第80話
エース・メビウス&ウルトラマンガイア 時空界の大決戦
時空怪獣 エアロヴァイパー
宇宙戦闘獣 コッヴ
宇宙雷獣 パズズ
ウルトラマンメビウス
ウルトラマンガイア 登場!
破滅した未来、自分の住んでいる世界が滅亡しているのを見せて、人間を絶望させようとする何者かの策謀によって、ウルトラマンガイアの世界に呼び寄せられてしまった才人とルイズ、そしてミライたちCREW GUYSの三人。敵の目的は世界の崩壊に対して最大の障害となるであろうウルトラマンの抹殺。
しかし、常に自分の意思と選択によって未来を勝ち取ってきた者たちにはそんな姑息な策謀は通用しない。未来を変えるものは常に人間の意思であると、才人とルイズはウルトラマンAへ、ミライはウルトラマンメビウスへ、そして我夢はウルトラマンガイアへとそれぞれ変身した。
崩壊したトリステインの未来で、ウルトラマンAと宇宙戦闘獣コッヴ。
滅亡した東京の未来で、ウルトラマンメビウスと宇宙雷獣パズズ。
全滅したエリアルベースの未来で、ウルトラマンガイアと時空怪獣エアロヴァイパー。
今、時空間でそれぞれの世界の未来をかけた一大決戦が始まった!
『パンチレーザー!』
『メビュームスラッシュ!』
『クァンタムストリーム!』
戦いのゴングは三人のウルトラマンが、くしくも同時に放った光線技で鳴らされた。
指を頭上に合わせたエースの額のウルトラスターから放たれた青い光線がコッヴへ。
メビウスブレスからのエネルギーをくさび形の光の矢に変えた光弾がパズズへ。
飛行しながら腕をL字に組んだガイアから放たれた赤い光線がエアロヴァイパーへ向かう!
だが、何者かによって刺客として送られた怪獣たちはどいつも一筋縄ではいかない奴らばかりであった。
メビュームスラッシュとパンチレーザーは火花を散らしたが、どちらもさしたるダメージを与えられずにはじき返されて、エースはコッヴと、メビウスはパズズと廃墟を踏み砕いて接近格闘戦に入った。
「ヌゥン!」
コッヴの両腕の鎌を受け止めたエースが、その腹に向かってキックを打ち込み後ずさったところへボディへチョップを食らわせる。
(なかなかタフな奴だな)
エースの渾身の一撃を受けたというのに、コッヴは特に弱った様子も見せずに両腕の鎌を振りかざして反撃に出てきた。こいつは、ガイアの世界では最初に地球攻撃に使用され、初めてガイアが戦った宇宙怪獣なのだが、それゆえに弱点らしい弱点を持たないバランスのよさを持っている。
しかし才人やエースは、当然コッヴのことを知らない。だが、どうやら超獣並みに侮ってかかれる相手ではないと、全力で戦うことを覚悟した。
「トオーッ!」
突進してくるコッヴを大ジャンプしてかわしたエースの眼下で、以前に才人たちがデルフリンガーを買った武器屋がコッヴの巨大な足に踏み潰されて瓦礫の山となっていく。
また、数々の戦いを潜り抜けて、いまや立派なウルトラ兄弟の一員とみなされるようになったメビウスも、立ちはだかってくる怪獣パズズに容易ではない戦いを繰り広げていた。
「ワアアッッ!」
「あの怪獣、雷を操る能力を持っているのか!」
パズズの羊のような、大きくてねじれた角が瞬時にさらに巨大化して空を向いたかと思うと、角から放たれた雷が空へと舞い上がって、雲の中から無数の光の矢となってメビウスに襲い掛かったのだ。
「ミライ! その程度の攻撃でへばるんじゃねえ」
「……ヘヤッ!」
だが、リュウの厳しくも心強い声援を受けると、メビウスはすぐに立ち上がって、さらに雷を食らわせようとするパズズの攻撃を、右へ左へとステップを使って回避し、助走をつけるとジャンプキックをおみまいした。
「セヤァッ!」
喉元にヒットしたキックを受けて、パズズの巨体が大きく揺らぐ。もちろん、パズズもこの程度でまいるような怪獣ではなく、すぐに態勢を立て直して、怪力を誇る太い腕を振りかざして襲ってくるが、メビウスもウルトラマンタロウとウルトラマンレオ直伝の格闘技で迎え撃つ。
エースもメビウスも、初めて見る怪獣ながらも豊富な経験と勇気をもって、互角以上に渡り合っていた。しかし、それだけで単純に勝てるほど、この時空間を用意してきた敵の計略は甘いものではなかった。
エースとメビウスがそれぞれ別の時空でコッヴとパズズを相手に激闘を繰り広げている頃、ウルトラマンガイアはエアロヴァイパーと戦っていたが、奴の持つ時間移動能力に苦戦を強いられていた。
エアロヴァイパーは、戦闘の開始と同時にガイアが放ったクァンタムストリームを命中直前にタイムワープしてかわすと、ガイアの頭上にワープアウトしてきて死角から火炎弾をガイアに撃ち込んできたのだ。
「ウワァッ!?」
命中でガイアの肩から火花が飛び散る。思わぬ方向からの攻撃にはさしものガイアもよろめいて、空中から砂漠の上にまっ逆さまに墜落していき、高い土煙と猛烈な振動とともに地面に叩きつけられた。
「グゥゥ……」
それでも、ウルトラマンガイアはくじけることなく立ち上がり、降下してくるエアロヴァイパーをキックで迎え撃とうとした。だが直前でまたしてもタイムワープでかわされて、背後から不意打ちを仕掛けてきたエアロヴァイパーを避けられずに直撃を受けてしまった。
(奴は、時間軸を歪めて好きなときに未来や過去に逃げられる。このままじゃ、奴を捉えることはできない)
ガイアの意思は我夢そのものであるから、彼はエアロヴァイパーの能力を正確に分析して、奴がこちらの攻撃を軽々と避けられる訳を悟っていた。
だが、ガイアから見ればエアロヴァイパーは瞬時に消えて現れるだけの単なるテレポーテーションに見えるといっても、それがタイムワープである以上は、ある時間帯で消えたからといって、すぐに次の時間帯に出現しなければいけないということはなかった。
つまり、ガイアの時間帯の15:55の45秒に消えたエアロヴァイパーは、15:55の46秒にガイアの死角に現れる前に、エースやメビウスの時間軸に出現することができたのである。
「ウワァッ!?」
コッヴを投げ飛ばして光線技を放とうとしていたエースに、突如として真横に現れたエアロヴァイパーが体当たりして吹き飛ばし、コッヴに助太刀するかのように、倒れたコッヴの真横に着陸してきた。
(なんだっ? いきなり現れたぞ)
才人は、まったく予期せずに出現したエアロヴァイパーの攻撃に驚いた。今の一撃を受けなければ、コッヴには倒せなくても大ダメージは確実の一撃を入れられたはずなのに、すでにコッヴも態勢を立て直し、エアロヴァイパーと二体でこちらへ威嚇の雄たけびをあげてくる。
(あいつは、ウルトラマンガイアと戦ってたはずなのに)
(バカね、あいつが時間を好きに移動できるのを忘れたの? その気になったらあいつはどこにでも逃げ込んでこれるのよ)
ルイズも、わずかな学習の中でエアロヴァイパーの特性を理解していた。元々頭の回転は人並み以上に速いのだ。才人と我夢の会話も、ほとんど理解できなくとも、才人の教えてくれた結論やわずかにわかる単語の断片から推理して、おおまかなことは読めていた。つまりエアロヴァイパーは、いつでもどこにでも出現して攻撃してくることができることになる。
(まずいな、つまりは実質二対一ということか)
エースも一対一なら負けるつもりはなくても、数はそれだけでも大きな力となる。多勢に無勢、質より量と数の優位性を示した言葉が多いとおりに、二匹の怪獣はエアロヴァイパーを先頭に、トリスタニアの石造りの街を粉砕しながら向かってくる。
(だが、それがどうした!)
エースも数で負けている戦いをしたことは一度や二度ではない。超獣ドラゴリーとメトロン星人Jr、超獣カイマンダとシシゴランのタッグと戦ったときなど、不利ながらも勝利してきた。廃墟と化して、もはや人的被害を考慮しなくてもいい街をこちらも踏み砕きながら、エースはエアロヴァイパーの空中体当たりを迎え撃とうとパンチを繰り出す。
だが、命中直前にまたしてもエアロヴァイパーはタイムワープして掻き消え、空振りして体勢を崩したエースに、コッヴの額から放たれた黄色い破壊光弾が何発も命中して爆発した。
「グワァァッ!」
さらに、エースにフェイントをかけてコッヴにチェンスを作ったエアロヴァイパーはメビウスの空間にも現れて、パズズと組み合っているメビウスに後ろから襲い掛かった。
「ミライくん、後ろだ!!」
テッペイの叫びがメビウスの耳に届いたとき、背後からエアロヴァイパーに襲われたメビウスは、後ろから首を絞められていた。
「ウワァッ!」
エースのときと同じく、一対一だと思っていたのに急に出現した別の敵にはメビウスもとっさに対応しきれない。正面のパズズと後ろのエアロヴァイパーのどちらを優先させるか一瞬迷った隙に、エアロヴァイパーは後ろからの首絞めからメビウスの両腕を掴んでの羽交い絞めに切り替えてきた。
「アァァッ!?」
身動きできなくなったメビウスを、パズズは容赦なく殴りつけ、大木のような尻尾を叩きつけて痛めつけていく。だがそうはさせじ、ミライを助けるためにリュウとテッペイはGUYSの専用光線銃トライガーショットを取り出した。
「野郎! ミライを離せ、バスターブレッド!」
リュウとテッペイは、メビウスを羽交い絞めにしているエアロヴァイパーへトライガーショットの三つのカートリッジの一つ、イエローチェンバーの高熱火炎弾バスターブレッドを放った。
狙いは正確で、二人の連射した弾丸は正確にエアロヴァイパーの頭部に炸裂! 多少なりのダメージとともに奴に隙を作り、メビウスは脱出に成功して、エアロヴァイパーの翼を掴むとパズズへ向かって力いっぱい投げ飛ばした。
「ティヤァッ!」
自らの体重が生み出す慣性の法則にしたがってエアロヴァイパーは上下さかさまになって頭からパズズへ突っ込んでいく。これで二匹がぶつかってもつれあえば、そこに光線技を打ち込んで一気に決めることができる。
しかし、奴の角が赤く光ると、またしてもいいところで奴は別の時空へと逃げ去り、もう一度パズズと対決することになった。
そして、エースとメビウスを散々翻弄したエアロヴァイパーは、消えてから一秒後のガイアの世界に再び現れて、死角から爪の一撃でガイアを吹っ飛ばした。
「グウゥゥ……デヤッ!」
けれどガイアも負けてはおらず、手を左の腰あたりに構えてエネルギーをためると、走って突撃してくるエアロヴァイパーに光弾を放った。
『ガイアスラッシュ!』
赤い光弾は高速でエアロヴァイパーに迫ったが、奴はそれも予測していたのか命中前にまたもや空間に溶け込むようにしてタイムワープしてしまう。おまけにその後、コッヴを持ち上げてエースリフターを決めようとしているエースの背後に現れて、口から吐き出す火炎弾を撃ち込んできた。
(エース! くそっ、またいいところで!)
死角からの攻撃では視覚を共有している才人とルイズも的確にサポートすることができない。背中に攻撃を受けたエースは頭上に持ち上げたコッヴの重みに耐えられずに、逆に押しつぶされる形になって倒れこんでしまった。
幸い、今度はエアロヴァイパーはすぐにまた消えたものの、倒れたエースにマウントポジションをとったコッヴは叫びながら両腕の鎌を振り下ろして何度もエースを痛めつけてきた。なんとかやっと腹を蹴って脱出に成功しても、勢いづいたコッヴはさらに額から放つ黄色い破壊光弾を連射して、エースを爆発で包みダメージを蓄積させていった。
(まずい、このままじゃやられる)
両者の戦いの巻き添えで、ブルドンネ街もチクトンネ街も炎上し、才人とルイズが何度も通った大通りや、魅惑の妖精亭も跡形もなく瓦礫の山と化している。これはあくまで別の時空のことであるが、本当にこのままではこれが現実となってしまう。
(なんとかして、時空怪獣の不意打ちを封じ込めないと、大技は繰り出せねえぞ)
(それに、脱出のための力も残しておかないと、勝っても共倒れになるわよ。わたしはこんな滅びた世界じゃなくて、元のトリステインに戻りたいんですからね)
カラータイマーが点滅をはじめ、残りのエネルギー残量が少ないことを知らせてくるが、三人とも戦局を打開するいい手は浮かんでこなかった。
時空を飛び、思わぬ方向から何の前触れもなく奇襲をかけてくるエアロヴァイパーには、エースだけでなくメビウスも完全に打つ手をなくしていた。
「くそっ、神出鬼没に右から左から!」
どこから来るかわからないエアロヴァイパーにはリュウたちも援護射撃が間に合わなかった。奴は時間を飛んでやってくるので前触れがなく、せっかくメビウスが攻撃のチャンスを掴んでもそれをつぶされてしまい、雷撃や、パズズが口から吐き出す強力な火球弾の直撃を浴びて次第に追い詰められていっていた。
「ウウ……」
赤くなったカラータイマーと同じく、苦しげに大地にひざを着いてメビウスは勝ち誇ったように雄たけびをあげるパズズを見上げた。パズズ一体ならばメビウスにとって決して恐ろしい相手ではないが、足元をすくわれ続けてまともに戦えないのでは意味がない。
エースとメビウスはそれぞれの次元で、コッヴとパズズが直接戦い、エアロヴァイパーが不意打ちでサポートするタッグ攻撃の前に手詰まりに追い込まれていた。
カラータイマーの点滅は残り時間の問題となり、最初は優勢に戦えていた二人もパワーとスピードの衰えが隠せなくなってきている。そのためエアロヴァイパーは二人のウルトラマンが充分に弱ったと見たのか、二匹に任せて再度ガイアの時空へと戻っていったものの、二人が逆襲に転じれば戻ってきて、また二匹で攻撃してくるに違いなく、ピンチにいささかの回復も見られなかった。
二人のウルトラマンを相手に、まるで忍者のように立ち回ったエアロヴァイパー。奴は向こうの世界では二分ほど戦闘に参加していたにも関わらずに、ガイアの前から姿を消してから一秒後の未来に飛行したまま時空間から姿を現すと、見失って探し回っているガイアに頭から体当たりを食らわせた。
「グワァァッ……」
ガイアの胸についているライフゲージが赤く点滅を始める。これは名称こそ違うが基本的にはカラータイマーと同じもので、ガイアには活動時間制限はないがエネルギーの残量がなくなりかけると赤く点滅する。
すなわち、ガイアもまた大ピンチに追い込まれていた。捕まえられないエアロヴァイパーは勝利が近づいているのに調子に乗ったのか、ガイアの後ろから近づいて羽交い絞めにしようとしてくる。
だが、エアロヴァイパーはそこでウルトラマンだけに目がいって、わずかなりとて人間のことを忘れていたことを思い知らさせた。
「ガイアを援護しろ。奴の触覚を狙うんだ!」
我夢のEX機と同時にこの空間でエアロヴァイパーと交戦していたファイターチームの一隊、チーム・ファルコンがガイアのピンチを見て取って助太刀に入ったのだ。
三機のXIGファイターのレーザーが集中して、ガイアを押さえつけていたエアロヴァイパーの頭部を乱打し、奴の触覚、角を破壊していく。彼らはエアロヴァイパーがタイムワープする直前に触覚が赤く発光することから、これがタイムワープに重要な器官だと見破って、見事ガイアを救出し、奴から時空移動能力を奪い取ることに成功した。
触覚を失ったエアロヴァイパーは時空転移ができなくなったばかりか、副産物ともいえる影響をエースとメビウスのいる時空にもたらした。
(そ、空を見て!)
なんと、闇に包まれていた空が歪んで、エースのいる場所からガイアの戦いが空に映画を投影してるかのように映し出されていたのだ。
(時空が歪んでる。あの怪獣がダメージを受けて時間を制御する力が弱まったから、元の世界との境界が小さくなっているんだ)
(だとしたら、ガイアがあの怪獣を倒したら)
(ああ、そのときこそ脱出のチャンスだ!)
遠い空の向こうで、脱出したガイアは反撃態勢を整えている。
これで、もう時空怪獣に横槍を入れられる心配はない。ならば、こちらも反撃開始だ!
「トォーッ!」
空中高く跳びあがり、エースは死角からコッヴの首筋にキックを打ち込んで倒した。そして今度こそはと、起き上がってくる前に奴の尻尾を掴んで、ジャイアントスィングの要領で大回転させて投げ捨てる。
「ダァァッ!」
猛烈なパワーで投げられたコッヴは数kmも吹き飛んで、商店街から貴族の邸宅にいたるまでを粉砕し、猛烈な土煙を巻き上げてやっと止まった。
だが、エースの攻撃は緩まない。コッヴの額から放たれる光弾を腕で防ぎながら、廃墟の中を一歩ごとに土煙を巻き上げながら走りぬけ、その助走を活かしたドロップキックをお見舞いする。
また、同様の現象はメビウスの時空でも起きており、エースと同じく反撃のチャンスを悟ったメビウスは、一気に勝負をかけるためにメビウスブレスに手を添えて、ブレスから伸びる光の剣、メビュームブレードを作り出した。
「ヘヤァッ!」
道路のアスファルトがはがれて吹き上がるほどの振動を出しながら、メビウスはメビュームブレードを振りかざしてパズズは向かう。しかし、光の剣に本能的に恐怖を感じたパズズは角から発射する雷撃を広範囲に拡大させてメビウスを近づけまいと、雷のカーテンを張り巡らせてきた。
「ワアアッ!」
逃げ場がないほどの雷に追い詰められて、雷の落ちた場所からの爆発に包まれたメビウスの足が止まる。これではパズズに近づくことは到底かなわない。けれど、エースに才人とルイズ、ガイアにチーム・ファルコンがいるように、メビウスにもリュウとテッペイという仲間がいた。
「ミライ、今助けるぞ! いくぞテッペイ」
「G・I・G!」
「メテオール解禁! キャプチャーキューブ!」
パズズに狙いを定めた二人のトライガーショットから青い光が放たれる。だが今度は先のイエローチェンバーではなく、切り札のメテオールカートリッジの収められたブルーチェンバーだ。光は雷撃攻撃を続けていたパズズの頭上で閃くと、一瞬にしてその巨体を覆い尽くす幾何型の光の壁を発生させた。
これこそ、数々の怪獣や宇宙人の使ったバリヤーを研究して作られた、あらゆる攻撃を跳ね返すバリヤーを作り出すメテオール、キャプチャーキューブであった。それは外からの攻撃から中を守るためにも使われるが、その反面内部の衝撃やエネルギーも決して逃さない。そのためパズズはバリヤーに跳ね返されて逆流してきた自分の電撃を受けて苦しむことになり、その隙にメビウスは接近して、バリヤーが切れた瞬間にパズズの片方の角を切り落とした。
そして最後に、ウルトラマンガイアの逆襲が今こそ始まろうとしていた。
「デヤッ!」
両手を頭上に上げたガイアの手の間でまばゆい光が走り、そのまま両手を左右に開くと同時にガイアの体を赤い光が包み込んだ。それは、ガイアの力の根源である地球の大地の赤い光、その輝きに全身を包んだガイアは限りない力を発揮する新たな姿へとチェンジする。
「ダァァッ、デュワッ!!」
ガイアを包んだ輝きが増し、腕を振り下ろした瞬間にガイアはそれまでの銀色と赤を基本としたV2ヴァージョンから、大地の赤に海の青も加えて、ひとまわり大柄でたくましくなった最強のモードへと変わったのだ。
『ウルトラマンガイア・スプリームヴァージョン!!』
地球の光を一身に受けたガイアは、V2とは比較にならないほど強化された瞬発力を持ってエアロヴァイパーに駆け寄り、正面からキックをお見舞いした。
「ハッ!」
重さを格段に増した蹴りを食らってエアロヴァイパーの体が大きく後ずさる。
さらに、よろめいたところに勢いを保ったまま、今度はしっかりと地に足をつけて左キックをかけると、隕石が落ちたような轟音とともにエアロヴァイパーの体がぐらつき、奴は痛がるように前のめりにかがんだ。
「デュワッ!」
たった二撃。だがガイアの圧倒的な攻撃力の前に、エアロヴァイパーは文字通り手も足も出ずに、さらに頭をわしづかみにされて、そのまま力任せに引き倒された。
「ダァァッ!」
ガイアの猛攻、怒涛のごとく。倒れたエアロヴァイパーを軽々と持ち上げて、地面に向かって背中から一気に叩きつける。その息もつかせぬ連続攻撃にはガンフェニックスやファイターと空中戦を繰り広げ、レーザーやミサイルの集中攻撃にも耐えたエアロヴァイパーといえども打つ手がない。
頭を掴まれて引き起こされたエアロヴァイパーの腹に、駄目押しの膝蹴りが打ち込まれると、奴の口から苦悶の声が流れた。今の一撃だけでも、ダイナマイト数千発分、五十万トン級タンカーを一撃で真っ二つにするくらいの威力があるだろう。
その圧倒的な強さには、時空を超えて眺めていたリュウやテッペイも。
「すっげえ……」
「あのパワー、ウルトラマンタロウにも劣らないかも、あんなすごいウルトラマンがいたなんて!」
思わずメビウスの戦いから目を逸らしてしまったほどに、ガイアの強さはすさまじいの一言だった。
だが、その強さの秘密は単に地球の力をフルパワーで発揮できるからというだけではない。ガイアはウルトラ兄弟やティガやダイナとは源泉が違う光の巨人ではあるが、その地球が生み出した純粋な光は、高山我夢という一人の人間の持つ平和を守りたいという強い意志と呼応して、無限の成長と無尽蔵の可能性へと変わるのだ。
”この世界は、滅びたりしない”
そうだ、意志こそ心あるものが邪悪に立ち向かうための最初にして最後の力、それこそが未来を決めるのだ。そのことには、いかな世界とて変わりはない。
三つの時空で繰り広げられる戦いも、いよいよクライマックスを迎えようとしていた。
荒廃したトリスタニアでのエースとコッヴの戦いも、コッヴの額から放たれる破壊光弾をすべて叩き落したエースの圧倒的優位に傾いている。この流れをもはや逃してなるものか! 喰らえとばかりにエースは背中からコッヴを持ち上げて、ありったけのパワーで、滅びた街を見下ろす廃屋と化したトリステイン王宮へ投げつけた!
「トアァァッ!」
投げられたコッヴは悲鳴をあげながら、まるでバレーボールのように軽々と宙を舞って王宮に激突した。とたんに衝撃に耐えられなくなった王宮が尖塔をへし折り、宮殿は粉塵を上げながらまるで爆破解体されたビルのようにコッヴを埋め尽くして崩落した。
(いまだ!)
(決め時よ!)
二人の叫びを心に受けて、エースは壊滅した王宮をめがけて必殺の一撃を放つ。
『メタリウム光線!』
光芒炸裂! 光線の直撃を受けた王宮はコッヴを飲み込んだまま、小高くそびえた丘の上を活火山のように燃え滾らせて爆裂、粉砕した。
続いて、メビウスも自らの戦いに決着をつけようとしている。
「ヘヤァッ!」
メビュームブレードでパズズの放ってくる火炎弾を弾き飛ばしながら突進したメビウスはすれ違いざまに剣閃一閃! 奴の残ったもう一本の角も切り飛ばし、自慢の角を失って狼狽するパズズへ向かって、一瞬のうちにX字に斬りつけた!
「セヤァッ!」
だが、パズズの強固な皮膚はメビュームブレードでも切り裂ききれず、奴の体にはX字に深い切り傷が刻まれたものの、まだ致命傷には到達していない。パズズは怒り狂い、メビウスへと豪腕を振りかざして襲い掛かる。これを受けたらいくらメビウスといえども首の骨を折られてしまうかもしれない。けれどもメビウスはメビュームブレードを消滅させると、右手をメビウスブレスのクリスタルサークルにかざしながら、左腕を正拳突きの構えのようにぐっと腰を落として身構えると、瞬間的に奴の雷よりさらに強力な電撃をチャージして、奴のX字の傷の中央をめがけて一気に叩き込んだ。
『ライトニング・カウンター・ゼロ!』
超強力なプラズマ電撃が開放されて、直接体内にエネルギーを打ち込まれたパズズは断末魔の悲鳴をあげると、炎の中に蒸発して消えた。
こうして、時空間を舞台にした戦いも、コッヴ、パズズの二大怪獣が倒されて、残るはエアロヴァイパーただ一匹。
時空移動能力を失ったエアロヴァイパーは、スプリームヴァージョンとなったガイアの前に追い詰められて、なおも爪を振りかざして反撃をこころみるが、所詮やけっぱちの攻撃などがガイアに通用するはずもない。
これがとどめと、ガイアはエアロヴァイパーの尻尾を掴んで、渾身の力を込めて投げとばした!
「デヤァァッ!」
スプリームヴァージョンのすさまじい力で投げられたエアロヴァイパーは、時空間へ逃げ込むこともできないままに、飛ばされていく方向にある岩山と次々と衝突しながらそれを粉砕していく。
(いまだ!)
空中へと高く飛び上がり、数百メートルの上空で静止したガイアは、この戦いに決着をつけるべく、エアロヴァイパーを見下ろした。両手を下にかざし、円を描くように上に上げていきながらエネルギーを溜めていく。
「デァッ!」
光の力は形をなして、正面に突き出して重ねた手のひらに、巨大な白色のブーメランとなって顕現する。光の大剣、その威力を見よ!
『シャイニングブレード!!』
高速回転する光子のブーメランは、まるで三日月を投げつけたようにエアロヴァイパーに正面から直撃した。そのエネルギーは瞬時に奴の体内の隅々にまで行き渡り、エアロヴァイパーは一瞬の硬直の後に、頭から爆発を起こすと、瞬時に全身をバラバラに砕け散らせた!
ガイアの勝利だ!
(我夢くん、やったな)
(我夢さん、さすがです)
その勇姿に、エース、メビウスも遠い世界のウルトラの仲間に惜しげもない賛辞を送る。また、リュウとテッペイも、元々ウルトラマンは大好きなので、一発でガイアのファンになって、それに、才人もガイアのかっこよさにすっかり惚れ込んでいた。
(……っ! 超かっこいいーっ!!)
(……)
ルイズが多少ひいているが、聞こえんねといわんばかりに才人のテンションは絶頂を迎えている。とはいえ、それは才人にもあれくらいかっこよくなってもらいたいという気持ちの裏返しでもあった。そう、ウルトラマンの魅力に男女など関係ない。
ウルトラマンA、ウルトラマンメビウス、そしてウルトラマンガイア、時空を超えて数奇なめぐり合わせで揃った三人の勇者は、それぞれの世界で見事に勝利した。
だが、勝利もつかの間、時空の歪みは一挙に拡大し始めた。
「14:00、エアロヴァイパーを殲滅」
時空怪獣の死によって、パラレルワールド同士をつなげていた力が消滅し、確定した未来に反するそれぞれの破滅した未来が、時空の狭間に飲み込まれ始めたのだ。
「すぐにエネルギー体から脱出を、未来が変わります!」
変身を解除してファイターEXに帰った我夢は、この時空を飲み込んでいく時空の巨大な渦へと、チーム・ファルコンをともなって突入していった。
(まずい、脱出しよう)
エースもこのままでは時空の狭間に巻き込まれていっしょに消滅してしまうと、急いでこの空間から脱出するべく、出口であるガイアのいる時空へ続いている空へと飛び立った。
「シュワッチ!」
時空の歪みは収束し、エアロヴァイパーが棲み処としていた全ての時空がつながりを失って元に戻っていく。そのため、存在しえなくなった破滅した未来のトリスタニアが時空の狭間に飲まれて消えていく。
それは、彼らのスタート地点となった15:25のエリアルベースにおいても変わりはなく、我夢が去った14:00の時空もいっしょにすでに時空の渦に消えかけていた。指標もない荒れ狂う時空間の中を、エースも激流に流される小石のように弄ばれる。
(どこへむかってるんだよぉぉっ!?)
さしものウルトラマンといえども時空乱流には逆らいがたく、どこかの世界へと通じているのであろう方向へと流されていく。これでまた太古の世界にでも飛ばされてしまっては元も子もない。だがここまで来て! とエースも才人たちも絶望しかけたとき、彼らの前に一筋の光が走った。
(見て、あれは……)
(あれは? ゼロ戦、それに!)
なんとエースの前に、置いてきたはずのゼロ戦が待っていたかのようにふわふわと不思議な光に包まれて浮いていた。
(いったい何故……?)
不可思議な現象に、エースも理解できずに思わずぼおっとなってしまった。だがそのゼロ戦はまるで早く乗れというふうにコクピットをこちらに向けていて、それにこの変身での活動限界が近づいていたエースは、一か八かと変身を解除してコクピットに飛び込んだ。
「これは……我夢さんの!」
なんと、コクピットの足元にはあのアドベンチャーの時空移動ユニットが転がっていて、まるで道を指し示すように動いていたのだ。
「バッテリーは切れてるはずなのに……」
これは奇跡か、それとも自分たちには理解しえない未知の現象なのかわからないが、ユニットが放つ光はまるで正しい道を教えるようにある一点を指し示している。
「サイト、やるしかないんじゃない」
「そうだな、こうなりゃ我夢さんの作ったメカを信じるしかないか、じゃあ、頼むぞ、動いてくれよ」
風圧でプロペラが回っていたので、才人は思い切っていきなり主スイッチを入れた。するとエンジンは好調な音を出して回りだし、不敵に笑った才人はルイズをひざの上に乗せたまま、操縦桿を倒した。
そのころ、メビウスも自分のいる時空が消えていくのを感じると、リュウとテッペイを手のひらの上に乗せて、同じように飛び立った。
「しっかり掴まっていてください。シュワッ!」
その後、エースに遅れてメビウスも時空乱流の中で行く先を見失いかけて、運良く漂流していたガンフェニックスに乗り込んでいたが、エースと違って導き手のない彼らは遭難しかかっていた。
「ちぃっ、レーダーもセンサーも全部役に立たねえ! どうする」
罪のない計器盤を拳で殴りつけたリュウは、それでもセリザワに忠告されたとおりに冷静にいようと計器を見渡し、通信機がわずかに反応をしているのを見つけるとスイッチを入れた。
”こ……フェニックスネス……ガンフェニックス、応答せよ”
「これは、カナタか! よし、こいつを辿っていけば」
元の世界から入ってくる通信を逆探して、ガンフェニックスは速度を上げる。
だが、最後に運命はアドベンチャーのユニットの未知なる力か、わずかな偶然をプレゼントしていった。
エアロヴァイパーの死によって不安定化していた時空間は、我夢、才人たち、ミライたちが出口にたどり着く直前に、大きく収縮して真空状態を作り出した。つまりはファイターEX、ゼロ戦、ガンフェニックスがほんの数秒だけ同じ狭い空間に揃ったのだ。
「あ……」
「え……」
ゼロ戦とファイターEXがお互いに相手を逆さに見る形で上下にすれ違ったとき、才人たちは一瞬だけコクピットにいた我夢と視線を合わせた。
”そうか、自分の世界に帰るんだね”
言葉が通じたわけでも、ウルトラマンの超能力を使ったわけでもないが、そのとき彼らはお互いにやるべきことを成し遂げ、声なき声で相手に別れを告げた。
そしてそのとき、ゼロ戦の上空をガンフェニックスが通過していったことを残念ながら才人は気づけなかったが、ミライはその超視力によって見慣れない飛行機に乗っている才人とルイズの顔を見分けていた。
「あの少年は……」
一瞬の邂逅が済んで、目の前にはそれぞれの世界へと続く時空の出口が開き、ガンフェニックスは日本上空へ、ファイターEXはエリアルベース近辺へとそれぞれ帰還し、ゼロ戦もまたうっそうとした森の上空へと飛び出していた。
その後、エース、そしてメビウスと初めての邂逅を果たした我夢は、未来は人間の意志によって変わるという言葉を貫き、根源的破滅将来体との戦いを駆け抜けていくことになる。だが、この日の小さな出会いが非常に大きな意味合いを持ってくることを知るのは、もっとずっと先のことであった。
また、ミイラ取りがミイラになりかけて、サコミズ総監以下GUYSクルー全員に心配をかけていたリュウ隊長以下のガンフェニックスも、無事に東京空港に着陸していた。そしてそこでは、先にリュウたちのおかげで脱出できていた101便に乗っていたジョージやマリナら乗客たちの出迎えが待っていた。
「おかえり、ミライくん。元気そうでなによりだね」
「リュウが上司だと苦労してないかアミーゴ? ともかく助かったぜ」
「お二人や、乗客の方々がご無事でなによりでした。お二人とも、わざわざ来ていただいて、どうもありがとうございます」
エンペラ星人の件で、ミライがウルトラマンメビウスだということが一般の人にも知られているので、無用な混乱を避けるためにミライとジョージたちの再会は空港の別室でおこなわれていた。ただ、リュウは隊長であるので仕方なくKCBをはじめとしたテレビ局や新聞社相手に慣れない記者会見に臨んでいるが、生中継される姿が一度ならず仲間たちの失笑を買ったのは、まだまだ経験を積まねばならない課題だろう。
「だけど、驚いたぜ。まさか俺たちの乗っていた飛行機に、あんな大物が乗っていたなんてなあ」
「そうね。偶然ってあるものだけど、実際聞いてみて驚いたわ」
ジョージとマリナは気疲れしたようにつぶやいた。
降りてみて、乗客とあらためて顔合わせをしてみたのだが、そのそうそうたる顔ぶれは、一応有名人である彼らをも唖然とさせるに充分だった。
まず、子供にインチキくさい(本当にみやげものだった)ライオンの尻尾とやらをあげて勇気付けていたのは、旧防衛チームMACで冒険家として有名だった佐藤隊員。松葉杖の男は、同じく元MAC隊員でスキーヤーとしても実績を残していた北山隊員。ハイジャック犯を撃ち倒したサングラスの男は旧TACで二挺拳銃の名手として、科学特捜隊のアラシ隊員と並んで歴代防衛チームで一、二を争う名射手として名を残す山中隊員。そしてジョージとマリナをも上回った操縦テクを見せたのは、旧ZATで単独出撃で墜落ゼロを誇った森山隊員だった。
つまりは、全員がかつて歴代ウルトラマンと共に戦った、いまや伝説となった勇者たちで、それを知ったテッペイは。
「みんな僕たちの大先輩ですよ!」
と、サインをねだりそうな勢いで握手を求めに行ったほどである。
それにしても、これほどの顔ぶれがたった一機の飛行機に乗り合わせたのもすごい偶然だが、今頃は彼らも英雄としてほかの乗客や報道陣に囲まれていることだろう(もしかしたら山中隊員あたりは、あとで最近のGUYSはたるんどると怒鳴り込んでくるかもしれないが)。
だがそれはそれとして、ミライは記憶が確かなうちに確かめておきたいことがあって、GUYSメモリーディスプレイでフェニックスネストに連絡をとった。
「こちらミライです。ああ、コノミさん。ちょっと探してほしい資料があるんですが」
やがて転送されてきたデータに目を通したミライは、以前リュウたちといっしょに見た異次元調査の途中資料の中の、奇妙だったために特別に記憶に残っていた最後のページに記されていた記事の写真で目を止めた。
「平賀才人……間違いない。やっぱり、時空間で見たあの少年は……」
点と点がつながって線となり、答えに一歩ずつ近づいていく。
「ミサキさん、フジサワ博士に連絡をお願いします」
まだ、ミライの先を閉ざす闇は深いが、闇の先には光があると信じている。ミライはこの先誰がどんな罠を仕掛けてようと、全て乗り越えて、必ずエース兄さんを救い出してみせると心に決めた。
しかし、時空間に入った者が全員無事に帰還した様子を、ハルケギニアの一角からずっと眺め続けていた二人の怪しい影は、目論見が失敗したことを悟ると、映像を杖を軽く振って消してため息をついた。
「やれやれ、失敗ですね。途中まではうまくいくと思ったんですが」
「仕方ないですよ。こちらから仕掛けるのは初めてですし、この世界には我々はまだほとんど地歩を築いていませんからね」
「しばらくは様子見を続けましょう。どのみちこの世界での我々の役目はバックアップですから、私たちの存在が価値を持ち始めるのはまだまだ先です。さあ、信者たちが待っていますよ。大勢のね」
やがて彼らは質素な暗がりの部屋から、眩い光の照らし出す大聖堂に最上段に立って、数千のブリミル教信者を見下ろしていた。
ここはハルケギニア南方のロマリア。数十万の飢えた難民が集まり、きらびやかに着飾った聖職者が物乞いのそばを金馬車で通り過ぎるこの都市で、一つの陰謀が始まって終わったことを知る者はいない。
一方、知らないところで大変なまでに事が動いていると知るはずもないが、最後に三次元空間に復帰できた才人たちは、とりあえず白亜紀なんかではないことだけを一番に確認すると、落ち着いて現状を確認しようとした。
「今度こそ、アルビオンに戻れたんでしょうね?」
体勢を立て直したゼロ戦から地上を見下ろしてルイズは叫んだ。周りには森ばかりで民家の影すらない。確か最初に吸い込まれたときもこんなものだったと思うが、もしかしたら……
が、二人のそんな不安は彼らが口に出す前に、低速飛行をするゼロ戦にすっと並んできた青い影が晴らしてくれた。
「おーい、ルイズぅ! サイトぉ! 無事だったのね!」
「シルフィード!」
キュルケがいつの間にか隣に並んで飛んでいるシルフィードから、うれしそうにルイズと、ダーリンではなくサイトの名前を呼びながら手を振ってくるのを見て、二人は元の世界に戻れたことを知った。
「キュルケ、タバサ、ミシェルさん、みんなも無事だったんだ!」
才人とルイズは思わずコクピットの中で抱き合って喜んで、皆が見ているのに気づくと慌てて離れた。だがそれにしても、こうして皆が待っていてくれたことには照れくさいものもあって、自然と頬が赤く染まってしまう。
しかし、再会の喜びもつかの間で、キュルケから伝えられた事実は未来を変えてきたはずの二人をも愕然とさせるものであった。
「大変よ、アルビオン艦隊はすでに全艦発進して王党派軍を攻撃に向かったわ。レキシントンってばかでかい戦艦で、空から吹き飛ばすつもりらしいわよ!」
「なんだって!?」
ヤプールの策謀、いまだすべて破れきらず。翼を翻した彼らははたして間に合うのだろうか。
続く