【一心同体】
新聞部部長の畑ランコ。
彼女はいつスクープ現場に遭遇してもいいように、いつもカメラを持ち歩いている。
まぁ、とはいってもスクープなど常にそこらに転がっているわけでもない。
そのためか彼女の撮る写真はよくわからない物も多い。
だが学園からの注目度からして、生徒会役員が被写体に選ばれることが比較的に多いと言ってもいいだろう。
今日もスクープを探して校内を練り歩いていた彼女は、偶然津田と出会った。
「畑さんはいつもカメラ持ち歩いてますよね」
「ええ、そうね。もはやカメラは身体の一部」
「プロ魂ですね」
持ち歩いているだけではなく、いつでもシャッタ―ボタンを切れるように構えている。
まさに記者魂といっても過言ではあるまい。
もはや彼女にとってはカメラを持っている姿の方がしっくりとくる。
「具体的に指すと性器の部分」
「うわぁ、めちゃくちゃそのカメラ触ってみてぇ……」
「あら積極的」
【あって安心】
新聞部部長の畑さんはスクープのためなら張り込みもする。
「だからカメラ以外にも色々と所持している」
「へぇ」
実際に津田に見せようと、畑は肩にかけていた鞄の中身を見せる。
そこには張り込みに必要な様々なものが入っていた。
だが教科書などの勉強に使うものは一切入っていない所を見るに、あまり学生らしくない鞄とも言えるだろう。
「傘に防寒具、飲食物に……あれ?」
津田は鞄の中身を確認中、他とは違うものを見つけた。
傘に防寒具、あんぱんと紙パックの牛乳というべたな物に紛れていたもの。
それは一本の空のペットボトル。
別段それ自体は入っていてもおかしくはない。
ただ、容量的には鞄は結構いっぱいいっぱいで、このペットボトルが余計に嵩張って見える。
ごみ箱などそこらへんにあるのだし、捨てれば問題ないはずなのだが。
何故彼女は空になったぺっとボトルを持ち歩いているのだろうか。
試しに蓋を開けてみるも、やはり中身は空だ。
「これ空ですよ?」
「それ用足し用」
「成程」
なかなかに体を張っている。
仕事のためには自身の羞恥心も犠牲にしてみせるその根性はまさにプロといってもいい。
そんなことを考えながら、津田は自然にペットボトルの口を舌で舐めてみた。
だが特にこれといって味がしない。
しいて言えば、もともと入っていたであろうレモンティーの臭いがする。
「それ、用足し用としてはまだ未使用よ」
「ちくしょう!! 騙された!」
中に少し残っていた黄色い液体は絶対それだと思ったのに!!
心の中で絶叫する津田であった。
【若草萌え】
今日は全校集会が朝からあった桜才学園。
その放課後、生徒会室に向かう津田は偶然シノと廊下で一緒になった。
なんとなく隣を歩いて生徒会室を目指す二人。
「今日の朝礼で校歌を歌っただろう?」
「はい」
思い出したかのように語るシノに同意する津田。
どこの学校でも同じように、全校集会のときには校歌を歌うのが伝統だ。
「君、歌詞を覚えていないだろう?」
「!?」
「口パクだったぞ」
思わぬことを指摘されて動揺する津田。
彼としてはまさかばれているとは思わなかったのだ。
「いや、校歌って堅苦しいし難しい言葉多くて……覚えにくいんですよ」
「それは気持ちの問題だ」
言い訳を試みるも、正論で返される。
確かに彼女の言うとおり、こういうのは覚える気があるかどうかの問題だろう。
現に津田は、興味のあることや目的のためならば高い記憶力を持っている。
その能力で実際に試験で高順位を叩きだしているのだから、校歌程度を覚えられないというのは信じられなかった。
シノからすれば、本人に覚える気がないとしか思えなかったのだ。
「あれだ、興味がないなら別のものと考えて覚えればいい」
「例えば?」
「例えば、アニソンと思えば簡単だろう!」
親指を立てて自信満々に言うシノ。
「会長はアニソンと思って覚えたんですか?」
「うぇ!?……やっ、違うぞ!?」
津田の中では会長はアニメ好きということになった。
そして、二人の跡を気配を消して尾行していた人物が一人。
「会長はアニオタ……と」
新聞部の畑がなにやらメモを取っていた。
彼女の特技は誇張表現と捏造である。
【勝手にディープ】
今日は会議にない生徒会室。
何故か新聞部がインタビューを行うための場と化していた。
「今日は風紀委員張の五十嵐カエデさんにインタビューします」
「噂では男性恐怖症とか」
「……まぁ弱冠」
「ふむ……つまり経験をいかし風紀委員になったと」
「は?」
五十嵐の言葉に、何か一人で納得したかのような顔で頷く畑。
彼女の言う経験と言うものが何を指しているのか五十嵐にはわからなかった。
口元に畑がマイクを近づけ、答えを促した。
「それで何人の男にだまされたんです?」
「いや、そーゆー過去はないんですけど」
「じゃあ質問を変えましょう」
「はぁ……」
「実際問題、何回妊娠したことがあるのでしょうか?」
「だからそんな過去ねぇっつってんのよ!!」
人の過去を勝手にディープにするなと怒る五十嵐さんであった。
【下の口】
「スズちゃん、そこ破れてるよ」
「え?」
ある日の生徒会室。
会議が終わり、団欒を楽しんでいた生徒会役員共。
そんな中、アリアがスズのタイツの一部が破けているのに気がついた。
スズも彼女の言葉を聞き、アリアの視点をたどってその場所を見つけた。
確かに左足のひざの部分が破けてしまい、下の肌を露出させている。
「確かに破けてるな」
「いつ破けたんだろう?」
とくにどこかに膝を強くすりつけたりぶつけたりした覚えはなかった。
電線が入るならまだしも、こうも破けているのはなぜなのか。
まぁ考えても仕方のないことではあるが、理由を思いつかなかった。
「どれどれ」
だが何を思ったのか、女子の会話を聞いていて確かめようとした横島先生。
彼女はスズの前にしゃがむと、おもむろにスカートをめくろうとした。
「そっちじゃない」
スカートを押さえ、若干怒気のこもった声で言うスズであった。
【だって……下のことだと思ったんだもの】
そこに津田がトイレから戻ってきた。
何故か若干怒り気味のスズに、横島先生を呆れた目で見ている先輩が二人。
なんだかトイレに行く前の状況とは違うことに津田は首をかしげた。
「みんなどうしたんです?」
「スズちゃんのが破けちゃったんだけどね……それで……」
「なんだって!?」
状況を説明しようとするアリア。
しかしその言葉の中には、何が破けていたのかは含まれてはいなかった。
先生同様に勘違いした津田はもの凄いスピードで何かを確かめるべくスズのスカートに頭を突っ込んだ。
まさか立て続けに同じことをされるとは思っていなかったスズは、一瞬呆然としてしまった。
「血はついてないし……いつものクマさんパンツだ。
……あっ、破けたってこっちのことか」
スズのスカートに頭を突っ込んだ津田は、彼女の下半身がいつも通りのパンツとタイツの状態であることを確認した。
膜がいきなり破けてしまったのなら血が出るなりしていただろう。
しかしその様子もなく、別段スズが痛がっている様子もない。
視線を落とすと彼女の膝の部分が破けており、下の肌が露出していた。
そのことから、自分の早合点であったと認識して安堵のため息を漏らす津田。
しかし彼は未だに彼女のスカートに頭を突っ込んだままだった。
「津田……覚悟はできてるな?」
頭上から冷たい声がかけられる。
その日、久しぶりに彼女の華麗な脚技が披露されて生徒会の残りの面々から拍手があがった。