生徒会変態共!   作:真田蟲

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十三人目

 

【期待と不安】

 

今日も会議中の生徒会室。

来週から新しく改善されることになった校則について話し合う生徒会の面々。

 

「校則で定められていた携帯電話の持ち込み禁止だが、生徒の要望により解禁されることになった」

 

「持ってた方が安心できますね」

 

「そうですよ、今の時代何があるかわからないんだから」

 

以前から実施していた目安箱。

その中にある生徒会への要望の大多数が、携帯電話の持ち込み解禁を求めるものだった。

というよりも、それ以外の内容となると途端に真面目なものがなかったのだが。

なにはともあれこうして学園側も認め、来月より正式に携帯電話が解禁となる。

スズと津田の言葉の通り、防犯上喜ばしいことではある。

実際、小学校中学校とは違い電車通学の生徒も多いのだ。

 

「だが学校の風紀が乱れないか心配だ」

 

確かに、シノの心配もわからないこともない。

だいたいにして、今まで学園側が禁止していたのはそのためなのだから。

授業中にメールや電話をして話をきかないことも考えられる。

 

「授業中にメールのやり取りなどする輩がでるかもしれない」

 

「その可能性も否定はできませんが……」

 

メールでなくても、やっている生徒は授業中に手紙をまわしたりしているものだ。

いまさらあまり変わらないだろう。

 

「ハメ撮りの横行……」

 

「会長の頭ほど乱れることもないと思いますよ?」

 

シノの発言をスズが切って捨てる。

しかし、その捨てられた言葉をわざわざ拾う津田とアリア。

 

「会長は携帯が可能になったらハメ撮りするんですか?」

 

「あらあらそうなの? インターネットに配信しちゃったりするの?」

 

「そ、そんなわけないだろう!?」

 

「会長は誰かに見られるのが好きでしたもんね」

 

「そうね、朝礼の時も前に立つと嬉しそうだもんね」

 

「……会長」

 

「そ、ちが、私はそんなことしない!! 違うんだ!

 萩村もそんな目で見ないでくれー!!」

 

 

 

 

 

【たくさん出ました】

 

朝の会議の時間が終わった生徒会室。

各々自分のクラスに向かうために荷物を整理して部屋を出ていく。

津田はノートや書類を鞄に入れるため、一旦他の荷物を取り出し机の上に広げていた。

会議が終わって早々に出て行ったシノとスズ。

しかし津田と同じく未だ生徒会室に残っていたアリアが彼の所持品の一つに目をとめた。

 

「津田君、学校にDVD持って来ちゃ駄目だよ?」

 

「あっ、すいません」

 

彼女が目にとめたのは、一枚のDVDのパッケージであった。

一応校則でも必要のないものを持ってくることは禁止されている。

 

「あっ、でもこれ今話題になってる映画ね」

 

「はい、友達から借りまして」

 

そのDVDは去年上映していた映画で、つい最近ようやくDVDで出たものだった。

「G線上の漢共」と題うたれたパッケージの表では、ゴスロリ服を着た男と巫女装束を身にまとった男がクロスカウンターを決めていた。

前評判の低さから上映していた映画館も期間も少なかったが、内容が話題性をよんだ作品である。

上映期間の延長を求める声も多かったが、結局それは実現せずに映画館で見ることができなかった者が多数。

ようやくDVDが発売されて鑑賞することがかなったわけだ。

 

「どうだった?」

 

「よかったですよ。ティッシュ手放せませんでした」

 

「そ、そんなにいやらしかったの?(ごくり)」

 

「ええ、BOXティッシュ一箱使い切っちゃいました」

 

 

 

 

 

【会長の決定力】

 

空き時間を使って、生徒の相談に乗るシノ。

今日の相談室の相手は新聞部の部長、畑ランコであった。

来月のプール開きに関する記事について、シノ個人に折り入って相談があるとのこと。

しかし最近会議の連続で疲れていたシノはうつらうつらとしていた。

そのせいで彼女の説明も半ば聞き流している状態である。

 

(いかん、昨日の夜遅くまで予習していたせいで眠気が……)

 

会議に時間がとられ、最近出来ていなかった予習を昨晩まとめてしたために、今日は睡眠時間があまり取れていないようだ。

寝るわけにはいかないと思いつつも、瞼は自重で閉じようとする。

目を開けているだけで精いっぱいで、畑の話は頭の中にはいってこなかった。

 

「―――というわけでして、今度のプール開きの記事なんですが……

 会長のセクシーグラビアでやりたいんです。どうでしょう?」

 

グラビア記事など、何気に恥ずかしがり屋な彼女にできるわけがない。

断るべきなのはわかっている。

しかし彼女の言葉に、断ることもできず寝ぼけて首をかくりと縦に動かしてしまった。

それを承諾とみなす畑。

 

「OKなんですね。じゃあよろしくお願いします」

 

「……!?」

 

意思とは反対に、こうしてシノのセクシーグラビア記事が決定した。

 

 

 

 

 

【心の抵抗】

 

今日も会議で遅くなった生徒会。

六月に入ったが19時にもなれば外も暗い。

そんな夜道を歩くスズは、見たいドラマがあるために家に急いでいた。

 

(今日も遅くなっちゃったな……ドラマ始まっちゃう)

 

腕の時計をしきりに気にしながらも早足で歩く。

住宅街に入り、彼女の家が近くなってきた。

そこで家と家の塀の間にある、狭い隙間のような路地があった。

子供なら楽に通れるが、大人だと簡単には通れないような幅しかない。

自分なら通れることを知っていた彼女は近道しようと路地を覗きこんだ。

 

「……ハァー……ハァー……」

 

路地の向こうには彼女の家がある通りが見えるはず……だった。

しかし今日に限って向こう側の通りは見えない。

その代り、街灯の光に照らされて見えたのは狭い路地に挟まった男だった。

何故かひょっとこの面をつけ全裸で息を荒立てている。

 

「おおっ!? ちょうどいいところに!! 

 俺の名前はひょっとこ仮面二号、わけあって……ってああ!? 

 まって!! 逃げないで!! 助けてー!!」

 

彼女は見なかったことにして正規の道を行くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

【わくわくDAY】

 

生徒会室に掛けられたカレンダーを見つめる津田とシノ。

相も変わらずそのスケジュールがびっしりと書きこまれたものにため息が出そうになる。

 

「こうしてスケジュールを見てると本当に生徒会って大変ですね」

 

「そうだな」

 

今月も会議が週に最低でも三回はある。

イベント行事がない月なだけまだましである。

体育祭や文化祭といった行事のある月だと、ほぼ毎日というハードなものだ。

 

「あれ、この日はなんかあるんですか?」

 

彼が疑問に思ったのは12日に大きくつけられた花丸マーク。

なにか重要な日であるかの様に赤のマジックで書きこまれているが、内容が何も記されていない。

津田自身、この日は特に何もなかったように記憶していたのだがもしかしたら彼の記憶違いかもしれない。

不思議に思って隣のシノに聞いてみた。

 

「……私の誕生日」

 

指摘されたシノは消え入るような小さな声で恥ずかしそうに答えた。

会長である自分が、生徒会の公的なスケジュールのカレンダーに自分の誕生日をでかでかとマーク付けしてるのだ。

改めて人に聞かれて、まるで祝ってくれといわんばかりな感じがして恥ずかしくなった。

なんだか誕生日が楽しみな子供みたいで、自分のイメージと違う気がした。

 

「クス……やりますか、誕生会?」

 

「べ、別に催促したわけじゃないぞ!?」

 

必死に手振りを交えて弁解するシノのしぐさは、なんだかいつもより子供っぽく見えて微笑ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【会長のお誕生日】

 

そしてやってきた6月12日、シノの誕生日。

休日だったが生徒会室に集まってささやかに誕生日会を開く面々。

ジュースを片手に、輪になってケーキを囲む。

 

「それではシノちゃんのお誕生日を祝って……カンパーイ!」

 

「「「カンパーイ!」」」

 

音頭をとるアリアの言葉でグラスをくっつけて音を鳴らす。

 

「改めて、シノちゃんおめでとう(チン)」

 

「ああ、ありがとうアリア」

 

「おめでとうございます会長(チンチン)」

 

「ふふ、津田もありがとう」

 

「私に合わせなくて結構です(プルプル・・・チン)」

 

「そ、そうか。萩村もありがとう」

 

スズは皆と同じように胸の位置で鳴らすにはちょっとばかし届かなかった。

 

 

 

 

 

 

【グレード】

 

「それじゃあさっそくだけどプレゼントを渡しましょうか」

 

アリアの言葉に、待ってましたとばかりに津田とスズが反応する。

 

「会長、最初に私のを受け取ってください!!」

 

「あっ、俺のも俺のも」

 

「あ、ありがとう……」

 

二人の必死な様子にもらう側のシノは少したじろいでいた。

 

「うふふ、シノちゃん大人気ね」

 

はたから見れば早くシノにプレゼントを渡して喜んでほしいように見える。

しかし実際は二人ともアリアよりも先に渡したいというだけだったりする。

彼女の背後には、明らかに自分たちの用意したものよりも大きな箱。

包装もきれいで金がかかってそうな雰囲気が漂っていた。

 

((金持ちのあとには出せない……))

 

二人の考えていることはそんなことだった。

アリアの後に出して本来よりもグレードが低く見られるのが嫌だった。

 

 

 

 

【プレゼントverスズ】

 

「ふむ、まずは萩村のプレゼントから開けさせてもらおうか」

 

「はい。どうぞ」

 

シノが一番に開けるのを選んだのはスズのものだった。

女の子らしく可愛らしい包装で包まれている。

丁寧に開けられていく包装紙、中からでてきたのは可愛らしいデザインの貯金箱だった。

 

「おお!! これは貯金箱だな」

 

「はい! これからの時代、必要なのは貯蓄です」

 

「スズちゃんらしいわね」

 

「ありがとう、萩村」

 

「……いえ」

 

彼女らしく実用的ながらも可愛らしいプレゼントに微笑むシノ。

スズも照れ臭そうにはにかんでいた。

 

 

 

 

【プレゼントver津田】

 

「じゃあ次は津田のものを見せてもらおうか」

 

「どうぞどうぞ」

 

シノが次に選んだのは津田が用意したもの。

落ち着いた印象の、どこかシックで大人っぽい包装で包まれている。

先ほどと同じく慎重に包装紙をはがしていく。

 

「おお、こ、これは……!?」

 

出てきたのはブラジャー、パンツ、靴下の下着三点セットだった。

色は赤で統一されている。

 

「津田、あんた……」

 

「わぁ、格好いい下着ね」

 

「会長の好きな色とかわかんなくて……個人的に会長に似合いそうな色を選びました」

 

照れ臭そうにする頬を掻く津田に絶句するスズ。

まさか高校生で異性の友人に下着を贈るとは、さすがに彼でもしないだろうと内心では思っていたのだが……

アリアは下着を見てどこかうらやましそうだった。

 

「サイズまでぴったりか……しかもこれは!?」

 

レースの刺繍も大人っぽいデザインで、見てるだけでドキドキしてくるシノ。

しかも、パンツを広げて良く見てみればウエストサイズがぴったりだというだけではない。

なんとクロッチ部分に楕円形に穴が開いている。

要は履きながらでも行為に及べるというスケベパンツだった。

 

「わぁ凄い。こんなの実物初めて見たわ」

 

「探すのに苦労しました。ぜひ履いてくださいね?」

 

「……」

 

「あ、ああ、大事にするぞ!!」

 

 

 

 

 

【プレゼントver先生】

 

「これは誰のだ?」

 

机の上に置いてある誰のものか不明の箱に目をつけるシノ。

津田とスズのものは既にもらってある。

アリアのは彼女の背後に大きな箱が見えることから、おそらくそれであると予想がつく。

では一体これは誰からのプレゼントなのだろうか?

 

「ああ、それは横島先生からよ。さっき預かってきたの」

 

「先生ですか……」

 

横島先生のものと聞いて嫌な顔をするスズ。

津田でこれだったのだ。この流れは嫌な予感がする。

明らかに未成年にはそぐわないプレゼントが出てくる気がしてならない。

なぜなら誰も触れていないのに、机にある箱がひとりでにヴィヴィー、ヴィヴィー、と音を立てて震えているのだ。

 

「こらこらお前たち、あの人も仮にも教師なんだ。あれでも」

 

とりあえず開けてみる。

 

「こ、これは……!?」

 

中から出てきたのは大小様々な色とりどりの玩具だった。

ただし……頭に「大人の」と付く代物である。

ピンクロー○ー、ア○ルパール、二股バイ○、浣○用の注射器、スパンキング用の鞭、

ビーン○バキューム、○ールギャグ、蝋燭、クス○、鼻フ○ク、皮製のマスク、

ガーターベルト、etc……

 

「うわー! うわー! うわー!!」

 

貰った本人であるシノは好奇心に目を輝かせている。

 

「うわー」

 

アリアも同じく興味深いのか、ク○コを手にとって「実物初めて見た」と呟いている。

 

「うわーお」

 

さすが大人は違うぜ~、と感心する津田。

 

「……うーーーーーーわーーーーーーー……」

 

一人ドン引きするスズ。

最初にプレゼントを出しておいて良かったと安堵した。

 

 

 

 

 

【プレゼントverアリア】

 

「じゃあ最後は私のね」

 

「ああ、ありがとうアリア」

 

最後に残ったのはアリアのプレゼント。

箱からしてかなり大きい代物らしい。

きれいに飾りつけられた包装を解いていき、箱の蓋を開ける。

 

「?」

 

箱の中身を覗いただけでは全容が見えずに何かわからなかったらしい。

シノは小さく首をかしげていた。

箱に手を突っ込んで中のものを引っ張りだす。

 

「おおお!?」

 

出てきたのは可愛らしい二体のクマのぬいぐるみ……だったもの。

ただし一体は亀甲縛りで縛られ、口にギャグ○ールを咥えている。

もう一体は女王様のように皮のガーターを着込んでパピヨンマスクをつけていた。

 

「うおおすげええ!? 手作り!?」

 

「結構作るのに時間かかっちゃった」

 

「凄いなアリア!! 芸術品だ!!」

 

ぬいぐるみも着用しているものも手作りとは思えないほどの出来栄え。

まぁ、これで買ったものとか言われたらそれはそれで驚くだろうが。

照れ臭そうにもじもじするアリアをシノと津田がほめちぎる。

 

「大事にする。今日からこの子たちと一緒に寝るからな!!」

 

「ふふ、ありがとうシノちゃん」

 

「……」

 

「……」

 

亀甲縛りと女王様スタイルのぬいぐるみと寝る美少女。

その姿を想像して鼻の下をのばす津田と嫌そうな顔をするスズであった。

 

 

 

 

 

【ふるっていってふらなかったりふらないっていってふったり】

 

ふと窓の外を見ると、雨が降っていた。

 

「ん?……雨か」

 

「えー、今日は降らないって言ってたのに……困ったな~」

 

突然の雨に困った顔をする二年生コンビ。

天気予報では曇りではあっても今日は雨は降らないとなっていたのだ。

当然傘は持ってきていない。

 

「私傘ありますよ」

 

「俺も」

 

しかし一年生の二人がちょうど傘を持っていたようだ。

どうやらスズはこんな時のために置き傘をしているらしい。

彼女はともかく、天気予報では降らないとされた日に津田が持っているのには驚きだが。

 

「本当? よかった」

 

「それは助かったな。持ち帰るの忘れた傘が役にたって」

 

「さすが会長、俺の性格読んでるぜ」

 

以心伝心だね、とサムズアップする津田。

彼が用意周到なわけはないと理解しているシノであった。

 

 

 

 

 

【二人きり】

 

帰り道、スズとアリア組、津田とシノ組で別れた生徒会役員共。

シノは津田の傘に入れてもらって歩いていた。

 

「……」

 

「……」

 

特に話題も見つからず、しばらく無言で歩く二人。

間にはポツポツという傘を打つ雨の音が耳に届いた。

どこか街並みが雨のせいか灰色に見える。

休日なのもあって人通りも少なく、雨の音が余計に大きく聞こえた。

6月に入り、温かくなったといっても雨の中を歩いていれば体も冷えてくる。

自然と、隣にある津田の体という熱源に近づいてしまう。

傘をもつ彼の腕が、彼女の肘に触れる。

それだけでシノは必要以上に彼に近づいていることを意識してしまう。

 

「あ、あれだな? ほら、その……よく考えるとこれって相合傘だな」

 

「そうですねー」

 

よく考えなくてもそうなのだが、口に出すとなんだか余計に気恥ずかしい。

しかし隣を見れば、津田は特に気にした様子もなく自然体で前を向いている。

なんだか自分だけ相手を必要以上に意識しているみたいでいい気はしない。

彼は自分のことを異性と見ていないのだろうか?

いや、それはないだろう。

あれだけセクハラ発言をしていて、今日のプレゼントも下着だった。

恋愛的な対象かは別としても異性としては見ているはず。

ならこの特に気にした様子もない落ち着いた雰囲気はなんなのだろうか。

年下の彼が自然体で、年上のはずの自分の方がうろたえるなどみっともないと考えてしまう。

シノとしては、男と同じ傘に入るなど初めての経験で何気に心臓が踊っている。

気を抜けば口元がにやけてしまいそうだ。

とりあえず、表情はいつものように凛と引き締めている。

 

「他人から見ると……その……私たちもそういう関係に見えるのだろうか?」

 

「はは、気をつけないといけませんね。会長人気者だから」

 

勘違いされて背中さされそうだ、と冗談めかして苦笑する津田。

彼の大人な対応に、まるで自分が子供になった気分になる。

平然とした津田にちょっとむっとしながら、彼の表情を覗いてみる。

そのときになって、ようやく気付いた。

 

(あれ? 津田の肩濡れてるじゃないか……)

 

彼のシノとは反対側、つまり傘の外側の肩はずぶぬれになっていた。

よく考えてみれば本来傘は一人用。その中に無理やり二人が入っているのだ。

どうしたって少しは濡れるはずである。

しかしシノは学園からここまでの道のりで、特に濡れた様子はなかった。

答えは簡単、津田が彼女を優先的に傘に入るように持っていてくれたからである。

 

「つ、津田! お前肩びしょぬれじゃないか!?」

 

「ん? ああ、別にこれくらいどうってことないですよ」

 

男ですから、と苦笑する。

それにあわてたのはシノの方だ。

 

「しかし! この傘は津田のだろう!?

 私は入れてもらってる立場なんだから少しくらい濡れたっていい。

 もっとこっちに入れ」

 

「そんなこと気にしなくていいですよ」

 

「でもだな……」

 

傘の中にもっと入れと主張するシノ。

しかし現実問題として津田が傘の下に入ればその分シノが外に出て濡れてしまう。

それは津田も男として許容できなかった。

 

「じゃあこうしましょう。

 俺たちは相合傘をしてて、傍から見れば恋人同士です。

 もしそれで会長が濡れていれば、俺は彼女を傘にちゃんと入れてやれない男に見られてしまいます。

 だから会長は、俺がちゃんとエスコートできる男に見えるように入っておいてください」

 

「む?……ぬぅ」

 

津田に言い含められ、納得のいかない顔をしつつも言い返せない。

結局は彼の言うとおりにするシノであった。

彼女にはまだ、津田の腕に自身の腕をからめて密着するほどの度胸はなかった。

 

「へぇ、津田君ちゃんと女性のエスコートもできるのね……」

 

彼等の後方にある電柱の陰から見つめる人影。

レインコートに、防水の施されたカメラを手にした畑だ。

畑から見れば二人はういういしい恋人も同然の姿に見える。

津田の言っていたことも的外れでもないのであった。

 

 

 

 

 

【この話ではきれいにまとめてみた】

 

分かれ道にきた津田とシノ。

駅に向かう津田と、電車に乗らず地元のシノ。

 

「会長はこっちの道ですか?」

 

「ああ、だから私はここまででいい。ありがとう」

 

助かったよ、と傘を出ようとするシノ。

しかし津田はそんな彼女に自分の傘を差し出した。

一歩離れたシノを追うように傘が動いたので、結局は津田が傘から出る形になる。

 

「じゃあ、俺の傘どうぞ」

 

「え……いや、しかし……それでは津田が濡れるじゃないか」

 

差し出された傘に戸惑うシノ。

そのシノに津田は茶化すように冗談で笑いかける。

 

「クスッ、いいんですよ俺は。

 ほら言うでしょ?水も滴るいい男って。

 街行く女子は俺の虜ー、なんちって」

 

「そ、それなら濡れた女もそそるだろうが!」

 

彼の冗談に意味不明なことをいい返す。

そんな彼女の手をとり、津田はその手に持っていた傘を握らせた。

 

「誕生日の主役を濡れて帰らせるわけにはいきませんから。

 俺は大丈夫ですんでどうか使ってください」

 

心配してくれてありがとうございます、とほほ笑んだ。

 

「それじゃ!」

 

「あっ、おい!!」

 

彼はそのまま駅に向かう道を雨に濡れながら走りさる。

 

「津田……」

 

残されたのは、しばらくその場で立ちすくむシノ。

それを陰から見守る畑だけであった。

 

 


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