ウルトラ5番目の使い魔   作:エマーソン

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第7話  降り立つ光の巨人

 第7話

 降り立つ光の巨人

 

 宇宙有翼怪獣アリゲラ 登場!

 

 

 彼女は、夢を見ていた。

 暖かいまどろみのなかで、子供のころからの思い出がひとつずつ浮かんでは消えていく。

 人が昔を思い出すとき、その中にはよい思い出もあるが、大半は悲しい記憶だという。

 幸せだった子供のころ、しかし突然全てを奪われて落とされた暗黒の淵。

 それらをもたらした者達への怨嗟の念。しかし彼女の心を闇の一歩手前で引きとめた手、守ろうと決めた者。

 裏の世界で悪と善の矛盾した思いで生きてきた日々。

 そして現れた闇の化身の暗黒の世界への招待、死の直前にわずかに見えた光に手を伸ばしたとき、彼女の意識は光の中へと呼び起こされた。

「はっ……こ、ここは?」

「おお、ようやく目を覚ましたかね、ミス・ロングビル」

 彼女、ミス・ロングビルこと『土くれのフーケ』は目を覚ますとあたりを見渡した。

 木製の簡易な部屋と鼻を突く薬の臭い、思い出した場所は魔法学院の医務室、そして彼女のベッドの横にはオスマン学院長がいつもどおりの表情で椅子に座っていた。

「わ、私は……」

 まだ頭がくらくらする。なにかを考えようとしても集中できなかった。

「無理をするでない。あれから君は半日眠っていたんじゃ、まだ調子はよくなかろう」

「半日……はっ! ……」

 あの夜に起こった出来事を思い出して、ロングビルはとっさに身構えたがオスマンは顔色を変えずに穏やかなまま言った。

「心配せんでも誰にも言っとりゃせん。安心せい」

「でも、あなたは私が……」

「ああ、知っとる。フーケ、ただここでの君はロングビル、わしゃその呼び方のほうが好きでね」

「ちっ! ぐぁっ!」

 起き上がろうとしたロングビルは全身を貫いた痛みでベッドに崩れ落ちた。

「しばらくは安静にしておれ。なにせ死んでもおかしくない目にあったのじゃ、体をいたわりなさい」

「あんた、私をどうするつもりだい?」

 彼女はロングビルではなくフーケの口調でオスマンに問いかけた。

「それは……いや」

 オスマンは口を開きかけると、一度やめてからあらためてゆっくりと話し始めた。

「その前に、一言礼を言わせてくれ。君はあの超獣に閉じ込められたときにミス・ヴァリエールを助けてくれたそうじゃな。教師として、生徒を助けてくれたことを深く感謝する」

 彼はそう言うとロングビルに向かって深々と頭を下げた。

「なっ!? ……あっ、あれは……そ、それよりあたしはお前の生徒を殺そうとしたんだぞ」

「それは、本当の君ではないのだろう」

「うっ……だが、あたしのことを誤解してるのかもしれないけど、必要とあればあたしはガキどもを遠慮なく殺してたよ」

「それはそれ。そのときはともかく今は君はわしの恩人じゃ、素直に礼を述べて何か悪いかな?」

 思いもかけないオスマンの言葉にロングビルはうろたえていた。

 するとオスマンは椅子によっこらしょと座りなおすと、杖に寄りかかりながら話しはじめた。

「なあミス・ロングビル。わしは君がどんな経緯で裏の道に手を染めるようになったかは知らないし、聞く権利もない。ただ、わしは君のこれまでの働きに感謝しているし、君個人のことも好きじゃ、たとえ仮の姿だったとしてもな」

「……だから?」

「率直に言おうか。怪盗をやめて、このままここで働かんかね?」

「そりゃできない相談だね。あたしも遊びでやってたわけじゃないんだ」

 ロングビルの返答にはまったく迷いがなかった。

「ふむ。だがそれでは君はまた闇の中へと逆戻りしていくことになるぞ、再びヤプールに狙われてもよいというのかね?」

「うっ」

 ロングビルは返答につまった。

 また襲われたときは、はっきり言って手立てはない。そして、あの死にながら生かされているような闇の世界、今度落ちたら戻ってこれるとは思えない。

「ミス・ロングビル、わしは人よりもちいとばかし長く生きてきた。だから君のこれまでの怪盗としての悪名など、闇のほんの入り口に過ぎないことがわかる。引き返すなら今のうちじゃ」

「なら、なんでヤプールは中途半端な悪人のあたしを狙ったんだ?」

「ヤプールの言うには単なる悪人ではなく、悲しみや憎しみ、複雑にねじくれた心がよいらしい。奴は君の心の葛藤のすきまを狙ったのじゃ」

「ちっ」

「しかし、だからこそわしは君が本当の悪人ではないと思う。人がそれほど深い悲しみを背負うのは誰か大切な人を奪われたとき、心の底まで悪なら悲しみはどこかに捨てていく。それに、君が闇に全てを奪われかけたとき、君は誰かの名を呼んでいた。まだいるのじゃろう? 君にも大切な誰かが」

「! ……」

 ガディバに取り込まれかけ、命すら危なくなったときロングビルの心を光に引き戻したのはたったひとつの名前、彼女はその名の持ち主のことを思い出して胸を押さえていた。

 オスマンはあらためて、もう一度ロングビルに言った。

「もう一度言おう。怪盗をやめてここで働く気はないか?」

「……残念だけど、それはできない。言ったろ、遊びじゃないんだ」

「……金かの?」

「ああ、結局世の中はそれさ。人間ってやつは王から平民までこいつの業からは逃れられやしないのさ」

「では、わしが盗みをして稼ぐぶんの金額を給料に上乗せしてやる、と言ったらどうだね?」

「なに?」

 オスマンは懐から一枚の紙切れを取り出した。

 それは学院の勤務契約書で、そこには以前の三倍に加算された給料が明記されていた。

「からかってるんじゃないだろうね?」

 あまりに都合のいい話に当然ロングビルは信用できないといった顔をした。

「心配するでない、学院の金には手を出さん。これはわしの懐銭じゃ、昔いろいろ貯めたものの年をとるとろくな使い道がなくての、このくらいなんということはない」

「そうじゃない! なんでたかが盗人のあたしのためにこんなことをするかと聞いてるんだ!」

「年をとると耳もいろんな意味で遠くなっての、フーケの手がかりを探すために衛士隊がここ最近の不自然な金の流れを探ったが、結局何も見つからなかったという。つまり、君は盗んだ金や品物を自分のためには使っていないのだろう? 君の普段の生活も浪費とはまったく無縁じゃったしな」

 ロングビルはオスマンの見識の鋭さに正直言って驚いた。

 普段はただのダメじいさんと思っていたが、中身のほうはなかなかどうして。

「誰のためかは知らぬが、どうせ人のための金ならきれいなほうがよいとは思わぬか?」

「同情ってのならお断りだよ」

「そうかの、同情とは一番大切な優しさだとわしは思う。誰かをかわいそうだと思い、助けたいと思う。そのなにが悪い? もちろんその表現の仕方は大事じゃが、人の不幸に同情できないような人間がなぜ人に優しくできる」

「……」

「それに、何度も言うが君は生徒の恩人じゃ。礼をせねば貴族としても教師としても大人としても立つ瀬がない。第一、君はそれだけの報酬をもらう実力があると思うが?」

 確かに、ロングビルが魔法の名手であり秘書としても有能なのは学院の誰もが知っている。

 突然のアップも、フーケ退治に功績があったからだとか言えば疑う者はまずいないだろう。

「もし、それでも断ったとしたら、どうする?」

 ロングビルは細めた目でオスマンを見つめながら言った。

「……」

「はっ、つまり選択じゃなくて強制じゃない。だったらはっきりここで働けって言いなさいな。きっぱりしない男はいくつになってもみっともないものよ」

 沈黙の答えの意味を理解したロングビルは苦笑しながら言った。

 するとオスマンはごほんと咳払いをするとおもむろに。

「ミス・ロングビル、君の勤務継続と副業の禁止を命ずる。報酬は前給金の三倍、返答はいかに?」

 ロングビルは答えずにペンを取り上げるとサラサラと契約書にサインして見せた。

「ほらよ。まったく、とんでもないところに潜り込んでしまったものですわ。こうなったらボーナスと退職金をもらうまでテコでもやめませんからね。ふふ」

 彼女は契約書をオスマンに渡すとようやく笑顔を見せた。

「うむ、わしもうれしいわい。これで……ん!? こ、これは」

 なんと給料明細のところが塗りつぶされて三倍だった数字が五倍にランクアップされている。

「勘違いしないでください、財宝や魔法道具のぶんを穴埋めするにはそれくらいはいるってことです。それに私を買おうっていうのならそれ程度は出してもらわなくては」

 今度はロングビルがオスマンにしてやったという不敵な表情を見せた。

「く、仕方あるまい……男に二言はないからの、じゃがこれでこれからも……」

「セクハラは許しませんからね」

「!?」

 顔をにやけさせようとしたオスマンにロングビルは速攻で釘を刺した。

「……こほん。あー、それからフーケはヤプールに操られたあげくに超獣に殺されたということにしておくわい。森の超獣の死骸を見れば疑う者はおらんじゃろ。君は体調が整ったら職務に復帰してくれい。それから……」

 オスマンは懐から一本の杖を取り出した。

「これは君に返しておこう。杖なしでは他の人間にかっこうがつかんだろうからな」

 ロングビルはその杖を受け取ると、少し手のひらの上でもてあそんでいたが、やがて呆れたような顔でオスマンに言った。

「……学院長、いくらなんでも信用しすぎなのでは? 今ここで私が約束を破って魔法で逃亡を図ったらどうするつもりですか?」

「うむ、そのことで実は言い出しにくかったのじゃが、ミス・ロングビル、ちと試しに適当に何か魔法を使ってみたまえ」

「?」

 彼女はその言葉の意味を理解できないでいたが、とりあえず自身がもっとも得意とする錬金の魔法を棚の上のビンに唱えた。

 だが、何も起こらなかった。

「あ、れ?」

 驚いてロングビルはほかにもいくつかのドットやコモンマジックを唱えてみたが、やはりどれも無反応であった。

「やはりの。まさかと思っていたが」

「ど、どういうことだ!? ……いや、ですの?」

「君を助けたあと、念のためディテクト・マジック(探知魔法)を使ったのじゃが……恐らく君はヤプールに邪念を吸い出されたのと同時に魔法の力も奪われてしまったのじゃろう」

「!? そんな」

 ロングビルは愕然とした。メイジが魔法を使えないということは鳥が翼をもがれるようなものだ。

「永続的なものなのか、時間がたてば回復するのかはわからんが、しばらくは杖はかざりとして持っておきたまえ。なに、心配することはない。職務上そう魔法は必要ないし、万一文句を言う奴がいても、だったら他に有能な秘書はいるのかと言えば誰もぐうのねも出んじゃろ」

 オスマンはそうカラカラと笑ってみせた。

 そしてロングビルは、たった魔法が使えなくなったというだけで、この国で自分のいられる場所がここだけになっていくのを肌で感じていた。

「さて、そろそろわしは行くわい。君ももうしばらく休みなさい、色々考えを整理する時間も必要じゃろ。お休み、ミス・ロングビル」

「おやすみなさい……学院長」

 オスマンは足音を立てないように静かに医務室を後にした。

 そして廊下に出ると、そこにはふたりの人間が待っていた。

 

「ありがとうございます、学院長」

「ミス・ヴァリエール、気にすることはない。わしは責任者として当然のことをしたまでじゃ。それよりもミス・ロングビルの上乗せぶんの給料の半分は君が持つということではないか、本当に大丈夫なのかの」

 オスマンは待っていたルイズと才人に、簡単に説明をしてからそう聞いた。なにしろ秘書二人半分の給料である、ルイズの家が名門とはいえ学生に自由にできる額には限度がある。

「恩人に最大の謝意を示すのが貴族の義務です。なんとか生活費をやりくりしてみます、幸い平民やメイドに知り合いもいることですし、彼女は私の命の恩人、私にはこれくらいしかできることはありませんから」

「そうか、よい心がけじゃ。じゃが無理はするなよ」

 オスマンはルイズの肩を軽く叩いてそう言った。

 そして、その後ろで真剣な顔をしている才人を見て。

「わしに、何か言いたいことがあるようじゃな……ここではなんじゃ、わしの部屋へ行こうか」

 

 放課後、日の落ちたあとの学院長室は生徒たちの喧騒ももう聞こえずに静かだった。

「それで、話とはなんじゃな?」

 その問いに、才人はまっすぐにオスマンの視線を見据えて答えた。

「あなたが使った、あの『破壊の光』についてです。あれは明らかにこの世界のものじゃない。いったいどうやって手に入れたんですか!」

「ちょサイト、あんた学院長に向かって!!」

 ルイズはすごい剣幕でオスマンに詰め寄るサイトを叱り付けたが、このときばかりはサイトはまったく引き下がらなかった。

「ミス・ヴァリエール、しばらく彼の好きにさせてやりなさい。サイトくんといったね、これのことだね」

 オスマンは、ごとりと『破壊の光』を机の上に置いた。

「やっぱり、ビームガンの一種だ」

 地球からやってきた才人には、それがこの世界のテクノロジーで作られた代物ではないことが一目でわかった。

「ふむ、君にはそれがなんであるのかがわかるようだね」

「俺の世界の武器とよく似ています。思い出しましたが、昔恩人からもらったそうですが、その人はいったい!?」

 するとオスマンは遠い目をして、つぶやくように語り始めた。

「あれは昨日のことのように思い出せる。もう三十年になるか、わしは森に薬草をとりに出かけておった。しかしそのときはどうにも収穫が悪く、気がついたら人の入り込まない奥地にまで足を踏み入れていた……」

 

 

 三十年前。

 深い深い森の奥で、一昔前のオスマンはようやく目的にしていた薬草を見つけていた。

「やれやれ、ようやっと見つけたわい。まったく今年は不作もいいとこじゃ、こんな年寄りに重労働させよってからに」

 木陰でひっそりと生えていたその薬草を摘むと、オスマンは疲れた体を木の根っこに腰掛けさせて、ふぅと息をついた。

 森の涼しげな風が汗ばんだ体をひんやりと心地よく通り過ぎていく、木漏れ日が揺らめき、周囲は静けさに包まれていた。

「ずいぶんと奥まで来てしもうたの……わしとしたことが年甲斐も無く張り切りすぎたか……少し、休むとするか……」

 小鳥の声に耳を預けて、オスマンはゆっくりとまぶたを閉じた。

 それから、どれくらいたっただろうか。

 オスマンは、まだ眠気が残っているのにもかかわらず、何か違和感を感じて目を覚ました。

「……ううむ。どれくらい寝入っていたのか……」

 目の前には、眠る前と変わらない眺めが広がっていた。それこそ、何も変わらない姿で。

 だが、何かおかしい。

「……鳥の声が聞こえない……」

 眠る前にはにぎやかなくらいに聞こえていた鳥たちの声が今はひとつも聞こえない。

 いや、それどころか動物も虫も、生き物の気配がまったく無くなっていた。

「……」

 悪い予感を感じ、オスマンは薬草のつまったバッグを背負うと腰を上げた。

 と、そのとき突然突風が吹きすさんで森の木々が大きく揺らめき、巨大な影が空に現れた。

「ワイバーン!?」

 それは、凶暴さで知られる竜の中でも、腕の代わりに巨大な翼を手に入れたドラゴンの亜種、飛竜・ワイバーンの姿だった。

「くっ!」

 ワイバーン相手に素手では勝ち目がない。オスマンは木に立てかけてあった杖に手を伸ばした。

 しかし、ワイバーンの翼の羽ばたきが作り出す突風で杖はオスマンの手の寸前で吹き飛ばされてしまった。

「ああっ!!」

 杖が無ければメイジはただの人間と同じだ、そして老いたオスマンには走って逃げる体力もない。

 飢えたワイバーンが裂けた口からよだれを垂らして迫ってくる。

 もはやこれまでか、とオスマンがあきらめた、そのとき。

「待ちやがれ、このバケモン!」

 突然森の奥からひとりの青年が飛び出してきた。

 彼は腰の銃を手に取ると、銃口をワイバーンに向けて引き金を引いた。

 閃光一閃!! 銃口から放たれた光は一筋の矢となってワイバーンに吸い込まれて爆発を起こし、ワイバーンは何が起こったのかを知ることも無いまま断末魔の遠吠えをあげて大地に落ちた。

「大丈夫か、じいさん?」

 青年は銃をしまうとオスマンに駆け寄ってきた。

「あ、ああ、助かったよ、ありがとう」

 礼を言いながら、動悸が治まってくるにしたがってオスマンは彼が妙なかっこうをしているのに気がついた。

 不思議な光沢を放つ派手めの服に変わった形の兜をつけていた。理解しがたいがそうとしか表現できなかった。

 ただ、とりあえず顔つきは間違いなく人間である。やや抜けたところがあるが美形といっていいだろう。

「ほんと、危ないところだったんだぜ。あとちょっと遅れてたらじいさんぺろりとやられてたな。運がいいぜまったく」

 彼はそう屈託のない笑顔で笑って見せた。

 だがそのとき、無数の羽音とともに、今度は数多くの影が彼らの頭上に現れた。

「ワイバーン!? 群れをなしていたのか!?」

 そこには、十匹を超える数のワイバーンが凶暴なうなり声をあげて空を覆っていた。

 普通野生のワイバーンは単独で行動するが、餌が不足したときなどは群れを作って集団で狩りをすることもあるという。

 オスマンは、今度こそ終わったと覚悟したが。

「仲間を連れてきやがったか、おもしれえ、食えるもんなら食ってみやがれ!!」

 彼は、再び銃を抜くとオスマンを木陰に隠してワイバーンの群れの真下へと飛び込んでいった。

 ワイバーンは飛び出してきた獲物に喜び勇んで飛び掛ってくる。彼は先頭きって飛び込んできたワイバーンを撃った。

「食らいやがれ!」

 再び閃光が走ってワイバーンが撃ち落される。だが二匹、三匹目が次々と来る。

 彼は走りながら追ってくるワイバーンを狙いすまして撃つ、撃つ。

 しかし、残るはあと三匹となったところで完全に怒りが頂点に達したワイバーンは三匹同時に火炎のブレスを放ってきた。

「あ、危ない!!」

 オスマンは思わず叫んだ。あれを受けては骨も残るまい。

 だが、彼は地面に身を投げ出すと、そのまま転がりながら回避して、さらに撃った。

 一匹目が落ちる、二匹目も落ちる。

 そして三匹目は、彼に向かって二回目の火炎放射を放とうとした瞬間、顔面に直撃を受けて自ら放とうとした火炎に包まれて火達磨になって落ちた。

「見たか!! 俺のファインプレー」

 彼は起き上がると銃を指でくるくると回しながら陽気にそう言った。

 そして彼は腰が抜けているオスマンに駆け寄ると「大丈夫か」と声をかけた。

「わしは大丈夫じゃ……しかし、あれだけの数のワイバーンを……君はいったい?」

「なーに、宇宙人なんかに比べればたいしたもんじゃないさ。それより、立てるかい?」

 彼はオスマンに手を貸して立たせてやった。

「……」

 見れば見るほど奇妙な格好であった。彼が銃を持っていて、なおかつ動きやすそうで兜のようなものをつけていることから戦闘服であろうが、柄はまったく見覚えがなかった。

「ありがとう。けれど、君はどこから来たのかね。わしもだいぶん生きてるがその服と武器はこれまで見たこともない」

 すると彼はこれまでの陽気な笑顔ではなく、苦笑しながら空を見つめて言った。

「ここからすっごく遠いところさ。それこそ、この空のかなたくらいにね」

「遠く……東方からか?」

「ま、そういうことにしといてくれよ。それより、もうすぐ日が落ちるから早く帰ったほうがいいぜ」

「ああ」

 と、そのとき彼らの頭上をこれまでとは比べ物にならない、まるで夜になってしまったかのような影が覆った。

 はっとして、空を見上げたそこにいたものは、真っ赤な体に巨大な翼、大きく裂けた口と目を持たない顔を持つ全長五十メイルを超えようかという超巨大な飛竜がいた。

 巨大飛竜は、ふたりに向かって大きく吼えた。森が揺らめき、風がとどろく。

 オスマンは、今度こそ全身の力が抜けていくのを感じた。こんな化け物、たとえ軍隊がいたとしても勝てるかどうか。

「もういい、わしは置いておいて君だけでも逃げなさい」

 しかし彼は笑って答えた。

「わりいけど、怪獣と戦うのが俺の仕事でね、そこの木の影に隠れててくれ、絶対に出るんじゃないぞ」

 彼はオスマンを強引に木陰に隠すと、怪獣のもとへと飛び出した。

「こっちだ! 怪獣野郎」

 彼はオスマンのいる木の影からできるだけ離れるように走った。

 巨大飛竜は森の木々を踏み潰しながら彼を追っていく。ワイバーンを倒したあの銃もこの怪物にはまるで通用していない。

 そして、巨大飛竜はその肩に空いた砲身のような穴から真っ赤な火炎弾を彼に向かって撃ちだした。

 大爆発が起こり、森が焼け、空が赤く染まる。

「ああっ!!」

 オスマンは、彼の姿が炎に包まれようとしているのをまるで時間が圧縮されているかのようなゆっくりした流れで見ていた。

 だが、そのときオスマンは見た。

 彼がまさに炎に飲み込まれようとした瞬間、彼の手の中に握られた小さな何かが輝いたのを。

 そして聞いた。強さと勇ましさを意味するその名を。

「ダイナァァ!!」

 太陽のような光が森の一角を包み、オスマンは見た、怪獣に向かって立ちはだかる光り輝く銀色の巨人を。

「光の……巨人」

 

 

 続く

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 


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