ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第90話  決断のとき

 第90話

 決断のとき

 

 ウルトラマンメビウス

 マケット怪獣 リムエレキング 登場

 

 

 アルビオン大陸を覆っていた戦雲は、長い戦いの末に払われた。

 しかし、一つの戦いの終わりは、また新たなストーリーの始まりでもある。

 

 激闘の末に、ブロッケンを倒し、バキシムを退けてヤプールの陰謀を完全に打ち砕いたウルトラマンA、ウルトラマンメビウス、そしてガンフェニックス。

 彼らが空のかなたへと飛び去っていったのを見送ると、アンリエッタとウェールズたちには新しい戦いが待っていた。戦争は終わったものの、後始末はまさにこれからだ。ふたりには、いまだに興奮冷めやらぬ兵たちをまとめて、負傷者の救護から使い物にならなくなった城から別の拠点への移動の準備と、戦闘中にも増して忙しい時間が用意されていたのだ。

「水のメイジと秘薬は重傷者の介護に優先的に回しなさい。自分で歩ける程度の負傷者は、たとえ貴族でも後回しにしてかまいません」

「内戦終結を国中の生き残った貴族や領主に知らせて、王政府に従属することを制約させるために送る書簡と、各国に王政府が復古したことを宣言する書簡が何百通も、しかも早期にいるだと? なぜそんなことを早く……ええいペンと公文書紙をもて! それから使者の準備をしろ」

 次から次へと面倒な仕事が二人のもとへ入ってくるが、二人は疲れた体を押してその公務を果たしていった。しかし、レコン・キスタの完全崩壊と内戦の終結は、数日と経たずにアルビオン全土、さらにはハルケギニア全土に伝わって、また人々は安心して生活できる日が戻ってくるだろう。そのためと思えば、この程度の苦労はなんでもなく、むしろ力が湧いてくるくらいだった。

 その光景を、戦いから解放されたカリーヌ、アニエスらは当然自分たちも手伝いながら、どこか楽しそうに横目で見ていた。

「ふむ……あれだけのことをこなしたばかりだというのに元気なものだ。やはり、若いというものはいいものだ。私もあれくらいのころは」

「ほお、伝説の『烈風』の青春? それは少なからず興味がありますな」

 短いとはいえ、ともに死地を抜けて戦友と呼べる間柄になったカリーヌとアニエスは、頼もしく働いている自分たちの主君を見て、満足げにつぶやいていた。しかし、その余裕は数秒も経たずに破られた。

「お二人とも、仕事は山積みなんですから私語は謹んでください! 隊長、恩賞を求める貴族や傭兵の部隊が詰め掛けてきてますから、実績と身元、功績の証拠を書類にまとめて提出するように説明してきてください! 『烈風』どのも、補給部隊がもうすぐ到着するはずですから出迎えと護衛をお願いします。とにかく人手が足りないんですから!」

「あっ! す、すまん」

「むう、騎士など平和になれば役立たずか……」

 戦闘となれば一騎当千のアニエスとカリーヌも、戦いが終わってみれば馬車の中に作った簡易事務所の中で、被害報告や嘆願書やらの書類と格闘しているミシェルに怒鳴られる立場に転落してしまっていた。

「やれやれ……事務仕事を部下に任せきりにしていたツケがこんなところで回ってくるとは」

「まあ、若いうちは何事も経験と思うことだ。愚痴をこぼしていられるのも、今のうちだぞ」

 これからさらに忙しくなるだろうし、笑って済ませられないことも数多く出てくるだろう。それでもこうして、新生アルビオン王国とトリステイン王国はこの日、新しい一歩を踏み出した。

 

 しかし、どんなに太陽が明るく照らそうとも、いつかは日が沈んで夜が来るように、ヤプールがまだ滅んでいない以上、この平和がかりそめのものであることを誰もが知っていた。そう、確かに、ヤプールはこの世界における最大の作戦を失敗し、多数の怪獣、超獣を失い、バキシムも深手を負ったためにすぐには手を打てないだろうが、奴が復讐をあきらめるということは絶対にない。必ず、より強力な超獣とより悪辣な計略を持って侵略攻撃を仕掛けてくるだろう。それまでに、こちらも迎え撃てるだけの戦力を整えておかねばならない。戦いは、まだこれからが本番だった。

 

 そしてもう一つ、人間たちを救ったあと、高空をマッハで飛び、かなたへと飛び去っていった三つの光。その行方がどうなったのか、それからもう一つの幕があがる。

 

 二大超獣を撃破し、大空へと飛び立ったウルトラマンA、ウルトラマンメビウス、そしてガンフェニックストライカーは瞬く間に人間たちの肉眼で観測できる距離から飛び去っていっていたが、彼らは神でも霊魂でもない。その消えていった先は天上界でも冥界でもなく、まだこの世界に確かに存在していた。

 

 ここは戦場から一〇リーグばかり離れた、森の中にぽっかりと開いた草原。そこに、青々と茂る草花をカーペットにして、才人とルイズが寝転んでいた。

「生きてるなあ」

「そうよねえ……」

 全身の力を抜いて、草原の上に大の字で寝転んだ二人の肌を太陽の日差しが暖めて、吹き去っていった風が冷やし、草の香りが鼻腔をなでる。ハルケギニアの自然の息吹が、二人に生きているという実感を与えていた。

 とにかく、今回の戦いはいままでとは激しさが違った。怪獣、宇宙人、円盤生物、そして超獣の息もつかせぬ波状攻撃……よくぞ、生き残れたものだ。死を恐れないとか口では偉そうなことを言えるが、やはり生きている幸福は生きているときにだけ味わえるものだ。

「なあルイズ」

「ん?」

 ルイズはぼんやりと返事をした。戦いのダメージは、エースが後遺症が残らないようにしてくれたとはいえ、全身をガタガタになったような疲労感が包んでいる。しかしそれは心地よい疲れだった。大きな仕事をやりとげた後の、満足感のともなう疲労感だった。

「俺たち、やったんだよな?」

「ん? んっふっふっふふ……あーはっはっはっ!」

 なんのことかと思ったら、そんなことかとルイズは笑い出した。

「おい、なんで笑うんだよ?」

「あっはっはっ! だって、あんまり当たり前なこと言うんだもの。そんなに自信がなかったの? バカねえ、わたしが保障してあげるわよ。わたしたちは勝った、どっか間違ってる?」

「はっ……そうか、そうだよな」

 ルイズの一言で、才人もようやく胸をなでおろして、ルイズといっしょに大きな声で遠慮のない笑い声を、彼ら以外誰もいない草原の上に響かせた。そしてひとしきり笑ったあとで、上体を起こすと顔を見つめあった。

「よう、ゼロのルイズ」

「なに、馬鹿犬」

 いつもだったら腹立たしい言葉も、今は何も感じない。むしろ、貴族だの軍隊だの政治だの、そんなものとは何一つ関係のない凡人以下の自分たちが、一時的にせよ世界を救ったという圧倒的な優越感が二人の心を満たし、自然と手を握り合った。そして目と目を見つめあい、どちらからともなく顔を近づけはじめた。

 が、そこで突如頭上から響いてきたジェット音と、森の木々をもゆるがせる暴風で我に返って空を見上げると、そこには。

「サイト、あれは!」

「そうか! 忘れてた」

 草原の中央へと向かって、大きな影を差しかけながら降下してくる炎を描いた鋼鉄の翼。空からジェットの垂直噴射でガンフェニックストライカーが降下してきたのだ。

 それは、今から数分前のこと。

「ではメビウス、またあとでな」

「はい、兄さん」

 人間たちの見える距離から離れたと確認したウルトラマンAは、ヒビノ・ミライの姿に戻ってガンフェニックスのコクピットに座ったメビウスと分かれて、一旦別の方向へと飛んでいった。マグネリウム・メディカライザーでエネルギーを補充できたものの、活動限界時間は刻々と近づいてきており、早めに変身を解除する必要があったのである。

「さて、それではどのあたりに……」

 見下ろす先は、人里はなれた未開の樹林地帯が延々と続いていた。サウスゴータ地方はアルビオンの重要な拠点であるが、ひとたび都市部を離れると、手付かずの自然が残っている。ただそれはいいのだが、そんな中で変身解除しても上空のガンフェニックスに気づいてもらえないし、気づいてもらえたとしても着陸することができない。

 だが、時間が近づいてカラータイマーも鳴り出し、さすがに焦りが湧いてきたときに森の中にぽっかりと開いた草原を見つけることができた。そこへ向かって手を合わせるとリング状の光線が二つ発射されてエースの姿が掻き消え、草原に降り立った

リングの中から二人の姿が現れた。ただし、二人とも疲労感だけはしっかりとエースから分け与えられていたために、開放感からすっかりガンフェニックスとメビウスのことを忘れて、寝込んでしまっていたのだった。

「すげえ、本物のガンフェニックストライカーだ!」

 雑誌やテレビの中で親しみ、何度か東京上空を飛んでいくのを遠くから見ていたCREW GUYSの主力戦闘機が今、目の前に実物が下りてこようとしている。

「サイト、一応聞いておくけどあれって……」

「ああ、おれの世界の戦闘機だ。すっげーっ! こんなに近くで見るの初めてだ」

 興奮して目を輝かせている才人と、圧倒されているルイズの前で、ガンフェニックスはジェット噴射で彼らの髪をなびかせながら着陸し、ガンウィンガーのコクピットが開くと、そこから才人にとってあこがれの人物が降りてきた。

「ヒビノ・ミライ隊員だ!」

 そう、彼こそウルトラマンメビウスその人。あのエンペラ星人との決戦のときに、才人も彼がメビウスであることを知って、ずっと一度会ってみたいと思っていたのだ。さらに見てみれば、ガンローダーやガンブースターからも、TVで見知ったGUYSの隊員たちが続々と降りてくる。皆、地球を救ったまぎれもない英雄たち、才人だけでなく、地球で彼らのことを知らないものはいない。

 だが、ガンフェニックスから降りて、こちらに向かって駆けてきたミライ隊員の第一声は、二人を仰天させた。

 

「エース兄さん!」

「え?」

「へ?」

 

 一瞬、空気が凍りついた。にこやかに笑っているミライに対して、二人の顔は驚愕とパニックで引きつってしまっている。が、それも当然である。いきなり正体をそのものずばりで言い当てられてしまったのだから。だけど、二人が鯉のように口を無意味に動かしながらうろたえていると、そこへセリザワがとがめるようにミライへ告げた。

「メビウス、お前と違って人間と同化したウルトラマンは元の人格と同居しているんだ。そんな直接的に言っては驚かせてしまうだろう。それに、彼らにも人間としての生活があるんだ。それを考えろ」

 厳しいセリザワの言葉に、ミライははっとしたように二人に向かって頭を下げた。

「す、すみません。つい兄さんとまた会えたことがうれしくて」

「あ、そんないいですよ」

 ほとんど九十度の姿勢で、すまなさそうに頭を下げられては怒るセリフなど湧いてくるはずもなかった。

 しかし、頭の回転が人一倍速いルイズはセリザワとミライの言葉の中にあった聞き捨てならない単語を耳ざとく捉えていた。

「ちょっ、ちょっと待ってよ。わたしたちを兄さんってことは、あんたは……」

 するとミライはルイズのほうを向いてにっこりと笑い。

「はじめまして、僕はヒビノ・ミライ、ウルトラマンメビウスです」

「えっ……ええーっ!」

 びっくり仰天して、思わず後ろに飛びのいたルイズを見て、才人はやったねとばかりに口元をほころばせた。見ると、後ろのほうでもマリナ隊員やジョージ隊員が苦笑いしていた。

「あーあ、そりゃまあびっくりするよね。あたしたちだってそうだったもの」

「そうだよな。で、ミライ、その二人がか?」

「はい! お二人の手の、ウルトラリングがその証拠です!」

 明るくはきはきと語るミライは、頼もしい兄を自慢するようでとても輝いていた。それはそうだ、エースだけではなく、長男ゾフィーから一つ上の兄の80まで誰もが地球と宇宙の平和を守り抜いてきた永遠のヒーローたちだ。今ではメビウスもその栄光あるウルトラ兄弟の中の一人であるが、彼にとって兄たちがあこがれの人であるのは変わりない。

 がしかし、目の前にいる子供二人がウルトラマンだとはにわかには信じがたいGUYSの面々に興味深げに見つめられて、ルイズは自分がまるで珍獣になったような気分を味わっていた。

「ちょっとサイト、この連中なんなのよ!?」

「おっ、落ち着けルイズ。えーっと、話せば長いことながら……とりあえずサインください」

「あんたが落ち着けぇ!」

 あこがれのヒーローのウルトラマンメビウスと会えて、才人はアイドルのコンサートで偶然声をかけてもらったミーハーな女の子のようになっていた。といっても、本物のウルトラマンや防衛チームの人たちに会えたのだから才人ならずとも大なり小なり動揺しただろう。道端で総理大臣だの大統領に会ったのだとかいうのとは格が違う。

 

 ちなみにそのとき、エースは大混乱まっしぐらな才人とルイズを置いていて、メビウスとテレパシーでわずかだが先んじて会話をしていた。

(あらためて、よく来てくれたなメビウス)

(はい! リュウさんや、GUYSのみんなのおかげです)

 ウルトラマンA、北斗星司はGUYSの面々を見て、かつてのTACの仲間たちのことを思い出した。以前に、ウルトラマンジャック、郷秀樹はGUYSのことを家と表現したが、それほどの絆で結ばれた仲間を得ることほど、人生においての宝はない。

(迷惑をかけたな。皆は変わりないか?)

(はい、ゾフィー兄さんも、大隊長もきっと喜ぶと思います)

(そうか……)

 メビウスはうれしそうに言うが、その言葉でウルトラの父や兄弟たちに心配をかけていたとわかって、エースは罪悪感を覚えた。それに、ボガールによってM78星雲のアニマル星が襲撃されたことなどを聞かされて、ヤプールの攻撃が向こうの世界にも及びはじめたことを知って慄然となった。

(ほんの半年でそこまで……ヤプールめ、怪獣墓場にはまだ数多くの凶悪怪獣たちが眠っている。このままでは、奴の戦力は際限なく強化されていくぞ)

 いくら攻撃を食い止めても、ヤプールはいくらでもやり直しが利く状況ではいつまで経っても戦いは終わらない。新たなる戦いの予感が、エースの心に走ったが、彼は才人とルイズの分も疲労していたので、残念ながら会話はそれ以上長くは続けられなかった。けれどそれでも、ミライは心配しつづけていた兄の無事を確認できてうれしかった。

 

 しかし、感動の再会を果たした兄弟とは裏腹に、いつものやりとりをはじめた才人とルイズだったが、才人も浮かれてばかりはいられなかった。

「しかしミライ、あんまりホイホイ正体明かすようなまねすんなよ。いくら相手がお前の兄さんだからってな。さてと、君が平賀才人くんだな?」

「え!? どうして俺のことを」

 てっきりGUYSはウルトラマンAを追ってやってきたと思っていた才人は驚いたが、リュウはまだ貫禄というものにはほど遠いものの、姿勢を正して彼に言った。

「GUYSの情報収集力を甘くみちゃいかん。ウルトラマンAが消息を絶ったのと同じ日に、君が失踪した秋葉原で次元の歪みが観測されていたんだ。それで調べた結果、君のことが捜査線に浮上してきたのさ」

 セリザワ隊長とサコミズ隊長を真似しているのだろうけれど、どちらかといえばトリヤマ補佐官のほうを連想させるリュウの仕草と口調に、マリナとジョージは声を殺して笑っていた。

「じゃあ、GUYSはおれを探してここへ?」

「人命救助も、立派なGUYSの仕事だからな。命の大切さに、人間もウルトラマンも差はねえよ。しかし、まさかウルトラマンAと合体してるとは思わなかったけどな」

「あ、はい……ぼくらは、エースに命を救われたんです」

 才人はリュウたちに、ベロクロンに一度殺されて、それでウルトラマンAに救われたことを語った。

「本当は、ぼくたちはとっくのとうに死んでるはずだったんです。けれど、エースに助けられて、それでせめて役に立てればと思って」

「そうか、苦労したんだな。たった一人で、よく頑張った」

「いえ、おれは決して一人じゃああり……いだだだっ!?」

 一人ではありませんでしたと、そう言おうとしたところで才人は耳を思いっきり引っ張られる痛みに襲われた。

「こらあ、このバカ犬! さっきからご主人様を無視して、なに一人でくっちゃべってんの!」

 存在をスルーされていたことで、夜叉のようになっているルイズの顔を見て、しまったルイズのこと忘れてたと思ったときには遅かった。

「あだだだ! ルイズ、ちょっとやめろって!」

「うるさい! だいたいあんたはなにかれ構わず気が散りすぎるのよ。もう何百ぺんも、なにを置いてもわたしを第一に行動しなさいと言い聞かせてあげてるでしょうが!」

 才人は、そんなに言われたか? ていうか忘れてたのは謝るから爆発は勘弁してくださいと、必死に懇願したが、ルイズの怒りはそんな簡単には収まりそうもなかった。なにせ、プライドと独占欲が人一倍強い上に、主人と使い魔という関係から才人に対しては自制心が極端に薄い彼女のこと、最初はガンフェニックスや、ウルトラマンメビウスに驚いて慌てたけれど、気が落ち着いてみれば、無視されていた不愉快さプラス、せっかくさっきは才人といい雰囲気になりかけたところで水を差された腹立たしさが蘇ってきて、ルイズの機嫌はツインテールを食べ損ねたグドンのようになってしまっていた。

 もっとも、そんな二人の様子を見てあっけにとられたのは、もちろん二人のいきさつなど知るはずもないGUYSの面々であった。

「えーっと、そちらのお嬢さんは……」

 GUYSの面々は、視線を隣で不機嫌そうにしているルイズへと向けた。すると、ルイズはきっとして振り返ると、地球の街場で見かけるような女子高生とは比較にならないほど、鋭い目つきで彼らを睨み付けた。

「なに!?」

 目つきの悪さなら、残酷怪獣ガモスといい勝負をしそうな今のルイズを前にしては、大抵の男はおじけずいて声をかけられないだろう。だが、そこで持ち前を発揮したのが、GUYS一の伊達男のジョージだった。

「失礼、セニョリータ、君のパートナーを無断でお借りしてすみませんでした。私はCREW GUYS JAPANの隊員でジョージと申します。よろしければうるわしき貴女のお名前をお聞かせ願えますか?」

「あら、少しは礼儀のわかる奴がいるみたいね。いいわ、わたしの名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、以後お見知りおきを」

 聞いているこっちが恥ずかしくなるジョージの歯の浮くようなセリフが、意外とルイズの気に入ったようだった。とはいえ、同じような台詞ならほかの貴族から飽きるくらいに聞かされているであろうルイズに通じたのはジョージの人柄のなせるわざか。ともあれ、ずいぶんと今更だが、ここに来てようやくルイズとGUYSの面々はお互いに名乗りあった。しかし、さっきの才人の説明でルイズが才人と同じく、ウルトラマンAと分離合体している人間なのはわかったが、その才人との係わり合いがGUYSの面々を唖然とさせた。

「こいつはわたしの召喚した使い魔、だからわたしはこいつの主人なのよ!」

「はぁ?」

 怪訝な顔をする一同を前にして、才人は頭が痛くなるのを我慢して、あまり思い出したくない召喚時の思い出と、ルイズとはそれでご主人様と使い魔という関係になってしまったこと、それでこの半年をいろいろな事件に見舞われながらも微妙な関係を続けてきたことを、とりあえずルイズを怒らせない程度にまとめて説明した。しかし、戦闘中にもこの星の住人は完全な地球人型で、星もほぼ完全な地球型惑星であることは観測されており、だからこそ宇宙服もつけずにガンフェニックスから降りてきたのだが、ここまで地球とそっくりだと時空を超えてきたという実感も薄まってしまっていた。

「なによ?」

「えーっと……人間、だよな?」

「はぁ? なに寝とぼけたこと言ってるの、あんたバカぁ?」

 と、言われてもリュウたちから見れば、ルイズは中学生くらいの普通の女の子にしか見えないので、なんと言ってきりだせばいいのか困惑してしまっていた。なにせ、過去の記録はともかくGUYSが直接会ったことのある宇宙人ではサイコキノ星人のカコや、メイツ星人のビオも人間と同じ姿をしていたが、あれはあくまで地球人に変身していたのであって、元から完全な地球人型の宇宙人と会うのはこれが初めてである。またルイズのほうも、GUYSの面々をあからさまに警戒している。

「お、おいルイズ」

「なによ、ケンカ売ってるのはあっちでしょ。人のことじろじろ見て、失礼ったらないわ」

 それはそうなのだし、ルイズの性格から言って見世物のようにされるのは到底我慢ならないものなのもわかるが、自分でさえハルケギニアになじむにはかなりの時間を必要としたのだ。まして、GUYSの面々はこちらに来てまだ一時間も経っていないのである。

 これはまずいかも……互いに、話を切り出せずににらみ合いが続いた。このままでは、ただでさえ短気なルイズが怒って、話がややこしくなると思った才人は仕方なしに両者のあいだに入っていった。そしてまためんどくさいなあと思いながらも、ルイズにはGUYSが自分の国でウルトラマンといっしょに平和を守った人たちであること、GUYSの面々には、このハルケギニアは地球と非常によく似た環境や文明を持っているが、彼らが魔法と呼ぶ超能力は持っているものの、まだ自分たちが星というものに住んでいる概念すらないことを、大急ぎで説明した。

「……というわけです。あー疲れた」

 さっきから説明しっぱなしで才人はようやく息をついた。ほんとに、こんなにしゃべったのは久しぶりだ。召喚のときから今までのことを、ほとんど根こそぎ口に出してしまったように思える。水があったらペットボトル一本分は飲みつくしたいところだが、才人やウルトラマンAが消えたいきさつから、このハルケギニアの概要をまとめて聞かされたリュウたちのショックは大きかった。

「つまり、ここには宇宙船とか時空転移装置とかいうものは?」

「そんなもん、あったらとっくに使わせてもらってますよ」

「あー……なんてこったい」

 才人が次元の裂け目に消えてしまったことについては判明していたものの、そんなものを作り出すのだから、てっきり科学の進んだ星に連れ去られてしまったものだと思い込んでいたGUYSの面々は、それがまさか使い魔召喚のための儀式による事故だったとは思いもよらず、拍子抜けしたようにしていた。唯一の例外は、ウルトラマンヒカリと意識を共用しているセリザワで、彼はその科学者としての知識と経験から、彼らにこう説明した。

「テレポーテーションやワープのミスで、たまにとんでもない場所に出たり、時空を超えた場所からものを呼び寄せたりすることがある。ある星の例だが、ブラックホール兵器の実験中に、誤って古代の巨大昆虫を呼び出してしまい、都市がひとつ壊滅させられた例があるそうだ」

 ウルトラマンでさえ、空間移動には膨大なエネルギーを必要とする。この星ではそれがサモン・サーヴァントという形でそれが日常的におこなわれているが、実は自分の望んだものを遠方から転移させてくるというのは大変なことなのだ。

 また、魔法についてなのだが、一応証拠としてルイズが爆発を起こして見せたものの、分身したり火を噴いたりと、超能力を持った宇宙人は山のようにいるので初期の才人のようにGUYSの面々は特に驚いたりはしなかった。むしろそれよりも、あらためてルイズの顔と才人の顔を間近で見比べて。

「しかし、ほとんど地球人と同じなんでびっくりしたぜ」

 そう言われて才人ははっとした。確かに、地球人から見ればルイズたちは別の星の、いわゆる宇宙人に違いない。魔法という超能力を使える以外は一切違いがないので、これまで考えたこともなく、思わず自分もルイズの顔をじっと見つめた。

「なによ、わたしの顔になんかついてるの?」

「あ、いや……なんでもねえよ」

 髪の毛をかきむしって、才人はいかんいかんと自分自身に警鐘を鳴らした。考えてみれば、ウルトラマンはいうに及ばず地球人だって立派な宇宙人ではないか。彼は自分の心の中に、宇宙人イコール悪という間違った方程式ができていたことに自己嫌悪を覚えると、それを意識して追い出した。しかし、同時にやはり自分は違う星に生まれたのだということをあらためて実感してしまうことになった。

「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」

「いや、ほんとになんでもないって。あ、そういえばエースはM78星雲出身のウルトラマンは、この世界の人間と同化しないと一分間しか行動できないって言ってたのに、どうしてメビウス……ミライさんはなんともないんですか?」

 余計なことを言ったらまた殴られそうだったので、才人はとにかくごまかした。

「そういえば……あのときエースは太陽の光に苦手なものが含まれてるとか言ってたけど、どうしてあんたは平気だったの?」

 ウルトラマンダイナやウルトラマンジャスティスはM78星雲出身ではないので別格だと思っていたが、エースと同族のメビウスはその制約を受けてしまうはずなのだ。しかしミライは少し考え込むと、その質問に一つの仮説を提示した。

「いえ、エース兄さんの言うとおりだと思います。僕も変身したときに、少し体が重いような気がしました。僕が平気でいられたのは、多分これのおかげだと思います」

 そう言ってミライは左腕に現れたメビウスブレスをかざして見せた。

「これは、ウルトラの父から預かった神秘のアイテムなんです。武器としてだけでなく、様々な環境から僕を守ってくれています」

「へえ、便利なものがあるものだなあ」

 才人はミライの腕に赤く輝くメビウスブレスを見て思った。メビウスブレスは今でも謎の多いアイテムで、変身のときやメビウスの技の元になるだけでなく、本来ウルトラ心臓を持つタロウにしかできないウルトラダイナマイトを、ウルトラ心臓の代わりになることで可能にするなど、超絶的な力を秘めている。これが、どういう理屈かはわからないが、メビウスをこの星の環境から保護しているのだろう。

「この星は、僕たちM78星雲のウルトラマンにとっては過酷な環境なんですね。エース兄さんをずっと助けていただいて、どうもありがとうございました」

「いや! 命を助けてもらえたことに比べればこのくらい」

「まあまあミライ、つもる話は多いが、ともかく今はみんな無事だったことを喜べよ。ほんとに、無事でよかったよかった。なあ」

「あ、ありがとうございます」

 豪快にリュウに肩を叩かれると、才人の体が強く震えた。自分のような、まだ未成熟で、魔法の力で底上げした強さしかない細身ではなく、長年の鍛錬と実戦で鍛え上げられた大人の体、戦士の肉体の力強さだった。もっとも、マリナなどは「熱血バカはこれだから」などと呆れているけれど、やがて才人に向かって話しかけた。

「ところで才人くん、私たちに聞きたいことがあるんじゃないかな?」

「あっ、そ、そうだった!」

 うっかりあこがれのGUYSやウルトラマンメビウスと会えたことで舞い上がっていたが、考えてみれば、聞きたいことはほかにも山のようにあった。どうしてGUYSがこの世界に来れたのか、地球は今どうなっているのか、ほかにも地球に残してきた両親のことなど数限りない。だが、頭の中を整理すれば一番に聞きたいことは決まっていた。

「ど、どうやって、あなたがたはこの星にやってきたんですか?」

 やはり、何をおいてもそれしか考えられなかった。地球とハルケギニアは完全に次元を超えた別宇宙にあるのに、いったいどんな方法を使ってその壁を超えてきたのか?

 しかし、それに答えたのはここにいる誰でもなかった。

 

”それに関しては、私が説明してあげるわ”

 

 突然、どこからともなく響いてきた声に才人とルイズは驚いた。だがジョージがGUYSメモリーディスプレイを差し出すと、そこにはフェニックスネストのディレクションルームで手を振るフジサワ博士が映し出されていた。

「はじめまして、才人くんに、異星のお譲ちゃん」

「わっ! なによこれ」

「あー、簡単に言えば遠く離れたところにいる人と話せる道具かな」

 才人も、ルイズに地球のものを説明する要領をわかってきていた。どうせ理屈を教えても無駄なのだから、役割だけを答えればいい。地球人の自分が魔法の理屈を理解できないのと同じことだ。

 ディスプレイを通して見る後ろのほうでは、サコミズやミサキが見守る前で、新人隊員たちが緊張して構え、データの記録と分析に当たっている。あと、留守番部隊のテッペイとコノミが、「魔法の星なんて、リュウさんたち、なんてうらやましいんだ」と、学術的興味とロマンの両面から残念がっている。

 だが、きさくに話しかけてくるフジサワ博士から教えられた答えは、二人を仰天させるのに充分だった。

「日食が、地球とハルケギニアを結ぶゲートですって!?」

「ええ、地球でも今年に数十年に一度の大型の皆既日食が起きるってことは知ってた? あなたの消えた日の異次元のゲートを調査しているうちに、それと同じ波長の時空波を突き止めて、しかも観測を続けた結果、それがピークに達するのが偶然にも日食のときだとわかったの。多分、二つの星は時空間で何かしらの結びつきがあって、それが強く顕実するのが日食のときなんでしょうね」

 その理由はフジサワ博士にも残念ながらわからない。強いていうなら古代になんらかの魔法の力が働いたのかもと、あいまいな答えしか出てこなかったが、原因よりむしろ結果が大事であった。

「じゃあ、あそこにはまだ……」

「ええ、肉眼で視認はできないでしょうけど、地上高度六千メートルに、確かに亜空間ゲートは存在してるわ」

 才人は思わず空を見上げて、目を焼いた日の光を手でさえぎりながらも顔を上げ続けた。目には見えないが、太陽の中に地球へとつながる門が、この世界に来てから探し続けてきた門が、あそこにあるのだ。

「ただ、時空のゲートは見つかっても、それが正しくこの世界に通じているかどうかまではわからなかったわ。下手に飛び込んだら、それこそGUYSも全滅なんてことにもなりかねなかったしね。けど、あなたたちは本当に運がよかったわね」

「どういうことですか?」

 意味がわからなかった才人に、フジサワ博士に代わって説明したのはミライだった。彼は、昨日の異空間内での戦いのときにゼロ戦に乗った才人の姿を見かけ、それでその消えた先にウルトラマンAもいると確信してフジサワ博士に連絡をとり、開いたゲートを通してわずかに伝わってくるエースの思念をたどって、ここまできたのだと語った。

「あのエアロヴァイパーの時空間にGUYSも……そうとわかっていたら……」

「ああ、気に病むことはないわよ。ガンフェニックスの記録を見たけど、あんな一瞬のこと、ミライくんでもなければ気づけっこないわよ。けれど、それだけでは二つの世界を結びつけることはできなかった。それで開発したのが……」

 そこでフジサワ博士は、科学者らしくもったいつけた様子で間をおくと、手品のタネを明かすように誇らしげに語った。

「新型の、メテオール!?」

「そう、私が作った最新型メテオール、『ディメンショナル・ディゾルバーR(リバース)』、かつて異次元人ヤプールの異次元ゲートを封鎖したディメンショナル・ディゾルバーの極性を反転させて、異次元ゲートを封鎖するのではなく、固定して半永久的に開いたままにするのよ」

 自分が作ったんだぞと、誇らしげに語るフジサワ博士の態度は、どこかしらエレオノールを連想させてルイズは嫌な感じになったが、これで一番の謎は解けた。

「苦労したのよ。日食がゲートを開く鍵だとわかったのはいいけど、地球で次の日食までたった一日しかなかったし、ゲートをこじ開けるにはフェニックスキャノンを使わなきゃならないから、フライトモードを起動させるのにみんな不眠で頑張ったんだから」

「そこまでして……」

「気にしなくてもいいわよ。みんなお礼なんか目当てじゃないんだし。それに、私はもう一つ実験してみたいこともあったしね」

「え?」

 怪訝な顔をした二人の前で、緑色の粒子がきらめいたかと思うと、ルイズの目の前に、白くてまるっこいからだをしたぬいぐるみのような怪獣が現れた。

「ひっ……きゃーっ!」

 思わず突き飛ばしてしまったルイズの手の先で、小型の怪獣はくるくる宙を舞うと、ひょいとマリナの頭の上に乗っかった。

「あはは、心配しなくてもいいわよ。リムはとってもおとなしくていい子なんだから」

「そ、それってGUYSのマスコットの?」

「ええ、マケット怪獣のリムエレキング、愛称はリム。どう、可愛いでしょ」

 そう言って、マリナはそっとリムをルイズに差し出した。この、体長ほんの四十センチほどしかない小さなエレキングは、ミクラスなどと同じくGUYSの粒子加速器で生成された高エネルギー粒子ミストを使って生み出される、擬似的な生命体『マケット怪獣』の一体である。ただし、意図的にではなく過去に粒子加速器の故障で偶然生まれたためにほとんど戦闘力はなく、現在はその愛らしい姿からCREW GUYS JAPANのマスコットキャラとして人気を集めている。とはいえ、小さいけれども怪獣であり、ハルケギニアで小さいころから色々な幻獣を見てきたルイズも、恐る恐るといった様子で受け取ると、そっと抱きしめた。

「へ、平気よね?」

「大丈夫です。リムも僕たちの大切な仲間です。人に危害を加えたりするようなことはしませんよ」

 ミライもそう保障してくれて、ルイズは最初はビクついていたが、やがてリムが小さな声で鳴いて、体をもぞもぞと腕の中で動かすと、ルイズの顔も赤ん坊を抱いた母親のように柔らかくなっていた。

「……けっこう、かわいいかも」

 もっとも、才人にとってはリムよりもそんなルイズの表情のほうが可愛らしく、思わず顔がにやけかけたのを見られかけて、慌てて話題を戻させた。

「そ、それで実験ってのはこのことなんですか?」

「ええ、亜空間ゲートを越えて、どれだけのものを送り込めるかやっておきたくてね。けれどリムを出現させるための分子ミストもそちらに送り込めるということは、少なくとも、二つの世界の行き来にはほとんど支障はないみたいね」

 要するに、ガンフェニックスなどを使えば、ハルケギニアと地球の行き来が可能だということを意味していた。しかしそれは、才人にとって無意識に考えることを避けてきた、一つの選択をいやおうなく思い出させることでもあった。そして、半分自慢に近い説明を終えたフジサワ博士が満足して引っ込み、テッペイが話の要点をまとめようとしたとき、才人の動揺は決定的になった。

「通信の確保及び、ゲート内の空間の航路確保の計算も完了しました。現在、両世界間の直結はほぼ完璧です。これならば、才人くんをこちらの」

「あっ! そういえばリムエレキングをこっちで実体化できるということは、もしかしたらほかのマケット怪獣も?」

「え? ああ、それは……」

 才人は強引に話に割り込んで中断させた。しかしそれは、地球との行き来が可能だとわかったときに、半年前の自分ならば必ず口にしたはずの言葉を、今口に出すこと、そして聞くことを恐れているということを思い知らせるだけであった。

「サイト、どうしたの? なんか顔色が悪いわよ」

「そ、そうか? 気のせいじゃないか」

 無意識のうちに湧いてきた冷や汗を、ルイズは目ざとく見つけていた。結局、ごまかしきれずに心音は高鳴り、口の中はからからに干からびてくる。その理由は、自分でわかっている。

「いえ、ほんと顔色悪いわよ? どっか、怪我でもしてた?」

 普段、大抵のことではほうっておかれるルイズがここまで言うのだから、顔色がないのは本当のことなのだろう。心配したマリナが、医療セットをとってこようかと言ってきたが、問題は心理的なものなのだから体をどうしたところで回復したりはしない。

 今の才人は、まるで悪い点をとったテストのことを親に思い出されたくない小学生のように、皆の一挙一頭足におびえていた。だが、どんなに引き伸ばそうとしても、それが一時しのぎにしかならず、どれだけ聞きたくないと思っても、その時は躊躇無くやってくる。

 

「よかったな、これで日本に帰れるぜ!」

 

 まったくの、何の邪気もない親切心で言われたその一言が才人を打ちのめした。

 

 

 続く

 

 

 

 

 

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