ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第97話  孤独の重圧

 第97話

 孤独の重圧

 

 ウルトラマンメビウス

 ウルトラマンヒカリ

 彗星怪獣 ドラコ

 肉食地底怪獣 グドン

 再生怪獣 グロッシーナ

 バリヤー怪獣 ガギ

 マグマ怪地底獣 ギール

 吸電怪獣 エレドータス

 宇宙同化獣ガディバ 登場!

 

 

「ふっふっふ……やはり現れたなウルトラ兄弟! 待っていたぞ、お前たちに受けた屈辱の数々、今ここで晴らしてくれる! ククク……さあ、我が暗黒の呼びかけに応じて現れた怪獣軍団よ! ウルトラ兄弟を抹殺し、すべてを破壊するがいい!」

 現実世界に姿を現した異次元人ヤプールの哄笑が、平和だった学院の空に木霊する。宇宙と地底から出現した五匹もの怪獣軍団の雄叫びが、立ちはだかるウルトラマンA、ウルトラマンメビウス、ウルトラマンヒカリの肌を震わせた。

 

 宇宙から襲来し、両腕の鎌を振り上げるのは、かつてツィフォン彗星から来襲し、今回は恐らく事前にボガールか時空波発生装置によって呼び寄せられていたと思われる、日本アルプスを舞台にレッドキング、ギガスと激しい格闘戦を繰り広げた彗星怪獣ドラコ。

 太い二本の鞭、『振動触腕エクスカベーター』を振り回すのは、ウルトラマンジャックを一度は撃退し、メテオールの攻撃にも耐える強固な皮膚を有する肉食地底怪獣グドン。

 さらに、ウルトラマンダイナが戦った初めての地球怪獣であり、猛烈なパワーと強い生命力を持つ再生怪獣グロッシーナ。

 巨大な爪と二本の鞭、大きく鋭い角を持つのはウルトラマンティガと互角のせめぎあいを繰り広げ、今回出現した個体もサイクロメトラの寄生から生還するだけの強靭さを見せたバリヤー怪獣ガギ。

 最後に別世界で二人のウルトラマンを苦戦させ、この世界でも眠りをさまたげられて怒り狂うマグマ怪地底獣ギール。

 

 どの怪獣もかつてウルトラマンたちを苦しめ、今やヤプールの放ったマイナスエネルギーの影響でさらに凶暴化して、恐るべき敵となっている。しかし、ヤプールの逆恨みによって、多くの若人たちの未来をになうこの魔法学院を破壊させるわけにはいかない。

 

「シュワッ!」

「ヘヤッ!」

「セァッ!」

 

 メビウス、エース、ヒカリは威嚇してくる怪獣軍団に真正面から向き合い、その上空をガンフェニックスが固める。今、ほとんど無人の魔法学院で、この戦いを見とどける者は、学院長室からじっと見下ろすオスマンと、シルフィードから見つめるキュルケとタバサ以外にはおらず、わずかな衛兵や使用人たちもすべて逃げ去った。

 だが、圧倒的な敵の戦力に対して、ゲートが閉じるまでに残されたリミットはあと十分足らず。ウルトラマンの活動時間が三分なのも手伝うが、その短い時間で怪獣軍団を撃退せねば、メビウスやGUYSは地球に帰ることができなくなってしまう。

 そして、初めてたった一人で変身したルイズと、自分が宿っていないエースの姿をガンローダーのコクピットから見下ろす才人は、離れ離れになって戦うことに刺す様な胸の痛みを覚えながらも、戦いの渦中に身を投じようとしていた。

 

「テヤッ!」

 

 怪獣軍団とウルトラ兄弟の中で、先陣を切ったのはウルトラマンメビウスだった。一度戦って、その戦法を知っているグドンへと向かい、地底を進む際に岩盤を砕くほどの破壊力を誇る振動触腕エクスカベーターの直撃を受けないように、ジャンプして奴の背後に回りこむと、背中を掴んで地面に引き倒した。

「デャァ! ダアアァッ!」

 グドンに背中から馬乗りになったメビウスは、奴の後頭部をめがけてパンチの連打を叩き込んだ! 目にもとまらぬメビウスパンチのラッシュ、ラッシュ、ラッシュ! グドンの皮膚はスペシウム弾頭弾ですら貫通できないほど強固だが、それならば効くまで打ちまくってやると、集中攻撃が炸裂する。

 ただ、相手も伊達に彼の兄を倒したことのある怪獣ではない。さすがに背中に向かっては振り回せない振動触腕エクスカベーターに血液を送り込んで硬化させると、目の前の地面に突き刺して、その振動で吹き上がる大量の土砂でメビウスを吹き飛ばしてしまった。

 怒りに燃えて起き上がってくるグドン。さらにその上に、先に空中戦で苦杯をなめさせられたドラコも並んで、挟み撃ちの構えでメビウスに襲い掛かってくるではないか。

 もし、ここでメビウスがどちらかに意識を集中すれば、正面の相手には対応できても後ろから襲い掛かってきたもう一匹に攻撃されて、結局は二匹がかりで袋叩きにされていただろう。が、数多くの実戦を潜り抜けて、ウルトラ兄弟の一員と認められるまで成長したメビウスは判断を誤らなかった。

「テアッ!」

 挟み打とうと鞭と鎌を振り上げて向かってくる二大怪獣にやられる直前、メビウスは垂直にジャンプすると、空中で一回転して落ちてくるついでにドラコの後頭部を蹴飛ばした。もちろん、全力疾走をしているときにそんなことをされればドラコは前のめりに勢いがつきすぎて、そのまま勢いあまってグドンと正面衝突! 出会い頭のごっつんこみたいにはじけとび、左右対称に背中から倒れこむ。

 むろん、頭から激突させられたグドンは怒り、メビウスそっちのけでドラコにむかって鞭を振り下ろし、ドラコも翼を広げて威嚇しながら、鎌で鞭を迎え撃つ。見事に同士討ちを始めてしまった二大怪獣だが、もしドラコに人間並みの知能があったらこの戦法に屈辱を覚えただろう。なぜなら、突進してくる相手の直前でジャンプして、敵同士を激突させるという戦法は、初代ドラコが二代目レッドキングとギガスに使った戦法そのままで、お株をそっくりいただいてしまったものだったからだ。

 とはいえ、メビウスは二匹の対決をそのままのんびりと見物しているつもりは無く、横合いからドラコにジャンプキックをお見舞いし、三つ巴の乱戦にもつれこんでいった。

 

「デュワッ!」

 

 メビウスとは反対側で、ウルトラマンヒカリもガギとギールを相手に戦闘に突入していた。ナイトブレスを輝かせ、彼のシンボルともいえるナイトビームブレードの金色の光を振りかざし、雄叫びをあげるガギの鞭をかいくぐり、ギールの背中に剣を振り下ろす。

「グアッ!?」

 硬質な音とともにはじかれたナイトビームブレードに、ヒカリはしびれた右手をおさえて、平然としているギールを見下ろした。こいつの皮膚はまるで岩石だ。実際に、かつての同族怪獣はXIGの主力戦闘機、ファイターの攻撃でも背面からでは一切ダメージを与えられなかった。これでは、いくらカミソリのような切れ味を誇る日本刀でも石灯籠を切れないように、ナイトビームブレードも役に立たない。

 ギールは、無敵の鎧に守られていることに安心したのか、ナイトビームブレードを恐れずに突進し、鉄筋コンクリートすらウエハースのように噛み砕く顎でヒカリの足に噛み付こうとしてきた。

「タァッ!」

 突進を回避し、間合いをとったヒカリは態勢を立て直してギールを睨み返す。奴は地底怪獣独特のスタイルで、地上での行動ではあまり素早さを発揮できない。しかしガギは当然別で、今度は逃さないとばかりにヒカリに狙いを定めて、巨大な角を光らせた。

「気をつけて! そいつは角から光線を撃つわよ!」

 キュルケの声が寸前で響いて、ヒカリはギリギリでガギの放った赤色光線の回避に成功した。あれはエギンハイム村で戦ったとき、リドリアスに重傷を負わせた威力がある。ヒカリも、ギールに気をとられていた今、あれを喰らったら危なかったかもしれない。

 ありがとう、そう言ったわけではないが、ヒカリはシルフィードに向かってうなずいてみせ、ヒカリがそう言ったことを理解したキュルケも、頑張れと言う様に大きく手を振った。

 ガギは、最初の一発をはずされたことに腹を立てた様子ながらも、まだ鞭の届かない間合いから二発、三発目の光線を放ってくる。けれども、威力はあるが発射の際のチャージに一秒ほどかかり、そのタイミングで角が発光するためにヒカリは今度は余裕を持ってこれをかわす。

「やるう……」

「けど……あの怪獣にはまだ武器がある……どうするの?」

 キュルケとタバサは、ヒカリの身のこなしを見ながらも、あのときに見たガギの能力からそれだけでは勝てないと見ていた。離れれば光線、近づけば鞭で締め上げて、肉薄しようとすれば巨大な爪にやられる。遠距離、中距離、さらに近距離でガギには隙がない。

 しかし、科学者としてと、隊長としてとの両面でヒカリはガギを冷静に分析していた。そしてガギの鞭の性質が、グドンのような主に相手を殴りつけるための太く強靭な武器ではなく、長くしなやかで、相手をからめとって動きを封じるためのものだという結論を得ると、ギールが割って入ってくる前に、一気に間合いを詰めようと、ナイトビームブレードをかざしてガギに向かって走り出した。

「正面攻撃!?」

「無茶な……!?」

 二人とも、いくらなんでも無策すぎると悲鳴をあげて、案の定ガギは向かってくるヒカリへ向けて二本の鞭で絡めとろうと巻き付けて来る。だが、縛り上げられる瞬間にヒカリは右腕を腰まで下げて、鞭が巻きつく場所に刃がくるように仕向けた。すると、切り払うよりも強く、ガギ自身のパワーで刃を締め上げた鞭はバラバラに切断されて飛び散った。

 作戦成功。いくらしなやかで強い鞭でも、ピンと張り切ったときは非常にちぎれやすくなってしまうのだ。その隙に駆け寄ったヒカリは奴の顎を下から蹴り上げたキックでふっとばし、よろめいた奴の胴体を掴むとギールの上へと投げ飛ばした。

「タアァッ!」

 地底の圧力に耐えるギールはその衝撃に耐えたが、溶岩大地の上のように固くてゴツゴツしたギールの背中の上に投げ飛ばされたガギはたまらない。背中を強打してもだえているうちに、ヒカリはギールの頭を蹴り上げて、二足歩行になって向かってきたギールと組み合い、力の限りで押し返す。

 

 そして、四匹の怪獣を弟たちにまかせ、ウルトラマンAは怪獣グロッシーナと戦いを繰り広げていた。

「ヘアッ!」

 ストレートキックがグロッシーナの胴体に決まり、黄色く発光する腹にめり込んで五歩ほど奴を後退させた。しかしキックはクリーンヒットしたものの、グロッシーナの腹は弾力性に富んでいるようで、キックによる衝撃を緩和させてダメージを最小にして、今度はエースに背を向けると長い尻尾をエースに打ち付けてきた。

「デヤッ!」

 エースはとっさにバックステップで回避したが、グロッシーナはさらに右へ左へと尻尾攻撃を続けてくる。恐竜型怪獣の恐ろしいところは、人にはないその尻尾という武器である。莫大な重量の体重を支えるために、太い骨と筋肉の塊であり、腕や足よりも破壊力がある。

 連続攻撃を後方に跳んでかわし続けるエースだったが、いくら惑星が丸くできているとはいえ、限界はすぐにやってきた。

(待って! 学院を壊しちゃう)

 感覚を共有しているルイズの叫びで、エースはすぐ後ろに学院の校門がきていることに気がついた。これ以上下がったら、城壁を押しつぶしてしまう。かといって右や左に逃げても、グロッシーナは勢いのままに城壁を破壊してしまうだろう。

(サイト、どうすれ……)

 助言を求めようとして、ルイズはもう自分の隣には誰もいないのだと思い出した。いつも、困ったときには助言をし、そうでなくとも怒りを受け止めてくれた才人はもういないのだ。

(なにを甘えているのよ、ルイズ・フランソワーズ! わたしが支えなきゃ、エースはこの世界では戦えないってわかってるじゃない。そうでなきゃ、サイトが、サイトが安心して帰れないじゃない……サイトが……)

 自分を厳しく叱咤するように言ったルイズの独語は、しかし逆に彼女の気持ちを自分でも訳がわからないくらいにめちゃくちゃにかき回していった。

 だが、ルイズの葛藤に慰めの言葉をかけている余裕はエースにはなかった。グロッシーナの尻尾は強力な電流を帯びており、そのパワーは初代ウルトラマンをスペシウム光線を撃つ暇もなく叩きのめし、ゼットンを除いては唯一ウルトラマンに黒星をつけた古代怪獣ゴモラのものに比較すれば落ちるだろうが、きれいに受け止められたとしても無傷ですむとは思えなかった。

 それでも、肉を切らせて骨を断つというように、ダメージを恐れていては学院を守ることはできないと、エースは意を決して尻尾を受け止めにかかった。

「ヌウンッ!」

 右からすごい速さで飛んできた尻尾を受け止めた瞬間、坂道を転がってきた丸太を受け止めたように衝撃が骨格を通して全身を貫き、足が地面を削りながら左へと押し出される。

(すごい力だ……っ! だが)

 殴られるよりはるかに強いショックを受けながらも、エースはグロッシーナの尻尾を完全に掴み取った。そのまま今度は自分の体を軸にして放り投げ、ジャンプすると起き上がってきた奴の頭に急降下キックをお見舞いする。

「トアァーッ!」

 タロウのスワローキックほどではないが、空中からの一撃が炸裂してグロッシーナがよろめく。しかし、奴はほんの少し後退するとすぐに態勢を立て直して、エースに向かって口から赤い光弾を、ショットガンのように撃ちだしてきたのだ。

「グワアッ!」

 光弾には爆発性があったらしく、着地直後でかわしきれなかったエースを無数の爆発が包みこむ。さらに二発目、三発目の攻撃が直撃すると、エースはがっくりとひざをついた。

「グゥゥ……ッ」

 グロッシーナの光弾はショットガンに似た特性から射程は短いものの、広範囲に広がるために回避が難しく威力も高い。奴はダメージを受けて動きの止まったエースにさらに攻撃を加えようと腕を振り上げる。だがそこへ、GUYSの援護攻撃が加えられた。

 

「ウィングレットブラスター!」

「バリアブルパルサー!」

 

 ガンウィンガーとガンローダーのビームが命中して、小爆発にひるんだグロッシーナが後退した隙に、エースは奴の間合いの外へと離脱できた。

「危なかった……」

 ガンローダーのコクピットから見下ろしていた才人が、ほっとしたようにつぶやいた。変なものだが、彼にとって昔テレビで見た記録映像以外では、これが生まれてはじめて見るウルトラマンAの戦いである。しかし、あそこでは今、ルイズが命をかけて戦っていると思ったら、才人はないのをわかっているのに右手を強く握り締めずにはいられなかった。

「がんばれ……」

 それは、エースにか、それともルイズに言ったものであったのか。才人には自信を持てる回答がなかった。

 才人を乗せたガンローダーは、エースとグロッシーナの上空を一度旋回すると、グロッシーナからの反撃を避けるために距離をとり始めた。不必要に慎重にも見えるかもしれないが、ゲートが閉じるときにはガンフェニックストライカーになっていなければならないので、一機たりとて被撃墜されるわけにはいかないのだ。

 ただ、ガンブースターから才人とは違った目でエースの戦いを観察していたテッペイは、奇妙な違和感が増大してくるのを感じ始めていた。

 

「おかしい……」

 

 それがなにか、具体的な答えはまだ出ていないけれども、才人よりも昔からウルトラマンの戦いを見慣れてきて、つい二日前のバキシムとブロッケンの激闘もモニターごしとはいえその目に焼き付けたテッペイにとって、今は何かが違う、そんな感じがし続けていた。

 また、同様の違和感はキュルケやタバサも感じ始めていた。

「なにか、変ね……タバサ、あなたはそう思わない?」

 タバサは無言でうなづいただけであったが、その目は否定していなかった。

 それぞれ二匹の怪獣を相手に互角に戦うメビウスとヒカリのちょうど中間にあたる地点で、再開されたエースとグロッシーナの戦いは、確かに壮絶なものではあった。

「トア!」

 短くジャンプして、グロッシーナの脳天にチョップを打ち込むと、即座にグロッシーナは大きく角ばった頭部をハンマーのようにしてエースを打ち据え、鋭い爪で殴りかかってくる。

「ダッ!」

 なんとか避けたエースは光弾を吐き出してこようとするグロッシーナの口をめがけて、抜き手のように突き出した手の先から単発の白い光弾を発射した。

『スラッシュ光線!』

 グロッシーナが光弾を吐こうとした瞬間を狙い撃った一撃は、見事に奴の口内で炸裂した。その爆発の勢いは大きく奴の口の周りを焼け焦げさせて、ウルトラ兄弟一の必殺技数を持つエースの器用さをまざまざと見せ付けた。

「やった! あれならもう光線は吐けない」

 口内から煙を噴き上げるグロッシーナに、才人が快哉をあげた。確かに彼の言うとおり、口の中を爆破されたのでは、光弾を発射することは不可能と、テッペイもそう分析していた。だが、それもつかの間で、グロッシーナは傷ついた口を炭化した皮膚をそぎ落としながら開くと、また赤色光弾をエースに吐きつけてきたのだ。

「グワアッ!」

「なんだと!?」

 直撃を受けたエースは爆発に包まれて、一瞬その姿が見えなくなった。むろん、その程度でやられるはずもなく、煙が晴れた後には無事な姿を見せていたが、そのときテッペイやキュルケたちが感じていた違和感は、具体的な形を持って単語形成を始めていた。そしてグロッシーナがさらに光弾を吐き出そうとしているのを見て取ったエースが、次にとった攻撃でそれは確定的となった。

 

『メタリウム光線!』

 

 赤、黄、青の三原色で構成されたエースの最大の得意技がグロッシーナの胴体に吸い込まれて爆発を起こす。これで今度こそやったか!? と、才人はエースの勝利を確信したが、そうはならなかった。なんと奴は光線の直撃した部分は醜く焼け焦げさせているものの、まだ両の足でしっかりと立って、怒りの叫びをあげてくるではないか。

「やはり……なんてことだ」

「テッペイさん、どういうことなんですか!?」

 通信を通して聞こえてきた、テッペイのどうしようもない重病患者を前にしたようなうめきに、はじかれたように反応した才人の声はうわずって、冷静さを失っていた。けれど、テッペイのようにガンフェニックスのセンサーに頼らなくても、キュルケやタバサのように冷静に戦いを見守っていたら、それはおのずとわかることだったのである。

 

「エースのパワーが、急激にダウンしている」

 

 それが結論で、もはや疑う余地はどこにもなかった。最初から見返してみても、グロッシーナはパワー、特殊能力ともに決定的といえるような強大なものは持っておらず、その点でいえばバキシムやブロッケンのほうが格段に勝るだけに、互角の勝負になること自体がおかしかった。

 また、これは彼らには知るよしもないことだが、グロッシーナは実際にそれほどたいした強さは持っていない比較的弱い怪獣である。別世界での同一個体も、GUTSの攻撃で一度撃退された後に、サイクロメトラに寄生されて蘇ったが、ウルトラマンダイナのソルジェント光線はおろか、スーパーGUTSの戦闘機、ガッツイーグルγ号の光線砲ガイナーでさえ体を貫通されて大穴を空けられてしまうなど、エネルギー系の攻撃に対しては脆弱であるのに、メタリウム光線が皮膚を焦がしただけに終わるなんてありえるはずがない。

 記録されたエネルギー数値を参考にすれば、現在のウルトラマンAのエネルギー数値は先日の二大超獣と戦ったときの、およそ半分以下にすぎない。それでも、違和感を感じさせるだけで、怪獣と互角にやりあえていたエースの基本ポテンシャルの高さはたいしたものであったが、エースのパワーダウンを見抜けていなかった才人は驚いて叫んだ。

「エースのパワーが!? なんで」

 GUYSのクルーたちはさすがに「バカかお前は!」と怒鳴りたくなる寸前になった。エースの弱体化の原因、それと同じものをGUYSクルーたちは過去に見たことがある。以前メビウスが光の国に帰還を命じられたとき、メビウスは出現したインペライザーと帰還命令を振り切って戦ったが、使命と感情の板ばさみになった結果、充分に力を発揮できずに敗れている。

 そのとき、リュウたちGUYSクルーははじめてミライがメビウスであるということを知り、彼の苦悩と痛みを分かち合い、共に戦っていくことを誓った。だから、まだ会って数日しか経っていないが、ルイズという少女の気持ちもよくわかる。そしてリュウは、そこまでなるほどに築き上げた絆の強さに、鈍感にも気がついていない才人にかつてミライの気持ちに気づいてやれなかった自分自身に感じたものと同じ強い憤りを感じ、お前本当に気づいてねえのか? それとも半年もいっしょに戦ったパートナーの気持ちが、本当にわからねえのか!? と、背中越しに怒鳴りつけていた。

「そんな、でもあいつは……」

「うわべと本音くらい、見分けてやれ。生まれた星は違っても、共に生きていれば言葉を使わなくても伝わるものはあるはずだ。おれたちと、メビウスがそうだったようにな」

「あいつの……本音」

 叱り飛ばされて才人は、これまでは念じればなんとなくそばにいることを感じられたルイズの心を思ったが、今は何も感じることはできなかった。いやそもそも、あのルイズが自分ごときに本音を隠そうとしていることが信じられなかった。いつも余計なほど高慢で、かんしゃくもちで、少しでも気に障ることをしたら遠慮なく暴力を振るってくるルイズが、よりにもよって本音を隠している? まさか、そんなことが……

 それに皮肉な話だが、もっともエースと近くにいた才人だからこそ、離れて見ることによってエースの戦いの不自然さに気づくことができなかった。いや、無意識に見ないようにしていたのかもしれない。

「ルイズ……ばかやろうが」

 忘れろとは言わない。もしも自分がルイズの立場だったら、悲しくてもその思い出を一生の宝物としてずっと大切にしていく。けれど、今はそんなことを考えてる場合ではないだろう。少なくとも、これまで彼の前ではルイズは常に毅然として貴族らしく気高く振舞っていて、どんな相手にでも立ち向かっていた。

 しかし、才人はやはりルイズと近くにいすぎたゆえに、自分が一つの大きな誤解をしていることに気がついていなかった。ルイズの勇気は何も誇りや名誉から、無尽蔵に沸いてくるわけではない。彼女が誰にも負けない強さを発揮するには、重大な条件が必要だった。ただ、それを理解するためには、才人には一つ、絶望的なまでに欠けている要素があり、これまでの彼の振る舞いから、下手をすれば二人の絆を修正不可能なまでに破壊してしまう危険性を感じ取ったマリナとジョージは、この小学生レベルの恋愛知識で四苦八苦している青少年に、大人としてアドバイスをした。

「はぁ、才人くん。あなたって、もててる割には熱血バカ以上の鈍感ね。才人くん、女の子の言うことを、そのまま真に受けちゃだめなのよ。特に、あれくらいの年頃の子はね。」

「今回は俺もマリナに賛成だな。俺の見たところじゃ彼女はそう、なんていったっけかな、表側ではツンケンしてるけど、本音は甘えたがってるってそんなタイプだ、思い出してみろよ。それと、お前のほうは彼女の事をただのパートナーと、それだけしか思ってないのか?」

「えっ……」

「え、じゃない。この際だから聞いとくが、お前バレンタインでチョコもらったことないだろ?」

 才人の脳裏に「あるよ! お袋にだけど」という言葉が浮かんで消えた。ちなみに、プロサッカー選手であるジョージのところには、毎年山のようにチョコが届けられている。

「やっぱりな。どうりで自信もててないわけだ……才人くん、君は自分ではわかってるつもりだろうけど、大きな誤解をしてるぜ?」

「そうね、このままじゃ前にフェミゴンと戦ったときのテッペイくんの二の舞ね。もしも、またこの世界に戻れても、そのときは彼女は君の事をきれいさっぱり忘れてしまってるかもね」

「えっ!? ど、どうしてそんな?」

 わけがわからないという風に言う才人に、マリナは「嫌なこと思い出させないでくださいよ」と言うテッペイの抗議を聞き流しながら、ジョージは軽くしてやったり笑いを浮かべてそれぞれ答えた。

「残念だけど、それを私たちが言っちゃあ意味がないわ。あなた自身で、答えを見つけなさい。けど、女の子はね、自分の本当の気持ちを知ってほしいといつだって思ってるものよ」

「じゃあ、俺も初級のレッスンをしてやるよ。そうだな、難しく考えるな。バカになれ、お前なんかがうじうじ考えても無駄だ。心の中に隠してるもの全部吐き出して、当たって砕けてみろ。女に向かって、勇気を示してやるのが男の義務だ!」

「えっ? ええっ!?」

 完全に困惑してしまった才人は、だったらどうすればいいんだと助けを求めるが、マリナもジョージも、もう戦闘に頭を切り替えて答えてはくれない。

 

 ”ルイズの本当の気持ち、それにおれの本当の気持ち? なんだそりゃ、全然わけわかんねえ! でも、なんでだ? なんで覚悟を決めたはずなのに、なんでこんなに不安なんだ? 畜生、ルイズのバカめ、エースに下手な戦いなんかさせやがって! これじゃ心配になっちまうだろう! お前にとって、おれは何だっていうんだ? 使い魔? パートナー? それとも、それとも……”

 

 ルイズはいい奴だ、そんなことはわかっている。いろいろあって、ずいぶんとわがままを言われたけれど、たまに見せる気遣いは彼女の理想とする貴族らしく、とても気高くて優しかった。だからこそルイズの自分に対する感情はある一点以上にいくことはないと、高嶺の花のように思っていた。

 けれど、それは逃げだったのかもしれない。違うと言われるのが怖くて、ルイズの優しさに甘えて、彼女は自分がいなくても大丈夫な強い女の子だと決め付けて。

 ルイズの心……近くにいたからゆえに、気づかなかった。勝手に思い込んでいた。自分の手から離れていきかけたとき、才人の中に急速にある気持ちが生まれ始めていた。

「ばっきゃろうが……」

 吐き捨てた言葉はルイズにか、それとも彼女の心の内を見抜いてやれなかった自分に対してか、それとも両方か……

 

 ルイズと才人、切れかけた絆がもたらす苦しみの中で二人の若者が苦しむ中でも、光と闇、ウルトラマンとヤプールの激闘は続く。

「デアッ!」

 グロッシーナの尻尾攻撃を回避し、接近戦で戦うエースだったが、パワーが落ちた状態ではパンチやキックの威力も半減して、奴も弱った状態なのにまともなダメージを与えることができない。

 そして、半年ものあいだエースとともに戦ってきたルイズは、エースの力がなぜ発揮できないのか、もうわかっていた。はじめてエースに変身したあの日、エースはこう言った。

”君達のあきらめない強い意志が私の力となる”

 今の自分にそれはない。しかし、どうしてもルイズの心からは闘争心や覇気といった戦いに必要な感情が浮かんでこない。いや、ハルケギニアや、今この学院を守りたいという使命感はあるのだが、それを支えるいわば土台の部分が抜け落ちたみたいに虚ろで冷たいのだ。しかも、その原因が自分でわかっているのが、何よりも腹立たしかった。

 エースは、北斗星司は黙して何も言わずに、ただ戦い続ける。

「ダアッ!」

 赤色光弾をサークルバリアで跳ね返し、力比べでは負けそうになるのを気合で押さえながら、奴の腹の下に体を潜らせて、ひっくり返すように投げ倒す。だがそれも、勢いにいつもの張りがなく、必殺の一撃を加えられないのではエースの苦闘は続く。

 

 そのころ、メビウスとヒカリもそれぞれ二大怪獣を相手に互角の戦いを繰り広げていた。

「ヘアッ!」

 メビュームブレードでグドンの鞭の一本を切り落として、ドラコに袈裟懸けに斬りかけて黒々とした皮膚に大きな刀傷をつけ、さらに殴り倒したメビウスはマウントポジションからドラコの胴体をめがけてパンチの猛攻撃を加えてダウンさせた。

 ヒカリも、キュルケとタバサの的確なアドバイスと、ときたま目くらましや足止めに送り込まれてくる炎弾や氷風の援護で、ガギを相手に優勢に戦い、奴の角をジャンプキックでへし折って光線を封じた。だが、頑丈な表皮を持つギールにはナイトビームブレードでも致命傷を与えられずてこずっていた。

「デヤアッ!」

 正面からでは、よほどの攻撃力がないと無理だと判断したヒカリは噛み付き攻撃をかけてくるギールを避けて、首をかかえて持ち上げた。こういう四足歩行の生物はだいたい背中は頑丈だが、腹はやわらかいと踏んだのだ。

 しかし、そのもくろみは半分は的中したが半分は失敗した。確かにギールの腹は背中より装甲は薄かったが、そこには秘密兵器が隠されていたのだ。

「危ない! 怪獣の腹が開いてます」

 ヒカリに向かって腹部を向けたギールの腹の中央が観音開きに開き、そこから巨大な琥珀のようなオレンジ色に輝く球体が現れたかと思うと、球体から真っ赤に燃える無数のマグマエネルギー弾を乱射してきたのだ。

「グウッ!?」

 予想だにしていなかった攻撃にたじろぐヒカリの周りに、無数のマグマ弾が着弾して爆炎を上げる。これが、ギールがマグマ怪地底獣と呼ばれているゆえんで、この攻撃にはXIGもだいぶ苦戦させられたものだ。ただし、諸刃の剣のたとえのとおり、最大の武器は最大の弱点ともなる。ヒカリはマグマ弾が発射数は多いが、狙いをつけることはできないと悟ると、奴の体内へと直結していると思われる球体にナイトビームブレードの切っ先を向けて突進した。

「デァァッ!」

 

 そして、苦戦を続けていたエースもグロッシーナとの戦いの中で奴の動きを見切った。奴が光弾を放つときの、エネルギーをためる一瞬の隙をついて、エネルギーを右手に集中して、光輪状のカッター光線に変えると素早く投げつけるように発射したのだ!

『ウルトラスラッシュ!』

 光弾とすれ違って飛び込んだ、ウルトラマンの八つ裂き光輪と同等の威力を誇る切断光線は水平に高速でグロッシーナの首をすり抜けて、次の瞬間奴の首は壊れた置物のように無造作に胴体の上から転がり落ちた。

「やった!」

 首の後を追うように大地に崩れ落ちたグロッシーナを見て、才人の歓声が飛ぶ。グロッシーナは再生怪獣と別名を持っているが、自身に再生能力は持っておらず、首をはねられたらもう蘇ることはできない。

 だが、喜びもつかの間であった。才人はエネルギーを大量に消費して、片ひざをついて息をついているエースの背後の林が何も無いのに倒れていき、ついでエースに向かって草原の草が不自然になぎ倒されていくのを見て、とっさに叫んでいた。

 

「ルイズ! 後ろだ!」

 

 はっとしてエースが振り返った瞬間、エースはまるで後ろから何かに追突されたように倒れ、さらに右足が何かに掴まれているように浮き上がり、後ろに向かって引きずられはじめたのだ。

「ルイズ!」

「あれは!? テッペイ、どういうことだ」

 明らかに攻撃を受けたらしいエースは、引きずられていく右足を押さえてふんばっているものの、相手の力のほうが強いらしく、なすすべも無く引きずられていく。しかし、エースの周りには怪獣どころか足跡の一つすら見当たらない。不自然なエースのやられ方に、才人の前の座席に座るリュウがガンブースターのテッペイに説明を求めると、テッペイは慌てて叫んだ。

「しまった油断した。マリナさん、エースの周りを攻撃してください!」

 言われたマリナはガンブースターを旋回させて、エースに当てないように注意しつつ、言われたとおりにエースの至近に照準を合わせてトリガーを引いた。

「いくわよ、アルタードブレイザー!」

 青色の光弾が、エースの周囲で炸裂する。それらの多くは無駄弾となって草原を掘り返しただけに終わったが、何発かは何も無いはずの空間で炸裂して、そこから緑色をした巨大な亀のような怪獣が、エースの右足を咥えた状態で浮かび上がってきた。

「あれはやっぱり」

「吸電怪獣エレドータス!」

 それはかつてウルトラマンジャックと戦った、文字通り電気を吸収する特性を持った怪獣で、溜め込んだ電気エネルギーを使った攻撃を得意とする。また、それだけではなく、初代ウルトラマンが戦った透明怪獣ネロンガと同じように自分の姿を透明にする能力も持っているのだ。

「くそ、見えない怪獣なんて反則だぜ」

 完全にふいを打たれた形になったジョージはガンウィンガーを旋回させつつ、攻撃目標を、スッポンのようにエースの足に食いついて離さないエレドータスに向ける。だが、同時にGUYSクルーたちは怪獣博士と異名をとるテッペイよりも早く怪獣の名前を言い当てた才人の知識に感心していた。

”やるな、こいつ”

 一般人で、これだけ怪獣に精通している人間はそうはいない。リュウたちですら、入隊当初はグドンの名前すら知らずに、テッペイの知識にはかなり世話になったものだ。これほどの知識があれば、もしかしたら……GUYSクルーたちは才人の資質にある思いを抱いたが、そんなことはつゆ知らずに、才人は目の前で苦戦するエースを見て歯軋りをする。

「畜生、おれがあそこにいたなら……」

 エレドータスの能力を知っている自分がいたら、ああも一方的に攻められることはなかったはずだ。うぬぼれかもしれないが、これまでもヤプールの操る怪獣、超獣、宇宙人の正体からその特徴を読み解き、サポートできてきたのに……だが、言っても遅く、消耗したところを襲われたエースは抵抗できずに噛み付かれた足から電撃を流されて苦しめられる。

 

「ウァァッ!」 

「エース兄さん!」

「ちっ! 邪魔だ、お前たち!」

 

 エースの苦境に、メビウスとヒカリも二大怪獣を相手にしながらも、もうおちおちしてはいられなかった。エネルギーを大量消費するのを覚悟で、二人はそれぞれ必殺光線を敵に放つ。

『メビュームシュート!』

『ナイトシュート!』

 なぎ払うように放たれたメビュームシュートがグドンとドラコを同時にはじき飛ばし、ナイトシュートの直撃を腹に浴びたギールは爆発四散。さらにガギも鞭を失って、今の光線の破壊力を目の当たりにしてはかなわないと見たのか、その巨大なカギ爪を地面に食いつかせて、あっという間に土中に逃げ去ってしまった。

「逃がすか!」

「待て、逃げるやつなんかほっとけ、エースの援護が先だ!」

 リュウは追撃を加えようとするガンウィンガーのジョージに指示を与え、三機もメビウスとヒカリとともに、苦戦するエースへと援護攻撃を開始した。

「ウィングレッドブラスター!」

「バリアブルバルサー!」

「アルタードブレイザー!」

 光線砲の集中攻撃がエレドータスに集中し、ひるんだ隙にエースは脱出する。

「エース兄さん! 大丈夫ですか」

「ああ、すまないメビウス」

 メビウスの目から見ても簡単にわかるほど、エースの消耗は大きかった。テクニックでカバーしてはいるものの、本来ならばあの程度の怪獣など真っ先に倒せていていいはずだ。

「エース兄さん、やっぱり……」

「何も言うなメビウス、それよりも、まだ戦いは終わっていないぞ」

 エースは、明白な自分の身の異常には何一つ言わずに、立ち上がると二人に戦いに戻るようにうながした。なぜなら、北斗星司は信じていた、人の心は時に自分でもどうしようもないくらいに大きく乱れることはあるが、それは同時に人の心が大きく成長するチャンスであるということを。

 しかし、ともかくもこれで戦いはグドンとドラコ、それにエレドータスにとどめを刺すだけだ。メビウスとヒカリはエースをかばいつつ、起き上がってきたグドンと、叫び声をあげてくるエレドータスを見据え、攻撃態勢に入る。

 

 だが、怪獣軍団の劣勢を目の当たりにしながらも、ヤプールは予想外のウルトラマンAの弱体化にほくそえんでいた。そして、宿敵に復讐を果たす願っても無い好機に、手のひらに強力なマイナスエネルギーを集めていた。

「ふふふ……なぜかは知らんが、ウルトラマンAめ、満足に戦うことができないようだな。ならば、ここを貴様の墓場にしてやる。さあガディバよ、今わしの持てるすべてのマイナスエネルギーをくれてやる。ゆけぇーっ!」

 ヤプールの手から、正真正銘最後のマイナスエネルギーを込めた黒い蛇、宇宙同化獣ガディバが空へと解き放たれた。そして、GUYSが強力なマイナスエネルギー反応に気がついたときには、すでに遅かった。

「リュウさん! とてつもなく強力なマイナスエネルギーが!」

「なにっ!? しまった、あれは!」

 空を生きているような黒雲が走り、それが空から舞い降りてきたとき、真っ赤な目を持つ漆黒の大蛇はGUYSも、ウルトラマンたちも止める暇もなく、半死半生状態であったドラコの周りにまとわりつくと、その体の中に吸い込まれるように消えていった。

「あれは、あのときの!」

「そうです。レジストコード宇宙同化獣ガディバ! 別の怪獣に乗り移ってその体質を変化させる宇宙生物です!」

 GUYSはかつて、ヤプールがメビウスの戦闘データを採集するためにぶつけられたどくろ怪獣レッドキングとの戦いで、ガディバを目撃していた。あのときは、倒されたレッドキングの生体構造を変化させ、古代怪獣ゴモラに作り変えたが、今度はいったい!?

 ガディバに取り付かれたドラコは、異物が体内に入り込んだことによって、生体の持つ拒絶反応で最初は苦しんでいた。だが、やがてガディバの持つ能力とマイナスエネルギーがなじんでくると、その肉体がまるでクレイアニメのように変化を始めた。

 メビウスにやられていた刀傷がふさがっていき、身長四五メートルの体が徐々に巨大化し、六十メートルまで大きくなるのにあわせて翼も三倍近くにまで大型化。さらに愛嬌もあった顔は、口が昆虫のように横開きになって鋭い牙を無数に生やし、瞳の色も白から真っ赤に変化した凶悪なものになり、腕もはるかに大型化して、まるで別の怪獣のようにたくましく、威圧感をあふれさせた容貌になったのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「で、でかくなりやがった!?」

「いや、それだけのはずがねえ……みんな、気をつけろ!」

 そうだ、あれだけのマイナスエネルギーを吸収したのが、見掛け倒しのはずがない。だが、ドラコの急激な変化に危機感を抱いたのか、奴の前にいたグドンがきびすを返すと、残った一本の鞭を振りかざしてドラコに襲い掛かっていった。

「よっしゃ! 同士討ちしやがるぜ」

 ジョージが、怪獣同士つぶしあいをしてくれるならちょうどいいと、歓声をあげた。それに、グドンだって弱い怪獣ではない。残り一本とはいえ、振動触腕エクスカベーターはウルトラマンの体ですら簡単に叩きのめす威力を誇る。しかし、GUYSクルーや才人たちの期待は最悪の形で裏切られた。

 ドラコは、グドンの鞭の一撃を微動だにせずに体で受け止めると、最大の武器である鎌をきらめかせ、一瞬のうちにグドンの首筋を一撃! 急所を切り裂かれたグドンは口元からつうっと血を垂らすと、魂を抜かれたように大地に崩れ落ちたのだ。

「なっ!? あ、あのグドンを、一撃で!」

「な、なんて防御力と攻撃力なんだ! あれは、あれはもうドラコじゃない」

 リュウとテッペイの驚愕の声が、ガンフェニックス全体と、三人のウルトラマンの耳に響き渡る。ドラコは、ゆっくりと彼らに向かって前進をはじめ、本能的に絶対勝てない相手だと気づいたエレドータスは、じりじりと後ずさりしていく。しかし、残されたリミットはわずか。それまでに、彼らはこの恐るべき大怪獣を、果たして倒すことができるのだろうか。

 

 

 続く


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