第94話
防人の魂
ウルトラマンヒカリ
マケット怪獣 ウィンダム
えんま怪獣 エンマーゴ 登場!
かつて、光の国の優秀な科学者であったウルトラマンヒカリは、心から愛した惑星アーブの生命体をボガールから守れなかったことをきっかけに、アーブの知性体の怨念のこもった鎧を身にまとい、復讐の戦士、ハンターナイトツルギとして宇宙をさすらっていた。
気が遠くなるような長い旅の果てに、彼はボガールが次の餌場として選んだ星、地球へとたどり着いた。だが憎しみのあまりにウルトラの心を失っていた彼は、地球での活動のために、ディノゾール戦で戦死した旧GUYS隊長、セリザワ・カズヤの体を乗っ取って、ボガールを倒すためなら手段を選ばない非情な戦いを繰り広げた。
しかし、地球で出会ったメビウスや地球人たちとのふれあいで徐々に心を取り戻していった彼は、彼らと力を合わせて苦闘の末についにボガールを打ち倒した。
そして、ウルトラの母の力で復讐の鎧から解き放たれて、ウルトラの心を取り戻した彼は、なおも怪獣の出現の続く地球を守るために、彼とともに戦うことを選択したセリザワと本当の意味で一心同体となり、真の光の戦士・ウルトラマンヒカリに生まれ変わったのだ。
「この星を、お前の好きにはさせん!」
ウルトラマンとして、心ある人々を守るヒカリの意思と、かつての部下であった佐々木隊員の愛したものを守ろうとするセリザワの意思。二人の意思をその身に宿し、タルブ村を荒らしまわり、人々を苦しめる怪獣エンマーゴの前に、群青の輝きをまとってウルトラマンヒカリが立ち上がる。
「セリザワ隊長! そうか、メビウスにメビウスブレスがあるように、ヒカリにはナイトブレスがあったんだ」
このハルケギニアでは、M78星雲出身のウルトラマンは、この星の人間と一体化しない限り、行動を著しく制限される。しかし、メビウスブレスと同系統のアイテムであるナイトブレスを持つヒカリならば、この星でも問題なく戦うことが可能だった。
しかし、どす黒い破壊の喜びを満たすのを、あと一歩で邪魔されたエンマーゴは怒り狂い、鋭い牙を生やした口から凶悪な雄叫びをあげて、真っ赤な目に次なる獲物を映して剣を振り上げる。もはや、人間の心の闇が生んだ妖怪と、人間の光を守ろうとする光の戦士の激突は不可避。ヒカリは、彼の信じた仲間たちの意志を受けて敵に挑む。
「セアッ!」
ウルトラマンヒカリのナイトビームブレードと、怪獣エンマーゴの剣がぶつかり合って激しく火花を散らす。エンマーゴの剣は、地球上のあらゆる物質を切り裂くと言われているが、ウルトラマンキングから授かった神秘のアイテム、ナイトブレスから生まれるナイトビームブレードが折れることはない。
「こいつは俺が食い止める。今のうちに、その人たちを頼む!」
はっとして才人たちはヒカリのすぐ後ろに視線をやると、そこには気を失ったシエスタを抱いて守っているレリアの姿があった。なぜ逃げないのかと思ったが、うずくまっているところを見ると、とっさにシエスタをかばったときに足を痛めたのかもしれない。
「まじい、あのままじゃつぶされちまうぞ!」
「サイト、ぼさっとしてないで行くわよ!」
ヒカリが直接助け出そうとすれば、手を下ろした瞬間に斬られてしまうのは明白なので、今助けに行くことができるのは自分たちだけだ。ルイズは才人の手を引きながらカモシカのようにスカートからすらりと伸びた足を俊敏に動かして雌鹿のように駆け出し、才人も慌ててデルフリンガーを抜くと、ルイズの後を韋駄天のように追っていく。
「間に合ってくれ!」
友達を死なせてなるものか。二人とも怪獣の暴れ狂う死地へと、恐怖心にも勝る熱い心を持って全力で駆けていき、ヒカリも才人たちがたどりつくまで、なんとしてでも時間を稼ごうと、命を懸けて剣を振るう。
「この人たちには、指一本触れさせん!」
自分に傷をつけようとした人間を決して許すまいと、憎悪を込めた剣を振り下ろすエンマーゴ。それに対して、ヒカリは邪悪の白刃の眼前に自らの命をさらし、真っ向からナイトビームブレードを唯一の盾に、全身の筋肉とばねを使って受け止めた。
「止めた!」
人間でいえば、身長三メイルにも及ぶ人獣ミノタウロスの斧を受け止めたにも等しい荒業に、さしものタバサなどからも驚嘆のうめきが漏れた。確かに、あの大刀の重量とエンマーゴのパワーが加われば、瞬間的な圧力は何万トンにも相当するだろう。だが、ヒカリの足が大地にめり込み、さしものナイトビームブレードもきしんだようにさえ錯覚したが、それでもナイトビームブレードの上で大刀は確かに止まっており、そして、間違いなく誕生してから初めて自分の剣を耐えしのがれたことに驚くエンマーゴの隙を逃さず、ヒカリは一瞬のつばぜり合いを経て、全力を込めて弾き飛ばした。
「ファッ!」
ヒカリの力にも増して、その裂ぱくの気合に押されたかのように、それまで無敵の勢いで驀進してきたエンマーゴが、はじめてよろめいて後ずさった。確かに、その場から動くことが許されず、エンマーゴの比類ない剛剣を受け続けなければならないヒカリの立場は不利だ。剣道で足の運びが勝敗を大きく分ける要素として重視され、基礎訓練として徹底的に叩き込まれるのに反する、圧倒的なディスアドバンテージである。しかしその昔、かの武蔵坊弁慶が主君たる源義経を守るために、その身を不動の壁と化させて、立ったまま息絶えるまで矢玉にさらし続けた豪勇無双ぶりが迫り来る幾千の軍勢をおびえたじろがせたように、破邪の威光は圧倒的優位にあるはずのエンマーゴをたじろがせ、絶望の思いで破壊されていく村を見つめていた村人たちからも、ヒカリの勇姿に希望の声が次々とあがり始めた。
「おおっ! ウルトラマンだ、ウルトラマンが来てくれたぞ!」
「これでわしらの村も助かるかもしれん。頼むぞ」
「ウルトラマーン! がんばれーっ!」
「がんばれー!」
村人たちが、逃げるのをやめて口々に青いウルトラマンを応援し始めるのに、ヒカリは胸が熱くなる思いを感じていた。
かつて地球では、青いウルトラマンは本当にウルトラマンの仲間なのかと疑われ、ババルウ星人の策略によって侵略者ではないかと恐れられたが、そんな先入観のないハルケギニアの人々は、素直にヒカリを受け入れてくれた。
また、村人たちを空の上から護衛していたキュルケとタバサも、ヒカリの登場に驚きをあらわにしていた。
「すごい! また新しいウルトラマンよ! タバサ、今度はあなたの髪の色みたいに真っ青なウルトラマンよ」
「……」
「タバサ、どうしたの? タバサ」
呼びかけても、タバサはじっと青い巨人を見つめているだけで、いっこうに返事をしてくれようとしない。
「……あの青い巨人……いえ、似ているけど、違う」
「タバサったら!」
「あ……なに?」
「なに? じゃないわよ、どうしたの急に何かに取り付かれたみたいに?」
「ごめん……ちょっと考え事してた。けど、思い違いだったみたい」
「はぁ……まあ、あんたの考えることの大半はわたしにはわかんないからいいけど、あんまり心配かけないでよ」
優しく頭をなでてくれるキュルケは、そのときタバサにとってほんの少しだが母親の記憶を思い出させた。だが、友の温かさにひたる暇も無く、空気を揺るがす激震をもって、ウルトラマンヒカリとエンマーゴの戦いは激しさを増していく。
「トアッ!」
ナイトビームブレードとエンマーゴの大刀による激突は大気を揺るがして、一太刀がぶつかり合うごとに、遠く離れているはずの村人たちにさえしびれるような衝撃が襲い掛かった。
「た、たっぷり二リーグは離れてるはずなのに……」
「まるで、この世の戦いとは思えねえ」
ハルケギニアではメイジの魔法の威力が強大なために、剣は平民の武器、弱者の武器というイメージが濃いが、眼前の戦いを見てそんなことを思える者は、ただの一人たりとて存在しなかった。
しかし、一見互角の勝負に見えても、やはり、すぐ後ろで逃げられないでいるシエスタたち親子を守りながらでは、ヒカリは得意のフットワークを活かすことができずに、エンマーゴの剛剣の乱打に対して防戦一方とならざるを得なかった。
「強い……だが、俺はもう二度と悲劇を繰り返させはしない!」
それは、惑星アーブをボガールから守れなかったヒカリ、ディノゾール戦で部下を全滅させてしまったセリザワの二人分の決意だった。そして彼はその決意を剣に込めてエンマーゴを押し返すと、ナイトビームブレードにエネルギーを込めて、矢じり型の光弾にして発射した。
『ブレードスラッシュ!』
かつてババルウ星人の変身を強制解除させた一撃が、炎の矢のようにエンマーゴに突き刺さろうと向かう。しかし、奴は自慢の盾を構えるとそれさえもはじき返してしまった。身動きができないのに加えて、あの鎧と盾というアドバンテージは、メビウスに勝るとも劣らない力を持つヒカリといえどもきつい。
しかし、戦闘を時とともにうつろいゆく川の流れのようなものだとすれば、その勢いに一時は押し流されてしまいそうになったとしても、流れが変わるときは必ずやってくる。
「ヒカリ! こっちはもう大丈夫だ! あとは思う存分戦ってくれ」
「よし!」
驚くほど圧縮された時間の中でヒカリは才人の声を聞いた。一瞬だけ振り返って、レリアとシエスタのところに、才人とルイズが駆けつけたのを見て取ると、枷から解き放たれた猛獣のように、これまで受けるだけだった剣撃をはじき返し、今度はこちらから反撃の斬撃を送り込む。
「テヤァッ!」
ナイトビームブレードがエンマーゴの剣と何度もぶつかり合って押し返し始めた。かつてウルトラマンタロウは素手であったために、エンマーゴには大苦戦を強いられたが、今度はウルトラマンも同じ武器を持った以上、あとは力と技の勝負だ。ただ残念ながら、力任せに大刀を振り回すエンマーゴの圧倒的なパワーにはさしものヒカリも抗し得ないものの、技ならば別。
「デヤァッ!」
子供が棒切れを乱暴に振り回すようなエンマーゴに対して、ヒカリは剣閃に無駄な動きをつけずに、スピードと軽快なフットワークで攻撃をかわしながら奴の隙をついて斬りつけていく。それは、ガンダールヴを発動させた才人や、剛剣を持ち味とするアニエスやミシェルとは違うが、我流を実戦の中で進化させていった戦場の剣技である。ハンターナイト・ツルギとして宇宙をさすらっているときに磨いた腕は、確かに血となり肉となって、今では正義のために閃く。
その勇姿を間近で目の当たりにして、才人は興奮を最高潮にして叫んでいた。
「ウルトラマンヒカリ、がんばれーっ!」
「ヒカリ、それがあのウルトラマンの名前なんですか……」
才人の背におぶさられながら、レリアがぽつりとつぶやいた。
「ええ、エースと同じ光の国の戦士です。すげえ、ヒカリも来てくれたならもう大丈夫だぜ」
レリアを安心させようと、才人はわざと大げさに喜んで見せたが、彼女はずっと握り締めていた祖父の形見のトライガーショットを見つめると、悲しそうにつぶやいた。
「三十年前と同じで、私は結局助けられてばかりですね。おじいさんの残した武器で少しは村のために戦えると思っても、やっぱり何の役にも立てなかったばかりか、娘まで死なせてしまうところでした。それに、今だって私のせいでウルトラマンは自由に戦えない……」
「そんなことはないですよ!」
気落ちしているレリアに向かって、才人はぴしゃりと言ってのけた。
「ウルトラマンは、人間が精一杯戦いぬいたときにだけ力を貸してくれるんです。今だって、おばさんが力いっぱい頑張ったから、ヒカリは来てくれたんですよ。な、ルイズ?」
「知らないわよ。けど、少なくとも何もしないで助けを待ってるだけの奴なんか、ウルトラマンだって助けたくないんじゃない。わたしだったら、見捨ててるわ」
才人の思いやりと、ルイズのぶっきらぼうな優しさは、傷ついたレリアの心に染み入り、懐かしい記憶を呼び起こした。そう、あの三十年前の祖父やアスカ、カリーヌやティリーも、それぞれ励ましあい、支えあって人知を超えた怪物に憶さずに立ち向かっていた。
ただ、このままだとずっと見物していそうだった才人を、幸いにも抜いたままにしてもらっていたデルフが注意した。
「おい相棒、見とれてるのもけっこうだけどよ。あのウルトラマンが、お前さんを信じてまかせた仕事をほっぽっといていいのかね」
「あっ! そ、そうだった」
親子を逃がしてくれというヒカリからの指示を、才人ははっとなって思い出した。デルフは声を荒げて人を叱ったりはしないが、本人いわく何千年も生きてきたと言うだけはあって、人の気持ちをよく心得ており、どう言えばその人がよく動くのかということを知っている。
「ルイズ、行くぞ」
「ええ、でもちょっと……そんな簡単に言わないでよ……ガンダールヴ全開のあんたに走ってついてくの、けっこう大変なんだからね」
才人がレリアをかつぐ以上、シエスタはルイズが背負わなければならないのは明白だったが、いくら人並み以上の体力を持つルイズといっても、全力疾走のあとに人一人かついで走るのは、体格が小さいこともあってやはりかなりの難題だったようだ。
「ええーっ! おいこの大事なときに……おいデルフ、どうしよう」
「全力で走ったら馬並の相棒についていけるだけ娘っこの脚力もすげえもんだが、さすがに限界か……しゃあねえな、あの手でいけよ」
「あの手?」
「そう、あの手だよ」
だが、デルフから『あの手』とやらを聞かされた二人は思わず赤面した。
「お、お前、こんな公衆の面前で!」
「そ、そうよ、そんな破廉恥なこと、ラ・ヴァリエールの三女のこのわたしができるわけないじゃない」
「心配しなくても誰もというか、お前さんの一番気になるメイドは見てねえよ。てか、前は相棒が自分からやったことだろうに、てか、危ねえぞ」
「へ?」
思わず振り向くと、すぐ目の前には塔のような太いエンマーゴの足、さらにいきなり影に隠されたと思って上を向くと、そこには垂直に落ちてくる巨大な足の裏があった。
「んだーっ!」
「きゃーっ!」
踏み潰される寸前、才人は背中にレリアを背負ってデルフを握ったまま、右腕にルイズ、左腕にシエスタを抱えて駆け出した。それはまさしく、以前トリスタニアでスリを追っかけたときにやったやつのパワーアップバージョン。しかしあのときは追い詰められてて半分やけくそだったが、人からやれと言われたらやっぱり恥ずかしい。とはいえ間一髪、わずか一メートル後ろにエンマーゴの足が着地して、彼の体は衝撃で宙に舞い上がるが、かまわずそのまま全力ダッシュで逃げていく。いくらガンダールヴの力を発揮しているとはいえ、人三人抱えて走るなど完璧に火事場の馬鹿力、特に気を失ったままのシエスタはいいとして、ぶんまわされるルイズは体にしがみつくものだから、走りにくいことこの上ない。
「きゃーっ! きゃーっ、ぎゃーっ!!」
「あ、暴れるな! 爪を立てるな! 落としちまうぞ!」
「バカーっ! 落としたら殺す! 置いていったら殺す、だから走りなさいよ!」
理不尽な怒りを受けながらも、才人は戦いの巻き添えで飛んでくる樹木や家屋の残骸も超人的な身体能力で回避して、とにかく少しでも遠ざかろうと試みた。が、五十メートル以上の大きさの相手から、安全圏に逃げるとなったら容易ではない。むろん、ガンフェニックスも巻き添えを恐れて攻撃はできないし、ヒカリも刃物を振り回す相手をこれ以上刺激するわけにはいかないと手が出せない。
「さ、さっさと逃げておくべきだったぁーっ!」
後悔先に立たず、悲鳴をあげたところでもう遅い。エンマーゴの歩く振動で走りにくい中を、才人はそれでもフルパワーで走った。しかし。
「サイト、後ろ後ろぉーっ!」
「え? うわぁーっ!」
ルイズの絶叫で、ふと後ろを振り返ったとき、そこにはエンマーゴが蹴り飛ばした一抱えほどもある巨大な庭石が迫ってきていた。軽く見積もっても一トンはある。エンマーゴにとっては小石ほどだろうが、こんなものが直撃したら人間なんかひとたまりもない。ルイズが慌てて懐をまさぐっているが、とても杖を取り出して失敗魔法を使う暇もない。天は我を見放したか! 才人の脳裏に古い映画で見た台詞が浮かび上がった。その瞬間。
『レビテーション!』
突然、才人の体がはじかれるように宙に浮き上がると、ほんの半瞬前まで彼のいた場所に巨石が落下して、そこにあった古い切り株をグシャグシャにつぶしてしまった。そして、巨人につまみ上げられたように、訳もわからないままに空中散歩をした才人たちの下ろされたところは。
「はあい、あんたたちってほんとわたしたちがいないとだめねえ」
「キュルケ!」「タバサ!」
シルフィードの背中の上に下ろされた才人とルイズは、間一髪のところで駆けつけてきたこの二人によって助け出されたことを知って、ほっと胸をなでおろした。
「まったく……あんたたちの向こう見ずと考えなしは、何回見てもひやひやするわ、ねえタバサ?」
「もう少し、早く逃げてればよかったのに」
「め、面目ない」
今回はタバサにも呆れられたように言われ、反論の余地のない才人は頭を掻きながら、自分の非を恥じたが、ルイズはふてくされたようにそっぽを向いて。
「ふん、あんたたちこそ、もっと早く助けにくればよかったのに」
「あら? わたしに借りができちゃった負け惜しみ? けーど、誇り高いラ・ヴァリエール様は、まさか助けられてそのまま、はい知りませんよ、なーんて言いはしないわよねえ?」
「ぐ、ぐぐぐ……」
普通なら、最初の一言で激昂しそうなものだが、ルイズの扱いに慣れたキュルケはその上を行ってしまった。どうやら、身長やスタイルのよさ、恋の駆け引き以前の段階でルイズはキュルケに、まだ遠く及ばないらしい。
だが、キュルケはルイズで遊ぶのはそこそこで中断すると、足を捻挫していたレリアに治癒の魔法をかけていたタバサに声をかけた。
「どう、傷の具合は?」
「問題ない。ちょっとひねっただけ、安静にしてれば一週間くらいで歩けるようになる」
タバサの治癒は炎症を止めるくらいで決して強くないけれど、サバイバル的な医療知識のある彼女の診断を聞いて、キュルケはほっとしたように微笑んだ。
「よかった。もう歩けないなんて言われたら、シエスタになんて言おうかと思ったわ。それにしても、無茶もいいところよ。あんなことをして無駄死にになるとは思わなかったの?」
「返す言葉もありません。ですが、ここは私の故郷なんです。私が生まれ、育ち、そして私の子供たちが生きていくための、かけがえのない場所なんです。そこを守って次の世代に託すのが、母親である私の務め……あなたも、いつか母親になったらわかる日が来ますよ。どんなに大きくなったって、自分が腹を痛めて生んだ子供ほど、かわいいものはないんですから」
「……」
まだ気を失ったままのシエスタを優しく抱きかかえるレリアの言葉を聞いて、自分が母親になることなど考えたこともなかったキュルケは、久しぶりに故郷に残してきた両親のことを思い出し、ルイズやタバサも、幼いころの家族の思い出に心を寄せた。
けれど、レリアのそんな姿にもっとも強いショックを受けたのは、ほかならぬ才人だった。もちろん、才人の母とレリアは顔は全然似ていない。それでも、かもしだす優しい雰囲気は、昔母から与えてもらったものと変わりなかった。
そう、たまたまテストの点がよかったとき、食器洗いを手伝ったとき、そんななんでもないことでも母は大げさに、なんの他意もなく褒めてくれた。
もしも、シエスタが突然行方不明になったらレリアはどんなに嘆き悲しむだろう。見れば見るほど、それが痛いほどわかるだけに、才人はレリアに自分の母を重ねて見てしまい、耐え切れなくなった彼は、心の中のそんな罪悪感にも似たもやもやを吹き飛ばすかのように、無理に大声を出して叫んだ。
「ウルトラマンヒカリ、がんばれーっ!」
しかし、ハンディがなくなって自由に戦えるようになっても、ヒカリを追い詰めるエンマーゴの猛攻は止まるどころか、無限のスタミナを持っているかのように斬撃の威力を次第に増していった。
「ヒカリと互角に渡り合うなんて、なんてすごい奴なんだ」
見守るミライからも、信じられないといった声が漏れる。いまや宇宙広しといえども、ヒカリと互角に切り結ぶことのできるのは、ミライに思いつく中では、かつて戦った宇宙剣豪ザムシャーくらいしか存在しないのに、疲労がたまっていくヒカリとは反対に、エンマーゴの剣に衰えは見えない。そして、とうとうエンマーゴの剣がナイトビームブレードをはじき、剣の先がヒカリの喉元をかすめた。
「ヒカリ!」
「危ない!」
「サイト!」
ミライの左腕にメビウスブレスが現れ、才人とルイズのウルトラリングに光が灯る。
だが、加勢に駆けつけようとしたミライや才人たちの頭の中に、ヒカリからの声がテレパシーで響いた。
「待て! この戦いは、俺にやらせてくれ」
「ヒカリ!? しかし、君だけでは」
「そうですよ、エンマーゴはウルトラマンタロウも負けかけたほどの強敵なんですよ」
「意地張ってるんじゃないわよ! あんたやられかけてるじゃないの」
手助けを拒もうとするヒカリに、三者からそれぞれテレパシーで抗議がかかるが、ヒカリの意思は固かった。
「すまない。しかし、俺の部下が人生を懸けて守りぬいたここは、あいつが信じた俺とGUYSの力で守りたいんだ」
「ヒカリ……」
それは、かつてGUYSを率いながら、使命を果たせなかったセリザワの無念を込めた頼みだった。つまらない意地と笑うなら笑えばいい。しかし、平和を守るものとしての誇りは、効率という言葉で切っていいものなのか。
すると、沈黙したミライや才人たちに代わって、GUYSの面々が次々とヒカリの意思に応えて叫んだ。
「セリザワ隊長の言うとおりだぜ。あんな怪獣の一匹や二匹にてこずってるようじゃ、佐々木先輩にどやされるぜ」
「アミーゴ、悪いが今回はお前たちの出番はなしだ。後輩の実力、天国のOBにしっかりとおがませてやるぜ」
「ミライくん、僕たちはまだ力を出し尽くしちゃいない。大丈夫、勝算はあるさ」
「みんな……はいっ! ですが、僕だってCREW GUYSの一員です。僕も、みんなといっしょに精一杯戦います」
「ああ、GUYSの誇りをみんなで見せてやろうぜ。ようし、ウルトラマンヒカリを援護する。いくぞみんな!」
「G・I・G!」
翼をひるがえし、急角度からの攻撃を加えるガンフェニックスと、地上からの銃撃がエンマーゴに隙を作り、そこを狙ってヒカリが剣を振り下ろす。確かに奴は強い、しかし心を一つにして立ち向かえば、たとえ相手がどんなに強大だろうと切り開けない道は無い。
「あれが、ウルトラマンといっしょに戦い抜いた人たち……」
才人は、GUYSがメテオールを持っているから強いと思っていたが、メテオールの効かない敵を目の当たりにして、なぜGUYSが一年ものあいだ戦い抜いてこられたのか、その秘密がわかったような気がした。
「戦う、誇り……」
また、ルイズもGUYSの闘志に、本当の戦う誇りというものを見た気がした。以前自分は、敵に背を向けないものを貴族というのよと言ったが、今ならあのときの自分と彼らとの違いが何かというのがわかる。
それでも、GUYSの総力をあげてもなおエンマーゴは強かった。攻撃を鎧と盾で強引に受けきって、小手先の技を力でねじふせようと大剣を振り回してくる攻撃を続けられ、さしものヒカリも攻撃をさばききれなくなってきた。
「ヌゥッ!」
戦国時代の剣豪は、全身を分厚い鉄の鎧で覆って、防御を完全に無視した現代の剣道では考えられない荒々しい攻撃一点張りの剣術を使った猛者がいたと言われるが、エンマーゴの戦い方はまさにそれを彷彿とさせた。このままでは、疲労したヒカリはいずれ直撃を受ける。戦いに慣れたタバサやキュルケだけでなく、才人たちもそう感じたとき、奴は突然口からあの黒煙をヒカリに向かって吹き付けてきた。
「グワァァッ!」
至近距離からの噴霧だったので裂けられず、ヒカリはもろに黒煙を全身に浴びてしまった。さらに、あらゆる樹木を腐らせる黒煙は、ウルトラマンに対しても強力な毒ガスとして作用し、視界を奪って全身をしびれさせる。
「卑怯な手を!」
ルイズは怒ったものの、怪獣や宇宙人に卑怯もラッキョウもない。体の自由を奪われてひざを突いたヒカリをエンマーゴは鉄柱のような足で蹴り上げて、わざと剣を使わずに剣のつかや盾でなぶるように殴りつけてくる。おまけに、防戦が続いてエネルギーを消費し続けていたために、カラータイマーも点滅を始めて、警報音が村に響き渡り始めた。
「なんで反撃しないのよ!」
「毒が、体にまわってる。彼もわたしたちと同じ、生き物」
タバサの言うとおり、ウルトラマンも生命体である以上、毒は人間と同じように効いてしまうのだ。エネルギーの欠乏に加えて、体を麻痺させられたヒカリは反撃もままならず、エンマーゴは肉食獣が倒した獲物を誇るときのように足蹴にして愉快そうに喉を鳴らして笑った。しかも、足の下に敷いたヒカリにとどめを刺そうと、エンマーゴの剣はさらに無慈悲に高く振り上げられる。
「あいつ、首を刈る気よ!」
キュルケが思わず口を押さえて悲鳴をあげた。エンマーゴの剣は、かつてウルトラマンタロウの首を切り落としたほどの切れ味を誇る。そのときはタロウの持つ強力なウルトラ心臓のおかげで奇跡的に再生に成功したが、ヒカリにはそんなことは不可能だ。
だがそのときだった!
「リュウさん、ウィンダムの使用許可を!」
「ようし、メテオール解禁!」
「G・I・G!」
許可を受けて、テッペイはノートパソコン型のGUYSタフブックから緑色の卵ほどの大きさのカプセルを取り出し、自分のGUYSメモリーディスプレイに接続すると、ディスプレイにメテオール使用可能のシグナルが浮き上がった。そう、GUYSメモリーディスプレイは、各隊員の身分証や通信機、さらに過去に出現した怪獣の簡易データが収録されている万能ツールとしての機能のほかに、ガンクルセイダーやガンフェニックスと同じく、いくつかのメテオールアイテムの作動キーとしての役割も持っているのだ。
そして、メテオールはキャプチャーキューブやスペシウム弾頭弾だけではない。それと並び、CREW GUYSを象徴するとっておきの目玉、分子ミストの送り込みが成功し、リムエレキングがこっちの世界で出現できたことから、使用可能が確実となった奥の手がまだある。
テッペイはスタンバイOKを確認するとエンマーゴからやや離れた村の広場へと、拳銃のようにメモリーディスプレイを向けてスイッチを押した。
”リアライズ(顕現)”
メテオール作動の電子音が鳴り、それに続いて広場に緑色の粒子が渦を巻いて現れ、その中から西洋の甲冑を身にまとったような銀色の怪獣が現れる。そしてテッペイは、その怪獣に向けて大きな声で命令した。
「頼むぞ、ウィンダム!」
機械の駆動音のような鳴き声を上げて、銀色の怪獣は力強く両腕を上げて、エンマーゴに存在をアピールし、新たな敵の出現にヒカリへのとどめをいったん中断してこちらに剣を振り上げてくるエンマーゴを睨みつける。これこそ、ミクラスと並んでCREW GUYSの誇る頼もしい仲間、マケット怪獣ウィンダムだ!
「ウィンダム、攻撃開始だ!」
剣を振りかざして威嚇してくるエンマーゴに、ウィンダムはその場から動かずに両腕を上げると、額のランプからビームを発射した。その前触れのない一撃に、さしものエンマーゴも驚いて鎧に喰らって後ずさる。
また、ルイズたちも突然現れた銀色のゴーレムのような怪獣に驚いていたが、才人は驚く彼女たちに愉快そうに説明した。
「サイト、もう一匹怪獣が現れたわよ!」
「いや、あれは味方だ」
「えっ? あの、ゴーレム、みたいなのが味方?」
「ゴーレムか、確かに似たようなもんだけど、中身は全然違うぜ、見てろ」
ウィンダムは皆が見守る中で、ヒカリを助けようとビーム攻撃を続けた。しかし、エンマーゴは一時は驚いたものの、すぐにビームを盾で防御し、この攻撃をものともしていない。あざ笑うエンマーゴ、ただしウィンダムの力は才人の言うとおりこれだけではない。
「負けるな、ファイヤーウィンダム!」
そう、このウィンダムはウルトラセブンが使役していたカプセル怪獣のウィンダムをモデルに作られているが、オリジナルにないGUYS独自の改良も施されている。元々遠距離攻撃が得意で、クール星人の戦闘円盤を撃ち落したこともあるウィンダムの左腕には、大きなカノン砲が装備されており、そこから強力な火炎弾をピストルのように連射して放つことができるのだ。
「いいぞ、攻撃を緩めるな!」
これには、さしものエンマーゴも盾の陰に隠れてうかつには動けない。おまけに、ロボット怪獣であるウィンダムにはあの黒煙も効果がありはしないだろう。その勇姿に元気付けられた才人たちの前で、ファイヤーウィンダムの猛攻は続く。
「よし、これならいけるぜ。頑張れ! ウィンダム」
「あれほどのゴーレムを自在に召喚して操るなんて、あんたのところって、ほんと便利なものがあるのね」
「ああ、すげえだろ。これがGUYSの実力さ!」
ウィンダムを間近で見て鼻高々な才人だったが、実は彼はメテオールが一分間しか使えないということまでは知らなかった。とはいえ、メテオールは以前トリヤマ補佐官が、うっかり記者会見でしゃべってしまいそうになったとき、厳しくけん責処分になったほどにGUYSも機密保持に神経質であり、一般情報しか知りようのない彼が知らなかったのはやむをえないところではある。
しかし、ウィンダムはメテオールが生み出すただの幻影や、ましてや言いなりのロボットなどではない。
「ウィンダム、頑張れ!」
テッペイの声に勇気づけられたかのように、ウィンダムはダイヤモンドをも切断できるという剣を自分に向かって振りかざしてくるエンマーゴにひるまずに、ヒカリを助けようと銃撃を続けて援護する。仲間たちの思いを一つに、それは彼らも同じ、マケット怪獣たちは心を持つ立派なGUYSの仲間たちなのだ。さらにその隙をついてガンフェニックスが側面や背後から攻撃をかけていく。
「がんばれセリザワ隊長! あんたの力は、こんなものじゃねえだろ」
「立ち上がれ! あんただって、おれたちGUYSの仲間だろ」
リュウやジョージの声が、苦しむヒカリの耳に届く。
そして、その仲間の声をウルトラマンは裏切らない。
「ヌゥゥ……ッ、ダアッ!」
全身にこびりついていた黒煙を振り払って、ヒカリは残り少ないエネルギーを振り絞ってエンマーゴに斬りかかり、下段から打ち上げたナイトビームブレードでエンマーゴの剣を手元から弾き飛ばした。
「やった!」
その瞬間、タイムリミットを過ぎたウィンダムは再び緑色の分子ミストになって消え去った。だがウィンダムの奮闘とヒカリの渾身の力で、エンマーゴの手からはじかれた剣は回転しながら空中を舞い、三百メートルほど離れた場所に突き刺さった。
「セリザワ隊長、今だ!」
メテオールを使い切ったガンフェニックスではエンマーゴにとどめを刺す手段はない。しかし、リュウの叫びが響いても、カラータイマーの明滅がすでに限界点に近づいてきているヒカリの体には力が入らない。
「隊長ぉ! 立ってくれ」
「畜生、剣に近づかせるか!」
ヒカリが動けない今、剣を取り戻されては勝ち目がない。ガンフェニックスはバリアントスマッシャーで足止めを図るものの、最大の武器を取り戻そうと焦る奴の足取りは止まらない。これまでか! ミライや才人たちの手がメビウスブレスとウルトラリングにかかりかけた。だが、地面に突き刺さった剣に、今まさにエンマーゴの手がかかろうとした瞬間、突然エンマーゴの体が光るオーラに包まれたかと思うと、その動きが凍りついたように止まった。
「なんだっ!?」
あのエンマーゴが、指一本動かせないほどに動きを止められている。ミライは直感的に、これが念動力により封印だと直感したが、これほどのパワーはウルトラ兄弟でも、レッドギラス、ブラックギラスの双子怪獣やガロン、リットルの兄弟怪獣を撃退したほどの力を持つほど、特に念力に優れたウルトラセブンくらいしかまず発揮することできないはずだ。ならば、いったい誰がこれほどの念力を、もしかして!
”愚か者め、四百年前に貴様を封印したこの景竜を忘れたか? 剣を失い、慌てて心を乱したのが、ぬしの運の尽きよ”
それはミライによって、タルブ村の小高い丘の上に置かれた地蔵に宿った古代の妖怪退治屋・錦田小十郎景竜の念力による金縛りの技だった。
”これがわしに残された最後の力じゃ。どうじゃ、動けまいが”
残留思念となった景竜には、もはや生前のような神通力はない。しかし、彼は万一のときに備えて、この地蔵にその力を思念とともに一度限りの切り札として封印していた。しかしそれも、まともに使っては強力なマイナスエネルギーに跳ね返されかねないので、彼は残った力を本当の最後の攻撃の、今このときのために温存していたのだ。
”今じゃ、とどめを刺せ!”
動きの止まったエンマーゴを指して、景竜の声がヒカリに届く。今を逃せば剣を取り戻したエンマーゴを倒す術はない。
「立ってくれセリザワ隊長!」
「ヒカリ! 頑張って」
「負けるな! ウルトラマンヒカリ!」
「立て! 立つのよ! そのくらいでへたばるんじゃないわよ!」
「いっけーっ! 勝つのよーっ!」
「お願い、あのときのように、立って、ウルトラマン」
「立ってくれ! 俺たちの村を、救ってくれーっ!」
「ウルトラマーン!」
リュウやミライたちGUYSの面々、才人たちやレリアたち村人たちの心からのエールが、ヒカリの消えかけた光に新たな灯を灯していく。
「そうだ……俺は、ウルトラマンなんだ……!」
蘇ったウルトラの心に奮い立たされ、ヒカリはついに苦しみを振り切って二本の足で大地に立ち上がった。
「デャァァッ!」
そう、ウルトラマンであるということは、常に人々の希望であり続けるのと同時に、決して彼らの期待を裏切らないこと。ヒカリは空に向かってかかげたナイトブレスに残った全てのエネルギーを込めて、青い雷のようにスパークしたその光のパワーを十字に組んだ手から解き放った!
『ナイトシュート!』
青い正義の光芒が、エンマーゴに突き刺さり、マイナスのエネルギーと相反するパワーが怒涛のように、その強固な鎧をも貫きとおす勢いで吸い込まれていく。
「いけーっ!」
「ダァァーッ!」
人々の声援と、ヒカリの正義の意思が最高潮にまで高まったとき、その奔流の力にとうとう耐え切れなくなった地獄の妖魔は、闇の鎧に無数の亀裂を生じさせた。そして次の瞬間、天界の浄火をつかさどって悪鬼羅刹を焼き尽くすという不動明王の裁きを受けたかのように、真っ赤な炎に包まれて粉々の塵となって消し飛んだ!
「やった!」
「うぉっしゃあーっ!」
「すごいっ!」
「わーい! ウルトラマンが勝ったあー!」
ヒカリの勝利に、GUYSや才人たちだけでなく、村人たちのあいだからも老若男女問わない歓声があがって、喜びの声が平和の歌声となって山々と村の空にこだましていった。
だがそのとき、ヒカリやミライたちウルトラマンの力を持つ者たちは、砕け散ったエンマーゴの炎の中から、どす黒いもやのような塊が抜け出ていくのを見た。
「あれは! エンマーゴの亡霊体か!?」
そう、エンマーゴが人間の邪悪な思念から生まれた怪獣ならば、実体である肉体を破壊しても、その邪悪な精神はマイナスエネルギーの集合体となって残る可能性がある。となれば、あれを逃せばまたエンマーゴがいつかどこかで復活する可能性があるのだ。ウルトラマンたちの背筋を冷たいものが走った。
しかし、実体のない霊魂のような相手をどうやって止めればいいのかと焦りかけたとき、エンマーゴの亡霊体は突然底の抜けた池の水のようにお地蔵様の小さな体の中に吸い込まれていって、景竜の言葉が彼らの心に最後に響いた。
”実体を失った影の状態ならば、今のわしでも封じることができる。さらばじゃ、光の人たちよ”
それが本当に最後の力だったのか、景竜の言葉はそれっきり二度と聞こえることはなかった。そういえば、かつて地球でもエンマーゴの前に絶体絶命に陥ったウルトラマンタロウを助けてくれたのは、土地に埋められていたお地蔵様だという。この世界では、ちょっとひねくれていたが、ハルケギニアでもやっぱりお地蔵様は正しい者の味方だった。
「こちらこそ、感謝する。あなたの力や、そして仲間たちや村人たちの思いがなければ、奴には勝てなかった」
光は闇を照らすことはできるが、闇はたやすく光を侵食する。しかし夜空を無数の星々が輝かすように、小さな光でも集まれば闇を打ち負かすことができる。そして、エンマーゴの邪念が完全に封じ込められたことを確認したヒカリは、人々の歓声をその背に受けながら青空へと飛び立った。
「ショワッ!」
戦いは終わり、村に平和が蘇った。
避難していた村人たちは続々と村へ帰還していき、勝利に沸いて精気あふれる男たちによって、壊された家々の修復がさっそく始められた。
景竜のお地蔵様は、今度こそエンマーゴが復活しないようにガンフェニックスで地球に持ち帰ったあとで、メビウスによってグレイブゲートという、怪獣墓場に通じるといわれる宇宙の果てに運ばれることになった。
そうして、平穏を取り戻した村の中で、GUYSのクルーたちが熱烈な歓迎を受けたのはいうまでもない。派手なパーティは勘弁してくれということで、シエスタの家で昼食会が開かれただけでお開きとなったが、ヨシュナヴェはあっという間に平らげられてしまい、フェニックスネストに残ったコノミやマリナをうらやましがらせた。
なお、今頃になってこの地方の領主の竜騎士が数騎駆けつけてきて、ガンフェニックスが疑われそうになったが、トリステイン最大勢力のヴァリエール家の三女であるルイズに脅されると、小心さを自ら証明するようにさっさと引き返していった。
だが、明るい光に包まれた村の中で、ふとルイズは才人に呼び出されてガンクルセイダーの納められている寺院で二人きりになった。そしてそこで、心臓が止まりそうな衝撃を才人から受けて、冷たい床に崩れそうになった。
「ルイズ……おれ、地球に帰るよ」
続く