ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第9話  WEKC結成!!

 第9話

 WEKC結成!!

 

 四次元ロボ獣メカギラス 登場!

 

 

 ホタルンガとの戦いの二日後、魔法学院。

 この日は朝早くから学院の校門前に数台の馬車が集まっていた。学院所蔵の豪華でもなければみすぼらしくも無いありふれたもので、一台に六人ほど乗れる中型なものだ。乗り込もうとしているのはルイズに才人、それにキュルケ、タバサ、ギーシュなどかつて防衛軍としてベロクロンと戦った生徒たち、総勢十九人。かつてはもっと多くいたのだが、ベロクロンの二度目の襲撃の際に負傷したり、戦いの恐怖に負けてしまったりしてこれだけに減ってしまっていた。

 彼らは今日、王宮からの呼び出しを受けて出立しようとしていた。

 そして、それを見送る人影がひとつ。

「はい、皆さん乗り込みましたね。王宮までは正午までには到着するでしょうけど、帰りの予定は立っていません。もしものときに一泊する用意はありますね」

 馬車を一台ずつ周り、生徒達に注意を与えているのはあの元フーケことロングビルだった。

 彼女は給金五倍という見返りの代わりに学院にとどまり、秘書として学院の様々な事務仕事に当たっているのだった。

「ロングビルさん、頑張ってるなあ」

「元々秘書としては有能だったんだ。給料五倍の上にやくざな副業をしなくてすむようになったらそりゃはりきるさ」

 その様子を才人とデルフが最後尾の馬車から顔をのぞかせながら眺めていた。

 この馬車に乗り込んでいるのは才人、ルイズ、キュルケ、タバサとデルフの四人プラス一であの夜の経緯を知っている者だけであったから会話の内容に気を使う必要はなく、馬車の騎手も人間ではなくゴーレムだから問題はない。

「しかしああして見てると、とてもフーケだったとは思えないなあ」

「ふん、男の前で猫をかむる女なんてろくなのがいないわよ、案外まだ何かたくらんでるんじゃないの」

 この中では、まだキュルケだけはロングビルのことを完全に信用してはいないようだった。

 だがまあ当然といえば当然だろう、怪盗として貴族を相手にこれまで好き放題に暴れていたやつを急に信用しろというほうがどうかしている。実際にあの日の遅くにロングビルをそのまま秘書として雇い続けると聞いたときには彼女は本当に驚いた、万一発覚すれば学院の名誉どころか共犯として自分達も罪に問われてしまうのだ。

 しかし、衛士隊に引き渡すということは、そのまま死刑台送りにするのと同義であり、ヤプールに操られていたことと、見てはいないがルイズを助けたこともあってキュルケもそこまで非情にはなれず、仕方なく怪しいそぶりを見せたらいつでも焼いてもいいという条件付でロングビルの滞在を認めていた。

「あらツェルプストー、あなたの口から猫をかむるなんてよく言えたものね。毎度男の前では厚化粧と二枚舌を使う化け猫のくせに」

「む。おや、これはヴァリエールには大人の駆け引きがよくわからないみたいね。いいこと、化粧は女の真の美しさを隠す仮面、小さな嘘は相手にその人の魅力を想像させる鍵、女は秘密のヴェールを軽くまとうことで輝きを増す。男に尻尾を振って爪と牙を隠すのとは次元が違うのよ。まあ、あなたにはまだわからないよね。恋愛経験"ゼロ"のルイズ」

「キ、いいいいい言ってくれるわねツェルプストー! 恋愛経験が無い!? ああそりゃあんたは有り余るほどあるでしょうね! なんせ何百年も前から他人の男を寝取ることだけ考えて生きてきた泥棒猫の家系ですものね!」

「あら、恋愛は人生の宝石、それが多くて困ることなどなんにもなくてよ。ま、わたくしに有り余ってるのは経験だけじゃなくて、首とお腹の間にある"なにか"もですけど」

 キュルケがそう言ってルイズのある部分を指差すと、ルイズは今度は聞き取るのも難しいような金切り声をあげてわめきだした。

 その様子を才人はやれやれまたかと思って見ていた。触らぬ神にたたりなし、まだ出発もしていないのにこんなところで爆発でも起こされたらロングビルにいらぬ迷惑がかかってしまう。

「なあタバサ、今回呼び出されたのはなんでだと思う?」

 すぐ隣で暴れているサウンドギラーを刺激しないようにして、才人はこんなときでも平然と本を読んでいるタバサに話しかけた。

「……多分ヤプールに対するなんらかの対策が決まったんだと思う。ただし、外国人であるわたしやキュルケも呼び出すところを見ると、トリステイン軍の再建はおぼつかないと見える」

「まあ、軍が元通りになったならわざわざ学生にお呼びがかかるわきゃないわな。やだなー、軍人に混ざって訓練とかやらされたくねえな」

 あの二度に渡るベロクロンとの戦いで軍が受けたダメージは大きく、特に空中戦力である魔法衛士隊はほぼ全滅に近い損害を受けたらしい。最精鋭戦力であるグリフォン隊だけはまだ戦力を保持しているが、それとて以前の三割にも満たない。

 と、そのときそれぞれの馬車の見回りが済んだらしく、ロングビルが窓を覗き込んで話しかけてきた。

「こらあなたたち、そんなに騒ぐとはしたないわよ。城に着くまでそうしてるつもり?」

 どうやら途中から話し声が大きくなりすぎて外に聞こえてしまったらしい。キュルケとルイズはそう言われて。

「だってヴァリエール(ツェルプストー)が!」と、声をそろえて仲良く言い返したが、どう見てもふたりとも淑女の態度とは程遠い。

「どっちもどっちよ。やれやれ、これじゃずっと一緒に乗ってくふたりは大変ね」

「……私は、気にしない」

「あー、もう慣れてます。ところでロングビルさん、今度の呼び出しの理由、ロングビルさんはなんか聞いてませんか?」

「いえ、私も特には、けどあなたたちも呼び出された顔ぶれを見れば薄々見当はついてるんじゃない。それに、噂では近々軍の大幅な配置転換や新設部隊の設置が行われるって聞いてるわ」

 そう聞いて才人はあらためて大きくため息をついた。

「ふぅ、やっぱし軍隊がらみか、ヤプールと戦うならまだしも、軍隊に入れられるのは勘弁してほしいよ」

「ま、そうは言っても実際今のトリステインは猫の手も借りたい台所事情なんでしょうよ。まあ、そうは言ってもいきなり学生を軍に組み込んでも役に立ちはしないでしょうから、気楽に行ってきなさいな」

「ありがとう、ロングビルさんも無理はしないように気をつけてください」

「ありがと、でもあたしは大丈夫よ。なんてったってもう学院長のセクハラに遠慮する必要がこれっぽっちも無くなったんだからね。おかげであれから積もり積もったうっぷんを気分よく晴らさせてもらってるわ、あはははは」

 それを聞いてルイズはここ数日続いていた、あることを思い出した。

「そういえば、ここのところ学院長室のほうから何かを叩きつけたり、物が砕けたりするような音が聞こえてきたりしたけど、まさか……」

「ご想像どおりよ、あんたたちもあのエロジジイに何かされたらあたしに言いなさい。三倍返しにしてやるから。なあに、あのじいさんそんなもんじゃ死にゃしないし、あきらめもしやしないから」

 ロングビルはそう言ってカラカラと笑った。

 どうやら、キュルケの心配も杞憂だったようである。絶好のストレス解消法を得てロングビルは心から仕事を楽しんでいるようだ。

「ま、そういうわけだから学院のことはまかせて君達はいってらっしゃい。なあに、万一無理やり軍に入れられそうになったら適当な口実つけてやめちゃえばいいのよ」

「そんな! 貴族たるものが一度望んで入った軍役を勝手にやめられるわけな」

「あなたたちには、そんなことよりここでやるべきことが山ほどあるでしょう。そういう台詞は一人前になってから言いなさい」

 ルイズの反論をぴしゃと遮ると、ロングビルは馬車の窓を閉じ、従者のゴーレムに出発を命じた。

「いってらっしゃい。くれぐれも、身命をとして果たしますなんて馬鹿な仕事もらってくるんじゃないわよ」

 遠ざかっていく馬車を、ロングビルは目を細めて見送っていた。

 

 

 トリステイン魔法学院から首都トリスタニアまでは馬車でおおよそ三時間、その間ルイズとキュルケは飽きもせずに言い合いを続けていた。

 才人としては屋根の上にでも避難したい気分だったが、あいにく怒りが度を越えたルイズのかんしゃく玉の先として、うれしくもない仕事が回ってきたせいでそうもいかなかった。唯一救いがあるとしたら、暴発したふたり(九割方ルイズ)が魔法を炸裂させないように公平にタバサに杖を預けて舌戦を繰り広げていたため馬車が無事な状態で街まで着いたことだろうか。

 

「へーっ、もう大分復旧したな」

 トリスタニアの街は、ベロクロンの襲撃で半分以上が焼け野原となったものの、現在では掘っ立て小屋やテントも減り、元の煉瓦や石造りの建物が軒を連ねるようになっていた。

 そして馬車は、城へ向かう最後の準備を整えるための軽い休息を馬車駅でとるためにいったん停車して、生徒たちはこわばった体を存分に伸ばして、ある者は身なりを整えたり、ある者たちは飲み水に群がったりしていた。

 ルイズたちも水を受け取り、乾いた喉を潤して一息をついていたが、駅の客達がしきりになにかを話し合っているのを見て、好奇心から何を話しているのかを聞いてみて少々驚き、そしてにやりとほくそえんだ。

 それは、ここ最近トリステインを駆け回っている噂だった。あの土くれのフーケが実はヤプールの手先で、数々の貴族惨殺事件は人間を超獣のエサにするためだったということで、最後はフーケまで喰われてしまったが、超獣はかろうじてウルトラマンAがやっつけて、ある森の奥ででっかい首が見つかって魔法アカデミーに運び込まれて大騒ぎになっているということだった。

「ルイズ、これって」

「ええ、オールド・オスマンの情報工作、うまくいったみたいね」

 これはまさしく、オスマンが王宮に対してした報告のたまものであった。

 あの戦いの後、オスマンはロングビルをかばうために事件の内容をフーケが死んだということに改ざんした報告書を提出したのだった。もちろんバレたら大変なリスクが伴う賭けだったが、そこは年の功で事実をベースにうまく虚実交えた内容の報告書には特に不自然なところは無く、なにより森の奥に転がっているホタルンガの首が絶大な説得力を持っていた。

 これによりフーケが死んだということはあっという間に国中に伝わり、すなわちロングビルの立場が安全になったということを意味していた。

「あのじいさん、とぼけた顔してなかなかやるものだな」

 才人は、胸ポケットにしまってあるガッツブラスターを確かめながら、オスマンの気さくな顔を思い出したが、同時に今頃はまたこりずにロングビルに手を出して半殺しに遭っているのだろうなと、手を合わせた。

 

 さて、長い馬車の旅も終えてトリステイン城へと着いてみると、そこは貴族から雑多な職業の平民などでごったがえしていた。

「うわ、すげえ混雑してるな」

「どうやら噂は本当だったみたいね。さて、広間に行く前に受付を済ませなきゃならないんだけれど、これじゃどこがどこだか……」

 十九人の学生達は、どこに行けばいいのか見当もつかずにただ呆然と立ち尽くしていた。

 そのとき、生徒達の先頭に立って先導を名乗り出たのは、金髪で薔薇の花を掲げた一見して分かるキザ男、ギーシュであった。

「諸君、僕についてきたまえ」

 どうやら彼はこの状況にかこつけてみんなの先導をすることで目立とうとしているようだ。

「ちょっとあんた、ついて来いってどこいけばいいのかわかってるの?」

「もちろん、僕に間違いなどないさ。さあ、いざゆかん一番乗り!」

 彼は決して悪い奴ではない。トリステイン貴族の常として傲慢な点はあるものの、以前才人と決闘して敗れたときには素直に敗北を認めて、その後頭を冷やして自身の非を正すような潔さも持っている。

 ただし、それとは別に、でしゃばりでかっこつけ屋の上、考えなしで行動するという、一言でいうならばアホでもあった。

 そして、半信半疑でついていったルイズたちも当然、訳の分からないところに迷い込むはめに陥ってしまった。

「ちょっとギーシュ、ここはいったいどこなのよ」

「えーと、城の中かな」

 ギーシュは、どこだかわからない通路の真ん中で、怖い顔をした皆に囲まれて冷や汗を流していた。

「んなことはわかってるのよ! わたしたちは入門の受付をしようとしてたんでしょうが! ああもうどうすんのよ、このままじゃ不審者に間違えられて捕まっちゃうじゃないの」

 いまや焦っているのはこの中では才人とタバサを除く全員だった。

 確かに、子供が揃って城の中をうろついていては怪しくないというほうがどうかしている。そしてもしこんなところを捕まって収監されでもしたら、彼らの貴族としての名誉は台無しになってしまう。

「だ、大丈夫だよ。きっとその曲がり角の先に行けば、受付のあるところまで行けるさ、さあ行こう!!」

 冷や汗を流しながらも名誉挽回に燃えるギーシュはまた先頭きって駆け出していった。

 しかし、焦っていたのと後ろがついてくるか確認しながら駆けていたため、曲がり角の先から人が来るのに気づかずに思い切りぶつかって尻餅をついてしまった。

「あ、いてて、ちょ、気をつけ……」

「何者だ! 貴様!」

 ギーシュが抗議するより早く、無数の刃の切っ先が彼の喉元に突きつけられた。一瞬のうちに、彼は剣を持った騎士数人に取り囲まれていたのだ。

 さらに彼のぶつかった相手は、彼が思い切り吹っ飛んだのにも関わらずに、何事もなかったかのように立って彼を見下ろしていた。

「ひっ!?」

「ギーシュ!」

 驚いたルイズたちが駆け寄ろうとすると、通路の先から続々と剣や銃を持った兵士たちが現れて生徒たちに武器を向けた。兵士達は全員鎖帷子をつけているが身のこなしが速く隙が無い、単なる警備兵などではなく、よく訓練された熟練の部隊だ。明らかに、こちらを不審者と思って警戒している。当然のことだが、生徒たちはそれとは別の意味での驚きも受けていた。

「お、女?」

 なんと、兵士たちはその全員、およそ二十名くらいだろうがすべて若い女性で占められていた。

 そして、その指揮官と思えるギーシュがぶつかった相手は、短く刈りそろえた金髪の下から氷のように冷たい目で彼と生徒たちを睨み、やがて、およそ二十代前半らしき容貌からは想像もできないほど、威圧感のある声を生徒達に発した。

「全員動くな。ミシェル、ひとりでも不審な態度をとったらかまわず撃て」

「はっ」

 副隊長格と思える青髪の女性騎士が銃口を向けてくると、もはや彼女たちが本気だということを疑う余地は無くなっていた。

 ギーシュは無数の剣に囲まれて身動きできず、ルイズたちも銃口を向けられては杖を取り出すこともできない。

「見たところ学生らしいな、なぜこんなところをうろついている?」

「そ、それは……」

 ルイズやキュルケや他の生徒達も、このときばかりは何も言えなかった。なにせ彼らは皆地位も名誉もある貴族の子弟たち、間違っても「迷子です」とは言えようも無い。

 だが、幸か不幸か、こういうときに守るべき誇りなど何一つ持ち合わせていない男が一人いたのが、彼らを最悪の不名誉から救う希望の光となった。

「あの、それが受付行こうとしてたらいつの間にか迷っちゃいまして、すいませんがどっちに行けばいいんでしょうか?」

「サイト!」

 後ろから頭をかきながら出てきた才人に全員の視線が集中した。

「迷子か?」

「まあ、平たく言えば」

 あっさりと言ってのけた才人に生徒たちの非難の視線が集中したが、相手の威圧感のほうが強くてそれを口に出せた者はいなかった。

 やがて、その指揮官らしき女性は順に生徒達を見渡すと、部下達に武器を収めるように命じた。

「どうやら本当らしいな。そういえば先の戦いでかき集められた兵の中に魔法学院の生徒達の志願部隊があると聞いていたが、お前達のことか」

 ようやく刺すような緊張感から開放されて、生徒達はほっと息をついた。

 ギーシュも一寸でも動いたら首をはねられそうだった白刃から開放されて呆けていたが、落ち着いてくると彼女たちの誰一人として杖を持たずに、武器として剣もしくは銃のみを持っていることに気がついた。

 なぜ疑問に思ったかというと、普通王宮を警護する任についている者は貴族出身の魔法衛士隊であり、当然すべてメイジであるから武器は杖であるが、彼女たちはそれを持っていなかった、つまり貴族ではないということになる。

「君達、平民か?」

 その言葉は特に考えも無く自然にギーシュの口から出たものであったが、彼はそれを聞いて氷のような眼で自分を見下ろす女隊長の顔を見て不用意な自身の発言を瞬時に後悔した。

「いかにも、我々は全員平民の出。今度新設されることになった『銃士隊』の者だ」

 それを聞いて生徒達の中からは「なんだ平民かよ」「魔法も使えないくせに生意気な」などといった陰口が叩かれたが、彼女は凛とした態度で言い放った。

「だが勘違いするなよ。軍の中では我々は衛士隊とも同格に扱われる。それに、自身の存在に誇りを持っているのはお前達だけではない、侮辱をするならそれなりの覚悟を持ってすることだな」

 そう言われて何人かの生徒はかっとなったが、それ以上のことはできなかった。

 通常なら剣士はメイジの敵ではないが、それも相手によりけりで、例えば目にも止まらぬ速さで間合いを詰められたり、もしくは呪文の詠唱より速く銃を撃たれたりしたら当然負けるのはメイジのほうで、この『銃士隊』とやらなら、そのどちらも可能に見えたからだ。つい先日も、ただの平民と誰もが侮っていた才人にギーシュが剣一本で敗北したのは記憶に新しい。

 虚勢で対抗できる相手ではないと悟った一部の生徒たちは黙りこくった。

 しかし、気まずい空気が場を包む中、それを救ったのはキュルケだった。

「失敬、ミス。お互い言いたいことはあるでしょうけど、時間も迫っていますし、初対面で理解が足りないこともあったでしょう。このことはお互い水に流して、先を急ぎませんこと」

 優雅に、それでいて敵意の無いよう両手を広げて穏やかに話しかけるキュルケの態度は、まるできかん子をあやす母のようであった。

「……いいだろう。我々も集合命令を受けていたところだ、ついてこい。それから、お前はいつまでそこでへたっているつもりだ?」

 女隊長は、まだ腰を抜かしているギーシュに冷ややかな視線を向けていた。

「……っく、誰が」

「ほう、少しは骨があるか……さっさと来い、置いていくぞ小僧」

「小僧じゃない! 僕にはギーシュ・ド・グラモンという名がある。それに、へい……いや、貴君も騎士なら名を名乗りたまえ!」

 女隊長は振り向くと、ギーシュの眼を真っ直ぐに見つめた。その、思わず眼をそらしてしまいそうになる圧迫感を、彼はもちうる勇気のすべてを動員して押さえ込んだ。

「私の名はアニエス。どうやら少しは根性があるようだな。先におびえていたときとは違う目だ」

「……え?」

「だが、身のこなしや注意力は標準以下だ。もっと鍛えることだ、死にたくなければな。さあ、時間を喰ってしまったぞ、全員駆け足!」

 アニエスが号令をかけると、銃士隊員だけでなく生徒達も思わず「はいっ!」と姿勢を正して返礼をして慌てて駆け出していった。

 

 

 王宮内の、普段は式典やパーティなどに使われる大広間はすでに集まってきていた人々によっていっぱいになっていた。

「トリステイン魔法学院の義勇軍の方々ですね。こちらへどうぞ」

 生徒達は銃士隊と別れて、広間のすみに整列した。順序は男子・女子・外国人・その他の順で、才人は一番後ろにいた。

 その後しばらくは、集まってきた人たちの喧騒が続いていたが、やがて会場に王女アンリエッタがマザリーニ枢機卿を連れて現れると皆一様に最敬礼の姿勢をとり、才人も見よう見まねで礼をした。

(あれが王女様か、ルイズと同じくらいの子だな。けど……あっちのほうは勝負になってねーな)

 初めて近くで見る王女様に向かって不埒なことを才人が考えていると、皆を見下ろせる壇上に立ったアンリエッタは広間によく通る声で話し始めた。

「皆さん、今日はよく集まってくれました。トリステインへの忠義の志、平和を守る正義の使途の集いに、わたくしはとてもうれしく思います。ですが、ここに集まりの皆ももう知ってのことと思いますが、先日よりの貴族の惨殺事件、それがあのヤプールの侵略の一端であることが判明しました」

 広間に、聞こえるはずの無い汗の流れる音やつばを飲み込む音が響いたかのように思えた。

「幸いにも、事件の主犯であった超獣はウルトラマンAが撃破して、利用されていたフーケも死亡したそうですが、ヤプールが直接的な攻撃だけでなく、内側からもこの国を蝕もうとしていることが明らかとなった以上、対策を根本から見直す必要が出てきました。そこでわたくしは、軍を再編成するにあたって、対ヤプール用のあらゆる事態に迅速に対応できる専門部隊の設立をすることに決定しました」

 広間のあちこちから「おお……」と感嘆の混じった声が聞こえた。

 才人はこの話を漠然と聞いていたが、アンリエッタの話が一段落ついたあたりで、すぐ前にいるキュルケが小声で話しかけてきた。

「ねね、タバサ、ダーリン、聞いた? あの王女様、なかなか思い切ったことするわね。まあ発案はあっちの鳥の骨さんでしょうけど、これで軍の意向に左右されずにヤプールの侵略のみに対抗できるってわけね」

「そうだな。ふぅ、これで安心したよ、ルイズのことだから軍に入ったままだと、いずれろくに考えずに戦争にまで出て行きそうだからなあ」

「あら、ダーリンは戦争は嫌い?」

「嫌いだね。戦争なんて言ってみれば国家公認の殺し合い競争だろ、殺しが好きなんて奴をどうして好きになれるか」

「怖いの?」

「怖いさ、俺なんて戦場に出たら真っ先に死ぬタイプだからな。戦争なんてせずにどこの国も仲良くやってくれてれば一番いいんだけど」

「ふーん、ダーリンはほんと変わってるわね」

 キュルケは臆面も無く戦争は嫌い、怖いと言ってのけた才人に新鮮な驚きを感じていた。彼女の知る男達はいずれも、国のためならいつでも戦う、誇りを守るためなら命はいらぬ、と誇る者ばかりだったからだ。

 しかも、もし才人がなんの力も無いただの平民だったらそれもうなづけただろうが、ギーシュとの決闘の際や、ホタルンガにルイズが捕らわれてしまったときに単身向かっていったことを考えると、彼を臆病だとはどうしても考えられなかった。

「そういえば、どこの国も仲良くといえばさ。王女様はハルケギニア全土の国家間でヤプールの攻撃に関して情報交換から非常時の援軍派遣まで考慮に入れた同盟を考えたそうだけど、頓挫したらしいわね。まあ、アルビオンは最近内戦が激化してきたらしくてろくに内情すら分からないし、ガリアの無能王は言うに及ばず、ゲルマニアとは最近軍事同盟を考えてるそうだけど、実際は腹の探りあい、うまくいくはずもないわね。どこの国も仲良く協力なんて、あの王女様も甘いわよね」

「……」

 才人は無言で聞いていたが、キュルケの言うとおりにアンリエッタの考えを否定する気にはならなかった。なぜなら、国家間の利害を超えての侵略に対する防衛、それは科学特捜隊からGUYSまで連綿と続く地球防衛軍の思想そのものであるからだ。

 恐らく、アンリエッタは国家間の複雑な情勢などを考えずに、ただ平和を願う気持ちだけでそれを口にし、現実に負けたのだろうが、周りの人間は彼女を笑う資格がないことに気がついていない。理想の邪魔をしているのは彼ら自身の利己心であることに。

 やがて、王女の演説が終了し、マザリーニによる具体的な組織編制の説明に入った。

 それは、二匹目の超獣ホタルンガの出現と、その作戦がトリステインの貴族達に与えた衝撃の深さを物語るものであった。

 連日続いていた貴族の惨殺事件、それがヤプールの仕業であったということは、ヤプールは単なる力押しの侵略者ではなく、謀略や策略を駆使する油断ならない相手ということになり、その道具として超獣が使われたら、それこそ今後被害は爆発的に増大していくだろうと思われた。

 そして、その予想はまったく正しかった。

 かつて地球でヤプールが暗躍していたころも、ヤプールは超獣や宇宙人を人間社会の中に送り込み、社会の混乱をあおるとともに超獣を育てるといった戦法を得意としていたのだ。

 すぐ隣にヤプールの手先がいるかもしれないという恐怖は貴族たちの間から、その従者や兵を通して平民に行き渡り、やがてトリステイン中へと伝染していった。

 これに対して王国のマザリーニ枢機卿は即座に緊急会議を開いて、ヤプールの内側からの侵略に対する対策を立てることに腐心したのだった。

 しかし、戦力の中心となるメイジの数は激減し、魔法衛士隊を即座に再建することは絶対不可能、そのため平民を中心とした部隊がいくつか新設され、そのひとつとして当時一小隊に過ぎなかったが、剣士としてずば抜けた実力を有していたアニエスの小隊が銃士隊に格上げされたのだった。

(アニエスさん、きれいだったな……けど、性格はルイズよりきつそうだよな。ありゃ絶対Sだ、しかもドSだ)

 才人はさっき会ったばかりの凛々しくも恐ろしい女騎士の顔を思い出して、背筋がぞっとするものを感じた。

 ルイズ、シエスタ、キュルケ、タバサ、ロングビルと短い間にいろんな女性と接してきた才人であったがアニエスの威圧感はずば抜けていた。いや、アニエスだけでなく、副官のミシェルという人を始め銃士隊の女性たちの目つきは尋常ではない。できることなら彼女たちとはあまり係わり合いになりたくないなと彼は思った。

 その後、才人にはよくわからない単語や部隊名などの説明が続いたが、その中から魔法学院の生徒たちの志願部隊は防衛軍の一部隊とされ、学院周辺の守りを主に請け負うことになったことが聞き取れた。

「要するに、自警団ってわけか」

 才人は自分にわかりやすく解釈した。学院の守備といえば聞こえはいいが、実際は超獣が攻めてこない限り特にやることは無い。もっとも、いくら魔法が使えるとはいえ成人もまだずっと先の子供に多くを任せるほど、この国が理性を失っていない証拠でもあったが。

 やがて、細やかな説明に入る前にいったん休憩をとって十五分後から再開しようということになった。気がついてみたらすでに一時間ほどが過ぎていた。地球時間で言えば午後一時半くらいになるだろう。

  

 生徒達は広間から中庭に出て花壇の周りのベンチなどに腰掛けながら、先程のことについて話していた。

「やあやあ諸君聞いたかい。僕らが王国から正式に学院の守護者になるよう命が下ったのだよ。大変名誉なことだねえ」

 と、両手を広げて大仰に言ったのは言うに及ばずギーシュである。彼のほかにも何人かの生徒は名誉だとか誇りだとか言っているが才人は正直どうでもよかった。彼らの意気込みはともかく、ハルケギニアの武力では超獣に歯が立たないのは証明されている。

 だが、そんな彼の雰囲気を悟ったのかルイズが話しかけてきた。

「サイト、あんたわたしたちが正式に王国所属の部隊として認められたのに、うれしいとは思わないの?」

「ん? そりゃあさ、あの銃士隊みたいに歴戦の兵士の揃った部隊ならともかく、こっちは所詮ガキの集まりだろ」

「なによ、あんた名誉ある貴族の子弟のわたしたちと平民の部隊をいっしょにするつもり?」

「じゃあお前、アニエスと勝負して勝つ自信あるか?」

「ぐ……」

 その質問にはルイズも返す言葉が無かった。杖を握り締めたまま思考が硬直している。

 もしアニエスと対決したとして、勝つ見込みがあるとしたら剣の間合いの外から魔法を撃ち込み続けることだが、一撃で致命傷を与えなくては彼女の鍛え上げられた体から生み出される瞬発力は、一瞬で間合いを詰めて剣を振り下ろしてくるだろう。 そして当然、強力な魔法を使うにはそれなりの詠唱時間が必要であり、さらに完全に間合いに入らなくても銃なら十メイルもあれば充分であり、剣を投げつけるという方法もある。そして自分達にはそれを避けるだけの動体視力や瞬発力はない。

 するとデルフも鞘から出てきてカタカタ笑いながら言った。

「まあ、獅子は百獣の王と言われるが、ガキのうちは草噛んでるやつに蹴られて死ぬこともある。そっちのにぎやかな姉ちゃんとぼんやりな嬢ちゃんはともかくとして、あとの連中は正直話にならねえな」

 ルイズはデルフの言う、あとの連中の中に自分も入っていることを心ならずも自覚していた。

「ま、どのみちマジで超獣が現れたりしたら「超獣が出たぞー、逃げろー」くらいしか言うこともねえんだ。立ち向かったところで勝ち目なんか皆無なのはお前さんが一番よくわかってるだろう」

「……ええ、そのとおりよ。けどね、それがなんだって言うのよ!」

 デルフの言葉に我慢ならなくなったルイズの、これまでにないくらい凄みのある声が響いた。

「わたしたちの実力じゃヤプールには敵わない? そんなこと百も承知してる。けどね、だからといって何もせずに逃げ惑えっていうの。そんなことしたらますます相手を付け上がらせるだけじゃない。力があるかないか関係ない。わたしたちは断固として侵略には屈しないということを見せ付ける。戦う人間がいるんだってことを敵味方に知らしめる。そんなこともわからないの!!」

 今度は才人のほうが言葉に詰まった。

「そうだ、ミス・ヴァリエールの言うとおり!!」

 会話を聞いていたらしいギーシュが突然ルイズの横に立って、誇らしげに語り始めた。

「ここにいる皆は、我こそは超獣の首を獲ってやろうと考えてることだろう。しかし、敵は王国の精鋭が総力を結集しても傷すら負わせられないのに対して、僕らはまだ学生、残念ながら自らの非力を認めるのもひとつの勇気だ。しかし、それでも杖をとり、敵に立ち向かう我らの姿は戦う力無き者たちの心にも響き、決して服従や隷属を認めることはないだろう。諸君、我らは旗、戦場に翻り、その存在で味方の指揮を鼓舞する勇壮な軍旗なのだ!」

「おおーっ!!」

 思いもよらぬギーシュの名演説ぶりに男子生徒たちのほとんどが声をあげていた。

「へー、ギーシュにしてはまともなこと言うじゃない。これまで目にも入れてなかったけど、これなら目の片隅くらいなら置いていいかな」

「……希望……でも、ギーシュだし」

 キュルケとタバサも珍しく感心していた。特に、自分の非力を認めるなど以前のギーシュでは考えられなかったことだ。

「どう、これでもまだ不満なの?」

「いや、俺が間違ってたよ……」

 才人は、ルイズやギーシュの言葉を聞いて、自分が大切なことを忘れていたことに気がついた。

 小さなころから憧れてきたウルトラ兄弟や歴代防衛チーム、自分も大きくなったらああなりたいと思ってきた。2006年にGUYSが宇宙斬鉄怪獣ディノゾールに全滅させられたときはがっくりしたものだが、新生GUYSとなって復活した彼らはバードンやグドンなど歴代チームやウルトラマンさえ苦戦した相手に敢然と立ち向かっていき、ニュース画面を見ながら本当に頼もしく思ったものだ。

「……希望か」

 まさかギーシュに教えられるとはと、才人は頭をかいて苦笑いした。

 そのとき、ある生徒がふと思いついてギーシュに言った。

「ところでギーシュ、俺達の部隊名はどうする? いつまでも王立防衛軍魔法学院小隊じゃしまらないだろ」

「おお、よく聞いてくれたギムリくん。ふふふ、聞いて驚け、とっておきのを考えておいた。その名も『水精霊騎士隊(オンディーヌ)』だ!」

「水精霊騎士隊!?」

 その名を聞いて才人以外の全員が驚いた。なぜならそれはトリステインの名高い伝説の騎士団の名だったからだ。数百年前に廃止されて現在は名が残るのみだが、外国人のキュルケとタバサも知っていたことからその知名度の高さもわかる。

「ふふふ、どうだ驚いただろう」

「お、驚いた……だけど」

「だけど?」

「水精霊騎士隊なんて大それた名前を、学生風情が勝手に使って周りの部隊や、第一王国が黙ってるか? 絶対まずいことになると思うが」

「ぐっ!?」

 ギーシュは思わずグサッとなった。確かに、国が公認してくれたとかいうならともかく自称するには立派すぎる名前だった。

 かといって、没にするにも惜しい名前だった。伝説の騎士隊の名を受け継ぐ、これほどの誇りはそうはない。

 すると、端でじっと見つめていた才人が前に出てきて一言言った。

「そのまま言うとまずいんなら、少しもじればいいだろ。なら、WEKC(ウォーク)ってのはどうだ?」

「ウォーク!? って、なんだそれ」

「俺の国の隣の国の言葉に水精霊騎士隊を訳すと、Water Element A Knight cors これを略したんだ。これなら俺達以外の連中が聞いても意味が分からないだろ」

 それは才人の乏しい英語知識を総動員したものだった。

「な、なるほど……しかし、異国の言葉を隊名にするのは……」

「なら別にいい。ほかにいい案があるなら好きにすればいいだろ」

「ぬ……し、仕方ない……それに、我が友サイトの発案だ。みんな、意義はあるか?」

 どうやら誰にも他にいい名前の案は無い様だった。だが、聞きなれない響きの言葉に戸惑いながらも、逆に新鮮味があって悪くないと感じてくれてもいるようだ。また、暗号じみているのも少年心を刺激したようだ。

「よし、これから我らは部隊名ウォークと名乗る。だがいつか誰に対しても水精霊騎士隊と名乗れるようにすることを目指すのを忘れるな!」

「了解!」

 意外とあいつリーダーシップあるのかもしれないなと、才人や女子連中はギーシュを見ていた。もっとも、いざ実戦となったら怖じ気ずいて震えだすかもしれないが、少なくとも人を乗せる才能はあるようだった。

「ふ、ふん。あんたにしてはいい発案じゃない」

「さすがダーリン、さえてるわね」

「……ちょっと、かっこいい」

 ルイズたちも、温度差は大きいようだが部隊名が穏便に決められたことを喜んでくれたみたいだった。

「チーム・WEKC……か」

 幼いときから防衛チームに憧れて、いつかなりたいと思ってきた自分だが、まさか異世界で、自分が名付け親になるチームに入ろうとは夢にも思っていなかった。

 この戦闘機もレーザーガンも持たない二十人ぽっちのチームでどこまでできるかは分からなかったが、とにかくやってみなければわからないなと、才人は自分を奮い立たせた。

 そのとき、休憩時間の終了を伝える鐘が中庭に響き渡った。中庭で同じように休息していた騎士やメイジたちが立ち上がって去っていく。

「おっと、そろそろ戻らなければな。じゃあ、みんな行こう」

「……ちょっと待て、今気づいたが、俺達はまだ隊長を決めてなかったよな。つい乗せられてお前に合わせてたけど、この際誰が隊長につくかしっかり決めておこうじゃないか」

「なっ、ヴィリエ……い、今そんなこと言わなくてもいいだろう。僕はただあのとき皆をまとめようとして……」

「いーや、騎士隊の隊長ってのは大変名誉な職務だからな。この際は……な!?」

 彼がギーシュに詰め寄ろうとしたとき、突然中庭を大きな影が覆った。

「な、竜!?」

 それは王国の竜騎士隊の飛竜であった。しかし、そこから降り立ってきた騎士は全身傷だらけで、中庭に降りたとたんに倒れこんでしまった。

 すぐそばにいた生徒達はすぐに駆け寄り、キュルケが横たわって荒い息を吐いている彼を抱き起こした。

「あなた、しっかりしなさい! 誰か、水系統のメイジを探してきて! それからすぐに衛士隊を連絡よ!」

「いや、そんなことはいい……すぐに、陛下にお知らせしなければ……ゴホッ、ゴホッ!」

「なにがあったの? すぐ医者が来るわ、気をしっかり持ちなさい!」

「ザントリーユ城、陥落……城主リシャール公、戦死……」

「ええっ!」

 生徒たちの間に動揺が走った。ザントリーユ城といえばトリスタニアから南東に百二十リーグほどのところにある城で、竜使いの名手リシャール公をはじめ、ゲルマニアとの国境線にも近く、小さいながらもかなりの軍備を備えていたはずの場所だ。

「そ、それってまさかゲルマニアが攻めてきた……?」

「いや、違う……敵はたった、たった一体だけだった……」

「一体……まさか、超獣!?」

「違う……銀色の、全身鉄でできた巨大な竜の形をしたゴーレムだった……ゴホッ!」

 そのとき、ようやく生徒のひとりが水系統のメイジを連れて戻ってきた。

 メイジが秘薬を使い、杖を彼の傷に当てて呪文を唱えると、淡い光が傷を包み、やがて苦痛が和らいできたのか彼の息が整ってきた。

「それで、いったいなにがあったというの?」

「突然、突然だったんだ。我々はいつものように城の周りを警戒していたら、いきなりパッ、パッと光が走ってゴーレムが現れた。ゴーレムは、口から火の弾や光の弾丸を吐き出しながら城を攻撃してきた。もちろん我らも必死で迎え撃ったけど、俺達の攻撃はまるで見えない壁に阻まれるかのように途中で消えてしまったんだ。しかも、ゴーレムは城の西に東にと消えては現れてを繰り返したから、俺達はふいを衝かれて次々に撃ち落され、リシャール公も……俺だけが、このことを知らせるためにひとりだけで……それが公の最後の言葉だった……くっ、ううう」

 彼は語り終わると、男泣きに泣いた。

 やがて、衛士隊もやってきて、彼を担架に乗せて運び去ると、生徒達は呆然とした様子で立ち尽くしたり、座り込んだりしていた。

「こりゃあ、集会の続きも中止ね……それでサイト、心当たりはあるの?」

「ああ……鉄でできた竜、それに出たり消えたりするやり方……ドキュメントUGM、四次元ロボ獣メカギラス」

 

 

 続く


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