【会長が教えてあげる】
「すいません、遅れました!!」
今日は生徒会の会議。
時間になっても来ないと思われていた津田が、息を切らしながら生徒会室に入ってきた。
「遅い!! 今日は大事な会議だと言っただろうが!!」
時間を守らない津田を叱責するシノ。
すでに席に座っているスズは津田を見て怒った顔をしている。
アリアは特に怒った様子はないが、少々困り顔だ。
「いや……未知に迷っちゃって……」
言い訳をする津田。別に誤字ではない。
実際に男か女かわからない未知の性別の人間を見かけて、気になって追いかけるべきか否か迷っていたのだ。
しかし人のいいシノは彼が純粋に道に迷ったと解釈したらしい。
「そうか、津田はこの学園に入学して日が浅いのだったな……
良し!! 今日はこの桜才学園を案内してやろう!!」
親指で自分を指さし、不敵に笑うシノ。
これは面白いイベントを思いついた、という顔だ。
その隣では楽しそうに「ワー」と笑ってアリアが拍手をしていた。
「あの……大事な会議は?」
小さくそう問いかけるスズの声は誰も聞いていなかった。
彼女は空気を読んで一つ小さなため息をつくと、それ以上は何も言わなかった。
【ご案内】
保健室に来た一向。
「ここが保健室だ」
「へー」
「知っての通り、怪我をしたり具合が悪い時は世話になる場所だな」
「そうですね」
「保険医の山口先生は美人だけど既婚者で年下には興味がないそうよ?」
「それは残念」
「……」
次に来たのは女子更衣室。
「ここが女子更衣室だ」
「体育の前と後には女の子が一杯ね」
「そうですねー」
「女子の汗の匂いは男子の津田にはたまらんだろうな!」
「……」
次に案内されたのが音楽室。
「ここが音楽室」
「壁の防音は完璧ね」
「使うならそこのピアノの上がお勧めだ」
「へー」
「……(何に使うんだ)」
更に案内されたのは特に使われていない教室だった。
「ここが普段使われていない無人の教室だ」
「ほー」
「机を並べれば即席ベッドも作れちゃうわね」
「…………はぁ……」
その次に案内されたのは体育倉庫だった。
「ここが体育倉庫だ」
「跳び箱もマットもハードルも何でも使えそうよね」
「……あの会長?」
「どうした萩村?」
「なんでこんな微妙な場所ばかり案内を?
もっと普段使う所を案内するべきなのでは……」
「むぅ、男子が聞くとドキッとする場所を優先的に紹介したんだが……不満か萩村?」
「いえ、私はどうでもいいですが……」
「そうか、津田はどうだ?」
「俺ですか?こうして案内してくれるだけで嬉しいですよ」
「そ、そうか」
「ふふ、津田君はいいこね」
「しいてあげるなら、個人的には次は教員の女性用トイレを案内してほしいです」
「ほほぅ、マニアックだな。」
「あらあらうふふ」
「…………」
【さんぴー】
「ここが私とシノちゃんが在籍しているクラスよ」
「そうなんですか」
一行は現在2-Bの教室前に来ていた。
なんでもこのクラスには生徒会メンバーの二年生が二人とも在籍しているらしい。
二年生にはまだ男子生徒がいないためか、教室ないだけでなく階全体に男がいない。
「なにか困ったことがあったら気軽に訪ねてきてね」
「はい、ありがとうございます」
「スズちゃんもよ?」
「あっ、はい。ありがとうございます」
アリアは先輩らしく、一年生の二人に優しく笑いかける。
そのほほ笑みはとても魅力的であった。
「でもこうして見ると少子化も悪くないね」
「?……なんでですか?」
「三年生にまでなってP組まであったら大変」
「クラスのイメージカラーはピンクだな」
「……はぁ」
「…………」
アリアの言葉に嬉しそうに相槌をうつシノ。
二人の阿呆な会話にスズはため息をついた。そこで気付く。
いつもならこの後一言余計なことをいいそうな馬鹿が何故か黙っている。
ふと彼を見上げれば何か真剣な顔をしていた。
「どうしたの津田?」
「今の三年生って、みんな女子だよな?」
「そうね」
「皆女子で3Pなんて、新しい漢字ができそうだよな!」
男+女+男=嬲
女+女+女=?ということだろうか。
おそらく姦のことではないのだろう。
ものすごくどうでもよかった。
【用途くわしく】
次に一行が来たのはトイレだった。
「ここは女子専用トイレだ。
昨年まで女子高だったからな。男子生徒用はまだ設置できていないんだ。
男子は教職員用のものを使うように」
「はい、会長質問です」
「なんだ津田?」
「教職員用のトイレなら女性用に入ってもいいですか?」
「駄目だ」
「あらあら残念ね~、津田君」
がっくりとうなだれる津田。
その様子をほほえましく笑う先輩たち。
「尚、ここでは用をたす他にナプキンを装着したりする」
「おお~」
シノの言葉にすぐに元気になって顔をあげる津田。
しかしアリアは何か聞き捨てならないことがあったらしい。
「ちょっとシノちゃん!!」
「なんだアリア?」
「私はタンポ○派よ!!」
「すまない。自分を基準に語ってしまった」
「まぁまぁアリア先輩。そんなにむきにならなくても。いいじゃないですか、俺はどっちも好きですよ?
ナプキンもタン○ンもどっちも甲乙つけがたいくらい素敵じゃないですか」
「津田君……」
「津田……」
何故か感動したかのような表情をする先輩たち。
「毎回続くのかこの感じ……」
一人小さく距離を取る少女がいたけど、三人は気づかなかった。
【プラスかマイナスか】
「あ、会長お疲れ様でーす」
「ああ、お疲れ様」
校内を案内中の一行、その途中で廊下ですれ違った生徒に挨拶をされるシノ。
そんな彼女に津田は尊敬の眼差しを向けた。
「挨拶されるなんてさすが会長ですね」
「まぁ慕われなければ人の上には立てないからな。
君も副会長として人に尊敬されるように頑張れ」
「いやぁ、俺はそういうの苦手で……」
「なんだ津田、蔑まれた方がいいのか? Mなのか?」
「ええ、そうですね。むしろ罵声を浴びせられる方が……」
「うふふ、津田君は変態さんね」
「ああ!! もっと、その調子で罵ってください!!」
「わかった、善処しよう。私も言葉責めは嫌いじゃない」
「とりあえず黙れ変態共」
【高見】
「ここが屋上よ」
一行が最後にたどり着いたのは校舎の屋上だった。
私立で金があるからか、屋上の床には芝生が敷き詰められており、きれいに整備されていた。
上靴の底で踏む芝生のさくさくとした感触が珍しく、なかなかに気持ちがいい。
天気のいい日にでも寝転がればさぞ気持のいいことだろう。
フェンスに向かうスズを何気なくおいかけて津田は自然と隣に並んだ。
「私、高いところが好き」
「へぇ」
彼はスズの独白に納得した。たしかにここは高い。
向こうのほうの山もしっかりと見える。町の風景を一望で来て気分がいい。
なかなかの景色だ。
「人を見下ろせるから」
しかし彼女の好きな理由は別のものだった。
普段背が低いため人に見降ろされがちな彼女にとっては、それはとても楽しいことなのだろう。
「笑えばいいじゃない」
「笑わないよ」
「何よ、どうせ子供っぽいって思ってるんでしょ?」
「単に人を見下ろせるから楽しいだけだろ? なんでそれが子供っぽいんだよ」
「そ、そうね。単なる趣味の範囲か」
なんだかムキになって恥ずかしかったからか、赤面して顔をそらすスズ。
「そうそう、気にしないでじゃんじゃん見下ろせばいいよ。
なんなら俺のことも見下ろせばいいよ」
「はぁ?」
なんでそうなるのか。彼女が振り向けば彼は芝生に寝転んでいた。
「こうすれば、いつでも俺を見下ろせるだろ?うさぎちゃん」
いい笑顔でサムズアップする津田。
しかし彼の視線は彼女のスカートの中へと向けられていた。
「黙れ変態」
スズはとりあえず津田の目に足を振り下ろした。
「ああ、ごめんなさい! そうですよね!?
萩村は俺のこと見下ろしてるんじゃないよね!?
見下してるん……あ……痛い!? ちょ、ま、待って!? 眼は、あぶな!?
ああ!! やっぱりやめないで!!」
彼女のへその下あたりには、今日はうさぎがいるのだった。
【ぶるぶる】
「あれ、そういえば会長はこっち来ないんですか?」
スズの足によるストンピングが終わってすぐに回復した津田はふと疑問を口にした。
自分とスズはここにいる。アリアはさっきから別の場所のフェンスにその豊満な胸をおしつけて風景を眺めている。
しかし屋上に会長であるシノの姿が見当たらない。
見渡してみれば彼女は未だに入口の扉から外にでないで固まっていた。
「もしかして会長高いところ苦手ですか?」
「なっ!? そ、そんなワケないだろう!!」
スズの何気ない指摘に顔を羞恥で染め叫ぶシノ。
しかしその両足は生まれたての小鹿のように震えていた。
「でも足が震えてますよ会長」
「こ、こ、これは……その……あれだ!!」
一瞬狼狽するも、なにかひらめいたような顔をしたシノは、
左手を上に、右手を膝に置いて前かがみになるという妙なポーズをとった。
本人的にはここでジャーンという効果音がなっているのだろう。
「楽しくて膝が笑ってるのさ!」
無理やりにこりと笑ってみせる我らが会長。
しかし無理なのは見え見えで、頬が完全に引きつっていた。
「なぁんだ、てっきり俺はおしっこを我慢してるのかと思いましたよ。
先輩のおもらしシーンとかレアなの見れると思ったのにな~」
「会長、そんなに上手くは言えてませんよ。
あと津田、お前は今すぐそこから飛び降りろ」