ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第76話  伝説の勇者たち (後編)

 第76話

 伝説の勇者たち (後編)

 

 四次元怪獣 トドラ

 時空怪獣 エアロヴァイパー 

 超力怪獣 ゴルドラス 登場!

 

 

 アルビオン大陸とハルケギニアの命運を懸けた数日と誰もが認識する中で、ウルトラマンAこと、才人とルイズ一行は想定外の四次元空間に迷い込んで未だに脱出に至難している。

 だが同じ頃、二千のトリステイン軍を率いたアンリエッタ王女は、ウェールズ皇太子が待つサウスゴータの陣地へ向けて休まずに進撃を続けていた。

「着いていけないものは置いていきなさい。たとえ半数でも、たどり着くことに意義があるのです」

 聖獣ユニコーンに引かれた戦闘馬車から叱咤するアンリエッタの言葉に応えるように、トリステイン軍は驚き慌てるアルビオンの人々を尻目に猛進を続けた。

「ミス・ロングビル、あとどのくらいで到着できますか」

「は、この調子ならば、あと四時間くらいはかかるかと」

 道案内をするロングビルが、元アルビオン貴族と知るはずもないが、アンリエッタは渋い顔をしたままで行く先を見つめている。昨晩、ロングビルはアルビオンからタルブまでを一夜で到達したが、たった一人で間道や獣道を踏破するのと、軍隊が行軍するには差があって、どうしても時間がかかってしまうのだ。

「飛んでいけたらよかったのですが」

「仕方ありません。こうも雷雲が厚くては、飛行獣は自殺行為です」

 運の悪いことに、北から流れてきた巨大な積乱雲が頭上を覆い、連れてきたグリフォン隊も飛ぶことができず、後方から走って着いてくるありさまだった。だがトリステイン軍はアンリエッタの執念が乗り移ったかのように疲れ知らずで進軍を続け、王党派の補給基地から貸与の名目で強奪同然に物資を補給しつつ、途中ブラックテリナの被害を受けた町村にはいくらか看護兵を残し、千七百名ほどに減りながらも、あと四十リーグほどの街にまでたどり着いた。

 それなのに、彼らはそこで思わぬ足止めを食らうことになった。

 突然、進行方向に立ちふさがってきた百人ばかりの白装束の一団。最初はレコン・キスタの待ち伏せかと思ったが、その中から一人髭面の老人が現れて、我々はロマリアの修行僧の一団で、名高いトリステインの姫君がいると聞き、少しだけでもお話をと申し出てきた。

 アンリエッタは怒鳴りあげたいのをじっと我慢して、丁重に拒否しようとした。しかし彼らは話がかなわぬならばここは通さぬとばかりに道をふさぎ、仮にも聖職者を力づくでどかすこともはばかられたので、謁見申し込みを司祭だという老人一人だけに限って、仕方なく会うことにした。

「あなたが、わたくしに折り入ってお話をしたいという人ですか?」

「はい、ご高名なる姫殿下に、ぜひ我が神のご意思をお伝えしたく、ぶしつけながら参上いたしました」

 その謁見の様子は、アンリエッタと彼女の護衛の仮面騎士以外は見ることを許されなかったが、外で幾人かの兵士はひそひそと噂話をしていた。

「おい、なんだよあの薄気味悪い坊主の集団は?」

「知らんのか? 今ロマリアではやってるという新興宗教の連中だよ」

「新興宗教って、例の実践教義ってやつか?」

 実践教義という名を出して、兵士は苦い顔をした。

 ハルケギニア全土で、宗教といえば、この地に四系統の魔法をもたらしたといわれる始祖ブリミルを聖人としてあがめるブリミル教がその全てであり、亜人が信仰する精霊を別とすれば、宗教はこれしか存在しない。そしてそれらを一括するのが宗教国家ロマリアであり、その教皇は各国の王以上の権威を持っている。

 ただし、それほどの巨大宗教ともなると組織も当然のように肥大化し、神の名を借りた詐欺師的な拝金主義者の神父も数多い。実践教義とは、そんな腐敗した体制から、始祖ブリミルの教え本来の姿に戻ろうというものだ。

 とはいえ、ロマリアの現政体から見れば反動なので、当然ながら弾圧の対象となる。さらに、それらへの不満からテロリストまがいの行動をとる者も多いので、ほとんどの人間は係わり合いになりたがらないのが実情だ。

 けれど、そう問われた兵士の同僚は首を横に振った。

「いや違うみたいだ。実践教義はともかく、ロマリアじゃあまったく新しい宗教がいくつもできてるらしい」

「新しい?」

「ああ、なにせこのご時世だ。当てにならない教会に平民も貴族も見切りをつけて、すがれるものにはなんでもすがってるんだろう。はやってるのの一つは、ある預言者と名乗るやつが指導してるんだが、いずれこの汚れた世界を聖なる炎で浄化なさる天使が、天国の門からやってくるから、人々は天使をあがめたててその審判を待たねばならない。って振れまわってるそうだ」

「天使ねえ、空から落ちてくるのは怪物ばかりだがな」

 兵士は、馬鹿馬鹿しいというふうに肩をすくめた。

「まあ普通はそう思うだろうが、世の中にはそういうのを信じるやつもいるんだよ。けど、今来てるのはそんな中でも、一番やばいやつだな」

「やばいだって」

「聞いて驚くな。今この世界を襲っている数々の怪物や異変は、六千年に渡って愚かな行為を続ける人間を滅ぼして、美しい世界を作り直そうという神の意思であるから、我々人間は破滅を受け入れて滅亡しなければならない、だとよ」

「馬鹿じゃねえのか」

 兵士は、今度こそ頭がおかしいのではないかと、顔の筋肉を引きつらせたが同僚は真剣だった。

「だがな、考えてもみろ。トリステインはまだそこそこ豊かではあるけど、ロマリアのほうじゃ無数の小都市国家が群雄割拠してるからな。平民たちは貴族に虐げられ、高い税金をとられ、戦争や野盗、貧困に加えて、最近じゃあ怪獣まであちこちで頻繁に暴れている。そんな中で親兄弟や財産を失った人間が、こんな世の中滅んでしまえ! なんて思っても不思議はないだろ」

 兵士は黙ってうなずくしかなかった。

 終末思想、世界の終わりを望む思想は人類の歴史に強く根を生やしてきた。この世の中に絶望し、来世での救済を願う人々が世界を道連れにしようとする。または世界へと復讐をしようとする心の歪んだ発露であるそれは、破壊によって新たな再生をなそうと、ラグナロクやノアの箱舟の神話などの再現を夢見る。

 

 このときも、やってきた司祭は兵士の同僚の予想したとおりにアンリエッタに向かって。

「姫様、こたびの内戦の趨勢は、この国に一足早い破滅を将来せんと望む神のおぼしめし、姫様はそのご意向に従い兵を引いて欲しく存じます。さすればトリステインにもいずれ我らが神の滅びの祝福がもたらされ、我らは将来神の国で、人がいなくなった美しいこの世界を見下ろすことができるでしょう」

 と、しごくまじめに説教をしていたのだ。

 

 そんな様子を、二人の兵士は当然知るよしもなかったが、元々ブリミル教徒としてもかなり不信心な彼らは、そんな思想には一ミリグラムも感銘を受けることなくぼやいていた。

「いつの間にか、アルビオンにも勢力を伸ばしてきてたんだな。まあ、内乱中のこの国なら、奴らに同調する人間には不自由せんだろうしな」

「だが、そんな連中は異端だから教会が取り締まるだろう?」

「教会にだって、人手があまってるわけじゃない。異端狩りの聖堂騎士団だって人数には限りがあるから、根絶やしにするのは並大抵じゃないさ。第一、その聖堂騎士団からも宗旨替えするやつも出てるそうだ」

「はぁ……しかし、世界の破滅だのなんだの、ろくなもんじゃねえな」

「まったくだ。だが、そんなもんに付き合わされる姫様も大変だな」

 二人の兵士は、早く出発できないものかと、火を分け合って煙草の煙をくゆらせていた。

 

 そしてアンリエッタも、二人の兵士の期待通りに、司祭の要求を退けていた。

「司祭殿、ご忠告は聞かせていただきましたが、わたくしは神が人間を見放したとは思っていません。まだ人間はあなた方の言うほど腐ってはいないと、わたくしは信じます。あなた方のご好意には感謝しますが、これ以上話し合っても接点は見つからないでしょう。本日は、お引取り願いますわ」

 すると司祭は、明らかに不満そうな表情で。

「神のご意思に逆らうものには、天より滅びの使者が舞い降りて罰を与えますぞ」

「それは、あなたに神がおっしゃったのですか?」

「いいえ、さるとてもご高貴なお方のお言葉です。名は申せませぬが、いずれあなた様にも直接神の意思と、きたるべき最後の聖戦に参加なさるべくお説きになってくださるでしょう」

「そうですか、ならばこの場で語ることはもうありませんね。では、失礼」

 アンリエッタは、それで司祭を追い出すと、遅れた分を取り戻すように部隊に進軍再開を命じた。

 あっという間に見えなくなっていくトリステイン軍を、どかされた司祭たちの一団はしばらく冷たい目で見守っていたが、やがて司祭は大きく宣言した。

「滅びの使者はすでにご降臨なさっている。破滅に逆らおうとするものは、すべて神の御力によりて粉砕されるであろう!」

 歓声を上げて、破滅、破滅と叫ぶ彼らを、人々は誇大妄想の集団として、白い目で見つめ、やがてつまらなそうに目を逸らしていった。

 トリステイン軍も、そのころにはとうにカルト宗教家たちのことなどは忘れ去っていた。ただ、アンリエッタはふとこれから向かわんとする先に、なおも分厚く立ち込める黒雲が、ふと地獄の門のように不気味に鳴動してうごめいているように見えて、身震いをした。

「いやな雲……天より滅びの使者が……まさか」

 ありえないとは思いつつも、アンリエッタはその不気味な黒雲と、司祭の呪いの言葉が重なり合って、なかなか忘れることができなかった。

 

 

 しかし、たとえ世界に滅びが迫っているにせよ、破滅を自らの意思と力で粉砕してきた者たちは、今日もまた人々を救うために飛び立っていく。

「ガンフェニックストライカー・バインドアップ!」

 リュウ隊長の号令一過、地球では東京空港上空でガンウィンガー、ガンローダー、ガンブースターが合体し、三機一体の最強大型戦闘機、ガンフェニックストライカーの形態となる。目的は、異次元空間に囚われてしまった旅客機、101便の救出だ。

「見えました。あれが目的の、異次元への入り口の雲です!」

 テッペイが指差した先に、明らかにほかの雲と違って、風に乗って流れずにその場に滞留し続けている不気味な黒雲がガンフェニックスを待ち構えていた。

「レーダーに映らねえってことは、間違いねえな。ミライ、テッペイ、準備はいいな?」

「G・I・G!」

「コノミ、中に入ったらお前のナビゲートだけが頼みだ。しっかり頼むぜ!」

「G・I・G! リュウさん、マリナさんとジョージさんをよろしくお願いします」

 緊張した声を返すコノミに続いて、もしリュウたちの留守中に怪獣が現れたときのために残留するセリザワが、注意を喚起した。

「リュウ、冷静さを失うなよ。いかなる状況においても、指揮官だけは最後まで氷のように心を研ぎ澄まさなくては、戦いには勝てん」

「肝に銘じておきます。ようし、フルパワーで突入するぞ!」

 コノミやトリヤマ補佐官たち、居残りの新人たちの見送りを受けて、三人を乗せたガンフェニックストライカーは、エンジンを全開にして異次元空間へと突入していった。

 

「亜空間内へ突入成功、フェニックスネスト聞こえますか!?」

「ガンフェニックスへ、こちら感度良好です」

 どうやら、外部との連絡は問題なくとれるようだ。これで、このビーコンをたどっていけば、出口を見失わずにすむ。次にテッペイは通信のチャンネルを調節して、ジョージたちのいる101便へと連絡をとった。

「こちらガンフェニックス、101便応答願います」

「おお、やっと来てくれたか、待ちわびたぜ!」

 通信機からジョージの快活な声が響いてくる。後は、この電波を逆探すれば101便にまでたどり着けることになる。電波の劣化具合から考えても、そう遠くはないはずだ。

「計算では、二十分くらいでそちらを補足できるはずです。ですが、気は抜かないでください。なにせここは異次元です。まだなにが飛び出してくるかはまったくわかりませんから」

 レーダーもセンサーも役に立たない雲海の中を、ガンフェニックストライカーは電波だけを頼みに飛んでいく。その間、101便に何事も起こらないように、リュウもミライも祈るしかなかった。

 

 それなのに、十分後に101便から飛び込んできたマリナの悲鳴は、思わずリュウの血圧を上げさせた。

「こちら101便、怪獣に攻撃を受けてるわ! 至急救援をこう!」

「んったく、お約束かよ!」

 どうしてこういうときの悪い予感の的中率というのは百パーセントを誇るのだろうか。リュウは吐き捨てると、ミライとテッペイに全速力で急行することを告げて、スロットルを全開にした。

「リュウさん、僕が行きます」

 ミライがメビウスになれば、ガンフェニックスよりも早く現場につくことができる。しかしそれはテッペイに止められた。電波を逆探して向かっている以上、メビウスだけで先行しても異次元空間の中で迷ってしまうだけだと。

「ジョージ、マリナ、持ちこたえていてくれよ」

 リュウは、13:10を指したままで進むのが遅い時計の秒針を見つめて、冷静さを失うなと自分に言い聞かせ続けた。

 

 そのころ、101便はマリナの言ったとおり、突如雲海から姿を現した怪獣に襲われていた。

「くそっ、こんなところでやられてたまるか!」

 主操縦席に座ったジョージが、ガンフェニックスと比べて格段に効きが悪い操縦桿と格闘しながら、怪獣の火炎弾を必死になって回避する。

「ジョージ、右上から来る!」

「ちっ、しつこい奴め」

 マリナがレーダーを見て怪獣の攻撃を教えてくれるので、101便はなんとか攻撃を回避できていた。しかし旅客機は戦闘機と違ってコクピットの視界も狭いし、急加減速にも向いていないので、こちらにはまったく余裕はなかった。

 この怪獣は、いわゆる両腕が翼になった飛行怪獣の一種と見られ、まるで中世の伝説のワイバーンのような姿で、ドラゴンのような裂けた口から火炎弾を吹いていきなり襲い掛かってきたのだ。

「この新型機じゃなかったら、とうに落とされてたぜ」

 火炎弾や体当たりをかろうじて回避しながら、ジョージは自分たちが乗っているのがイギリスの最新鋭超音速機でなければ、とてもこの激しい攻撃には対抗できなかったと、冷や汗を流した。

「空中戦能力は前に戦ったアリゲラよりは低いけど、このままじゃいずれやられるわよ」

「それもあるが、こうも急機動を繰り返したんじゃ燃料がもたねえぞ!」

 燃料計の針は、二人の見ている前でみるみるゼロに近くなっていく。巡航飛行を続ければ、まだ一時間は持つ計算だったが、これでは異次元空間を脱出する前に燃料が尽きてしまう。

 また、急機動によるGは、メテオール技術の一部流用による小規模な重力制御である程度の相殺ができているとはいっても、怪獣に襲われているという恐怖感にさらされ続けた客室内の二百人の乗客がパニックに陥るかもしれない。いや、実はそれよりも悪い事態が客室内では起こっていたのだ。

 それは、まったくいくつかの不幸な偶然が重なって起きた出来事だった。

 まず、その男が数ある航空便の中から、たまたまこの101便を選んだこと。その101便がこの時空間に飲み込まれてしまったこと。そして、乗っている飛行機が怪獣に襲われて、男が不安にかられて立ち上がった瞬間に、重力制御で相殺が間に合わない振動が客室を襲い、男の懐から零れ落ちたそれに、たまたま下を見た一人の乗客が気づいて悲鳴をあげたことだった。

「ひっ! け、拳銃!」

 タイミングの悪いことに、一人の銃器密輸犯が発見され、そこでハイジャック犯へと変貌してしまったのだ。

「こうなったら仕方ねえ! やいてめえら、死にたくなかったらおとなしくしてやがれよ!」

 ただでさえ不安にかられていた密輸犯は、すっかり冷静さを失って、こんなところで暴れてどうなるんだと説得する人の声にも耳を貸さずに、持ち込んでいた小型拳銃を振り回して、おびえる人たちを威嚇していった。

 そのとき、当然ながらジョージとマリナは操縦でそれどころではなく、拳銃を振り回す男に、乗客たちはなす術もなかった。なのにそんな中で、あのライオンの尻尾とやらをもらった男の子は、例の風変わりな男のとなりで毅然としていた。

「坊主、怖いか?」

「怖くなんかないやい、ぼくは強いんだぞ」

 うさんくさいライオンの尻尾を握り締めて、歯を食いしばっている男の子は、虚勢を張っているというのが見え見えではあったが、彼の目には幼いながらも恐怖と戦う男の光があった。

「坊主は強いなあ、ならよーく見とき、あの悪党運が悪いでえ」

 男はぼそぼそと男の子にささやくと、調子に乗っているハイジャック犯を横目で見て、ニッと笑った。奴は、自分の臆病さを隠すように両手に拳銃を持って、通路を歩き回りながら周りを威嚇していたが、真ん中よりの席の近くまで来たときに、彼から見て右側の席に座っていた男が、犯人がそこを通り過ぎようとした隙に持っていた松葉杖を差し出して、足元をひょいとすくって転ばせたのだ。

「うひゃあぁっ!?」

 間の抜けた声をあげてハイジャック犯はすっ転び、その手から二丁の拳銃が取り落とされた。もちろん、犯人はすぐに拳銃を取り戻そうとするが、そこでたった今犯人を転ばせた男が席から立ち、狭い飛行機の通路の中で、しかも松葉杖をついて右足が不自由そうにもかかわらずに見事なステップで走り、拳銃を犯人から遠くへと蹴り飛ばしていた。

「あっ、て、てめえなにしやがる!」

 犯人は怒鳴っても、すでに拳銃は何メートルもすべって、その先の席に座っていた別の男に拾われていた。

「おいてめえ、それを返しやがれ」

 さらに隠し持っていた拳銃を取り出して犯人は怒鳴る。だが、二丁の拳銃を拾い上げたその男は席から立つと微動だにすることなく、いやむしろ恐持ての容貌にサングラスをかけた彼のほうが犯人を威圧するくらいの迫力を持って、逆に犯人に向けて命令した。

「銃を捨てろ」

「へっ、素人が生意気な、銃っていうのはこうして……」

 犯人はそのおどし文句を最後まで言い終えることはできなかった。彼が台詞を言い切るより早く、サングラスの男が西部劇の早打ちのように二丁拳銃を構えたかと思うのと同時に銃声がこだまし、犯人が構えようとしていた拳銃ははじきとばされて何メートルも離れた場所に転がっていた。

「動くな」

 サングラスの男は、今度は犯人に銃口を向けて冷然と命じた。素人などではありえない、長いあいだ銃を友としたプロフェッショナルだけが放てる威圧感がそこから発せられて、一瞬で丸腰にされた上に虚勢も根こそぎつぶされた犯人は、そのまま客室乗務員に取り押さえられた。

「ふん、なっとらんな」

 拳銃を客室乗務員に渡し、サングラスをはずした男は、情けなくも一発でちぢこまってしまった犯人に向けて吐き捨てた。すると、さっき犯人を転ばせて拳銃を奪った松葉杖の男が、彼のそばにやってきて話しかけた。

「さすが、現役時代から腕は落ちていないようですね。搭乗時にちらりと見かけて、もしかしてと思いましたがやはりあなたでしたか」

「失礼ですが、あなたはどちらさまでしょうか……いや、あなたにはどこかで見覚えが……そういえばさっきの見事なステップといい。そうだ! 三十年前のオーロラ国際スキー大会で優勝した北山選手ではないですか。そうか、そういえばあなたはMACの、ならば私を知っていても不思議はないですね。ですが、MACは確か」

「お恥ずかしながら、負傷を機にリハビリ生活に入っていて、そのおかげで命拾いしましてね。人生、なにがどう転ぶかわからないものです」

 苦笑いしながら、北山は不自由になった右足をさすっていた。

 だがハイジャック犯を取り押さえても、まだ101便が怪獣に襲われていることに変わりはない。ときたま急旋回に重力コントロールが追いつかなくなって室内が揺れて、そのたびにどこかから悲鳴があがった。

 そんなとき、たまりかねたのか一人の女性が席を立って二人に話しかけてきた。

「やれやれ、下手な操縦ねえ。ずいぶんと機体に無理をさせちゃって」

「おや、あなたもこの飛行機に乗っていたんですか」

 サングラスの男はその女性と、一度だけだが前に会ったことがあった。

「お久しぶりですね。TACの解散式のときに引継ぎをして以来ですから、もう三十年以上にもなりますか。ともかく助かりました、私の後輩たちがあんまり危なっかしい操縦をするものですから、しかりつけてあげようかと思ってたんですけど、あれでは席を立てなくて」

「なるほど、単独出撃で墜落数ゼロのあなたから見たら、彼らもまだひよっ子ですか、ではさっそくお願いしましょう」

 にこやかにうなずいたその女性が操縦席のほうに去っていくのを、北山とサングラスの男は頼もしそうに見送った。これで当面の心配はない。安心したといわんばかりに席に戻ると、北山は松葉杖を立てかけ、彼もサングラスをかけなおして、過去何十回と繰り返した怒鳴り声を、操縦席の後輩たちにエールのように送った。

「まったく……ぶったるんどるぞ!」

 

 さて、客室でそんな騒動が起こっていると知るよしもなく、ジョージとマリナは彼らなりに必死で怪獣から101便を救うために戦っていた。

 ガンフェニックスが到着するまであと五分、それまで非武装のこの機体で耐えられるか。ジョージとマリナは、しだいに正確さを増してくる怪獣の攻撃をどうにかかわしていたが、ついにエンジンの一基に命中を許してしまった。

「右、三番エンジン被弾! 推力が落ちるわ」

「しまった! くそう」

 四つあるエンジンの一つを失っただけなので、墜落はしないが推力は二五パーセントの減少である。絶対音感を持つマリナの聴力が、機体が悲鳴をあげているのを聞き取る。これではもう怪獣の攻撃を避けることができない。そして右翼から煙を吐き出しながら動きの鈍った101便へと、怪獣がさらに体当たりを仕掛けようとしたとき、さしもの二人ももうだめかと思った。だが、

「右四番停止、一、二番最大で右旋回よ!」

 突如座席の後ろから響いてきた声に、自失しかけていたジョージはとっさにその指示に従った。考えるより先に手を動かしてエンジンと方向舵を操作すると、通常ではありえない推進ベクトルを与えられた機体は、空中をこまのように右旋回して怪獣をやりすごすことに成功した。

「やった!」

 窓外を通り過ぎていく怪獣を見送って歓声をあげたジョージとマリナは、思い出したように後ろを振り向くと、そこには乗客の一人と見える落ち着いた雰囲気をかもしだす壮齢の女性が立って、操縦席を覗き込んでいた。

「あなたたち、GUYSの隊員ですってね。筋はいいけど、まだまだ経験が足りないわね。それじゃあ飛行機の本当の動きは引き出せないわよ」

 彼女はそう言うと、有無を言わさぬままジョージを主操縦席からどかさせて自分がつき、唖然と見つめている二人の前で操縦桿を握った。

「どうしたの? 怪獣の位置を教えて」

「あっ、十時の方向、俯角四十五度から突っ込んできます!」

 マリナは慌ててレーダーを見直して叫んだが、101便は今の急旋回でさらに速度を落とし、今度こそ回避できそうもなかった。それなのに、操縦桿を握った女性は涼しい顔のまま、すばやくエンジン出力とフラップを切り替えて、機体を瞬時に横倒しにしてかわしてしまったのだ。

「す、すげえ……」

「信じらんない」

 あの状況から、またもや軽々と魔法のように機体を操って回避してしまったこの人の実力に、二人とも初心者のころに戻ったように、ただ呆然と見とれた。

「おばさん、すごいです。こんな操縦法があったなんて、びっくりしました」

「あら、そういえばもう私もおばさんと呼ばれる歳なのね。でもあなたたちも、あと五百時間も飛べば一人前よ」

 その一日三時間飛んでも半年近くかかる時間に、多少鼻白みはしたものの、そこでも女性差別はしないジョージが言葉を返した。

「いいえ、この扱いづらい機体をここまで操るとは、さぞかし名のある方では。セニョリータ、よろしければお名前を……」

「名乗るほどのものじゃないわよ。それに、この子だってスカイホエールやスワローのじゃじゃ馬たちに比べれば素直なものよ。それよりも、ほらあなたたちの仲間が、そろそろ来てくれたみたいね」

 言われて慌ててレーダーに目をやると、いつの間にか映っている光点が一つ増えて、それがぐんぐんと近づいてきていた。さらに、怪獣もそれに気がついたと見えて、こちらから遠ざかり始めていく。

「ジョージ、マリナ、待たせたな!」

 無線から、聞きなれたどら声が響き、怪獣に向かって放たれるガンフェニックスのビームの輝きが、窓外から希望の光となって差し込んできた。

「リュウ、遅いぞ!」

「うるせえ! くらえ怪獣野郎! バリアントスマッシャー」

 ガンフェニックストライカーのビーム攻撃が怪獣へ向かう。だが、命中直前怪獣の頭頂部の角が赤く明滅したかと思うと、怪獣はまるで空間に溶け込むようにして消えてしまった。

「消えた……」

 

 

 そして、時を同じくして別の空間でも、才人たち一行がさらなる怪獣に遭遇して向かい合う羽目に陥らされていた。

「でサイト、あのセイウチの化け物はなに?」

「四次元怪獣トドラ、この四次元空間に迷い込んだ人間を狙ってくる怪獣だよ」

「うん、予想が百パーセント的中した説明、ご苦労様」

 才人の説明を聞いて、ルイズがどうしてこう忙しいときに限って頼みもしないトラブルが次々にやってくるのだと、世の中の不条理に疲れた声を出した。

 本当だったら、さっさとロンディニウムに乗り込んで、こっそりクロムウェルを見つけてぶっ飛ばして、この件を終わらせているはずだったのに、運命の女神という奴は、さらに何をさせたいのだろうか?

 しかし、こちらの事情などは当然おかまいなしに、四次元空間の白いもやの中を、散乱している航空機の残骸を押しのけながらトドラが向かってくる。

「二人とも、たそがれてる場合じゃないわよ! さっさとあいつをやっつけないと」

「そうだ、こんなところで足止めを食らっている場合ではないぞ」

 迫り来るトドラを迎え撃とうと、キュルケとミシェルがそれぞれ杖をあげて二人にも戦闘準備をするようにうながす。二人ともトライアングルクラスでは相当な使い手の上に、才人のガッツブラスターは言うに及ばず、ルイズの爆発魔法も至近距離ならばかなりの威力を発揮する。

「しょうがないわね」

 気は進まないが、目の前に立ちふさがるというならやむを得ない。才人とルイズもうなずいて、戦う覚悟をしようとした。

 だが、その前にタバサが自らの身長より大きな杖を、さえぎるようにしてかざした。

「待って……」

「どうしたのタバサ?」

「逃げよう」

「えっ!?」

 思いもよらないタバサの言葉に、全員が目を丸くした。

「こんなところで、体力と精神力を浪費している場合じゃない」

「うっ……」

「無理して、あの怪獣を倒す必要はない。目的は、あくまでクロムウェル」

 確かに、この先に出口があると決まったわけじゃないので、トドラと戦う必要性は考えてみればまったくなかった。ただ目の前に立ちはだかってくるからというだけで反射的に身構えてしまったが、無視してもなんら支障はない。

 懸念があるとすれば、ルイズなどの「敵に背を向けない」誇りである。以前に比べればましになったほうではあるが、人間の芯というものはちょっとやそっとでは変われるものではない。ただ、そこは才人が先手を切った。

「見逃してやろう。ただでかいだけのセイウチをいじめるのも、かわいそうだしな」

「そうね、弱いものいじめは貴族の誇りに反するし」

 逃げよう、ではなく見逃してやろうと言い換えたのが、うまい具合にルイズたちの優越感を満たした。才人も不器用ではあるが、始終貴族の中で生活していたから貴族の扱いというものが多少はわかってきている。

 となれば善は急げ、動きの鈍いトドラから逃れるのはそんな難しいことではなく、シルフィードに乗り込めば、あっという間に牙の届く範囲から離れることができた。

「やーい、ここまでおいで」

 トドラは飛べないし、飛び道具もないので才人は余裕だった。

 だがそれにしても、タバサが冷静に忠告してくれなかったら無駄な戦いをしてしまうところだった。この中では実戦経験の豊富なキュルケやミシェルにしても、思考の行き着く先は基本『攻め』であって、今のタバサのように戦いを回避し、身を守るための『受け』の姿勢はもろいところがある。また言うまでもないことだが、相手がハリネズミやヤマアラシでも殴りかかりにいくルイズは『攻め』に傾斜しすぎていて論外だ。

「そういえば、タバサがいなかったら、わたしなんて何回死んでることか」

 キュルケが少々自嘲してつぶやいた。

 無口で、何事にも興味なさそうにしているくせに、いざとなったらそばにいて一番頼りになる。自分にはないものを補ってくれる、こんな得がたい友人を持てたことだけでも、わざわざトリステイン魔法学院まで来たかいはあったと彼女は思った。

 だがそのタバサは、いまだ地上をはいずっているトドラをじっと見下ろしていたが、ふとその動きが妙なことに気づいた。

「どうしたの?」

「……あの怪獣、わたしたちを追いかけてこない」

「えっ? ……そういえば」

 言われてみて、一行はいっせいにトドラを見下ろしたところ、トドラはシルフィードには見向きもしないで、航空機の残骸を踏み荒らしながら突進していく。最初はこちらをエサにしようとしているのかと思ったが、どうやらただトドラの進行方向に偶然こちらが重なってしまっただけのようだ。

「まるで、狼から逃げる羊のようだ」

 わき目もふらずに驀進するトドラを見て、ミシェルがそうつぶやいたとき、その悪い予感は見事に的中した。霧の中から、トドラのものとは違う、別の怪獣の遠吠えが響き渡ってきたのだ。

「あっ、奴の後ろを見ろ!」

 なんと、トドラの後ろの霧の中から、全身に黄金をあしらったような、さらに巨大な怪獣が出現した!

「あんな怪獣見たことないぞ!」

 そいつは、単純なシルエットでは、もっともありふれたアロサウルス型の怪獣だったが、体のあちこちに金塊を鎧のようにつけたような、荒々しいスタイルをしていた。そして兜のような金色の角を持ったそいつの姿は、怪獣頻出期からメビウスが戦ったものまで、ほとんどの怪獣のシルエットをだいたい記憶している才人の知っているどれとも似ていなかった。

 つまりは、まったくの新種か、もしくはこの世界特有、またはさらなる異世界の怪獣ということになる。

 その才人も知らない怪獣は、トドラに向かって驀進すると、トドラの背中を思い切り蹴り飛ばして転がし、墜落していた戦闘機を五、六機まとめて押しつぶさせた。

 さらに、仰向けになってもだえるトドラに、金色の怪獣は近づくと巨大な脚を振り上げて、何度も腹を踏みつけて痛めつけていった。

「そうか、あの化け物セイウチは、あの怪獣から逃げていたのね」

 キュルケが、彼女らしくも無い冷や汗をぬぐいながら、トドラと、明らかにトドラよりも格上の金色の怪獣の戦いを見つめた。どうやら、怪獣の世界でも、この四次元空間でも食物連鎖のピラミッドは作用しているらしい。

 追いつかれて逃げられないと悟ったトドラは、覚悟を決めたと見えて、振り返ると十メートルはある長い牙を降りたてて、金色の怪獣に反撃していった。トドラは見た目どおりにただ大きいセイウチでしかなく、四次元空間という場所に生息する以外に特徴や超能力、もちろん光線などは持ち合わせていないが、セイウチの最大の武器である膨大な体重を活かした、牙での突きたて攻撃はあなどれない。

 だが、トドラが必死の反撃をしようと、体を起こして牙を振りかざしたときであった。金色の怪獣の角を中心に渦巻くような球体の障壁が現れて、牙を軽々とはじき返してしまった。

「バリヤーだって!?」

 体格に加えて、そんな超能力まであったのではトドラに勝機はもはやなかった。

 呆然と見守る才人たちの目の前で、圧倒的な実力差を見せ付ける金色の怪獣は、トドラの牙を掴むと怪力でへし折り、首根っこを掴んで持ち上げると、勢いよく地面に叩きつけてとどめを刺してしまった。

「すごい……」

 短く断末魔をあげてトドラが絶命するまでに要した時間は、ほんの一分程度でしかなかった。

 だが、彼らはそこでのんびり観戦などせずに、そのままさっさと逃げておけばよかったのである。トドラを倒して、なお闘争本能の収まらない金色の怪獣は、すぐ近くをうろうろと飛んでいるシルフィードを見つけると、角から電撃のような破壊光線を放ってきた。

「しまった!」

 そう思ったときにはもう遅かった。彼らは自分たちが猛獣のショーを見ていたわけではなく、サバンナの木の上でヌーがライオンに食い殺されるのを見ていたことにやっと気がついたのである。

 それでも、機敏なシルフィードはとっさに翼を翻した。しかしやはり五人も乗せていたのは厳しく、右の翼に命中されて、悲鳴をあげながら墜落してしまった。

「……翼の皮膜を撃ち抜かれてる……わたしとしたことが、油断した」

 きゅいきゅいと痛さで泣きわめくシルフィードをなだめながら、タバサはシルフィードの受けた傷が思ったより深いことに、自分の未熟を悔いながらつぶやいた。

「飛べないの?」

「飛べなくはないけど、もう五人を乗せるのは無理」

 焦げ臭い匂いを翼から漂わせるシルフィードは、痛み止めくらいにはとタバサがかけてくれる『治癒』の魔法で、ほっと息をついていたが、そうしているあいだにも金色の怪獣は向かってくる。

「ああもう、結局戦うしかないんじゃない!」

 こうなればもう精神力温存とかは言っていられない。キュルケもルイズも、なかばやけくそで杖を取り出すが、先制攻撃とばかりに繰り出されたキュルケの『フレイム・ボール』が、怪獣のバリヤーで跳ね返されて戻ってきたあげくに至近で爆発して吹っ飛ばされると、頭が冷えた。

「キュルケ! 跳ね返されるってわかってたはずじゃない」

「ごめんごめん、うっかり忘れてたわ。だけど、わたしの魔法で子揺るぎもしないとなると……」

 そう、同クラスのタバサの『ジャベリン』なども含めて、こちらの魔法のほとんどが効かないどころか、強い攻撃を撃つほどに跳ね返されてこちらが自滅することになりかねない。

 怪獣は、勝ち誇っているのかなぶり殺そうとしているのか、思ったよりゆっくりと向かってくる。もっとも、人間が走ったくらいで逃げ切れる相手ではないのは確かだ。

 才人とルイズはウルトラマンAになるべきかと思ったが、この怪獣はかなり手ごわそうで変身に踏み切れなかった。勝てたとしてもこちらも相当に消耗し、それでは肝心のクロムウェルを狙うときに力を発揮できず、先のブラックテリナのときと同じ失敗をすることになる。

 しかし、逃げるにしてもそれをどうするかが問題である。シルフィードならばスピードが出せるが、今は乗せられて三人がやっとというところ、それに空を飛べなくては雲の中に入り口と、おそらくは出口があるであろうこの四次元空間からの脱出はできない。大ピンチである。そのはずなのに、なぜか才人の顔はにやりと緩んでいた。

「タバサ、二人どければシルフィードは飛べるんだよな?」

「え……できるけど」

 怪訝そうに答えたタバサの返答に、才人は不思議にうれしそうな顔をすると、全員を仰天させることを言った。

「よし、みんなは先に飛んで逃げてくれ、おれとルイズがここに残る!」

 そこで全員が怪獣が迫ってきているのも忘れて愕然として、ついで「なにを考えてるんだ」という主旨の怒声を上げ、さらに自分が犠牲になるつもりかに続いた。あとついでにルイズが、わたしもいっしょってどういうことよ? いやいっしょはそれはそれでいいんだけど……と、しどろもどろになりながら叫ぶと、才人は殴られそうになるのを避けながら早口で言い返した。

「待った待った! おれは正気だ。おれとルイズぐらいだったらシルフィードに乗らなくても脱出する方法があるんだ!」

「なんですって!? どういうことよ!」

 またもや驚いて、才人に詰め寄ろうとしたルイズたちだったが、そこで自分たちが怪獣に襲われていることを思い出した。ほんの十メイルばかし目の前に、金色の怪獣の巨大な足が降り立って地響きを立て、さらに反対側の足が彼らの頭上に降りかかってきたのだ。

「逃げろ!」

 とりあえずつぶれたパンケーキになってはなんにもならないので、危機感を取り戻した彼らはタバサとキュルケの『レビテーション』でシルフィードを浮かせて全力疾走に入った。

「で、さっきの続きなんだけど」

「まだ言うの!?」

「まあ聞けって、空を飛ぶ手段といっしょに、あの怪獣を撃退できるかもしれない手があるんだ」

 走りながらルイズたちはとにかくも才人の言う”方法”とやらを聞くと、一様に目を丸くした。だが、あのバリヤーを張って攻撃の効かない怪獣を撃退し、なおかつ翼を得る方法はそれ以外なさそうだった。

「どうだ、やるか?」

 ルイズたちは、自信たっぷりというよりは、やりたくて仕方がないといった才人の雰囲気に、どうにも不安であった。また、必要なものが才人の世界のものなので、作戦は理解できても本当にそんなことができるのか確信が持てずに懐疑的であった。

 それでも、才人がこれまで嘘を言ったことはなく、代案もなかったのでその作戦を実行に移すことになった。

「それからミシェルさん、ちょっとこういうの作ってもらえませんか」

「ん? ああ、こんな簡単なものならすぐできるが、なんだこれは?」

 才人は足元に転がっていたなにかの残骸の鉄片を拾うと、それをミシェルに頼んで棒状に『錬金』で整形してもらった。それは形はごく単純なL字に近いもので、先端部だけは細かく注文したが、そこはトライアングルクラスの土のメイジだけはあって、走りながらでも危なげなく注文の品をこしらえてくれた。

「ようし、それじゃおれとルイズはあっちにいくから」

「わたしたちは、あいつをあの場所まで誘導すればいいのね」

 最後に確認をとってうなずきあうと、才人とルイズは一行から離れて別方向に走り出し、残った者たちは別の作戦のために怪獣の陽動に移った。タバサとキュルケが杖をあげて、それぞれ呪文の詠唱に入る。

「さあーてと、『ファイヤーボール!』」

「『ジャベリン!』」

 二人の炎と氷が怪獣の眼前でぶつかりあって、派手な水蒸気爆発を引き起こすと、金色の怪獣の注意がそちらに向いた。

「さて、これからが問題ね。精神力を節約しながら怪獣を誘導」

 これならば派手にやりあうほうが何倍もいいと、キュルケは自分に合わない作戦を、それでも無表情で続けようとする親友の横顔を見ながら思うのだった。

 

 一方、別れた才人とルイズはある場所へとたどり着いていた。

「これ……本当に飛ぶんでしょうね?」

「たりまえだろ! 日本人で、これに乗りたがらない男はいないぜ!」

 息を切らしながら問いかけるルイズに、才人は誇らしげに答える。

 二人の目の前には、伝説の天空の戦士、ゼロ戦が再び飛び立つときを待っていたかのように、静かに鎮座していた。

 

 

 だが彼らは知らないことであったが、その金色の怪獣の名は超力怪獣ゴルドラス、さらにワイバーンのような空中怪獣のほうは時空怪獣エアロヴァイパーといい、どちらも別の次元の時空間を荒らしまわっている凶暴な怪獣だった。

 しかしなぜ別の世界の怪獣が、同じ時空間に揃ったのだろうか?

 ただの偶然か、それとも何者かの意思か、この時点では誰にもわからない。

 

 

 続く


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