生徒会変態共!   作:真田蟲

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※今回は4コマを小説にしたものとしてはかなり長いです。
 いつもより描写が長々としているので、雰囲気が少し違うかも・・・
 TV番組でいうところの一時間スペシャルとでも思っておいてください。



九人目

 

【凡ミス】

 

二年生が修学旅行に行き、今現在一年生と三年生しかいない桜才学園。

その放課後の生徒会室の前で、萩村スズが立ち往生していた。

カギが上手に開かないのか、しきりにガチャガチャと鍵穴を動かしている。

そこにやってきた津田。

彼は自分よりも早く生徒会室に来ているのに未だ部屋の中に入ることのない彼女に話しかけた。

 

「萩村どうしたの? 入らないのか?」

 

「それが……七条先輩から預かった生徒会室の鍵なんだけど、鍵穴が合わないのよ」

 

「うーん、生徒会室の鍵じゃないのかな?」

 

「そうみたい。きっと他の鍵と間違えて渡したんだわ」

 

「じゃあ、それ何の鍵?」

 

「私が知るわけないじゃない」

 

「もしかして貞操帯の鍵だったりして……」

 

津田の阿呆な発言にため息をつくスズ。

いくらなんでもあのアリアでも学校にそんなものをつけてくるはずがない。

たぶん、違うと……思う。ちょっと自信ないが。

 

「いくらなんでもそれはないんじゃない?」

 

「ハハハ、だよなー……でもあの人なら装着してきてるかはともかく、持ってはいそうだよな」

 

「……否定できないのが嫌で仕方無いんだけど」

 

そのころの生徒会の二年生コンビ。

彼女たちは一日目の観光を終え、宿泊先の旅館の部屋でくつろいでいた。

 

「……くしゅん!」

 

「大丈夫かアリア。風邪でもひいたか?」

 

小さくくしゃみをするアリアを心配するシノ。

二人は修学旅行でも同じ班の同じ部屋だった。二人は親友、仲良しさんである。

 

「ううん、ちょっと肌寒かっただけだから」

 

「そうか」

 

「やっぱりパンツ履いてくるべきだったかな?」

 

「そうだな、5月とはいえ夕方は冷え込むからな」

 

どうやら彼女は今日一日ノーパンだったらしい。

もう春も半ばとはいえ、布一枚の差は結構激しいものである。

寒いのか、ぶるぶると小刻みにアリアの体が震えだす。

動物は寒いと体を振動させる習性をもつ。彼女の震えもおそらくそれではないかと検討をつけるシノ。

傍らの鞄を手繰り寄せ、中を漁りだすアリア。

今からでもパンツをはこうというのだろうか。

しかし目的のものが見つからないのか不安げな顔をする。もしかして持ってくるのを忘れたのだろうか?

 

「シノちゃん、私の鍵知らない?」

 

「鍵? パンツじゃなくてか?」

 

「そう」

 

「何の鍵だ?」

 

「貞操帯」

 

「パンツは履いてなくても貞操帯はつけてるのか」

 

「うん。直じゃないとしっくりこなくって。

 革製じゃなくて鉄製だからお腹冷えちゃったみたい」

 

「それは大変だな」

 

「うん。おしっこしたいのにどうしようかしら?」

 

「う~ん……漏らすしかないんじゃないか?」

 

「やっぱりそう?」

 

「なんか嬉しそうだなアリア」

 

「うふふ」

 

この後家に電話してちゃんとスペアの鍵を送ってもらったアリアだった。

ちなみにヘリでの空輸である。

ヘリが来るまでに漏らしたかどうかは……誰も知らない。

 

 

 

 

【仕事どうしよう】

 

未だ生徒会室前で立ち往生の津田とスズ。

今日は書類整理をしようと思っていたのだが、その書類は生徒会室のなかである。

このままでは仕事ができない。

 

「どうする? 今日は仕事やめとく?」

 

「そんなわけにもいかないでしょ。予定してたものはできないかもしれないけど」

 

何かしらの仕事は片づけないと、スケジュールが狂うと主張するスズ。

その意見に確かに……と同意する津田。

彼としては、不可抗力の形で仕事をさぼれるのも結構。

スズと二人でいちゃいちゃしながら仕事するのも多いに結構なのである。

つまりどっちでもよかった。

まぁ、彼女といちゃいちゃというのは完全に彼の妄想であるのだが。

 

「じゃあ、生徒会室の中にある資料は使わなくてもできる仕事をするしかないか」

 

「そうね。書類整理は今度にして他の物にしましょう」

 

本来の今日の仕事の書類整理は諦めた二人。

手持ちの書類をもとにできる仕事を先に済ませることにした。

 

「それで、生徒会室は使えないし……どこで仕事する?」

 

津田の言葉に考え込むスズ。

今日は空き教室は学園の愛好会の人々が使っている。

かといって他の教室では一般生徒の目がある。

彼女としては、津田と二人で作業をしているのを誰かに見られるのには抵抗があった。

以前、彼がスズに勉強を教えてもらおうとしたときに彼女が言っていたこと。

彼女が机で誰かと向き合って何かをしていると、彼女がその人物に勉強を教わっているように見られるのだ。

自尊心の強い彼女は、それだけは避けたいのである。

 

「どっかそこらへんの教室使わせてもらうか?」

 

「いや、それは止めときましょう。一般の生徒がいたら集中できないし」

 

「そう?」

 

「それに発表前に大事な資料を人の目につくところで無闇にさらすものじゃないわ」

 

「なるほど……じゃあ、どうするかなー。他の空き教室は今日は使われてるし」

 

「そうね」

 

「あ、そうだ。じゃあ俺の家でするか?」

 

「津田の家? そうね、そr……」

 

津田の家なら、確かに他の人間の目には触れることはない。

それでいいわよ、と言おうとしたスズの口が止まる。

ちょっと待て? 津田の家で仕事? 二人っきりで?

…………………………駄目駄目駄目駄目だ!!

とある危険性に思いつくスズは、頭の中で即座にその案を却下した。

いままで彼女に対して数多くのセクハラ行動をしてきた津田。

あくまで彼なりのスキンシップではあったし、さすがに押し倒すようなことはしたことはない。

しかし、二人きりの、邪魔のいない状態で、こいつが何もしてこないといいきれるだろうか?

津田の家という、明らかに相手のテリトリーに一人で入るなど、狼の檻に自分から入るようなものかもしれない。

そうなれば、彼女の貞操の危機である。

そこまで思いついた彼女は、津田の意見を否定した。

 

「や、やっぱり津田の家は止めときましょう」

 

「ん? なんで?」

 

「あの、その……ほら、私は家にもいくらか生徒会で使う資料も持ち帰ってるから。

 私の家でしましょう。資料はあるほうがいいでしょ?」

 

「そうだな、そうするか」

 

こうして今日の生徒会の仕事はスズの家ですることに決まったのであった。

狼のテリトリーに入るぐらいなら、こちらのテリトリーに狼を迎え入れる方がまだ安全と判断した。

彼女の家なら勝手は知っているし、母親もいるから何かあっても大丈夫。きっと大丈夫。

ちなみにスズは忘れていたが、別に津田の家に行ったとしても彼の家には妹さんがいるので二人きりにはならないのである。

彼の家族が家にいるという状況を思いつかなかったのだが、それがよかったのかどうかは誰も知らない。

 

 

 

 

【こんにちわ萩村家】

 

そんなこんなで結局今日は萩村宅で仕事をすることになった二人。

閑静な住宅街に佇む一軒の様式の家。

上流階級とまではいかないにしても、それでも十二分に裕福なことがわかる大きな家だ。

津田は、女の子の家に来るのは何気に小学校以来で内心ドキドキである。

あきらかに自分の家よりもお金持ちっぽい家なら尚更である。

 

「そんなに緊張しなくてもいいわよ」

 

津田を安心させようとスズが気を利かせて話しかけてくれる。

 

(なんか、恋人の家に初めてきた彼女に彼氏が言いそうなセリフ……今回は立場逆だけど)

 

「ただいまー」

 

そんな阿呆なことを考えている津田をよそに、玄関のドアを開けるスズ。

しかし、家の中に入ろうと一歩目を踏み出した所でぴたりと固まる。

どうしたのだろう?とスズの後ろからなんとなく家の中を覗き込む津田。

 

「……マンボウ殺人事件?」

 

何故か玄関の中でマンボウの着ぐるみが血を吐いて倒れていた。

 

「……(がちゃり)」

 

無言でスズは玄関の扉を閉じてしまった。

 

「あのー、萩村?」

 

「……何?」

 

「今のマンボウって」

 

「はっ、あんた何言ってんの? マンボウ?」

 

「……いや、今玄関の中で「何、日の沈まないうちから寝言言ってんの?」……何でもない」

 

何故かかたくなに玄関の中で倒れるマンボウについて認めようとしないスズ。

「あー……」と微妙な声を出しながら頬を掻く津田。

ここはどうするべきか、どうやら彼女にとって見られたくない類のものらしいが。

おとなしくここは見なかったことにするべきか。

 

「とりあえず……入らないのか?」

 

「……ちょっと、待ってて」

 

そう言って玄関を少しだけ開ける。その狭い隙間からするりと小さな体を滑り込ませる。

半開きになった扉から顔だけを出して彼女が津田に「ちょっと待ってて」という。

そのまま扉を閉じてしまい、彼は玄関の外でしばらく放置されることになった。

なんとなく耳を扉にくっつけてみる。すると、中から二人の人間が言い合う声が聞こえた。

 

『……とお母さん! さっき電話で今日は生徒会の仲間を連れてくるって言ったじゃない!?』

 

『あら、そうだったかしら?』

 

『こんな時まで死んだふりで出迎えるの止めてくれない!? おかげで恥かいたじゃない!』

 

『えー、そう?』

 

『そ・う・よ! 外で待たせてるんだからさっさと片付けて……

 んああ!! またこんなに血糊つけて!!』

 

『ふふ、その方がらしいでしょ?』

 

『らしいらしくないの問題じゃなくて! 掃除が大変じゃない!』

 

『もう、スズちゃんったらそんなに怒らないで~』

 

『怒るわよ! 怒るに決まってるでしょ!』

 

『でもでも、このマンボウさんもよくできてると思わない?

 作るのに三日もかかったのよ?』

 

『そんなのどうでもいいわ!』

 

『……タダヒトさんなら上手くできたねって褒めてくれるのに……』

 

『ならお父さんが帰ってくるときにでもすればいいでしょ!?

 なんで私の時にまでするのよ!?』

 

『だってだって、今日のは本当に自信作だからスズちゃんにも見せたくって……』

 

『だからっていつもみたいに死んだふりでしなくても着ぐるみだけ見せればいいでしょ?』

 

『でも、タダヒトさんはいつも笑ってくれるし、喜んでくれるよ?』

 

『あの人は単に惚気てるだけでしょ!?』

 

『そんな、のろけるだなんて……いやん』

 

『あー、もう!!』

 

どうやら彼女は家でも大変に気苦労が多い生活のようだ。

結局津田は外で30分以上待たされるのだった。

 

 

 

 

【こんにちわ萩村家テイク2】

 

それから30分以上たった頃。

ガチャリ、と音を立てて玄関の扉が開きスズが顔を出した。

 

「ごめんね、だいぶ待たせちゃったわね」

 

「うぅん、今来たとこ」

 

「は?」

 

「あ、いや、ごめん。忘れて」

 

スズのまるでデートの待ち合わせに遅れた恋人のような言葉に、お約束なセリフをつい口にしてしまった津田。

訳がわからないという顔をする彼女に申しわけなくなって謝る。

とりあえずかなり待たせたのに気にした様子がない津田に彼女は安堵した。

 

「もう中に入っていいわよ」

 

「お邪魔します」

 

こんどこそ玄関の入口をくぐる津田。

玄関の中は、何人かで立ち話ができそうなほど広い。

下駄箱や、花の植えられた花瓶といった調度品が置かれている。

玄関内には品のいい模様をしているが、何故か一部が赤く染まっている玄関マットが敷かれている。

そこには、スズの母親と思われる女性が立っていた。

30代どころか20代前半といっても通用するような若い外見をしている。

スズと同じ金髪を髪留めで後頭部でまとめていた。

 

「いらっしゃい」

 

「あっ、どうも初めまして。娘さんと同じ生徒会の津田タカトシといいます」

 

「あらあらどうもご丁寧に……こちらこそ、先輩さんには娘がいつもお世話になってます」

 

「タメだよ!!」

 

母親の言葉に怒るスズ。

どうやら津田は身長的にも彼女の先輩と思われていたようだ。

桜才学園は去年まで女子高だったのだから、男である時点で娘と同じ一年生だと気づかなかったのだろうか?

 

「あら、そうなの?」

 

「そうなの!」

 

「それで津田君だったかしら? どうするの?」

 

「どう、とは?」

 

「お風呂にする? 御飯にする? それとも……スズちゃんにする?」

 

「じゃあスズちゃんで」

 

「バッ!?……あんたら何言ってんの!? 

 お母さんもそういう冗談を私の同級生に言うのやめてくれる!?

 津田もいちいち答えるな!」

 

「「えー」」

 

怒る小さな赤鬼に不満の声を上げる津田とスズ母。

 

「もう、スズちゃんってばもっとノリがよくならないとせっかくの彼氏さんにも愛想尽かされちゃうよ?」

 

「津田は彼氏じゃねぇ。さっきも生徒会の仲間だっていっただろうが」

 

「大丈夫ですよお義母さん。俺はそんなことで萩村に愛想尽かしたりしません」

 

「まぁ……なんていい子なの?」

 

「どっちかというと私の方が愛想尽かしてる方だろうが」

 

むしろ尽かすも何も最初から愛想も糞もない、と切り捨てるスズ。

しかし彼女は津田の言うオカアサンと自分のいうお母さんとの違いに気づかなかった。

 

「大丈夫よ津田君。私ちゃんと耳ふさいでるから。ギシギシいっても聞こえないわ」

 

「だからどんな関係を想像してるのよ」

 

「スズちゃん他の子よりもちっちゃいから優しくね」

 

人さし指をたて、ウィンクする母親を見て血管が切れそうになるスズ。

30後半にもなるはずなのに、そのしぐさが様になるのがまたムカつく。

仕事の場所に自分の家を選んだのは間違いだったかもしれないと思うのだった。

 

「わかってますよ、優しくします」

 

「せんでいい!」

 

「えっ!? 激しくていいのぼすっ!?」

 

とりあえず自分の母親を殴るわけにもいかないので、この憤りを津田にぶつけるのだった。

 

 

 

【せめて140】

 

リビングに通された津田。

ここで仕事をするのかと思いきや、どうやらスズの部屋でするようだ。

 

「着替えてくるからちょっと待ってて」

 

「わかった」

 

そう言って二階の自室に向かうスズ。

彼女の着替えを待つ間、津田はリビングのソファーに座って待っているのだった。

彼女としては当初はリビングでするつもりだったのだが、母親の目があるのでやめたのだ。

津田と二人きりと言うのも嫌な気もするが背に腹は代えられない。

さっきから彼女にとって恥になることばかりする母親を同級生の目にこれ以上さらしたくなかった。

待っているように言われた津田は、おとなしくじっと座っていた。

学校でなら覗こうかとも思うかもしれないが、さすがにそこはわきまえているつもりの彼である。

ただし目はさわしなくきょろきょろと動きまわり、周囲をつぶさに観察していた。

 

「ん?」

 

そこで彼の目に着いたのは一本の柱。

無数の横線の傷ができていて、傷のそばには何か小さく書き込まれている。

近づいて見てみると、どうやらスズが身長をこの柱で図ってきた記録のようだ。

 

(ふーん、普段大人びた言動が多いけど、やっぱり萩村も容姿相応なとこある……あっ)

 

家の柱に身長をはかった跡があるというのは、どうも子供の記録をみているみたいで微笑ましい。

しかし、微笑ましく思って下のほうの記録から目線を徐々に上にあげていってあることに気付く。

135センチを超えたあたりから、線の感覚が小さくなっていた。

一番上の記録には何度も何度も記した跡があり、そこからはほぼ身長が伸びていないのがうかがえる。

伸びていても1ミリ程度の差である。しかも横に書かれている日付はここ数年のもの。

その数センチ上にマジックで140センチのラインが引かれており、目標と書かれていた。

ついついその健気な記録に涙する津田であった。

 

 

 

【あんよ】

 

「おまたせ」

 

やがて着替え終わったスズがリビングに入ってきた。

彼女はシンプルでいて品のいいデザインのひざ丈までの長さのワンピースを着ている。

女の子らしく可愛いのだが、もっとどこか子供っぽい服を想像していた津田は内心少し驚いた。

 

「こっちよ」

 

津田が立ち上がったのを確認したスズが先導するように前を歩きだす。

その後を歩く津田は、彼女の後姿に何かいつもとは違う違和感を感じた。

何だろうか?私服であるのだから、彼女の制服姿しか見たことのない自分が見慣れない感覚を覚えるのは当然だ。

しかしそれとは違う、制服以外のことで感じるような違和感。

彼はふむ……と眉をよせて考え込むが、階段に差し掛かったところでその違和感の正体に気づいた。

 

(萩村……今……タイツ履いてない!!)

 

そう、彼女は今現在いつも制服時に着用していた黒タイツを履いていなかった。

家の中だからか裸足。

つまりは彼女のなまめかしい生足が津田の眼前にさらされているのだ。

彼を先導するため、先に階段を昇るスズ。

段差が上がる度にその白く美しい脚がより見えやすくなる。

さすがに膝までのたけのワンピースのため、パンツが見えるようなことはなかった。

見たければさすがに階段であってもしゃがみこまなければ見えないだろう。

そんな体勢をとればいくらなんでも気づかれてしまう。

なのでパンツは早々にあきらめて、出来る限り彼女の生足を観察する津田。

生徒会室にいる時も、廊下で会う時も、一緒に下校するときも彼女は黒タイツを履いていた。

女子高生+黒タイツという組み合わせはなんとも淫猥に感じられて、それだけで興奮してしまう津田。

だから彼女の足は彼にとって大好物で、スズと会う時は必ず一度はその足に目をやっていた。

セクハラをして、その報復に彼女に蹴り倒される時などはめくれ上がるスカートの奥に見える太もものラインも確認している。

黒という色は人に高級感のイメージを与える。

そのため、衣服として身につけると他人に品のいいイメージを与える色だ。

しかし黒を身に付けた場合得られるもう一つの特徴に、実際より細くすらりとして見えることがある。

そのためか、普段の彼女の足はどこか高貴ですらりとしたシャープなイメージを与えていた。

津田は、黒タイツを脱げばもしかしたらイメージよりも足は細くないのかもなぁ、とも考えていたこともある。

黒と言う色からの恩恵がなければ、もしかしたら魅力的でも普通の足かもしれないと。

だがどうだ、今彼の目の前にある彼女の足は。

無駄な贅肉など一切ない。それでいて、筋肉だけのような硬すぎる印象もなくほどよい柔らかさを視覚的に見ることができる。

男の力でねじれば簡単にちぎれるか折れてしまいそうなほどに細い。

足首などはさらに細く、くるぶしの位置の骨のでっぱりが関節を主張してひどく淫媚である。

足の指も形がよく指の関節が離れていてもはっきりと視認することができる。

どちらかといえば長めと言っていいかもしれない指の長さ。

爪も切りそろえられ健康的なピンク色をしていて、なぜだかすごく甘い印象を受ける。

階段を昇る動きの中で見られる足の裏。

いつもなら靴腰にしか見ることの叶わなかった場所だ。

足裏というのは大抵固いもので、実際津田の足の裏は固く、かかとなどはカッチカチである。

それがどうだ?きれいでなめらかな曲線を描く土ふまず。

愛らしい丸見をおびたかかとも固すぎず、かといってふにゃふにゃとした柔らかさというわけでもない。

まさに理想のかかととでも言おうか。

その足の大きさは靴のサイズにしておよそ21センチから22センチと思われる。

サイズとしては子供の足ではあるが、そこに漂う色気はタダ事ではない。

肌のシミひとつなく、真っ白な処女雪の印象を見る者にあたえるほど美しい。

かかと、足首といった細い関節から視線をずらせば、なだらかにふくらはぎを描くライン。

足首に近くなればなるほどになだらかにゆっくりと細くなる。

それでいて膝裏の位置ではきゅっと、引き締まるように急激に細くなる。

ふくらはぎの皮膚の下に筋肉が理想的な形で収まっているが故の緩急のついたラインである。

細くきれいな美脚のことをカモシカのような足といった比喩で表わされることが多い。

たしかに彼女の足はその表現にふさわしいだろう。

しかし津田は、スズの足を見て別の印象を覚えた。

人形のような足、である。

特に大人の女性のように肉感的な足をしているわけではない。

かといって子供のように幼いがゆえの退廃的なだけの色気とも違う。

退廃的、という意味では後者の子供の足のほうが近いものがあるかもしれない。

だが、それだけではなく何かいい知れない情欲を掻き立てられるものがあるのだ。

その感覚がまるで人形の球体関節に欲情するような・・・

どこか肉欲とは違って本能の奥にある、もっと根源的なものから湧きだす欲求なのである。

性的なものと根源的なもの。

その二つを刺激してやまない彼女の両足。

彼はその両足を眺めてムラムラと情欲の炎が胸の奥でくすぶり、どろどろとした欲の塊が下半身に集まるのを自覚した。

この場所がもし彼女の家などではなく、近くに人のいない山奥かなにかだったなら彼は自分を抑えられなかっただろう。

 

「? どうしたの?」

 

どこか様子のおかしい津田を不審に思って彼女が階段の途中で振り返る。

もしやしゃがみこんでスカートの中でも覗こうとしているのかと思った。

一応覗き防止のために今すぐ用意できる衣服の中で丈の一番長いスカートの服を着たのだが、意味がなかったか?

そう思って、もし覗いていたら階段から蹴り落としてやろうかと考えた。

しかし彼は特にスカートを覗きこもうとしているわけでもなく前を向いている。

どちらかと言えば上ではなく下の方に目線がいっている。

スカートを覗いているわけではないのだろう。

 

「いや、にゃんでもない」

 

「そ、そう」

 

彼女に話しかけられても冷静を装って返答する津田。

舌を噛んでしまったが、彼にしては合格だ。

今の彼は心の中の自分と戦っている状態だったのだから。

 

(萩村の足、きれいだなぁ。かぶりつきたい。

でもそんなことしたら嫌われるどころじゃないしな、駄目だ。

でも指とかもあんな細くて小さくて、形も爪の色もきれいで……しゃぶりつきたいなぁ。

あぁあ駄目だ駄目だ。今日はこれから仕事しなきゃなんだし。

でも足首とかあんな細い子うちの学園で他にいないよなぁ。

あの足に舌を這わしたらどんな反応してくれるのかなぁ。

前に三葉が来たときみたいに色っぽい声出すのかなぁ?

はっ、いかんいかん。せめて仕事終わるまではまじめにまじめに。

今の段階でこんなだったら俺、萩村のこと押し倒しそうだ。

ああ、でもさっきまでタイツ履いてたんだからきっと萩村の甘い臭いとか強いかもな。

萩村って生徒会の中で一番甘い匂いするんだよなぁ。

香水つけてるわけでもないっぽいのに。なんでだろ?

とりあえず俺の理性よ、持ってくれよ……)

 

「いや、にゃんでもない」の一言の間にこれだけのことを考えていた津田。

本当はいますぐにでもセクハラしたい、というよりも本番に突入したくてしかたないのだが……

理性のあるうちはお気に入りのスズに嫌われたくないという思いの方がまだ強いのだった。

 

 

 

 

【スズの部屋】

 

彼女の部屋は八畳ほどの、高校生の一人部屋としてはかなり広い部屋だった。

白い壁で囲まれており、南側に大きなベランダ付きの窓がある。窓のそばには一つの姿見。

西側に勉強机と本棚がいくつか壁沿いにある。

東側の壁にくっつけるようにしてシングルサイズのベッドがあった。

部屋の角には観葉植物が置いてあり、反対側の角に薄型のテレビが設置されている。

北側に今入ってきた扉があり、その横に備え付きのクローゼットがある。

部屋の中央には今は布団のないこたつ机が鎮座していた。

 

「へー……」

 

予想していた部屋の雰囲気と違い、少し落ち着きを取り戻す津田。

物珍しそうに視線を動かし部屋の内装を観察する。

 

「そんなにじろじろ見なくても……別におかしいとこないでしょ?」

 

彼のその物珍しそうに部屋を眺める様にどこか恥ずかしい気分のスズ。

何気に小中と男の子とあまり遊んだことのない彼女は、自分の部屋に父親以外の男をいれるのは初めてだった。

特にこれといって特別な関係でもなんでもないはずなのに、いざ津田が部屋に入ると急に恥ずかしくなった。

じっと部屋を見つめる津田の様子に少し不安になる。

もしかして、自分の部屋はなにかおかしいのだろうか?

でも友人の部屋と比べても特に変なところなどないように感じる。

それとも異性の津田から見て興味をひかれるような物がなにか転がっているのだろうか?

さきほど着替える時に見られたくないものなどは一応見えないように隠したはずだ。

もしや何かしまい忘れたか?

 

「いや、予想してたのと違ってちょっとびっくりしてただけだよ」

 

「どんな部屋を予想してたのよ?」

 

「う~ん、もっとぬいぐるみとかいっぱいあるのかと思った」

 

津田は、彼女の容姿どおり部屋の中にはもっと女の子らしいものであふれていると思ったのだ。

しかし実際は必要以上のものを置いている雰囲気もなく、ぬいぐるみの一つも見当たらない。

彼の言葉に子供扱いされていると思ってスズが声を荒げる。

 

「子供扱いしないでくれる!? もうそんな年じゃないわよ!!」

 

「ごめんごめん。そういう訳じゃないんだけど……

 俺も妹以外の女の子の部屋に入るのって小学校以来だしさ、その頃のイメージが強くって」

 

「そ、そう。それなら仕方ないわね……どなったりして悪かったわね。

 でも部屋の中じろじろ見るのもやめてくれる? なんか恥ずかしいし」

 

「そっか。そうだよな。ごめん」

 

津田が特に自分を子供扱いしての言葉ではないとしり、謝るスズ。

でも何か気恥ずかしくて、あまり部屋を観察しないよう釘をさす。

彼女は津田が小学校以来女の子の部屋に入ったことがないと聞いて内心驚いていた。

彼に妹がいたというのも初耳だが、なによりも女の子の部屋にあまり慣れていない様子に驚いた。

彼女としては、学園でセクハラばかりする津田をどこかプレイボーイのように見ていたのである。

女と見ては手を出そうとする遊び人。

優しくて真面目なところもあるけど、下ネタ好きですぐにその方面に話しをもっていきふざける。

そんなイメージがあったせいで、彼がもっといろいろな女の子の部屋に遊びに行っていると思っていた。

 

(なんだ、こいつそんなに遊んでるわけでもないんだ。

ちょっと嬉しいかも……って、ないないない!! 

 なんで嬉しいのよ!? 関係ないでしょ!!)

 

心の中で思ったよりも遊び人でないのかもしれないと思ったとき、それを嬉しく思う自分に気が付いた。

慌ててその感情を否定するスズ。

彼が遊んでいるかどうかなど自分には関係ないはずだ。

とりあえず自分に迷惑をかけなければいいのだから。

これではまるで自分が彼に気があるみたいではないか。

ないないない。それはない……と真っ赤になって無言で首を振る。

確かに彼の中に男らしさというか、まともな面を見たことはあった。

重い荷物を代わりに持ってくれた時も、思いのほか逞しい腕に驚いたこともある。

普段の下ネタばかりの時と違い、さわやかに笑いかけてきて驚いたときもある。

ちょっと咳きこんだだけでえらく心配してくれたのにはちょっと笑った。

いつもの馬鹿な顔じゃなく何かを真剣に考える横顔が夕日に照らされていた時、不覚にも絵になると思った時もある。

頭が悪いと思っていたのに、実際は中間考査でも自分の次に高い点数を取っていた。

生徒会の仕事も、阿呆なことを言いつつ一応文句も言わずしっかりしているし。

最近の他の男子よりかしっかりはしていると思う。

セクハラされるのは嫌だが、他の人間と違い自分をあまり子供扱いしたりしていないと思う。

男子にしては髪もさらさらだと思う。

自分たちと違い、ごつごつして血管が少し浮き出た手はちょっと男らしい。

初めての挨拶の時、握手をして大きな手だなぁと思った。

でも……別に好きなわけじゃない。

そんなはずない。ないったらない。そのはずだ。

だいたい自分は初恋もまだで経験として人に恋をするということを知らない。

でもその知識は持っている。本でも漫画でも映画でもドラマでも、恋愛を題材にしたものは多い。

そういうものでは相手を好きになったらいつもその相手のことを考えてしまうといわれている。

彼女の友達も、恋をするとそうなると言っていた。

でも自分は津田のことをいつも考えたりしていない。

だから、好きになったりなんてしていない。そのはずである。

それに……

 

(私の初恋がこんな変態だなんて……あるわけないわ。うん。絶対ない)

 

心の中でいろいろと考えながらも決して口には出さない。

しかし否定の言葉を思い浮かばせる度に首を左右にぷるぷると振ってしまう。

 

「萩村どうかしたの?」

 

「う、うぅん。何でもない」

 

先ほどとは違って今度は津田が首をかしげるのだった。

 

 

 

【私はαサイズ】

 

とりあえずさっさと仕事に取り掛かることにした二人。

中央のこたつ机に向かい合うように座ってノートと資料を取り出す。

しばらくカリカリとノートにシャーペンが走る音が続く。

そのまま数分が経った頃、スズは津田が自分を時折ちらちらと見ていることに気が付いた。

 

「なに? さっきからこっちちらちらと見て」

 

「いや、萩村の私服姿って新鮮だなーって思って」

 

彼の言葉にふふん、と不敵に笑う。

 

「そうね、普段は学校でしか合わないからね」

 

その場で立ち上がりくるりと一回転してみせる。

 

「ちなみに私の服はただの服じゃないわよ」

 

自慢げに胸をはり、どうだとばかりに自分の私服姿を見せる。

 

「ブランド物ってこと?」

 

「いいえ、全てオーダーメイドの一点もの。

 断じて子供服ではないわ!!」

 

「ほ~。なるほどな~」

 

オーダーメイドと聞いて驚きつつも感心する津田。

そりゃあ、そんな服なら自慢したくもなる筈だ。

特に彼女のきているような品のいいデザイン性にも優れたものなら猶更だろう。

 

「どう?なかなかいい服でしょ?私もけっこう気に入ってるの」

 

「うん。萩村の私服姿に至福のひと時だね」

 

「はぁ? そんな変なダジャレ言わないでくれる?

 つまらないわよそれ」

 

お気に入りの洋服の感想を茶化されてふてくされるスズ。

一応褒めてくれているのだろうが、こんなつまらないダジャレで褒められても嬉しくはない。

まぁ、馬子にも衣装などと今さら感あふれる誤用の言葉で褒められるよりましかもしれないが。

ちょっとふてくされてむくれるスズに、津田は少し慌てた。

女の子が服を褒めてほしそうにしているのに、茶化すのはまずかったか?と認識する。

彼としても、プライベートで女の子と一緒に行動することなどいままでなかった。

学校などでセクハラする分には慣れていても、こういう時に女の子にどういえばいいかなど知らない。

知識だけが先走った、典型的な経験値不足である。

しかし彼のいいところは頭の切り替えが早いことにある。

つまり、謝ってふざけずに素直に褒めようと思いなおした。

 

「ごめんごめん。俺も女の子に服の感想を言うなんて初めてで照れ臭くてさ……

 その、なんだ……すごく似合ってて可愛いと思う。

 制服の時よりも大人びて見えて正直どきっとした」

 

「……………」

 

今度は逆にど直球の褒め言葉に何も言えなくなるスズ。

紅くなった顔を見られたくなくて、無言のまま余計にそっぽを向いてむくれているそぶりを見せる。

頬をふくらませて怒って見せようとする様は、ひどく子供っぽい仕草であったが本人はそれには気付かなかった。

津田も彼女の照れ隠しに気付く様子もない。

何か自分の言葉で余計に怒らせたのだろうか?と心配していた。

 

「と、と……とりあえずさ……仕事にもどらないか?」

 

「……………………………そうね」

 

 

 

 

【ファイルがとりたい】

 

しばらく無言で仕事を進める二人。

 

(これはあのファイルいるなー……)

 

そこでスズが過去の資料が必要なことに思い当る。

幸い、その資料は彼女が部屋の本棚の中に収容している。

ただ普段全く使わない種類のものなので、彼女の手の届きにくい本棚の一番上にしまってある。

スズは立ち上がると、勉強机に備え付けられている椅子を持ってきてその上に昇った。

しかし、ローラーのついた移動式の椅子なので足場が安定しない。

ただでさえ手がぎりぎり届くかどうかという高さなので、いっこうに取れないのだった。

 

「萩村……」

 

「余計な手だしは無用ーーーー!!」

 

俺が取ろうか?という言葉は彼女の叫びに口にすることが叶わなかった。

 

「じゃあ……」

 

「あんたが土台になる必要はないわよ? ここには椅子があるんだから」

 

「……」

 

彼女は以前の自販機の前でのやり取りを覚えていた。

どこまでも信用のない津田だった。

 

 

 

 

【ハプニング1~部屋の中心で愛を叫んだけもの~】

 

警戒心の強いスズに苦笑する津田。

こんな二人きりの状況じゃあ仕方ないよなぁ、とも思う。

今まで散々セクハラしてきたわけだし、と考える。

まぁ今さら彼女に対してのセクハラをやめるなど無理な相談だが。

警戒だけでなく自分で目的のものをとりたいという思いも強いのだろう。

でも、警戒されて当然だろう。

実際に彼はいつもと違う状況に彼女を異性としてより意識してしまっていると感じている。

今はある程度冷静に見せるほどに情欲を押さえているが、何かの拍子でいつ爆発するかもわからないのだ。

でも、だからといってこの状況を見過ごせるほど彼は冷酷ではなかった。

 

「一旦降りなよ……俺が椅子の高さ合わせるからさ」

 

「……!」

 

「別に今回は台になったり代わりに取るつもりもないよ。そんな野暮なことはしないさ。

 でも椅子の高さを合わせて動かないように固定しとくくらいはいいだろ?」

 

苦笑しながらも提案する津田。

その表情からは下心などなく純粋に彼女を心配してのものであるとわかる。

スズは彼のことを決めつけていた自分を恥じつつも、気にかけてくれていることを嬉しく思う。

彼の顔を見れば、自分でしたいという子供っぽいところも、彼への警戒心もすべてお見通しなのだろう。

それがひどく気恥ずかしい。

 

「う、うん……ありが……と?」

 

「萩村!?」

 

彼女は椅子を支えようとしてくれている津田に礼を言おうとした。

しかし恥ずかしさから彼の方向からそっぽを向いたため、体勢を崩し足を滑らせる。

彼女が足を滑らせたのに津田は気づいたが、手を伸ばすもとっさのことで彼女をささえるまでに至らない。

せめて彼女が頭を打たないようにと下敷きになる形で動く。

結果……

 

「ぐぅ!?」

 

「きゃ!?」

 

仰向けに倒れた津田の腰の上に、スズが座り込むようにして落ちてくる形となった。

 

「いてて、大丈夫か萩村?」

 

「う、うん……ありがと」

 

今現在彼の上に馬乗りになっているような形のスズ。

下から自分のことを心配そうに見上げる津田に礼を言う。

後頭部から落ちそうになった自分を、彼が空中でとっさに身体の向きを変えてくれたのだ。

 

「よかった……」

 

「す、すぐに降りるから……痛っ!?」

 

彼女の言葉に安堵する津田。

彼に馬乗り状態だったことに気づいたスズは、そこから移動しようとする。

しかし先ほど足を滑らせた時にひねってしまっていたらしく、右足首に鋭い痛みが走る。

おもわずその場で右足を引きよせて患部を触診する。

 

「萩村、だいじょ……!?」

 

「いたた、足ひねったかも」

 

津田は彼女の様子に大丈夫かと声をかけようとするも、途中で言葉が止まる。

スズが足を引き寄せる動きで、彼の腰の上で―――正確には股間の上で彼女の尻が動くのがわかった。

さらにスカートがめくれて白いショーツが彼の視界に映る。

股間には彼女の小ぶりながらも柔らかい、女を感じさせる尻の感触。

視界には純白のパンツと、透き通った肌の先ほどまでは見えなかった太もも。

彼女が足首をさする度、パンツの細かな皺が変化する。

これには、津田の我慢も限界だった。

 

「きゃあ!?」

 

突然上半身をがばりと起き上がらせて、自身の腰の上に座るスズを力いっぱい抱き締める津田。

あまりに突然の事態に悲鳴をあげるスズ。

 

「えっ、な、な、何? 津田、どうしたの?」

 

わけがわからず狼狽する。

彼女は抱きしめられたまま足首をさする体勢で固まってしまった。

そんな彼女の耳元で小さく、彼はつぶやいた。

 

「ごめん萩村。俺……もう我慢できない」

 

「えっ、ちょっと?」

 

「萩村ぁああああああああ!!」

 

 

 

 

 

【ハプニング2~最後の邪魔~】

 

彼の言葉にうろたえる暇もなく、そのまま床に押し倒されるスズ。

 

「やだ……ちょっと津田! 放して……きゃあ!?」

 

あまりに突然の展開に混乱してしまうスズ。

思考が追い付かず、いつものように彼を蹴り飛ばすこともできない。

真っ赤になって硬直してしまい、言葉で抵抗はするも体で反抗することができなかった。

彼女の言葉が聞こえていないのか、それとも聞こえていても自制できないのか。

津田はスズの首筋を舐め上げた。

彼の舌の感触を首筋に感じ、悲鳴をあげる。

さらに津田は首筋を舐めながらも両手を動かした。

 

「や……いや……ちょ、ちょっと津田!……あん!?」

 

右手はスズのスカートをめくりあげ、左の太ももを撫でまわす。

左手は彼女の尻をショーツごしに優しくさすりながら、時折揉み上げる。

彼女は津田の胸に手をやり、押しのけようと試みるもこの体勢では上手く力も入らず意味がない。

誰かに体をまさぐられるという初めての感触に、緊張してしまい余計に敏感に反応してしまう。

 

「ぁはっ、あん……やっ、津田……止めて……ちょっと、ひぁん!?」

 

彼が聞いていないと分かっていても声で止めるように言うスズ。

しかしその声の中にも、尻を揉まれ、足を撫でさすられ、どこか甘えた響きが入ってしまう。

意図していないにも関わらず出てしまう淫媚な声音に、余計に興奮してしまう津田。

スズも自分の声が妙に甘ったるく感じて余計に恥ずかしさが増す。

こんなふうに誰かに触られるのは初めてなのに、こんなにも卑猥な声をあげてしまう。

そして初めて、尻や足をこんなに撫でさすられてぞくぞくと感じている自分に気付く。

 

(私、お尻とか足が性感帯だったの?)

 

普段はその手のことに興味もないし、考えたこともなかった。

自分の性癖をこんな状態で初めて知って羞恥心を強く刺激される。

 

「ひ!? ぁ、やぁ!? ちょ、ちょっと津田~!? 耳は……!?」

 

彼女の甘い声により一層情欲を掻き立てられた津田が、彼女の耳の中に舌を突き入れて舐めまわした。

ただでさえ大抵の人間が敏感である耳の中。

その中を湿った生暖かい津田の舌が這いまわる。

ぬるぬるとした感触と、ぴちゃぴちゃという舐めまわす音。

彼の興奮した息使いが耳に直接送り込まれてくる。

まるで腰のあたりに毛虫が這っているかのようなぞわぞわとした感覚にさいなまれる。

知らず、その毛虫の感覚から逃れるように彼の体の下で背中をそらせる。

 

「ふぁあぁあ……」

 

ぞくぞくとして抵抗するのを忘れてしまうスズ。

彼女は初めての感覚の連続に、もうどうすればいいのかわからなかった。

 

(やだ……私キスもまだなのに……こんな……)

 

心では嫌なはずなのに、彼を止められない。

スズはまだ誰かと付き合ったことなどない。初恋もまだなのだ。

当然キスすらまだしたことがない。

帰国子女で幼いころは海外で住んでいたこともあるが、経験がなかった。

別に普段これといって恋に興味があるわけでもなかった。

だけど、私もいつか誰かを好きになって……くらいは考えていた。

勿論、年頃らしくそうなったら手をつないでデートして、慣れてきたらキスもして、とか想像していた。

そりゃあ恋人がいたならまぁ、男女の関係になることもあるかもしれない。

でもさすがにキスより先に、しかも恋人ですらない人となんて考えられない。

それなのに、今まさに津田に押し倒されているのにまともに抵抗すらしない自分がいる。

その行為が嫌であるはずなのに、何故か拒めない自分がいる。

 

(私は、別に津田のこと好きなんかじゃないのに……)

 

彼がようやく彼女の耳から離れた。

スズの耳穴と津田の舌が、銀色に輝く糸で結ばれる。

そしてここで初めてスズの顔を真正面から見た。

彼女は顔を真っ赤にして横を向いている。

 

「ごめん萩村……俺、もう本当に止まれない……ごめん」

 

冗談じゃなく我慢できなくなっていることをもう一度詫びる。

 

「……責任、とれるんでしょうね?」

 

彼の言葉にそっぽを向きながらも、既に抵抗しようともしなくなったスズがそう答える。

その言葉に覚悟をきめ、未だ触れていない彼女の秘められた場所へと手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

(自主規制)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそこで上手く最後までいかないのがこの作品である。

今まさに津田が彼女のショーツに触れようとしたその時……

スズがあることに気づいた。

部屋の入口がうっすらと開いているのである。

 

「スズちゃんてば、ツンデレさんね~」

 

そこにはビデオカメラを構えてこちらを嬉しそうに撮影しているスズ母がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一気に正気に戻るスズ。

 

「ふん!!」

 

「ごはぁ!?」

 

右足を振り上げ、すでに固くなっていた津田の息子を力いっぱい蹴り上げる。

予想だにしなかった、元気になっている状態の股間への一撃に津田は撃沈するのだった。

 

「……あっ、体動いた」

 

いつのまにか思うように体が動くようになっていたスズは津田の体の下からはい出す。

気絶した津田を放置して、助けにはいらなかった母親を説教しにいくのだった。

 

 

 

【帰宅】

 

あの後、意識を取り戻した津田は土下座してスズに平謝りした。

一時間の土下座の結果、自分も冷静な状態じゃなかったということで許してくれたスズ。

とりあえずお互いに初めての異性の部屋に入ったり招いたりでテンぱっていたということに。

今回のことは二人とも忘れて、無かったことにするという彼女の希望でそういうふうに落ち着いた。

思いのほか色々とあって帰宅するのが遅れた津田。

時間は現在22時。

既に生徒会の仕事の関係で遅れると家には連絡している。

といっても、今日は両親とも遅いらしく家には妹のコトミしかいなかったようだが。

 

「ただいまー」

 

玄関をあけ、帰ったことを告げるも返事はない。

もう寝ているのだろうか?いや、さすがに22時に寝ることはあの妹はないだろう。

もしや風呂にでも入っているのだろうか?

そういう場合は一人の時は鍵を掛けておくように言ってるのに。

不用心な妹にため息をつく。

とりあえず今日は疲れた、さっさと自分も風呂に入るなり寝るなりしよう。

ネクタイをゆるめながら二階の自室に向かう。

 

扉をあけると、そこには津田のベッドの上で死んでいるマグロの着ぐるみがいた。

口から垂れる血糊が凝っている。

 

「今日はマグロか?コトミ」

 

彼はそのマグロの死体に話しかけた。

ちなみに鞄を置いてブレザーを脱ぎながらのところを見るによくある光景らしい。

 

「えへへー、夜のベッドの上だけにマグロ……なんちってー」

 

彼の言葉に嬉しそうに起き上がるマグロの着ぐるみ。

身体の半ばで直角に折れているマグロというのも、なかなかにシュールである。

 

「どうどうタカ兄、このマグロ!! 良く出来てるでしょ!?」

 

「そ~だな~、頑張ったな~。

 でも受験生なんだから勉強しような~」

 

 


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