ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第96話  一人の変身

 第96話

 一人の変身

 

 ウルトラマンメビウス

 ウルトラマンヒカリ

 彗星怪獣 ドラコ

 肉食地底怪獣 グドン

 再生怪獣 グロッシーナ

 バリヤー怪獣 ガギ

 マグマ怪地底獣 ギール 登場!

  

 

 才人とルイズ、地球とハルケギニアや、宇宙の様々な人々の思いを乗せて、夜の帳は二つの月が沈むまで続いた。

 若者たちはわずかな眠りに身を任せ、そして東の空に真っ赤に燃える太陽が登ったとき、全宇宙の未来を左右するかもしれない運命の日の朝は明けた。

 

 遠くに見える山すそから登った太陽が黄色い光で魔法学院を照らし出す。その窓枠の隙間から差し込んできた朝日をまぶたの上に受けて、才人は目を覚ますと、ベッドから降りて窓を大きく開け放った。

「朝、か……」

 見渡す限りの清浄な青空と、それに照らされた学院が、半年間見慣れたままの形で眼下に広がっている。しかし、広大な中庭の中に着陸しているガンウィンガーを見ると、昨日までのことが夢でも幻でもなく、今日この世界と別れて地球へ帰らなければならないのだということを、あらためて覚悟させられた。

「ルイズ、起きろ朝だぞ」

「うーん、あと五分……」

 気分を変えようとしてルイズを揺さぶった才人だったが、ルイズはまだ寝ぼけているらしく、布団にしがみついたままで動こうとしなかった。

「こいつは……」

 こんな日だというのに、まるで緊張感のない一言目の台詞に、才人は思わずこのまま帰ってやろうかと、少々腹立たしい気分になった。そりゃあ、一睡もできずに朝まで目を腫らしたままでいてほしいとか、そんなわけではないけれど、それにしたってあんまりというものがあるだろう。

 めんどうくさくなった才人はこうなったら布団をひっぺがそうかと思った。が、ふとちょっとしたいたずらを思いついて、ルイズの耳元で声真似をした。

「こらルイズ、ちびルイズ! 起きなさい」

「ひぎゃ!? ご、ごめんなさいお姉さま、いますぐに! あ、あれ?」

 もっとも苦手とする姉エレオノールの物真似に、寝ぼけていたルイズは飛び起きた。しかし目を開けると才人がニヤニヤしながら隣に座っているのが見え、混乱する頭で状況を整理して、十五秒後に自分がだまされたことに気がついた。

「あ、あんたねぇーっ!」

「大成功っと、王宮で一度見ただけだけど、お前の姉さん怖そうだったしな。普段ならひっかからないだろうけど、さすが寝起きじゃ判断できなかったか」

「よ、よくもだましてくれたわね。しかもよりによって、エレオノールお姉さまの声で……か、覚悟はできてるんでしょうねぇ」

「お前がいつまでもぐーすか寝てるからだろ! こっちは早くに目が覚めちまったってのに、ずいぶんと深くお休みのようですいませんでしたねえ」

 憎憎しげに言う才人の言葉に、ルイズははっとなって昨晩のことを思い出した。あのとき、母親からのメールを見て泣き崩れた才人を見て、彼の家族を離れ離れにしてしまった罪悪感と、もう才人をここに引き止めておくことはできないという悲しさから逃れようとして、思わず子供の頃のように毛布を頭からかぶってうずくまってしまったのだが、どうやらそのまま昼間の疲れから眠り込んでしまったようだ。 

「そうか、あんた今日帰るんだったわよね」

「そうだよ、やっと思い出したか? それをまあのんきにぐーすかと、たいへん幸せそうでけっこうでしたねえ」

「なによそれ……わたしがどんだけあんたのために……ああそうよ、だって同然でしょ、たかが使い魔一匹親元に帰すだけで、このわたしがメソメソするとでも思った? 思い上がりもはなはだしいわ」

「ふん、どうせおれはいくらでも代わりのいる使い魔なんだろ、とっとと帰ってやるから、あとはドラゴンでもなんでも勝手に呼び出しやがれ」

 売り言葉に買い言葉、憎まれ口の応酬を始めてしまった二人は、才人は自分が帰るというのに平気な態度をとっているルイズに、ルイズは何食わない顔をして帰ろうとしている才人へ、共にいらだちを言葉に込めて叩き付けた。

 それが収まったのは、『アンロック』で部屋の扉を開けて無遠慮に踏み込んできた乱入者の、炎の魔法の一発によるものであった。

「目は覚めた?」

 キュルケがそう言うと、髪の毛の一部を焼け焦げさせた二人は、黙ってコクコクとうなずいた。水で酔いを醒ますのは聞いたことがあるけれど、炎で目を覚ますことになるとは思わなかった。

「まったく、なにかぎゃあぎゃあと騒がしいと思って来てみたら、あんたたちはほんといついかなる状況でも、マイペースというか、進歩というものがないわねえ。おかげでこっちの目もばっちり冴えちゃったわよ」

 やや論点はずれているが、てっきり昨夜は最後の夜だから男と女でいいところまで行ったんじゃないかとキュルケは期待していた。ところが欠片の進歩も無く予想を裏切って、普段どおりのケンカをしていた二人に、失望もあらわにため息をついた。

 けれど二人からケンカの理由を聞いたキュルケは、一転して猫のようにくすくすと口に手を当てて笑った。

「そう、つまりお互いに、相手に心配してもらいたいって思ってたんだ。じゃあわざわざケンカする必要なんかないじゃない」

 図星を指された二人は、仲良く「ひぐっ」と、情けない声を出して顔を赤くした。まったく、いつまでたってもまともに本心を表せない二人の嫉妬や甘えなど、百戦錬磨のキュルケの目にかかれば、特殊噴霧装置で色をつけられたクール星人の円盤のようなものだった。

 人間というのは不思議なもので、これから人生を左右するような大変なことが起きるとわかっていても、そのときまではなぜか至極普通に日常を送れてしまう。ルイズと才人は、やはりどう周りが転ぼうとルイズと才人以外の何者でもなかったらしい。

 よく見れば、キュルケの後ろにはタバサも来ており、いつものように身長よりずっと大きな杖を抱えて、無表情で立っていた。

「時間……」

 はっとして時計を見ると、時刻は早くも朝の七時に迫っていた。GUYSが最後にこちらにやってくる時間が九時に予定されていることを考えると、時間はほとんどないといっていい。

「アルヴィーズの食堂に、朝食を用意していただいてるわ。二人とも、さっさと着替えていらっしゃいな」

「ええ……」

 あっさりときびすを返してキュルケとタバサが部屋から出て行くと、二人は大急ぎで服装を整えて食堂へ向かった。

 

 学院は、この時期ほとんど無人ではあるが、ここに住み込んでいるオスマンや、警備兵のためにごく少数の使用人が残ってくれていた。食堂にはいつもの貴族用の豪華なものとは比べ物にならないが、湯気を立てた朝食が六人分用意されていた。

「ミライさん、セリザワさん、おはようございます」

「おはよう、才人くん、ルイズちゃん」

 すでに席についていたミライとセリザワにあいさつをして才人はルイズと並んで席に着いた。見ると、二人の上着や手のひらには洗ってはいるが黒い油汚れがついており、多分日の出とともにガンウィンガーの整備を済ませたに違いない。

「あの、迎えのほうは?」

「すでに地球との連絡はとった。九時には予定通り、ここにやってくる。君も、用意を怠らぬようにな」

 恐る恐る尋ねた才人の言葉に、セリザワは余計な修飾は一切つけずに簡潔そのもので答えた。それは、もう決めたことには口出しはしないのだと、突き離されたように才人は感じたが、万一トラブルが起きて地球に帰れなくなったらと、期待していた部分があったのも事実ではあった。

 六人は、ルイズたちは始祖へのお祈りの後に、才人たち地球組は「いただきます」とあいさつして、黒パンや野菜スープの朝食に手を付けていった。しかし、食事を始めたあとも誰も一言も発せず、ただでさえ広すぎる食堂に六人しかいないために、場の空気はやたら重苦しいものになっていった。

 そのときである、才人の左向かいの席で皿に盛られたサラダを黙々と口に運んでいたタバサのところから塩の小瓶がこぼれて、才人の足元にまで転がっていった。

「とって」

「うん? ああ」

 頼まれて、才人はかがむと小瓶を拾い上げて、タバサに手渡そうと手を伸ばした。

「ほら、もう落とすな、よ……?」

 不思議な既視感が才人を襲った。なんだ、前にもこんなことがあったような? こぼれた瓶を拾って渡そうとして……そうだ、あれは。

 

”落し物だよ。色男”

 

 思い出した。忘れもしない、召喚された翌日の昼休みのこと。

 あのとき、突然召喚された上に主人と名乗ったルイズにぞんざいに扱われて、自分はずいぶんとイライラしていた。そして、唯一優しくしてくれたシエスタに恩返しをしようと、手伝いを買って出て、それで食器運びの最中に偶然、まだ名前も顔も知らなかったギーシュが落とした香水の小瓶を拾って……

「サイト、どうしたの?」

 小瓶を持ったまま固まってしまった才人に、ルイズが声をかけると、彼ははっとしてタバサの前に塩の小瓶を置くと、一度ぐるりとアルヴィーズの食堂を見渡して、微笑を浮かべた。

「懐かしいな、ここはあのときのまんまだ。覚えてるか? あんときは、お前はあのへんの席に座ってて、おれはその隣の床でメシ抜きにされて、そんでギーシュのやつが向こうのほうでバカな話で盛り上がってたよな」

 次々に指差して語る才人の言葉に、ルイズも彼が何を言おうとしているのかを記憶の奥底から蘇らせていった。

「ああ、思い出したわ。けど、あれはあんたが悪いんでしょ。わたしが魔法を使えないゼロだって言ったら、ルイルイルイズはダメルイズ。魔法ができない魔法使い。なんてイヤミな歌を作るからでしょうが」

「う、お前ってほんと記憶力いいよな。でもしょうがねえだろ、あのときおれはお前のことが大っキライだったからな」

「い、言ったわねぇ!」

 ルイズの手が杖にかかったが、才人は落ち着いたままで思い出話を続けた。

「あのとき、まではな。けど、お前はまだ魔法の怖さを知らないおれが、無謀な決闘をしようとしてるのを必死で止めてくれたし、おれがボロボロにされたときには泣いてくれた。気を失っていた三日間、看病してくれたって聞いたときには本気でうれしかったんだぜ」

「なっ、なななっ!?」

 一気にまくしたてた才人の思いもかけない言葉に、ルイズは振り上げかけていた杖を持ったままで、顔を真っ赤にして硬直してしまった。

 そして、才人はもう一度食堂をぐるりと見渡した。

 思えば、このハルケギニアでの冒険は、この食堂から始まったのかもしれない。

 もしも、あのときの決闘がなければ、ギーシュや悪友たちとの友情が芽生えることはなかっただろう。

 決闘に勝ったごほうびとして、トリスタニアへ剣を買いに行き、ベロクロンの襲撃に遭ってウルトラマンAと出会う機会もなかったはずだ。

 それに、ルイズともいがみ合ったままで、打ち解けるのもかなり先になり、下手をすれば放り出されるか、飛び出していくかして、二度と会わずに別れ別れになったかもしれない。

 一気にこみ上げてきた思い出からか、饒舌になって話す才人に、ルイズは怒るべきか喜ぶべきかわからずに、手を振り上げたままで固まっている。

「思えば、おれたちが今こうしていること自体が奇跡みたいなもんだな。普通に考えたら、おれとお前なんか、三日もあれば破綻してるぜ、うんうん」

「む、そりゃあんたが十言った中の三もできないようなグズだからでしょう。ヴァリエール家にも何百人と使用人はいたけど、あんたほどの無能は一人もいなかったわよ」

「だから、おれは元々召使でもないただの学生だったって、何度も言っただろうが! 夢にも思ってなかったことが、一日や二日でうまくなるか」

「はっ! 無能の言い訳の常套句ね……けど、だったらなんであんたは今日まで、わたしのところから出て行かなかったの?」

「……大嫌いだったのは、あのときまでだって言っただろ。一応、おれは受けた借りは返す主義なんでな」

「そう……」

 所詮、才人が自分に付き合ってくれたのは、恩返し、ただの義理だったんだとルイズは肩の力が抜けた。しかし、才人はそこでふっと笑うと。

 

「けどな、理屈じゃねえんだよ……す……な、人のそばにいたいって気持ちは」

「えっ……今、なんて?」

 

 一瞬、何かとんでもないことを言われたように感じたルイズは、聞き取れなかった部分を、もう一度言うように才人に迫った。が、才人はもう、「ここまで言ったんだ、あとはちっとは察しろ!」とばかりに口をつぐんで、乱暴に食事を口にかっこんでいった。

「ちょっと! 今なんて言ったのよ! もう一度言いなさいってばあ!」

 ルイズが詰め寄っても、才人はそっぽを向いたままで、つんっとして答えない。けど、それを見ていたキュルケは、そ知らぬ顔でサラダに塩を振りかけているタバサに耳打ちした。

「タバサ、あなた図ったわね」

「デジャヴュ……」

 塩の小瓶は、タバサの利き手の反対側の、普通なら絶対触って転がしたりしない位置に、”最初と同じように”置かれていた。どうやら、二人とも見事にタバサの手のひらの上で踊らされていたらしい。まあ、二人とも単細胞な点では共通しているから、こういう手にはもろいだろう。正面から門を開けることができないのならば、隣の塀を乗り越えるなり、穴を掘ってもぐりこむなりすればいい。

 なお、恋愛感情というものに対してうといミライは、人間の心ってやっぱりとても複雑なものなんですねと、感心したように言ってセリザワに、お前はやっぱりもうしばらく地球で勉強したほうがいい、と言われていた。

 タバサの姦計で、互いに心の一丁目くらいまでは到達した才人とルイズ。しかし二人にとって本当に知りたい心の深淵部は、まだまだ多くの扉を超えた先にあった。

「サイト! 言わないとぶっ飛ばすわよ」

「うるせえ! 言ったら……言ったら……」

 ただ、普通の恋人同士ならば、それらの扉は時間をかけて一つずつ開けていくことだろうが、そうした段取りさえ、この二人は他人から見ればおよそくだらないとしか言いようのない見栄や意地で乗り越えられないでいる。本当の意味で信頼しあうのには、あと何が必要なのか、本人たちもその答えを欲しながら、時間は無情にも柱時計の鐘が九回鳴る刻へと進んでいった。

 

 

「来たな」

 きっかり地球時間で午前九時に、ミライのメモリーディスプレイからの誘導電波を受けて、ガンローダーとガンブースターは学院外の草原に着陸した。今回、こちらに来ているメンバーは、才人を連れ帰るためのガンスピーダーの座席一つ分を空けても、リュウ、ジョージ、テッペイ、マリナが揃ってやってきて、フェニックスネストでオペレートに残ったコノミをのぞいてGUYS JAPANが勢ぞろいしたことになる。

 才人は、とうとうやってきたその瞬間に、大きく深呼吸すると、幼児が初めての予防接種を受けるときにも似た、逃げ出したくなる不安感の中で両のこぶしを汗で湿らせながら握り締めた。彼らがここに到着してから、この世界の調査分析を済ませて出発するまでのあいだが最後の猶予、それをどうすごそうかと考えていた。

 だが、急いで降りてきたリュウたちはミライたちの姿を認めると、すぐさま駆け寄ってなにやら話すと、才人に驚くべきことを伝えてきた。

「予定が早まったですって!?」

「ええ、来る前にゲートの閉じる時刻を再計算したら、今からあと三十二分後にゲートはガンフェニックスの通れる大きさでなくなって、五十分後には完全に閉じてしまいます。すみませんが、急いでもらえますか」

 テッペイから慌てたように教えられた事実に、才人たちはガンフェニックスが安全にゲートにたどり着くまでの時間を考えると、ここにいられるのはあと二十分足らずという、そのあまりにも短い時間に愕然とした。

「準備はできてるか?」

「あ、はい……」

 才人はノートパソコンなど、地球に持って帰る品物を詰めたリュックを背負って待っていた。だが、その顔には地球へ帰れるという喜びよりも、やはりルイズたちを残していくことへの憂いが浮かんでおり、リュウたちは地球に帰らなければならなくなった才人を、以前光の国に帰還命令を受けたときのミライとだぶらせた。

 しかし、同時にあのときのミライとはどこか違うとも考えていた。

「いいのか、本当にこれで?」

 余計だと思っても、リュウはそう言わないわけにはいかなかった。

 その目はこう言っていた。

 

”いいのか? こんな中途半端な終わり方で?”

 

”いいのか? お前の仲間たちを悲しませて?”

 

”思い残すことはないのか?”

 

”それで本当に後悔しないのか!?”

 

 彼が去った後にこの世界に残る数々の歪みは、容易にリュウたちにも想像できる。

 以前のミライは、今の才人のように義務と感情の板ばさみで苦しんでいたが、自分の選んだ道のためには迷わず命を懸けるだけの覚悟を持っていた。対して、お前はどうか、それほどの意思と覚悟があるのか。どうなんだと鋭い視線で問いかけられて、才人はびくりとしたが。

「……はい! これでいいです、連れて……帰ってください」

 それは、決して明朗でも快活でもなかったが、意思を示された以上、もう彼らには不満は残っても、それを拒否する権利はなかった。

「わかった! だったらさっさとあいさつくらいはすませちまえ」

「あっ、はい!」

 もう、知らん! とばかりに怒鳴られたことで、才人は雷光を受けたように飛び上がると、慌てて沈痛な顔で見送ろうとしているルイズたちの前に立った。

「なんだよみんな、別れに涙は禁物だぜ。今生の別れってわけでもないんだし、また必ず機会はくるってばさ」

 それが、から元気だということは言った本人が一番よくわかっていた。けれども、タイムリミットが来てしまった以上、もはや気休めは何の意味も持たない。もうそんな上っ面の言葉はいらないと、厳しい目つきで訴えてくるルイズたちを見て、才人はついに観念した。

「みんな、さよならだ」

 それが、彼が選んだ決別の言葉だった。

「それだけ?」

「うるせえ、気の利いた台詞を言いてえのはやまやまだが、おれは国語の成績が”2”だったんだ。キュルケ、タバサ、お前たちには借りが山ほど残ってるけど、返しきれなくてすまねえ。それにデルフ、これまでありがとな」

 才人は、背中に背負っていたデルフリンガーを下ろすと、ルイズに手渡した。

「なあ相棒、ガンダールヴのこととか、もっと教えてやるからここに残れよ」

「悪い、けどおれが向こうに帰ったらこのルーンも消えるかもしれねえ。そうしたら、また別のガンダールヴとやらを探してくれ」

 まだ、才人がルイズの使い魔となるきっかけとなったガンダールヴのルーンの謎は武器の使い方が達人級になることと、身体能力を極限まで引き出すこと以外にはほとんど解けていない。普通の使い魔のルーンには主人に服従するようになる、一種の洗脳効果があるらしいが、前にエースに聞いてみたところでは才人の精神に外部から干渉が加わってはいないようだった。もっとも、忘れっぽいデルフに期待してはほとんどいないのだけれど、地球に帰ってしまえばそれも変わった刺青くらいの意味しかなくなる。

「ギーシュたちには、適当に言っておいてくれよ」

「はいはい、けどきっと残念がるでしょうね。知ってる? 彼ら、ああ見えてけっこう義理堅いのよ」

 自称、水精霊騎士隊、通称WEKCと名づけてやった悪友たちの顔を思い出して、才人は苦笑した。この世界に来てから、貴族はみんないけすかない野郎ばかりかと思っていたが、ギーシュと決闘してからいつのまにやらぞろぞろと集まってきたギムリやレイナールといった連中は、日本の高校に通っていたときの友達となんら変わることはなかった。

「アニエスさんやミシェルさんたちにも、悪いけどよろしく頼む」

 銃士隊の隊長の、あの勇敢な女騎士にも才人はいろいろなことを教わった。戦うことの厳しさ、自らに課せられた責任を守りきらねばならないつらさ、体を張って戦う人間がどういうものか、肌で体感できた。もしも、彼女たちとのあの三段攻撃の特訓がなければ、その後の激しい戦いにガンダールヴの力だけで生き残っていけたか自信はない。

 それに、ミシェル、彼女と会えなくなることもつらい。初めて会ったときは誰も寄せ付けないとげとげしさをまとっていて、かわいくないなと思ったりもしたけれど、その内にはとてももろくて傷つきやすく、そして優しい心を隠していた。そのひたむきさゆえに道を誤りもしたが、だからこそ守ってあげたいという気になった。彼女を頼むというアニエスの頼みを反故にしてしまうのは、罪悪感でいっぱいではあるものの、心の中で謝る以外に方法はなかった。

 ルイズは、確実に才人に好意を持っているであろう彼女に伝えていいものかと思ったが、それも才人の主人としての義務だと、自分に言い聞かせた。

 ほかにも、コック長のマルトーや、魅惑の妖精亭のジェシカたちなど、言い出せばきりがない。しかし、それまで言っていては本当に決意が揺らいでしまうかもしれないと、頭を振って打ち切った。

 

 そして最後に。

「ルイズ」

「サイト」

 互いに相手の名だけを言い合って、二人はそれぞれの右手を差し出した。そこには、ともに中指にはめられたウルトラリングが銀色に輝き、これまでの二人の絆を象徴するように存在していた。

 才人は、覚悟を決めたように左手を伸ばすとリングを抜き取り、一度ぐっと握り締めるとルイズに向かって差し出した。

「これからは、お前が」

「うん……」

 リングを受け取ったルイズは、一瞬躊躇したが左手の中指に一気にはめ込んだ。その瞬間、リングを通してルイズの体に何かが入ってくるような熱さが駆け巡ったかと思うと、才人の指の太さに合わせて大きめだったリングが、彼女の体の一部だったかのように、ぴったりと細い指に納まっていた。

 これで、二人の体に別れていたウルトラマンAは、ルイズ一人の体に一体化したことになる。もちろん、傍で見守っていたキュルケやタバサには、今の二人の行為が何を意味していたのかはわからないが、それが二人にとって何か重大な儀式のようなものであったことを理解していた。

「じゃあ、またな」

「うん、じゃあね」

 周りの人間が予想、あるいは期待していたのとは異なり、二人の別れの言葉は実に無個性な、短いもので終わった。

 才人は、ルイズに背を向けて、ガンローダーのほうへと歩いていく。その後姿に、ルイズは衝動的に、何か言わなければいけないのではないかと思った。けれど、何を言えばいい? 行かないで? ここにいて? いや、それは言ってはいけない……

 

”どうせ無駄……”

 

 タバサの厳しい言葉が脳裏に蘇り、焦燥感が急速に増していくが、それなのに喉はからからに渇き、舌は凍りついたように動かない。しかし、才人はどんどんと遠くへと行ってしまう。

「もういいのか?」

「はい」

 リュウに頭を下げた才人は、振り返らずにガンローダーへと歩いて行き、ほかの誰もがその後姿を無言で見詰めている。ルイズはぐっと、歯を食いしばってガンローダーに乗り込もうとしている才人を感情を無理矢理押し殺している顔で見つめていたが、その沈痛な表情にテッペイは隣のジョージに向かってぽつりとささやいた。

「なんか、僕たち悪者みたいですね」

「なんだ、気がついてなかったのか? ドラマとかだったら間違いなく憎まれ役だよ。けどな、大人は子供のために憎まれ役を買って出なきゃいけないときもあるんだよ。お前にも、思い当たる節はあるだろう?」

「まあそりゃあ……小さいころは、父さんや母さんの言うことがいじわるばかりに聞こえたこともありましたが、ジョージさんもそうだったんですか?」

「……」

 ノーコメントらしいが、誰にでも親にせよ先生や近所の大人からにせよ、やれああしろこうしろ、またはあれやこれはするなとか、うるさく言われたり、なかば強制されたりして大人を憎んだことはあるだろう。だが、それらは本当に憎らしくてやっているわけではない。その子のことを大事に思っているからこそ、厳しい顔で迫るのだ。

 今も、才人にとって帰るべき場所があり、そこへ戻ることを彼が選択したというのならば、たとえ彼の友人たちから恨まれようと、それをかなえてやるのがつとめであろう。

 また、エースを補助してボガールを撃破するためにこの世界に残ることになるウルトラマンヒカリ=セリザワに、リュウはくれぐれもお気をつけてと伝えていた。

「隊長は、これからどうなさるつもりですか?」

「ボガールがいるならば、必ず怪獣を呼び寄せて事件を起こすはずだから、しばらくはここで下働きでもして世界観に慣れながら情報を集めるつもりだ。それに、仮にいなかったとしても、ヤプールやほかの宇宙人が騒ぎを起こせば、すぐに駆けつけるつもりだ」

 宇宙警備隊員は、地球のような惑星に長期滞在して防衛する際には、その星の住人になりきって生活して、陰から平和を守っていかねばならない。これは宇宙警備隊の基本任務であり、本来たまたま地球に立ち寄ったウルトラマンやウルトラセブン、地球に亡命したレオを除いて、ウルトラマンジャックからメビウスまで連綿と受け継がれてきたことである。それに、本来科学者であるヒカリにとって、魔法という未知の法則が息づくこのハルケギニアは、観察対象として興味をそそられる部分があった。

「わかりました。では三ヵ月後に必ず迎えに来ますので、よろしくお願いします」

 現在、完全なディメンショナル・ディゾルバーRの完成を、フジサワ博士以下GUYS科学陣の総力を挙げて研究しているが、ただでさえ不安定な時空を数十年に一度の皆既日食という触媒すらなくして固定するのは、天才と呼ばれた彼女をもってしても容易なものではなかった。しかも、最短のチャンスと予想されている三ヵ月後の日食にしても、半分も欠けない部分日食であるために今回よりも可能性は低く、もしかしたら二度と戻れないかもしれない異世界に、尊敬するセリザワを残していかねばならないリュウはつらかった。

「地球は、お前たちに任せたぞ」

 だが、リュウたちGUYSクルーの迷いは、セリザワの一声で払われた。そうだ、地球とて安全なわけではない。むしろ、ヤプールの復活で活性化した宇宙人や怪獣の猛威にさらされていく可能性が、これからはどんどん大きくなっていくのだ。それをメビウスと力を合わせながら食い止めて、三ヵ月後にはゲートを再度開いてヤプールを一気に撃破しなければならないのである。

「じゃあ、これを持っていってください」

 リュウは最後に、二個のアタッシュケースをセリザワに手渡した。一つは、トライガーショットの整備キットなど、この世界で必要になるものなどをコンパクトにまとめたもので、セリザワは中身を確認するとすぐ閉じた。ところが、もう一つのケースのほうは、なぜかリュウと軽く目配せをしただけで中身を改めようとはしなかった。

 そして、別れの時間はやってくる。

「飛ぶぞ、準備はいいか?」

「はい!」

「ガンフェニックス・バーナーオン!」

 垂直噴射で草原を焦がしながら、ガンローダーは離陸した。さらにそのまま空中でミライの操縦するガンウィンガーやガンブースターと合体し、ガンフェニックストライカーの形態となる。その光景を、セリザワは無言で見つめ、キュルケとタバサは手を振り、ルイズは唇を噛み締めながら見守っていた。

「これでいいのよ……これで」

 ルイズの脳裏に、キュルケから聞かされた昔話の少年の姿が蘇る。だが、なんと言われようと、あんなに才人のことを心配してくれている母親の元に才人を帰さないわけにはいかない。これが才人が一番幸せになれることだと、ルイズは信じた。信じようとした。

 

 

 しかし、飛び立とうとするガンフェニックスを、学院の城壁の上から憎悪を込めて見下ろしている、黒衣の人影があることに、そのときまだ誰も気づいていなかった。

「おのれウルトラ兄弟に地球人どもめ、よくも我らの計画を台無しにしてくれたな。このまま帰すと思うなよ」

 アルビオンでのウルトラマンA抹殺計画を、突如出現したウルトラマンメビウスとCREW GUYSによって失敗させられ、現有戦力の大半を失ってしまったヤプールが、そこにいた。

 奴はこれまで、まったくの予想外にこの世界に現れたウルトラマンメビウスたちが、どうやって地球とハルケギニアを往復しているのかを慎重につきとめて、その方法がこの不安定な亜空間ゲートだと知ると、迷わず復讐の攻撃に打って出てきたのだ。

「まさか、人間ごときが亜空間移動を可能にするとは予想外だった。しかし、そのゲート発生装置は未完成のようだな。恐らくは、今度閉じたら数ヶ月は開くことはできまい。ふっふっふ……ならば、当分は光の国からの援軍は来ることはできなくなる」

 ヤプールが地球では正面きって超獣を出現させて攻撃に出なかった理由がここにあった。確かに、復活が不完全で作り出せる超獣の数が揃いきっていないというのも大きいが、かつてUキラーザウルス・ネオでメビウスとウルトラ四兄弟を追い詰めながら、ゾフィーとタロウの参戦で逆転されてしまったように、地球を下手に追い詰めてウルトラ兄弟の総がかりを招いたらまず勝ち目は無い。しかも宇宙警備隊に属しているのは当然ウルトラ兄弟だけではなく、その気になれば兄弟と同格の実力を持つ別の戦士を送り込むこともできるのだ。

 しかし、次元で隔離されたこのハルケギニアでならば、前回の様によほど特異な状況でもなければ救援に駆けつけることはできずに、たとえウルトラマンが三人もいたとしても各個撃破も夢ではない。ヤプールは不気味に笑うと、右手を高く掲げて、マイナスエネルギーをそこに集中させていった。

「くっくっく、ウルトラ兄弟よ、先の戦いで私が戦力を使い果たしたと思っているだろうが甘いぞ。確かに、バキシムの再生もまだで、今投入可能な超獣は残っていないが、まだこういうこともできるのだ。さあ、この世界にうごめく邪悪な魂よ! 破壊を、殺戮を喜びとする凶悪な心を持つ者たちよ。ここに集まれ! そして全てを破壊するのだあ!」

 ヤプールが手を握り締めたとたんに、紫色の邪悪なエネルギーは四方に飛び散り、数秒の間隔を置いてその影響を現世に現し始めた。

 

 はじめに、その異変に気がついたのはタバサだった。高位の風と水の使い手である彼女は、自分をとりまく空気に普段とは違った、べたついてくるような不快な感触を覚え、さらに同じような気配を感じ取ったシルフィードが主人に言った。

「お姉さま、風の精霊が、悲鳴をあげてるのね。なんかとっても、ぞわぞわするような悪いものが大気の中に渦巻いてるのね!」

「わかってる。この不快な気配……キュルケ!」

「ええ、最後まで平穏無事にすむとは思ってなかったけど、やっぱり仕掛けてきたようね。ほんとに、涙の別れをなんだと思ってるのよ!」

 見えない手で肌をなでられているような不快感を感じ、即座に杖を構えて戦闘態勢を整える二人の足元から、明らかにただの地震とは違う不気味な振動が少しずつ伝わって、大きくなり始めた。

 

 そして、人間の第六感とほぼ前後して、科学の目も異常事態に気がつき、警報を鳴らしていた。

「これはっ! リュウさん、強力なマイナスエネルギーとヤプールエネルギーが発生しています」

「なにっ!」

 テッペイの叫びに、リュウはとっさにガンローダーの計器を見渡した。するとレーダーにまだ微弱ながら、大型の生命反応が多数映し出されているのが目にはいってきた。

「ミライ!」

「間違いありません、奴です」

 ミライも、かつて間近で感じたヤプールの気配を強く感じて、鋭くあたりを見渡した。一見、それらはのどかな自然と中世の城を描いた絵画のように平和に見える。だが、ミライの目は空高くを見上げたときに、ガンフェニックスのレーダーよりも早く、宇宙空間から大気圏に突入してくる巨大生物の姿を捉えていた。

「リュウさん、左十時の方向、宇宙から怪獣が降りてきます!」

「ちっ! 俺たちを帰らせないつもりか! 仕方ねえ、やるぞみんな!」

「G・I・G!」

 帰還コースへの自動操縦を解除して、戦闘モードに入ったガンフェニックスは急速旋回し、ミライが捉えた敵怪獣に対して備える。

 だが、突然の怪獣の来襲に驚いたのは、彼らよりもむしろ才人のほうだった。

「えっ? あ、ちょっと、どういうことなんですかミライさん」

「ヤプールだ、怪獣が迫ってきてる。しかも、一匹や二匹じゃない!」

「なんですって!? 待ってくださいよ、ここはまだ学院の上空じゃないですか! てことは……ルイズ!」

 才人は愕然とし、眼下に見える学院を見渡して、広大な草原のあちこちから複数の土煙が吹き上げるのを見た。それは、紛れも無く地中から巨大な物体が地表に現れようとしているサイン。

「ミライさん、地底からも怪獣が!」

「えっ!? あ、あれは!」

 ミライはその一つの中に、まず前方に向かって大きく伸びた巨大な角と、真っ赤に輝く瞳の無い目を持った頭を見た。さらに、次に土砂を弾き飛ばすように現れた、二頭の大蛇のような太く長大な鞭状の腕を確認したとき、忘れようも無いそいつの姿に、思わず叫んでいた。

「地底怪獣、グドン!」

 そう、そいつこそかつてウルトラマンジャックを一度は倒し、東京を壊滅の危機に落としいれた凶暴な地底怪獣で、さらに新GUYSが初めて戦った怪獣として記憶にも新しい、肉食地底怪獣グドンだった。

 しかも現れたのはグドンだけではない。土煙の柱の中からはさらにグドンより巨大で同じように鞭を持つ怪獣や、角ばった頭部を持つ二足歩行型の恐竜型怪獣、扁平な体を持つ土色をした甲殻類のような怪獣が続々と這い出してきたのだ。

「よ、四匹!? テッペイさん、あいつらは?」

 才人はグドン以外は見たこともない怪獣軍団に、自分よりはるかに専門知識のあるテッペイに助けを求めた。だが、そいつらはテッペイの知識にもGUYSのアーカイブドキュメントにも記録されていない、異世界の種類だった。

 角ばった頭部を持つ恐竜型怪獣は、ウルトラマンダイナと戦った怪獣グロッシーナの同族怪獣。また平たい体を持つものはウルトラマンガイアと戦った怪獣ギールの同族で、どちらも地中をテリトリーにする性質と高い凶暴性を持つ。

 さらに、最後の一匹がその姿を完全に地上に現したとき、キュルケとタバサは二本の巨大な爪のあいだから鞭を生やし、前に突き出した一本角を持つ特徴的なシルエットに、あのエギンハイム村での戦いを戦慄とともに思い出していた。

「タバサ! あの怪獣は!」

「……生きてたの」

 そう、ムザン星人によって操られ、エギンハイム村と翼人の森を荒らしまわったバリヤー怪獣ガギに間違いない。サイクロメトラは反物質袋を取り除かれていたから爆発に巻き込まれることはなかったが、いずれ寄生され続けていた反動から死ぬはずだったのが、どうやら奴の生命力が上回ったようだ。

 四匹の怪獣は地底から現れると、そろって雄叫びをあげて学院に向かって進撃を始めた。

「あいつら、学院を狙ってる!」

 ヤプールによって呼び出されたからには、それは当然の行動であった。特にほかの三匹はともかく、ガギとは一度戦ったことがあり、その破壊力や能力を熟知しているキュルケとタバサは、なんとか食い止めようとシルフィードで飛び立った。

 むろん、GUYSとて黙っているわけではないが、ガンフェニックスは空中から襲い掛かってきた、昆虫のような翼を持つ黒色の怪獣に追撃されていた。

「テッペイ! あれも未確認の怪獣か!?」

「いえ、ドキュメントSSSPに記録があります。彗星怪獣ドラコ、かつて地球に接近したツィフォン彗星から飛来した怪獣で、レッドキングと戦ったこともあります」

 これで、確認された怪獣は総勢五体! GUYSもかつて経験したこともないほどの大軍団だ。しかも、その半分以上はデータのない未知の敵。タイムリミットの迫る中、リュウはGUYS隊長として決断を迫られていた。すなわち、このままゲートへ向かって地球へ撤退するか、それとも。

「テッペイ、ゲートが閉じるまで、あと何分だ?」

「あと……十五分です!」

「てことは、フルスピードで飛ばしたとして、とどまれるのは十分ぐらいか……よし、俺たちのためにこの世界の人たちに迷惑をかけるわけにはいかねえ、総力戦で一気に叩き潰すぞ! GUYS・サリー・GO!」

「G・I・G!」

 ガンフェニックストライカーが分離し、甲高い鳴き声を上げながら追尾してくるドラコを三方向に分かれてかく乱する。

「ジョージさん、僕も行きます!」

「ミライ、よしガンウィンガーは俺にまかせろ」

 敵の数を見て、ガンフェニックスだけでは手に余ると判断したミライはリュウの指示を待たずに変身を決断した。メビウスブレスを輝かせ、金色の光がコクピットから飛び立つ。

「メビウース!」

 空中でその姿を現したメビウスは、突進してくるドラコを正面から受け止めると、空中から引き摺り下ろそうと翼を掴んで、もろともに草原の外れに墜落した。

 さらに、草原に残ったセリザワも、前進してくる怪獣軍団を睨みつけて、右腕に出現させたナイトブレスにナイトブレードを無言で差し込んだ。

「あれは、ウルトラマンヒカリ!」

 四大怪獣の前に青い光とともに立ち上がったヒカリの姿に、コクピットから覗き込んでいた才人が叫ぶ。見ると、地面に叩き落されたドラコもメビウスから離れて怪獣軍団に加わり、メビウスもヒカリに並んで学院を守ろうと構えをとる。

 しかし、いくらメビウスとヒカリといえども相手は五匹もの大軍団、しかもどいつも一筋縄ではいかない強敵ばかりだ。半分ずつ請け負い、ガンフェニックスの援護があるといっても一対二、一対三の圧倒的不利な戦いを強いられる。

 だが、これを打ち崩す手が一つだけあった。

「わたしが、やるしかないんだ……」

 草原の端に、一人だけ残ったルイズは、こみ上げる悪寒にも似た気持ち悪さの中で、ぐっと胸の前で祈るように握り締めた両手を見ていた。そこには、半年間右手に輝き続けたリングと対を成すように、左手に才人のはめていたリングが冷たく銀色の輝きを放って、ルイズが決断する瞬間を待っていた。

「わたしが……わたしが、やるんだ」

 ルイズは、自分自身を叱咤するようにつぶやいたが、その声は震えていた。

 怖い……才人がいないことが、このリングが光るとき、いつも才人がそばにいてくれた。そうすると、どんな強敵が相手でも、すうっと勇気が湧いてきたのに、今は何も感じない。どうして、自分はこんなに臆病だったのか? 力はある、戦えるはずなのに、勇気だけが欠け落ちたようにからっぽだった。

「サイト……ううん、これからは、わたしが一人でトリステインを、ハルケギニアを守っていかなきゃいけないんだ。あんな……あんな使い魔の一人が欠けたからってなによ。わたしは、ルイズ・フランソワーズ! 『烈風』の娘よ!」

 そのとき、ルイズはかっと目を見開くと、両手を大きく広げて、こぶしを握ると胸の前で突き合わせて、リングの光を一つにつなげた。

「ウルトラ・ターッチ!」

 光がほとばしり、メビウスとヒカリの前に輝いた光の柱の中からウルトラマンAがその銀色の勇姿を現す。三人のウルトラマン対五匹の怪獣軍団、しかし、才人の欠けたウルトラマンAは、果たしてこれまでどおりに戦えるのだろうか?

 タイムリミットは、刻一刻と迫りつつあった。

 

 

 続く


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