生徒会変態共!   作:真田蟲

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五人目

 

 

【報告します】

 

いつもの放課後の生徒会室。

そこに今日は津田が一人の女子生徒を連れてきた。

 

「あの、会長……会ってほしい人がいるんですが」

 

シノに話しかける津田の背後から姿を見せる女子生徒。

長い黒髪をポニーテールにしていて、人懐っこそうな笑みを浮かべている。

健康的な美少女といった容姿をもった生徒。

 

「結婚するのか?」

 

彼女を見てシノが口にした第一声はそんなものだった。

 

「へ?」

 

「会長、あんたは津田のなんなんですか?」

 

シノの言葉に頭に疑問符を浮かべる女生徒。

スズはシノの安直な考えに呆れた。

男があってほしいと言って女を連れてくる。

よくドラマや何かでは結婚前に恋人を親に紹介するシーンで使われる言葉だ。

だが、それは親や兄弟といった家族に紹介するものだろう。

 

「はい! 結婚します!」

 

「へ? え、あ、へ? うぇええええ!?」

 

「そうか、結婚か! できちゃった婚なのか!?」

 

悪乗りして結婚宣言する津田と、いきなりな展開に顔を真っ赤にしてうろたえる女生徒。

シノは何かおもしろそうに目を輝かせていた。

津田はできる限りに表情を引き締めて、可能な限りのイケメン顔を作る。

連れてきた女生徒に向きなおり、彼女の両肩を掴んだ。

 

「三葉……俺の子供を産んでくれ」

 

「……あっ、あぅ、あぅう……」

 

こういう会話には免疫がないのか、それとも冗談とわかっていないのか。

三葉と呼ばれた女子は赤面して耳から湯気を上げている。

わかりやすいくらいにうろたえていた。

 

「とりあえず冗談はそこまでにしておけ。話が進まん」

 

「おぅふ!!」

 

心優しいスズはとりあえずいつも通り津田の股間を蹴り上げて、三葉を救出するのだった。

 

 

 

 

 

 

【床上テクニック】

 

それから5分後の生徒会室。

ようやく三葉も冷静を取り戻し、改めて要件を話すことになった。

津田は股間をおさえながら床に倒れているので幾分静かである。

 

「私、タカトシ君と同じクラスの三葉ムツミです」

 

改めて生徒会のメンバーの前に立って自己紹介をする三葉。

 

「実は新しい部を作ろうと思いまして、その相談に来ました」

 

「なんだ、創部の話か。本当に結婚話じゃなかったんだな」

 

「あんたは冗談じゃなく本気でそう思ってたんですか?

 いいかげんその話から離れてください」

 

三葉の言葉に無駄に残念そうな顔をするシノ。

 

「それで何の部活を作りたいの?」

 

「柔道部です!!」

 

アリアの問いに元気よく答える三葉。

純粋に明るくはきはきとした印象を受ける三葉。

部活動に真剣に打ち込むスポーツ少女といった雰囲気で、まさにこれこそ健全な高校生といった姿。

この作品では非常に珍しい人物だ。

彼女の柔道部という答えに、アリアはああっ、と何かを理解したかのように手を叩いた。

 

「柔道……知ってるわ。アレよね? 寝技が48個あるやつね」

 

「全然知ってませんね」

 

「あはは、48個もないですよー」

 

「あらそうなの?」

 

「七条先輩本気で勘違いしてたんですか?」

 

色々と間違った先輩の知識に呆れるスズ。

三葉は単純に今の会話に下ネタが含まれていたことに気づいていないらしい。

本当にいまどき珍しくその手の知識もない純粋な子のようだ。

 

「……なぁ、萩村」

 

「なんですか会長」

 

スズの背中を指でつつきながらシノが小声で話しかけてきた。

何か彼女は真剣な表情をしている。

 

「柔道に寝技が48個もないというのは本当か?」

 

「……あんたもか」

 

 

 

 

 

【夜の格闘技】

 

何故柔道部を作りたいと思ったのか、その動機を訊かれて恥ずかしそうに頭をかく三葉。

 

「いやー、本当はムエタイ部にしたいんだけど、メジャーなところで柔道を。

 部員も獲得しやすそうだしね」

 

「三葉って格闘技好きなのか?」

 

復活した津田が質問する。

既に先ほどのダメージは残っていないのかもう平然としている。

段々スズに股間を蹴られるのも慣れてきたのか、復活までの時間が早くなってきた津田だった。

 

「うん!! 己の技を磨いた身体と身体のぶつかり合い!! 熱いじゃん!!」

 

「ああ、確かに身体と身体の絡み合いは熱いな!!」

 

「うむ、確かに熱い!!」

 

「そうね、熱いわね」

 

「……津田、わざと言い換えたんじゃないだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

【上から目線】

 

なんだか妄想を楽しんでいる三人を置いといて、話を進めようとするスズ。

 

「それで、三葉さん? 肝心の部員は5人集まってるの?」

 

「ふぇ?」

 

「新しい部を発足するには部員が5人以上必要よ。

 それに満たなきゃ愛好会ということになるわね。愛好会だと部費も出ないわ。

 そこのところ大丈夫?」

 

この学園では彼女の言葉通り、新しい部活の場合、最低でも5人以上の部員が必要と決まっている。

愛好会扱いの場合、部屋が空いていれば部室は与えられるが、部費は一切支給されない。

 

「あの……そういえばなんで子供がここに?」

 

「あ~あ、言っちゃった……」

 

ここにきて初めてスズをちゃんと見た三葉。

それまでは部活のことを説明することと、先ほどの津田とのやり取りで頭がいっぱいで他に頭が回らなかったのだ。

スズのあまりに幼く見える容姿に、ついつい言ってはならない疑問を口にしてしまった。

実際、138センチのスズと162センチの三葉ではかなり身長差がある。

とても自分と同学年だとは思うまい。

 

「誰が子供か!!」

 

「あれ?」

 

キレて見せるが、全然恐がられないどころか首を傾げられて苛立つスズ。

 

「っ津田!!」

 

「は?」

 

「肩貸しなさい!!」

 

「エ?」

 

「いいからそこにしゃがむ!!」

 

言われたとおりしゃがむ津田。

その肩によじ登り、ちょうど肩車のようにして彼の肩に座る。

津田は突然降ってわいた事態に幸福を感じていた。

右を見ても左を見ても視界に映るはスズの黒いタイツに包まれた美脚。

バランスを取るためにその細くも柔らかい太ももで彼の頭部をはさんでいる。

 

(おお……何これ? 何この役得?)

 

スズの現在の目線は肩車のおかげで三葉よりもだいぶ高くなっている。

先ほどとは違い、スズが彼女を見下ろす形になっている。

普段なら津田が鼻を鳴らして彼女の太ももの匂いを嗅ごうとしているのに気付くだろうが。

自分が子供と思われているその認識を改めさせることに意識が集中していて気付かないスズであった。

津田にとっては思わぬ役得である。

 

 

 

 

 

 

【へーーーーー】

 

津田の肩の上で腕を組み、三葉を見下ろすスズ。

それを「おおー」と言って見上げる三葉だった。

先輩の女子二人は、突然の事態をおもしろがって観察していた。

 

「私は萩村スズ!!」

 

「……クンカクンカ……」

 

「あんたと同じ16歳!!」

 

「……ハァハァ……」

 

「しかもIQ180の帰国子女!!」

 

「……スーハースーハー……」

 

セリフの合間合間に聞こえてくる津田の息使い。

 

「なぉ、アリア。あれ結構あぶない感じがするな?」

 

「ふふ、津田君たら変態さんね。すごく嬉しそう」

 

その様子を観察している人たちはそんなことを小声で話してにやにやしていたのだが、

この時の津田、スズ、三葉の三人はそれを知らないのであった。

 

「英語ペラペラ! 10桁の暗算なんて朝飯前!!」

 

「……萩村の太もも……クンカクンカ……スーハースーハー……」

 

「どう!! これでも私のこと子供扱いする!?」

 

どうだ、と胸を張るスズ。

しかしそれに対しての三葉の反応は、彼女にとっては納得のいく物ではなかった。

 

「へー、すごいねー。

 じゃあ1000000000+1000000000は?」

 

「もっと複雑な問題にしろー!!」

 

明らかに子供相手への反応だった。

凄いと言ってくれているのに逆に馬鹿にされた気がするスズ。

 

「そうだ、萩村は立派な大人だぞ三葉!!」

 

意外な事にスズへの援護射撃が彼女の股間の位置から飛んできた。

 

「そうなの?」

 

「そうよ!! 言ってやりなさい津田!!」

 

「これを聞いてもまだお前は萩村を子供扱いできるか!?……ぺろり」

 

「んぁん!?」

 

津田は宣言の後、スズのタイツに包まれた太ももを舐め上げた。

 

「ん~、デリシャス」

 

「今の声聞いたかアリア! 萩村は大人だな!」

 

「ええ、立派な大人の女ね!」

 

「わ~……」

 

満足な顔をする津田。興奮して顔を赤くして好き勝手言う先輩二人。

なにか今凄い光景を見た気がする三葉。

 

「調子に乗ってんじゃね~!!」

 

今度は羞恥心でブちぎれたスズ。

津田の頭部を足で挟んだまま、腰をひねって上体を後方にそらす。

重心が移動して傾く津田の体。

そのまま津田の頭部を床にたたきつけるようにして器用に回転する。

 

「ごはあ!?」

 

頭部から床に叩きつけられて意識を失った津田。

それに反してスズは器用に着地してまったくの無傷であった。

素晴らしいバランス感覚である。

 

 

 

 

 

【ふえた】

 

床に沈んだ津田をよそに会話をすすめる四人。

 

「とりあえず部員5人のところ4人にまかりませんか?

 すでに3人はキープしてるんですよ」

 

「駄目に決まってるだろ」

 

三葉の提案を速攻で切り捨てるシノ。

他の部活とて同じ条件で申請を受理してきたのだ。

認めてしまえばその部活をエコひいきした形になってしまう。

 

「ちゃんと理由もあるんですよ」

 

「ふむ、理由か。言ってみろ」

 

部員が4人でないといけない正当な理由があるのであれば、考えないでもない。

そう言って三葉の言うの理由を聞くことにする。

 

「ストレッチするとき二人ひと組になるじゃないですか?

 でも5人だと一人余っちゃって仲間外れみたいでいやでしょ?」

 

「一理あるな」

 

「でしょー?」

 

生徒会長の反応にこれならいける、と確信する三葉。

 

「じゃあ今後は必要定員6人にしよう。がんばって探して来い」

 

「あれー!? ハードルあがっちゃったー!?」

 

「大丈夫よ、ハードルは高い方がこすれて気持ちいいでしょ?」

 

「七条先輩、言ってる意味がわかりません」

 

彼女の確信は見事に消えてしまうのだった。

 

 

 

 

 

【なんとかなった】

 

どうしよう!? と三葉が騒いでいる横で復活する津田。

脳震盪でも起こしかけていたのか、起ちあがったが未だ少しふらふらしている。

 

「どうしよう! タカトシ君、なんかハードルあがっちゃったよー!!」

 

会長が必要人数を6人にすると言って他の女子二人は特に反対するそぶりもない。

立ちあがった津田を見つけた三葉は、唯一味方してくれるかもしれないクラスメートに泣きついた。

 

「大丈夫だよ三葉。俺に任せてくれ」

 

「タカトシ君……」

 

さわやかな笑顔で彼女を安心させるように微笑む津田。彼の頭頂部にはおおきなたんこぶができていた。

その頼りがいのある姿に、希望を見出す三葉。

 

「会長、ちょっといいですか?」

 

「む? なんだ?」

 

ふらふらとしながらも津田はシノに近寄る。そして少しかがむと彼女の耳元に顔を近づけた。

口元を手で隠し、周囲の人間に聞こえないようにする。どうやら内緒話のようだ。

 

「あのですね……」

 

「津田、私は耳が性感帯なんだから耳元で話しかけるな」

 

「あ、すいません」

 

机にあったノートを丸めて筒状にし、ひそひそと彼女の耳に話しかける。

それを腕組みをして神妙に聞き入れるシノ。

 

「あの……すね……は2Pじゃ……無理……いきなり……3Pは……

 かの……は……6人じゃ……が……三組……それは……彼女ら……処女……

 絡むの……まずは……2P……」

 

「……なるほどな」

 

「「「……?」」」

 

ひそひそと話しているので、彼が何を言っているのか全く聞き取れない。

単語などの断片は聞こえてくるのだが、どのような内容で説得しているのかさっぱり残りの三人にはわからなかった。

 

「よし……津田の言いたい事はわかった。尤もだ。

 柔道部は今回に限り特例で4人での創部を許可しよう!!」

 

「ええ!? 本当ですか!? やったーーー!!」

 

「ちょ、何でですか会長!! 津田、あんた何言ったの!?」

 

「わーーーー(ぱちぱちぱち)」

 

先ほどと違い180度意見を変えたシノ。

その結果に大喜びの三葉。困惑するスズ。アリアはとりあえず拍手していた。

 

「別にいいだろ萩村? 会長がいいって言ってるんだから。

 それともお前は柔道部ができるの反対なのか?」

 

「いや、別にそういうわけじゃないし……会長が認めるならそれでいいけど……」

 

別に柔道部ができるのはかまわない。

彼女個人としては新しいことに挑戦する人は好きな方なので、創部自体に否はない。

ただ、今回の特例をどうやって会長から津田がもぎとったのか気になっただけだ。

 

「ならいいじゃないか。これ以上話を蒸し返すのは野暮だぞ?」

 

「……むぅ」

 

何故かまともなことを言う津田。

先ほどの自分の攻撃で頭を強く打っておかしくなったのだろうか?

大丈夫か? 頭が変に……むしろまともになったのか?と疑うスズ。

 

「ありがとうタカトシ君!!」

 

キラッキラした目で津田を見る三葉。

よほど嬉しいのだろう、今の津田は彼女にとってのヒーローだった。

 

「これくらい別にかまわないさ。俺たち友達だろ?」

 

「……う、うん」

 

何故か赤面する彼女に、やさしく笑いかける津田。

彼は普段変態で阿呆な言動をしているが、黙っていれば並はずれてはいないがそれなりに整った容姿をしている。

今まともに見える彼は、結構なイケメンオーラを放っていた。

 

「さ、許可がおりたことをみんなに早く知らせてきなよ。

 きっと待ってるよ?」

 

「そ、そうだね。ありがとうございましたーーー!!」

 

顔を真っ赤にしながら礼を述べて生徒会室を走り去る三葉。

 

「……なんだこの状況?」

 

なにかふに落ちないスズであった。

 

 

 

 

【俺の○さばき】

 

三葉が去った生徒会室。

今はみんなが過去にどんな部活に入っていたか話し合っていた。

 

「津田君は以前何か部活やってた?」

 

「そうですね、小学校のころは野球。中学校の頃はサッカーを」

 

「ほーーーーー」

 

「男の子ね」

 

何か感心した様子のシノとアリア。

やはり野球やサッカーというのは、男の子が好きなスポーツと聞いて真っ先に思い浮かびそうな種目だ。

 

(津田も小中学校の時はまともだったのかな?)

 

そんなことを考えるスズ。

そのまともなまま高校まで育てばよかったのにと思う。

 

「津田は玉遊びが好きなんだな」

 

「男の子だもの」

 

「それを言うなら棒遊びも好きですよ?

 野球はバットがありますし、高校にあがるまでは剣道もしていましたから」

 

「ほほう?」

 

「まぁまぁ」

 

「なんかひっかかるな」

 

もしかしたら頭を打ってまともに……というのは幻想かもしれないと薄々気づきはじめたスズであった。

 

 

 

 

 


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