オラ、ハラハラすっぞ
【おうさいさい】
文化祭当日の朝を迎えた桜才学園。
早朝から活気付く学校内を二人組みで見回りしている生徒会役員共。
現在、津田はシノと一緒に校舎内を見回りしている。
ちなみにアリアとスズは校庭での屋台の確認を行っていた。
「会長、目の下にクマができてますよ?」
「津田こそ」
校舎内を歩く二人は、明らかに寝不足であることを表すクマができていた。
「さては津田、昨日の晩もまたオナ○ーのしすぎで徹夜したんじゃないだろうな?」
ここ数日の準備でひっぱりだこな津田は、疲れからか普段から勃起してしまっていることがあった。
先日も彼の股間の観察をかかさないアリアに指摘されているのである。
シノはてっきり、文化祭当日に向けて溜まりに溜まった欲求を発散させていたのだろうと考えたようだ。
津田に問いかけつつ、答えは解りきっているんだぞと言いたげに口元をにやけさせている。
「いやー、それが……俺も昨日は発散させるつもりだったんですけどね。
どこも準備が追い込みで、男手が欲しいからって駆り出されてまして……」
ついさっき解放されたばかりなんですよ、と苦笑を浮かべる津田。
「すまん!!……ぅーーあああーーー!!」
「えっ、会長? 会長ーーーーー!?」
その言葉を聞いて、楽しみで寝付けずに暇を持て余してオ○ニーで徹夜したシノは涙をちょちょぎらせて走り去ったのだった。
【私には見えない】
その後、メンバーの組み合わせを変えて見回りを続ける生徒会の面々。
現在津田はスズと一緒に、二年生の学年の出し物に風紀に反したものがないか確認していた。
A組から順に一つ一つ確認していく。
喫茶店やダンボールで仕切られた迷路など、様々なクラスごとの出し物が連なる。
D組みでストリップショーを計画していたのを止めさせたスズは、そのまま次の階に行こうとした。
「ふぁぎむらふぁぎむら、ふぎほほだよ?(萩村萩村、次ここだよ?)」
E組を素通りしようとした萩村を呼び止める津田。
現在彼の顔は何度も殴られたかのようにぼこぼこだが、理由はご想像にお任せしよう。
「ああ、私背が低いから見えなかったわー」
明らかに棒読みな口調で誤るスズ。
どう考えても嘘なのだが、自らタブーとすることに触れてまで嫌なのだろうと思いそのことを指摘しない津田。
E組の出し物には「おばけやしき」と書いてあった。
【お口封じ】
ヒュ~ドロドロドロ~……と、定番のBGMが流れるお化け屋敷に入る二人。
「ふぇいとふぁいのふぉうからみまわうぃにふぃむぁふぃふぁ(生徒会の方から見回りに来ました)」
「ひぃっ!? へ、あ、生徒会の……」
ぼこぼこの顔で津田が受付の生徒をびびらせている最中、難しい顔をして通路の先をにらむスズ。
こんな子供だましのもので悲鳴をあげれば、生徒会としての威厳が示せない。
どうするべきかと考えている時、彼女の目に入ったのは備品の箱の上に置いてあるガムテープだった。
津田が生徒会の腕章を見せて説明している間に、こっそりとガムテープで自分の口をふさぐスズ。
津田はそれを見て彼女なりに頑張っているのだろうと優しく見なかったことにしてあげた。
「~~~~~っ!?」
墓石のハリボテを目にして悲鳴をあげそうになり……
「~~~~~~っ!?」
理科室から持ってきたのか、人体模型に驚くスズ。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーー!?」
だが、お化け屋敷に悲鳴を響かせたのはスズではなく、ぼこぼこに変形した津田の顔を見たお化け担当の生徒であった。
【演技派書記】
午前の見回りを終えて合流した生徒会役員共。
今は我らがアリアが出演することになった演劇部の劇を観に体育館に来ていた。
舞台の上で立ち回る演劇部たちの活躍を、客席から鑑賞する面々。
「おて」
「わんわん!」
今現在は助っ人として呼ばれたアリアが、犬と戯れるシーンを演じていた。
「七条先輩演技うまいですねー」
顔の形状が元に戻った津田。
以前、劇の練習を手伝ったときよりも格段に演技が上達している様を見て関心する。
実際には他の演劇部の面々よりも舞台映えする上に、一つ一つの所作に目を引かれた。
「DVDで研究したらしいぞ」
彼のつぶやきに反応したシノが答えた。
最近は昔よりも舞台のDVDも豊富である。
レンタルビデオの店に行けば借りることもできるだろう。
まぁ、金持ちの彼女であればそんなことはせずに取り寄せて購入しているかもしれないが。
「登場人物がローター入れて接客するやつだったらしい」
「実際にやってないだろーな」
シノの付け足すような一言を聞いて、妙な不安を感じるスズ。
そう言われれば、舞台の上にアリアは頬が少し赤いようにも見える。
いや、あれは舞台上での高揚感とか緊張とかのものだろう。
そうに違いない。ないったらない。
「あ」
ガガガガガガガガガガッガガガ……
彼女のスカートの中から何かが転げ落ちた。
何事も無かったかのようにアリアが拾い上げるまで、何故か妙な音が体育館に響いた。
【あのこのぬくもり】
「素晴らしい演技でしたお嬢様」
「出島さんもメイド服ありがとうね」
演劇終了後の生徒会室。
着替え終わったアリアは、部屋の中で出島から借りていた服を返そうとしていた。
ちなみに津田も出島に呼び出されて一緒にいる。
「ではさっそく着替えますね」
「え、でも一度クリーニングしたほうが……」
彼女は何故か、以前津田が渡した体操服を着ている。
それを今渡されたメイド服に着替えるらしい。
「いえ、メイドの私服はメイド服ですから……それにお嬢様の使用済みはそそりますしね」
「あらそーぉ?」
「それに津田様も使用済みの方がそそられるでしょう?」
「Yes!!」
津田と出島は互いにサムズアップして答えた。
【筋書きのあるドラマ】
再び見回りを再会する生徒会の面々。
今は最初と同じく津田はシノとペアを組んで回っていた。
「天草会長」
「む?」
そこに声をかけてきたのは新聞部でおなじみの畑ランコであった。
「現在ミスコンの参加者募集中なんですが、あなたもいかがですか?」
どうやら新聞部主催の毎年恒例のミスコンの参加者を探しているようだ。
事前に出場が決まっているメンバーのほか、現在飛び入りの参加者を募っているとのこと。
津田は持っていたパンフレットを確認する。
確かに一時間後、校庭の特設ステージでミスコンが開催される流れになっていた。
「水着姿でやるらしいですね」
「私にそういうのは無理だ」
津田の言葉にちょっと困った顔をするシノ。
彼女は他人の視線を感じるのは好きなほうだが、自分の体型に自身があるわけではない。
具体的には胸とか。あと胸とか。
身近に書記と書いてボイン読むような人物がいるだけに、必要以上に卑下してしまう。
「ハハハ、大丈夫ですよ。会長にポロリ要因は期待していませんから。
ちゃんとポロリ専門の人も容易してあります」
「よし畑、ちょっとむこうで話し合おうか?」
畑さんは風紀に反することやる気満々だった。
【びっちょびちょ】
午後の体育館。
演劇が終わった後は運動部の催し物が開催されていた。
ちょうど居合わせた横島と一緒に、見回りもかねて一つ一つ参加してみるスズ。
卓球、バレー、バスケットと順に参加していく。
特に最後のバスケットの3オン3はきつかった。
体育館内での運動部で唯一、数少ない男子生徒で結成された部活だからだ。
ゲーム終了後、横島とスズはタオルで汗をぬぐっていた。
5分間のミニゲームだったが息を切らせる自分達とは違い、男子生徒は次のゲームを開始している。
普段部活で動き回っているかの違いもあるが、やはり性別の違いからくる体力の差もあるだろう。
横島は彼らを眺めながら、小さくため息をついた。
「いやぁ、やっぱり男の子はイキがいいわねー。えらい汗かいたわ」
「……見たところ、あまり汗をかいている様には見えませんが?」
彼女の言葉に、スズが何気なく返す。
実際、横島の頬には汗が伝っているがそれほどまででもない。
20代にしては動いていたほうだが、ゲーム中はスズのほうが動いていた。
そのせいか、どちらかといえば目の前の教師よりもどう見ても自分のほうが汗をかいている。
「いやー、身体の汗じゃなくてあっちのほうなんだけどー」
顔を拭いていたタオルでさりげなく股間の位置を隠す横島。
「あっ、萩村そんなところにいたのかー。おーい!」
「来るな津田!! 今はこっち来るなー!!」
空気を呼んだのか読まなかったのか、寄ってくれば余計にややこしくなる奴が体育館の入り口から手をふっていた。
【筋書きのあるドラマ2】
「津田副会長」
「む?」
「あれ、畑さんどうしたんですか?」
見回りを続けていた生徒会役員共。
今現在は全員合流して4人で見回りをしている。
まぁ、もはや回るべきところは全て回っているのだが。
「今年から共学になったでしょう?
なので、実は今年からミス桜才のようにミスター桜才も決めようという声が急遽あがりまして……」
「なるほど、それで津田か」
確かに津田は外見もそこそこいいし、身長もけっこう高い。
変態であるということを差し引いてもそれなりに人気があるのだった。
「ちなみに、出場者にはこちらの水着を着てもらいます」
取り出されたのはブーメラン型の水着。
穿けばあきらかにあそこがもっこりと主張しそうである。
「畑よ、急遽声があがったといっていたな?」
「そうですが?」
「何故そんなに用意がいいのだ?」
「そりゃあ意見を出した人間がポロリを期待していたからでしょう」
「つまり俺にポロリをしろと?」
「あらあら」
この後会長と会計の手によってミスター桜才コンテストは中止にされた。
【5分の恐怖】
文化祭の日程の3分の2が消化された時間。
ようやっと仕事から解放され自由時間を得た津田だった。
今年は共学になって初の文化祭ということもあり、いろいろと大変だったのだ。
そのため今回の祭りでは生徒会のメンバーにはほぼ自由時間などありはしなかった。
「あー疲れた。やっと自由時間作れた……」
ため息を吐きながら中庭のベンチに腰掛ける。
思えば徹夜であちこちに引っ張り出され、今日も朝から見回りで歩き回っている。
正直かなり疲れていた。
ちょっと休もう、5分、そう5分だけ……
そう思って目を瞑った津田の意識は、思いのほか深いところまで潜ってしまった。
要するに思いっきり寝てしまったのである。
黙っていればイケメンの仲間入りもできそうな津田が若干よだれを垂らして寝ている。
時折通り過ぎる先輩のお嬢様方はその姿を見て微笑んでいた。
津田を見つけた畑はシャッターチャンスとばかりに写真を収めていた。
生徒会役員の写真は、けっこう需要がある。
まぁつまり、儲かるのだ。
だが誰も起こしてくれない。
そのまま時間は過ぎていった。
【分岐点】
「……田……津田!!」
自分を呼ぶ声に起こされ目を開ける。
寝ぼけた眼を横に向ければ、そこにはシノが呆れたような目でこちらを見ていた。
「あっ、あれ?」
「やっと起きたか」
どうやらベンチで居眠りをしていた津田を見かねて、彼女は声をかけてくれたらしい。
「もう夕方だぞ?」
「えーーーーーー!?」
慌てて空を見上げれば、確かに茜色に染まっていた。
心なしか周囲も薄暗くなり始めている。
「なんたることか、高校最初の文化祭が……寝ている間に終わるとは」
ちょっと仮眠を取るつもりが、寝過ごしてしまった。
既に周囲の店は撤収作業に取り掛かっている。
その様子を見て落ち込む津田。
しかし、そんな彼に彼女は声をかけた。
「まだ終わっていないぞ」
「え?」
顔を上げれば、自分の正面に回って立っているシノ。
彼女は照れくささから仄かに頬を赤く染めつつ、視線を校庭のほうに向ける。
視線を追えば、校舎と校舎の間から見える校庭では生徒達が何かの準備をしていた。
「後夜祭のフォークダンスが残っている。私でよければ付き合うが……」
そういって、はにかむ様にして津田に手を差し出すシノ。
明らかに夕日に照らされているだけではない頬の赤み。
異性をダンスに誘うというのが恥ずかしいのだろう。
そんな彼女を見ていると、こんな文化祭の終わり方もいいかと思えてしまう。
彼女の手に自分の手を重ねようと思った、その時。
左右から二つの手が同様に差し出される。
「私もよかったらダンス付き合うよー?」
「な、なんだったら私が一緒に踊ってあげてもいいのよ?」
手の先を辿れば笑顔のアリアと、そっぽをむきながらもこちらに手を差し出すスズの姿。
えっ、あれ? 何このうれしい状態?
三人のそれぞれ魅力的な少女が自分にダンスのお誘いをかけてくれている。
もしかして俺モテモテ?……と気持ち高ぶる津田だった。
よぅし、皆順番に踊ろうぜ!とはいかないのが現実である。
「……ちなみに津田、全員と踊るのはなしだ」
「へ?」
見れば、先ほどの照れくさそうにしていた顔から一変。
そこには能面のような無表情で、光沢を失った目でこちらを見下ろす生徒会長の姿。
「この中から一人、一緒に踊りたいやつを選べ」
「選ばなかったらフラグバッキバキね!」
「…………」
先ほどまでの青臭い青春の一ページはどこへ行ったのか。
感情の読めない目でこちらを見下ろすシノ。
現状をどこか面白がってにこにこしているが、今はその笑顔がちょっと怖いアリア。
無言で静かなプレッシャーをかけてくるスズ。
津田の前には三本の未来の分岐点を現す、三人の手。
どーすんの俺……どーすんの!?