【スズのつっこみ】
いつものように会議中の生徒会室。
議論の最中、津田が手をあげた。
「すいません、ちょっとトイレ」
腹部を押えて立ち上がると、中断させて申し訳ないと頭を下げる。
「そうか、行って来い」
シノのGOサインに津田は生徒会室を後にした。
その後姿を見守っていたアリアが心配そうな声を上げる。
「津田君、どうしたのかしら?」
「お腹が痛かったんじゃないですか? 押さえてましたし」
冷静にスズが分析する。
津田は退室時、腹部を押えていたし顔もどこか青かったことから腹痛だったのだろうと推測した。
しかしその分析に待ったをかけるシノ。
「はたしてそう言い切れるかな?」
「どういうことですか?」
「巨根だったら手があの位置にあってもおかしくはない」
「溜まってたのね~」
「ありえねーよ」
それでは彼が会議中に勃○させていることになる。
ナニを想像してそんなことになったと言うのか。
ありえない、ありえてたまるかとスズはシノの意見を切って捨てる。
「じゃあ津田君ナニをオカズにして勃○したのかしら?」
「いや、ありえねーっつってんでしょ」
「そうだな……ここには女が三人もいることだし、この中の誰かかもしれないな!」
「あらあらまぁまぁ……」
「人の話聞けよお前ら」
【失態】
会議の終わった生徒会室。
シノが一人残って自分の担当の作業をしていた。
ふと、来週から水泳の授業が始まることを思い出したシノ。
彼女は泳ぎは得意だったが、スタイルに自信がなかったので水着になることは苦手だった。
視線を下げれば、親友とは違って小ぶりな山が二つ。
一応女性であると主張はしてはいるが、平均よりは小さなそれ。
個人的にはバストは80代は欲しいと思う。
そういえば……と、以前誰かが胸をマッサージすれば大きくなると言っていたのを思い出した。
なんとなく両手で自身の胸を揉みしだいてみる。
「う~む……」
これで本当に大きくなるのだろうか?
正直揉み続けたところで先端が別の意味で大きくなるくらいしか考えられない。
そこに、ガチャリと何の前触れもなく津田が部屋に入ってきた。
お互いを見て一瞬硬直する二人。
「こ、これは!!……欲求不満なだけだ!!」
「なるほど、わかりました。手伝いましょうか?」
何がわかったというのか。
津田は一つ頷いたと思うとシノに近づいた。
これに慌てるのはシノのほうだ。
彼女としては咄嗟にごまかすために出た言葉だったが、手伝うとは一体何を手伝うというのか。
まさか本気で彼女の欲求不満を解消しようというのか。
そんなこと、どんな方法であっても駄目に決まっている。
「あ、いや……これは、その……違うんだ!」
「会長……」
「ひゃい!?」
目の前まで来た津田が、少しかがんで彼女の肩に手を置く。
気が動転しているシノは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
そんな彼女をほほえましいものを見るような暖かい視線で見る津田。
「会長……胸は揉んでも血流が良くなって一時的に肥大化するだけです。
マッサージしても大きくはなりませんよ?
二次性徴時に自然と大きくなる時にマッサージをして、成長を揉んだおかげだと勘違いする人も多いですが。
あくまで都市伝説で、揉んだところで良くなるのは感度だけです。
大きくしたいのなら脂肪の多い食事をとって、胸以外の体型を維持できるよう運動するのがベストです。」
「…………は?」
彼の言葉に固まるシノ。
確かに津田は彼女のことを理解していた。
何故か詳しく説明する彼の言葉に呆然とする。
もし津田の言うことが本当なら、自分の行動はなんだというのか。
とんだピエロである。
「それじゃあ、御先に失礼します」
津田は一人生徒会室を後にした。
残されるのは胸を揉んだ状態で硬直しているシノであった。
【ふるなー】
窓の外、怖いくらいの青い空が広がっている。
そんな窓の方向を見つめる津田。
ぼーっと一人眺めていたのだが、そんな彼にシノが語りかけた。
「明日はプール開きだ。最近暑いからちょうどいいな」
「ですねー」
彼女の言葉に適当に相槌をうつ。
「しかし明日は降水確率が40%と聞く。すこし不安だな」
40%と聞いて、明日は雨か曇りなのかと考える。
今現在は雲ひとつない快晴である。
空気もからっとしているし、正直雨が降るなどと思えない。
窓わくの中に見える世界には白いところなど一つしかない。
つまるところ、だ。
「楽しみなんですね、水泳」
「いや……みんながな?」
そこにはニッコリとほほ笑むテルテル坊主がぶら下がっていた。
【ふれー】
そんなほのぼのとした生徒会室の扉が開かれる。
顔をのぞかせたのは新聞部の畑ランコであった。
「失礼します。新聞部の畑です」
「おお、畑か」
「こんにちわ」
津田に挨拶され、こんにちわ、と彼女も二人に軽く頭を下げる。
畑はシノを見つめて話を切り出した。
「会長、約束通り明日の授業で撮影を行いますので。
体育の授業、うちのクラスと合同ですからね」
「あ、いや……あれは……」
彼女の言葉に、あれは寝ぼけていたのだと言い訳しようとするシノ。
しかし彼女が言おうとする前に釘をさしてしまう畑。
「会長に二言はありませんよね?」
「あ、いや……まぁ……」
シノが言い淀んだのを承諾として退室してしまう。
「……」
彼女は無言でテルテル坊主に歩み寄ると、それをいじくって逆さにした。
「嫌なんですか。撮影?」
「……」
「こうするともっと雨が降るかもしれませんよ?」
「?」
心優しい津田はシノの思いを助けようと助力することにした。
逆さになったテルテル坊主をいったん外す津田。
彼が何をしようとしてるのか、不思議そうにシノは手元を覗きこんでいた。
「ここをこうして……こうして……できた!」
「おお、これは!?」
器用な津田は、タコ糸でテルテル坊主を亀甲縛りにしていた。
「雨が降るのを祈祷して、亀甲縛りにしてみました」
「器用だな。亀頭と祈祷をかけたのか」
【的】
「いい天気だ……」
翌日、プールサイドでつぶやいたシノ。
その言葉からもわかるとおり、見上げた空は雲ひとつない快晴だった。
昨日テルテル坊主を逆さにつるしてまで願った雨は、気配すら感じられない。
こうなれば気は進まないが、腹をくくるしかないのだろう。
周りを見れば、純粋にプールに入れると楽しそうにしている同級性達の笑顔。
考えようによっては、もし雨が降っていればこの笑顔が残念そうな顔に変っていたのだ。
雨が降らずに良かったとすべきだろう。
シノは雨が降ることを祈りつつも、昨日念のため無駄毛処理を行っていて良かったと思った。
そこにカメラを手に新聞部の畑が近付いてきた。
いつものカメラと違い防水仕様。
自身もスクール水着を着用し、完全にプールでの撮影の準備は万全のようだ。
「欲しい絵は一般的な授業風景なのであまり気にせずに。
あくまで新聞記事に使うものですから」
「そうか」
それを聞いて少し安堵するシノ。
以前セクシーグラビアなどと言っていたのは冗談だったのだろう。
まぁ、水着の美少女が載っているだけで青少年には変わらないだろうが。
「ではさっそく……男子生徒に視姦されて体が火照るシーンから」
「それ一般的なのか!?」
「一般的ですよ?
じゃあ今はここには男子がいないので……私を津田副会長だと思ってください」
【見下ろし加減】
所変わって一年生の教室。
窓際の席に座る三葉は、外に見えるプールにふと目をやった。
そこではこれから50メートルのタイムを計ろうとしている生徒がコース前に並んでいた。
「あ、あれ会長じゃない?」
彼女の目に留まったのは、今まさに飛び込み台にたったシノの姿。
自身の後ろの席に座る津田に、教師に聞こえないように小声で話しかける。
津田も同じようにプールを眺めていたらしく、すぐにシノの姿を見つけることが出来た。
「会長大丈夫かな……?」
「あれ、会長泳げないの?」
津田がふとこぼした言葉に疑問を上げる三葉。
シノは成績優秀、運動もできる文武両道の生徒会長として知れ渡っている。
その彼女がまさか泳げないということがあるのだろうか?
どちらかと言うと、魚のように自由に泳ぎ回る光景のほうが想像しやすかった。
「いや、会長高いところ苦手なんだよ」
「あぁ、そっか~。あそこ意外と高く感じるもんね」
なるほど、と頷く三葉。
高所恐怖症ならまだなんとなくイメージできるし納得できる。
彼女も、飛び込み台に立つと必要以上に高く感じたことはあるので共感出来た。
確かにここからではそこまでは見えないが、どこか入るのをためらっている感じがする。
近くで見れば彼女が恐怖で小刻みに震えているのがわかるだろう。
「なんだか会長、こらえてるっぽいもんね?」(恐怖とか)
「そうだな、こらえてるっぽいな」(おしっことか)
【栄養の行き所】
プールサイドで一休みしていたシノとアリア。
相変わらずプールからは女生徒達の楽しそうな嬌声が響いている。
アリアはぼーっと水面が光を反射しているのを眺めていた。
その横でシノは彼女の無駄に大きな胸と自分の残念な胸を見比べて世界の理について考察していた。
「さてと……一休みをすんだし、もうひと泳ぎしましょうか」
「ん?……あ、あぁ、そうだな」
よいしょっ、と立ち上がるアリアの声に我に帰るシノ。
彼女を追うようにして自らも立ち上がる。
鼻歌交じりに水の中へと歩みを進めるアリアの跡を追おうとして、ふと今までいた場所を振り返る。
そこには彼女たちが座っていた場所、アスファルトの上に尻の形に水がしみこんで跡ができていた。
(何故私の方がお尻はアリアより大きいんだ……?)
そんな疑問がわきあがる。
思わず自身の尻をさすってしまう。
スクール水着のざらざらとした感触が手に伝わり、その大きさを彼女に教える。
そんな彼女の視界に、妙な行動をする人物が映った。
「畑……何をしている?」
「いえ……会長と七条さんの尻拓の撮影を」
彼女は『天草シノ』『七条アリア』と書かれたネームプレートを尻跡に添えて撮影していた。
【16さいです】
今日一日の授業が全て終わった放課後、生徒会室にて。
水泳という全身運動を行ったせいか疲れてぐったりとしているシノとアリア。
彼女たちはめずらしく机に突っ伏してだらしな姿をさらけ出していた。
「今日はお疲れ様でした」
「本当に疲れた……」
「うぅ~……」
どこか平然としている畑が、そばに立って彼女たちをねぎらう。
結局彼女は撮影に夢中で一回もまともに泳いでいない。
そのせいで同じ授業に出ていたにも関わらず体力はまだまだ残っているのだった。
しかし真面目に授業で泳いでいた二人はすでにグロッキー状態。
生徒会室にいるだけで、今日は仕事も手がつかないだろう。
「男子の写真も欲しいからあなたの授業にもお邪魔するからね?」
「はぁ……」
津田の方を振り向いてそんなことを言う畑。
その言葉にやる気なさげに相槌をうつ津田だった。
正直自分の写真なんて誰得なんだろうと思う。
「横島先生のリクエストなのよ」
「ああ、なるほど」
彼女の言葉に、その場の全員が納得した。
「ちなみにその時は学校指定の水着ではなくこれを着用してくださいね」
横島先生のリクエストだから……と畑が取り出したのはTバックのような危険極まりないブーメランだった。
「わぉ!? こんなの履いたらお稲荷さんがこんにちわしてしまいますよ!?」
「絶対に履くんじゃないわよ津田」
ちょっと面白そうとは思いつつ、ズスの視線に負けてブーメランは断った。
まぁ、撮影事態はOKしたことだし、畑も特に残念そうにはしていない。
彼女も別にその水着に関してはどちらでもよかったのだろう。
それではこれで、と帰ろうとした彼女をスズが呼び止めた。
「あの……私のは?」
「? 萩村さん用のアブナイ水着はありませんよ?」
「いや、そうでなく!! 撮影はいいんですか?」
「?……あぁ! そっちですか。
最近世間の風当たり強いんで……子供のセクシーグラビアはちょっと」
スズがいろんな意味でキレたのはいうまでもない。