ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第93話  勇者への手向け

 第93話

 勇者への手向け

 

 ウルトラマンヒカリ

 えんま怪獣 エンマーゴ 登場!

 

 

「大変だあ! 怪物が出たぞぉ!」

 真夏の暑すぎるくらいの陽気を受けて、平和そのものであった村に一人の村人の悲鳴がこだまする。大地震を引き起こし、辺境の村の美しい自然を破壊して暗い地の底から、血のように真っ赤な目をらんらんと輝かせて這い出してくる巨大な人影。

 

 身の丈五十二メートル、体重四万五千トン

 

 全身を金色の鎧でまとい、王の文字が刻まれた冠を戴くその姿は古代中国の皇帝の戦装束を思わせ、左手に持った丸い金色の盾には竜の顔の文様が刻まれて、まるで地獄の釜の蓋のようでもある。

 そして、その大きく裂けた口には人間にはありえない巨大な犬歯がずらりと並んで、猛虎の頭蓋すら一撃で噛み砕きそうな異様を放つ。とどめに右手に握られた大剣は鈍く鉄色に輝き、お飾りの宝剣などではなく、数え切れないほどの無機物と有機物を切り裂いて鍛え上げられてきた殺気を放っている。

 これを、子供が間近で見たなら恐怖のあまり泣き喚き、大人でも気の弱い者は気を失うか悲鳴をあげて逃げ惑うだろう。それほどに、こいつの発する威圧感は桁外れであり、見る者に与える絶望感は、同じ人型ながらもかつて才人たちが戦った土くれのフーケのゴーレムなどとは比較にもならない。

 形容する言葉があるのならば、それは魔神のただ一言。

 天災のように荒れ狂い、人々を苦しめる荒ぶる神。

 かつて、江戸時代の地球にも現れ、江戸の街の四分の三を壊滅させたという古の大怪獣が、封印を解かれてこのハルケギニアに蘇ったのだ。

 

 

「GUYS・サリーGO!」

「G・I・G!」

 リュウ隊長の号令を受けて、CREW GUYSの翼、ガンフェニックストライカーが草原から大空へと舞い上がっていく。乗り込むのはガンウィンガーにリュウ、ガンローダーにセリザワ、ガンブースターにジョージ、彼らによって操られた炎の翼は空を切り、やがてタルブ村の南から村に向かって巨大な剣を振りかざしながら歩いてくる、巨大な魔神のような怪獣の前に出た。

「こりゃ驚いたぜ、えんま大王の怪獣じゃねえか!」

「テッペイ、こいつはいったいなんだ?」

「今フェニックスネストのアーカイブドキュメントに検索してます。出ました! ドキュメントZATに一件記録を確認、えんま怪獣エンマーゴです!」

 村に、地上からのナビゲートのために残ったテッペイからフェニックスネストを通して送られてきた怪獣のデータが、ガンフェニックスに届く。先のバキシムとブロッケンとの対決はゲートを抜けてすぐの出会い頭のものだったが、今度は時空を超えての初の本格的な対怪獣作戦だ。

 東京湾上空のゲートをGUYSオーシャンに任せて、基地に帰還したフェニックスネストでも、時空を超えて送られてくる怪獣のデータの分析に余念がない。

「スキャニング完了、ヤプールエネルギーは感知されません」

「ということは、奴はヤプールが送り込んできた怪獣じゃあないってこと?」

「はい、あの世界に元々生息していた怪獣だと思われます。過去のデータとの照合を始めます。弱点とか、あればいいんですけど」

 今回ここに残ったマリナと、データ分析をしているコノミが話し合っている。カナタたち新人隊員は、地球でもあとを絶たないいくつかの怪事件の調査のために出ていて、頭数はそんなに多くないが、彼らのやる気は満タンだ。

 しかしその前に、ミサキ女史はサコミズ総監に対して、戦闘を開始するに当たって厳しい表情で、一つの重大な問題を提唱した。

「サコミズ総監、リュウ隊長は他の知的生命体の生息する惑星上において怪獣に対して攻撃を開始しようとしています。GUYS総監として、この行為を容認なさいますか?」

 そう、これはGUYSとしてはおそらく初の他の惑星への直接の干渉ということになる。先のバキシムたちとの戦いは突発的なものだったからやむを得なかったが、ほかの星のトラブルによそ者である自分たちが勝手に手を出していいのか? この判断を誤れば、救命活動を口実とした侵略行為を容認するという、地球の過去の歴史の汚点を再現することになる。

 サコミズ総監は数秒両手を組んで考え込んでいたが、やがて席から立ち上がるとディレクションルームの全員から、時空を超えた先のリュウたちにもはっきりと聞き取れる声で言い放った。

「……過去にウルトラマンが地球を助けてくれたのは、ただ地球とそこに生きる人たちの平和と幸せを守りたいという、その一心においてのみだった。だから彼らは戦いが終わればすぐに立ち去り、自分から名乗り出たりもしなかった。リュウ、GUYS総監として敵怪獣に対して攻撃を許可する。ただし、たとえ勝利しても一切の見返りを求めず、どれだけの損害を受けても許容しろ。この命令に例外はなく、その範囲内においてのみの行動を認める!」

「G・I・G!」

 我が意を得たりとばかりにリュウは奮起し、全兵装のロックを解除した。元より怪獣を倒して英雄面しようなどいった野心は彼らにはない。そんなつまらないものよりも、ほんの数時間であったが、共に泣いて笑ったこの星の人たちや、その人たちの家族や友人を守りたいという使命感が彼らを奮い立たせる。

「村まで、あとおよそ十キロだ。奴を人里に入れるわけにはいかねえ、ここで食い止めるぞ!」

「G・I・G!」

 あまりに突然の怪獣の出現だったために、まだタルブ村には数多くの人間が残っている。むろん、地球に比べて野盗の集団やオークなどの猛獣の襲撃があるハルケギニアの人々なので危機意識は強く、すでに村はずれにまで避難が始まっているのは見事と言えるだろう。そしてそんな中で、中心になっているのはレリアとシエスタたち親子だった。

「さあ、皆さん早く逃げてください。訓練どおりに東の街道へ向かって、急いで!」

「さあみんな、大きい子は小さい子をかばって、転ばないように走るのよ。大丈夫、お姉ちゃんがついてるからね」

 前にコボルドの大群に襲われたときの教訓から、村をあげての避難訓練を重ねてきた。そのかいあって、村人たちは迅速に避難用具を持って村の外へと一目散に走っていき、その先頭に立っているはずの夫のために、一人の取り残しも出さないように声を上げるレリアと、村中の子供たちを優しくなだめながら駆けさせていくシエスタの姿は、最後まで勇敢に生き抜いたGUYS隊員佐々木武雄の血筋と意志を引き継ぐ者としてふさわしいものだった。だが、人の足と怪獣の歩く速度では圧倒的な差がある。

 避難完了までにまだ時間がかかると判断したリュウは、ためらわずにエンマーゴの真正面から攻撃に出た。合体状態のガンフェニックストライカーから、全ビーム砲の一斉射撃が放たれる。

「喰らえ、バリアントスマッシャー!」

 メテオールを除けばGUYS最強の一撃が一直線にエンマーゴに向かう。しかし、奴は迫ってくる光線に対して避けるそぶりも見せずに、左手に持った盾をかざしてその攻撃を受け止めてしまった。

「跳ね返しやがった!?」

「なんて硬い盾なんだ」

 バキシムとブロッケンの巨体をも吹っ飛ばした一撃が、軽々とはじき返されてしまったことにリュウやジョージも驚きを隠せない。そこへ村の物見やぐらに登って一部始終を見ていたテッペイの通信が入った。

「リュウさん、エンマーゴの盾は、かつてウルトラマンタロウのストリウム光線を跳ね返したほどの強度を誇ります。正面からの攻撃では、メテオールでも通用しないでしょう」

「なんだって! てことはスペシウム弾頭弾でもダメか。なんて奴だ」

 防御力でいえば、恐らくGUYSが戦った中でもトップクラスに入るだろう。下手なバリヤーを張っているのならまだしも、盾は単純ではあるが隙が少なく防御しながら移動も攻撃もできる。しかし、それでも離れていれば剣が主武器のエンマーゴの攻撃を受けないと思っていたら、奴はその鋭く裂けた口から噴煙のように真っ黒な煙を吹きつけてきた。

「危ねえっ!」

 とっさに回避したガンフェニックスのいた場所を、黒煙は青空を黒く塗りつぶすように通り過ぎていった。しかも、回避してそれで安心と思いきや、外れた黒煙はそのまま村の外の木々に当たると、一瞬で緑に茂っていた植物をさびた針金のような枯れ木に変え、数ヘクタールを荒野に変えてしまったのだ。

「なんて奴だ! あんなのが暴れまわったらこの村どころか、世界中が地獄にされちまうぜ」

 リュウがうめいたとおり、エンマーゴは地獄で亡者に責め苦を与える鬼どものように、人間を苦しめる能力をいくつも持っている。その一つがこの黒煙で、あらゆる植物を枯らし、かつて江戸時代には大変な飢餓をもたらしたという。

「リュウ、やつは必ずここで倒すぞ。もし取り逃しでもしたら大変な被害が出る」

「はい、ですがセリザワ隊長はしばらく手を出さないでください。奴は俺たち、GUYSの手で止めます。それが、GUYSの魂を貫いていった佐々木先輩への手向けです」

 セリザワは黙ってうなずき、右腕に現していたナイトブレスを消し去った。異世界に来ても、その命尽きるまで戦い抜いた一人の戦士に、成長したGUYSの力を見せてやり、彼の第二の故郷を守りぬく。それが、唯一地球のことを心残りにして逝った彼への、ただひとつのはなむけだ。

「しっかし、えんま大王の怪獣とはな。いや、本当に怪獣と呼んでいいのか、あれは?」

 ジョージの疑問ももっともであった。怪獣には、恐竜を大きくしたようなものから、人間型、動物型や異形型、不定形型と数え切れないほどの分類があるが、このエンマーゴはその中でもどれにも属さない、超例外的な一体である。

 そもそもが、えんま大王とは一般的には地獄の支配者で、死者の生前の罪を計って天国か地獄行きかを決める裁判官として知られている。これは正式には『夜摩天』といい、この世で初めて死んだ人間が転じたという、仏教における正真正銘の神であり、冥府でさまよう子供を鬼から救いにやってきてくれるという地蔵菩薩と同一の存在ともされる大慈大悲の神様だ。むろん、これには様々な解釈や地方による差もあるのだが、あくまで恐ろしい顔を見せるのは悪人に対してであり、決してただ恐ろしいだけの悪鬼羅刹の類ではないのだ。

 しかし、今目の前にいるエンマーゴはそんな慈悲の心などは微塵も感じさせずに、ただただ見るものに恐怖心を植えつけるように、森森を踏み潰し、あるいは雑草を刈り取るように手に持った剣で切り払いながら、村へ向かって前進してくる。というよりも、地球とは似てはいるが本質はまったく違う文化宗教を持つハルケギニアで、なぜエンマーゴが出現するのだ!?

 だが困惑するGUYS隊員たちの元へ、慌てて届いたミライからの入電は彼らをさらに驚かせるものだった。

「リュウさん、こちらミライです」

「ミライ! お前今までどこで何してたんだ!」

「すみません、ですが緊急事態なんです。あの怪獣が、なんで出現したかがわかったんです!」

「なんだって!」

 リュウたちはそろって驚いた。GUYSの分析も終わってない状態で、どうして先にそんなことがわかるのだと。

「あいつは、お地蔵様に封じ込められていたんです」

「……は?」

「だから、奴は守り神のお地蔵様に封じられていたんです。ですけど、それが盗み出されてしまったから、封印が解かれて暴れだしたんです」

「ミライ、お前寝ぼけてんのか!」

 この忙しいときに、なにをトンチキなことを言い出すんだと、リュウは本気で怒鳴りあげたが、ミライの声は真剣だった。

「うそじゃありません。エンマーゴは元々地獄に落ちることを恐れる人間の気持ちが凝り固まって生まれた怪獣です。あいつは、大昔にこの世界にやってきた浜野真砂衛門という盗賊が、死ぬ前に残した怨念が結晶化したものだそうなんですが、同じようにやってきた錦田景竜というお侍の作ったお地蔵様の力で封じられていたんです。これがそのお地蔵様です」

 そうすらすらとしゃべりきって画面を動かし、才人が支えているお地蔵様や、足元にルイズの爆発で伸びたままで縛り上げられた盗賊たちを見せると、さすがにリュウもうーんとうなった。また、さらにテッペイもその説を指示するように通信に割り込んできた。

「考えられなくはないです。今ドキュメントZATを検索し終えましたが、以前のエンマーゴも土地に埋められていたお地蔵様の力によって封印されていたそうです。エンマーゴが人間の精神エネルギーが作り出した怪獣ならば、人間の精神力で封じ込めることも可能かもしれませんよ」

 この世には、まだ科学では解明できない様々な謎や神秘が満ち溢れている。それに考えてみれば、エンマーゴは怪獣というよりむしろ妖怪に近い存在だ。この類の怪獣は、80の戦ったマイナスエネルギー怪獣が代表的だが、そのほかにも初代ウルトラマンと戦った、交通事故で死んだ少年の魂が乗り移った高原竜ヒドラや、殺された牛の怨念が人間に乗り移って実体化した牛神超獣カウラなどが確認されており、怪獣というものが単に巨大なだけの生物ではないことを示している。

「なるほど、わかんねえけどわかった。しかしミライ、お前そんなことよくわかったな」

「はい、ご本人に教えていただきましたから!」

「……はぁっ!?」

 今度はリュウだけでなく、ジョージやテッペイも怪訝な顔をした。ご本人って、いったい誰のことを言っているのだ? 今度こそ本当に意味がわからない。後ろにいる才人とルイズも、どうやって説明したらよいものかと頭を抱えていたが、仕方なく三人がかりで何度かリュウに怒鳴られながらも説明したことは、今度はフェニックスネストにいた全員も合わせてびっくり仰天させるに充分だった。

 

「幽霊に、教えてもらっただってえ!?」

 

 そう、彼らに地蔵を取り戻すように要請した謎の声や、エンマーゴのことをミライに説明した張本人こそ、地蔵に思念の一部を残して番人にしていた四百年前の妖怪退治屋、錦田小十郎景竜その人であったのだ。

 彼は、四百年前にこの地に出現したエンマーゴを、その類まれな異能の力をもって打ち倒し、この地に平和を取り戻させた。しかし、以前別の土地で封印したタブラのようにこの世から滅するまでにはいたらずに、霊力を込めた地蔵を作って、地中に封じた奴の上に安置して封印の鍵としていたのだ。

”そのとき、念のためにとわしの思念をこの地蔵に残しておいたのじゃが、あいにくと普通の生者にはこの世のものではなくなったわしの姿は見えんで困っておった。この盗人たちの体に乗り移ってもよかったが、あれはあまり好きではないのでのう。じゃが都合のよいことに、お前たちのような異能の力を持つ邪な気を持たぬものがやってきてくれて助かったわ。はっはっはっは”

「と、いうことらしいです」

 ざっとミライから景竜の説明を同時通訳されて、リュウやジョージは目の前に怪獣がいることも忘れて、空いた口がふさがらなかった。それにフェニックスネストでもミライの隣に景竜の幽霊がいると言われて、コノミやマリナが悲鳴をあげていた。

「つまりは、ウルトラマンであるミライさん、その力を持つおれたちにのみ、このおっさんの姿が見えて声も聞けるということらしいですね。全然実感ないけど」

「ていうか、なんで幽霊のくせにこんな偉そうなのよ。幽霊って普通こう……」

 実際、慣れたおかげか今の才人たちには地蔵と重なって、半透明のお侍の姿で景竜が見えていた。しかし、夜ならともかく真昼間、ついでに言えば足もついているためにまったくと言っていいほど恐怖感はなく、むしろまんまとエンマーゴに復活されたというのにあまり緊張感がなさそうで、何か聞いてて腹が立つ。

”ふむ、近頃のわっぱは理屈っぽくていかんのう。年長者の言うことは素直に聞かんか。母上に教わらなかったか?”

「うるさいわよ! だいたいあんたが四百年前にきっちりとどめを刺しとけば、こんなことにはならなかったんでしょうが!」

”いやあ面目ない。が、今はそれどころではあるまい。あやつを捨て置けば、このトリステインという小さな国なんぞ、あっという間に滅ぼされるぞ。つべこべ言わずに手を貸せい”

「と、言ってますがリュウさん」

「ミライ、それほんとーに、その幽霊が言ってるんだろうな?」

 お侍なのだからなのかは知らないが、どうも景竜の言い方はいちいち上から目線でかんに触った。もっとも、一人で妖怪退治の旅を生涯続けるにはそれくらい強い我を持っていなければ勤まらなかったのかもしれないけれど、ルイズなどは、これが才人だったらとっくにぶん殴っているところだ。とはいえ相手が幽霊では殴りようが無いのだが。

 しかし、ミライの言うこととはいってもいまいち半信半疑だったリュウも、彼のもっとも信頼する人であり、ウルトラマンでもあるセリザワに諭されると疑いを捨てた。

「リュウ、考えるのはあとにしろ。お前たち地球人の目には見えないだろうが、俺の目にも、モニターを通してでも精神体が存在しているのがわかる。それに、お前は隊長だろう!」

 ウルトラマンの視力は、単なる透視能力にとどまらずに、こうした霊的な存在にも対応することができることがある。実際に、時空を超えたあのティガやダイナの故郷であるパラレルワールドでも景竜はエンマーゴと同じような、宿那鬼という怪獣を封印しているが、その封印が破られたときにも景竜の霊魂はウルトラマンティガであるマドカ・ダイゴにだけは見えていた。また、セリザワはヒカリとして行動しているときに三度目に訪れた惑星アーブで、滅ぼされたアーブの知性体の精神と出会って勇者の鎧アーブギアを託されている。

「はっ……そうですね。悪かったミライ、考えてみたら、お前がそんなふざけたこと言うわけないもんな」

 リュウはもう一つ、セリザワの言葉に隊長としてのあるべき姿を思い出させられた。どんなときでも、隊長が一番に隊員を疑ってはいけない。どっしりと構えて、隊員たちを受け止めてやらねばいけない。隊長とは、いつでも大黒柱のように構えて、頼れる存在でいなければならない。歴代の防衛チームの隊長たちも、様々な個性を持っていたが、隊員たちにとって不動の存在で、一番信頼できる人だったことに違いはない。

 ただし、心構えはともかく本人の性格はそう簡単には変えられない。

「で、そのお地蔵さんとやらが封印なら、もう一度元に戻せば封印できるのか?」

”今のわしでは、もう奴を再封印するのは無理じゃ。だからぬしらちょうどいい、わしに代わってやつを成敗せい。そうすれば、封印の鍵くらいにはなってやる”

「と、おっしゃってます」

「ふざけるなーっ!」

 無責任というか、図々しいというか、いくら自分に力が残っていないとはいっても態度がでかいにもほどがある。しかも、どっちにしろ怪獣退治はしなければいけないところがなお腹が立つ。

 しかも、怒りっぽいのは一人ではなく。

「サイト、離しなさい! もう頭きたから吹き飛ばしてやるわ!」

「やめろって! 腹立つのはわかるから、地蔵を壊したらもう封印できなくなるだろ!」

 杖を振り回すルイズを羽交い絞めにした才人が引きずっていく。はたから普通の人が見たら、石の人形の前でわめき散らしている変な一団に見えただろうが、彼らは真剣であった。

 しかし、そうして話しているうちにもエンマーゴは刻一刻とタルブ村へ近づいている。

「くそっ、迷ってる暇はねえか、ともかくわかった! とりあえずそいつを壊されたらまずいんだったら、適当なところに運んでおいてくれ。それに、村人が近くにいたんじゃ、どっちみち満足に戦えねえ。こっちはなんとか食い止めてるから、村人の避難を急いでくれ!」

「G・I・G!」

 ミライと、そして才人にも了解を受けたリュウは、村へ向かって驀進するエンマーゴを止めるために、次の作戦を開始した。

「正面からでだめなら、三方向から攻撃をかける。いくぜ、ガンフェニックス・スプリッド!」

 

 そして、ガンフェニックスが全力でエンマーゴの前進を阻んでいるあいだにタルブ村では必死の避難作業が続いていた。

「早く、逃げてください!」

「もたもたしないの、逃げ遅れたら吹っ飛ばすわよ!」

 才人がガンダールヴの力で加速して一軒一軒確認していき、ルイズが遅れている男の尻を蹴っ飛ばす。ミライがお地蔵様を運んでいったので人手が足りないけれど、泣き言を言っても代わりはいない。あと、二人組の盗賊のほうは、ほうっておくわけにもいかないので村人に引き渡して連れて行ってもらったが、避難完了にはまだ時間がかかりそうだった。

 それに、こういう災害時には思わぬトラブルもつきものである。

「泥棒だぁーっ! うちの蓄えが盗まれた!」

「ひゃっはっはっ、間抜けどもめ。慌ててるから隙だらけなんだよバーカ」

 そう、村にいるのは何も村人だけではない。たまたま村を通りすがっていた商人や旅人も多くいて、それらの人々はパニックになって避難の妨げになるばかりか、火事場泥棒に転じて、さらに混乱を拡大させつつあった。

「くそっ! あのボケども!」

「待って、この地区にはまだ逃げ遅れてる人がいるわ、わたしたちが離れたらその人たちはどうなるの!?」

 激情のままにデルフリンガーを抜いて駆け出そうとした才人を、ルイズがそでを引いて押しとどめた。

「わたしだって腹立たしいわよ。けど、今やるべきことはあいつらを捕まえることじゃないわ。自分に与えられた仕事は何があってもやりとげる、それが筋ってものでしょう」

 ルイズは杖を握り締め、唇を血が出そうなほどに噛み締めながらも、才人を止めている。その姿を見て、才人は自分を小さく思うとともに、やっぱりおれのご主人様はすごいやつだなと思った。トリステイン有数の大貴族の子女として生まれ、国の名誉を守ることを生涯の使命として育ってきた彼女にとって、トリステインを汚すああいった輩ははらわたが煮えくり返るほど憎らしいのに違いないが、それを抑えて逃げ遅れている農夫たちや老人のために、あえて無視しようとしている。

「あっはっはっ! 大量大量、これだけあれば当分遊んで暮らせるぜ」

「待ってくれ、それを持っていかれたら、もう来年の仕事ができなくなってしまう」

「うっせえよ! そんなことより、早く逃げねえと踏み潰されるぜ、ま、おれは別の道からとんずらさせてもらうけどな」

 あざ笑いながら逃げていく盗賊たちに、才人とルイズは殺してやりたいほどの怒りを覚えたが、追いかけて捕まえている時間はなく、やつらはどんどん遠ざかっていく。

 しかし、因果応報、自業自得、世の中悪いことをして簡単に生きていけるほど甘くはない。村の外に逃げ出そうとした盗賊たちを、空の上から降り注いできた火炎弾と氷風が、容赦なく叩きのめしたのだ。

『ファイヤーボール!』

『ウェンディアイシクル!』

 炎弾のピンポイント射撃と、無数の氷のナイフが愚か者たちを無慈悲に地面との接吻と、泥をパートナーにしてのダンスを強いた。

「ぎゃああっ、あちい、あちいぃっ!」

「いでぇ、いでえよおっ」

 盗賊たちは盗んだものを放り出して、地面の上でのたうちまわった。そして、その上空からさっそうと現れた青い影に乗る、燃えるような赤い髪と大海のような青い髪は見間違えるはずもない。

「はあい、サイト、ルイズ、あなたたちって、あたしたちがいないと本当にだめねぇ」

「……間に合った」

「キュルケ、タバサ!」

 なんと、飛行機酔いでダウンしていたはずのキュルケが、いまやピンピンした様子でタバサといっしょにシルフィードに乗って、熟達の奏者よろしく杖を軽快に振って笑っていたのだ。

「あんたたち、どうして!?」

「あはははっ! こんなおもしろそうなトラブルのときに、このわたしがへばって寝込んでると思ってるの? 空から見て回って、馬鹿な連中はおおかたお仕置きして回ったわよ」

 不謹慎な発言ではあるが、キュルケは確かにトラブルになればなるほど力を発揮するタイプには違いない。それに、火事場泥棒どもが逃げ隠れしようとしても、北花壇騎士として闇の仕事で慣らしたタバサの目を逃れることはできない。

「サンキュー! 二人とも」

「いいってことよ。こういうお馬鹿たちは一度死ぬような目に合わせないと治らないしね。それよりも、村の東側の避難は完了したみたいだから、あなたたちは西側の残りをお願い」

「わかった。ありがとな!」

「ええ、あたしたちは街道の人たちの護衛に当たるわ。さあっ!」

 最後にキュルケは『レビテーション』で、盗賊たちの傍らに転がっていた盗まれた品物をこちらに飛ばして、北の空へ飛び去っていった。

「ほんと、いざとなるとすげえ頼りになるよな。さあ、これを持って早く逃げてください」

「あ、ありがとうございます。これで来年の作物の種と肥料を買うことができます」

「ですが、それよりも命あっての物種でしょう。さあ早く」

「いいや、それは違う。わしらはこの村の土地に育てられて、この村に生かされてきた。だから、わしらは自分のためと同じように、わしらの故郷を守らんといかん。そのために、この金は絶対必要なんじゃ」

 そう言うと彼は急いで北のほうへと走っていった。だが、才人は彼が言い残した言葉をしばらく噛み締めていた。故郷、自分を育ててくれた故郷、おれにとってそれは……

「サイト、なにぼっとしてるの! まだやることはあるのよ!」

「あっ! そ、そうだったな」

 慌てて頭を切り替えると、才人はルイズとともに村の西側へと走っていった。が、あの農夫の言ったことは、なかなか忘れられそうになかった。

 

 こうして、皆の努力によって避難活動は完了しつつあったが、肝心のエンマーゴの攻略については難航していた。

「くっそ、なんて頑丈な鎧なんだ!」

 盾ではじかれないように三方向から包囲攻撃を仕掛けたにもかかわらずに、各機のビームはエンマーゴが全身にまとった鎧にはじき返されて、一切のダメージを与えられていなかった。それもそのはず、エンマーゴの鎧はなんと十万度の高温や五十万トンの圧力にも耐える力を持っており、過去にZATのスカイホエールによる爆撃にもびくともしていない。

「リュウ、メテオールを使うか?」

「だめだ、今使ったら村人を巻き込む危険がある!」

 メテオールは確かに強力だが制約も大きいし、万能でもない。それにエンマーゴは意外と頭もよく、ZATが地雷作戦を仕掛けたときでもあっさりと見破って破壊してしまっている。これではスペシウム弾頭弾を撃っても盾ではじかれるか切り払われるかしてしまう。が、それよりもメテオールは威力が大きすぎるので、避難が完了していない村の近くで使うのは危険すぎた。仮にスペシウム弾頭弾の一発でも流れ弾になったらタルブ村が吹っ飛んでしまう。

「テッペイ、まだ避難は完了しねえのか! やつはもう村の入り口まで来てんだぞ」

「あと少しです。あと少しで、みんな街道に逃げ込めます。そうすれば、村の南の広場でやつを迎え撃てます。リュウさん、キャプチャーキューブの使用許可を!」

「よし、メテオール解禁、使用制限時間は一分間だ!」

「G・I・G!」

 返礼し、テッペイはトライガーショットをブルーチェンバーにチェンジして、銃口をエンマーゴに向けて、引き金を引いた。

「サイト、なにあれ! 怪物が光の檻に閉じ込められちゃったわ!?」

 残っている人がいないか、最後の確認をしていた才人とルイズは、エンマーゴを突然取り囲んだ光の壁を見て、思わず足を止めていた。

「あれは、キャプチャーキューブだな。あらゆる攻撃を通さないバリヤーを張る。そうか、こういう使い方もあるんだ」

 才人は一軒の家のドアを閉めると、感心したようにつぶやいた。閉じ込められたエンマーゴは、脱出しようと光の壁に剣を打ち付けたりしているが、跳ね返されてまったく身動きできなくなっている。キャプチャーキューブはバリヤーであるので、本来の使用法は防御にあるが、内側の打撃やエネルギーも外に逃がさないために逆用することも可能なのだ。つまり、かつてメビウスがバードンと戦った際にメビュームシュートの命中に合わせて、爆発の衝撃が外に漏れないようにしたり、インペライザーのエネルギー弾を中で乱反射させたり、前のパズズ戦のように自分の攻撃を自分に跳ね返させる手段もあり、さらにこうすれば一分間だけだが敵の動きを封じる監獄とすることもできるのだ。

 

 そして、GUYSの善戦と、才人とルイズや、空中から見て回ったキュルケたちの協力もあって、村人はほとんどが北の街道に避難を完了した。

「これで全員?」

「うん、みんな行ったよ。けど、このままじゃぶどう畑が……」

 レリアとシエスタは、最後の村人が街道に入ったのを見届けると、キャプチャーキューブの封印が解け、GUYSの猛攻を受けながらも前進を続けてくるエンマーゴをにらみつけた。

 村人は全員避難させたけれど、まだ村には皆の家々や畑、なにより村の生命線であるぶどう園が残されている。もちろん命が一番大事なのは当たり前だが、家を破壊されるのはもちろん、あの黒煙をぶどう園に浴びせられかけでもしたら、タルブ村の人々はこれからの生きる糧を失ってしまう。レリアは、エンマーゴの進む先にちょうどぶどう園があるのをじっと見つめていたが、やがて娘の目を見つめると有無を言わせぬ強い口調で言った。

「シエスタ、よく聞きなさい。あなたはこれから走っていって、お父さんや弟たちを守りなさい。いいですね、誰一人犠牲を出してはいけませんよ」

「はい、けれどお母さんは?」

「お母さんは、そうね……自分の村がこんなになってるってのに、のんきに先にあの世に行ってしまったおじいさんの、代わりを務めなきゃいけないから」

 そう言うと、レリアは娘と生き写しの顔を、二十年前怪獣ギマイラと戦ったときと同じように強く輝かせると、娘に背を向けて走っていった。

「お母さん、どこに行くの? お母さーん!」

 シエスタが呼んでも、もう母は振り返らない。そして、その行く先には彼女と祖父との思い出の場所があった。

 

 

 だが、GUYSの必死の防衛線にも関わらず、エンマーゴは自慢の防御力にものを言わせてとうとう村へ侵入してしまった。悪鬼よろしく破壊の歓喜に耳につく笑い声を上げながら、平和だった村にその真っ赤な目を向けて死刑宣告をしようとする。

 しかし、村の広場に入り、テッペイから全住民の避難が完了したと報告が入ると、GUYSはようやく心置きなく総攻撃に入った。

「いくぞみんな、メテオール解禁!」

「パーミッション・トゥシフト・マニューバ!」

 三機がそれぞれイナーシャル・ウイングを展開し、金色の光に包まれてマニューバモードへチェンジする。

「ガトリングデトネイター!」

 攻撃用メテオールの装備されていないガンブースターから六条の光線が発射されて、正面からエンマーゴの盾と火花を散らす。しかしその隙をついてガンウィンガーが、奴の背後から狙いを定めた。

「スペシウム弾頭弾、ファイヤー!」

 背中からスペシウム弾頭弾が突き刺さり、通常の兵器とは比べ物にならない爆発が起こって、エンマーゴが前のめりに吹っ飛ばされる。しかし、鎧にはひび一つ入っていない。

「くそっ、防御力はリフレクト星人以上か!」

「攻撃の手を緩めるな。いくぞ、ブリンガーファン・ターンオン」

 今度はセリザワがガンローダーのブリンガーファンを作動させ、荷電粒子ハリケーンがエンマーゴに襲い掛かる。これにかかれば、どんなに重い怪獣でも木の葉のように吹き上げられてしまう。しかし、奴は剣を地面に突き刺すと、それを支えにしてハリケーンに耐えている。

「なんだと?」

 これまでブリンガーファンで吹き上げられなかった怪獣はいなかっただけに、セリザワもうめくようにつぶやいた。けれども、吹き上げられなかったとしても荷電粒子ハリケーンに包まれ続ければ、かなりのダメージはあるはずだ。リュウたちはそう思ったが、ハリケーンが収まったあと、エンマーゴは剣と盾を振りかざして、何事もなかったように立ち上がったではないか。

「くそっ! まだ動きやがるのか」

 メテオールの攻撃をこれだけ受けてもなお、エンマーゴにはダメージらしいダメージがなかった。さすがはこの世ならざる存在、といってしまえばそれまでだが、笑い話ではすまされない。リュウは、一機ずつの攻撃では効果がないと、ガンフェニックストライカーに合体しての一撃にかけた。

「インビンシブルフェニックス・ディスチャージ!」

 炎の不死鳥が正面からエンマーゴを襲い、灼熱のエネルギーが盾で抑えきれないほどに全身を包んで燃え上がる。これならば、鎧を身につけていても熱が中に浸透してダメージを与えられるだろう。だが、超絶科学メテオールとて万能でも無敵でもないことを、彼らは再認識させられることになった。

「馬鹿な! 炎を振り払った」

 仏教では、地獄はその苦行に応じて六つに分類され、その中の一つに亡者が永遠に地獄の炎で焼かれ続けるという焦熱地獄というものがある。エンマーゴは、その六道地獄を支配する閻魔大王ともあろうものが、この程度の炎に焼かれるものかと炎を振り払い、マニューバモードの時間が切れて唖然と見ている彼らの前で、ついに村に手を下し始めた。笑いながら、まずは物置小屋を一足で踏み潰し、村一番の高さをほこった風車を、まるでつくしのように切り捨ててしまう。

 むろん、GUYSはあきらめずに通常兵器で攻撃を続けるが、奴の前進は止まらない。その猛威はもはや天災とすら呼んでよかった。

 しかし、奴は村の家々を破壊しつくそうとはせずに、吸い寄せられるかのようにある一点にのみ向かっていた。

「あいつ、村のブドウ畑に向かってる!」

 才人たちは、奴の目的が青々と茂るブドウ畑を枯らしつくすことだと知って愕然とした。あれがやられれば、タルブ村の人々は生き延びたとしても、生活する術を失う。奴はそれを知って、もっとも村人が苦しむ方法をとろうとしているのだ。

「やろう、行かせてたまるか!」

 怒った才人は、懐からガッツブラスターを取り出して、奴の後頭部に撃ち込んだ。すると一瞬奴の動きが止まり、こちらのほうを睨んで、口からあの黒煙を吐いてきた。

「ルイズ、危ない!」

「きゃっ!」

 間一髪、飛びのいた先を荒地にして黒煙は二人のそばをすり抜けていった。しかし、わずかに吸い込んでしまった煙は喉を焼き、目に入った煙は視力を奪った。

「げほっ、げほっ!」

「サイト、どこっ、目が、目が見えないっ!」

 焚き火の煙をまともに浴びてしまったときのように、二人は咳き込み、涙を流して動けなくなってしまった。それでも、才人はわずかに薄目を開いて照準を定め、ガッツブラスターをエンマーゴに向かって放ったが、三発、四発目を撃ったところでとうとうそのときがやってきた。

「弾切れ……ち、畜生っ」

 いくら引き金を引いてもカチリ、カチリというだけで、もう銃口からビームは放たれない。アスカ・シンからオスマン、そして才人の手に渡ってから、数々の戦いを潜り抜けてきたこの銃も、エネルギー切れという運命からだけは逃れられなかった。

 エンマーゴは、GUYSの攻撃などは意に介さないといわんばかりにブドウ畑へ向かう。才人の行動を見て、地上からテッペイとミライも援護射撃を加えたが、やはり黒煙を受けて戦闘不能にされ、才人たちもミライも変身不能にされてしまった。

「ああっ、わしらの畑がやられる……」

 街道の先の、ラ・ロシュールへ続く山道から村を振り返った人々は、精魂込めて作り上げてきた畑が、悪鬼の手にかかろうとしているのを見て、がっくりとひざを折った。

 しかし、あざ笑いながらエンマーゴがその口を開けたとき、その後頭部に爆発が起き、黒煙を吐こうとしていた奴をよろめかせた。

「今のはバスターブレッド!? ミライかテッペイか?」

 ジョージは、自分の超視力で一瞬だけ見えた光弾の形から、当たったのがトライガーショットのバスターブレッドだと判断した。しかし、地上から撃てるはずの二人は黒煙でまだむせていて、とても銃を撃てる状態ではないはず。

 ならば誰が? その疑問は弾道から逆算した先にある、村の外れの寺院のそばにある墓地に立つ一人の姿を見たときに解かれた。

「あれは……レリアさん!?」

 なんと、そこにはシエスタの母が、祖父の形見のトライガーショットを握り、毅然とした顔で、大怪獣を睨みつけていたのだ。

「おじいさんの愛したこの村を、お前などの好きにはさせません!」

 ギマイラとの戦いから、眠り続けていた銃口がうなり、顔を狙って放たれた弾丸が火花を散らす。もちろん、そんな無茶もいいところの行動には、リュウやジョージも聞こえないことを承知で、やめろ、逃げろと叫ぶが、驚いたことに本来なら、エンマーゴにはこの程度の銃撃は効かないはずなのに、まるで村を守ろうとするレリアの気迫に押されているかのように、エンマーゴは必死で顔をガードしているではないか。

「すげえ……」

 ガンフェニックスの攻撃をものともしなかったエンマーゴが、たった一丁の銃と、か弱い女性一人にひるんでいる。信じられない光景だが、人間の意思の力は時に常識を超えた力を発揮する。

 しかし、放たれた一発が偶然にもエンマーゴの目元を直撃してしまったことで、追い込まれていた奴はとうとう逆上してしまった。そして、もうブドウ園などどうでもいいとばかりに、剣を振りかざしてレリアに襲い掛かった。

「危ない!」

 村の家や街路樹を蹴散らして、走ることで地震すら引き起こしながら、エンマーゴはたった一人の女性に向かって迫り来る。レリアはそれでも、村のみなの未来のためなら、きっと祖父もそうしただろうと、胸を張って立ち続けていた。だがそこに、ここで聞こえるはずのない声が彼女の耳に飛び込んできた。

「お母さーん!」

「シエスタ!? どうしてここに」

「だって、だってお母さん、死ぬ気なんでしょう!」

 愕然として振り返ったとき、目の前には街道に残してきたはずの娘が、息を切らせながら走ってきている姿があって、彼女は顔色を無くした。いけない、怪獣はもうそこまで来ている、私一人ならともかく、シエスタを巻き込むわけにはいかない。

「馬鹿、逃げるのよ! はっ!?」

 そのときにはすでに遅く、エンマーゴの剣は彼女たちの頭上に来ており、レリアはとっさに娘の盾になろうと、その身に覆いかぶさった。

 だが、エンマーゴの剣が彼女たちに地獄の判決を下そうとした瞬間、セリザワの右手にナイトブレスが輝き、ガンローダーのコクピットから一条の光が飛び立った。

「きゃあっ!」

「……っ」

 レリアは、悲鳴をあげた娘を抱きかかえ、心の中の祖父に娘を守りきれなかったことをわびた。しかし、覚悟してもいっこうに痛みも、魂が天に登っていく感覚も無く、そっと目を開けて見上げてみると……そこには、青く輝く希望……群青に輝く光の巨人が、エンマーゴとレリアたちのあいだに割り込み、右腕から伸びた光の剣で、邪悪な一刀を受け止めている姿があったのだ! 

「ウル……トラマン」

 レリアの口は、無意識のうちに懐かしい温かさを持つ、その巨人の名を口ずさんでいた。そして、自分たちを守って立ち上がるその青いウルトラマンから、彼女はかつてウルトラマンダイナを見たときのような、強く、頼もしい声を聞いたような気がした。

 

「佐々木と、あなた方の意思は、俺が引き継ぐ! もうこれ以上、この村をお前の好きにはさせんぞ!」

 

 今、ナイトビームブレードの一撃でエンマーゴを押し返したウルトラマンヒカリが、強く輝く正義の剣を右腕に宿し、友と、その愛したすべてを守るために立ち上がった。

 

 

 続く


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