【正直なからだ】
3学期も始まり、再び学校生活が始まってしばらく。
え?……正月の話?
……正月なんてなかったんや。
けっして作者が書くちょうど良いタイミングを逃してゲフンゲフン。
なんとなく飛ばしたとか、そういったことは……ねぇ?
「ふぅ……」
シノは生徒会室で、小さなため息をついた。
目の前の机には、処理しなければならない案件のプリント達。
冬休みが明けてから、溜まっていた仕事をここ数日こなす日々が続いていた。
「あまりの多忙に身体が悲鳴を上げているようだ」
「私が肩を揉んであげるよ」
そんな彼女の呟きを耳にしたアリアが、肩を揉もうと背後に回ってくる。
シノの肩に手を置き、制服越しに肩甲骨の辺りを指圧する。
「どぉ?」
「ああ……いい感じだ。
あまりの、ハァ、気持ちよさに、ンァ……身体が……ンン……あえぎ声をあげそうだ」
「本当に出てますよ」
気持ちが良いのか、本当にあえぎ声を出しているシノ。
彼女の口は緩んで、今にもよだれを垂らしそうな表情だ。
「俺もマッサージ、手伝いましょうか?」
「津田が?」
「何を隠そう、俺はマッサージには自信があります」
そういって、親指で指圧するようなジェスチャーをする津田。
「何を隠そう、俺は○○マッサージには自信があります」
「そ、そうか……」
「何故言い換える必要が?」
「うふふふふ」
そういって、両手の指を生き物のようにわきわきと動かしてみせる津田。
問題です。○○に入る漢字はなーんだ?
【トビラをこじあけろ】
「ふぁ~~~……」
「ふぁ~……」
津田のあくびを見て、ついつい自分もあくびをしてしまったシノ。
昼食後のちょっとした休憩時のことであった。
「あくびって人にうつってしまうな」
「そうですねぇ」
「これを活用すればイ○○○オも可能だな」
あくびの最中にズドンと、とこれはいいアイデアではないかとひらめくシノ。
そんな彼女を前に、津田は笑顔でズボンのチャックに手をかけた。
「なるほど一理あります。
というわけで会長、もう一度あくびしてもらえませんか?
ほら、ふあ~~~って」
「いやごめんほんとごめんなさい私が馬鹿でした」
「そんなことないですって、会長俺よりも賢いじゃないですか」
「私が間違ってたから、無理だから、むりむりむりむりむーりーーーー!!
お昼食べたばかりだからー! 色々と駄目だからー!」
せっかく食べたものがリバースしてしまう。
そんな見当違いな事を考えて逃げるシノであった。
【手作りお菓子の巻き】
世間がそわそわと浮かれ出す。
そう、今日はバレンタインデー。
世の中のチョコレートの売り上げに貢献する女子が多数発生するあの日である。
「津田君、バレンタインチョコどーぞー」
我らが生徒会役員が誇る、見た目だけならほんわか癒し系代表のアリアさん。
可愛らしくラッピングされたプレゼントを手に津田に話しかけていた。
「ありがとうございます。開けてみてもいいですか?」
「どーぞー」
見た目からして、市販のものではなく彼女の手作りだろうか?
おそらく義理チョコの一つくらいはもらえるだろうと想定していた津田。
しかしそれが手つくりのものだと、嬉しさはひとしおである。
顔をにやけさせつつ、乱暴に破かないように包装を解いていく。
「あれ、でもこれクッキーですよ?」
アリアは先ほどチョコと確かに言っていたはずだが、中身はどう見てもクッキーだった。
「いいから食べてみて」
「?……ああ、中にホワイトチョコクリームが入ってるんですね」
「そ」
一口かじってみると、口の中にはサクッとした触感と仄かな甘さが広がる。
齧った断面を見てみると、白いチョコクリームがとろりと垂れていた。
「おいしいです。ありがとうございます」
「おいしいでしょ? 名づけて白濁液クッキー。
私の白く濁るまで掻き混ぜた愛液が入ってるの」
「わーお」
普通に考えれば冗談だろうけど、相手が相手だから本当なのかわからないぜー。
本当なら本命チョコなんだろうが、七条先輩に限ってはそれもわかんないんだぜー。
【さりげなく】
「バレンタインチョコをたくさんもらった」
そういうシノの前には、机に上に山を形成するチョコレート達。
漫画のイケメンキャラかよと言いたくなるほどの量である。
これが同姓なら嫌味の一つも言いたくなるが、相手が女性ならそれもない。
むしろシノの場合、友チョコよりも本命も少なからず存在していそうで。
女の子が女の子に本命チョコ。
津田の頭の中は百合百合しい妄想が膨らんでいた。
「一人じゃ食べきれないから津田、協力してくれ」
「いいんですか?」
シノにあげた子に悪い気もしないでもないが、食べられずに捨てるほうがもっと悪い。
もらった本人が良いと言っているのだから、もらえるものはもらっておこう。
……チョコの中に陰毛とか入ってたりして……なわけないか。
チョコレートの包装を解くシノの手を眺めながら彼はそんなことを考えていた。
「ほら」
「いただきます……あ、これおいしいですね」
「そうか、よかった」
何故かほっとした表情を見せるシノ。
彼女の目は、何か嬉しいことを隠しきれない子供のようであった。
「てゆーか、それシノちゃんが作った「もう一つどうだ!!」んじゃ……」
「んむ!?」
突然現れたアリアの言葉に焦ったシノは、チョコを一つつかむと津田の口に突っ込んだ。
この反応から、シノの手作りなのだろうなとは察しがついた津田。
だけどそれを指摘しないのが紳士である。
「いやー、それにしてもおいしいですねこのチョコ」
「そ、そうか……うむ、作り手の気持ちがこ、こ、込められてるんじゃないかな?」
「愛ですねー」
「うぇ? あ、愛?」
「うふふ、そうねー愛(液)ねー」
【君のそんな照れ隠し】
その日の放課後。
生徒会室の戸締りを終えて、鍵を職員室に戻しにいく最中。
「津田」
「ん、何?」
隣を歩くスズに声をかけられ、彼女の方を向く。
「ん」
前を向きながら、彼女がこちらに突き出しているのは小さなコンビニ袋。
中には無数の一口サイズのチ○ルチョコが入っていた。
「一応、バレンタイン」
「ありがとう」
「いえいえ」
やりとりはそっけない。たったそれだけのことだった。
彼女はこちらを見向きもしない。
事務的に渡して、事務的に感謝の言葉を受け取る。
それだけに見えるが、津田は彼女が必死にこっちを見ないようにしているのに気がついた。
がさがさと袋をあさる音に、その小さな肩がぴくりと反応する。
手に取ったチロ○チョコは、なんとなく一度開封されたものをもう一度包んであるように見える。
包装紙を向いて、一つ口に放り込んでみる。
甘い味が口内に広がるが、いつもコンビニで買って食べるものよりも少し甘さが控えめな気がした。
「ん、おいしい」
「そ、良かったわね」
「うん良かった」
「……」
【恒例行事】
「ただいまー」
津田が家に帰るも、返事はなかった。
リビングを覗いてみるも誰もいない。
共働きの両親が帰ってくるのはいつも遅いが、コトミも不在のようだ。
まぁ、どこで何をしているのかはわかっているのだが。
最早毎年の恒例行事だからである。
「あー疲れた」
自室のトビラを開けると、部屋の中央に大きな箱が鎮座していた。
ピンクのリボンでラッピングされた、人一人が入れそうな大きな箱。
「ふっふっふっふっふ」
箱の中から聞こえてくる笑い声を無視して、彼は机の引き出しを開ける。
そこから無言でガムテープを取り出すと箱に封をした。
「じゃーん、タカ兄……って、開かない!? なんでー!?」
兄の行動は想定外だったのか、箱の中で慌てる妹。
壁を叩くなりしているのか、ボスボスと音を立てて箱が揺れている。
毎年律儀に裸の妹が飛び出してくるのを見ていたが、今年くらいはいいだろう。
今年くらいは、義理か本命かはわからないが美少女達からチョコをもらった余韻を感じていたかったのだった。
そのうち諦めたのか、箱の動きが止まった。
そして聞こえてくる妹の息遣い。
「はぁ、はぁ、はぁ……駄目、もう漏れる」
「え?」