【無数の視線】
今日は月に一度の全校集会がある日。
集会を目前にして生徒会室にいつものメンバーが集まっていた。
「今日は全校集会でスピーチを行う。
そこで津田、君にも副会長として檀上に一緒に上がってもらうぞ」
「ええっ!? 俺ですか!?……大勢の前に出るとか、緊張するなぁ」
予想していなかったのか大げさに驚く津田。
その様子にシノは眉をしかめた。
「なんだ情けない。男だろうが」
「そうね津田。あんたちょっと男として情けないんじゃないの?」
「ちなみに私は大勢に見られると非常に興奮するぞ?」
「いや会長、それは間違っていると思います」
シノの意見に同意したスズだったが、その同意もすぐに取り消した。
「なんていうか、会長のいっていることはわかるんですよ? 俺も同じですし……」
「わかるな、そして同じとか言うな」
「ただ今日パンツ履き忘れたんで、無駄に興奮しちゃうとズボンがガビガビになっちゃいそうで」
「そうか、それは緊張するな」
「でも津田君はこういうシチュエーションは好きでしょ?
感じちゃ駄目、だけど感じちゃうってやつ」
「はい!! 大好物です!!」
「……(ガビガビ?)」
【特定法】
放課後の生徒会室。役員たちは資料整理のため集まっていた。
「ここに来る途中、こんなものを拾った」
シノがそう言って取り出したのは財布だった。
「心苦しいが、持ち主が特定できるものが入っていないか確認させてもらおう」
「いいんですか?」
「仕方なかろう、この学園は電車通学のものも多い。
定期などが入っていれば落とし主もさぞ通学に困るだろうからな。
早く返せるに越したことはないだろう」
財布を開き、中を確かめる。
中には1000円札が一枚と、小銭が数枚。
実に学生らしい少ない所持金であった。
他にはどこかの店のポイントカードが入っているだけで特に誰のものかわかりそうな物は入ってはいなかった。
どうやら電車通学ではないのか、もしくは定期だけ別に持っているのだろう。
「うーん、誰のものか特定できるものは何もないか。だが持ち主は女だな」
何故かシノは断言した。
「なんでわかるんです?」
見た目のデザインとしては、男物としても女物としても使えそうなもの。
良く言えば使いやすい、悪く言えばどっちつかずで特徴のないデザイン。
それなのに何故持ち主は女と断言できるのか。
入っていたポイントカードも、特にこれといって女の子限定といったものはない。
「ゴムが入っていない」
「ああ、なるほど」
「……どうなの津田?」
シノの断言した理由に納得するアリア。
スズはそんな阿呆な理由で性別を特定されるのはどうかと思ったが、一応この中の唯一の男に聞いてみた。
個人的にはこの男に尋ねるのはなんだか間違っている気がしないでもない。
ただ、相手がいそうにもないこの津田なら普段からゴムを所持しているとも考えにくい。
まぁ、男と付き合ったこともない自分がそこまで知っているわけではないからなんとも言えない。
男なら必ず財布にコンドームを入れているとは限らないと思っているスズは、
先輩二人の判断が間違っている根拠を得たかっただけだ。
「う~ん、やっぱりそれだけで女の子だと断定するのは間違ってるんじゃないですか?
その理由なら俺も女の子になっちゃいますし」
「何、そうなのか!?」
「ほっ……よかった」
津田の言葉に少し安堵するスズ。
自分の考えがあっていたということと、自分の今のところ一番身近な異性がコンドームを所持していないことに安堵した。
もし持っていたらそれはそれで嫌だ。おまえいつでも準備してるのか?と疑ってしまう。
そうなった場合、津田の想定している相手は誰なのか。
自分の知っている人間かもしれないし、まかり間違って自分かもしれない。
そんな生生しいのはとてもではないが御免だ。
それとは逆に衝撃を受けた顔をするシノとアリア。
この二人は単純に男ならだれでも財布にゴムをいれていると思っていたのだろう。
そもそもコンドームを財布に入れると損傷して使い物にならなくなることが多いはず。
「津田君、ゴムを持ち歩くのは男の子として当然の義務じゃないの!?」
持っていないと聞いたアリアが後輩を叱る。
「いやぁ、俺は中○し派なのでやる時は子供ができることは覚悟の上ですよ」
「津田……」
彼の言葉を聞いて何故か感動した顔をするシノ。
今のどこに感動するのかと呆れるスズ。
「で、でもアナ○セックスは生だと危険じゃない!!」
「でも俺は尻に関しては掘るよりも女の子に棒か何かで掘られる方が好きですしね」
「そっか、じゃあ必要ないわね。むきになってごめんなさい」
「いえいえ」
「とりあえず財布の話に戻りませんか?」
【一線ギリギリ】
「津田、爪噛むの癖なのか?うっとうしいぞ」
「あっ、すいません。つい昔からの癖で……」
会議中に皆でいい案がないかと思案中、無意識に癖から爪を噛んでしまった津田。
かりかりという音が部屋に鳴り、どうやら皆の集中をとぎれさせてしまったらしい。
注意されて噛むのを止め謝る津田。
しかしその顔はどこか嬉しそうなところから反省しているのかどうかは定かではない。
おそらく鬱陶しいと言われたのが良かったのだろう。
そんなことを理解してしまってちょっと自己嫌悪になる少女が一人。
しかし他の女子二人は津田が反省していないことには気づいていない。
「もう、津田君は困ったさんね。ふふ。
癖は一度つくとやっかいだから気をつけた方がいいよー」
お姉さんぶって津田に注意するアリア。
「私もお尻いじるの癖になりそうだけどなんとか踏みとどまっているわ」
「それは……褒めるべきなんですか?」
「どうだろう、私は尻をいじくるよりも乳首の方が好きだからな」
「いや、いじる場所がどうとかじゃねぇよ」
「七条先輩がお尻……?」
(以下、津田の妄想↓)
『ああん、駄目なのに、お尻気持ちいいよ~、こんな、癖に、駄目、あっ、いや~ん……』
(妄想終了)
「むしろ癖になってください! いえ、いっそのことお手伝いします!!」
「お前もういい加減黙れ」
【準備中】
津田が廊下を歩いていると、何故か自販機の前で屈伸運動をしているスズを見かけた。
なんとなく何をしているのか気になったので声を掛けてみる。
「萩村こんなところでなにやってるの?」
「見てわからない? ストレッチよ」
そりゃ見ればわかる。
彼が聞きたかったのは何故、こんなところで脈絡もなくストレッチをしているのかだ。
「それはわかるけど、なんでこんなところで?」
「うん……足、つらないように」
屈伸運動を終えたスズが自販機の一番上の段のスイッチを押そうとつま先立ちになって背伸びする。
彼女はかなり、それこそこの学園の中で一番と言っていいほど小柄だ。
他の人間にとっては軽く手が届く場所でも彼女にとっては一苦労なのだ。
「手伝おうか?」
「いい、気持ちだけ受け取っとく」
手伝いを買って出る津田の言葉を断る。
彼女の背後では自ら台になろうと四つん這いになっている男がいるのだが、
彼女はなんとなくそれがわかっていたので見ないことにした。
がこんっと音をたててジュースが出てくる。なんとか指が届いたのだ。
取り出し口からジュースを取り出した彼女が振り返る。
「遠慮せず、さぁ! 俺を使ってくれ萩村!」
そこでは未だ彼女がジュースを買うのに成功したことに気づかずに四つん這いのままの津田。
「あれか? スカートを覗かれるとか疑ってるのか?
そんなことしないよ、純粋に萩村を応援したいだけさ。
だからほら、遠慮せずに俺を踏んでくれてかまわないから!!」
「…………いや、もう買えたから」
【きてた】
いつもの会議な生徒会室。
「ではこれから会議を始めま……って萩村がいないぞ?」
「う~ん、まだ来てないみたいね」
「そうですね」
アリアと津田の姿を確認して会議を始めようとしたシノ。
しかしその途中でスズがまだ来ていないことに気付く。
この生徒会の中で一番まじめな彼女は、いつも会議の時は必ず一番に席に着いている。
今日は学校を休むとか、何か用事があるとかは特に聞いていない。
どうしたのだろう、と首をかしげる面々。
そんな時、バンッと音をたてて勢いよく扉が開かれた。
そこに立っていたのは少し疲れた様子のスズ。
「こんな体でも、きてるわ―!!」
彼女は開口一番そんなことを大きな声で叫んだ。要するに二日目なのだ。
「なんだ、なんで怒ってるんだ?」
めずらしくこの手の下ネタには敏感なはずのシノは彼女の言いたい事がわかっていない様子。
ちなみにスズは単に扉の前で聞こえてきた言葉と今の自分に照らし合わせて勘違いしただけだ。
「あらあら大変ね。スズちゃん大丈夫?」
ちゃんと理解したアリアが彼女のことをいたわる声をかける。
「それは大変だ。萩村、俺と保健室に行こう。
ついでに俺と子供を作ろう。できれば子供は三人は欲しぃぶほぉあ!!」
彼女の言いたい事を理解した津田が冗談を言いながらズボンを脱ごうとする。
その言葉をスズが渾身の右ストレートで黙らせた。
【ストイック学園】
続いて会議中生徒会室。
彼等は学園の校則について議論していた。
「校内恋愛禁止、髪染め禁止、買い食い禁止、廊下走るの禁止、ジャージで下校禁止、
ピアスつけるの禁止、携帯電話持ち込み禁止、下校中の寄り道禁止、etc……」
津田が生徒手帳を開きながら校則で禁止されている項目を読み上げる。
その禁止項目の多さに改めて厳しいと感じる。
「ここの校則無駄に厳しいですよね」
「当然だ。学校とは勉学に励む場所であり、学生として逸脱した行為は一切認められない」
津田の言葉に真面目な回答を返すシノ。
「しかしなんでも駄目と決めつけると生徒の積極性に支障をきたす可能性があります」
挙手して意見をのべるスズ。彼女の意見ももっともだった。
「む、そうか?では恋愛は駄目だがオナ禁は解禁しよう」
「よっしゃあ!!」
「すごい緩和宣言ですが、そんな校則はそもそもありません。あと妙に喜ぶな津田」
「ふふ、津田君は解禁なんてしなくても毎日してるでしょう?」
「ありゃ、ばれましたか。でもそれを言うなら先輩もですよね?」
「そうね。うふふ」
「そういえば私も毎日してるな!!」
「「「はははははははは」」」
「……(ごそごそ)」
仲良く笑う生徒会役員達。
スズ一人がなぜか無言で帰る準備を始めた。
【なおれ】
会議のあった次の日。生徒会室にて。
「ちょっと津田!! この報告書三か所も誤字があったわよ!!」
昨日の会議で津田が提出した報告書を手に怒るスズ。
報告書でぺしぺしと机をたたき、私怒ってますと訴える。
「えっ、ほんと?」
「あんた最近たるんでるんじゃないの!? ちょっとそこに座りなさい!!」
以前からふざけた言動の多かった津田だが、最初のうちは報告書に誤字などなかった。
仕事になれてきてたるんできた証拠である。
スズに言われて、津田は特に深く考えずにパイプ椅子に座る。
その視線の高さは、津田の前に立つスズとちょうど同じ目線になった。
「そこに跪けぇ!!」
座っている相手と目線の高さが同じなことに悔しさを感じた彼女は新たに津田に命令する。
怒るはずがなぜか逆に馬鹿にされたような気分だ。
すると、津田は彼女の足元に跪いた。何故かすぐ足もとに。
「……津田、これはなんの真似だ」
彼の頭部はすっぽりと彼女のスカートの中に収まっていた。
「言われたとおり跪きました」
「ほぉ、お前は跪いたら女子のスカートの中に顔を埋めるのか」
「オーイエー」
「そうか、そんなに死にたいか」
真剣にKILLする五秒前。