最近、家電量販店で仕事しているのですが、TVコーナーでデモ放送をいつも流しているのを見てハラハラしてします。
だってアニ○ックスのサンプルが流れているときに、時々役員共が流れていて、それを夏休みを迎えたらしき家族連れの子供が見ているんだもの。
【アリア邸にようこそ】
ある日の休日。
七条家の家に及ばれした生徒会の面々。
津田とシノ、スズの三人は休日らしく私服姿だ。
彼等は事前に渡された地図を頼りに七条家にたどり着き今は玄関の前にいる。
インターホンを押すと、もうそろそろだと待っていたのかアリアがすぐに扉を開けて出てきた。
「いらっしゃーい」
「本日は御招きいただきありがとう」
「いえいえ」
出迎えたアリアは、お嬢様らしく上品な雰囲気を醸し出す衣服を着ている。
年相応のカジュアルな格好である他の面々と違い、さすが育ちの良さが滲み出ていた。
「ずいぶん遅かったけど、道迷った?」
アリアは、予想していたよりも時間のかかった仲間たちに尋ねた。
最寄りの駅からはそこまで複雑な道のりだとは思っていなかったのだが、解りづらかっただろうか?
もしかしたら自分の書いた地図がわかりづらかったのかもしれない。
そんな心配をした彼女だったが、それはいらぬ心配である。
「いえ、家の場所はすぐにわかったんですが……門くぐってから迷いました」
彼女の問いに答えたのは、少し疲れた様子の津田。
そう、彼の言うとおりこの家の場所はすぐにわかった。
なにせ周囲の家よりも断然でかいのだから嫌でも目につくのだ。
敷地を囲む外壁がありえないほどに長い。
家を見つけてから、門にたどり着くまでにおよそ5分。
さらに許可を得て門を潜ってから、アリアのいる本邸にたどり着くまでに15分もかかってしまった。
「学校の敷地より広い前庭なんてあるんですね」
【こんにちメイド】
「出島さん、みんなを私の部屋に案内してあげて」
「かしこまりました」
本邸の玄関をくぐってすぐ、玄関ホールの豪華さに驚きの顔をしている面々。
私立の学校に通っている以上、彼等の家も中流階級の普通の家ではある。
そのため決して貧乏というわけではないのだが、それでもここまでの金持ちの家というのは住む世界が違って見える。
そこらへんに飾ってある壺や絵画も、一つで家が買えそうな値段がするのだろう。
門をくぐってからこっち、津田たちは驚きの連続であった。
しかし、さらに彼等を驚かせたのは、アリアの呼び声に応えて現れたメイドの存在だ。
否、現れたというよりもいつのまにか彼女の背後に佇んでいたというべきか。
気配を全く感じさせずに皆の前にいきなり出てきたかのようであった。
黒い髪をポニーテールにして上品なエプロンドレスに身を包んだ女性。
切れ長の目をしていて、主人であるアリアの背後に佇むその様は知的な雰囲気を醸し出している。
女性にしては高い身長ですらりとしたプロポーションをしていた。
そこここに飾られている調度品は、博物館にでも行けば似たようなものなら拝むことができる。
だが、メイドとなると話は別だ。
それこそ、テレビドラマに出てくるような金持ちの家にしかいないだろう。
世の中の認識としては金持ちを象徴するためのフィクション上の存在といっても過言ではない。
しかし、現に目の前にいる女性は正真正銘メイドであった。
昨今流行っているメイド喫茶などというふざけた偽物ではなく、本職である。
しかもなかなかに存在感のある女性なのに、アリアが呼ぶまで誰も気がつかなかったのだ。
これには生徒会の面々は驚くしかなかった。
「メイドって本当にいるんだ……」
「こちらへ」
一切の感情の揺れも見せず、主人であるアリアの命令通り案内役をするメイドの出島。
その表情からは何も読み取ることができない。
まさに主に忠実に仕えし従者といった雰囲気を醸し出している。
こちらへ一礼すると彼女は生徒会メンバーを先導するように歩きだした。
その後を大人しくついていく津田達。
長い廊下な上に複数のブロックにわかれているのか、何度か角を曲がる。
しかし出島の足取りは戸惑う様子もなく、よどみなく一定のスピードで歩く。
初めて来た津田など、もはやどのような道順をたどってきたかわからなかった。
やがて、ある一つの扉の前でとまる出島。
ようやく到着かと扉を見る。
しかしそこにあったのは書斎とかかれたプレートだ。
「迷いました」
「「「え―――――?」」」
「広いですね、この屋敷」
先ほどまでのクールな雰囲気はどこへやら。
迷ったと断言する出島は、どこか気だるげに見えた。
【天職から転職?】
「すみません。実は最近このお屋敷に来たばかりで……正確にはこの仕事自体始めたのは最近なんです」
「そうだったんですか」
話しを聞いてみると、彼女はメイドになってからまだ一月も経っていないらしい。
さらに、つい最近までは外国の別荘で働いていたそうだ。
出島の話を聞いているうちに、遅いと感じたアリアが皆を迎えに来ていた。
「以前は何の仕事をされてたんですか?」
スズは出島の過去の仕事が気になったらしく、軽い気持ちで質問していた。
まぁ、気になるのは当然だろう。普通メイドになること自体珍しいのだ。
一体どのような仕事をしていて、どのような経緯でそうなったのかは不思議に思うだろう。
「以前は外国での仕事を」
「へぇ、何のです?」
「戦争とか……」
「…………」
「以前はフリーランスの傭兵をしておりまして」
「……えっと」
「?」
「……冗談ですよね?」
「いえ、冗談ではありませんよ。
次の戦場へ赴く前に、ハワイで休暇を楽しもうと思っていたのですが、
そこでお見かけしたお嬢様の美しいバストに心奪われまして……」
以来、主人である七条アリアに忠誠を誓っているらしい出島であった。
彼女の答えにスズは激しく聞いたことを後悔していた。
【バックで】
なんやかんやでアリアの部屋に到着した面々。
「ここが私の部屋だよ~」
彼女に招かれ、部屋に入ると生徒会の面々は感嘆の声をあげた。
部屋といいつつ学校の教室よりも広い。
むしろ下手したら津田の家の敷地面積よりも広かった。
まるで高級ホテルの部屋のように綺麗に掃除が行き届いている。
テーブルや椅子は一人用の部屋とは思えないほどに数も揃っているうえに、一つ一つが大きい。
壁に掛けられた絵画は、この部屋はより一層上品に演出していた。
「ここから立派な樹が見えるな」
部屋に太陽の光を取り込んでいる大きな窓。
そこから庭の立派な樹が見えることにシノが気がついた。
「私の両親にとって思い出の樹なんだって、あれ」
「察するにあそこでプロポーズされたんですね」
アリアの言葉にスズがくいつく。
乙女としては、まさに少女マンガのような王道だろう夢のシチュエーション。
ドラマの撮影に使われそうな豪邸で、立派な木の下で告白。
ここが学校ならばまさに伝説の告白の木といったところか。
なんだかんだでスズも女の子である。
その手のことは結構好きであった。
「ん――――おしい」
しかし現実は乙女チックとはかけ離れていたものだった。
「正解はあそこで種付けされて私が生まれました」
「!?」
「はっはっは、おしかったな萩村」
「青姦ですか、いいですねぇ」
【床探索】
「あ」
アリアの部屋で歓談中、皆にお茶を配っていた出島が声をあげた。
何事かと皆が注目するなか、彼女は抑揚のない声で答えた。
「すみませんお嬢様、コンタクトを落としてしまいました。ドジっ子メイドのごとく」
「あら大変」
「みんなで探そうか」
歓談を中止して、手分けして周囲の床を探し始めた。
「しかしあれだな。出島さんは迷ったりコンタクト落としたり……少し抜けているな」
「お恥ずかしながら……戦場でパイナップルを足元に落としてしまったこともありまして……」
「パイナップル?」
「手榴弾のことだよ、萩村」
「……よく出島さん生きてたわね」
「うふふ、出島さんってばドジっ子さんね」
うふふで済ませていい問題ではないが、もうその事に関してはあまりつっこまないスズであった。
くだらないことを話しながら、カーペットの上を手探りで探す。
「お?」
「シノちゃん、見つけたの?」
「いや……ちぢれ毛なら三本ほど見つけたが」
「必死に探せ……あと津田、見つけたそれ(毛)は捨てろ。ポケットに入れるな」
【心眼メイド】
時間が流れ、夜になり今日はこの辺でお開きとなった。
これから帰る津田達を玄関まで見送るアリア。
夕飯までごちそうになったせいか、もう外は真っ暗だった。
「今日はごちそうさまだった」
「また来てね」
別れの挨拶を告げるシノに、嬉しそうにいつでも来いというアリア。
彼女も、実は友人を自分の家に招くのは生まれて初めてであったのだ。
過去に親の友人の子供が遊ぶに来ることはあっても、自分自身の友達が来たのは初めてであった。
彼女の顔は楽しかったという満足げな雰囲気をしている反面、この楽しい時間が終わることにさみしそうでもあった。
「出島さん、皆を門まで送ってあげて」
「はい」
七条邸に津田達が来たとき、門から玄関までで迷ったと聞いていたアリアは、親切心から出島に案内を頼んだ。
確かにきた時は昼でまだまだ明るかったが今はもう空は真っ暗だ。
道のりも雰囲気が変わっており、また迷うかもしれない。
お嬢様の願いを快く引き受けるメイドさんであったが、それに逆にスズなどは心配そうな顔をする。
「大丈夫ですか?」
「失敬な、自分が使える屋敷で迷子になるとでも?」
心外だと言わんばかりの出島だったが、その言葉を信用できるはずもない。
「うん」
「さっきなってたよね」
「うむ。迷っていたな」
現に先ほど、屋敷内で迷子になっていたのは出島なのだから説得力のない話だ。
スズや津田どころか、シノまでも道案内役としての彼女の能力をあまり信用していなかった。
「大丈夫ですよ、自分が住む家の庭くらい目隠ししてでも歩けます」
何を根拠に言っているのか疑問だが自信ありげに胸を張る出島。
彼女の中では、庭で迷子になることなどありえないのだろうか。
「戦場でも毎晩、地雷原を目隠しで散歩してましたから」
「よく生きてましたね、本当に」
その話が本当ならかなり凄いが、それは彼女の運の良さは証明しても迷子にならない証明にはならない話だった。
結局のところ彼女に案内を任せて再び迷い、夜の庭を一時間ほどさまよう生徒会役員共であった。