生徒会変態共!   作:真田蟲

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八人目

 

【ずっしり】

 

放課後、廊下を歩いていた津田。

今日は生徒会の集まりは特になく、かといって家に早く帰ってもつまらないのでなんとなく校内をぶらぶらと歩く。

この学園は女子生徒の数が多いうえに、去年まで女子高だったこともあり、女生徒の危険意識も低い。

つまりは、適当に歩いているだけでラッキーなチラリハプニングが期待できるのだった。

そんな偶然に見えるチラリズムを求めて津田が見つけたのは、重そうに段ボール箱を運ぶアリアだった。

彼女にとっては相当重たいものでも入っているのか、額に汗をかきながらふらふらとしている。

段ボール箱の角で、彼女の豊満な胸が押しつぶされている。

美少女が乳房を何かに押し当てて汗をかいている構図はなかなかに魅力的である。

魅力的であるのだが、このまま放置するというか、ただ見ているだけというのは人としていかがなものか。

特に彼女は自分の知り合いなのである。ここは手を貸すべきだろう。

 

「七条先輩、よかったら俺が持ちましょうか?」

 

「あっ、津田君」

 

アリアは声をかけられて初めて彼に気づいたようだ。

彼の言葉にパァッと顔が明るくなる。

 

「いいの?」

 

「ええ、俺も丁度今暇してたとこですし」

 

そういってアリアの手から荷物を受け取る津田。

中にはプリントか何かが一杯に入っているらしく、結構な重さがあった。

なるほど、これは女の子が一人で運ぶには辛いだろう。声を掛けて正解だったようである。

 

「大丈夫? 重くない?」

 

「大丈夫ですよ、これでも男ですから」

 

「うふふ、やっぱり男手があると助かるわー」

 

「力仕事なら任せてください」

 

何気ない会話をしながら二人並んで廊下を歩く。

どうやら生徒会の書類ではなく、単純に教師に運ぶのを頼まれたようだ。

目的の二階にある職員室で、偶然シノに出くわした二人。

 

「? 二人してどうしたんだ?」

 

「ちょっと先生に荷物を運ぶのを頼まれちゃって……」

 

「それで通りがかった俺が手伝ってたんです」

 

「ほう」

 

「おかげで助かっちゃった。ありがとう津田君」

 

「いえいえ、このくらいいつでも言ってください」

 

「……」

 

何か考え込むように黙り込むシノ。

三人そろって戸口で部屋の中に向かって礼をし退室する。

職員室を出てすぐ、津田は彼女に話しかけられた。

 

「津田は力に自信があるのか?」

 

「まぁ、男ですしね。それなりに鍛えてもいますし」

 

「そうか、なら君のその力試させてもらおう」

 

「はい?」

 

「私をお姫様だっこで教室まで連れて行ってみろ」

 

どうやら、先ほど何か考えていたようだがこのことらしい。

津田の力を使って何か面白いことができないか考えていたようだ。

 

「えっ、いいんですか!?」

 

「どうした? 自信がないか?……やはりお姫様だっこはできないか?」

 

不敵に笑う彼女の表情に、津田の何かが刺激される。

お姫様だっこは女だけの夢ではない。

男にとってもお姫様だっこで女性をベッドまで運ぶのは夢なのである。

彼も例外ではなく、日々将来彼女をベッドまで運べるよう腕の力は鍛えている。

大柄な、悪く言えば太めの女性ならいざ知らず、スレンダーなシノを抱き上げられないと思われるのは心外である。

それに、いままで妹しかお姫様だっこをしたことがない津田にとって、この申し出は好機である。

身内以外の人間を抱き上げるといううれし恥ずかしな行為を彼が断わるわけがない。

 

「会長、失礼しますね」

 

そう言って、右手で彼女の足に手をかけ、左手で背中を支える。

すんなりとお姫様だっこの体勢となるのだった。

 

「おお、軽々と持ちあがったな。

 今日の私は重たい日だからきついと思っていたんだが……」

 

「ふふ、シノちゃんてばそれが言いたかったのね?」

 

どうやら現在シノは女の子の日なようである。

それを聞いてふと津田は考えた。

たしか、女性の妊娠における危険日は女の子の日の21日前から12日前とかだったはず。

なら今の会長は安全な日なのであろうか?

 

「……」

 

「よし、津田! このまま私の2-Bの教室まで……て、おい津田?

 どうした? そっちは階段で……なんで下に降りるんだ? おい津田?」

 

「津田君? そっちは保健室の方向よ?」

 

「ええ、今日は保険医の山口先生は出張でいませんし保健室はあいてるのでベッドが使えますから」

 

何か乙女として危機を本能的に感じたシノ。

このままでは自身の貞操に関わる。

 

「ちょ、ちょっと待て津田!? 

 なんでお前が山口先生のスケジュールを知っている!?

 なんでベッドを使う必要がある!?」

 

「あらあら、二人とも大人の階段昇っちゃうのかしら」

 

「正確には階段は今現在降りてるところですけどね」

 

「な、何を言ってるんだ二人とも!? わかった、私が悪かった!

 津田、もういいから降ろせ!」

 

「ちょ!? 階段で暴れないでください会長! 落ちたら危ないですよ!?」

 

「そーよシノちゃん。暴れるからパンツ丸見えよ?」

 

「いや、でも……ふわぁあ!? 津田、変なとこ触るなぁ!!」

 

暴れる彼女を支えようとした彼の指が、彼女の脇と乳の間を揉む形になってしまった。

パシーン、と彼女が津田の頬をはる音が階段に響いた。

しかし、ここで彼女を落とせば下へ転がり落ちるのはわかっているので踏ん張る津田。

無言でそのまま階段を一歩一歩ゆっくりと下りる。

 

「すまない! からかったりした私が悪かった! だからもう降ろしてくれー!!」

 

 

 

 

 

【ネタばれするとまなこ】

 

いつもの生徒会室。会議の休憩中。

目頭を揉むようにマッサージをするシノ。

 

「ふ~~~~。最近ドライアイに悩まされて困っている」

 

どうやら乾燥して疲れてしまいやすいらしい。

 

「ドライアイ? なんですそれ?」

 

聞きなれない単語に疑問の声をあげる津田。

 

「ん? 津田は知らんのか?」

 

おもむろにマジックペンを手に取ると、ホワイトボードに彼女は文字を書き始めた。

 

「最近知育モノがはやっているから問題を交えて説明してやろう」

 

ホワイトボードの面をマジックの先が走り、生徒会室にきゅきゅっと音が鳴る。

やがて文字をすべて書き終えたシノが津田に振り返った。

 

『ま○こが濡れにくい』

 

「○にあてはまる言葉を入れなさい」

 

「ん、ですね」

 

「真っ先に思いつくのがそれか」

 

成り行きを見守っていたスズが呆れた声を出す。

こんなことも知らないことにもそうだが、何故それを正解だと考えるのか。

ドライ『アイ』なんだから目に決まってるだろうに、この問題なら『な』が正解だ。

 

「違うぞ、津田」

 

「え~。まん○じゃないんですか?」

 

「どうしてあんたはそう平然と放送禁止用語を口にするのよ」

 

「会長はま○こが濡れにくいんですか?」

 

「あらあら、シノちゃんそうなの?」

 

「いや、だからな? 答えは『ん』じゃなくてだな……」

 

「S○Xの時それじゃ乾いて挿れると痛いんじゃないですか?」

 

「あらまぁ、初体験は痛いっていうけど、シノちゃんはさらに大変そうね」

 

「あの……二人とも?」

 

「じゃあ湿らせるためにもクン○は絶対必要ですね」

 

「そうね、この場合ローションなんて邪道よね」

 

「……ちくしょー!!」

 

「あっ、会長!?」

 

せっかく問題を出したのにまともに解いてもらえない。

それどころか、何故か変な誤解を招いてしまう始末。

シノは涙をちょちょぎらせて生徒会室から走り去るのだった。

 

「ちゃんと濡れるもーん!! うーぁあーーー!!」

 

「ちょっと会長!? 待ってください会長ー!!」

 

シノの嘆きの言葉は学園中に響き渡ったという。

スズが止めようとした時には既に彼女の背中は見えなかった。

 

 

 

 

 

【君が生まれる時】

 

いつも通りの生徒会室。

特に会議もないがなんとなく集まってしまった面々。

すでにこの生徒会室にくることが生活の一部になってしまっている。

 

「シノちゃん、スズちゃん、二人とも昨日のドラマ観た?」

 

「うん、主人公の母親が実母でなかったとは衝撃だった」

 

「私は昨日は見過ごしてしまいました」

 

珍しく年相応の話題を話している三人。

 

「まぁ、ああいった驚きの出生の秘密はドラマに限るな。

 実際にあったらさぞかし辛いことだろう」

 

「そうですね、劇的な方がドラマ性はありますが普通のほうが幸せなはずです」

 

久方ぶりに生徒会の面々でのまともな内容の雑談。

なんだか新鮮だなぁとスズが思ってしまうのは、仕事の話以外ではすぐに下ネタに持って行きたがる人ばかりだから。

彼女的にはこういう会話がもっとあったら落ち着けるのになぁと思う。

 

「えっ、でも私実際に出生の秘密聞かされたわよ?」

 

そのアリアの言葉にどう反応したらいいか戸惑うシノとスズ。

ドラマのように親が本当の親じゃなかったとか、実は近親での禁断の関係の間に生まれた子供か。

彼女が大金持ちの家系であるだけに、一瞬でいろいろな憶測が浮かぶ上がる。

この手の出生の秘密は、ドラマではよく彼女のように金持ちの人間にあるので信憑性が高く思えてしまう。

かといって、彼女に親が違ったのか?とこちらから問いただせる訳もなく。

 

「そ、そうか」

 

「そうなんですか」

 

こうやって曖昧な言葉を返すしかなかった。

しかしアリアは特に重たい雰囲気を醸し出すわけでもなく、平然と言ってのける。

 

「うん、私が種づけされた時って青カンだったんだって」

 

「アウトドア派なんだな」

 

「会長、その反応はどうなんですか?」

 

アリアのことは心配するだけ無駄だった。

というよりも彼女の言うことは出生の秘密というよりもご両親の性癖の秘密なのでは、と思うスズ。

そんな時、扉の開く音とともに津田が生徒会室に入ってきた。

手には書類の束を持っている。

今日は会議も特にないし、集まるような予定もない。

皆が集まる必要なはいのだが、偶然にも全員が集まってしまう。

彼は自分を覗く全員が集まっていることに少し驚くような顔をした。

 

「あれ、なんでみんないるの?」

 

「なんとなくな……津田はどうした?」

 

「いえ、横島先生にこの書類を生徒会室に運ぶよう頼まれまして……」

 

どうやら次の会議か何かに使う書類を顧問の教師に頼まれたらしい。

 

「そうだ、今丁度みんなで話してたんだけど……津田君って何か出生の時の秘密とかって聞いたりしたことある?」

 

「七条先輩、そういうのを人に聞くのはどうかと……」

 

「俺の出生ですか?」

 

アリアが津田に質問するのを、苦い顔で止めようとするスズ。

実際に秘密があろうとなかろうと、そういうものを自分から他人に聞くのは気がひけるのだ。

もしややこしい問題があったらどうするのか、少なくとも興味範囲で聞いていいものではない。

なら、この手の問題は相手が自分から話すならいざ知らず、こちらから探るのは藪をつつくようなものだ。

 

「まぁ一応聞いたことはありますけど……」

 

「へぇ、どんなの?」

 

「ちょ、ちょっと七条先輩……津田も無理に話さなくてもいいのよ?」

 

「大丈夫だって萩村。

 単に俺が出来た時って、青カンで種づけされたらしいんだよね」

 

「お前もか」

 

津田に対しても、いらぬ心配だった。

この人たちにはシリアス展開な心配は必要がないことを悟ったスズであった。

安心するような、それでいて安心してはいけないような複雑な気分である。

 

 

 

 

 

 

 

【べ、べつに楽しみにしてるわけじゃないんだからね】

 

5月の23日。今月も後一週間となった桜才学園。

その生徒会室で明日からの予定について話し合う生徒会の面々。

 

「私たち二年生は明日から修学旅行だ」

 

明日の24日から二年生は三泊四日で京都に修学旅行だ。

シノもアリアも二年生なので、その間は仕事は一年生の二人に任されることになる。

 

「その間生徒会の仕事は君たちに任せる」

 

「大変かもしれないけど頑張ってね」

 

「「はい」」

 

その言葉に元気よく返事をする一年生コンビ。

息もぴったりだし、これなら大丈夫そうである。

シノは頷きながら壁に掛けられたカレンダーに今後の予定を描きんで行く。

 

「生徒会長である私が学校を離れるのは不本意ではあるが、

 学校行事への参加は学生の義務だから仕方がない」

 

「仕方がないことですか?」

 

「うむ」

 

カレンダーには、今日までの日程に×印が描き込まれ、明日の24日にはぐるぐると丸をつけられていた。

まるでその日がとても重要な日であるかのようで、彼女の楽しみだという心情を表していた。

 

「じゃあ俺も……」

 

津田がカレンダーをめくり、6月の22日に○印をつける。

 

「津田、この印はなんのやつ?」

 

「さぁ、何かしら?」

 

「うん? 解らない? まぁ特に行事があるわけじゃないから」

 

(・・・津田)

 

関係の深い本人にはわかってしまった。

22日の一昨日、それはシノの女の子の日だった。

つまりその一ヶ月後、次の彼女の予定日である。

 

「大丈夫です! 会長のフォローは副会長である俺がしっかりとしてみせます!!」

 

「ああ、そういうことね」

 

「いや、この間は私が悪かったから……もう忘れてくれていい」

 

「……?」

 

スズだけ一人わからなかった。

でもまぁ、わからないからといって聞くような内容でもないだろうと察したのだった。

 

 

 

 

 

 

【ぎゃっぷ】

 

その日の帰り道。

途中まで一緒に歩いて帰る津田とスズ。

 

「会長も案外子供っぽいところあるよねー」

 

「そうね、普段大人っぽい人が子供っぽい一面を持っていると愛らしく見えるわよね」

 

「そうそう」

 

先ほどの生徒会室での出来事を話す二人。

普段は凛とした大人びた雰囲気を持つシノが、遠足を前にした子供のように舞いあがっていた。

 

「でも、子供っぽい人が大人っぽい態度をとると小生意気に思われるのはなんでなのかしら」

 

どうやら彼女は自分がよく小生意気に思われることを気にしているらしい。

容姿が子供っぽい彼女は、年相応に見てもらえないことにコンプレックスをもっているのだ。

 

「ねぇ、津田?」

 

「別に思ってないよ?」

 

「嘘つかなくてもいいのよ。ええ、自分でもわかってるから」

 

どこか自虐的に笑って見せるスズ。

 

「なぁ萩村……ギャップ萌えって知ってる?」

 

「は? ぎゃっぷもえ?」

 

「そうそう、外見と中身とのギャップを見つけた時、その人がより魅力的に見えることだよ」

 

「……あっそう」

 

「だから萩村は気にせずに今の大人っぽい態度のままでいいんだよ。

 俺は今の萩村が気に入ってるし、思わせてるやつには思わせてればいいじゃん」

 

「……そうね」

 

「あっ、でも大人な態度はいいんだけど、だからって下着も大人向けのを無理につけようとはしないほうがいいぞ?

 やっぱり自分の体型にあったものを身につける方が体の負担も少なくていいからな」

 

「アンタはいつも一言余計ね」

 


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