ふははははははははは!!……なぜ、気づかなかった。ペンデュラムも完成形ではないことに」

「……なに?」

 

 

 零児のその言葉に、久遠は不審そうに眉間を寄せる。

 

 

 そして観覧席にいるもう一人のペンデュラム召喚の使い手である遊矢も驚きの表情を示した。

 

 

「ペンデュラムも……完成形ではない?」

 

 

 だが零児はそんな彼らにかまわず話を続ける。

 

 

「私には見えた。ペンデュラム召喚の更なる進化の可能性が。―――今、それを実証してみせよう!」

 

 

 そういうと、零児は片手を天上へと高く上げる。すると久遠はなぜか彼から受ける威圧感が急激に増したような感じを受ける。

 

 

「(なんだ?やつはなにをしようと……?)」

 

 

 ―――だが、そこでとある人物の叫び声が彼らのデュエルの邪魔に入った。

 

 

「なんですって!?」

「ん?」

「え?」

 

 

 観覧席から聞こえてきたその声に、零児と久遠は二人ともその視線を声の発生源へと移動させる。

 

 

 するとそこいたのはLDSの理事長、赤馬日美香だった。

 

 

 彼女は部下らしき男から小声でなにか伝えられており、それを横で聞いていたLDSの生徒、光津真澄が普段は男子生徒から「可愛くない」と陰口を叩かれるぐらいの冷静沈着さから一転、驚きの声を上げる。

 

 

「マルコ先生が!?」

「零児さん!!」

 

 

 そしてそれは赤馬理事長にとっても一大事だったようで、彼女は普段の自信に満ち溢れた表情から一転、縋るような視線を自らの息子へと向ける。

 

 

 そんな母親の顔を見た零児は、なにやら只ならぬ気配を感じ、デュエル中ではあるが事情を聴くために自身のデュエルディスクで自身の腹心である”中島”と回線をつないだ。

 

 

「どうした、中島?」

 

 

 そして中島から事情を聴いた零児は表情を僅かに強張らせると、先ほどのやる気はどこへやら。デュエルディスクを停止させると、出口へと速足で歩きだす。

 

 

 そんな彼の突然の行動に、先ほどまで呆然としていた久遠は我に返ると、慌てて口を開く。

 

 

「ちょ、ちょっと?」

「この勝負預ける」

「はあ!?」

 

 

 いきなりのその言葉に思わず久遠はいつもの調子を崩し叫び声をあげてしまうが、そんな彼の様子に零児はくすりともせずに言葉を続ける。

 

 

「緊急の用件ができた。この決着はいずれまたつける」

「は、はあ……?」

 

 

 最後に思わぬ言葉を受けて、久遠は結局間抜けな声しか出すことができず、零児もそんな彼を一瞥すると、そのままその場を去ろうとしたのだが、、そんな彼に声をかける者が。

 

 

「待って!!」

「ん?」

「おや?」

 

 

 その声に久遠と零児が振り向くと、そこには走ってきたのだろう。いつの間にか息を切らした久遠の義弟である遊矢が立っていた。

 

 

 遊矢は息を整えると真剣な、それでいてどこか怯えたような表情を浮かべながら口を開く。

 

 

「あ、あんた名前は?なんでペンデュラムを!」

「……なるほど、榊遊矢。榊遊勝の実子か」

「!?父さんのこと知ってるのか?」

「もちろん。君の父上、榊遊勝のことは、アクションデュエルに新しい可能性をもたらした開拓者(パイオニア)として深く尊敬しているよ。―――尤も養子がいるなんて話は今の今まで聞いたことなかったが」

 

 

 そういうと、零児はチラリとその視線を久遠へと視線を一瞬向けた後、再びその視線を遊矢へと戻す。

 

 

「あいにくと、ペンデュラムのことは企業秘密でもあるから詳しくはいえないが、とりあえず自己紹介だけはしておこうか。―――私の名前は”赤馬零児”。一応レオ・コーポレーションの社長をしているよ」

「赤馬…零児……」

 

 

 噛み締めるように零児の名を口にする遊矢。そんな彼に構わず零児はその場で踵を返す。

 

 

「いずれ君とも戦ってみたいものだ」

 

 

 そんな言葉を残し、零児は今度こそ遊勝塾を後にするのだった。

 


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