生徒会変態共!   作:真田蟲

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二十四人目

 

 

私立桜才学園。

元は伝統ある女子高だったが近年の少子化の影響で今年から共学化。

その生徒数の比率・・・女子524人男子28人。

これはそこに入学して、かくかくしかじかな理由から生徒会に入ることになった少年と、

彼を取り巻く人間たちとの青春の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【若者の性が乱れる現代】

 

いつも通り生徒会室で作業をしていた役員達。

手を動かしながら、ちょっといた雑談に興じていた。

 

「この学校って、女子の比率が高いから落ちついてますよねー」

 

「そうか?」

 

津田の言葉にシノが首を傾げる。

彼女からしてみれば、別段落ち着いているというほどに大人しいイメージはないようだ。

 

「友達が行った男子校ではジャージ降ろしが流行ってるって」

 

「子供ねー」

 

津田の友人の学校の現状を聞いて、スズが呆れた声をあげる。

高校生にもなったジャージ降ろしとは。

それではスカートめくりをする小学生と大差ないではないか。

男子はいつまでたっても子供なのだと彼女は思った。

 

「ふむ。

 共学となった今、警戒する必要があるな」

 

シノが真剣な顔をして考える。

確かにジャージ降ろしは今のところないが、スカートめくりはあるかもしれない。

……いや、さすがにそれはないか。

スズもいくら賢いといえど、男子について詳しいわけではないので断言はできない。

でも共学という環境ではさすがにないだろうと考えた。

 

「筆おろしが流行るかもしれん」

 

「まぁ!」

 

「むしろ流行って欲しいですね」

 

「流行ってたまるか。いいからあんたら手を動かせ」

 

上手いこと言ったみたいなドヤ顔をするシノに、なんだか楽しそうなアリア。

鼻息あらく夢膨らます津田。

そんな彼等にいつも通りツッコミを入れるスズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【見たままを伝えました】

 

昼休みの生徒会室。

津田がお茶を入れようと椅子から立ち上がった。

 

「津田、ズボンのボタンとれかけてるわよ」

 

「え?」

 

彼のズボンの後ろのポケット。

そこのボタンの糸がほつれてとれかけていたのをスズが見つけた。

津田は確認しようと身体をひねって見てみるも、体の裏側なので見えない。

尻に手を這わせてみると、なるほど、確かにボタンがとれかけている。

 

「縫ってあげるからじっとしてて」

 

「悪いね」

 

女の子らしく、ソーイングセットを持ち歩いているスズが助けてやることにした。

その場に立ったままの津田の背後にまわり、器用に糸と針を使ってボタンをつけなおしていく。

さすがに今履いているズボンを脱ぐわけにはいかない。

必然的にこういう格好になってしまったのだ。

その様子をほほえましい目でアリアは見つめていた。

食事を終えた彼女は、邪魔してはいけないと生徒会室を早めに出て教室に戻ることにした。

その帰り道。

 

「おおアリア」

 

「あらシノちゃん」

 

アリアが出くわしたのはシノであった。

 

「津田を見かけなかったか?」

 

教室にいなくてな、と語るシノ。

どうやら彼女は津田に用があるようであった。

だからアリアは正直に答えた。

 

「津田君なら生徒会室でスズちゃんに下の世話してもらってるよ?」

 

「なんと!!」

 

彼女なりに見たままを伝えた結果だった。

 

 

 

 

 

 

【彼女なりに見たままを伝えました】

 

次の日、アリアがトイレに行くために廊下を歩いていると津田とスズを見かけた。

二人はは廊下でたわいのない会話をしているようである。

その時スズは廊下の壁にもたれかかっている格好であった。

 

「なぁ萩村、そこの壁汚れてるっぽいんだけど……」

 

「え!?」

 

津田の指摘に驚いて壁から離れるも、すでに背中は汚れてしまっていた。

 

「うわ、気づかなかったわ」

 

「あらら、背中汚れちゃってるな」

 

「ほんと?」

 

「うん。ちょっとハタクからじっとしてて」

 

「悪いわね」

 

津田はスズの背中を痛くないように気遣いながらはたいた。

パンパンと軽い音がすると、壁についていた埃が落ちる。

二人とも仲良いなぁと、その様子を見ていたアリアは微笑ましく思った。

 

数分後。

トイレの入口で、昨日と同様に彼女はシノに出会った。

どうやら今度は昨日と違ってスズを探しているようである。

 

「おおアリア、ちょうど良い所に……

 萩村を探しているんだが知らないか?」

 

「スズちゃんなら、さっきそこの廊下で津田君に汚された体をきれいにしてもらってたよ?」

 

「ちょ!? どういうことだそれは!!」

 

正確には“汚された”ではなく“汚れた”である。

単純な言い間違いであるが、その言葉は大いにシノの中で勘違いを産んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【美容一番?】

 

夜の萩村家にて。

一番風呂に入っていたスズ母が、娘に風呂が空いたことを告げにリビングに向かう。

 

「スズー、次お風呂空いたわよー」

 

リビングのソファで雑誌を読みながらくつろいでいたスズは、声のする方を見た。

そこでは機嫌の好さそうな風呂上りの母が、タオルで髪を拭きながら立っている。

ちゃんとしたパジャマを持っているはずなのに、何故か彼女は裸の上からYシャツ一枚であった。

 

「お母さんなんで裸Yシャツなの?」

 

「んー、だって今日はタダヒトさん早く帰ってきたしー。

 だ・か・ら・今日はお楽しみ!」

 

イヤン!と嬉しそうにいい年こいて娘の前で体をくねらせる母親。

すでに30半ばであるというのにこの人は……

そして今はこの場に姿のない父親も、この母についていけるだけのテンションの持ち主だ。

 

「タダヒトさん裸Yシャツ好きなのよね」

 

これで今晩も悩殺よー、と娘に父親の性癖を暴露しながら惚気る母親。

スズは自分の親のことを思うとちょっと頭が痛くなった。

 

「あっ、ちなみに今日は半身浴デーでお湯少ないけど協力してね!」

 

「はぁ……」

 

“協力してね”の“ね”の部分で口の端から舌を出し、ウィンクする母親に呆れるスズであった。

とりあえずはお湯が冷めないように早く入ってしまおう。

そう思って着替えの下着とパジャマを用意して脱衣所に向かう。

脱衣所で彼女が見た物は、洗濯機にむりやり突っ込まれた血糊まみれの軍服であった。

 

「ちょっとお母さ――ん!!

 血糊のついた服を他の洗濯物と一緒に洗わないようにしてっていつも言ってるでしょ!?

 洗濯機に入れてたら間違えて洗っちゃうじゃない!!」

 

「あー、ごめーん」

 

スズは家でも気苦労が絶えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

【サポーター】

 

桜才学園の武道場。

そこを活動の拠点にしている桜才学園柔道部。

主将の三葉ムツミは朝からやる気に充ち溢れていた。

それは、今日が部を創設してから初めての対外試合だからである。

 

「やぁ、みんなで応援にきたぞ」

 

「ありがとうございます」

 

生徒会も、立ち上げから関わっているので柔道部には思い入れがある。

そのため今回は初試合と聞いて応援に駆け付けたのだ。

シノ達の姿を見て、嬉しそうに笑う三葉。

 

「これ必勝のお守り。今日のために用意してきた」

 

「わあ、ありがとう!」

 

スズはどうやらこの日のために近くの神社で必勝祈願のお守りを購入していたようだ。

お守りを渡された三葉は大喜びである。

神棚に飾っとこう!と、盛り上がっている。

 

「私も今日のためにてるてる坊主つるしてきたよ」

 

中止にならないように、とアリア。

しかしここは屋内である。

天気は全く関係がない。

 

「それはいらんでしょう」

 

「? こけしの方が良かった?」

 

「いや、なんでこけしを吊るすんですか?」

 

「?」

 

「?」

 

アリアの脳内は天然すぎてスズにはついていけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【不思議な擬音】

 

「痛っ!?」

 

三葉が生徒会メンバーと会話をしている時、武道場に痛みをこらえるような声が響いた。

何事かと皆の視線が一点に集まる。

そこでは柔道部員の一人が手首を押えて痛そうに眉をしかめている。

 

「どうしたの、大丈夫!?」

 

「それが、受身の練習中に失敗して……手首がコキッって……」

 

「手がコキッ!?」

 

「手コキか!!」

 

そのキーワードに反応したのは、思春期まっさかりのシノであった。

 

「……なんか大丈夫に聞こえるな」

 

「んなわけないでしょ。早く保健室行って来なさい」

 

 

 

 

 

 

 

【心配】

 

「ナナコが手首の捻挫でドクターストップ!

 欠員だー!困った~……」

 

手首をねん挫したらしい部員が保健室から帰ってきた。

結果はドクターストップ。

今日の試合への出場は許可できないと保険医に言われてしまった。

試合の人数は5対5で行われる。

相手側にもそう言ってしまっている、こちらに控えの選手はいない。

これでは試合が成立しなくなってしまう。

三葉はかなり慌てていた。

そんな彼女を救おうと、一人の男がたちあがる。

 

「三葉、俺にまかせろ!」

 

「タカトシ君!?」

 

津田の力強い言葉に、顔をあげて彼を見る三葉。

 

「へ?」

 

「俺が代わりに出る!」

 

津田はいつの間にか柔道着を着ていた。

しかもシノのような長い髪をしている……カツラだ。

さらにアリアのような胸をしている……パッドだ。

唇はリップクリームを塗ったのか何気に潤っている。

彼は黙っていればイケメン顔なので、なかなかに綺麗に化けていた。

パッと見、長身の美人の女の子に見えなくもない。

だがいかんせん、女の子といいはるには肩幅がありすぎた。

 

「津田君、さすがにそれは無理じゃない?」

 

「……無理ですかね?」

 

さすがのアリアの目から見ても無理があった。

というか、女の子相手の試合に男が出るなど卑怯なことこの上ない。

 

「バーカ」

 

「ちょっ、会長!?

 イテッ!……なんで今、萩村俺のこと蹴ったの?」

 

「……ふん!」

 

偽物の胸のくせに自分より大きいものを見て、シノが子供みたいに津田をけなす。

スズは偽物と理解していてもいろいろとずるい津田を見て、彼の足を蹴るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【あんたも心配】

 

「仕方あるまい。

 ここは私が代理として出場しよう!」

 

いつのまにか柔道着に着替えたシノが、自信満々に宣言する。

しかし待ったをかけたのは、未だに女装したままの津田であった。

 

「しかし会長、あなた受身も知らないでしょ?」

 

津田は部の創設時の、彼女の柔道への無知ぶりを覚えていたのだ。

 

「大丈夫だ。それよりもお前はその女装をはやく止めろ」

 

いい加減見ててむかつく、と偽乳を見て言うシノ。

 

「でも会長は柔道やったことないのにいきなり試合とか危険すぎやしませんか?」

 

スズも心配してシノを止めようとする。

だが彼女の言葉にも、シノがためらいを覚えることはなかった。

 

「大丈夫だ、問題ない。

 小説では受身のキャラに共感を得ている」

 

「全然大丈夫に聞こえません」

 

何の小説ですか、と呆れつつも何を言っても無駄だと悟るスズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【青春絵日記】

 

対外試合一本目。

先鋒を務めるのは主将の三葉である。

 

(思いがけないアクシデントで皆が動揺してる)

 

相手との間合いをたくみに測りながら、牽制して考える。

 

(私が先鋒に立って盛り上げなきゃ!!)

 

相手がこちらの襟を狙って手を伸ばしてきた。

大技を狙ってか、動きにも無駄が多い。

 

(そこぉ!!)

 

相手の手の動きを先読みし、それを避けながらふところにもぐりこむ。

 

(怪我で出られないナナコのためにも……危険を顧みず参加してくれた天草会長のためにも!!)

 

すばやく相手の腰に手をまわし、こちらを掴めずに空振りした相手の袖をつかむ。

相手の重心をくずし、下から持ち上げるようにして回転させる。

 

(みんなの分まで私が戦う!!)

 

「一本!!」

 

それは見事な一本背負いであった。

誰が見ても文句の付けどころのない綺麗な一本。

 

「次!」

 

頬を汗がつたいながらも、彼女の眼に気が抜けた様子もない。

まだまだ私は戦える、そう物語っていた。

 

 

「ねぇ津田」

 

「うん?」

 

「あそこに書いてある点取り試合って何?」

 

「5人の代表が順番に戦って3勝した方が勝ちってルールだね」

 

 

本人のやる気に反して、この試合の三葉の出番はこれで終了であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【特ネタ】

 

試合を応援する声が武道場に響く。

そんな中、津田はその一角に新聞部の部員たちが陣取っているのに気が付いた。

その中でも、最近交流がある畑ランコに声をかける。

 

「畑さん、新聞部も来てたんですね」

 

「ええ」

 

相変わらずのポーカーフェイスで試合を眺めていた畑。

今日はカメラの担当は別の部員のため、彼女は壁にもたれながら観戦していた。

 

「こういうのはネタになるからね」

 

「確かに、新設したばかりですが柔道部は期待が高いですからね」

 

「ええ。それに女子高生のくんずほぐれつ……マニアにはたまらないわ」

 

「ず○ネタですか」

 

後で売ってくださいと交渉する津田に、無言でピースする畑。

すでに津田は彼女にとっての常連客であった。

 

「ところで津田君?」

 

「はい?」

 

「あなたの写真も一枚いいかしら?」

 

彼は未だに女装中であった。

売上の一部を譲るからと言われ、特にことわる理由もない津田は快くOKする。

後日、思いもよらぬ津田の写真での売上に懐がほくほくとなる畑がいた。

 

……ちなみに生徒会室前の目安箱に女子生徒からと思える投書が増えた。

しかし内容はどれも津田の女装を希望するものがほとんどで、スズが頭をかかえたのは言うまでもない。

 

 

 

 

余談。

あっ、ちゃんと試合は勝ちました。

3対2の接戦で。

会長?いや、無理でしたよ?

何も知らない素人が勝てるわけありません。

童貞が経験者に勝てる見込みがないのと同じです。

それに会長は受身に共感してるだけあって、初めての受け身も完璧だったけど攻めはしませんでしたからね。

原作よりも柔道部員達が頑張りました。

あと、俺の写真の売上の一割をもらえる約束だったんですが、そのお金が一万円という大金でした。

……いったい何枚売れたんだろう?

 

――――津田談―――――

 

 


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