ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第88話  舞い降りる不死鳥

 第88話

 舞い降りる不死鳥

 

 変身超獣 ブロッケン

 一角超獣 バキシム 登場!

 

 

 ハルケギニアを拠点として復活を果たした異次元人ヤプールは、ウルトラマンAへの復讐に燃えて、超獣ベロクロンをはじめとして数々の怪獣、超獣、宇宙人をこの世界に送り込み、幾度となくこの世界を守ろうとするエースと死闘を繰り広げてきた。

 だがそうした攻撃の一方で、ヤプールはひそかに別の計画も進めていた。それは、内戦を続けていた浮遊大陸国家アルビオンの戦いに介入することによって、その混乱から生まれるマイナスエネルギーを収集し、同時に宇宙から怪獣を呼び寄せる時空波を放射する石柱と、同じ能力を持つボガールを復活させることによって戦力を増強することだ。むろん、最終的にはこの国を完全に滅ぼすことが定められているのはいうまでもない。

 それは、内乱の最終段階においてブラックテリナの能力を使うことによって完全に成功しかけたが、ウルトラマンAと勇敢な人間たちによって阻止された。

 しかし、計画の失敗などはヤプールにとってはさしたる問題ではなかった。なぜなら、そのときすでに充分なマイナスエネルギーを吸収した超獣は完成しており、数え切れないほどの人間が集まったここでそれらを解放すればエースは必ず現れると踏んで、その読みは見事に的中してエースは逃れられない戦いに引きずり込まれてしまった。そう、このアルビオンの内戦そのものが、エースへの復讐のための壮大な囮だったのだ。

 そして、その総仕上げとしてパワーアップされた超獣ブロッケンとバキシムが最強の刺客として差し向けられた。数十年に一度の皆既日食が迫る中で、消え行く太陽をエースの墓標としようとしているように雄たけびとうなり声をあげて、数ある超獣の中でも最強クラスの破壊力をもってエースに挑み、地獄へと引きずり込もうと攻撃を続けていた。

 

「ウルトラマンAよ、我らの作戦にまんまとはまったな。もうエネルギーもろくに残っているまい。貴様に滅ぼされた我らがヤプールの怨念を思い知れ! さあ、ゆけぇーバキシム、ブロッケン! 光線を放て、光線を撃つのだ!」

 

 異次元からのヤプールの怨念を受け取り、二匹の超獣は復讐の雄たけびをあげて荒野の上に立つエースに狙いを定めた。

 しかし命令を待つまでもなく、復讐の時は来たれり。バキシムは鼻腔と腕から放たれる大量のミサイルを、ブロッケンは両腕と二本の尾の先から放たれる四条の破壊光線を放って襲い掛かっていく。

「ヌォォ……!」

 ダメージを受けたエースには、その圧倒的な弾幕をかわす力は残っておらず、連続する爆発と肌を焼く高エネルギーの乱打が、射的の的のように彼を打ち倒していった。

(エース!)

(エース!)

 ゆっくりとひざを突き、地面を手で支えるエースに才人とルイズの声がかかるが、失ったエネルギーは返らずに、肉体が受けたダメージは消えはしない。しかも当然ながら二匹はエースにわずかな回復の時間も与えまいと、猛烈な勢いで突進してきて、バキシムの巨木のような足がエースを蹴り上げ、ブロッケンが跳ね飛ばしていった。それでも、不屈の闘志を持つウルトラ戦士であるエースは立ち上がり、起死回生をかけて光線技を放とうとするが、かつてエースに首を跳ね飛ばされて倒されている二匹は、そうはさせないとミサイルとレーザーを撃ち込んで来る。

「ウワァッ!」

 光線技のエースと異名をとるエースも、あまりの手数の違いには圧倒されるしかなかった。カラータイマーの点滅はますます速くなり、反比例して二匹は元気を増して攻め手を強化していく。

「卑怯者め! 二匹がかりでなぶるなんて、お前たちには誇りというものがないの!?」

 残酷で、情け容赦のないブロッケンとバキシムにキュルケの声が飛ぶが、当たり前ながらそれは届かず、アニエスの悔しさをにじませた声が彼女の感情をいさめた。

「無駄だ、奴らは地上に現れた悪魔そのものだ。奴らにとって、誇りなんてものは冷笑の対象にしかなりはしない」

 残酷、卑怯、卑劣、猟奇、狂気、そんな人間にとって踏み入れてはならない領域から、ヤプールは人類の破滅を狙ってやってくる。奴らは正真正銘の悪魔そのものなのだから。

 ミサイルが大地を砕き、レーザーが大気を焼く、それをかわしてもバキシムの両手の間と、ブロッケンの鼻から吹き出される高熱火炎がエースの体を燃やしていく。二大超獣の猛攻の前に、エースはなすすべもなく追い詰められていき、それはもはや戦闘と呼べるものではなく、一方的なリンチに等しいものであった。

 その絶望的な光景を、アンリエッタもウェールズも唇を噛み締めて見ていたが、通常の軍隊の装備では超獣には歯が立たないことが証明されているので、手を出すことができなかった。

「エース、がんばって……」

 アンリエッタの声も弱弱しくなり、兵士たちの歓声もしだいに絶望を帯びたものへとなっていく。しかも、天はさらにエースに過酷な運命を強いてきた。

(くそっ……太陽が……)

 日食が進むことで、ウルトラ戦士の力の源である太陽光線が弱まり始めたのだ。カラータイマーの点滅はさらに速くなり、闇が濃くなって喜ぶかのように二大超獣は目を不気味に輝かせて、雄たけびをあげる。

(畜生、あいつら調子に乗りやがって)

(エース、お願い。ここで敗れたら姫さまたちも……)

 エネルギーの消耗とダメージの蓄積は、すでに同化している二人の生命力を削るところにまで悪化してしまっていた。このまま戦えば、二人とも命の危険をともなう。しかし、逃げることもできなかった。

「トァァッ!」

 渾身の力を込めて飛び蹴りを食らわせても、もうバキシムの巨体は揺るぎもしない。逆に弾き飛ばされて倒れたエースを、ブロッケンが鋭い牙の生えた腕で引き起こしてバキシムがとげつきの腕で殴りつける。

「グッ、ウォォッ……」

 高層ビルでも一撃で穴だらけにするバキシムの攻撃がエースのわき腹を襲った。激しい痛みとともに、全身の力が抜けたエースはブロッケンに放り投げられて地面を転がった。

「グゥゥ……デュワッ!」

 ともすれば飛びそうになる意識を奮い起こしてエースは起き上がり、残った力を振り絞って指先を額のウルトラスターに当て、突進してきたバキシムへと光線を放った。

『パンチレーザー!』

 断続発射型の速射タイプのパンチレーザーが、直進してくるバキシムの左目へと命中する。それは爆発の後に緑色に発光している奴の目玉を吹き飛ばして、調子に乗っていたバキシムを大きくひるませた。

「やった!」

 ようやく敵に与えたダメージらしいダメージに、誰もたがわずに歓声があがった。バキシムの目はレーダーになっていて、これで敵の位置を正確に把握して攻撃をかけてくる機能をもっているだけに、それを失った奴はバランスを失ってエースを攻撃することができずにふらついている。

 しかし、半端な反撃はより強大な反撃を受ける結果を招来してしまった。バキシムを行動不能にしはしたもののブロッケンにまで攻撃を仕掛ける余力を残していなかったエースへと向けて、そのブロッケンからパンチレーザーの十倍にも及ぶのではないと思われるほどの、完全に手加減を除外した破壊光線の集中砲火が叩き込まれたのだ。

「ウワァァーッ!」

 衰弱していたところにこの攻撃を食らっては耐えられようもない。エースは大地にひざをつき、なんとか倒れるだけはするまいと力を込めたが、そこを残った右目を怒りに燃え上がらせたバキシムが蹴り飛ばして、まるで小石のようにエースは地面を転がされた。しかも、それで怒り収まらないバキシムはなおもエースを蹴り続けて、とどめに巨大タンカーにも相当する体重で、カラータイマーの点滅ごとエースの命を踏み消すように何度も踏みつけた。むろん、エースは必死でバキシムを押しのけたが、今度はブロッケンがバキシム以上の体重で踏みつけてくる。二匹の超獣に休む間もなく攻め立てられたエースは、タイマーの点滅を急速に早めて、もはや戦う力が限界に近づいてきていることは誰の目にも明らかだった。

 だが、誰にもどうすることもできないと思われたにもかかわらず、恐れを怒りと情熱の炎で焼き尽くし、敗北の先にある破滅の未来を水のような冷徹な目で見据えて、二人の若いメイジが立ち上がった。

「もう我慢できないわ! タバサ、行きましょう。ここで黙って終わりを待つなんて、わたしにはできないわ」

「うん」

 シルフィードを呼び寄せ、キュルケとタバサはムザン星人と戦ったときのように空へと飛び立つ。だが二大超獣に比して、彼女たちはあまりに小さくて儚げであった。

「いけない! 戻って」

 アンリエッタの叫びも届くことはなく、二人は攻撃を仕掛けていく。数々の実戦を勝ち抜いて、スクウェアクラスに近く成長した二人の攻撃魔法はすさまじく、王党派のメイジたちをもうならせる勢いを見せたが、カリーヌは憮然としてつぶやいた。

「無理だ。とても威力が足りない」

 自分の魔力をすべて使い尽くすほどの大魔法でも、サタンモアにとどめを刺すことはできなかったのに、それより劣る二人の魔法ではとても効果があるとは思えない。実際見た目の派手さとは裏腹に、超獣の皮膚を貫くには不十分で、二匹はほとんど気にも止めていなかった。

 だが、二人の勇気は戦うことを躊躇していたアンリエッタたちに、一歩前に踏み出す決意をする勇気を与えた。

「ウェールズさま。わたしたちはこのままでいいのでしょうか? 力が及ばないからといって、こうして安全なところで見守っているだけで、それでいいのでしょうか!?」

「しかし、あの巨大な怪物を相手に兵を無駄に死なせるわけには……」

「わかっています。わかっていますけど……」

 冷静に判断すれば、二大超獣に戦いを挑めば、ベロクロンを相手に全滅した旧トリステイン軍と同じ末路しか待っていないのはわかる。未熟ながら戦術家としての彼女の理性は、動いてはいけないと告げるが、たとえ戦っても勝てない相手とわかっているからといって、奴隷として生命をまっとうすることと、自由と誇りを懸けて死地に赴くのではどちらが人として尊いことなのだろうか。

 アンリエッタはすがるようにカリーヌのほうを見つめたが、鉄仮面は表情を隠して何も答えてはくれず、それは彼女が初めてヤプールの脅迫を跳ね返したときの自分の言葉を思い出させてくれた。

 

「断ります!! 誇りを捨て、奴隷となって服従するなどするくらいなら死んだほうがましです。私達は断固として戦い、この国を守り抜きます!!」

 

 あのとき、降伏を要求するヤプールの圧力を、自分は毅然として跳ね返したのに今はどうだ? ウルトラマンAに頼りきり、彼がピンチだというのに救いにいくことすらできないでいる。なんとも、情けなくなったものだ……

「ウェールズさま、申し訳ありませんが、わたくしのわがままをお許しください。これからわたしのやろうとすることは、きっと途方もなく愚かなのでしょうけれど、わたしは友人の危機を見捨てることはできません!」

「アンリエッタ、君は……」

「わかっています。けれど、わたしは彼に何度も国を救われてきました。その恩義を返すこともですけれど、自分の力で戦う努力もしないで、どうして世界を平和にするなどとおこがましいことが言えるでしょうか」

 他人に戦争をさせて自分は平和を賛美だけすることほど、恥知らずで情けない行為はない。それは、ウルトラ警備隊のキリヤマ隊長が言い残した「地球は人間自らの手で守り抜かねばならないのだ」という精神にもつながる。たとえ蟷螂の斧しかなくても、平和の奴隷と成り下がるよりはましだとアンリエッタは自身を恥じて、その手の中にある杖を握り締めた。

「トリステイン軍一千、よく聞きなさい。今、我々の恩人が危機にさらされています。これを座視できるという者は、今すぐここから去りなさい。ですがわたしはこれからあの超獣に挑んで、あるだけの魔法で彼を援護するつもりです。さあこの中に、ヤプールに我々人間がウルトラマンに頼るだけしかできない生き物ではないということを示す勇気のある者はいますか?」

 歓呼の大合唱が、アルビオン王党派をも含めた多数の人間からあがったとき、ウェールズはアンリエッタの肩を抱き、彼女の杖に自分の杖を添えた。

「ともに行こう、我らの手で平和をつかみとるために」

 貴族としての誇りではなく、人間としての誇りを守るためにウェールズと彼の部下たちも立ち上がり、それを見てカリーヌも仮面の下でうなずいていた。

「そうだ、それでいい」

 たとえ勝ち目なんかなくても、戦わなければならないときもある。彼女は残り少ない精神力ながら、ギマイラに戦いを挑んだときのように杖を振りかざし、まだ傷の癒えていないノワールに乗って飛び立っていき、彼女に続いてアニエスとミシェルをはじめトリステイン軍、王党派軍も突撃していく。

 正直に言えば、どうやって戦えばいいのかをわかっている者など一人もいない。だがかつてウルトラマンが地球に現れる以前にも、人類は知恵と勇気で怪獣と戦ってきたように、心までも負けるわけにはいかなかった。

 ラルゲユウスの体当たりを食らって、バキシムはブロッケンにのしかかるように倒れこみ、突撃してきた人間たちの魔法や矢の雨がバキシムとブロッケンに降り注ぐ。もちろんこの二匹からすれば、そんなものはかゆみすらもたらさなかったが、エースの最期という絶望的な状況を見せ付けて人間たちを恐怖のどん底に陥れようともくろんでいたヤプールは、恐怖に縮こまって動けないどころか立ち向かってきた人間たちに困惑していた。

「なんだ、人間どもめ、気でも狂ったか!?」

 ヤプールにとって、人間たちの勇気という心は完全に計算外の代物だった。人間たちに恐怖と絶望が生まれなければ、ヤプールはそこから生まれるマイナスエネルギーを得ることができない。そしてその逆に、人間の勇気という心の光こそがウルトラマンの力であった。

「テャャァッ!」

 ラルゲユウスの突貫によって袋叩きから助け出されたエースは、彼らが与えてくれたほんのひとかけらの力を振り絞って、バキシムを殴り倒し、ブロッケンの巨体を投げ飛ばした。

「おのれっ! そんな力がまだどこに?」

 ヤプールだけではなく、バキシムやブロッケンも驚き、立ち向かってくるエースに向き直る。だが、そこへまたラルゲユウスが体当たりして蹴り倒し、動けないように地上から縄や鎖が放たれて、氷の魔法が動きを封じようとする。

 確かに最新科学兵器ですら歯が立たない超獣に、数だけはそろっていてもレベルの低い魔法や、ましてや弓や槍ではかなうはずもなかったが、人類の勇気はそんな理屈を超えた未知なる力を生み出して、悪の軍勢を攻め立てた。

「私たちを愚かでとるに足りないものだと言ったな。だがお前たちが人間の邪悪な心が生み出した魔物であるなら、人間の力で倒せないはずはない」

 ウェールズは、恐怖をねじ伏せるようにして二大超獣を見上げるくらいの距離で陣頭指揮をとっていた。正直、ちょっとでも気を抜けば失神してしまいそうな恐怖が全身の血管を凍りつかせそうになるが、こういう場合に指揮官が安全な後方にとどまっていては兵士たちは命を懸けてはくれない。それに、彼にもある男のどうしようもなく救いがたい性だが、見守ってくれている女性に格好悪いところを見せたくはないという、譲れない意地があった。

「攻撃の手を緩めるな。あるだけの武器を叩き込め!」

 前線のそれぞれの隊長たちは、レコン・キスタとの戦いに使っていた大砲も銃も矢も槍も、すべて使い切るように叩き込む。むろん、メイジも平民に負けるわけにはいくかと、残っていた精神力をすべて注ぎ込んで可能な限りの魔法を炎や風、氷に変えて送り込む。それは、小山に油を撒いて火をつけたような壮絶な光景であった。

 だが、人間たちの攻撃は気迫と勢いで二大超獣を圧倒したが、やはり決定打を与えるにはいたれずに、いらだったヤプールは怒気を含めて二匹に命令を飛ばした。

「ええいこざかしい、バキシム、ブロッケン、目障りだ、そんなやつら蹴散らしてしまえ!」

 一時の混乱からヤプールの叱咤で二匹は目覚めた。その命令に従って、拘束を力づくで破って起き上がると、まずは足元に群がるこうるさい虫けらどもを始末しようと、攻撃を開始した。

 ミサイルが軍隊の真ん中で炸裂し、地を走るレーザーが人間たちを巻き上げる。それでも、愛する国を、家族を守るために彼らは立って戦いに望んでいくが、高熱火炎に呑まれた人間は瞬時に骨も残さず消滅し、歩くだけで地響きが生じるほどの重量を持つ二匹に踏みつけられたものは地底に化石同然に埋葬された。

「いかん、全軍後退しろ!」

 態勢を立て直しつつある二匹を相手に正面攻撃を続けては犠牲が増えるだけと、ウェールズとアンリエッタはいったん攻撃を中止させて、後退するように命じたが、撤退は攻撃の十倍難しいものなのである。なぜなら、撤退するということは自分が負けているということを否応なく自覚してしまうものであるし、なにより敵が逃げるこちらをのんきに見送ってくれることなど、どれほど楽観的な思考の持ち主でも期待することはないだろう。まだ若い二人は、目の前で吹き飛ばされる兵士たちを見て反射的にそう命じてしまったのだが、そこまで思いをいたらすことができなかった。

「だめだ! 今兵を引いてはいかん」

 上空から軍が後退しはじめるのをカリーヌが確認して叫んだときには手遅れだった。人間たちが逃げ始めたことを見て取った二匹は、蟻に足を噛まれた子供が蟻の巣にするように、憎悪をそのままに解放して人間たちを蹴散らし始めたのだ。

(やめろっ!)

 戦闘から虐殺へと一方的な下り坂を転がり始めるのをエースは見ていることはできずに、食い止めようと人々に向かいつつあるバキシムに後ろから組み付いた。しかし、バキシムは目障りだといわんばかりに剣のように巨大で硬質な尾を振り回してエースを吹き飛ばしてしまった。

「ヌワァァッー!」

 勢いよく跳ね飛ばされたエースは、骨格にまで響き渡るほどの衝撃に、全身がしびれて立ち上がれなくなるほどのダメージを受けてしまった。

(く、くそぉっ!)

 人間でいえば、コンクリートの壁に叩きつけられて呼吸が麻痺したときのような状態になっては、いかにエースの闘志が折れていなくても、肉体がそれについていくことができなかった。さらにカラータイマーの点滅も、ほとんどタイマーが赤一色に染まっているように点滅が早まり、同化している二人の生命力までも危険に近くなっていく。

(せめて、太陽が出ていれば……)

 空を見上げても、ウルトラ戦士の力の源である太陽はすでに九割方日食に覆い隠されて、その恵みの光を地上に届けることはできなくなっていた。立ち上がることもできないままで、復讐に猛り狂う二匹を睨みつけるしかできない。

 阿鼻叫喚、その風景を一言で表すのならばその四文字が使われるだろうが、その四文字が一瞬ごとに散っていく数百の命の叫びを表現することはできない。地球でも、怪獣が暴れるたびに街が破壊され、そこに住んでいる人の命が奪われていくのと同じ光景が繰り広げられて、それ以上の悲劇が大量生産されていく。

「止まれぇーっ!!」

 ラルゲユウスの可能な限りの速度でカリーヌは二匹に体当たりを加えさせ、自らも平常時の1/10ほどまで減少してしまった精神力で、二匹の体組織を麻痺させて動きを止めようと電撃魔法を使う。だが、捨て駒となったサタンモアの犠牲のせいで威力がまったく足りず、ほんのわずかに二匹の気を逸らしただけで、ノワールごとブロッケンのレーザー攻撃を受けて撃ち落されてしまった。

「なっ!? あの『烈風』までもがやられた!」

 二人の王子と王女と並んで、彼らの心の支えであった伝説の騎士であるカリーヌがやられた影響は瞬時に全軍に伝わり、それまで抑えられていた絶望感を一気に解放してしまった。「もうだめだ」「殺される」「助けてくれ」という叫びが轟くと、一部が後退から壊走に転落しはじめたばかりでなく、カリーヌに従って戦っていた残りの竜騎士の思考力と状況判断力も麻痺させて、次は自分たちが狙われる番だということに気づくのを遅れさせてしまった。二大超獣がその気になれば、タックアローなどよりはるかに遅い竜騎士などを叩き落すことは造作もなかったのである。ほんの数分のうちに、彼らもミサイルとレーザーの餌食となって全滅して、最後に残ったシルフィードもミサイルが至近で爆発して、即死こそしなかったが乗っていた二人もろとも撃ち落されていた。

「タバサ、無事?」

「わたしは……それより、シルフィードがひどい怪我」

 不時着の寸前に、レビテーションでショックは軽減したが、爆風を二人の代わりにもろに受けてしまったシルフィードは大火傷を負い、きゅいきゅいと苦しそうに鳴いている。これでは、飛ぶことはおろかもはや戦うことなど到底できそうもなかった。いや、それ以前に精神力の尽きたタバサとキュルケも自分が戦力にはなり得ないと自分でわかってしまっていた。

「こんなときに戦えないなんて……っ」

「……」

 以前戦ったムザン星人やガギなどとは、生物兵器として作られた超獣のパワーは根本から違っていた。怒りにまかせて飛び出し、いつものようになんとかなるだろうという甘い見通しは打ち砕かれて、シルフィードを守ることしかできない二人の見ている前で、惨劇はその度合いを増していく。

 一瞬で、その命を絶たれた者はむしろ幸せだったかもしれない。なぜなら、乗っていた飛行機を爆発させられた人間は痛みを感じる余裕もないが、崩されたビルの下敷きになって生き残ってしまった人間に待っているものは、生き埋めにされた苦痛と恐怖と絶望だからである。

 焼死や爆死を免れた兵士たちも、体の一部を失った自分の姿を目の当たりにしなければならないという残酷な現実を突きつけられた後で、緩慢に迫ってくる死の恐怖の中で母親を呼びながら息絶えていく。

 その、凄惨と呼ぶにもあまりにも過酷な状況にありながら、アンリエッタたちはそれまで最前線であったところから、一気に殿になってしまった場所で、一兵でも多く逃がそうと奮闘していた。

「水のトライアングルよ!」

「風のトライアングルよ!」

 ヘクサゴンスペルが炸裂し、二匹の動きがわずかに止まるが、超重量を誇る二匹は吹き飛ばされはせずに、氷嵐の大竜巻の中でかすり傷ひとつ負わずに立ち続けている。

「なんて奴らだ……」

「ウェールズさま、頑張って……」

 みるみるうちに削られていく精神力と体力の消耗に耐えながら、二人は全力で二匹を閉じ込めた氷竜巻を維持し続けた。だが、ヘクサゴンスペルの長時間使用などは前例がなく、二人は自分の魔法に命を吸われていくような感覚を覚え始めていた。

「みんな、早く逃げて」

 すでに二人の力は底を尽いていたが、ここで魔法を解除すれば解放された超獣は、今度こそ止める術はないままに人々を蹂躙していくだろう。一人でも多く逃げて生き延びてくれ、それだけを祈って二人は力を振り絞った。

 しかし、そうして命を削る二人の姿を忌々しく見つめていたヤプールは、歯向かう者にはすべて死をと、禍々しい声で命令を放った。

「こしゃくな真似を、バキシムよ、その二人が人間どもの要だ! そいつらを殺せば人間たちは完全に絶望に沈む、やれぇー!」

 その瞬間、氷竜巻の中で脱出を図っていたバキシムの右目が緑色の輝きを放つと、突然バキシムは前傾姿勢をとって頭をアンリエッタとウェールズに向けた。

「え……?」

 最初彼女たちは、それが何を意味するのかわからなかった。しかし、レーダーになっているバキシムの目は、そのときにはすでに二人を完全にロックオンしており、その頭頂部に生えた一本角が、巨大なミサイルと化して発射されたときにはもう手遅れとなっていた。

「ひっ……」

 角ミサイル、一角超獣の別名をもつバキシムの、これが最大最強の隠し技であった。

 氷竜巻をぶち抜いて、一直線に音速で飛んでくるそれを相手に、お互いの名前を叫ぶ時間すらそこには無かった。死ぬ直前にはそれまでの人生を走馬灯のように見るとか、自分が死ぬ瞬間を時間を圧縮されて見るなどというが、アンリエッタが見たものは自分に向かって飛んでくる、巨大な塔ほどの大きさがあるミサイルと、自分に覆いかぶさってくるウェールズ、我が身を捨てて壁となっていくアニエスとミシェルの姿だけだった。

”わたくしは、ここで死ぬのですね”

 奇妙に冷静な思考の中で、アンリエッタはふとそんなことを思った。けれど、愛しいウェールズさまに抱かれながら死ねるのなら、それも幸せかもしれない。しかし、結局何一つなしえないままに死んでは、残された人々はどうなってしまうのだろうか。種を撒くだけ撒いて、収穫は他人任せ、それではあまりにも無責任すぎる。以前の何も知らなかったころなら、それでも気に止めはしなかっただろうが、今はそんな自分を支えて引き上げてくれた人たちを思うと、胸の奥が針で刺されるように痛む。

”ごめんなさい、ルイズ……”

 最後の瞬間、アンリエッタは親友の名を呼んだ。

 誘導能力を持つミサイルは一寸たりとも狙いを外さずにこちらへ向かってくる。あの超大型ミサイルの爆発力の前では人間の壁など何の役にも立たず、付近一帯もろとも自分たちは消し飛んでしまうだろう。

 だが、すべてをあきらめて目を閉じようとした瞬間、アンリエッタの目にミサイルと自分たちのあいだに割り込んできた銀色の影が映った。

 

「デャャァッ!」

 

 その瞬間、巨大な爆発が引き起こり、真っ赤な炎が空気を、草原を焼き尽くそうと膨れ上がったが、その炎はアンリエッタたちに届くことはなかった。そこには、最後の力を振り絞って、その身を盾に、ミサイルをその背に受けたウルトラマンAが立ちふさがって、すべての衝撃を代わりに受けていたのだ。

「エースが助けてくれた……」

 数秒かかって、そのことを理解したアンリエッタは、安堵のあまりウェールズに支えられたままで、やっとそうつぶやいた。しかし、呼吸を整えて礼の言葉を発しようとした彼女の喉は、絶対零度の風を受けて凍結することとなった。両手を広げて巨神像のように悠然と人々を守って立ちふさがっていたエースの胸の赤い灯が燃え尽きたようにふっと消えると、同時にその目から輝きが消えて、巨体が朽ち果てた巨木のように軽く揺らめき、そして……

「ああっ……!!」

 彼女たちも、エースによって救われたほかの兵士たちも、言葉を発することができなかった。これまで、いかに傷つこうとも立ち上がって最後に勝利を収めてきたあのウルトラマンAが、大地に崩れ落ちてぴくりとも動かなくなってしまったではないか。

「まさか、こんな……」

「立て、立ってくれよ!」

「頑張れ、起きるんだ!」

 何度もエースの戦いを見守ってきたトリステインの兵士たちの中から、アルビオンに来てなお救いの手を差し伸べてくれたエースに、必死の叫びが送られるが、もうエースにその叫びに応える力は残されてはいなかった。代わってそれに答えたのは、歓喜に震えたヤプールの遠吠えにも似た悪魔の叫びだった。

「ふわっはっはっはっ!! 馬鹿なやつめ、わざわざ死にに来るとはな! だがこれで貴様にはもはや指一本動かすエネルギーも残ってはいまい、貴様にはお似合いの死に様だ! ゆけえバキシム、ブロッケン、エースにとどめを刺すのだぁ!!」

 その声が終わるのを待つまでもなかった。二大超獣は歓呼の雄叫びをあげて横たわるエースに駆け寄ると、まるでサッカーボールのように蹴り上げて地面に叩きつけ、踏みつけては放り投げと、無邪気で残酷な子供が笑顔で人形の腕をちぎって遊ぶように、エースの体を考えられる限りの方法で痛めつけていった。

「人間どもよ、我らヤプールに歯向かった者の末路を見ておくがいい。我らに逆らうものは、皆こうやって死んでいくのだ!」

 積もりに積もった怨念を一撃一撃に込めて、バキシムとブロッケンは凶暴性という単語を超えた残忍さで、無抵抗なエースを嬉々として痛めつけていた。殴りつけ、蹴り飛ばし、炎で焼き、ミサイルの標的にして吹き飛ばす。それはもはや嬲るというよりも、遊んでいるといったほうが適切な光景で、見守ることさえできなくなった幾人かが、思わず目を逸らしてしまったことを誰も責められまい。

 才人とルイズはエースの中で、活動するエネルギーは失ったが、かろうじて意識だけは残しているエースとともにいたが、そこにも確実に死は迫っていた。

(ちくしょう……もうエネルギーが……)

 カラータイマーの点滅は、あくまでエネルギーの残量を示すものであって、タイマーが消えたことがそのままウルトラマンの死を意味するものではない。しかし、敵を前にして動けないのでは意味がなく、攻撃の痛みを一身に受けているエースだけではなく、同化している二人の生命力さえも猛烈な勢いで削っていた。

(寒い……なんだ、まるで凍りついたような)

(まだ、戦わなきゃならないのに……お願い、立って……た……)

(お、おいルイズ眠るな! 意識を失ったら、起きるんだ!)

 肉体の死は、そのまま心にも死を強いてくる。精神世界にいる二人にも、真冬の海に浮かんでいるような冷たさが忍び寄ってきていた。しかし、二人に代わって攻撃を受け続けるエースの苦痛は、それらさえ比ではなかった。二つの月は残酷にも、ひとかけらの光もよこさぬと完全に太陽を隠して漆黒の天体に変えて、闇の中に閉ざされた光の戦士を悪魔が力の限り攻撃する。

「やめて! もうやめてください!」

 みせしめにしても残酷すぎる仕打ちに、アンリエッタが血を吐くような叫びをあげても、その声もまた轟音の中にかき消されていく。

 もはや、王党派、トリステイン軍に余剰戦力はなく、『烈風』が倒れ、キュルケとタバサも力尽き、アンリエッタとウェールズの魔法の力も尽きた今、人間たちにエースを救う術は何一つ残ってはいなかった。

 そして、ぼろくずのようにエースの体が放り投げられて地面に転がると、ヤプールは復讐の最終段階に入った。

「ふっふっふ、ようしそのあたりでよかろう。ふふふ、ちょうど太陽も隠れて闇もいい塩梅になってきたな。そして闇といえばエースよ、ゴルゴダ星を覚えているか? 我々は貴様ら兄弟を極寒のゴルゴダ星におびき寄せて全滅させようとしたが、貴様だけは兄弟からエネルギーをわけてもらって脱出に成功したな。だが、今度はお前一人で死んでいくがいい! 見よ」

 すると、中空の空にひび割れが生じ、異次元の裂け目が現れた。そしてそこから全高七十メイルにはなろうかという巨大な十字架が現れて、地面に突き刺さり、どこからともなく伸びてきた鎖がエースの四肢を絡めとって、磔にしてしまったのだ。

「ああ、もうだめだ……」

 無残に十字架に四肢を縛り付けられ、力なく首を落としているエースの姿は、人々から最後の希望を奪うのに充分だった。わずかに動く気力のある者は逃げ出し、気力のない者は絶望してひざを突く。

 カリーヌも、なんの魔法も出せなくなった杖を握り締めて仮面の下で歯軋りをし、キュルケとタバサも、シルフィードを守りながら自分たちの無力さを痛感していた。アニエスやミシェルも、これまで修練を重ねてきた剣も杖も何の役にも立たないことに、血がにじむほどこぶしを握り締め、絶望の歌がすべての人間を覆っていく。

 そしてヤプールはついに、二大超獣に最後の命令を下した。

「さあ、今こそ復讐が完遂する時だ! エースを殺せ! バラバラにして跡形も無く粉砕してしまうのだぁーっ!」

 バキシムのミサイルが、ブロッケンのレーザーが飛び交い、死人同然となったエースの体に集中していく。

「人間どもよ、お前たちの守護神であるウルトラマンはこれから死ぬ。そして、我らヤプールがこの世界を暗黒に染めるこのときを、絶望して見ているがいい!」

 かつて、これほど残酷な処刑があっただろうか。復讐とともに、光を闇に染め、希望を奪い、絶望をばらまく。ヤプールは、エースをハルケギニア侵略のための人柱にするために、これほどの手間と労力をかけて罠に嵌めたのだ。

 すでに誰にも、戦う力も武器も残されていない。カリーヌも、キュルケやタバサもアニエスやミシェル、ウェールズや数々の勇敢で強い将兵たちのすべてが、ヤプールの計画のままに、絶望の沼地の中に沈み、エースの命ももはや風前のともし火であった。

 そんななかでアンリエッタはただ一人、ひざを突き、祈っていた。

「神よ。始祖ブリミルよ、どうか、我らの恩人を、この世界を闇からお救いください。今日が、奇跡の起きる日だというのならば、わたくしの願いをお聞きとどけください。そのためなら、わたくしの命でも差し出します。だから、どうか……」

 答えるものはなく、神は降臨したりはしなかった。二大超獣の攻撃はますます激しさを増して、十字架ごとエースを粉砕しようという勢いで、火力を集中する。そしてついに、二匹はエースの命を完全に絶つべく、ミサイルとレーザーの照準をすべてカラータイマーへと向けた。

(もはや、これまでか……)

 エースも含め、誰もの心を絶望が覆い尽くした。全力を出し切ったことについてはなんらの悔いもないが、実りを残すことができなかったのでは言い訳にもならない。ヤプールの侵略を阻止するという使命を果たすことができずに、ここで倒れればやがてハルケギニアを滅ぼしてマイナスエネルギーを蓄えたヤプールは、地球、光の国へと侵略の手を伸ばし、最終的には宇宙全体を巻き込んだ争乱となっていくだろう。そうなれば、もはや失われる命の数はこのアルビオン内乱などは比にもならない規模に膨れ上がる……

 戦場だった空間には、絶望と悲嘆に満ちた七万人の亡者のような声が流れ、その心から生まれるマイナスエネルギーに満ちた空に、ヤプールの哄笑だけが響き渡る。

 終わった……誰もが、あきらめて最後を覚悟した、そのときだった。

 

 

”兄さん、あきらめないで!”

 

 

 突如、心に響き渡ったその声に、エースははっとして目を覚ました。それは、ウルトラ一族が持つテレパシーの波動。その響きを持つ声の主を、彼はよく知っている。しかし、なぜここに? 空耳か、いや違う!

(太陽……?)

 彼は最後の力で、今にも攻撃を開始しそうな二匹の超獣から、視線を天空に黒い穴のように存在する日食へと向けた。そこは、一点の光も見えない虚ろな空間。しかし、その漆黒の虚無の空間の中に、ありえべからざる光が輝いた。

 それは、最初夜空に瞬く小さな星のように儚げに見えたが、闇の中にあって消えることは無く、生まれたばかりの若い恒星が宇宙に新たな息吹となっていくように、強く明るく光を増していき、滲み出してきた光は幻ではなく形をなしていく。

 希望は無いと誰もあきらめた。奇跡は起きないと誰もがあきらめた。

 しかし、絆がある限り、どんなに闇が深かろうと光は必ず差し込んでくる。虚無の闇の中から次第に近づいてきたそれは、銀色の翼に不死鳥のような炎のシンボルをまとった、希望の姿となって現れた! 

(あれは!? まさか!)

 ありえない、ありえるはずもないシルエットに、才人は幻を見ているのではないかと思った。だがそれは大気を切り裂き、闇の中でも赤々と燃え盛るファイヤーシンボルを猛らせて彼の視界を埋めていき、困惑が確信に変わった時、彼は心から叫んでいた。

 

(ガンフェニックストライカーだ!)

 

 奇跡が、起きた。ブースターを全開にして、急降下してきたその炎の翼を、忘れることなどできようはずもない。それこそ、CREW GUYSの象徴にして、地球の平和を守り続けてきた平和の不死鳥。先頭にガンウィンガー、後方にガンローダー、さらにその上方にガンブースターを合体させた、人類の英知の結晶が生んだ最強の戦闘機が今、ハルケギニアの空に飛び立ったのだ!

 そして、舞い降りてきたガンフェニックストライカーは地上のエースと二大超獣を認めると、幻でないことを誇示するかのように、全ビーム砲門の一斉射撃、バリアントスマッシャーを輝かせた。

「な、なんだあれは!?」

 天からの光芒が大地を砕き、爆風が二大超獣をもたじろがせると、地上の人々もガンフェニックスの姿に気づき、いっせいに空を見上げた。

「速い! あれはなんだ!?」

「赤い、火竜か?」

「いや、大きすぎるし速すぎる! あんなもの見たこともないぞ」

 戦闘機などを見たこともないハルケギニアの人々は、ガンフェニックスの正体がわからずに戸惑い、新しい敵かとどよめいた。しかし見慣れない翼はさらに光線を放ってバキシムとブロッケンを打ちのめしていく。そして彼らの頭上を信じられないスピードで飛び去っていった、その翼に刻まれた炎の紋章を見て、アンリエッタは自然と心に浮かんできた名をつぶやいていた。

「不死鳥……?」

 だが、一番驚き慌てたのは当然ながらバキシムとブロッケンである。今にもエースに積年の恨みを晴らそうとしていたのに、突然現れた戦闘機によって妨害されて平静でいられるはずはない。あれはなんだ、どこから現れた!? いや、あれは地球のものだ、それがどうしてこんなところに現れる!? 人間以上の知能を持った二匹の超獣は、事態を把握できなくて混乱に陥った。

 しかし、悪意の塊であるヤプールは、突然のガンフェニックスの出現には驚いたものの、その原因などよりも、それが現れたことによって起こる結果を瞬時に見抜いて、その前に復讐を果たそうと、二匹に怒鳴るように命じた。

「なにをしている! はやく死にぞこないのエースにとどめを刺せぇ!」

 その叫びで我に返ったバキシムとブロッケンは、ガンフェニックスの攻撃に驚いたショックから立ち直って、ミサイルとレーザーを全弾発射した。

「死ねっ! ウルトラマンAよ!」

 炎を引きながら迫る数十発のミサイルと、蛇のようにしなるレーザーが一直線に十字架上のエースのカラータイマーに向かう。しかし、確実な死が迫っているというのにエースに恐れはなかった。なぜなら、空気を切り裂く衝撃波を生みながら、二大超獣とのあいだを飛び去っていったガンフェニックスの、ガンウィンガー部分のコクピットに座っている、ウルトラ十番目の弟が光に変わる姿を、確かに見たのだから。

 

「メビウース!」

 

 ヒビノ・ミライの掛け声とともに、金色の光がガンフェニックスから飛び立ち、光の球がエースを守るように十字架の前に立ちはだかり、ミサイルとレーザーをすべてはじき返す。そして、光が爆発し、その中から立ち上がるのは、宇宙警備隊が誇る、若き不死鳥の勇者!

 

「ヘヤアッ!」

 

 闇の時間が終わり、再びさんさんと降り注ぎ始めた美しい陽光を浴びて、ウルトラマンメビウスが二大超獣を前に恐れのかけらもなく、しっかりと大地を踏みしめて降臨する。ウルトラ兄弟VSバキシム&ブロッケン、最終ラウンド。

 

 今、反撃の時は来た!

 

 

 続く


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